【初夢】狂気な恋
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/20 23:55



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。
オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

●とある神楽村
 この文明が発達した時代に、いまだに機械などに頼らない生活を送っている村がある。
 それは一見のどかだが……閉鎖的な生活を送っている村がある――この世界のどこかにある神楽村。

 この村では、少々困ったことが起きていた。

「ああ、困ったなぁ……」
 そこで頭を抱えているのは、この村の長。よく光り輝く禿頭を押さえ、無い知恵を絞っている。
「もし。長、どうされました」

 ちょうどそこへ、呼ばれてやってきた村の開拓者が長へ尋ねれば……はっとしたように、皆へ向き直った。

「よう来た。まぁ座ってくれ。
早速だが、うちに伝わる『封具』の話は知っておるか」
「遠い遠い昔の話ではありますが……大アヤカシを封じたものだと聞き及んでおります」
 開拓者が頷けば、長は『いきなりなのだが、話を聞いてくれんか』と彼らをその場に座らせると勿体ぶりつつ口を開いた。

 この神楽村は、遠い昔に大アヤカシと呼ばれる化け物どもに襲われ、
 滅ぼされる寸前にまでなった過去があるという。
 その大アヤカシと死闘を繰り広げたのが『開拓者』たちだ。
 開拓者たちは『鏡』『剣』『勾玉』の力で、大アヤカシの力を弱めて滅ぼすことに成功した。
 大アヤカシは、滅する直前、長の祖先に呪いのようなものをかけたようだが……
 アヤカシが何を願ったのか呪ったのかも分からず、今日まで長の血統は途絶えることなく受け継がれたのだが。

「……うちの3人の子供たちに、その呪いのような災いが降りかかったのだよ……」
 がくりと肩を落とし、畳の目を見つめて今にも泣きそうな表情を浮かべている長。
「……頼む、力を貸してくれ。開拓者の血筋なら、きっと何か方法を知っているだろう!?」
 なんという無茶。なんという人任せ。
 頼むと拝み倒されて断りきれなかった開拓者たちは、お子様方の様子をとりあえず見せてくださいと長に話をつけて、部屋に連れて行ってもらったのだ。

●狂気の沙汰につき逃げるの禁止
 襖を開けた瞬間、この部屋を訪れた誰もが此処を閉めたくなった。
 その理由は、部屋の中に腰を据える長身の女性――否、違うだろォオオオオ!!!!
「し、志摩子……呪いを、呪いを解いてくれる人たちが来て、くれましたよ……」
 明らかにアンタ笑ってるだろ。
 そんなツッコミもなんのその。部屋の中で泣き崩れる女性(女性って事にして下さい)は、素晴らしく見栄えの良いガタイをそのままに振り返った。
 その顔を見て確信を得る。
「アンタ、如何見てもおと――」
「それ以上言うんじゃねえ! 俺は女だ! そう言う設定なんだよ! 話を汲んで飲み砕けっ!」
 ……ガラの悪さも最高潮だな。
 そうは思うが怖いのでツッコミは無しにする。取り敢えず本題に戻って、さっさと片付けるのが良い。そうだ、そうに決まっている。
「え、えっと……このオカマ――じゃない、この奇妙な変化が呪い、って事で良いんでしょうか」
 そう案内してくれた村人に問い掛ける。
 すると、村人は真顔でこう言い放ちやがった。
「これが俗に言うヤンデレです」
 待て。
 これの何処がヤン……ああ、ある意味病んでいるか。ってぇ、これは本当のヤンデレじゃない!
 だが村人はこんな事は些細な事だと言わんばかりに、平然と話を進めてくる。
「この化け……基、娘は村に伝わる勾玉を握り潰してしまったんです。まあ、それが原因なのは間違いないわけですが、壊れた物を戻そうとしてもそう簡単に行く訳もありません」
 そこで……。と、村人が全員の顔を見回した。
 そしてニッコリ笑ってこう言ったのだ。
「この化け物を口説き落としちゃって下さい」
 おい、ついに娘じゃ無い事を認めたぞ!
「――て、そんな事は如何でも良い! い、今、なんて言った?」
「この化け物を口説き落とせれば呪いが解けるんですよ。もう面倒だからさっさとやっちゃって下さい」
 爽やか笑顔で何を言い腐るかこの村人。
 ハッキリ言ってこんな化け物……いや、自称女性を口説ける自信なんてない。そもそもさっきから気が立っていて正常でないのも問題だ。
「あ、あの……念の為に聞きますけど、このば……娘は、その……正常に話、出来るんでしょうか?」
「たぶん」
 確証無しと来たぁああああ!!!
 もう精神崩壊間近な上に、嫌な汗かきまくりなんですけど。
 けれど娘こと志摩子はやる気満々らしく、開拓者等を振り返ると勢い良く袖を捲った。
 そして、
「こうなったらヤケだ。掛かってきやがれ!」
 ふんっと鼻で笑った志摩子はそう言うと、開拓者等に向かって中指を立てて見せた。
 殺る気だ。この女、絶対に殺る気だ。
 こうなったら何としても此処から生きて帰る! の、呪いの件は……前向きに検討させて頂きます。


