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■オープニング本文 ●夕涼み 暑さ寒さも彼岸まで。そうは言うけれどまだまだ残暑は厳しいし、夜になっても涼しいとは言い難い。 それでもまだ川の側ならば涼しいかと川沿いの道を歩きながら、男が二人談笑していた。 「暑いでござるなあ、池田氏」 「もう少しすれば涼しくもなりますよ、それに‥‥」 池田と呼ばれた男がもう一人の男を一瞥して言うには 「油谷さんはその腹の肉を落とせば、もう少し涼しくなるんじゃないですかねえ」 確かにその全く自重しない肉付きの良さといったら、むしろ清清しいくらいだ。 天然肉布団の暖房効果は抜群なのだろう。手拭で汗をさかんに拭う、いかにもまん丸な中年男の名は油谷 稔(あぶらたに みのる)。 一方、油谷に痩せろと言った男は池田 面太郎(いけだ めんたろう)。油谷とは打って変わってすらっと伸びる体躯と涼しげな顔つきが対照的だ。 「それは言わない約束でござる‥‥」 自分の体のことは重々承知と油谷はなおも額に汗をかきながら答えるのだった。 ●柳の下 他愛のない話を続けながら歩き進めると、風が出てきたか先程よりはいささか過ごしやすい。 「風が、でてきましたね」 「天の恵みでござるな」 そしてそっと吹く風が柳の葉を揺らし、隠れていた月と女の姿を露にする。 「おお、あれはなかなか‥‥」 感嘆の声を上げる池田。女には不自由をしていない彼が驚くほどその女は魅力的だった。 黒地の着物に露草色の帯。傘を小脇に抱えた後姿を細い三日月がほのかに照らす。 大胆に露出されたうなじは白く化粧が施され、首筋の美しさを際立てる。 さらには女らしい姿形でありつつ、細い腰。重さに耐えかねて垂れ下がる事のない尻。 「夜鷹でござるか?そのような倫理に反する‥‥」 などブツブツいいながらも油谷の視線は女から逸れない。 いかにも艶やかな後姿。その面構えはいったいどんなものだろうと思うけれども、完全に背を向けた女の顔はこちらからではうかがい知る事が出来ない。 「もし、そこの‥」 ならば声をかければよいのだと、池田は女に呼びかける。 声に気付いた女はゆっくりと、焦らす様に振り返る。 白い肌に赤く鮮烈な紅をさした━━ 老婆。 老婆だ。 もう一度言う、老婆だ。 化粧では贖いきれない程の皺。いくら年を経ればこんな皺だらけの顔になるというのか。 口元からのぞく歯は黒く塗りたくられている。もっとも歯というよりも牙と形容すべきだろうか。 さらには耳や鼻からはだらしなく伸びた毛が縦横無尽に伸びている。 最後に怪しく輝く黄金の瞳は月よりも星よりも輝いている、そんな老婆。 いや、化け物? 「「うわぁぁ!!」」 と二人は仲良く悲鳴を上げて逃げ去ったのだという。 ●迫り来る老婆 その日は、何事もなかった。もっともあまりの衝撃に寝る事は出来なかったが。 二日目、三日目も同じく何事もなかった。 そして、四日目になって異変に気付く。窓から遠くの方にあの老婆らしき姿が見える。 五日目、昨日よりもより近い距離で老婆が見える。 六日目、もっと近くに老婆を感じる。 七日目、やばい、もう家のそばまで来ている。 八日目、家の目と鼻の先に老婆がいる。気のせいであって欲しい。 九日目、なんてこった、老婆が窓から身を乗り出すように見ていた。 そしてこのままだと明日には‥‥。 思えば数日間は気付かなかっただけで、最初の日から少しずつ近づいてきていたのだろう。 不思議と命の危険性は感じぬものの、このままだと何か大切なものを失いそうな気がしてならない。 油谷はついに開拓者ギルドjの扉を叩くのだった。 「その、目を閉じてれば、体だけならいいんだし‥‥」 「初めてはお互いを想い合ってと決めているでござる!」 「その老婆?は油谷さんの事が好きなのよ(多分)。だから、油谷さんさえその気になれば‥‥」 「いくらなんでもアヤカシ相手は無理でござる!」 ま、アヤカシじゃあ確かに可哀想かということで、老婆駆除の依頼が張り出されたのだった。 |
