襲来 酸魔通武
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/22 22:07



■オープニング本文

●匂い
 外に出ると金木犀の香りが鼻に付く。それは時として肌寒くすらある空気とともに、『ああ夏は終わってもう秋なんだな』と思わせる匂いだ。
 そして秋とは食欲の秋でもある。秋刀魚や松茸など食欲をそそる香りがたまらぬ季節である。しかしそんな季節だからこそ、人々は警戒を強めていた。
「そろそろ奴らがやってくる‥‥」

 奴らと呼ばれたそれは望まれざる客。毎年この時期になると北の方から現れるそれは少なくとも見た目だけは秋の味覚であった。そしてその中身はアヤカシであり、名を『酸魔通武(さんまつたけ)』と言う。
 体は巨大な秋刀魚である。だがそこはアヤカシ。単に巨大な秋刀魚というわけではない。どういうわけかその胴には松茸と似たような物が生えているのだ。
 加えて手足こそないが、浮くように低く飛ぶ。よって陸地であっても酸魔通武の存在は脅威であった。
 酸魔通武は毎年毎年北の方から現れて南進しつつ、進路上にあるものに襲い掛かるという性質を持つ。ちなみにこいつらが最終的に何処へを目指しているかは謎だ。何故ならいつも途中で退治されるためである。

 なお当初は見た目のまま『秋刀魚松茸』と称されていたこのアヤカシだが、漁業関係者ときのこ業界から『商品の印象が悪くなる』との抗議を受けて、それっぽい名前に変更された経緯がある。
 とはいえ、それは単なる当て字にとどまらず、それなりの特徴も示している。

 まず『酸』だが、どういうわけか酸を吐く。あと何だか酸っぱい匂いがするので『この字でいいかな』という事になったのだろう。
 次に『魔』だが人でも獣でもないアヤカシだから、『いいよこれで』と適当に振り分けられていると想像するのが妥当だろう。世の中そんなものである。
 そして『通』は、北から南へ通るから『ああいいんじゃないそれで』と安易に決まった感じがする。名前は特徴を示すものでもあるのだから安易でいいのだ。
 最後の『武』は『いいねー強そうだし』という具合だろう。『茸』とならなかったあたりはきのこ業界、特にきのこ汁関係者が強く横槍を入れたからという疑惑も残る。

●依頼
「というわけで、『酸魔通武退治』の依頼です」
 不月 彩(フヅキ アヤ)にとっては扱うのは初めてだがこの依頼は毎年恒例らしい。簡単な内容ではあるが手順書まである。酸魔通武の発生時期や発生、出現場所については毎年若干の違いはあるものの、だいたいこの時期にどこら辺を通るかは目星が付くものだ。
「この草原で酸魔通武を迎え撃ってもらいます」
 そして酸魔通武の進路にあり、見通しが良く発見しやすい戦闘に気兼ねのない場所であるこの草原も毎年恒例というわけで決まっている。あとは待ち受けて退治するだけの話しである。
 なお漁業関係筋によると、今年の秋刀魚漁は豊漁であるとのことだ。

●ススキ
 草原というよりもススキ畑。ススキの他には何もないのではないかというほどススキだらけ。乾いた空気とススキだけの退屈な場所で開拓者は酸魔通武を待っていた。正直半日以上待っている。既に日は暮れて月が昇り闇夜を照らしていた。
 もう今日は来ないだろうか、誰かがそう思い始めた頃、風が一吹きススキが揺れる。そしてその風に乗って微妙な匂いが鼻に付く。──奴らがやって来た。
 


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
からす(ia6525
13歳・女・弓
利穏(ia9760
14歳・男・陰
アルクトゥルス(ib0016
20歳・女・騎
浅葱 恋華(ib3116
20歳・女・泰
綺咲・桜狐(ib3118
16歳・女・陰
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
ナキ=シャラーラ(ib7034
10歳・女・吟


