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■オープニング本文 ●考えるのではない、感じるものだ 「逃げたもふら様を連れて帰ってきて欲しい?」 「ええ、逃げたもふら様が‥‥」 今回の騒動で、もふら様の集団が牧場より脱走していた。一団となって逃げ出したもふら様の多くは最終的に温泉へ向かったわけだが、そんな中ではぐれてしまう群れなどもあった。 そして道に迷っていた小集団をある館の住人達が軟禁しているということらしい。 「そんなの兵士がいけば返してもらえるでしょう」 何処にいるかがわかっているのであれば、そこに返してもらいに行けば良いはず。そこが魔の森の真っ只中という事もないのだから、開拓者に依頼する必要も無い。 開拓者ギルドの受付である不月 彩(フヅキ アヤ)はどうせこの紙は使う必要ないわね、と依頼書の片隅になんとなく落書きをしながら言い放つ。依頼を受けなくて済むのであればその方が仕事が減って楽だからだ。 「ですが、そこは危険な場所なのです」 依頼人は折れない。もっとも彩が言うように兵士を向かわせるだけで済むのなら、とっくに解決していたはずだ。 「危険って、犯罪者の集団とかアヤカシの住処とかそういう事でもないのですよね?」 「ええ、普通の館です。住民達は法に触れることは何もしていません」 「それって普通の家に普通の人たちが住んでるってことじゃ‥‥?」 何とも解せぬ。普通だけど危険とはどういうことだ。彩は一層落書きの状況をひどくしながら考えるのだった。 「で、どう危険なのですか?」 ただ変とか危険と言われても、困る。 「実は一回兵士を捜索に出しているのですが‥‥、全滅しました」 「ふーん、ぜ、全滅?」 何故ただの普通の館にもふら様を探しに行くだけで兵士が全滅しなければならないのか。 ●それは間もなく現れる 町外れの大きな屋敷。しかしそこは只の屋敷ではない。その敷地内は余りに異質で異様な雰囲気なのだという。 なんでも屋敷に立入った者が言う所には、理解や常識を超えた眺めが耐え難い不安を引き起こし、激しい恐怖をも感じたとの事だ。 一体何をどう見て彫ったらこうなるのだろうかという石像。見ているだけで背中がむずむずしてくるような、そんな物が至る所に設置されているという。 しかもそれらはまるで置くには相応しく無い場所にもあるというから性質が悪い。 例えば、厠にもその不気味な石像がびっしりと密集していて利用者を見つめているとなれば、出るものも出なくなってしまう。 そしてその石像から眼を逸らそうと天井を見れば、これまたてんで意味の通じない、リズムのわからない詩が書かれているといった次第。 また別の部屋には巨大なものが人々を包み込み、吸収しているかのような絵があったり。 人や物が腐食していく様が表現されているのだろうと思しき絵もある。 その他にもやたらと眼だけが不規則に掘られた柱が何かを支えているわけでもないのに建てられていたりする。屋敷内は終始こんな感じなのだから、心が休まる場所は一つとしてない。 それら様々な建築やら美術品には物語性があるとは思えないが、その不気味なオブジェやらに多く共通するものが一つ。それは恐らくはもふら様がモチーフとなっているという事だ。とはいえほとんどが色々と酷いことになっているので、かろうじてもふら様なんだろうなあという感じだが。 その館に集うは『もふしん団』を名乗る者達。彼らはその館で集団生活を営んでいる。 彼らは世界に永遠の闇的な何かをもたらす『もふしん』の登場を望む終末思想者である。 特に目立った行動をするでもなく、自給自足的な引きこもりに近い生活を送っているため世間の認知度は低い。 そしてこの度、館にもふら様が現れたことを『もふしん』の前触れであると勝手に解釈し、迷い込んだもふら様たちを軟禁してしまったのだ。 ●それはそこにある 「全滅とはいっても命に別状は無いのですが‥‥」 捜索に向かった兵士は三名。彼らはもふら様を連れて帰るどころか、泣きながら帰ってきたり、意味不明な言葉を繰り返す様になって帰ってきたのだった。 「どうもその館が精神的に相当キツイらしくて、他の兵士も誰も行きたがらないのです」 でまあそういう面倒な事は開拓者ギルドへという話らしい。