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■オープニング本文 ●朝顔 夏の朝を涼しげに飾る花、それは朝顔。爽やかな朝に良く似合うその花は、古来より多くの人の心を惹きつけて来た。 「最初は大きい花ができただけ、と思っていたのだが‥」 単純に花を愛でるのは勿論、珍しい花を咲かせるのも朝顔愛好家達にとっての楽しみの一つ。少しずつ変わった花を掛け合わせ続け、その特徴を増したり、減らしたり。 依頼人、服部 弥衛門は朝顔栽培のために別途家(小屋ともいえる程度の小さなものだが)を構えるほど朝顔栽培に熱をあげている。勿論、そこには多くの朝顔の鉢があり、彼もまた新しい花を咲かせるべく日夜考えているわけだ。 朝顔市から仕入れて来る事もあれば、流しの朝顔売りから買うこともある。そして好事家同士で鉢の交換だってある。そうやって鉢の数は増えていくのだが、何時の間にやら変わった花を咲かせた鉢が出てきたという。そして冒頭の彼の発言と繋がるわけだ。 「蔓が手足に絡まったりしだしてな」 朝顔は成長の早い花ではあるが、瞬く間に蔓が伸びるという事は流石にない。 「花もなんか噛み付いてくるし」 「えっ!?」 朝顔はいつから食虫植物、いや食人植物になったのか。 「それでもこれも新種だと‥」 「‥いくらなんでもそれは無理が‥」 この服部、なかなかの剛の者である。どうやら都合の悪い事は見なかった事にしたらしい。 「で、この花だけはやたらに成長が早い。このままだと他の鉢がだめになりそうだから─」 そういうわけで手足に絡みつき、噛み付いてくる鉢がいる中で他の鉢を移そうとしたらしい。良く食い殺されなかったものだとは思うが‥‥。 「数が多くてな、日が暮れても終わらなかった」 「よく無事でしたね‥」 半日くらい作業をしていても無事と言うことは大した脅威ではないのかもしれないが、やっぱりこいつはおかしいだろうと彩は心に思いながら対応を続けた。 「しかし、そこで某は気が付いてしまったのだ」 「何をです?」 「あの花がアヤカシだということを‥‥」 「え!?」 「他の鉢はとうに花を閉じていると言うのに、その花だけは夜であろうと咲いたままであった。つまり、あれは朝顔などはない。ということは、朝顔に似たアヤカシに相違ないと─」 まさか本気で新種だと‥?なんで噛まれても気にしないのにそこが気になるかなあ。もしかしてこの人は夜この花をみなければずっと新種だと思い込んでいたのではあるまいか。 ●朝顔もどきを刈ろう 「燃やしてしまえば良いんじゃないですか?」 小屋やその他道具などは燃えてしまうかもしれないが、足が生えて動き回るわけではない。火を放ってあとは待っていれば勝手に燃え尽きそうなものだ。ところがそう簡単にはいかなかったらしい。 「某もそれを考えた。だが、あの花は水を噴いて自分で火を消したのだ」 何と器用な花だ。いや、アヤカシか。 「そしてどういうわけか、最近は火まで噴くようになった」 「‥‥」 駆除に失敗した朝顔もどきは成長を続け、最早小屋の大半を侵食する有様。服部もアヤカシと判断した以上、このまま放置しているわけにもいかず駆除を試みたが、成長が進みすぎて手に負えなかったというわけだ。 そして成長とともに突然変異というか進化というべき変化も進んでいるらしい。どういう方向に進んでいるのかさっぱりわからないが、このままでは歩きだしたり、雷を放つとかどんな事になるかもわからない。 「とりあえず、急いで駆除したほうがよさそうですね‥‥」 こうしてまた一つの依頼が張り出されることになったのだった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎
