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■オープニング本文 ばあちゃんが使っている湯呑みは、あちこち欠けてて継ぎ接ぎだらけで、おまけに茶渋で色がくすんでいる。たかが湯呑みひとつ買えないほど、うちは貧乏じゃない。けれど、ばあちゃんはかたくなに、その湯呑みしか使わないんだ。 そんな話を俺は、親しくなった瀬戸物屋のライラと交わしていた。ライラってのは、色白で、こう、線が細くてスラッとしてて可愛‥‥ああ、それは関係の無い話だった。 ともかくだ、ライラとの会話を切らせたくなくて、俺は知っている限りの器の話題を絞り出していた、ばあちゃんの湯呑みの話は、そのひとつだった。そうしたら嬉しいことに、彼女はこの話に食いついてきた。「由緒ある品なのかしら?」「名人の作なのかしら?」等々。じゃあ次はそれを持ってきて見せてやるよ、と、無事に約束を取り付けた。やれやれだ。 で、数日後に件の茶碗をライラに見せてやった。 そしたら、目の色が変わりやがった。 「しばらく貸しててくれない?」って、そりゃマズい、俺だってばあちゃんに黙って持ち出してるんだ、次の時はことわりを入れて持ってくるよ、と、新しい約束を取り付けた。順調だ。 しッかし、こんな普段使いのボロ湯呑み、まさか値打ちモノじゃあるまいし。ライラは何がそんなに気になるんだろうな。 その日の晩、俺はそれまで興味も無かった、この湯呑みの謂われを聞いてみた。 でもって返ってきた答えってのが、まあ甘酸っぱい答えでしたよ。 「じいちゃんと、おそろいで買った最初の器なの」 かぁ〜〜〜! 70歳過ぎのばあちゃんのくせにカワイイな、オイ。あ、となると、じいちゃんの葬式の時に、墓に入れてたあの湯呑みが片割れだったのか。 「安物だよ。ナントカ言う窯から出たものだって」 窯の名前なんて言われても、俺が分かるわけがないからそれはいいや。 しばらく貸してくれ、と頼んだら、代わりがないと茶が飲めないって言われた。 「しょうがないな、じゃあライラんところで新しいのを買ってこよう」 「ライラって、だあれ? ‥‥ははーん」 「いいだろ、別に」 何はともあれ、次の口実が出来た、と。 「‥‥へえ〜。清六さんのおばあさんにそんな素敵な思い出がねー」 ばあちゃんの話を聞いたライラは目を閉じてうっとりしていた。女って、こんな話が好きなのか。 「安物って言ってたけど、何でそんなに気になるんだ?」 「アレ、緑堂窯の初期の作品に似てたのよ」 「りょくどうがま?」 だから窯の名前を言われても分からないって。 「うちのお得意さんで、緑堂の初期の作品を捜している人がいるの。見つけたら高く買ってくれるって」 ほう、世の中には物好きがいるんだな。いやさ、まだそのリョクドウと決まったわけじゃないんだけどな。 その翌日だよ。 じいちゃんの墓が夜の内に掘り返されたって。棺桶開けられて、中身を掘り出されてて。じいちゃんの骨がとっちらかってた。 ばあちゃんと母ちゃん、熱出して寝込んじまった。父ちゃんと叔父さんは顔を真っ赤にして怒り狂ってる。 いったい何のために、と皆は訝しがった。たぶん気付いたのは俺だけだ。 あのボロ湯呑みが無い。 普段使いで茶渋まみれで、一緒に埋葬したことすら覚えていないようなあの湯呑みが無い。 誰が? 誰が、あの湯呑みのことを知っている? 8年前の葬式に参列した人ら‥‥、ばあちゃん‥‥、俺‥‥、それから‥‥。 ライラ? 「おい、清六ッ」 「ふぇっ?」 「おまえ、ひとっ走りギルドまで行って、人を何人か呼んで貰ってこい。こんなタチの悪いイタズラをしでかした野郎は、とっちめてやらんとな」 まさかな。 まさか、そんなはずはないよな。 |