まあ死線を何度も潜り抜けるのが仕事のような開拓者であれば多少おかしな館であろうともなんとかなるであろう。 「館の住人は、協力はしてくれないかもしれませんが、本格的に邪魔をしてくる事も無いはずです」 依頼人は付け加える。どうやらもふら様を返せという命令には渋々だが応じてくれるらしい。ただ、『ご自由にどうぞ』といった態度を取るだろうとのこと。多少捜査の邪魔程度はするかもしれないが、お縄になるのを恐れて積極策には出ないらしい。 考え様によってはぼろ儲けといってもいい仕事内容だ。『肉体的には』安全な場所でもふら様を探して連れ帰るだけなのだから。 彩は前向きにそう考えると依頼内容を紙にしたためる。そしてしばらく書き進めた後、落書きをしたことを思い出すのであった。 ●そうすれば君もきっと しかしもふら様といえば特に危害を加えられているわけでもなくのんきなもの。 「わけわかんないもふ〜」 と自由に歩き回っている。別に鎖につながれているわけではないし、ただその敷地内からは出れないだけ。取り分け不自由もなく、ここから逃げたいという気持ちも無く、あくまでもマイペースに軟禁生活を送っている模様。 「ここは日当たりが良くてあったかいもふ」 と庭先の暖かそうな場所で大きなあくびをしてみたり。 「飽きたもふ〜」 工房にてモデルをやらされているもふら様はいたって退屈そう。どうせその場にモデルがいなくても出来上がるものは変わらないからいる必要が無いと思うが。 「たえず虚無が見つめているもふ。もふしんは最初から有って最後を告げるもふ」 ‥‥あれ、なんか一匹おかしいぞ? |
■参加者一覧
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ロゼオ・シンフォニー(ib4067)
17歳・男・魔
S・ユーティライネン(ib4344)
10歳・男・砲
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
洸 桃蓮(ib5176)
18歳・女・弓
リーブ・ファルスト(ib5441)
20歳・男・砲
光河 神之介(ib5549)
17歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●門。それは境界 「面白いものがあるといいなー」 ロゼオ・シンフォニー(ib4067)は言葉どおり無邪気にそう考えていた。 『面白いものが見れる』。確かに見ようによっても面白いかもしれないこの館。しかし、『面白い』と『変わった』は似ているようで同一ではない。変わっているからといって面白いとは限らないのだ。 だがロゼオはまだ自分達の運命を知るべくもない。ただ期待を込めてその館に通ずる門に手をかける。 「なんだこいつは‥‥」 楽に報酬というのは無理だな。とリーブ・ファルスト(ib5441)は思った。酷い場所とは聞いてはいたが、まさか足を一歩踏み入れた時から軽く頭痛がする程とは。 「なんなのこれは‥‥」 洸 桃蓮(ib5176)も頭を軽く抑える。ちょっとクラッときた感じだ。 もはや邪悪な表情とすら言える様な不快な微笑みをたたえたもふらさま(多分)像が来客を歓迎するかのように視線を注いでいる。リーブは一つ残らずこの腹立たしい像を叩き壊したい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。 そして桃蓮は頭痛の種が入り口だけではないと開けた視界より悟る。遠目に見ても色々とおかしなものがあるのがわかる。 「最初からこれって、ちょっと頭が痛くなりますね‥‥」 「ああ、異質にも程があるな‥‥」 同じ様に頭が痛そうな素振りを見せる光河 神之介(ib5549)。 神之介もこれを比較的楽な仕事と踏んだクチだが、まさか館に入る前にその願いを粉砕されようとは。 「こんなふざけた場所にもふらさまを置いていてもロクな事にはならねえ。速く探そうや」 「ああ、早く終わらそう‥‥」 とにかく早くこの館から離れたい。その思いは一つ。リーブの言葉に頷いて、神之介は重い足取りで一歩を踏み出す。 人呼んで『ジーク』ことS・ユーティライネン(ib4344)は『これが異国の神なのか』と何か間違った方向へ思考を展開していた。