シルフィール(ib1886)
20歳・女・サ
浅葱 恋華(ib3116)
20歳・女・泰
綺咲・桜狐(ib3118)
16歳・女・陰
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●剛の者と朝顔 「朝顔の魅力ってなんでしょう?」 朝顔小屋までの道なりに、レティシア(ib4475)は依頼人の服部に朝顔の魅力をストレートに問う。 「それはだな─」 相手が子供とも思う事なく服部は延々とレティシアに朝顔の素晴らしさを語り続ける。 やれ毎年夏が待ち遠しいとか花の種類とか止まらない説明をレティシアは嫌な顔もせず大人しく聞いている。 しかし、永久に話が止まらないんじゃないかと誰かが思い始めた時には彼女らは目的地に着いていた。 「どうしてこんなになるまで‥‥」 柊沢 霞澄(ia0067)は思った。これを普通の朝顔と信じるには正直無理があるだろうと。 霞澄らが朝顔小屋に辿り着いた時、すでに小屋の面影はなかった。 朝顔が辺り一面を侵食しているという事はなかったが、小屋を中心にそこだけが極々局所的に密林の様になっていた。 「幾ら何でもこれは‥」 『育ちすぎ』の言葉では生温い。 その上この朝顔もどきどもは噛み付くという。 それだけで何かがおかしいと気付かないはずがないのだが、何故か服部は気付かなかったという。 アルクトゥルス(ib0016)は服部を見る。 確かに男らしいという面構えで、朝顔を育ててるというのも似合わない様な男臭さがある。 しかしそんな間抜けにも見えないが‥。 「正直に言っていいわよね?あんたアホでしょう」 シルフィール(ib1886)が遠慮なく服部に言うのを見て、アルクトゥルスは服部に対する思いが自分だけ異端でない事を確認する。 「いや、某の朝顔に対する真摯な思いと情熱が今回の早期発見に‥」 「どこが早期よ!育ちまくってんじゃない!」 「服部の旦那、あんたマジ大したタマだぜ!」 一方、ナキ=シャラーラ(ib7034)はそう服部を褒める。 ここまで朝顔もどきをを成長させた事はともかく、その肝の据わりっぷりは確かに褒めてもいい。 「ふぅん、朝顔型のアヤカシねぇ。面白そうじゃない♪」 朝顔もどきの癖に火を噴いたりする節操のなさもまた良いと浅葱 恋華(ib3116)は思っているのだが、綺咲・桜狐(ib3118)はその朝顔らしくなさは気に入らないらしい。 「朝顔なのに昼になっても咲き続けるなんて、朝顔らしくないです」 桜狐も特に夜でも咲き続ける辺りが一番不満の様で、この辺の感覚は服部と通じる何かがあるのかもしれない。 「まあアヤカシだし、サッサとやっちゃいましょ」 そう、朝顔に似ているとはいえ所詮はアヤカシ。葛切 カズラ(ia0725)は準備に取り掛かる。 さりとてこの鬱蒼とした緑は草刈りという言葉では物足りないが‥。 ●突入!朝顔小屋 「中はどうなってるんだろうな?」 ナキは小屋の中にある物を気にしている様だ。 外からでは中の様子は窺い知れないが、幸いまだ人が出入りするくらいの隙間はある。 「見に行ってみる?」 服部は小屋の事は気にしなくて良いと言ったが、自分の目で確認してみるのも悪くないとカズラは思った。 アヤカシと一体化してしまった様な小屋に行くなんて危険そのものかもしれない。 だが服部は無事だったわけだし少し様子を見るくらい、しかも二人でなら最悪の事態は避けられるだろう。 「危なくなったらすぐ帰るけど」 「おう!」 二人は仲間に一声かけて、小屋の中へ入っていった。 「‥‥‥」 その間、霞澄は瘴気の状態を探っていた。 もしかしたらすでに朝顔は小屋以外の場所にも根を伸ばしているかもしれない。 