※良いか、このシナリオを本来のWTRPGと一緒にした場合、ただじゃおかねえぞ!
良いか! よぉく、肝に銘じておけよッ!!


■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179
20歳・男・巫
千見寺 葎(ia5851
20歳・女・シ
匂坂 尚哉(ib5766
18歳・男・サ
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
乾 炉火(ib9579
44歳・男・シ


■リプレイ本文

 威嚇する志摩子と開拓者等数名。一発触発の状況下で物語は幕を開けた。
「ええと、色々と頭が追いついて行かない所もありますが……ともあれ、呪いが解けるように頑張るとしましょう」
 ね? と、微笑みかけるのは六条 雪巳(ia0179)だ。
 そんな彼に、ケイウス=アルカーム(ib7387)がポツリ。
「呪いは解いてあげたいけど……不得意もいい所だよ……口説くって」
 溜息を零しながら項垂れるケイウスは口説くとかそう云った色恋部分に不慣れだ。そんな彼の近くでは別の声が。
「男か女かなんて些細な事よ。たまにはこういう変わった相手もいいじゃねーか。なあ?」
「うわっ!? お、俺に振らないでくれよ。それに、一応これでも女の人……なんだよなぁ?」
 背中を叩かれて一歩飛び出した匂坂 尚哉(ib5766)が、先に話題を振って来た乾 炉火(ib9579)を見上げる。その視線に眉を軽く上げた炉火から言わせれば、先の言葉通りと言った感じだろう。
「……俺、年上の女の人って上手く遊ばれそうで苦手――とは言え、色眼鏡で見ちゃ駄目だよな」
 よし! と気合を入れた尚哉の横で葎が何やら呟いている。その音を聞く限り――
「成程。影縛りですか」
 雪巳、大正解!
 暴れ出そうとする志摩子の動きを封じた千見寺 葎(ia5851)が、苦笑しながら志摩子を捉えていた。
「葎、放しやがれっ!」
「駄目です。それとも」
 尚も暴れようとする志摩子に、葎の足が動いた。
 瞬時に志摩子の後ろを取って足を絡め、彼女の体を倒して抑え込んだのだ。
「お慕いする方に力の行使は好みませんが……貴女が望むなら僕は喜んでお応えしますよ」
 そう言って見せられた笑みに、背が震える。
「それにしても、このような機会と知っていれば、少しはめかしてきたのですが……僕としたことが迂闊でした」
 そう照れ気味に囁き、彼女は再度影縛りを実行する。これで志摩の動きが完全に封じられた。
 それを受け、雪巳が提案する。
「お茶でも飲んで落ち着きませんか?」
「あ、賛成!」
 速攻で賛同したのはケイウスだ。
 こうして皆でお茶を飲む事になったのだが、腰を据えた面々の前には縛られた志摩子が居る。その理由は暴れるから、らしい。
「志摩……子さん、とお呼びすれば良いでしょうか?」
 皆の前に茶菓子を置いた雪巳は、そう問いかけると座布団の上に腰を下ろした。
「とりあえず、口説く云々は置いておいて、お話を聞かせて頂けませんか。私達も現状を把握したいですし」
 何より、志摩子さんも言いたい事がおありでしょうから。そう言って微笑んだ雪巳に、志摩はキッパリ言った。
「別にねぇ」
「無いって……では、呪いを受けた後、変化や不調などはありませんでしたか?」
 こうして狂暴化している以上、何かしらの不具合はある筈。そう思って問いかけたのだが、これには意外な反応が返ってきた。
「……別に、何だって良いだろ」
 ポッと頬を赤らめる顔を見て、尚哉が首を傾げた。
「なあなあ。それって顔の事かな?」
「?」
「いや、呪いで容姿が変わったとかだったら早いとこ目ぇ覚まして貰いたいからさ。さっきの感じだと、あの容姿で良いように言われてないみてぇだし」
「あはは……尚哉、きっつ……」
 ケイウスは乾いた笑いを零しながら、ある事を思い出した。
「あ、そうだ! お腹とか空かない?」
 鎮静化には程遠い志摩子に出来るだけ笑顔を向ける。その理由はコレだ。
「良かったら、皆で『熊狩り』にいかない? さっき、村の人から志摩子の好物が熊肉って聞き出したんだ」
 実際には体を揺すりまくって強引に聞き出したのだが、其処は秘密だ。
「おお、ケイウスあったま良い!」
「熊狩りかー。悪かねーな」
 尚哉の声に合わせて頷いた炉火は、訝しむように開拓者を見る志摩子に向き直った。
「なあ、志摩子の嬢ちゃん」
 そう言いながら顎を持ち上げた彼に、全員がギョッとする。だが炉火自身は気にしや様子もなく、
「激しいのも悪かねぇが、オイチャン年だからよ。まずは外で軽ーく運動でもしに行かねぇか?」
 ニッと笑って光った白い歯。ついでに夜春も使ってイカス度を上げた彼に、志摩子の目が逸らされた。
 その耳がちょっと赤いのは……うん、放っとこう。
「し、仕方ねえな……」
「良かった! これで少しは落ち着い……じゃない。きっと部屋に篭ってるよりいい気晴らしになるよ!」
 こうしてケイウスの正直さが混じる声を後に、全員は熊狩りに出発した。