■リプレイ本文

●匂い
 昼頃この地に着いた時、ナキ=シャラーラ(ib7034)が一面のススキを見てこう言った。
「へぇー、これが天儀のススキノって奴か!」
 多分きっと違う。どこかにはそのような場所があるかもしれないが、これは別物であろう。
 それはともかく『酸魔通武(さんまつたけ)』を待って早数刻が経過していた。最初は珍しくもあったが、ひたすら変化の無いススキ畑だけをずっと見続けているのは退屈である。
 そしてまたナキは夏が過ぎても何故か水着姿であった。しかし彼女はただ無為に寒さに震える事はない。秘策、乾布摩擦があるからだ。
 誰が言い出したのか知らないが子供は風の子である。幼女も風の子であり、風の子たる以上きっとそれくらい何とかなるに違いない。

 木に吊り下げられた松明が揺れる。揺れる炎がススキ野原を照らす。風が吹くたび時に明るく、また暗く。
 夜空に雲は無く、丸い月がその存在を主張していた。
 蒸し暑くもなく、寒過ぎる事もない。虫の音も軽やかで月見にはもってこいと言える。だが、これは月見ではない。
「匂いが‥」
 漂う臭気。仮にこれが月見であればそれだけで興をそぐだろう匂いが柊沢 霞澄(ia0067)の鼻腔をつく。
 その匂いは生臭くもあり獣臭くもあり、腐った魚の様な匂いでもあって、それでいて茸っぽい匂いなども混じっていて一言で言うと『嫌な匂い』である。この匂いを『良い匂い』と言う者がいればそれは相当な変わり者と言えるだろう。
「…しっかし臭いわね」
 その間違った方向に芳醇な香りにリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は顔をしかめる。
「‥皆さん、結界を張るので一旦こちらへ‥‥」
「今行くわ」
 来るべき戦いに備え霞澄が全員に『加護結界』を処置していく。一人一人に触れながら、精霊に加護を得られる様に祈る。待ち受ける時間はあった。開拓者達の準備に抜かりは無い。
 こちらが風下だからだろう。匂いはするが、敵の姿はいまだ見えない。だがその匂いは次第に濃くなり、不快さが高まってくるのだった。

●見た目
 そして遂に酸魔通武は現れた。また匂いだけでなくその見た目も開拓者達を失望させるに十分な姿であった。
「何でしょう、この‥‥季節の食材詰め合わせみたいなアヤカシは‥‥」
 エプロンドレスに短刀という出で立ちの利穏(ia9760)が呟く。彼は幼き頃の記憶が無い。しかし、天儀の凄腕剣士が『ITAMAE』と呼ばれる事を知っている。よってその伝統的な姿としてこの格好である。記憶を失った事よりもその後彼がどういう人生を送ってきたのかという方が気になる知識である。
「混ぜるな危険、か」
 この期に及んで茶をすするからす(ia6525)。匂いが気にならないのか、我慢しているのかは良く分からない。
 酸魔通武の見た目を簡単に言うなら、『大きな魚に茸が生えてるアヤカシ』である。からすは『そんな魚に生えた茸を食べたいと思うかね?』と思いながら茶をもう一口。
 茶の匂いよりもアヤカシの匂いが際立つ。──不味い。

「秋の味覚が一杯なのに食べれないなんて、アヤカシ酷いです‥」
 綺咲・桜狐(ib3118)が嘆く。左様、アヤカシは食べれない。例えどんな魅力的な外見をしていても、倒せば瘴気に還るし、生きたまま食べれば腹を壊す程度では済まされない。
 秋刀魚も松茸の部分も立派で美味しそうに見えるが、原材料アヤカシ十割であるため一口たりとも食す事はできないのだ。そういった意味では絵に描いた餅より酷い。
「せめてケモノだったらねえ」
 浅葱 恋華(ib3116)が言う様にケモノなら味の保障は置いといて食べる事はできるのだが、アヤカシでは料理する事すら適わない。──しなくて良いが。
 なのに、この姿である。アヤカシがどういう意図を持って形を成すかはわからないが、擬態や嫌がらせといった部分も含まれているのかもしれない。
 だが酸魔通武はもの言わぬ寡黙なアヤカシだ。その真意は敵の口から語られる事もないだろう。

