|
■オープニング本文 問い。これまでの報告書をもとに建設現場周辺の地下の状況を予測してください。 返答。これだけで分かるか馬鹿野郎。寝言は寝てから言いやがれ。 開拓者ギルドの伝を頼って協力を仰いだ学者からの返答は概ね上記のような内容だった。 先日、新規開拓地に存在する廃城の地下部分で大穴がみつかり、その奥が洞窟と繋がって居ることが確認された。 仮にその洞窟が直線上に伸びているのだとしたら、開拓事業の生命線である水源の近くにアヤカシがいるかもしれない洞窟が存在することになる。 また、水源そのものの問題も判明した。瘴気が大量にある場所と繋がっているらしく、他所で瘴気を大規模に払うと水源から瘴気が吹き出てくることがあるのだ。 水資源が豊かな場所なら水源ごと放棄または封印されそうな状況だが、開拓を進める領主に諦めるつもりは一切無いらしい。 この依頼を引き受けた開拓者には、人、物、金の全てを自由に使える権利が与えられる。あらゆる手段を用い、水源を守りつつ城を完成に導いて欲しい。 ●依頼票に記載された情報 ・目的 最終目的はアヤカシが占拠する地域に城を建てることです。依頼人が最期まで失脚しなければ、城完成後の保守管理が開拓者に任される可能性が高いです。 アヤカシの討伐、現地の調査、移動や拠点整備など、最終目的に近づくための結果を少しでも出せれば、その時点で依頼は成功となります。 ・現地状況(前回から変化した部分) アヤカシが何度も現れていた古城(建てようとしている城とは別物)の状態が判明しました。地下室等があった場所に直径10メートル深さ50メートル程度の穴が空き、その底は洞窟に繋がっています。 洞窟には瘴気またはアヤカシまたはその両方が潜んでいる可能性があり、毒性のある気体が溜まっている可能性もあります。 外壁の工事が進んでいます。外壁の規模は、対人対アヤカシの両方に対応可能な大規模なものになる予定です。完成済みなのは100メートルほど。他は基礎部分の工事が進められている状況です。 精霊の聖歌が使用された場所ではアヤカシ襲撃頻度が減少し、その結果その場所での工事がさらに加速しています。 食料、水、防寒具、野営用装備を含む物品は、工事現場が存在する砂漠に隣接した小村に建てられた倉庫で受け取ることができます。特殊な品物で無い限り、受け取りと返却の手続きは自動的に行われます。 高級宿とまではいきませんが、開拓者と朋友に対し城壁の内部で十分な休息がとれる宿泊施設が提供されます。 ・現地状況(基本的に前回と変化が無い部分) 直径数十キロに達する、だいたい円形の砂漠地帯です。 気候は厳しく、野外での活動中に日光と暑さと夜間の寒さへの対策を行っていない場合、思ったように動けないかもしれません。 砂漠の中心付近で工事が行われています。堀は直径1キロメートルを越えており、その内部に水源、人工湖、実験農場、各種建造物が存在します。 砂漠の入り口から水源まで点点と設置された目印(ストーンウォールによる壁にあれこれ付け足されたものです)が続いています。 水源からの水は人工湖に蓄えられており、軽く煮沸するか濾過すれば飲用水として使用可能で当然農業にも使用可能です。 砂漠の端から目印に沿って工事現場まで赴くのであれば、非志体持ちの護衛をつければなんとか無事に移動できるようです。 大量の資材と作業員が砂漠外から送り込まれ続けており、急速に工事が進んでいます。 ・確認済みアヤカシ 砂人形(デザートゴーレム)。砂漠で登場する、全高3〜4メートルの、砂漠から上半身を出した巨人風の形状のアヤカシです。人間には劣るが比較的高めの知性、砂に紛れやすい体色、顔に埋め込まれたコアを破壊されない限り復活可能という面倒な要素を多数持った相手でもあります。 場所によっては数十体まとめて登場します。 凶光鳥(グルル)。希に飛んできます。高速と高い命中力が特徴ですが、能力全体が高く射程40数メートルの怪光線まで飛ばしてきます。 