「しっかし良い事思いつくよな! 相手の心を取るには胃袋掴めばいいって言うもんな。とりま外で暴れるのは俺も好きだし、良い案だぜ!」
 ニコニコとご機嫌でケイウスの背中を叩く尚哉に苦笑しながら、雪巳は前を歩く志摩子を見た。
「何処となく、楽しそうですよね」
 思ったよりもすんなり外に出た彼女の様子から、相当の熊肉好きなのが伺える。
「この辺りの筈なんだが」
 そう足を止めた炉火に続き、葎も足を止めた。
 二人は事前に村人から狩りに適した場所を聞いていたのだ。その結果、村の裏手にある山を提示されたのだが、どう見渡しても雪ばかり。
「調度良くはぐれが見付かると良いんですけど……」
 言って葎とケイウスが耳を澄ます。
 少しでも多くの情報を仕入れようと動く彼等の傍で、尚哉が志摩子に近付いた。
「なあなあ」
「如何した?」
「熊が出てきたらさ、止めは志摩子に任せて良いか?」
 伺うように上目遣いで見上げた瞬間、志摩子の眉が上がった。
 身長差的に見上げるのは仕方がないとして、この上目遣いは反則だろう。意識してやっているのか、それとも無意識か。
 もし無意識なら末恐ろしい存在だ。
「ま、まあ、刺せる状況ならな」
 ふいっと顔を逸らしてボソリ。其処へ葎の呟きが届く。
「この音……」
「間違いないね! 皆、武器を構えて!」
 葎に続き、ケイウスも熊の出現を示唆する。それに合わせて炉火が短銃を構えると、志摩子も勢いよく袖を捲り上げた。
「引き寄せるのは任せろっ!」
 息を吸い込み叫んだのは尚哉だ。
 彼は出現した熊に向かって咆哮を放つと、すぐさま足元を蹴った。
 雪があって動き辛い地形だが、それでも軽やかに走る姿に感嘆の声が漏れる。
「子供は風の子と言いますし、元気ですね」
 雪巳はそう呟き、経文が掘られた木刀を構えて熊の間合いに飛び込んだ尚哉を見た。
 彼は弧を描いて木刀を薙ぐと、熊の注意を一心に惹き付け、叫んだ。
「今だ、炉火のおっさん!」
「任せな! 悪ぃねー。俺等のお姫様の為に狩られてくれ」
 ニイッと上がった口角。それと同時に弾丸を見舞うと、金属製の煙管で熊の足を掬い上げた。
「よし、志摩子の嬢ちゃん!」
 今だ。そう合図を出すのも束の間。
 待ってましたとばかりに討ち込まれた拳にケイウスが引いた。いや、物理的にではなく気持ち的に、ね?
「わぁ。志摩子、強いな……」
「……ですね」
 思わず同意した雪巳だったが、意外や意外、熊は志摩子の一撃を喰らっても動いていた。
「志摩子さん、危ない!」
 葎が慌てて駆け出すが間に合わない。と、其処に甲高い弦の音が響いた。
 その瞬間、熊の動きが鈍る。
「――うおおおおおお!」
 何とも漢らしい雄叫びを上げて熊に止めを刺した志摩子は、血塗られた腕を下すとケイウスを振り返った。
「良い援護だったぜ!」
 そう言って親指を立てた志摩子に、ケイウスは照れながらも笑顔を返したのだった。