■参加者一覧
空(ia1704)
33歳・男・砂
からす(ia6525)
13歳・女・弓
長渡 昴(ib0310)
18歳・女・砲
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ
アーニー・フェイト(ib5822)
15歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●ばあちゃん 「大丈夫か、ばあちゃん」 羽喰 琥珀(ib3263)は清六の家を訪れていた。墓の主の妻が寝込んでいると聞いて、その見舞いのためである。 「おや、こんな可愛らしい坊やが来てくれたのかい?」 「坊やじゃねーや、一人前の開拓者だよ。俺らがキレイに解決してやっからよ、ばあちゃんも協力してくれよな」 そうかい、と老婆は目を細める。悪質なイタズラには腹を立てるが、自分と同じように憤りを感じてくれるものの存在は素直に嬉しかった。 「あの人が恨みを買うはずはないよ、だからたまたま、うちがイタズラの対象にされたんだろうね」 「何か金目のものを一緒に入れていたとかは?」 「入れた、ってもねえ、特別なものは何も入れてないよ。使ってた箸や茶碗、気に入りの着物に、銭が数枚‥‥どこの家でも同じようなもんだろう?」 「どんな品だい?」 「どんな、って‥‥近所の店で買ったものばかりさ。どうれ」 そう言って老婆は立ち上がると水屋へ行き、いくつかの器を抱えて戻ってきた。 「これと同じ飯椀と、湯呑みと、箸‥‥着物は麻の格子模様のやつで‥‥」 説明をしながら、ふと、老婆は思い出したと言う。 「ああ、この湯呑みを、孫の友人がずいぶん気に掛けてたってねえ‥‥」 言いながら、老婆の顔が暗くなった。だが、すぐにそれは戻った。可愛い孫の友人が気にしたからって、何だというのだ、気にしすぎだ‥‥だが、琥珀はそれを見逃さず、耳をぴんと鋭く立てた。 ●清六 何はともあれ、事件の詳細を聞かねばならないと、依頼を受けた開拓者達は、まず依頼主である清六と話をすることにした。 「ああ、わざわざ、どうも‥‥」 清六は暗い顔をして伏し目がちに、彼らを出迎えた。 「よお、大変だったな」 アーニー・フェイト(ib5822)が、さして気の毒でもなさそうに言った。悪質なイタズラの被害者の不運を哀れみはするが、それだけだ。 『悪質なイタズラ』、依頼にはそうあった。 「お祖父様のお墓が荒らされたとのことで、何か、心当たりは無いかい?」 それは事件を調べる者なら誰でも尋ねるだろう、平凡な問いだった。だが、からす(ia6525)がそう聞いた途端、清六の顔色が変わった。 「あっ、いや‥‥何せじいちゃんが死んだのも、8年も前だし、心当たりって‥‥」 動揺しているのは明らかだった。 単なるイタズラではない。 清六のこの態度は、『心当たり』があることを全員が察知させるに十分だった。 「失礼ですが、お祖父様は有名な方? 大店をお持ちとか、成功なさったとか‥‥狙われそうな方なのでしょうか」 揺さぶりをかけるべく、長渡 昴(ib0310)は質問を重ねる。この小心そうな青年は、どこまで話すだろうか、と試すように。 「いや、じいちゃんのそんな話、聞いたこと無い‥‥」 「まさかとは思いますが、お墓の中に貴重なものを一緒に入れたとかは?」 ライ・ネック(ib5781)の問いは、核心をついたのだろう、清六からどっと汗が噴き出した。 