八百万の神とはよく言ったもので、どんな物にも神が宿るのであればこの資源と労力の無駄遣いの結晶の石像にも神は宿るかもしれない。 「天儀の神とは自分の想像を上回っていた‥‥!」 だが、このように口走られては天儀の人間は黙っていられない。 「これは違う」 琥龍 蒼羅(ib0214)がこんな石像はアヤカシの類の方がよっぽど近いとでも言いたげな口ぶりで、ジークの『もふしん=天儀の神』思想を否定する。 「違うのですか‥‥」 何だか不満げな様子でジークは腕を組む。まだ何か考えているらしい。時折首をかしげたりするような感じで、もふら像と思しきものを見つめている。 「普通の人間にここは厳しそうだな‥‥」 蒼羅は『木乃伊取りが木乃伊になるというのもな』などと考えていた。 目には目を。もふらさまにはもふらさまを。と言う事だろうか。もふもふとした人影が一人、集団の中に混じっていた。 アーニャ・ベルマン(ia5465)は『まるごともふらさま』を着こんで捜索に挑む。この館も変だが、アーニャもまた違うベクトルで変だ。 自分も周囲に染まれば、その影響を受けずに済むかもしれない。と考えての行為だが、あえて例えるのならば、物凄く苦い青汁とやたら酸味の利いたサワークリームの様な危険な組み合わせを思わせる。 「今までに出会ったことのないタイプの作品群です〜〜」 それでもアーニャは石像を『芸術』という形で接している。わからないと頭ごなしに否定をするのではなく、こういう表現もあるのだとおおらかな感性で受け止めていた。 そしてレティシア(ib4475)は独り黙って皆の様子を眺めていた。頭を抱える者、受け入れる者、それぞれの様子を見ては微笑んでいる。だがしかし肩まで伸びた金髪を揺らす人形のような愛らしい少女が、仲間の錯乱具合を歌にしようと考えているとは一体誰が考えるだろうか。 ●見えない扉 「話は聞いているだろうが、もふらを返してもらう」 そう言うと、出迎えたもふしん団の返事も聞かずに蒼羅は館の中へ。 もふしん団の館は広い。館だけでなく庭や畑まで含めればそれなりに探す場所はある。そのため捜索は分散して行う手筈となっている。 蒼羅とロゼオは館の一階部分の探索。 リーブとジークは二階。 アーニャとレティシアは地下室へ。 桃蓮と神之介は屋敷の外といった具合だ。 「おじゃましま〜す」 蒼羅の後にロゼオが続く。壁にかかっているもふらさまの面(エキゾチックカオスバージョン)に見とれていたので一寸置いていかれた感じだ。 『俺はこの程度では何も感じないが、な』 妙な物は数多くあるが無視をする。これは多分最善の攻略方法だろう。蒼羅は像や絵を目にしても特に動揺する事もない。まるで興味がなさそうな態度で通り抜けていく。 「長居したいとは思わないが」 早く終わらせたいのはやまやまだが、調べる箇所が多いのもまた事実。 壁一面にならぶ扉。しかも全部違う形状をしていて、引いてあける戸もあれば、上に持ち上げて開くタイプもある。そしてどうしても開かないと思ったら、本当に開かないドアも混じっていたり。 『心眼』という手もあるが、中にいるのが人なのかもふらさまなのかは開けてみないとわからない。 もふもふと声がするから開けてみたら、普通に人だったということも珍しくない。何せ『もふしん団』なのだから、もふもふしていても不思議ではないのだが、蒼羅とすれば邪魔をされている事に変わりは無い。 「またか‥‥」 「いないですね〜」 とロゼオは反対側の壁を調べている。蒼羅よりペースが遅いが、さぼっているわけではない。見落としている所は無いかと入念に確認をしているからだ。 「ここの奥に誰かいるようだが‥」 「壁の向こうは空洞?」 壁を軽く叩いてみるとそんな気がする。でも、手をかける所はどこにもない。 もしかしたら、と思ったロゼオは近くにあった『もふらさまの壷の様なもの』を調べてみる。水を入れるにも花を生けるにも不適な形状をしたどどめ色のそれには何も入っていなかった。が、壷が置いてあった場所にはなにやら怪しげなボタンがある。 「これはなんでしょう?」 躊躇せずボタンを押すロゼオ。その直後、ごごご‥‥と音をたてて壁が開く。 「隠し扉、か‥‥」 「すごいです!