伝統の火
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/05 22:40



■オープニング本文

「おじゃまいたしますでの」
 武天にある開拓者ギルド。ここに一人の老婆がやってきた。老女は、とある村の村長だという。

 老婆の村の隣には、サバシ村という村がある。二つの村はとても仲が良い
 昔、盗賊が二つの村を襲った時、互いに協力して盗賊を撃退したという話もある。
 その闘いの時に、二村の村人は、火のついた松明を盗賊のアジトに投げ込み燃やしたのだという。

 老婆は説明する。
「この出来事を記念して、我が村とサバシ村では、一年ごとに、互いに松明を運び合うという行事をおこなっておりますのじゃ。
 ある年に我が村からサバシ村に松明を持っていき、次の年にはサバシ村から我が村に――という風に」
 今年は、老婆の村からサバシ村へ松明を届ける年だ。
 ところが、二つの村を繋ぐ森の中の一本道。そこに、アヤカシが出現するようになったのだという。
「そこで、今年は開拓者の皆さまに、松明の火を我が村から隣のサバシ村まで運んでいただきたいのですじゃ。ただし、火をつけたまま、その火を絶やさずに」

 老婆の村からサバシ村までは、徒歩で半日ほど。
 道中に出てくるアヤカシの種類は二つ。
 一つ目は黒い鳥型。カラス程度の大きさだが、群れで活動する。攻撃手段はくちばし。
 二つ目は、猪型。大型。数は一匹。突進力のある体当たりを得意とする。
 鳥型は、老婆の村とサバシ村の中間で目撃されている。
 また、猪型のものは、サバシ村の入り口近くの道に陣取っているようだ。

「無事松明をサバシ村まで持っていけば、歓迎されることでしょう。
 サバシ村にある温泉にも入りたい放題ですじゃ。混浴ですので、水着を着用していただかねばなりますまいが――」
 そこで、老婆はふぉっふぉっふぉと笑う。だが、すぐにその顔を引き締めた。
「とは言いましても、まずは、松明を無事運んでいただきたく。――我が村と隣村の伝統行事。なにとぞ、よろしくお願いしますじゃ!」


■参加者一覧
煙巻(ia0007
22歳・男・陰
水津(ia2177
17歳・女・ジ
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
无(ib1198
18歳・男・陰
狸毬(ib3210
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●森の中の道
 足音が、木々に跳ね返って響く。
 開拓者のうち六人は、森の中の道をサバシ村へ、歩いている。出発してから、すでに少しの時間が立っていた。時刻は、正午をやや過ぎた頃だろう。
「今回は火の依頼。炎の前衛陰陽師の異名を持つボクとしては、しっかりがんばらなきゃっ!」
「おお。依頼は絶対、成功させる。相手が例えオオアヤカシだろうが、焔は潰えさせねぇ‥‥!」
 新咲 香澄(ia6036)の声は、元気いっぱい。がんばろうと握った手を突きあげる。
 彼女に応えるのは、先頭を歩く天ヶ瀬 焔騎(ia8250)。焔騎の顔は、闘志に満ち満ちている。
 その後ろを歩く、からす(ia6525)は普段通りの微笑。聞こえてきた声に
「二人に熱意があるのは、心強い。私もこの依頼、成功させたいからね。村人たちの伝統を守る心がけは、美しいものだし」
 と、頷く。
 からすの隣で、茜ヶ原 ほとり(ia9204)は、松明を持っていた。
「すーみん、天さん。私も心強いけど、でも、無理はしないでくださいね?」
 二人の背中へ、柔らかく言葉をかける。
 水津(ia2177)は仲間に相槌を打っていた。が、念のために、と瘴索結界を展開する。无(ib1198)も隼を象った人魂を飛ばし、上から周囲を眺めた。
「偵察してくれている方もいますし‥‥何もないとは思いますが、石橋を叩くのも大事です‥‥」
「ええ、注意に越したことはありません。アヤカシが目撃された地点に、段々近づいていますしね。でも――偵察に行った彼女は大丈夫でしょうか?」
 二人は付近に不審な存在がないことを確認し、前方に視線をやった。
 開拓者の一人が、偵察の為、六人の先を行っているのだ。