「何か分かる?」 自分では目視以上の事はわからないのでシルフィールは聞いてみる。 「‥あの小屋だけ、みたいです‥」 小屋の辺りに瘴気が入り組んで、絡まっている様な感じ。 霞澄が感じ取ったものはほぼ見た目通りの状態と言えそうだった。 「戻ってきませんね‥」 日傘代わりの鉄傘をくるり。というか鉄傘は日傘足り得るのだろうか。レティシアは小屋を見ているが、ナキらはいまだ出てこない。 「お、出て来た」 並んで見ていたアルクトゥルスがカズラとナキの姿を見つける。どうやら無事らしい。 「あ、捕まった」 するするっと蔓が伸びてナキの足に巻きついた。 「ぎゃっ」 という声が小さく聞こえたがナキは短剣で斬り付けて蔓を断つ。 「おー脱出した」 そして戻ってきたナキとカズラは平然と言い放つ。 「この朝顔もどき、大したことないぜ?」 「うん、ちょっと物足りないかも」 蔓は絡んでくるし、花は噛み付きはするがその個々の力は非力。刃物で斬れば簡単に斬れるし数本なら手で引きちぎる事だって容易との事。 「なら少し近くで見てもいいんじゃない♪」 恋華はこれが普通の朝顔なら綺麗だったのにと思っていた所だ。 安全という事ではないが、ちょっとくらい鑑賞する余裕もありそうだと小屋の方に寄って行く。 確かにこれがアヤカシでなく普通の花であれば爽やかさとかそういう趣はないが、これはこれで豪華というか賑やかでおもしろい花かもしれなかった。 「あ‥‥恋華‥‥待ってください‥」 釣られて桜狐も小屋の方に近づいていく。 桜狐だけでなく、それぞれの距離感はあるものの全員小屋に近づいていく。 その時は誰もこの後あんな事になるなんて思わなかったのだ‥‥。 ●淫靡な蔓 油断していた。 いくら弱いアヤカシだからといって気を抜きすぎていたかもしれない。 手はしっかりと蔓が巻きついており、自由がきかない。 思いの他蔓に力があったのか、足は地から離れて持ち上げられて、それどころか足首から撒きついてきた蔓が脚の付け根のあたりまで這う様にして撒きついている。 そのせいで、裾もまくれて人前に出すようなものでないものまで露出しかけている。 衣服のあらぬ所が隆起しているのは、蔓のせい。あらゆる所に蔓は潜り込み、手を伸ばしている。 すでに蔓に肉体を蹂躙される寸前なのか、それとも既に手遅れなのか。 ──これ以上は、いけない── 「ぬぅおおおお!!」 野太い雄叫びが大気を振るわせる。 そうだ、服部は今まさに蔓に捕らわれていた。 あらぬ所に蔓を伸ばされていたのは逞しい肉体を持つ服部だ。 「‥‥どうしてこんな事に‥‥」 「おい、大丈夫か!?」 多分大丈夫だろうが、何故そうなったかはわからない。 「何であんたなのよ!!」 「旦那、ありえねーよ!!」 何故他に八人も若い女、それも美女揃いだというのに被害者はおっさんなのか。 「節操なしって言葉じゃ足りないわね♪」 「変態、気持ち悪いです‥」 「いい縛り具合じゃないかしら〜」 「これは斬新、創作意欲が‥」 色々思うところはあるかもしれない。だが確実に蔓は服部の体を絡め取っている。 「ぬがぁあああ、アッー!!」 そしてついに悲しげな男の叫びが青空にこだました。 ●淫靡な蔦、続き 「ふんっ!」 斧で大木を断ち切る様にアルクトゥルスが蔓に刃をいれる。 蔓は難なく切れて放り出された服部を救い出す。 「あまり油断は出来ないようだ。遊んでないで仕事に‥っておい!」 後ろを振り返ったアルクトゥルスの目には信じがたい光景が広がっていた。 いつの間にこんな事になってしまったのだろう。服部状態になっている者多数だ。 「ん〜ふふ〜〜夏の代名詞って言うのも風流よね〜〜」 風流かどうかは置いといて、カズラはどう見ても愉しんでいる様にしか見えない。 