外道
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/12 20:35



■オープニング本文

●鬼犬党
 ひとくくりに悪党といってもその種類は多種多様である。
 地味なこそ泥のように小銭をちょろまかすことを日々の糧としている者もいれば、じっくりと策を練り、時間をかけて大金をせしめる輩もいる。
 金額の大小だけでなく、やり口にも個々人の違いというのはある。
 決して殺しはしないと誓いを立てる者もいるし、目的のためなら手段を問わないタイプも当然ながら存在する。
 そんな悪党達のなかでも、鬼犬党(おにいぬとう)と呼ばれる連中は、老若男女見境無く皆殺し、もちろん犯しもするし場合によっては押し入った先に火をつける事すら厭わない外道である。
 悪党といえどその道の筋や道理と言うものもあるわけで、非道の限りをつくす鬼犬等は悪党の中でも嫌われ者であった。
 そのため鬼犬党に集うのは、悪党の社会においても鼻つまみ者になるような、底辺のろくでなしどもばかりである。
 しかし鬼犬等は、『人を斬るのが好きでたまらない』などと堂々と言い放つ輩のように人を殺めることに躊躇のない連中が多く凶悪で、また手段を選ばないという性格からか目的遂行能力も極めて高い。
 加えて鬼犬党の頭目たる犬飼 重蔵(いぬかいじゅうぞう)は剣の腕もさることながら、頭も切れる。
 癖だらけのならず者を寄せ集め、自分の思い通りに差配するのであるからして、犬飼の力量が並大抵のものでないことは想像に難くない。そんな厄介な連中であった。

●外道
 その鬼犬党が最近おかしい。犬飼が殺すに飽き足らず、殺した相手を食べ始めたというのである。
 いかなる悪党とて、人の肉を食べるということは余程倒錯的嗜好を持つものでなければ流石に無い。
 これは気が触れたか、あるいはアヤカシにでも取り付かれたかと見るのが正しい。
 現に犬飼は元々寡黙な性質であったが、最近はそれに輪をかけて黙りがちで『うむ』とか『ああ』とか応答をするばかりで、淀んだ目はどこを見ているのか視線が定まらない。
 それでいて犬飼の雰囲気はますます険しく、一緒の部屋にいるとまるで虎や狼の檻の中に放り込まれたのではないかと感じるほどである。
 そしていざ仕事にかかれば、嬉々として人をぶった斬る。
 斬られて苦しむ姿を楽しむかの様に切り刻む。
 以前は無機質に斬り捨てていただけあって、その変貌ぶりは仲間内の間では誰の目から見ても明らかであった。
 加えてその問題の人肉食いである。この間は押し入った先でまだ4つ5つと思しき幼子の腕を切り落とし、それを酒の肴かと思っているかのような風で噛り付く始末。
 いくら心臓に毛の生えたような連中ばかりとはいえ、この人肉食いの風景を見た者は流石に肝を冷やし、一人、また一人と鬼犬党から去っていくのであった。
 そして決定的だったのは部下の一人が試みた瘴索結界であった。
 瘴索結界は巫女に犬飼がアヤカシであるという確信を持たせるに十分な反応を示した。
 おかげで決心がつかず残っていた部下達も犬飼に食われる前に逃げ出すことができたのである。
 ‥‥もっとも仲間の命を救った巫女は、犬飼がアヤカシであると告げる前に首と胴が離れる結果となったが。
 
●始末
 上記の情報は鬼犬党を抜けて、単独で悪事を成そうとして捕らえられた者から得た情報である。
 そして関係者の協議の結果、犬飼はすでにアヤカシ化しているものと想定。
 アヤカシであるならば、と開拓者ギルドへ内々の依頼が出されることとなった。
 犬飼は未だ鬼犬党の隠れ家たる町外れの廃屋から離れてはいないようである。
 が、犬飼がアヤカシとなっているのであれば遅からず人を襲うことは明白である。
 犬飼が街中を徘徊する前に早急に始末をつける必要があった。
 また、若干であるが部下も残っている模様。もっとも彼らが依然人間であるのか、それとも人間の形をした別のものであるかは定かではない。