「そんな、貴重なものなら、勿体なくて埋められ‥‥そうだよ、埋めるわけない」 慎重に、言葉を選んでいるのが分かる。「何も知らない」、そう言い続けるつもりだろうか。 「お友達の方が気にしていたという湯呑みは、どうなんでしょう?」 ついにライはずばりと尋ねた。祖母が持っていたおんぼろの湯呑みと、対のもの。それは誰かが気にするほど、貴重なものではなかったのか。 清六は言葉に詰まった。ごくりと、つばを飲む音が聞こえる。 「知っていることがございましたらお話下さい。貴方が思いついた方と決まったわけではありません」 目が泳ぐ。‥‥開拓者たちは、どこまで知っているのか、それを探るように。 だが、いち町人ごときに感情を読まれるようでは開拓者はやっていられない。 それきり黙ってしまった清六に、空(ia1704)はこれ見よがしな溜息を吐いた。 「ともあれ、墓は見せて貰わなきゃな。てめぇが何も知らないってんなら、俺らが徹底的に調べるしか無ぇな。」 開拓者たちが徹底的に調べるということ、それが何を意味するのか、嫌でも分からせるように。 「一緒に来て貰うぜ」 清六は汗を垂らしたまま、頷いた。 ●墓 問題の祖父の墓は、簡単にだけ直されていた。今回の事件が片づいてから、改めて経をあげて弔い直すという。周囲をぐるりと見回して、空は鼻で笑った。あまりに稚拙な犯行だったからだ。 「はッ、明らかにココを狙ってやがるな」 他の墓は全く触られていない。「どの墓でもいい」のならば、入り口に入ってすぐのものや、物陰に隠れて見つかりにくいものを選ぶ方が自然だ。だが、清六の祖父の墓は、いくつか並んだ真ん中あたり。最初からここが目的だったと言わんばかりだ。そして、それを隠した様子もない。もし自分なら、目的の隠れ蓑として、他の墓もふたつみっつ荒らしていただろう。 何か犯人が残したものがないか、周囲を調べてみる。やはり素人か、土を踏んだ跡を消してもいない。足跡は、小さなものが1種類。1人の犯行のようだ。 「ちょっと失礼するぜ、じーさん」 アーニーが一応の礼儀として手を合わせ、棺桶の蓋をもう一度開けた。土とほとんど同化して茶色くなった骨、束ねた小銭、原形をとどめていない格子模様の着物、辛うじて箸と分かる木の棒が2本、使い込まれた飯椀がひとつ。 「さて、セーロク。ここからパクられたものはねぇか?」 「な‥‥なにも」 「そーか?」 と、アーニーは琥珀のほうを向いた。琥珀は首を横に振った。これで、ついに清六は観念した。 開拓者は、全て知っている。 「湯呑みが‥‥無い」 祖母が若い頃に祖父と共に買った、揃いの湯呑み茶碗の片割れだ。 もしかしたら、緑堂窯の作品かもしれない。それなら、高い金を出してでも欲しいという蒐集家がいるらしい。 「墓の中にリョクドーがある、って知ってるのは誰なんだい?」 「俺ら家族と、親戚と、‥‥あと‥‥」 「あと?」 「瀬戸物屋の、ライラ」 墓荒らしの前日だ、ライラにその話をしたのは。 ライラはその後、誰かにこの話をしたのだろうか。 「‥‥そうだ、きっと蒐集家だ。得意客って言ってたからな、店でライラから俺の話を聞いたに違いない!」 決めつけるように、清六は叫んだ。 「その蒐集家というのは、どちらの方?」 「俺は知らない、瀬戸物屋の客、ってことしか」 「でしたら、瀬戸物屋さんに話を聞く必要がありそうですね」 ●ライラ 「あら、どうしたの。今日は大勢ね」 瀬戸物屋の暖簾をくぐった清六と開拓者たちを、店の看板娘が出迎えた。 「いや、ちょっと‥‥」 事件のことを一通り説明すると、ライラは「まあ」と眉間に皺を寄せた。 