「大漁、いや大量だな」
 アルクトゥルス(ib0016)の眼前にはススキと酸魔通武の群れ。波の様にススキの穂が揺れて金色の海に泳ぐ奇怪な魚はゆっくりとこちらの方へ近づいてくる。
 開拓者達の存在に気付かないのか或いは待ち受けるものが何であろうと気にしないのか、特に変わった様子も無い。
 しかし、互いの距離は徐々に近くなる。戦いの時は確実に迫ろうとしていた。

●動き
「いくぜ!」
 ナキが人参にも似た苦無を投げつける。
 相手が秋刀魚状なので、大根の形であれば良かったのだがそうなると苦無の大きさではなくなるので仕方がない。かぼすの形だと苦無の形ではなくなるので仕方がない。
「僕にだって、ケンポー・サンマイオロシがある!」
 どこ由来の拳法かは不明だが、利穏の身も軽い。酸魔通武を三枚におろすというわけにはいかないが、短刀で身を鮮やかに切り裂いていく。

 だが、アヤカシも黙ってやられるだけの存在ではない。
「そんなもんに当たるか!」
 飛来する松茸的な何かを軽やかにかわすナキ。だが、彼女の悲劇はその軽装にあった。
「痛ってぇー!」
 松茸をかわしてひねった腰を梨の飛礫が襲う。そして酸魔通武は一匹だけではない。次々と放たれる梨もどきが開拓者達に迫り来る。
「いたっ」
 利隠の背中を襲う黄土色の飛礫。死にはしないが、鎧を着ていない彼には割と痛い。具体的には屈強で筋肉質な男が梨を割と本気で投げつけるくらい痛い。エプロンドレスはそんな荒々しいものを受け止めるには余りに脆弱だ。

 酸魔通武の攻撃は梨や松茸だけではない。地上にも奴らの狡猾な罠が仕掛けられていた。
「痛っ!何よこれ!」
「‥イガ栗?」
 ススキに隠された栗イガ機雷が恋華の足元を襲う。夜の闇にススキの穂とイガ栗を隠すには最適な状況、これは致命傷にこそならないが地味に痛い。
 そして酸魔通武の名前が示すままにこのアヤカシは酸を撒き散らす。ちなみに空飛ぶ秋刀魚が無表情で嘔吐をしている様にも見えるので視覚的にも非常に宜しくない。
「あっ!」
「恋華!?」
「桜狐!後ろ!」
「えっ!?」
 相手が一匹二匹ならば全く問題なくかわせるだろうこの攻撃も、多勢の酸魔通武が至る所でやらかしている現状ではその全てをかわしきるのは難しい。
 恋華の服に飛散する酸。それを見ていた桜狐もその隙をつかれ、酸の餌食になってしまう。
「‥服に‥」
「やられたか」
 後方に位置どった者も例外ではない。霞澄やからすの服にも酸は容赦なく飛び散ってくる。霞澄とからすは思わず顔をしかめる。痛みよりも嫌な気分になる攻撃だ。
 そんな女性開拓者七名に酸を吐く卑劣なアヤカシが多数暴れまわるこの戦場は、さらなる波乱を予想させた。

 しかし、かっちり鎧を着込んだアルクトゥルスはそんな酸などお構いなしだった。
「金属鎧をそうそう溶かせるはずもあるまい」
 酸を浴びる事にひるまず斧槍を全力で振り回し、ススキも酸魔通武もそこにあるもの全てを払い飛ばす。だが、皆が彼女の様に豪快ではない。
「ああもう服が台無しじゃない」
 リーゼロッテが愚痴を言う。酸はアヤカシの吐しゃ物というだけでも嫌なものだが、これまたなんか酸っぱい匂いがするし、服にシミが残るのは間違いないだろう。溶けてボロボロになるという事ではないので、洗えば何とかなるかもしれないが。