■参加者一覧
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
リーナ・クライン(ia9109)
22歳・女・魔
小(ib0897)
15歳・男・サ
猛神 沙良(ib3204)
15歳・女・サ
不知火 心(ib3645)
17歳・女・巫
針野(ib3728)
21歳・女・弓
桂杏(ib4111)
21歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●これはモテ期なのか(違います) 夏が暑いのは当たり前として。暑いだけならまだしも、湿気があるから不快なのだ。よって暑い中汗をだらだらと流す 油谷 稔(あぶらたに みのる)は不快な存在そのものだ。見ているだけでこっちも暑くなる。 だが、そんな油谷の家に毎晩毎晩女(※注 老婆でアヤカシ)が通いつめようとしている。 そして、それを止める為今日は朝から下は15歳、上は24歳の美女が七人も押しかけている。実に有り得ない。許されない状況にあるわけだ。これはさすがに池田でもちょっと羨ましがるかもしれない。 「これは、もしかして俗に言う『モテ期』という奴でござるか!!」 いまだかつて無い事態にどこをどう勘違いしたか知らないが、油谷は見当違いな事をぬかしだす。 神輿に乗った自分が、美女や美少女に『わっしょいわっしょい』と担がれる姿でも想像したのだろうか。もちろん、そんな事を言った瞬間に冷たい視線が集中した事は言うまでもない。 「まさか、もうアヤカシの洗脳が‥‥!?」 「体は無事でも心はすでに!?」 「稔くん、かわいそうな事件だったね‥‥」 「きっと眠れなくて、夢と現実の区別がつかなくなっているのですね」 「話を聞いてあげることくらいしか出来ないけど〜」 「とりあえず、深呼吸をしてみるといいさー」 「‥‥恐怖は人を狂わせてしまうのですね」 「ってか、本当に女しかいねぇ」 ただのアヤカシ退治のはずなのだが、依頼を受けたのは自分以外は皆女性。小(ib0897)はいささか居辛い気分だ。もっとも突っ込みこそしなかったものの、小も油谷の『モテ期』というのは絶対に間違っているだろうとは思ったわけだが。 ブラッディ・D(ia6200)は油谷のだらしのない脾肉を見て、油谷が老婆に好かれた原因はその食べごたえのある肉だろうかと首をかしげる。 「まぁ、何か凄いもんに好かれちまったんだなぁ‥‥なんつーか、ご愁傷様というか、生きろというか‥‥」 モテる事は良い事だと思うのだが、アヤカシに好かれてもその、困る。いかに女に縁がないとはいえ、老婆、それもアヤカシの餌食になれというのは余りにも酷な話だろう。 「そういった特殊なものに対する需要が世の中にはあるみたいですが‥‥」 桂杏(ib4111)はそう言うが、当たり前に油谷は老婆が好みではないらしい。ただの年増好みという者ならば、探せばいくらでもいるだろうが年増というにも度が過ぎているわけだし、流石に躍動感ある鼻毛やらを許容する男という条件も付け加えるとなると、件の老婆を好む男の存在は絶望的だ。 しかし油谷が老婆にご執心という事であれば実にやりにくい話ではあった分、老婆が美女じゃなかっただけマシと考えてもいいだろう。 「でも、なかなか奥ゆかしいわよね」 煌夜(ia9065)が言ったとおり、確かにその老婆は奥ゆかしいと言っても良かった。アヤカシは人を食べたくて腹を空かせているのだから、出合った直後に襲い掛かるのが普通だろう。それがこう何日もかけてじっくりと時間をかけているのは何故か。