怪鳥。0.5〜1メートルの鳥型アヤカシです。全体的に能力は低く、知性は鳥並みです。全域で登場する可能性があります。超遠距離では凶光鳥と見間違う可能性が少しあります。 小鬼(ゴブリン)。強力なアヤカシの群にひっそりと混じっていることがあります。 狂骨(スケルトン)。古城調査中に現れました。工事や開拓で遺跡等を掘り当てた場合、ついでに現れる可能性があります。 巨人。アル=カマル風の外見をした鬼です。 がしゃどくろ。外見がアル=カマル風のものが確認されています。閉所で遭遇すると崩落等が起きる危険があります。 ・城建設 作業員の中には初心者開拓者相当の志体持ちも少数存在しますが、彼等は戦闘を行わない契約で工事に参加していますので自衛以外の戦闘は期待しないでください。 堀の外のアヤカシの掃討が行われた後は基本的に工事が早く進みます。 余程無茶な指示を出さない限り、現場監督は開拓者の意向に沿った工事を作業員を使って行います。 人工湖は工事が進むにつれ城の中に組み込まれていきます。 城の設計の細部は未確定です。今後の開拓者の活動によって変更されていきます。 ・農業 大量の肥えた土が資材置き場に搬入されています。現在実験農場でどのような作物が栽培可能か試行錯誤している最中です。椰子の木が十数本、水源の近くに移植されました。実はなっていません。昼間涼むには最適の場所かもしれません。試験的に牧草が植えられた場所があります。二十日大根は常時食べられます。 ・完成した物件 外縁部の堀。実験農場。貯水用人工湖。資材置き場。水源周辺の椰子林(植樹が低速で進行中)。 ・緊急時の対応 アヤカシ襲撃などの緊急時での行動マニュアルは存在しません。開拓者に声をかけられた現場監督が個々に対策をとっている状況です。 ・その他 武器防具と練力回復アイテム以外であれば、余程高価なもので無い限り希望した物全てが貸し出されます。消耗品の場合は使用時は返却を求められません。 建築や工事目的で使用する者や大規模に瘴気を祓う者に対しては、練力を5回全回復させられるだけの練力回復アイテムが無料で支給されます。 |
■参加者一覧
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
将門(ib1770)
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●柱 砂漠に紛れるには最適な砂の体を活かして隠密行動中だったサンドゴーレム部隊は、まともに戦えばオアシス1つくらい簡単に滅ぼせるはずの戦力を一切活かせず、上空から降り注ぐ火炎弾によりまとめて吹き飛ばされた。 辛うじて効果範囲から逃れたものはせめて一撃浴びせようとジークリンデ(ib0258)に向かうが、駿龍ボレアに乗りアヤカシ部隊と併走する朽葉・生(ib2229)により一方的に叩かれてほぼ全滅し、辛うじて白兵の間合いに迫れたものもジークリンデの朋友にして護衛でもある管狐ムニンが連打する飯綱雷撃によって完全に止めを刺される。 これ以上ない完勝を収めた開拓者達は、感慨にふけることもなく建設現場に戻り中断していた作業を再開する。 ジークリンデが主導した厳密な測量をもとに岩が削られ、あるいは土が盛られて突き固められる。 その上で外壁工事の基点となる石壁を400回作り出し、総延長2キロメートルに及ぶ仮城壁を誕生させる。それを見た現場監督達は練力回復アイテムを携えた上で土下座する勢いで頼み込み、結局ジークリンデは城塞都市予定地の仮外壁を完成させることになった。 彼女が現在手がけているのは杭打ちの準備だ。 製造にいくらかかったか考えたくもない巨大鉄棒が何本もこの地に運び込まれているが、地面に立てて上から地面に押し込むという訳にもいかない。 