「ひどいことをする人がいるのねえ」 「気を悪くしないで聞いて下さいね」 昴は慎重に言った。 「どうやらお墓の中にあった、緑堂の湯呑みが盗まれたみたいなのです。ここのお客さんで、緑堂を捜している方がいるそうですね?」 「魚慶さんがやったっていうの!?」 ライラは顔を真っ赤にして抗議する。 「魚慶さん?」 「うちの大事なお得意さんよ、あの人を疑うなんて失礼しちゃうわ」 「疑っているわけではありませんよ。ですが、犯人が売り込みに、魚慶さんとやらの方へ行くかもしれないでしょう?」 そう説明すると、ライラは「それもそうね」と怒りを静めた。 「隣町に嬉久屋って茶道具屋さんがあるでしょう、そこの息子さんよ。やきもの好きっていうので近所では有名なひとよ」 「緑堂とは、そんなに価値のあるものなのですか?」 ここに来るまでに昴も、緑堂窯について彼女なりに調べてみたが、特別な評判は聞こえてこなかった。有名な作家がいるわけでもなく、流派を築いたわけでもない。窯をひらいた50年前から現在まで、誰でも買える日用品を作り続けている。 「魚慶さんにとっては、でしょうね。なまじお家の商売柄、有名なものは見飽きて興味がわかないんですって。わたしもそんな事、言ってみたいわ」 ライラは羨ましそうな溜息をつく。魚慶という男は、どうやら金回りのよい人間らしい。 「高い価値が無くとも蒐集したくなるという愛もあるのだよね」 その気持ちは分からなくもない、とからすは呟いた。彼女もまた、ものを集めるのが好きだ。しかしそこに邪な感情を絡めてしまっては、せっかくの玉石も濁ってしまう。 湯呑みは、魚慶の手に渡ったのだろうか。彼は、それを盗品と知っているのだろうか。 「魚慶さんって、どんな方?」 「すてきな人よ。着物や履き物も全部おしゃれで格好良いの。ケチケチしたことは言わないし、立ち居振る舞いに野暮ったさが微塵もないのよ」 手放しの褒めっぷりに、清六がどんどんうなだれる。茶道具屋の若旦那と比べられてはたまったものじゃない。 「ともかく、お会いしてみましょう。ああ、それから‥‥」 思い出したように、ライが売り場を見回した。 「湯呑みをひとつ、頂けますか? 清六さんのおばあさまのために」 驚いたのは清六の方だった。なぜ急にライは、そんなことを言いだしたのか。 「おばあさまが、湯呑みの片割れを改めてお墓に入れるんですって」 「そうなのか? ばあちゃん、何も言ってなかった‥‥」 言いかけた清六の尻を、空がつねる。視線が「黙れ」と言っている。 「じーさんがあの世で茶が飲めねぇ、ってのも可哀想だぜ」 「わざわざ埋めなくても‥‥」 ライラが何か言いたそうだが、アーニーはあっけらかんとしたものだ。 「夫婦茶碗の片方だけ残したって、ばーさんもしょうがねぇだろうし、そのギョケイに譲ろうったって、片っ方だけじゃ有り難くないだろうよ」 「そうね‥‥」 ライラは残念そうだった。 「今日じゅうにはうずめ直しませんと、いつまでも墓地に穴を開けておくわけにはいきませんわ」 湯呑みをひとつ買い、これで用事は終わったので店を後にする。 「しかし、ねーちゃん」 帰り際、アーニーが言った。 「細っそい脚、してんな」 ●魚慶 魚慶は評判のよい男だった。遊び人ではあるらしいが、金払いは良くどこの店でも歓迎される客だという。若くて洒落者で、器の蘊蓄を一通り語れて、羽振りの良い上に独身とくれば、女にもてないわけがない。ライが近くの酒場に潜り込んで聞き出した話によれば、嬉久屋には毎日のように若い女がおしかけるらしい。 