毎晩油谷の恐怖をゆっくりと喰らっているのか‥‥。 ●老婆におびえる日々 「昨日の段階でどの辺りに居たのかなー?」 「あの窓のあたりでござる」 リーナ・クライン(ia9109)は大人びた容姿でありながら、幼子が話しかける様な口調で油谷に問いかける。以外にも油谷はそのギャップを気にする事なく平然と応対をする。 「昨日がここ、一昨日がそこ、そしてその前が‥‥」 昨日までの出現位置から自分は老婆を待ち伏せするべきかを考える。相手はアヤカシ。いつどこでどう現れるかわからない部分もあるが、事前に想定を立てることは無駄ではない。それにリーナは魔術師だ。戦闘にあたっては自分と仲間の立ち居地も考慮に入れないといけない。 「で、アヤカシはどのように近づいてきたのでしょう?」 歩いてなのか、それとも飛んでくるのかでは全く対処の仕方が異なってくる。猛神 沙良(ib3204)も事前に出来るだけ情報を集めて対策を練りたかった。 「気がついたら、近くにいたというのが正直なところでござる。多少は歩いてる感じでござるが‥」 「なるほど、ちょっとの距離はあるという感じでしょうか‥‥」 急に目的の場所に現れるとなるとなると護衛は難しいが、予兆があるのなら油谷を急襲されるという事態は避けられそうだ。 「でも一応、傍についていた方がよさそうね」 煌夜は何かを探しながら沙良に言う。今日はいったいどの程度距離を置いて現れるかはわからない。もしかすると部屋に直接現れるかもしれないのだ。 「体はボン・キュ・ボンで顔はばあちゃん? え、それってどんな感じなんさー‥‥‥?」 針野(ib3728)は射線の通る場所を探しながら考える。なぜ完全に老婆にならなかったり、美女になりきれなかったのか。この様にアヤカシは時として人の想像を超えた形態を成す事がある事を再認識させられる。 そしてその理由は本人に聞いてみないと分からない。しかし、アヤカシがしゃべることはそう多くは無い。まして自分の身形について語り出す者などあるだろうか。つまり真相は闇の中となるわけだ。 「世の中には不思議がいっぱいさー」 良く晴れた空の下、針野はそう言って両手を一杯に広げながら体を伸ばした。 「やっぱりその体が原因かもしれないですね〜」 不知火 心(ib3645)はズバッと言ってのける。老婆が油谷を狙う本当の理由はわからないが、健康といった面からもその肥満状態の改善を促した方がよさそうだ。 「ふおおお、やはりそうなのでござるか‥‥」 当人にも理由がそうじゃないかと思っていたところはあったらしい。油谷は頭を抱えて悶えている。 「ま、まあ、アヤカシは私達が何とかしますから」 「お願いするでござる。老婆は嫌でござる。イヤでござる」 どうやら老婆の恐怖を思い出したか、油谷は小刻みに震えている。心なし顔も青ざめているようにも見える。 「大丈夫ですよ。終わったら痩せる努力をしましょう」 と心は油谷の手を取って微笑みかけ、励ますついでに減量の約束を取り付けた。 そんな様子を見ていてか知らずか沙良が油谷に提案する。 「まだ時間もありますし、少しお休みになられてはいかがですか?」 毎晩老婆の襲撃を受けては寝る事すらままならないだろう。油谷の顔に疲れが出ているのを見た沙良の心遣いだ。 「そうさせてもらうでござる‥‥」 油谷はやはり疲れていたのであろう、布団に入ると大きないびきをかいて眠り出した。 ●匂い立つ老婆 一言で言うと、生暑い夜だった。生暖かいと言う言葉ではぬるい。 風は弱く、秋を告げる虫の音も無く。ただ欠けた月だけが闇を照らしていた。 「そろそろ、かしらね」 心は老婆を待っていた。正直馬鹿みたいに暑いし退屈だったがそれでも待った。怖いもの見たさというものだろうか。 そんな際物アヤカシがいるのであれば見てみたいと。 「どこからやってくるのでしょう?