面白いです!!」 そして開いた先には二匹のもふらさま。 「かくれんぼは終わりもふ?」 「うん、終わり。そろそろ皆のところへ帰りましょう!」 ●階上 屋根にあるのは何だろう。 鯱だろうか。それともジルベリア風にガーゴイル像だろうか。あるいはもふらさまだろうか。 ジークはそれを確認するため屋根の上を目指す。彼の何かが告げている。 『もふらさまは灰色に塗られて彫像に偽装されているのだと』 とはいえ上がった屋根の上にあったのはやはりもふらさまではなかった。念のため手で像をなぞってみたが、手には石の感触しか残らない。ぬくもりももふもふ感もまるでない。 「やっぱり、ただの石像ですか‥‥」 ジークは石像にもう一度触れてみる。堅い。やっぱり石でもふらさまではない。そもそも造型からしてもふらさまとは言い難い。少なくとももふらさまに触手はない。 「仕方ないですね」 屋根にもふらさまがいないなら、他を探すしかない。そう思って瓦に手を触れたとき妙な凹凸があるのに気付く。 「これは‥‥!?」 登る時には気付かなかったが、瓦一枚一枚にもびっしりと文字や絵が刻み込まれているではないか。ジークはそれを一枚一枚読み解いていく。内容は基本的に意味不明なはずなのだが。 「神の、受肉‥‥。違う、これは違う。だけど‥‥」 そうだ、個で考えるのではない。感じ取れ。自らを、溶かせ!!混ざれ!!そして、もふってもふった心が‥‥と色々な考えが逡巡した結果、ジークはやおら立ち上がり大声で叫び出した。 「もふ‥しん、ば、あ、万歳!もふしんバンザイ!!」 「そんなところにいるとあぶないもふ‥‥」 もふらさまは窓から心配そうにジークを眺めていた‥‥。 一方その頃、リーブは別のもふらさまと遭遇するも説得に難航していた。 「めんどうもふ」 帰るのが面倒だと言うのだ。こうなると実に『面倒』だ。相手は重いし力もある。子猫のように首根っこをつかまえて持ち帰るというわけにはいかない。 やはりもふらさまをやる気にさせて、自発的に帰ってもらうようにするのが一番いい。リーブは一寸考えると、球状のものを一つ取り出して何やら口上を始める。 「ここに取り出したるはヴァンパイアキャンディー。一見ただの飴玉だ。だが、そのまま信じるのは素人よ」 何でも吸血鬼になれるという『噂』の飴だと。確かにその飴は赤と黒の色彩で、怪しい力を秘めているように見えないでもない。 「今からもふら牧場に一番乗りしたもふらさまにコイツをプレゼント!さあ、どうだ!?」 その効果は抜群で、飴がもらえると分かった途端もふらさまは俊敏な動きでリーブに駆け寄ってくる。 「それをくれるもふ?」 「ああ、帰るならな。だがこの不思議な力は‥‥」 「飴くれるなら帰るもふ。吸血鬼とかはどうでもいいもふ」 「あ、そう?‥‥‥ま、あくまで噂だし〜」 なんだ、ただの飴でも良かったのかと思いはしたが、これでその気になってくれるならそれでいいかと思い直す。 それより問題はあの屋根の上にいる奴か‥‥。と何か叫んでいるジークを見つめるのだった。 ●裏庭には二羽鶏はいない 「なんですかここは‥‥」 廃墟、それとも戦争跡?そんな焼け焦げた木材等に紛れて、彩り鮮やかな手毬が無数に転がっている。 庭って普通、心が安らぐ場所じゃないの?人の趣味はとやかく言えないけれど、度が過ぎると言うか、酷い‥‥。少なくとも私はここじゃ心は休まらないです。と桃蓮は先程からずーっとこんな感じで呆れっ放しだ。 「もし俺がおかしくなったら遠慮なく殴ってくれ」 同行する神之介も警戒している様で、予め対処を桃蓮に頼んでいた。 逆に桃蓮がおかしくなったりすると困るな‥‥。女に手を挙げるのは気が引ける。と神之介は思ったものの、桃蓮は嫌悪感を示してはいたが、感化される様には見えない。 そんな嫌な庭を歩いていたら、昼寝をしているもふらさま達を発見した。良くこんな所で寝る気になるもんだと心の片隅で思いながら桃蓮はもふらさまに声をかける。 「こんなところよりもお外の方がもっと美味しいものが食べれたり、楽しく遊べますよ♪」 『ほらっ』と桃蓮は『甘刀「正飴」』を取り出して見せる。 「たしかにここはちょっと疲れるような気がするもふ」 「うんうん、早く帰りましょうね♪」 「もふ〜」 そう言って桃蓮は甘刀を指揮棒の様に振り回しながらもふらさまを誘導する。 