「普通は男が女に貢ぐもんだけど、魚慶さんは女に貢がれてるよ、羨ましいね」 『夜春』を扱えるライに対して、酔客は口が軽い。 「そんな好い殿方なら、会ってみたいわね」 「なにを貢ぐつもりだい? 滅多なものじゃ喜ばないだろうよ」 滅多なものじゃ喜ばない‥‥なら、滅多なものを貢いだとしたら? 恋敵を蹴散らせる威力のあるものとは何だ? からすが、客として嬉久屋に入る。 店の奥の目立たないところに、茶碗や皿がいくつか飾られていた。 「あれは?」 茶を嗜むものとして、器にも興味はある。見せてもらえまいか、と番頭に頼んでみた。 「あれは売り物ではございませんので、申し訳ございません」 「見るだけでかまわないのだが」 「ほう、こんなお嬢さんが、やきものに興味が?」 番頭の後ろから、若い男が顔を出した。番頭が頭を下げたのを見ると、この店の若旦那‥‥つまり彼が、魚慶だろう。 「丁寧に飾ってあるのだな、名のあるものなのかな?」 「わたくしの趣味で集めただけですよ」 魚慶は器の話が出来ることが嬉しいのか、それぞれについて語ってくれる。からすは、演技ではなく、興味深くそれらを聞いた。 「いちばん最近の買い物は?」 「ここのところ、買ってないんですよ。捜しているものが見つからなくて。もしどこかで見つけたら、教えて下さい」 と、魚慶は緑堂窯の名前を出した。 どうやら、まだ彼は欲しいものを手に入れていない。 ●再び、墓 祖父の墓は、土だけを埋め直した。見た目は綺麗に、もう弔い直しがすっかり終わったかのように。もちろん、祖母の湯呑みは埋めていないし、埋めるという話もない。 「なんであんな嘘をつくんだ? じいちゃんの墓は、まだ戻さないぜ」 「おめでたいな、おまえは」 事態を飲み込めていない清六を、空は呆れたように笑った。 「可愛いツラして、あの女は曲者だぜ」 「な‥‥」 ここまで言われて分からないほど、清六もばかではない。 開拓者達は、ライラを疑っている。 「ふざけるなよ! ライラは関係ないだろう。魚慶とかいう男はどうなんだよ!」 「それを確かめるために、こうやって餌を撒いたんだよ?」 琥珀の言うとおりだ。 ライラの前で湯呑みの話をした、その日の晩に墓は荒らされた。 だから当時と同じような状況を作った。 犯人はおそらく、さしたる計画もなく動いている。証拠を隠す気配が全くないことからも明らかだ。そして悪行は、一度やっていまえば勢いが付いて、二度目にはためらいがなくなるものである。 来るだろう。 湯呑みを揃えて、より価値のあるものにするために。 清六は冷や汗が止まらなかった。 陽の落ちた墓場に隠れているからではない。 その墓場に、人影が現れたからだ。 「まさかな」 痩身で足が小さい人影は、円匙(シャベル)を抱えている。 「まさか、そんなはずはないよな」 空しい呟きだった。 ●再び、ばあちゃん からすが良い茶を煎れてくれた。 いつもの湯呑みに注がれて、老婆はそれを美味そうに飲んだ。 「こんな湯呑みが、ねえ‥‥」 まったく、ものの価値とはよく分からない。 「で、これはその、ナントカいう窯のものなのかい?」 複雑な表情で、昴は頷いた。 「どうやら本物みたいですよ」 「じゃあ、売ろうかね。清六にこづかいが渡せるよ」 「それが‥‥」 緑堂の湯呑み茶碗の存在を知った魚慶はこう言った。「そんな美しい思い出のある器を、わたくしが持つわけにはまいりません」と。 「なんだよ、魚慶ってのは好い男だねえ」 老婆までもが惚れてしまった。 女を見る目がない孫は、部屋の隅っこでうずくまったままだった。 |