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■オープニング本文 ●イケメンとタコと女 夏の日差しが照りつける砂浜で、長い髪を爽やかになびかせながら若い男が剣を構える。 目力のある瞳と端正な顔立ちに、すらっとした体躯。口元から覗く歯は輝くばかりに白い。さらには歯並びの良さを見せ付けるかの様に男は叫ぶ。 「なぜだ!この間退治したばかりなのに!」 「‥それは、お前らの様に充実した奴らがいる限り私はより強く甦るからだ!!」 そう答えるのはタコの様な化け物。色や形はまさに絵に描いたようなタコだ。だが、その大きさは剣を構える男よりも遥かに巨大だ。人間ではとても比較の対象にならない。 そんなタコは言い終わるが早いか、力任せに足をその若い男に叩きつける。 「うっ!」 凄まじい力で叩きつけられた男は、軽く吹き飛ばされて砂浜を転げる。 「キャー!池田君」 「私の面太郎に何するのよこのタコ!」 するとどうだろう、タコに向かってこれまた若い女達が抗議の声を上げつつタコに攻撃を始める。清純派に幼馴染に妹系にヤンデレと、ありとあらゆるジャンルの女達がいるようだ。彼女らは誰もが男の敵討ちとばかりに怒りの表情を浮かべている。 そんなこんなで容赦ない攻撃が幾重にもタコに注ぎ込まれるのだが、タコもひるむことなく反撃を行う。お互い譲らない攻撃の応酬。平和なはずの砂浜がにわかに激しい戦場へと変貌していく。 「黙れこのビ○チ!」 タコは墨を勢い良く噴出して、女達を真っ黒に変えていく。 そして戦いは長時間に及んだがしばらく後、動くものはタコだけとなった‥‥。 ●リア充おことわり 「というわけで、タコ退治です」 受付の不月 彩(フヅキ アヤ)は依頼内容の説明を行う。 「まあ普通のアヤカシ退治なんですけど、注意がありまして『リア充おことわり』です」 そのタコは何故か『リア充』に対して抜群の耐性があり、『リア充』がタコを退治してもより強化されて甦るのだと言う。 つまり、そのタコを退治するには『非リア充』がその任にあたる必要があるということになる。 「だから私には無理なんですよねー」 と彩は余計な事を 言う。 「どういう意味って、『リア充』だからですよ。私みたいに予定が一杯で異性の友達からの誘いもどれを選べばいいかわかんないようなそういう人はダメ。あ、もちろんカップル参加もダメだし恋人がいる人もダメですね」 本当は、この間の休みはどこにも行かず家に引きこもり魔術所を読んでいたんだけど‥‥。 それに夕方になって悲しくなって、薄暗い部屋の片隅で体育座りをして泣いていたのは秘密だ。 「なんでもタコに勝るとも劣らない悲しみを持って倒さないといけないらしいです」 彩は気を取り直して説明を続ける。そう、このタコは悲しみを背負った者にしか退治する事はできない。 この夏に浮かれている者ではいけない。そう、選ばれた人間のための仕事なのだ!! 仕事や勉強も、プレイベートも上手く行かない。何一つ良いことなんてない! そんな鬱屈と悲しみを抱えているものは勿論。 悲しい別れや辛い別れを体験した者‥‥。 ひどい裏切りに、『もう誰も愛せない』なんて叫んでしまった者‥‥。 運命の悪戯に惑わされてしまった者だってそうだし、カップ焼きそはをだばぁしてしまった者もいるだろう。 悲しみは果てしない。そして深く、広いだろう。 もしやすると戦いの最中に心の古傷が開いてしまう事もあるかもしれない。 しかし勇者よ、その悲しみを力に変えてタコと刃を交えるのだ。 悲しみを知り、悲しみを分かち合う愛をもってタコと戦うのだ。 君は、一人じゃない。 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
時任 一真(ia1316)