通常の現場なら総指揮を勤めることできるほどの男達が十数人がかりで精密な測量と穴掘りを行い、ジークリンデが石壁で穴を補強していく。 補強が完了した後は改めて測量を行い安定を確認した上で、鉄棒を下ろして固定、さらに秘蔵の建材の元を流し込んでいく。 酷暑という表現では足りない暑さの中で作業していたジークリンデは、玲璃(ia1114)やエラト(ib5623)に倣って装備した笠の下で呼吸を整えていた。 水源から差し入れられる冷たい水で喉を潤し、消費した練力は支給または献上された回復アイテムで補給したとはいえ、数日で術を千回以上行使すれば疲労は極限に達する。 それでもアヤカシ相手に戦えてしまうのがジークリンデの実力な訳だが、さすがにこれ以上激しい行動をとるのは無理そうだった。 「劇薬に近い薬ですな」 ジークリンデが休憩に入った頃、作業員の目の届かない場所に建てられた監督用宿舎で密談が行われていた。 「採用するかどうかはお任せします」 「こればかりは任されても…」 現在総指揮を担当している男が手のひらで己の目を押さえる。 生は、依頼人が工事の細かい部分に興味が無い点をふまえ、建造物に作業員達の名を刻ませることで士気の向上を狙う策を提案していた。 「名誉ですから士気は上がるでしょうが、扱いが良すぎて勘違いする者が出てきかねません。それをおさえるのも我々監督の仕事ではあるのですが」 大量の資金を投じて膨大な無理を通している現状で不安定要素を増したくない。これが彼だけでなく監督全員の本心だった。 「押さえつけ過ぎれば反発を招き、押さえつけが足りなければ舐められて手を抜かれるか勝手なことをされる。作業員の中には食い詰め者も多いですから加減を間違えると大変ですよ。少人数なら後からフォローをすることもできるでしょうが、これだけ多いと1度しくじると悪影響が広がりすぎます」 彼は己の限界を率直に認め、策を実行するか否かの判断を生に投げ返すのであった。 ●澱み 「オジサン、お別れだね」 透き通るような綺麗すぎる笑みを浮かべたまま、幼い顔立ちの少女は眠るように息を止めた。 「ちょっ、玲璃、回復! 今すぐ!」 宙に浮かんで澱んだ空気を回避していた蘭が急降下し、主人というより相棒の玲璃に指示を出す。 玲璃は穏やかに人妖を制してから少女の状態を確認し、その上で蘭に指示を出す。 「えっ、大丈夫ってどうして?」 蘭は混乱する。 暗視で見る少女の顔色は非常に悪く、このまま放置すれば儚くなるのは時間の問題にしか見えなかった。 「あー、うちのがすまん」 アルバルク(ib6635)は少女を、自らの6分の1程度の身長しかない羽妖精をひょいと抱え上げる。 そして、空の革袋の封を切って中身を少女に吹きかける。 「けほっ…。少しはましだけど喉がいがいがするー」 紛らわしい行動をとった上で息を止めていた少女は、大きく息を吸って新鮮な空気を吸収しようとしていた。 「初めて連れてきてやったとこがこんなんで悪かったなおい」 背中をさすりながら声をかけてやると、薄暗い洞窟の中で羽妖精リプスは呆れたような視線をアルバルクに向けた。 「ほんとにー、オジサンってば雰囲気考えないよーモテないよー。優しくレディに対する扱いをしないとだめだめだよー」 アルバルクの表情がひきつる。 「それだけ言えりゃあ大丈夫だな。後方の警戒は頼むぞ」 ストールを巻いてやってから己の肩に乗せた上で、カンテラの中の蝋燭を通常より小さいものに取り替える。 もともとぼんやりとしか周囲を照らしていなかった灯りはさらに小さくなり、隣り合う者の顔を判別することも難しくなる。 「あんたのところの嬢ちゃんが頼りだ。指示は任せたぜ」 玲璃と蘭は、打ち合わせもしていないのに同時にうなずいた。 ここは古城の地下に開いた穴の底だ。 ロープを使って装備と本人を50メートル下ろす作業はかなりの難事であったが、強力を発動したルオウ(ia2445)達の身体能力によるごり押しで作業は比較的短時間で終わった。 