 ───そう、酸魔通武の酸は服を溶かしたりなんてしない‥‥。

 もちろん直接肌に浴びれば痛い。それでも傷口にレモンを塗る程は痛くない。この酸は肉体的よりも精神的なダメージを与える事を目的としたアヤカシの高度な戦略なのかもしれなかった。
 ちなみに『傷口に塩』というがレモンはそれを上回る。興味がある方は切り傷などした時に是非試してみるといいだろう。なおその際は自己責任でというのはお約束だ。
「良かった。服が溶けたりしなくて‥」
 そして服が解けない事を誰よりも安堵していたのは今回唯一の男性で女性が苦手な利隠であった。

●殲滅
「ん、確実に減らして行きましょう。たくさんいても無限じゃないですし‥」
「ひぃ〜くっ♪それじゃぁ、いくわよ〜!」
 後ろから桜狐に声をかけられた恋華が張り切って乾坤圏を振り回す。
 彼女の酔拳は実際に飲酒を伴う。酔っているのか、その演技なのかはたまた踊っているのか戦っているのか他人では真意まで読み取れない。それでも酸魔通武を一箇所に集めようとしていたりするあたり、完全に酔ってしまっているのではない事がわかる。
「‥アヤカシは、殲滅です‥」
 横に逸れた一匹も逃すまいと桜狐の霊魂砲が酸魔通武を貫く。敵の梨の飛礫などこれに比べれば玩具の様なもの。仮に撃ち合いともなっても、問題となるのは数の差だけだ。
「ほらほら、どんどん行くわよ♪」
「あ、恋華‥」
 とはいうものの、このまま何も無ければその数の差も間もなく問題なくなるだろう勢いが開拓者達にはある。その勢いをころさない事が何より肝要だ。

「これなら出鱈目でも何の問題もない」
 方向さえ間違わなければ当たる。酸魔通武は俊敏な動きで矢を避けるという事もない。
 雨の様に矢が降れば面白い様にその矢が突き刺さる。身が柔らかいのだ。当たり所が悪かったのかそのまま消えて去るものもいるから程度が知れる。
 むしろからすは矢を味方にあてないようにだけ気をつければ良い。
「次はちゃんと食べられるものに生まれ変わるがいい」
 足元に転がっていたイガ栗を蹴って退かしてもう一矢。からすが狙って矢を放つのと酸魔通武が一匹消えるのはほぼ同義でもあった。

「大分集まりました!」
「片っ端から殲滅するわよ!」
「退避するぜ!」
 大きな火球に巻き込まれた酸魔通武らの身が焼ける、爆ぜる。砕け散る。美味しそうな匂いを出すことも無く悲鳴や断末魔の叫びを上げることも無くただ瘴気に戻っていく。
 酸魔通武を集めて、まとまったところでリーゼロッテが焼くこのやり方は群れるアヤカシの始末には都合が良い。
 しかしここはススキが広がる野原であり、空気も乾燥していた。故に燃えカスからススキに火が付く。
「火事にするわけにはいかんな」
 くすぶり始めたススキを見て、アルクトゥルスは燃え広がらない様にとさっと火のついた部分を刈り取る。その際何匹か酸魔通武が吹っ飛んでいった様な気もするが細かい事なので気にしなくて良いだろう。
「ススキが燃える。さっきのはやめた方がいいな」
「そうみたいね。こっちに切り替えるわ」
 リーゼロッテの攻撃は一転、火炎から吹雪へ。とはいえ、焼き魚から冷凍魚へとなるだけで酸魔通武の運命は余り変わらない。
「じゃあ次ですね」
「どんどん行くぜ!」
 身軽な利隠とナキはどんどん動く。機動力のある二人が掻き回し、誘い込む。網が引き寄せられたように酸魔通武は一箇所に集約する。そして最後は一網打尽というわけだ。