●羽ばたく鳥
 皆より先行し偵察を行っていたのは、狸毬(ib3210)。彼女は立ち止まっていた。
「おお〜‥‥発見発見‥‥報告しないとねー」
 彼女の超越聴覚が、『ア、グアア』鳥に似て非なる、低い声を聞きつけたのだ。
 前方。道の両脇に生えた木々、枝と枝との間に、アヤカシどもは潜んでいるらしい。
 狸毬はアヤカシの方角に背中を向ける。足音を忍ばせ走った。敵の位置を仲間に報告する為に。

 報告を受け、開拓者は準備を整えた後、前進した。
 ほどなく、潜んでいた鳥のアヤカシ達が羽ばたき姿を現す。黒い羽毛と長いくちばしを持つそれらが、飛び、開拓者に迫る。その数‥‥十匹以上。
 真っ先に仕掛けたのは、後衛にいるからす。
「さて、ここで二択だ。視認できない程速い攻撃と――」
 言葉を口にしながら、からすは呪弓「流逆」より瞬速の矢を放つ! 一匹の翼を射抜き、墜落させた。
「視認できても避けられない攻撃――さあ、君たちはどっち?」
 からすは矢を装填する。味方を倒され、なお迫ってくる鳥たちに、今度は幻惑する一射、朧月を放った。
 からすの隣に、ほとりがいた。ほとりは松明を持っていない。仲間に渡したのだ。今、彼女は弓を引き絞っている。
「こちらに来る前に、一匹でも多く‥‥」
 ほとりの声は戦闘前と違い、淡々としたもの。彼女は金色の矢を放つ。即射にて、さらにもう一撃を加えた。
 現在、松明を持っているのは、水津。彼女も後衛に陣取っていた。その瞳には、決意の色。
「焔の申し子にして焔の魔女‥‥火焔纏う巫女こと水津とは私の事です‥‥。焔は守ってみせます‥‥」
 片手で松明を、片手で箒をしっかりと握りながら、結界にて敵を探る。
「近づいてきている敵は、前方に見えるものだけ‥‥近くに隠れているものはいないようです‥‥」
 仲間に知らせた。

 開拓者の矢や術が、アヤカシ鳥の数を減らす。しかし、鳥は怯まず近づいてくる。近接攻撃を仕掛けられる距離まで、やってきた。
『グァァァ!!』
 鳥の一匹が甲高く鳴く。声に応じ、六匹が動いた。三匹ずつに別れ、上から襲いかかってくる。標的は――焔騎と狸毬。
 だが、
「無駄っ! 例え台風が直撃しても絶えぬ焔の志士、天ヶ瀬! それが俺だっ!!」
「ほい、ほいっ〜と。そっちじゃなくて、こっちだよー」
 焔騎は業物の刃を閃かせ、三本のくちばしを捌く。一体に刀身を叩きつけながら、焔騎は大音量で怒鳴った。
 相手をからかうように、間延びした声を出すのは、狸毬。背をそらしたり、飛び跳ねたり――不規則な動きで回避する。

 一方、无が動かしていた人魂は、鳥に突かれ消えた。
「巴は、私が直接対峙した敵の気しか、読み取れないようだね。なら‥‥おっと!」
 呟く无めがけ、別の鳥一体が飛んでくる。しかし、无は巴により、回避。火輪を飛ばし、鳥を撃墜した。
「さぁ、ボクらの邪魔はさせないよ、燃え尽きろ!」
 香澄は前衛にいた。敵を観察する。敵四体が、香澄からみて、一列に並んでいた。
 彼女は、炎の獣を生成。獣の口から放つ炎で、鳥四体の体を焦がす。絶命へと追いやった。