41歳・男・サ
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
ゼタル・マグスレード(ia9253)
26歳・男・陰
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
トカキ=ウィンメルト(ib0323)
20歳・男・シ
シルフィール(ib1886)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●リア充はお帰りください 晴天。抜けるような青空と大きな入道雲。 太陽の日差しに熱せられた砂浜は人だらけ。若い男女が肌を晒してキャッキャウフフと戯れる。 ただし、ビーチの一角を除いて‥。 「なんというか、アホくさいというか馬鹿らしいというか‥‥」 正直そんなタコなんて放置しても良いのではないかとシルフィール(ib1886)には思えてくる。 「それにしても想像以上に鬱陶しいわ」 仕事内容もさることながら、アホ面をして声を掛けて来る男達と夏の海にシルフィールは苛ついていた。こんな浮ついた男共を見る度に色々思い出されて嫌になる。したがってそのあしらい方は酷い。 「その場で死んでくれたら付き合ってあげるわ」 本気で死ねとばかりに迫るシルフィールの剣幕に男達はなす術も無く退散していく。彼女をナンパする男が悪いと言えばそうなのだが、彼女の過去なんて知る由もない彼らにとっては災難だったろう。 「ここは、アヤカシとの戦場だ」 時任 一真(ia1316)が周りを見渡して一言。明らかに危険なアヤカシがいるのにこの砂浜はどうだ。なぜ戦場にカップルがこんなにたくさんいるというのか。 「だから、『不幸な事故』はしょうがない、と」 トカキ=ウィンメルト(ib0323)が小声で呟く。まるで事故を望むかのように、どことなく口元に笑みが浮かんでいるようだが。 「ええ、誤射にも気をつけないと」 何せいたずら好きの精霊が使っていたという由来のある弓だから、とエグム・マキナ(ia9693)は弦を鳴らす。 そう、ここは戦場だ。戦場では不幸な事故もあるだろう。戦場とはそう言うものなのだ!! 「リア充だと復活してしまうアヤカシ‥。実に興味深いですね」 ゼタル・マグスレード(ia9253)は珍しいアヤカシ相手となれば見に行かずにはいられない程の研究熱心な男だ。そのためだろうか、浮いた話もなければ、浮ついた目的で海に来ることもない。しかし、その服装はダサくもなければ、悪目立ちする様でもない、至極正当な服装だ。実はリア充なんじゃないかと疑われてもおかしくない。 「リア充がこの中にいたらまずいというわけですね」 仕事一筋で『彼女どころか同性の友人すらいない』菊池 志郎(ia5584)は純粋に今回の仕事を成功させるべく、当然の警戒を行っていた。少なくとも自分はリア充ではないと思うが他人がどうかはわからない。別に容姿が明らかに劣っているとかそんな者がいるわけでもないし、むしろ美形揃いでこれが全員非リア充というのがおかしいくらいだ。 「あたし、両親の顔、おぼえていないんです。ずっと小さい頃に死んじゃって‥‥」 スイカを模したビーチボールまでもが悲しげに見える話を鈴木 透子(ia5664)が語り出す。幸薄そうな彼女がリア充であるはずはない。誰もがそう思った直後、 透子は『でも』と一言置いてから話を続け出す。 「あたしって幸運なんですよ。だってあたしには、いつも周りに‥‥」 あれ?キラキラと輝くこの笑顔は非リア充が出せる表情じゃない。 すると突然、天気が良いのに透子の前に小さな落雷が。 「申し訳ありません、リア充の方は見学していてください」 物凄く醒めた表情で語りかけるエルディン・バウアー(ib0066)。