■参加者一覧
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
辟田 脩次朗(ia2472
15歳・男・志
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
千代田清顕(ia9802
28歳・男・シ
晴雨萌楽(ib1999
18歳・女・ジ
アルトローゼ(ib2901
15歳・女・シ


■リプレイ本文

●外道狩りの朝
 朝顔の花が庭先を賑わす夏の朝。日も昇りきらぬ朝のうちは清清しくすごしやすい。青葉に光る朝露は一段と涼しげである。その夏の朝の如き爽やかな八人は、まるで対極とも言える悪党に処断を下すのである。

「おんなじ志体持ちに生まれたってぇのに、どうしてこうも道を踏み外しちゃうんだろうねェ‥‥‥」
 若く純真なモユラ(ib1999)には、迷うことなく正しい道を歩む事は難しいことではないのであろう。
 何故そう簡単に人を殺める事ができるのであろうかと犬飼らの行いがまるで解せぬ。
 人を斬ったことも、人同士で命のやり取りをしたことすら経験のないモユラにとって、今回の依頼はあまり気乗りがするものではない。
 『手下達もアヤカシになってればまだやりやすい』という思いが一瞬心をよぎる。
 しかし、『アヤカシになる』それは彼らの死を望むことと等しい。いかに相手が外道とはいえ、人の死を望むなんて。
 自分が邪な思いに囚われそうになったこと気づいたモユラは大きく首を横に振ると呟く。
「サイテーだな、あたい」
 自分達は鬼犬党のような外道とは違う。
 もし彼らが人間のまま生き永らえているのであれば生きたまま捕縛することも考えてやらねばならぬ。
 正しい道を歩き続ける者の心は強く、優しいのである。

「迅速に禍を断つとしようか」
 経験がこの余裕を生むのだろうか、アルティア・L・ナイン(ia1273)はいつも通りのアヤカシ退治という風で焦りや緊張の色が全く見られない。人によっては彼がこれからアヤカシ退治に行くなんて思いもしないであろう。
 だが、決して慢心という事ではない。相手は腐っても志体持ち。そのうえアヤカシ化となれば心してかからねばならぬと口にこそ出さないものの黒い瞳は静かに燃えているのである。

「さっさと終わらせてしまいたいものだ」
 紬 柳斎(ia1231)は外道がアヤカシになるなんて本当に嫌な話だと思う。こんな胸糞悪い仕事はとっとと終わらせるに限る。彼女の剣は犬飼らに終焉を与えるに十分な力を発揮することだろう。

「彼らに同情や憐憫の類を抱く理由もまたありませんしね」
 と、辟田 脩次朗(ia2472)は言うが、『開拓者崩れ』や『志体持ちの犯罪者』という言葉は、開拓者にとって『自分の存在は一体何なのか』と心に問いかけをよくよく生じさせるものである。
 それは、『人事ではない』からである。依頼を成し遂げるというのはもちろんの事、しかしその一方で『人相手の剣の技を磨きたい』と考える脩次朗にも思うところがあるのであろう。
 脩次朗は事前に用意した図面をさっと広げる。事前に犬飼らの潜むであろう廃寺について調査を行っていたもので、それは簡単な図面でこそあったが間取りを知るには十分な内容であった。

●廃寺の昼
 悪党、ましてアヤカシが雑草の手入れをするはずも無く、自由に伸びた草草は野生の力強さを主張する。
 主張溢れる草に負けず劣らず、木々も縦横無尽に枝葉を伸ばし、廃寺に大きな影を伸ばしている。
 それだけならともかくも、寺の壁は各所に焼け焦げたような痕跡がある上に、裏手の墓地から持ち出してきたのであろうか叩き折られた卒塔婆に崩れた石灯籠が辺りに散乱しており、まさにここが『廃』寺なのだという印象を与える。
 さらには『人を拒む様な禍々しさ』と言うべきであろうか。瘴気すら感じさせるこのあたりの雰囲気と来たら、かつてここが寺だったとはとても思えない有様である。