「瘴気の流れは…さっぱり分からねぇな」 アルバルク黒い金属で作られた懐中時計をポケットに戻し肩をすくめる。 「玲璃?」 再び宙に浮かんだ蘭が真横に視線を向けると、優れた巫女である玲璃は五感とそれ以外の感覚を総動員して周辺一帯を知覚する。 「こちら側に流れてきています」 玲璃が示したのは、2つある洞窟のうち水源の方向にある洞窟だった。 「行こう」 ルオウは長い棒を伸ばして行く先の足場を確認しながら、先頭に立って闇の中に進んでいった。 ●闇の奥 ゆったりとした曲が狭い洞窟内で複雑に反響し、不気味不協和音となって開拓者達の耳を苛む。 しかし敵に対する効果は健在で、力が抜けた骨や肉塊が幅数十センチの隙間に挟まって動かなくなる。 「こりゃぁ奥まで行けねぇぞ。そっちはどうだ?」 慎重に肉を切り裂きながらアルバルクがたずねると、ルオウは岩と岩の合間を器用にすり抜ける一撃を次々に放ちながら器用に肩をすくめた。 「ハンマーでぶっ壊すって訳にもいきそうにないしな」 止めを刺されたアヤカシが瘴気に戻り、再び隙間が現れる。体格の良い男でも通り抜けできそうなのは割れ目の中心付近のみで、割れ目の端は岩と岩が不安定に噛み合った状態だ。 「効果範囲内にアヤカシの反応はありません」 玲璃が報告すると、エラトが打ち合わせ通りに精霊の聖歌の演奏を開始する。 崩落が発生すれば逃げることもできず潰されるのが確実な地の底で、開拓者達は美声とその反響だけを知覚しながら数時間を過ごす。 「雪っ!」 玲璃の合図に気付いたルオウが小声で指示を出すと、闇の中でもぼんやりと浮き上がるほど白い猫が激しく光り出す。 白と黒のみが支配する世界の中で、水源の方向へ向かう穴から無数の影が現れる。 ルオウは咆哮を放ち、天井に刺さった針穴に糸を通すような精密な一撃を連続で繰り出す。小鬼や虫型のアヤカシは一刺しで始末できるものの、コントロール最優先の攻撃では砂人形のような大型アヤカシに対する有効打にならない。 アルバルクも最初のうちは援護射撃を行えていたものの、誤射を避けるために白兵武器の使用を強いられるようになっていた。 「1度下がって広い場所で迎え撃ちますか?」 浄炎を使うことでただ1人全力攻撃可能な玲璃が、切れ目無く攻撃を放ちながら提案する。 エラトが演奏しているのは安全を確保済みの50メートル後方であり、20メートルほど下がれば3人が全力を出して戦えるだけの空間がある。 「今下がったら演奏終了まで持ちこたえられっ」 不定形のアヤカシがルオウの脇をすり抜けエラトの元へ向かおうとする。 とっさに殲刀を振るおうとするが、最適な軌道で振るうと岩ごと切ってしまうことに気付き無理矢理軌道を変更し別のアヤカシを叩ききる。 その隙に、他の全てのアヤカシが陽動を行うことで機会を得た低位のアヤカシがエラトに向け突進を開始する。 「通さない!」 「にゃっ!」 が、玲璃から離れた蘭が背後から蹴りをかまして無理矢理速度を緩めさせ、壁と天井を蹴って三角飛びを披露した雪が上から押しつぶした上で針千本をお見舞いする。 雲骸としては飛び抜けて頑丈だったそれも朋友2人の猛攻には耐えられず、ただの瘴気に戻り虚しく散っていく。 しかしアヤカシの攻撃は終わらない。 「オジサン、後ろから」 言いつけ通り背後の警戒を行っていたリプスが警告を言い終えるより早く、ルオウが残像が見えかねない速度で反転し疾走する。 「後退しつつ食い止めます」 「それしかねぇな」 現状最も火力を発揮できる玲璃を援護するためアルバルクが前に出て壁になる。 背後からエラトに襲いかかろうとしたアヤカシをルオウが排除し、演奏が完了した精霊の聖歌が周囲の瘴気を祓ったのはそれから十数分後。襲いかかったアヤカシが完全に排除されたのはそれからさらに数分後のことであった。 ●揺れる水面 「想定する状況によって必要人数が違いすぎるな」 水源の近くに立てられたビーチパラソルの下で机に向かっていた将門(ib1770)は、すっかり凝ってしまった肩を叩いた。 