目が笑っていない。 「え、あ、あの!?」 「「「リア充は帰れ!!」」」 「あたしだって、、、あたしだってーー」 リア充認定された透子はずるずると引きずられ、あえなく退場となるのだった‥‥。 ●さようなら、タコ。君の事は忘れない タコは悠然としてその時を待っていた。終焉を告げる者達が現れるその時を。 『リア充になる事は適わず、そしてリア充相手では死ぬ事も許されない』 その悲しみを理解する事ができるかとタコは問いかける。 「何故一緒にリア充爆発しろって言えないんでしょうね‥‥」 万木・朱璃(ia0029)は憂いを持った表情をタコに投げかける。こんなにもシンパシーを感じるのにどうして戦わなければならないのか。 しかし、アヤカシは人を襲わねばならぬ。そして、開拓者はそれを防がねばならぬ。例えそこにリア充という存在が絡んでいようとも。 「‥‥定め、か」 「そうです私たちだってこうしなきゃご飯の食い上げなんです!」 「ならば始めよう、非リア充の戦いをな!!」 こうして戦いの火蓋は切って落とされたのだった。 「虚乳なんて居なくなればいいと思うですよ」 人魚のような水着を着た水津(ia2177)は、何か別の事でも祈ったり呪ったりしているかのような激しい神楽舞を展開する。テンションがあがりそうな舞ではあるだがなんかその、怖い。 それと『若い娘が水着で激しい踊り』。それは心が沸き立つシチュエーションのはずなのに何故だろう、何か足りないんだよなあ。 「男共は胸胸胸と‥貧乳だって人間です‥‥」 眼鏡の奥に光るかすかな雫が零れ落ちて平たい何かに触れた時、その踊りはクライマックスを迎えるのだった。 「ふん、悲しみ云々なら私も相当なものよ」 シルフィールの壮絶な半生が語られ始める。 幼くして政略結婚、しかもその相手は自分の倍以上の年齢で女関係のだらしなさといったら、結婚初夜に他の女と逢引をするくらいなのだから余程のものだろう。 かくして極度の男性不信となったシルフィール。まだ二十歳にも満たない若さでありながら人生波乱万丈状態の彼女の悲しみは、深い。当然、ナンパをしかける男など眼中にはないというわけだ。 「なんという悲しみのオーラ‥」 タコはシルフィールの怒りに任せた攻撃を捌き、時にくらいながら悲しみを感じ取るのだった。 『あなたとそういう関係になりたくないの』 拒絶としか受け取れぬ言葉。そして、何でこんな言葉を今思い出してしまうのだろう。 恋人に捨てられた事が何故今更記憶の淵から甦るのだろう。 きっとこれはタコの精神攻撃に違いない。見たところタコがそんな事をしているとは全く見られないがそうに違いない。 「神の怒りを存分にくらうがいいーー!」 エルディンは流れる涙もそのままに、タコにありったけの力で電撃を放射する。 『付き合っていると思っていたら、友人とすら思われていなかった』 なんという勘違い乙。正直どうしたらそんな勘違いを起こせるのか理解に苦しむが、エグムの悲しみはこれに終わる事がない。 『告白したら不審な目で見られ、その後話しかけられる事すらなくなった』 それ、なんてストーカー?ともあれ複雑な悲しみを乗せて、エグムの矢はタコの足を狙う。 「そこの無脊椎動物。恋愛などを信じているのですか?幸せですね?」 ゼタルは恨み、辛み、嫉み、その他もろもろを込めた呪声を放った時、パズルがぴたりとはまる様な感覚を覚える。 そうか、君は僕。 弱い僕の心を映した、鏡の様な存在━━ ならば、そんな鏡など叩き割ればいい。その鏡の先にこそ進むべき道はあるのだ。 だが、それでも、それでもしかし、 「やっぱりリア充は爆発していいと思うけどね!」 「は、早く倒さないと ‥‥」 手裏剣をあれよこれよと打ちつくし、苦しげに膝をつく志郎。この糞暑い中何時もどおりのシノビ装束で参加などするから、辛いのではないかという気もする。 