 女の子に熊は担がせられない。
 そんな尚哉の優しい言葉もあって、熊の運搬は開拓者等が請け負ってくれた。
 そして調理場に熊を持ち込むと調理が始まった訳だが……。
「これであらかたの部位は切り分けられました。後は……」
 葎は包丁を置いて志摩子を見ると、思案気に目を細めた。その様子に当事者である志摩子の首が傾げられる。
「志摩子さんは生肉でしょうか。貴女の分は、ご希望に合せたい」
「お、おう。確かに生肉が好きだぜ」
 頬を掻きながら頷く志摩子に、葎はクスリと笑って頷きを返した。
「わかりました。では貴女の為に生肉をご用意しますね。あとは……仕度が終るまではお酒でも嗜んで如何でしょう? 仕度の間は彼らと一緒というのも……妬けますけどね」
 クスリと笑い、葎は調理に向き直った。
 その様子を見ていたケイウスが感嘆の息を零す。その様子に鍋の用意をしていた雪巳が目を瞬いた。
「如何しました?」
「葎って凄いな。口説く参考になりそう」
 素直に感想を零す彼に、「成程」と笑って雪巳は鍋を炉火の傍に置いた。
「なあ。おっさん、本当に料理出来るのか?」
「洒落たのは無理だが、簡単な物なら俺にも作れるぜ。一人暮らし長ぇし」
 笑って包丁を手にした炉火に尚哉が興味深げに視線を注ぐ。それにつられるように志摩子の目も向くと、彼は料理の腕を振るい始めた。
「……あれって、料理、なのかな?」
「まあ、出来上がれば立派なお料理ですよ」
 ケイウスの疑問にサラリと雪巳が答える。
 そんな彼等の前で繰り広げられているのは、ぶつ切りにされた肉が鍋に放り込まれる姿だ。
「もっと火力が大きい方が良いかね」
 言うや否や、火遁を放った炉火に隅の方で様子を伺っていた村人の顔色が悪くなる。それを見止めた葎が一言。
「大丈夫です。開拓者たる者、火力の制限は出来る筈ですから」
 そう言って笑った彼女に、開拓者に対する奇妙な知識が埋め込まれたとか。

