斬れる者
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/05 21:30



■オープニング本文

●依頼
「子供を斬れる開拓者を遣して欲しい」
 初老の男は渋い表情でいきなりそう切り出した。開拓者ギルドは基本的に何でも屋の様な所があるが、犯罪組織ではない。場合によっては人を殺める事もあるが、その内容が非合法であれば依頼を請け負ったりはしない。子供だろうが大人だろうが、いくら金を積まれようとも駄目なものは駄目だ。
「‥ああ、違う。斬って欲しいのは『子供の形をしたアヤカシ』だ」
 言ってから言葉が足りない事に気がついたのだろう、指摘を受ける前に男は訂正する。
「そういう事でしたら‥」
 それならば問題はない。そういうアヤカシを嫌う開拓者もいるだろうが、見かけは子供であっても中身がアヤカシであれば、討つのを躊躇する開拓者の方が少ないだろう。受付係は筆を取ると男の依頼内容を確認し始めた。

●事件
 それはある日の朝の事だった。これもまたある村の子供達は仲良くそこらを駆け回る。年は六つから十に満たない程度の腕白盛りがあわせて五人。
「余り遠くに行くんじゃないよ」
 そう言われたところで、子供達は必ずしもそれに従うわけではない。ちょっとずつその行動範囲を広げていって、自分の世界を広げるものだ。
「アヤカシが出るかもしれない」
 でも、出ないかもしれない。アヤカシの話は聞いているがちゃんと見た事はない。
 大人に良く『アヤカシには気をつけろ』なんて言われるが、生まれて此の方アヤカシに出会ったことも無いのだ。その注意は大人が言う程には心に刺さらない。だがしかし、アヤカシに出遭ったことが無いのは当然だ。何故ならアヤカシとまともに出遭って生き残る方が難しいのだから。
 そして、子供達が普段は足を踏み入れなかった場所を減らす様に世界を広げ続けるのなら、『出るかもしれない』はいつか『出た』に変わる。そしてその『いつか』は今日この時であり、子供達は初めてアヤカシを見ることになるのだった。

 そして結局いつもならとっくに戻ってくる時間になっても一人とも子供達は帰ってこなかった。無論、戻らないのであれば、村を上げての捜索となる。
 ある者は北へ、ある者は南へと捜査の範囲を広げ、すっかり暮れて夜になって漸くある一団が村よりやや離れた湿地帯で子供達の姿を発見する。
『ああ、無事だった──』
 とりあえず子供達はもそもそと動いている事から最悪の事態は避けられたらしい。しかしそうは思うものの、何だか微妙に違和感がある。
『大人しいからか?』
 子供達はいつだって元気一杯だ。しかしまあ、迷子になって不安と恐怖で疲れてしまったのだろうと思えばいつもの様に元気がなくてもおかしくはない。
『でもそれだけではない‥‥』
 まだ何かが引っ掛かる。何だか、いつもの五人とは全然違う。──そうだ、ここには今、子供達は四人しか居ない。
「颯太郎はどうした?」
 子供達の顔が分かる距離まで近づいて、足りないのは颯太郎だと分かった。だとすれば颯太郎は何処へ行ったのか。
 呼びかけに子供達は一斉に振り返るとこう応えた。
「食べちゃった」
「余ったからね」
「少しだけなら、残ってるかな?」
「ほら、あそこ」
 と指差された方を見れば、朝には颯太郎であったろうものが断片となって点在していた。
「おなか、空いたね」
「まだ足りないからね」
「大人なら、食べでがあるかな?」
「うん、そうだね」
 呆然として立ちすくんでいた男に『子供達だったモノ』が覆いかぶさるように襲い掛かるのだった。

●補足
 依頼内容は大方まとまった。アヤカシはその場を暫く離れる気もないようだが、いつ気が変わって村を襲ったり他へ流れるかも分からない。急いで開拓者達を派遣しなければと準備を急ぐ受付係に男は言った。
「それと完了時の報告だが──」
 子供達がアヤカシの犠牲になったと言うだけでも悲劇だが、アヤカシが食べた子供達の形をして、他の子供を食べたというのはあまりに陰惨な話だ。その内容が故に、村の人間には一部を除いてただ子供達はアヤカシの被害にあったという事しか伝えていない。村には子供達の親兄弟も居る。
 そういう理由からなるべく村の人間の目に付かぬようにして欲しいとの事であった。