机の上には現状を正確に記した地図と各種設計図が広げられている。専門知識のない者には意味不明の図形にしか見えないが、彼の目には本来領主しか触れることのできない軍事情報に見えていた。 「仕方がない」 守る範囲、警備を担当させるか否かなど、それぞれの条件でどれだけの戦力が必要になるか計算し、エラトが途中まで仕上げた報告書に書き加えていく。報告書は開拓者ギルドに対するものだが、依頼人も直接目を通すので現状の報告と提案に使うことができる。 「そろそろ時間です」 水源の状態を確認していた鳳珠(ib3369)が作業を切り上げ注意を促す。 鳳珠の駿龍も将門の甲龍も既に臨戦態勢であり、清らかさを強く感じさせる水源に戦場の気配が漂い始める。 「承知した」 傘と机と資料と書きかけの報告書を軽々と一度で運んで片付け、将門は妙見に飛び乗れる位置で待機する。乗らないのは、これまでの経験に基づく推測があるからだ。 地下に向かった班が予定通りにことを進め、エラトの演奏が終わってから数分経った頃、何の前触れもなく水源とその周辺の地面から瘴気がにじみ出る。 神域とまではいかなくても良く整備された街中以上の清浄さが瞬く間に消え去り、魔の森と見紛う濃さの穢れが周囲を冒す。 瘴索結界による対アヤカシ視力を得ていた鳳珠は大小様々なスライムが地面と水中に生じたことに気づく。水中に住むようになった小さな虫や、水を飲みに舞い降りていた小鳥たちが骨ごと溶かされ消えていく。 その地獄じみた光景を前にして、将門は動くことはできなかった。 「妙見、お前は鳳珠殿の指示に従え」 水の噴出口と貯水湖への水路を守るため、鳳珠は地中に半ば埋まったスライムに対し消耗を一切考えずに浄炎による猛攻を仕掛けていた。 主人とは異なりアヤカシ以外にも傷をつかる可能性がある光陰は、水中あるいは水面にあるスライムに対し地道な攻撃を行っている。アヤカシの数が多すぎるため取りこぼしが水源を冒そうとしていたが、そこに妙見が加わることでぎりぎりで拮抗が成り立つ。 物理的な攻撃力に関してはその場の最大戦力である将門は、即座に攻勢に移れる状態で待機を続ける。そうする理由は、冷たい水が噴出する場所の間近で形を為しつつある大量の瘴気だ。 人間の骨格に近い形の、しかし人間ではあり得ない巨大さを持つ骨が現在工事に使われているはずの鉄骨に匹敵する得物と共に形を為していく。 「よかろう」 敵は高確率でしゃどくろ。その大重量で暴れれば水場を壊すのに時間はかからないだろう。 自分の練力所有量と手持ちの技を一瞬で確認し終え、将門は決断を下す。 練力は守りに回さない。 地を蹴って大型アヤカシの目の前に着水し、足が固定に触れると同時に柳生無明剣を繰り出す。 複数にしか見えない単一の切っ先が巨大な肋骨を砕き背骨に亀裂を入れる。がしゃどくろは自重だけでも凶器となる体を押し出した上で得物を振りまわす。 将門はあえて避けずに攻撃を受け止め、その上でさらに踏み込んで骨を断つ。 1分の半分もかからず攻防は終息し、立ったまま血を流す将門に恨みを向けるかのように、散ってさえなお濃い瘴気がわだかまっていた。 将門が加わることでスライム駆除は比較的多時間で完了した。しかし水場の状態が全体的に悪化したことは間違いない。 ●帰還 「おそらく人工っ」 地下から戻って来たエラトは最後まで言い終えることができず、激しく咳をして体をふらつかせた。 蘭によって解毒は受けているが、量も乏しくたちの悪い空気に長く触れていたせいか、彼女だけでなく体力には定評があるルオウまで体調を崩してしまっていた。 鳳珠が清潔な毛布を肩からかけると、エラトは無言のまま目で礼をし地面に文字を書く。 「最近造られたと思われる人工の地形有り」 声に出した読んだ鳳珠は、今後確実に発生する厄介ごとを想像して頭痛に襲われるのだった。 |