 何だかんだと出来上がった鍋料理。そして志摩子の前には生熊肉が置かれ、宴会は賑やかに開始された。
「お酒、足りてますか?」
 そう言った葎は、普段の癖からか料理の追加やお酌に回っている。
「足りてるが……お前さんもちゃんと食えよ」
「癖ですから。それに、貴女が楽しんでくれていたら嬉しい」
 ニコリと笑って酒を注ぐ。それを一気に飲み干して志摩子は笑みを零した。
「豪快な飲みっぷりに食べっぷりだな。見てるこっちが気持ち良いや」
 箸をおいて頬杖を突きながら眺める尚哉に、雪巳も箸を止めて彼女の様子を見る。
「これで、少しは落ち着いて下さると良いのですけど」
 見た感じ、志摩子は既に落ち着いているようだ。これもケイウスの提案のお蔭だろう。
 そしてそのケイウスはと言うと、彼はある事を思い出していた。
「あー、楽しかった♪ って、そうじゃないよ!」
 叫ぶ彼に皆の視線が集まる。
「呪いの事、忘れてたよ……うん、ちゃんと解いてあげないとね」
 そう言って笑った彼は立ち上がると志摩子に歩み寄った。
「……花とか、志摩子は好きかな?」
「ん? まあ、嫌いじゃねえが……」
「なら、ちょっとだけ来て!」
 言うや否や志摩子の手を取ったケイウスに皆の目が点になる。そして静止の声を振り切って飛び出した外は、既に陽も落ちていて暗い。
「何なんだ。こんな場所に花がある訳ねえだろ」
「それがあるんだな」
 ケイウスは持っている竪琴を構えると、軽やかな曲を奏で始めた。その音色に風もないのに木々が音を立て始める。
「コイツは……」
 先程まで枯れ木だった枝に花が咲いている。それも見事なまでに満開に、だ。
「ね、こういうのは好き?」
「ああ、悪かねえな」
「良かった! 志摩子の好きな物、もっと知りたいな。俺、志摩子の喜ぶ顔が見たいんだ!」
 無邪気に笑う彼のこの言葉は本当だろう。
「……あの、さ。呪いは解いてあげたいと思ってるよ? でもさ、解いた後って――」
「うわっ、すっげえ!」
 外に出てきた尚哉にケイウスの疑問は掻き消された。そして代わりに尚哉の嬉しそうな声が辺りに木霊する。
「志摩子も嬉しそうだな! やっぱ、そう言う幸せそうな顔してるのが一番かわいいや♪」
 可愛い? 可愛いと言っただろうか?
 流石にそれは無いんじゃないか? そう突っ込みたいが此処は我慢だ。
 尚哉は照れたように笑うと、見上げるようにして志摩子の顔を覗き込んだ。その表情が確かに嬉しそうで、志摩子も知らずと笑みが漏れる。
「そう言う顔見れただけで俺は幸せだな。俺に好意を抱く抱かねぇは別として」
「そうですね。尚哉さんの言うように、口説く云々はさて置き、私達と過ごしてみて、如何でしたか?」
 皆で同じ釜の飯を食い、皆で狩りを楽しんだ。
 そうした時間が楽しくなかったはずはない。
「そうだな。悪くはなかったぜ。初めの苛々ももう無いしな」
「それは良かったです。私は外見や性別は置いておいて、1人の人として、貴方が好きです。それこそ、困っていたら手を貸したいと思うくらいには……ね」
 そう言って微笑んだ雪巳に志摩子はフッと笑みを零す。
 無意識に安全な道を歩く。そんな印象を受けはするが、たぶん無意識なのだろう。
 それに彼の言葉が偽りだとは思えない。
「ありがとうよ」
 志摩子はそう言って目を伏せると、腕に感じた温もりに瞼を上げた。其処に居たのは葎だ。
「志摩子さん、貴女の心に留まる方は?」
 真摯に見詰める視線に志摩子の眉が上がる。
「もしかして、それって僕じゃ……」
「!」
 普段の葎なら有り得ない言葉だが、酒が入って彼女も口が滑らかになっているのだろう。
「ふふ、冗談です。でも……」
 伏せられた目に視線が向かう。そして次に見上げた目には、先程まであった真剣な眼差しは消えていた。
「僕が男だったら芽はありました?」
 クスクス笑う彼女に苦笑し、皆を振り返ろうとした時だ。
 志摩子の腰に手が回され、その身が引き寄せられた。
「呪いなんてかかったらそりゃ混乱もするわな……けどよ、どう変わろうが志摩子は志摩子じゃねぇか」
 そう言って顔を寄せた炉火に志摩子の米神が揺れた。何か言いたげにしているが、炉火は構わず続ける。
 それこそ、初めに会った時と同じように顎に手を添えて……。
「この先どうなっても見捨てたりしねぇからよ、俺のモノになっちまえ」
 穏やかに笑って言われた言葉。それに加えて何かの引力のような効果に流石の志摩子が動いた。
「……本当にどう変わろうが見捨てねえんだな?」
「おう、勿論よ」
「わかった。なら結論を出そう……」
 志摩子はそう言うと、炉火の肩を押して引き剥がし、腕を組んで皆を見回した。
 そして――
「――炉火。俺を嫁に貰え!」
 志摩子はそう言うと炉火に手を差し出した。これに炉火の手が伸びるのだが、次の瞬間、ケイウスが危惧していた事が起きた。
 目を覆いたくなる程の光が辺りを包み込み、その光が消えると、この場の全員が我が目を疑った。
「あ、れ?」
「志摩、子……じゃ、ない?」
 そう。
 其処に居たのは志摩 軍事(iz0129)、その人だ。
「さて、どんな俺でも良いって言ったな。なら早速このまま祝言と行こうか!」
 彼は無造作に炉火の手を掴むと歩き出した。これに炉火も続くのだが、他の面々は冷静じゃない。
「悪夢だああああ!!」
 そう叫んだケイウスの声に皆の意識が薄くなってゆく。

 こうして初夢は静かに幕を閉じたのだが、これがはたして良い夢なのか否かは、見る人次第……そんな所だろう。