「では、始めましょうか」
 宿奈 芳純(ia9695)はそう言うと、符を一枚懐から取り出すとなにやら始め出す。やがて一枚の符は鼠へと姿を変えて建物へと素早く走り出す。
 可能であれば、一匹ならずもっと多くの『人魂』を飛ばしたいのであるが、そうもいかない事情がある。
 『人魂』は小動物化した式に術者の視聴覚を同期させるもので、駆け出しの陰陽師でも使用することの出来る技能である。だが、その『視聴覚の共有』という特殊な性質上、同時に複数の人魂を処理するという行為は芳純のように熟練した陰陽師であろうとも行うことが出来ないのである。
「1、2、3、‥‥4人ですね」
 床や軒下を走る鼠など、珍しくも無いのか犬飼と思しき者達は鼠に気を止める様子もない。人数は事前に聞いていた数と同じ。今なら討ち漏らすこともなさそうである。

「なんだ、奴らは仲が悪いのかね」
 芳純の見た限り寺の中の人影は4人。ただ、それぞれが陣取っているようで一箇所にまとまっているわけではない。どうやら、最初の一手で一網打尽と言うわけにはいかなそうだと、千代田清顕(ia9802)は考える。
 寺に裏口などはなく、人が出入りできるのは正面の入り口のみ。真昼間に真正面からの奇襲である。
 日が高くなり照りつけるような日差しの中、流れる汗を気にかけることなく清顕はさらに足を進める。
 最初の一手。それは『焙烙球』である。屋内に踏み込むよりも屋外の方が、数の多い開拓者達に有利であろうという考えから、犬飼らを外に炙り出す作戦である。
 ━━━━問題は、どのタイミングで火をつけるか。
 近すぎては火打石で音を立てて気づかれる恐れがあるし、遠すぎては走って投げ込まねばならないだろう。
 無論、普通に走れば気づかれてしまう恐れがある。だが、シノビは『普通』ではないのである。
 一足進んでは呼吸を整えるように、慎重に進む清顕。
 しかし足音を潜めているにもかかわらずその足取りは常人の歩みよりもはるかに早い。
 あっという間に建物に近づくと、清顕は小さな階段を駆け上がって戸を蹴破り、そして程よく短くなった導火線を持つ焙烙球を投げ込む。
「引導を渡しに来たよ。狂犬ども」

 背を向けて駆け出した清顕の背後で小さな爆発が起きる。煙と火薬の匂いがアルトローゼ(ib2901)の元にも届く。だが、爆発の中で悲鳴や叫び声も無かったし、音が静まった今でも特に人の声は聞こえない。
「まさか、これで終わりじゃないだろうなぁ」
 であるならば余りにも呆気ないとアルトローゼは思う。無論、そのようなことはあるまいと『期待』しているのだが。
「とんだ大物ですね。もうすぐ出てきますよ」
 人魂を介して、犬飼らがゆっくりと歩み出てくるのが分かる。
 もし人間のままであるとすれば、焙烙球を投げ込まれても慌てて這い出てくることのない犬飼達はとんだ神経の持ち主だと芳純は思う。
「そうじゃなくちゃなあ!」
 アルトローゼは明らかに楽しそうな表情を浮かべて怪しげな短刀を構える。
「来ましたね‥‥」
 微妙にくすぶる寺の中から、4人の男達が姿を見せる。
 彼らは一様に生気のない顔つきではあるものの、目の奥に微かな狂気が斑鳩(ia1002)には見て取れる。
 斑鳩は白塗りの大きな杖を両手で握る。杖の先端についた宝珠が日の光を浴びて煌く。
「私が後ろから援護を続けている限り、誰一人として倒させはしないのです」
 斑鳩は唯一無二の巫女で守りの要。仲間達の身は私が守るのだと戦いを前に気を引き締めるのであった。

●戦場の昼下がり
 始まりは唐突であった。
 犬飼らがそろって姿を現した所にアルティアが横から突然現れて、犬飼を吹き飛ばしたのである。
 素人目では瞬間移動とも取られかねない速さで、気が付いたときには犬飼がいた場所には拳を構えたアルティアがおり、その視線の先に犬飼が移動していたという具合である。
 アルティアが犬飼を追ってその場を離れると、誰が合図をするわけでもないにもかかわらず、瞬く間も無く境内は戦場に変わるのであった。