が、何故か一匹だけ着いて来ない。神之介はそのもふらさまに尋ねる。 「なぜお前は来ない‥‥?」 「もふは余り甘いものがすきじゃないもふ」 甘い物だけで全員が釣られるわけではないと言う事か。甘くない食べ物‥‥。これくらいか。 「この、超高級梅干を食べたくはないか‥‥?」 そういって神之介は何とも意味ありげに梅干を一つ懐より取り出す。 「ち、超高級!?」 涎を垂らしながら目を輝かせるもふらさま。 「そうだ『超』高級梅干だ。もし素直に帰るならこれを一つ譲ってもいい‥」 「欲しいもふ!今すぐよこすもふ!」 「だめだ、帰ってからだ。何、イヤと言うなら別に構わん。欲しい奴は他にもいるからな‥‥」 「わ、わかったもふ。だから後でちゃんとボクによこすもふ!!」 うまくいったと思うものの、これは支給品のタダの梅干だ。後で話が違うなどとわめかれても困る。そこで神之介は一案をこしらえる。 手持ちの巾着袋に『超高級』と手で書いてその中に梅干をいれてみる。なんとなくだが高級感が漂っている、様な気がする。 「これで、なんとかなる、か‥‥?」 ●地下室 レティシアは地下室に降りた時から違和感を感じていた。いや、違和感を感じなくなったというべきだろうか。 今までは噛み合わない、不整合の連続だったのにこの部屋は完璧なのだ。もちろん個々で見れば出鱈目なものばかりだが、もふらさまを含めてそこにある全てが必然であるように感じる。侵入した自分達が余計な調和を乱す存在とすら感じる程だ。 「もふしん、それは真理もふ」 「ベルマンさん、これは‥‥」 「わかっています」 強いプレッシャー。このまま立ち止まっていては『もふしん』に飲み込まれてしまいそうだ。 アーニャは意を決して語り始める。 「我こそはもふしん。全ての意識の深層より、蒼き牧場へと導くものなり」 それに付き従う様に、レティシアは何か演奏しているような素振りを見せる。 「この魂の音は真に通ずる者にのみ響きます‥‥」 『エアパイプオルガン』という高度な技術を披露するレティシア。分かる者にはさぞ荘厳な曲が響き渡るのだろう。 「全てはそこへ収束するのです‥‥」 アーニャはもふらさまを階段の方へ誘い込む。 何がどう収束するとかそう言う細かい事はこの際どうでもいい。 「さあ、こちらへ‥‥」 レティシアも恭しくもふらさまを招く。ちゃっかり手にはパンプキンパイを持ってちらつかせている。 「も、もふ‥‥」 言葉かパイに釣られたかはわからないが、ゆっくりとレティシアに連れられていくもふらさま。レティシアは懐かしさを感じさせる歌を歌いながら階段を登っていく。 そして一人地下室に取り残される形となったアーニャは再度部屋を眺め、 「芸術は爆発だー!!」 爆発した。 アーニャは筆を取ると壁に大きく絵を描き出す。 やたら人間臭い体型のもふらさまが無表情に卵を割っている。 その卵からはまた別のもふら状液体生物がだらっと垂れ下がっていた。 アーニャはその液状もふらが呟いているように、『もふしん』と書き足す。 「全ては終末的もふしんへと収束に向うのです。ふふ、もふ、もふしん」 中々上がってこないアーニャの様子を見にきたら、アーニャは虚ろな眼で踊っていた。 「見ていたいですが仕方ありません!」 物凄い勢いで感化されていると感じたレティシアがハイヒールをアーニャに45度で突き刺すのだった。 ●斜め45度 レティシアがゆっくりとした曲を演奏している。未だ混乱状態にあるジークの治療のためだ。 「目を覚ませ‥‥!!」 神之介の手刀が見後に斜め45度の傾斜でジークを打つ。一見児童虐待の様だがこれは治療である。壊れたものを直すには斜め45度と昔から相場は決まっているのだ。 「自分は一体何を‥‥?」 とジークが目を覚ます。しかし、タイミング悪くそれに気付かないリーブの手刀が逆側からジークに打ち込まれる。 「故障物には45度!!」 「もも、もふもふっもふ」 「いかん、まだだめだ!」 「自分は(略)」 「45度!」 そしてこの手刀合戦は暫し続いた‥‥。 「今度からはもっと確認しよう‥‥、もうこんな依頼はごめんだ‥‥」 神之介達は疲労困憊の態で館を後にするのだった。 |