いざとなれば斬撃符で蔓を斬って脱出するつもりなのだろう。 もしかしてワザと捕まったのか? 「ひぅっ‥‥ぁん、はぁっ!」 それどころか艶っぽい声が聞こえてくる。 敏感な未亡人、シルフィールにも蔓が絡んでいた。 若い彼女にも過去がある。 そして過去の記憶がそう昔のものではないと、体が正直に反応してしまう。 どれだけすごい『過去』があるんだというか、子供には見せちゃいけない桃色世界だ。 「‥‥」 『助けたほうがいいのかな?』と一瞬思ったが、過激な状況に霞澄は無言で目を逸らす。 それは『私は何も見ていませんよ』という意思表示に近い、大人の対応と言えた。 しかし子供達は違った。 「おい、助けた方がいいかー?」 「おや、どうしましたか。顔が真っ赤ですよ?」 そこには遠慮なんてなかった。 一応ナキは意図的に愉しんでいるのか、そうじゃないのかを聞いてから助けようと彼女なりに気を使っての発言だが、レティシアはそうではない。 この朝顔もどきと開拓者達が織り成す痴態を、一瞬たりとも見逃すまいと気合を入れて観察しているのだ。 もしかしたら『変態朝顔観察日記』とか書くつもりなのかもしれない。 その上『私には何もできません』とでも言いたげな表情で、さも恐ろしげに震えて見せたりする白々しい演技までついているから性質が悪い。 「あっ!」 「きゃ?!しま‥‥!?」 桜狐も恋華も、いつの間にやらとんでも状態。 特に恋華はもともと露出が激しい。 露出が激しいと言うことは、蔓の侵入経路が豊富。 つまり色んな所から蔓がうねうねでワクワクな展開だ。 「どこを触って‥‥く、このアヤカシも変態‥‥」 桜狐だって露出は少ないが、その分くねくねでドキドキが期待できるのだが、そうは恋華がおろさなかった。 「くぉらぁっ!その娘は私の!まだ唾付けてないのよ!」 ぶちぶちっと蔓を乱暴に切り裂くと、その勢いで桜狐に絡まっている蔓も斬り刻む。 「桜狐、大丈夫?」 「ん、恋華ありがとう。変態アヤカシは全力で倒しましょう。生かしてはおけません‥‥!」 残念ながらお楽しみの時間は終わってしまったようだ。まだ夏は始まったばかりだというのに。 ●害草駆除 「さあ、刈り取るのです!」 熱病に駆られたかのような高揚、吹き荒れる嵐が空気を掻き混ぜるようにレティシアの曲は仲間達の心に火をつける。心踊り、血が沸き立つ様な興奮が体を突き動かして止まない。 「サクッと斬るぜ!」 蔓をするっとかわして斬りつけて、また次の蔓が来る間に斬りつけて。 踊る様に舞う様に、レティシアの曲に乗る様に、ナキのナイフは蔓を切り刻む。 「変態アヤカシは、撲滅です‥‥」 乱れ飛ぶ斬撃符。 その式は何の躊躇いもなく花を散らせ、刈り取って行く。 このアヤカシは変態。 桜狐がそう思う以上、たとえ花が付いていようが切り裂かれる定めから逃れる術はない。 「んふぅっ♪あ〜良い気分♪」 念の為に言っておくが、恋華は蔓と戯れているわけでも酒に酔っているわけでもない。 開拓者にはお馴染みのアヤカシ退治も、変態が相手になる事の多い彼女にとってはある意味久しぶりという事らしい。 それにこの朝顔もどき、乾坤圏の切れ味を堪能するのに都合がいいといったらない。 蔓や花は乾坤圏が触れれば切れる程度の脆さ。 それでいて量があるから、アヤカシ退治を十分に堪能できるだろう。 「‥精霊さん、皆さんの怪我を癒して‥」 それに後ろには霞澄がいて、傷ついた仲間の回復を担っている。 朝顔もどきの軽い手傷程度ならたちまち閃癒で傷が塞がっていく。 錬力に限りはあるので敢えて霞澄の負担を増す必要はないが、多少の無理なら利くだろう。 