「おっと、危ないですね」
 大柄な見た目とは裏腹に、以外と身のこなしが軽い芳純は魔術師より飛ばされた火球をかわし、少し距離をとると反撃の式を構成する。
 音も無く芳純の前に現れた黒い『魂喰』が、その大きな顎を開けて魔術師へ迫る。
「━━━!」
 避けきれぬと判断したか、魔術師は目前に迫った魂喰に対し腕で顔をかばうように構える。
 構えられた腕を差し出された餌かのように喰らいつく魂喰。
 しかし、魔術師は左腕に大きな痛手を負いながらも、その攻撃の手を止めることはない。
 なおもすさまじい勢いで放たれる火球。にわかに辺りは焦げ臭い空気に変わってゆく。
「替天行道‥‥陰陽師モユラ、成敗つかまつるっ!」
 痛みよりも、困惑といった表情を見せる彼は既に人ではないのであろう。
 一縷の希望も断たれた今、情けをかける必要もその余裕もないと、モユラは斬撃符を放つ。
 しかし、その式は顔を掠めるだけで有効な一撃とはならぬ。
「アヤカシだとわかっていても、人の形をしているとやりにくいもんだねぇ‥‥‥」
 モユラは表情を曇らせつつ、新しい符を取り出すのであった。

「くくく、うふふ、あはは。楽しいなぁ、実に楽しい。これだから闘争はやめられない」
 本当に楽しいのだろう、アルトローゼは木の葉をその身にまといながら、相手シノビに短刀を突きつける。
 まるでシノビを相手に踊っているかのようであるが、実際のところはやや、苦しい。
 清顕から見てもアルトローゼが押され気味であるのが見て取れる。
 手助けをしたいところではあるが、ああも密着していては手が出せない。
「アルトローゼさん、少し下がってください」
「せっかくの楽しみを、と言いたいところだがっ」
 シノビの苦無が首元スレスレを飛んでいく。確かにこのままではどうも分が悪い。
 アルトローゼは手裏剣を放ちつつ、やや後に下がる。
 入れ替わるように清顕がシノビに刃を突き立てる。清顕は左手で突き刺すような動きをしたかと思えば、右の刀がシノビの急所を狙うように虚実入り混じった攻撃でシノビを翻弄する。表情こそ変わらないがシノビは困惑しているのであろう。次第に隙が出始める。
 「ふふふ、後ががら空きだよ」
 笑みを浮かべながらアルトローゼは手裏剣を打つ。清顕の両手ばかりに気をとられていては、背後からの手裏剣を避けることが出来るはずも無く、手裏剣はシノビの背中に深々と突き刺さる。
「あんたに残されてるのは地獄行きの道だけだ。良い旅路を」
 大きくバランスを崩したシノビを清顕の刃が貫く。そしてそのまま清顕に倒れこむ形でぐたりとするかと見えたシノビは、最後の力か執念か、苦無を持った右手を清顕に振り下ろす。
 この状態では到底避けきれぬ。と、思われたがその凶刃は清顕に届くことなく、手裏剣に叩き落される。
「未練残さずさっさと朽ちろ」
 アルトローゼがそう言い終わるか終わらないうちに、今度こそシノビは力なく崩れ落ちるのであった。

「志体持ち相手の真剣勝負など中々経験できませんからね‥‥」
 戦場以外にこれほど人相手の剣の技を磨くのに都合のいいことはあるまいと、脩次朗は相手の太刀を短刀で凌ぎつつ考える。ましてや相手はアヤカシであるからこちらに遠慮することなく襲い掛かってくる。
 殺意の塊でしかない上段からの振り下ろしを横に飛んで避ける。
 なるほど、こんなものを一太刀でもまともに喰らえばただでは済むまい。
 これはやはりかわし続けるというのはよろしくないかもしれませんね、と脩次朗は刀を構えて切り払う。
「もう少し付き合ってもらいますよ‥‥」
 足止めとはいえ、手を抜くわけではない。それに、相手がアヤカシなら殺したところで誰も文句を言う者は無い。