しかし、驚くべきは熟練のシノビの力をもってしても苦戦を強いられるタコの強さ。とはいえ、問題なのはタコ本体よりも味方の悲しみを乗せた攻撃が反射するかのように跳ね返ってくる事だ。 少し目を遠くにやれば幸せそうに波風と戯れる若者達の姿。ところが、自分達と来たら不幸と悲しみが渦巻く暗黒空間に身を置く始末。 リア充共は今日のような日を青春の1ページとでも言い出すのだろう。しかし、志郎にはそんな1ページが刻まれる事はない。今年の夏の思い出といったらせいぜい『花火大会(※庭先からちょっとだけwith犬)』くらいのもの。 「いつも大抵一人ですが、寂しくも暇でもないですよ。‥さ、寂しくなんてっ!」 志郎は再び立ち上がると、タコに向かって突進するのだった。そう、寂しくは無いはずだ。この戦いが終われば、鍛冶屋と里の老人と愛犬が待っているぞ! タコとの戦闘が始まれば当然ビーチは騒然となる。しかし、自分達には被害が及ばないだろうとカップルが野次馬となって開拓者とタコを囲むように見物していた。まるで見世物でも見ているかのようだ。 エグムはモテ期について考えていた。モテ期とは『人生に旗が一定数立つ時期』であると。そしてその旗は誰かに奪われる事があり、リア充とは他人から旗を奪い、モテ期を継続させている存在なのではないかと。 「とまあ、どうでもいい話なのですが――今から誤射します」 「うわぁ!」 観客の一人が持っていた缶ビールに、チャラチャラした男の頭のサングラスに矢が突き刺さる。 それでももっと近くで見ようと寄ってくる野次馬達。もといリア充達。 「リア充の排除。これも仕事の一環‥‥」 そう言うと、トカキの杖から猛烈な吹雪が吹き荒れる。夏の雪とあれば涼しげだが、水着に猛吹雪は涼風感など遥かに度を越して、痛い。素肌に突き刺さるような痛みがリア充を襲う。 「リア充共が俺の運を奪っていったに違いない。‥リア充、許すまじ」 虐待を受けたのも、籤の引きが悪いのも、白紙も全部リア充のせいだ!トカキの悲しみを乗せた吹雪が砂浜に吹き荒れる。そんな吹雪の中、カキ氷を持った透子がガチガチ震えていたような。うん、それはきっと気のせいだ。 「うぉぉぉぉっ!!」 タコに吹き飛ばされてきた一真が手と手をつなぐカップルに割り込んでその繋ぎを断ち切った。 「痛たた‥‥。おぅっと邪魔しちまったな、すまないねえ」 ニヤニヤしながら気持ちの入らぬ謝罪をして後を振り向けば、一真の目に映るのは十歳位の男の子。そして自分の額から流れる、赤い血。━━━赤い、あの風景。二度と思い出したくないあの記憶が甦る。 涙は勝手に流れていた。止め処なく流れていた。隠す事も出来ない程、深い悲しみが━━ 大の男が人目を憚らず泣いている。それを不思議に思ったのだろう、男の子が一真に声をかける。 「おじちゃん、泣いてるの?」 不意にかけられる優しい言葉。だが、一真は大声で怒鳴り散らす。 「来るんじゃねえ!ここは俺達の戦場だ!!お前らはさっさと消えろ!!」 一真の物凄い剣幕に、野次馬達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。もちろん、男の子何か悪い事をしてしまったのだろうかという顔をしながら去っていった。だが、少なくてもこれで巻き沿いという事もあるまい。 「俺が夏の海を楽しむなんて、許されるわけはないな」 一真は身を切り刻むような悲しみを背負って、タコに向かって歩き出す。 すでに戦闘は長きに渡り、日も傾き始めた砂浜は泥沼の様相を模してきた。 杖で殴る者、拳で殴りつける者、優雅さは微塵もない。しかし、確実に終わりは近づいていた。 多くの悲しみを喰らい続けたタコももう余力を残してはいない。 他人の幸せを祈る。たとえ自分が幸せでなくても祈る。 