「‥行きます‥‥」 つまりそれだけ余裕があれば、霞澄が攻撃に回ることだって可能だ。 精霊砲の利点である射程を生かし、高い位置にある花を焼く事だって問題ない。 「たーすーけーてー」 と後ろで演奏していたレティシアが逆さづりに吊り上げられるが、駆け寄ったシルフィールがまとめて蔓を叩き斬る。 「この助平アヤカシ!」 シルフィールの怒りは大地を割り、まるで幹かといわんばかりに絡みついた蔓の束をも断ち切る。 穂先で蔓を撥ね退けて、大きく振りかぶって大上段。 この際、多少の攻撃には目を瞑る。その倍、いや十倍で返してやればいい。 「朝顔のくせに五月蝿いのよ!!」 偃月刀が彼女の鬱憤もろとも朝顔もどきを吹き飛ばす。 「じゃ、やっちゃおうかしら〜」 カズラの前にいずるのは白い龍。ではなく何とも妙なモノ。 夏だと言うのに、身震いする様な冷気を身に纏うソレは朝顔もどきに息を吹きつける。 全てを氷の中に鎖してしまいそうな、冷気。 朝顔もどきが炎を噴こうがその炎すらも氷の中に閉ざされ消えうせる。 そして凍りついた花は萎み、葉は黄色くなって枯れ、結局最後は黒い靄みたいになって散って行く。 うねる蔓に、水柱、果ては火を吹く花なれど、振り払い、堪え、跳んで避ければ斧槍の唸る刃先が幾重に重なる蔓も花も何の障害にもなりはせぬとぶった切る。 半円を描いた軌跡は豪快であり、優雅でもある。 黒い斧槍が大きな弧を描けば、それに遅れて銀の髪が小振りに流れる。 「邪魔になってしまうのは刈り取ってしまうに限る」 刈り取った。アルクトゥルスの斧槍は根すら残すものかと地中深くまで抉り取る。 「さあそろそろ終わりにしようか!」 本気になった彼女らの前に朝顔もどきは唯の草刈りと大きくは違わなかったのかもしれない。 時が経つにつれ、あれだけあった蔓や葉もどんどん姿を消していくのだった。 ●朝顔を愛でよう 「‥何も、なさそうですね‥‥」 目に見える範囲で朝顔の残片らしきものはない。しかしあれだけ成長力の強いアヤカシだ。種か何か残っていたりでもすればまた息を吹き返すかもしれない。 そう考えた霞澄は辺り一帯の瘴気を用心深く探っていた。 「これだけやれば、十分だろ」 アルクトゥルスは良くそんな所まで探すなと思いながら霞澄の作業を労う。 割と細かい事は気にしない自分だが、それでもやる事はやりきったという自負もある。 小屋はできるだけ傷つけないよう気をつけただけあってちゃんと残ってるし、仕事の出来栄えとしてはそれなりに満足できる結果だ。 「サイテーのアヤカシだったわ」 「あの程度じゃ満足は出来ないんだけど、それ以上を望むのは酷よね」 朝顔もどきに対してシルフィールはその性質に、カズラはテクニックに不満と何だか大人な会話をしている。 はてシルフィールの元夫がどれだけ変態で、カズラはどこまでの技術をアヤカシに求めているのか。ただ謎は深まるばかりだ。 「恋華‥‥ところで唾つけるって?」 「あ、あはははっ♪幻聴よ。そんな事より稲荷寿司食べない?」 何か聞こうと思っていたはずの桜狐も恋華の差し出す稲荷寿司の魔力に負けてしまう。こうなれば全ての真相は闇の中だ。今はただ稲荷寿司に酔いしれていれば良いのだと恋華は思った。 「頂いてもいいんですか?」 「観察日記をつけるぜ!!」 レティシアとナキは服部から『普通の朝顔』の鉢を分けてもらっていた。 勿論他の者に分もけて余るくらい朝顔はあったが、『今日の事を思い出しそう』とか『荷物になる』、『枯らしそう』、『アヤカシ混じってない?』など各種都合により辞退されたため持ち帰るのは二人になっただけだ。 それはともかく夏はまだ始まったばかり、朝顔は彼女らに綺麗な花を見せてくれることだろう。 ‥‥寝坊したり、水を忘れたりしなければ。 |