 その太刀筋はまさに、『無双』であった。
 芳純の魂喰とモユラの呪縛符で動きの鈍った魔術師に柳斎の剣が容赦なく叩き込まれていく。
 初手は碧の龍が荒々しく立ち上るが如く、二手目は蒼く輝く龍が牙を喉元に突き立てるが如く。そして、三手目は天に舞った碧の龍がその身を翻してなおも激しく咆哮するが如き唸りを上げる。
 ただでさえ痛手を負った魔術師では柳斎の剣を耐えられるはずも無い。魔術師は血飛沫を上げて膝を落とす。
「次はどっちだ‥‥‥?」
 あれだけ大きな技でありながら、息一つ乱れぬのは日ごろの修練の賜物か。
 柳斎は未だ戦いを続けているアルティアと脩次朗を見て一瞬考えた後、まずは手下からと脩次朗の元へと走り出していった。

 仲間全員の身を守るため全員から近い場所を心がけていた斑鳩であったが、実際のところアルティアのサポートに懸りっきりに成らざるを得なかった。それ位、他の敵と比べて犬飼の力はずば抜けていたのである。
「堪えてください!」
 斑鳩は『神風恩寵』による優しい風をアルティアに送り続ける。
 もし巫女がいなければ、あるいはもし犬飼の足止め役がアルティアのような手錬でなくばおそらくこの作戦は成り立つまい。
 単純に速さから言えば犬飼よりもアルティアの方が、早い。
 故に死角を取ることもできるのだが、犬飼は人間では有り得ない反応速度でその応対をするのだから始末が悪い。
 しかし、それでもアルティアは絶望などを感じることは無く、むしろ高揚を感じていた。
「死ぬかもしれない強敵との戦いにこんなにも心躍らせている、とはね」

 そして間もなく脩次朗が足止めしていたサムライも柳斎らが加勢に向かうことで倒すことが出来、残すは犬飼のみとなった。
「残っているのは彼だけです!!」
 斑鳩は今、ようやく『攻め』の舞を舞う。ここに来てついに攻勢に出れるということである。
 いくら犬飼が強いとはいえ、八人もの攻撃を集中されては思うようにはいかない。
 犬飼が振るった刀にタイミングを合わせるように脩次朗が切り払う。
 そこに覆いかぶさるように迫る、芳純の魂喰。それだけかと思えば犬飼の背後に放たれる清顕の苦無。
 これでもかとアルトローゼの手裏剣が足元を襲い、モユラの斬撃符も負けじと犬飼の足を切り裂く。
 極めつけは柳斎の二刀が鮮やかに犬飼の体を縦横無尽に斬りつけてからの、アルティアの最後の一撃。
「オオオオオオォォォオォッッ!!」
 一陣の真っ直ぐな風が犬飼の横を通り抜けた後、犬飼は二度と動くことは無かった。

●弔いの夕べ
 この地を少しでも清めたいと瘴気回収を行なう者もいれば、水を飲み喉を潤す者、先の戦いを振り返る者もいる。そして、生前は外道で末期はアヤカシと云えども彼らを弔おうという者たちもいる。
「死後はせめて安らかに‥‥」
 先刻までも踊り続けて疲れているだろうに、なお斑鳩は舞う。
 彼らが道を踏み外す前に彼女と出会うことが出来ていたならば違う生き方もあったのかもしれない。
「そうだな、せめて安らかに成仏出来るように祈ろう」
 柳斎もまた手を合わせる。瘴気の抜けた亡骸は驚くほど軽くなっていたものであった。
 外道の末路とは哀れなものであるが、今となってはただ成仏を祈るだけである。
 モユラも仏のない仏壇に手を合わせる。
 死んだ鬼犬党も、彼らの手にかかって殺されてしまった人達の分も合わせて祈る。
 そして自分も力に溺れ、進むべき道を外す事なきよう強く誓うのであった。