油断なりませんわね」 桂杏は苦無を握り締める。何時何処から現れたとて対応できる様身構えているつもりだが、出てくる場所がわかるのであれば多少は気が楽と言うものだ。 「油谷さんの話では、恐らく、あの通りから歩いてくるはずです‥‥」 沙良が指し示すその通りは今や人の影は無く寂しい限りだ。 「まだ、何もいないようね」 煌夜の『心眼』は仲間と油谷以外を周囲に捉えなかった。今日に限って老婆が昼間から襲撃する事もあるかもしれないし、あるいはすでに軒下などに潜んでいるかもしれないと昼間のうちから定期的にこうやって調べてはいるのだが、アヤカシらしき気配を掴む事はなくついにこの時間まで至っていた。 煌夜の役割は油谷の直衛。他の仲間は外で各々の持ち場についている。 今、油谷の家の中には油谷と煌夜の二人きりということだ。 すっきりと細く引き締まった腰つきには不釣合いにも程がある膨らみ。煌夜の体は老婆にも負けない魅力的なものであるのだが、油谷はそれに気を取られる余裕すらなく布団を被って隠れていた。 油谷に言い寄られたところで嬉しくも無いのだが、これでは一人で待っているのと変わらない。 「ばばあ遅いねー」 リーナの声だろうか、家の外で話し声が聞こえる。 「油断はできないけれど‥‥退屈ね」 煌夜は上を見上げた。そこには低い天井があるだけで月も星も眺めることはできなかった。 そして、その時はやって来た。甘い香りが微かにブラッディの鼻腔をくすぐる。 「なんか、いい匂い?」 単純に甘いという事もなく、どことなく上品で穏やかに広がる匂いだ。ブラッディの感じ取った匂いは白檀の香。 つまり、今この近くに白檀の香を身に纏った者が近くにいるという事だ。 そして今は普通の人がお洒落をして出歩く時間でもない。となれば、『待ち人』の『襲来』ということだ。 「今日は気合が入ってる、ってことか」 こちらとて気合がはいっていないわけではないのだが、ブラッディは先の戦いで傷つき、思うように体を動かす事が出来ない。自由の利かぬ自分分の体を歯がゆく思いながら呟く。 「気合入れても、無駄な足掻きだけどな」 一緒に周囲を警戒していた小がブラッディの呟きに応える。いくら良い香りを用意したところで油谷の気持ちが老婆に向くとは思えない。ともあれ他の仲間にも老婆の出現を教えるべきだろう。小もブラッディと同じように体の具合が万全ではない。このまま二人で老婆と接触をするのは危険だ。小は懐から呼子笛を取り出すと、短くピッとならす。 「これだけ匂うなら、必要ないかもしれないけどな」 微かに感じていた匂いは何時の間にやらはっきりとわかる香りになっていた。たとえいかなる香りとて、強すぎる香りは悪臭となる。小は鼻を手で覆うようにしながらため息まじりにぼやく。 ●ざわめく老婆 「うおっ、実物を見るまでピンとこなかったんだけど‥‥‥なんていうか、きょ、強烈さねー」 一番最初に老婆の姿を捉えたのは針野。他の仲間はまだおぼろげにしか老婆を認識する事できない。 針野の目に写るのは、まるで蛇の様に蠢く鼻毛。それ自体が意志を持っているかの様に風に泳ぐ耳毛。邪悪な顔より生え出でた密林が、油谷に迫らんと一歩ずつ歩み寄ってくるのだ。 「や、やるしかないさー」 引き絞られた弓から放たれる矢。矢は勢いよく老婆の脚をめがけて突き進んでいく。だが、老婆の直前で急に矢の勢いが弱まったような気がした。矢は老婆に届いたのだが、思っていたよりも浅そうだ。 「なんか、変さねー?」 他の仲間達にも老婆の姿がわかってきたようだが、まだ遠い。 「やれる事は、やっておかないとな」 ブラッディも老婆に向けて矢を放つ。弓の扱いは専門でこそないが、ブラッディの矢は軌道が逸れる事もなく老婆に真っ直ぐ向かっていく。 そしてやはり矢が老婆の目前に迫った瞬間、異変が起きた。