■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043
23歳・男・陰
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
尾鷲 アスマ(ia0892
25歳・男・サ
和奏(ia8807
17歳・男・志
レグ・フォルワード(ia9526
29歳・男・砲
ダンデ=ライオン(ib8636
22歳・男・魔
ゼス=R=御凪(ib8732
23歳・女・砲
珠枝(ib9368
16歳・男・弓


■リプレイ本文

●理由
「ただのアヤカシ退治のお仕事ですよね‥?」
 そう考える和奏(ia8807)は間違っていない。この依頼、一言で言えばアヤカシ退治でしかない。
 いくつか補足するなら被害者は子供で、アヤカシは食べたその子らの命どころか姿まで奪い取っている。つまりそのアヤカシを討つという事であれば、見た目だけはとはいえ子供に刃を向けなければ成らない。
 とはいえ、この様な事情について開拓者達が思う所はそれぞれ。先の疑問を口にした和奏にしてみれば『だから何?』という事になる。それも斜に構えてるとかそういう事ではなく、本当にそういった事に拘る意味が分からない。依頼内容である『アヤカシを討つ』以外は他に考えていないからだ。
「ええ、そうですよ」
 和奏の疑問に答えたのは檄征 令琳(ia0043)。彼もまたこの依頼に対して傷心的にはなっている様に見えない。そんな彼の目的は金と力を磨くため。義憤に駆られてという事ではない。
 しかし令琳にとっての『力』とは『正義』でもある。そう考えれば彼なりの正義に基づいた行動であるとは言える。
 そして令琳だけでなく開拓者達は『正義』のための『力』を持つ。
 『斬る力』を持ち、『斬るべき存在』であるならそれを『斬らないわけがない』と尾鷲 アスマ(ia0892)は考える。
 『斬られるべき存在』があってのアスマでもあり、それを斬らないアスマはアスマではない。故に『斬れるか』と問われれば、彼はこう答えるのだ。
「その役、担わせて戴こう」
 眉をしかめるどころか眉一つ動かさず、さも当然と。

 だが、彼らの様に割り切るなりで冷静でいられる者ばかりではない。
『選ぶ依頼間違えたかもな‥‥』
 レグ・フォルワード(ia9526)は心の中で呟く。
 どうもこれは気分良く終わる雰囲気ではない。子供の死は確定しているわけだから、アヤカシを退治したとしても村に漂う悲しみは消えないだろう。
 レグは見た目から受ける印象よりは繊細だ。単に生活のためならば他の依頼でもよかったわけだが、ここまで来ては後の祭りとしかいえない。
「食べられた子達は怖かっただろうな‥‥」
 純粋に被害者達の恐怖を思う珠枝(ib9368)はこの依頼が初めての正式な依頼だ。アヤカシの事よりも、子供たちの事で心を痛めている。まだ、その成れの果てと相対する事まではいまいちイメージが追いつかない。
「まったく胸糞悪ぃ話だな‥‥」
 一方、ダンデ=ライオン(ib8636)はアヤカシのやり方に憤っていた。アヤカシが人を食べる事なんて百も承知だが、それを『しょうがない』とは思わない。許そうとも思わない。
「同感だ。胸糞が悪いとしか言いようが無い」
 喰らった子供の姿まで利用するその外道具合。その子らの家族の事を思うとゼス=M=ヘロージオ(ib8732)は何ともやりきれない感情に襲われる。
 相川・勝一(ia0675)も無闇に事の真相を知らせるべきでないと考えた。また安全面からも村人が出歩かない方が良いと、依頼人達に伝える。出歩かれてはアヤカシと村人を間違えるという危険性もなくはない。
「アヤカシがいる以上は危険ですし、対処が終わるまでは村から出ないようお願いしますね」
 そして彼らはそれぞれの思いを胸に、村を離れるのだった。