今日の様な夏の暑い日も、凍える冬の寒い日も。それが巫女。でも、 「なんで私に彼氏がいないのに婚儀の祝詞をあげなきゃいけないんですかー!!」 たまりにたまった鬱憤を砲弾に、朱璃の精霊砲が轟く。それはまさに大砲。戦いの決着をつける最終兵器。 「み、見事だ‥‥」 苦しげでありながら満足げなタコ。 「もう自分が何をしてるのかっ」 本当に倒すべき相手はリア充。だが、リア充中心で回っているこの世の中を変えることなどできるだろうか。 「お前達の悲しみは確かに受け取った。これは私が地獄まで持っていく」 「「タコ‥‥」」 「だからお前達は悲しみを乗り越えて、リア充に勝て!」 そう言い終るとタコはその形を黒い霧に姿を変えるのだった‥‥。 ●悲しみの砂浜 戦いは終わった。だが、戦士達の心の傷は深い。 二度とこの様な悲しい戦いを引き起こしてはならないと誰もが思いながらタコのいなくなった海辺を眺めていた。そう、またタコが現れてはいけないのだ‥‥。 「海にリア充が入れなくなれば問題は解決なのですよ!」 原因はリア充、そして奴らが海に来るのが問題の一因だと朱璃が何かを思いついたようだ。 「ならば、柵を立てるというのはどうでしょうか?」 若い男女が裸の様な格好で一緒にいるような、風紀を乱す状態がそもそも間違いなのだとエルディンは力説する。 「確かに、アヤカシが復活する可能性を大きく減らす事ができそうです」 これは決して嫌がらせではない。データと推論より導かれたアヤカシの対抗策であるとゼタルは主張し、エグムもアヤカシ対策ならばしょうがないですねと準備に取り掛かる。トカキも袋から何やら取り出して柵の作成に取りかかっていく。 そして夕日に映える5人の姿はどこか悲しげであったが、ある意味充実しているように見えたとか。 「フフフ、虚乳なんか、虚乳なんか‥」 ブツブツと何らかの恨み節を呟きながら、藁人形に釘を打つ女。それも夕焼けが綺麗な砂浜で。例え彼女の外見が良かろうともこんな危険な女に声をかける者はそうはいない。それどころか、人は水津を見ないように避けて通る。 「私だってそんなに見られない外見じゃないと思うんですけど‥」 砂浜に槌の音が無常に響く。水津に本当の理由が分かるのはいつの日か。 日に当たって疲れてしまったのだろうか、あるいは吹雪で意識を失ったのだろうか、少し眠ってしまったようだ。 透子は枕代わりになっていたビーチボールを退けて、人がまばらになった海を眺める。 「夕焼け、綺麗‥‥」 「お嬢さん、ちょっといいかな?」 ━━え、これってもしかして━━ と思って振り向いたところ青い制服を着た二人組みが立っていた。 「これらについて話を聞きたいんだけど‥‥。ちょっと交番まで来てもらってもいいかな?」 彼らが指差す先は異様な雰囲気の建造物。 『男ビーチ』と『女ビーチ』と分けたかったようなのだが、もはや柵というレベルではない。 『横の人は恋人ではない』『リア充は死後さばきにあう』などと黒地に黄色の文字で書かれた目を引く板が柵のあちこちに貼り付けられて、どういう意味合いかしめ縄まである上に、近寄るだけでも祟られそうな札まで張られている。 加えていつの間に出来たのだろう、『この海で泳いだカップルは別れるという古くからの言い伝えがあります』と書かれた観光案内風の看板まである。少なくともさっきまではこんなのものはなかったはずだ。 はっきりは見て取れないが海の中にも仕切りが出来ている気がする。どこまでやらかしたんだ‥‥。 「こういうの、困るんだよねえ‥‥」 撒き菱!まさかそんなものまでも使われていたとは‥。 「あと藁人形を持った不審な女というのも、君かな?」 全く身に覚えがないが、藁人形を持って戦っていた人の心当たりはある。ある、が。 「何であたしなんですかぁぁ!?」 |