『‥治療は必要、ない‥?』
 霞澄の目には戦っている仲間達の余裕が見える。無傷な者はいないが治療が必要かというとそうではない。であるならば加護結果か。
『でも、‥加護結界も‥‥』
 加護結界の効果は一回きり。何か攻撃を受ければそれで発動してしまう。もしもの時にだけ発動といった器用な使い方が出来ないため、この様な乱戦ではすぐに発動してしまう。
 そのたびに仲間を呼び止めて、触れてとなるとその分手間だ。そもそも何より酸魔通武の攻撃がつまらないものばかりなので加護結界が必要かというと、霞澄も心の中で首を傾げてしまう。
「あっ‥」
 そこへふらりと現れた現れた酸魔通武。ゆるりとこちらへ近づいてくるのを確認した霞澄の迷いは一瞬で晴れる。
 精霊砲は時間がかかる。されど距離はまだ十分、威力は十二分。結局酸魔通武は跡形も残らず霧消するのだった。

●後始末
「流石にもう終わりよね‥」
 いかにも疲れた風でリーゼロッテが言う。酸魔通武の大群を捌くのは戦いというよりも作業に近かった。単調作業と強力な攻撃による錬力消費。これが疲れないわけが無い。
「もういない様だね」
 弓を抱えたからすが救いの言葉で答える。弦にそれらしい反応が無いという事はあれだけいた酸魔通武も全て片付いて他にアヤカシもいないという事になる。作業もとい戦いは終わったのだ。
 ところで酸魔通武は消えて静かになったが、一方ススキは所どころ焦げていたり燻っていたりする。
「火を消さないと‥」
「燃えないように刈るぜ!」
 戦いは終わったが、このまま放置すれば火事になるだろうと霞澄が水をかけたり、ナキが燃え移らないようにススキを刈り込んでいる。
 幸い初期消火もあったので燃え盛っている箇所はなさそうだが、燃え広がるには十分な量のススキがある。
 アヤカシ退治直後で夜も更けてと遠慮したくなる条件は山盛りであったが無視するわけにはいかない。楽な作業ではなかったがその甲斐あって、大火事となる事なく戦場の片付けは終了するのだった。

●風呂あがり
 そしてもう夜も遅いが、酸やら色々あった状態でこのままいるのは耐えられなかった。
 それに食欲が失せる様な事もあったが何だかんだでお腹もすいた。よってそこに温泉があれば寄って、その後一杯となるのは当然の流れであった。
「やはり塩焼きだね」
「は‥はい、塩焼きですね‥」
 秋刀魚を塩焼きにするというからすの案に、霞澄は七輪の煙に少しむせるような素振りをしつつ答える。他に誰も異論を唱える者もいないが。

「桜狐、それ取って〜!」
 エプロンドレスに着替えた恋華が甲斐甲斐しく動き回っている。扱う素材が秋刀魚であるため多少違和感があるのは否めないが、戦闘衣装として扱った利隠よりは大分適当である様に見える。そもそも利隠は男だし。
『どうして男は一人だけ‥』
 その利隠も男が自分だけという状況に、喜ぶよりはどちらかというと居心地の悪さを感じる程純粋であった。しかし相変わらず彼もまたエプロンドレス姿であった。
「‥恋華、これですか‥?」
 桜狐は恋華のお手伝い。酸魔通武は秋の味覚満載であったが何一つ食べれる箇所は無い。よってあれと戦えば戦うほどお腹がすいてくるもの。線の細い桜狐も今日は一杯食べる事になりそうだ。

「ん♪やっぱり旬の味覚ってのはこうじゃないとね〜」
「秋刀魚を持ってきて正解だったな」
 リーゼロッテが秋刀魚に舌鼓。さすがにアルクトゥルスが『そんな秋刀魚で大丈夫か』とならぬ様に魚屋で小銭をケチらなかった事もあって、身のしまりも脂のりも悪くない。
 秋刀魚を用意したのはアルクトゥルスだけではないので、先の酸魔通武みたいに溢れる位はないが十分な量もある。
「これが天儀の秋の味覚って奴か!」
 育ち盛りのお子様もご満足頂ける質と量が戦いの疲れを癒す。開拓者達は秋の夜長を秋刀魚の味とともに過ごすのであった。