●遭遇
「とにかく村から多少離れた方がいい」
 村人が巻き込まれるのも、村人に見られるのも避けたい。ダンデとしてはアヤカシと村の近辺でやりあうのは避けたいところだ。
「とりあえず、アヤカシ共がどこにいるかだが──囮でも立てるか」
 本能的にアヤカシは腹をすかせている。頭の回るアヤカシでなければ、基本的に人を見れば襲い掛かってくるはず。ということで一先ず二手に分かれてみる事となった。
「大丈夫だとは思いますが、気をつけてください」
 勝一はそう言って囮となったダンデらを見送り、振り返る。どうやら村から着いて来たような者は見当たらない。これから自分達は村の人間には見せたくない戦いをするのだ。例え子供が心配と請われても同行させるつもりはない。
「お願いしておいて、正解でしたね‥‥」

「さてどんなもんでしょうね」
 子供の姿をしているとは聞くものの、見てみない事にはどうにもならない部分がある。令琳としてはどんな哀愁を誘う姿であれ問題ないつもりだが、ダンデ達がどんなアヤカシを見つけてくるのやら。
「記憶は‥人間だった頃の記憶は残っているのだろうか‥‥」
 アヤカシの中には、食った人間に成りすますため色々な手段をとるものがいる。今回のアヤカシはどうかはわからないが、もし子供の記憶を使ってくるならやり難いかもとゼスは気を揉んでいる。
「どうだろう‥わからないな‥」
 珠枝がそう答える。とはいえゼスも珠枝もその子らとの面識は無い。アヤカシが記憶を使って心を揺さぶろうにも共通の記憶は無い。
「覚えているにしても無いにしても、これ以上、子供達に記憶が増える事はないのだな‥‥」
 ゼスが子供達の事を心に残すとしても、子供達はゼスを記憶する事はないのだ。死とはそういうものだ。

 一方その頃、囮役の者達は湿地帯に近づいていた。
「‥どこにいるのでしょうか‥」
 和奏もアヤカシは近づけば寄って来るものと考えている。そして現れたら仲間といっしょに倒せばいい。それだけだ。
「とりあえずアヤカシを見つけた場所の方に行けば良いんじゃねえか?」
 レグはアヤカシが今頃何をしているかは知らないが、他にあてがあるわけではない。
「それに、村に近づけたくはねえしな」
「そうだな」
 レグとアスマはそんな事を話しながら、先を行く。湿地帯はもうすぐそこだ。そして遮蔽物のない場所だから、動く物があれば和奏達の目に直ぐ留まる。
「あれ、でしょうか‥‥?」
「確かにガキ共だな‥‥クソッ」
「さて釣り上げるか、来い、アヤカシ共」
 ダンデが運命を罵った後、アスマは咆えた。子供達の姿をした者達は嬉しそうに、踊るように舞い出でた。

●戦闘
「生憎、私は感慨に耽りもしなければ加減を知る強者でもないぞ」
 アスマは刀を抜く。言葉に偽りは無い。
 眼前にいる者は見た目こそ子供だが、アヤカシだ。迷う気持ちなぞ微塵も無し。これらを斬るためにアスマは赴いたのであり、その心が揺れ動く要素すら感じない。
「参ります」
 同じく和奏も鞘から美しい波紋を輝かせる。敵の姿を前にして彼もまた表情に変化は見られない。躊躇いも無い。
 今回の仕事はアヤカシ討伐だ。だから、そこの敵を斬り伏せる。一点付け加えるならば、出来るだけ無駄が無い様に。
「何勝手に動いてやがる‥‥余計な手間を取らすんじゃねぇ」
 ダンデもまた見た目に惑わされる事はない。彼は自分の事を『善人ではない』と言う。しかし、子供を痛めつけて喜ぶ様な人間でもなければ悪人でもない。むしろその内に潜むアヤカシへの怒りをたぎらせている。
 一方、レグは戸惑う。
「頭では分かっちゃいるんだが‥‥」
 大きな目で見れば人間だが、関節の動きや雰囲気を見ればアヤカシとしか思えない。だがしかし、それでも笑みを浮かべている顔を見たレグは無意識に照準を胴に合わせていた。
「後悔先立たずとは良く言ったもんだが、やる事はやらせてもらうぜ」
 そして覚悟を決めたレグは引き金を引く。放たれた銃弾に遠慮を込めよう筈も無い。