俄かには信じがたい異変が。 「そんな、こんなのありかぁ?」 ブラッディが叫ぶ。 「まぁ、なんだ…とりあえず。コレは、無理」 小は呆然とした表情でボソっと一言。男性陣(とはいっても一人だけだが)に拒絶される老婆。 「流石はアヤカシ、なんでもありですね‥‥」 あまりに理不尽な出来事が目の前で繰り広げられた桂杏はそう言うしかできなかった。 まさか、矢が伸びてきた鼻毛に絡め取られるなんて━━━ 「こんな恐ろしいアヤカシがいるなんてっ!」 心は杖をぎゅっと握り締める。杖を握る事で手の平に汗をかいていた事が分かる。見た目だけで恐怖を感じさせるとはこのアヤカシ、ただものではない。‥‥かもしれない。 しかし、ただ恐れているわけにはいかない。心は開拓者だ。アヤカシ討ち滅ぼす開拓者だ。 「私は負けませんっ!」 握り締めていた手の力を緩め、正しく杖を持ち直す。そしてゆっくりと、心は舞い始める。 「なーんか気に入らないんだよねー、キミの事」 異性に好まれないからといって必ずしも同性に好かれると言う事でもない。世の中なんてそんなものだ。 リーナはフードを深々とかぶると木の杖を持って詠唱を始める。 「氷の精霊よ、彼の者の自由を奪え」 そして、リーナが杖をかざすとたちまち、老婆を凍りつく様な白い風が包み込む。 「なんか、すごいことになってるみたいだけど‥‥」 煌夜が窓から様子を伺うと、老婆の姿を確認することが出来た。鼻毛が、白く凍りついている老婆を‥‥。 思ったよりも老婆は手強い相手かもしれないが、かといって押されている風でもない。 「この中までははいってこれないでしょうね」 そうは言いながらも刀の柄から手を離すことは無く戦いの行方を見守るのだった。 「おっと危ねえ」 老婆の武器は鼻毛だけではない。鋭く伸びた爪で小を斬りさかんと、両手を振り下ろしてきた。小は剣でその爪を受け止めると後に飛びのく。わしゃわしゃと動く鼻毛を目の前にして踏ん張る事に危険を感じたからだ。なにせ矢に反応できるだけの鼻毛だ。やや凍ってはいるがどんな動きをしたとしても不思議ではない。 「後からならどうでしょう!」 小が離れた直後に桂杏が老婆の後から苦無を打つ。流石に後からの攻撃には反応はできない様で、苦無の直撃を受けた老婆は姿勢を崩す。 「今なら!」 小の剣が老婆の腕を裂く。一撃ごとの重みは無いが確実に手傷を負わせていく。 「やはり、目は後にはないという事ですね」 桂杏はさらに苦無を老婆に打ち付ける。真黒な鉄の塊が色鮮やかな着物に吸い込まれるように突き刺さる。 「大丈夫。もうすぐ終わるよ」 と煌夜は油谷に語りかける。真正面から単純に攻撃を行っても、老婆の守りは堅い。しかし、死角から攻めればそうでもない。そして老婆は一人だが、戦闘に参加している開拓者の数は七人。死角などいくらでもつける。老婆はもう詰んでいるようなものだ。 牽制に放たれる矢。そして別の角度から放たれる本命の矢。今度こそ勢いを減衰されることなく矢は老婆を打ち抜く。さらに畳み掛けるよう炎が老婆を襲う。 「好機という事ですね」 そこへ素早く回り込んだ沙良が刀を抜き放つ。重い一撃が老婆の首筋をを捕らえる。 「せめて最後は安らかに‥‥」 沙良は静かに刀を収めた。老婆は急遽吹き出した強い風に掻き消されていく。 かくして油谷の貞操は無事、守られた。 「ありがとうでござる、ありがとうでござる」 畳に額をこすり付けるような喜び方をする油谷の気持ち悪さに全員ちょっと引いたが、とりあえず当面の危機は去った。 だが、開拓者達は去り際に一言を残していった。 「痩せないと、また‥‥」 「ほら、これを期にちょっと運動してみよ?」 「ちなみに私はやせている体型の方のが好みですね〜」 油谷に残された課題はこれからだ。それを思い出してがっくりと膝を落とす油谷であった。 |