 一足おいて後続の四人も現れ、加勢する。
「親より先に黄泉への旅路に着くこと、これは許されることのない罪です。覚悟してください」
 令琳はそう言うが子供達は望んで死んだ訳ではない。夭逝して親を悲しませた事が罪というならば、死んだ子供達に罪が無いとは言えないかもしれないが、やはり責められるべきはアヤカシだろう。
「悪いのは、アヤカシだよ‥」
 珠枝は弓を引き絞る。悪いのがアヤカシでなければ、前にいる子供達に射掛ける事なんてできない。
「本当に、こんなの、酷い‥‥」
 珠枝は矢を放つ。子供達に向けて矢を放つ。しかし中てるのは子供の体ではあるが、貫くはアヤカシである。
 そしてそれはそれは令琳としても同じ事。討つべきがアヤカシという事には違いが無い。
「今は眠れ、来世が幸せであらんことを‥‥」

 傷つき倒れ今にも消え去りそうな一体にゼスが近寄る。
「この子の記憶はあるのか?」
「‥殺‥してヤル‥‥」
 問いかけにアヤカシは答えない。しかし目を見開いて悪態をつくも足掻く動きすら弱々しい。
「無駄か‥」
 親を想う言葉や遺言の一つでもと思うが、外側こそ人間の皮を被ってはいるが中身は完全にアヤカシ。人としての言葉は最早到底望めないだろう。
「もういいだろう」
 仮面を付けた勝一は平時の柔らかい口調とは違い、やや荒々しくゼスとアヤカシの前に割って入る。
「せめて、早めにアヤカシから解放してやるのが俺達の勤めだ。安らかに眠るがいい‥‥」
 勝一は槍を小さな体に打ち込んだ。勝一は雰囲気こそ変われど、安らかな眠りを届けるという気持ちは変わらない。

●回収
「これくらいでいいかな?」
 珠枝の両手には着物の断片やら髪紐が握られている。形見代わりに子供達が残したもので、なるべく汚れていない部分を掻き集めたものだ。
「まあそんなものでいいでしょう」
 そもそも大部分が血で汚れていたり、裂けていたりするから大した量は望めないのだが、形見とするなら家にも何かあるかもしれないし、証跡とするならこれで充分だろうと令琳は思う。
 だが、衣類やらはまだ良い。問題はアヤカシが消えた後の子供達の体だ。

「これは、見せられねえな‥」
 アヤカシを討ち終えた後、その場残った物は抜け殻というか切れ端と言うべきか。少なくとも遺体と呼ぶのは適切ではない薄っぺらい物でレグは思わず目を覆った。
 他人であるレグが目を覆いたくなる様な状況だ。子供達の親兄弟、いや、知人ですら見せるのは憚られる。
「ここで弔うか」
 アヤカシに殺された時に受けた傷、アヤカシによって食べられて損失した部位、そしてアヤカシとなって開拓者から受けた刀傷や銃創。村にこの遺体を届けるのはゼスにも良い事とは思えない。
「気をつけてはいたんですが‥」
 勝一は肩を落とす。傷をつけない様にと考えていた者もいたが、傷もつけずにアヤカシを討つとなると方法は限られる上に、この面子でそれをやるのは難しい。せいぜい『出来るだけ』というのが関の山だ。
 しかしアヤカシが抜けた後の布の様に平たくなった遺体を見れば、そこまで拘る必要もないと言わざるを得ない。
「わかりました」
 そう言うと和奏は黙々と穴を掘り出した。和奏は主義主張を口にすることは少ない。だから、基本的に『良い子』ではあるが頭の中で何を考えているかは分からない事が多い。あるいは何も考えていないのか‥。だが彼は今子供達を弔うために穴を掘っているという事には違いない。

『赦せ‥‥とは、流石に言えぬな』
 アスマは手を合わせて心の中で子供達に語りかける。依頼の上とはいえ、亡骸を親元には返せない。帰りたかっただろう無念は晴らしてやる事ができない。だから、せめて簡素な墓標に手を合わせて冥福を祈る。
「‥‥安らかに眠れ」
 物寂しげな墓標を前にして、ダンデが鎮魂歌を口ずさむ。
 アヤカシを倒す事は出来ても死者を生き返らせる事はできない。それはダンデが死と巡り合う度、鎮魂歌が少しずつ上達するとしても変わらない。死への感情が薄れても、確定した死をひっくり返すには至らない。

●報告
「‥‥以上です」
 『子供達を喰らったアヤカシを討った』と和奏は事実だけを淡々と事務的に伝える。悲しみが満ちるこの場においては、ともすれば冷徹な人間かの様にも思える。
 本当は、『事実を伝えたほうが良いのでは?』とぼんやりながら考えてはいるのだが、仲間達と障りのある部分は伝えないと打ち合わせているのでそれに従っている。───だが、それは誰にも伝わらない。
「‥‥申し訳ありませんが、それが真実です。他に何もありません」
 子供達はアヤカシに食われた。遺体はほとんど残っていない。それは事実だ。
 そして子供達は死んだ後どうなったかについてはゼスは伝えようとしない。ゼスだけでなく他の者達も同じだ。自分達が不要と思った事は伝えてないだけで、嘘はついていない。ある意味真実を告げている。だが、ゼスとしてはどうにも嘘をついているような心地の悪さが残る。それでもゼスとしてはどう請われてもせがまれてもこれ以上を言うつもりは無い。
 しかし、村の人間でも一部の人間は真相を知っている。アスマは彼らにはこう伝える。
「荷は重かろうが、内密に頼みたい」
 隠し事をするのは負担だ。開拓者達は村を離れるが、彼らはそうもいかない。誰にも伝えられないそれは、彼らにとって文字通りの人生の重荷となるだろう。いずれ時が来ればその荷を降ろせる日が来るかもしれないが、それがいつになるかはわからない。
「これが形見の品です‥‥」
 居心地が悪いのだろう、珠枝の元気さは鳴りを潜めている。おずおずと遠慮がちに拾い集めた切れ端等を差し出した。
「彼らのお墓の近くに埋めていただけませんか?」
 令琳は珠枝とは別にひまわりの種を手渡す。今から種を植えれば夏には大輪の花を咲かせる事だろう。花を咲かせる事で村人の心の傷は癒えはしないが、太陽に向かって真っ直ぐに伸びる姿は幾らかの元気を与えてくれるかもしれない。あるいは、荷の重さを和らげてくれるかもしれない。

「流石に本当の事なんて伝えられないですね」
 勝一がため息をつく。とはいえ事の仔細を伝えたところで誰も救われる者はなく、悲しみが深まるだけだろう。自分達は残された者達の悲しみを和らげる事を選んだのだ。今はその判断が正しかったと信じる他ない。
「ボクも‥‥随分と甘くなってしまったものだ‥‥‥‥」
 とっくに人に対する思いやりや優しさなんて捨て去ったものだと思っていた。だが、ダンデは自分が思うほど達観してはいなかった。いくら悪を気取っても、人は徹底できるものでは無いのかもしれない。
「当分‥飯も酒も美味くねぇだろうな‥‥」
 レグ達は依頼どおりアヤカシを退治したのであり、子供達を撃ったわけではない。ただその子供達の亡骸にアヤカシが入っていたので已む無くそれに引き金を引いただけだ。
 しかし、レグは割り切れない。おそらく酒を飲んで酔おうと思っても酔えまい。
 だが、アヤカシと戦うだけではなく悲しみや憎しみと言った感情を背負うのも開拓者の仕事の内だ。それらをひっくるめて『斬れる者』なのだから。