 鳥はまだ残っていたが、開拓者の猛攻に戦意を失ったようだ――散り散りに飛び去る。
 開拓者たちは、周囲に他のアヤカシがいないことを確認。そして、炎を届けるべく先を急ぐ。

●駆ける猪
 一時間ほど後。
 狸毬とほとりは先行偵察の途中。
 たった今、超越聴覚と鏡弦で、前方の敵に気づいたところだ。ほとりは仲間に知らせるため、空鏑の音色を鳴らす。
 どすり。前方から足音。どうやら、敵――猪のアヤカシも空鏑の音に気づいたようだ。こちらに近づいてきている。
 二人は、視線を交わし合う。来た道を駆け戻った。
 はたして、二人は――仲間五人との合流に成功。七人で陣形を整える。

 からすは赤い目で敵を見据えた。猪は、地面を抉るように駆けてきている。が、まだ開拓者との距離はあった。
「ほとり殿、偵察して貰ったばかりで悪いけれど――連携を頼めるかな?」
 ほとりは、小さく頷く。
「大丈夫です。では、私は胴を」
 二人は、それぞれ弓の弦を弾いた。瞬速の矢を、即射を用いた二本の矢を、敵へ襲いかからせる!
 猪の顔や胴に傷。傷口から瘴気が、地に零れた。猪は苦痛に吠える。そして、さらに距離を詰める。
「我が苦無に貫けぬものなし、故に必殺!!」
 狸毬は、二本の苦無を敵の顔面へ投じた。突き刺さる。猪の傷が増えた――が、倒れる様子はない。
「‥‥必殺‥‥なんてわけないよねー」
「でも、確実に効いてる。ボクもいくよ。――これで足止めだっ!」
 肩を竦める狸毬。彼女に、香澄が声をかける。香澄は忍刀を構えつつ、力を使った。小さな式を敵の足元に呼び出し、敵の動きを鈍らせる。
 動きの鈍った猪の体当たりを――焔騎は、腕につけたガードで受け止めた。
「邪魔をするってんなら、一切容赦しないぜ!」
 刀身に紅い燐光を纏わせ――
「喰らえ、朱雀悠焔――ッ紅蓮椿!」
 ――敵を真正面から突く! さらに斬り払う!
 猪は悲鳴を上げる。横向けに倒れた。
「まだですっ――気をつけて」
 注意を呼び掛けたのは、最後尾で松明を持っていた无。
 そう、猪はまだ生きていた。体を起こし反撃の一打を放とうとしていた猪に――无は、燃える輪を投げつけた。

 毛皮を焦がされつつも、猪はそれでもなお起き上がる猪。
 それを見て、水津は妖しい笑みを浮かべた。彼女の眼鏡が、輝く。陽の光を反射して。
「焔の魔女が絶え間無く放つ火焔攻撃‥‥あなたに耐えきることができますか‥‥? くっくっくっくっく‥‥」
 創りだしたのは、清浄に煌めく焔。水津は敵の体を焼く。更に焔を創り、敵の体を燃やし尽くす。
 猪は再び倒れ――今度こそ起き上がらなかった。

●伝統行事と温泉と
「おお! 隣村から、来なさったか! 待っておりました。お怪我はありませんか」
 サバシ村までたどり着いた開拓者を、村人たちが出迎えてくれた。
 村人の見守る中、開拓者は白髪頭の村長に、松明を手渡す。
 行事は終了した。村人たちは、拍手と感謝の言葉を、開拓者たちに贈る。
 三歳くらいの女の子が開拓者に近づいた。そして、ちょこん、頭をさげる。
「おにーちゃん、おねーちゃん。ありがとー」
「どういたしましてー。皆さんのお役に立てて、私も嬉しいです」
 女の子の言葉に、ほとりが顔をほころばせた。頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
「ん、うまく依頼を達成できたね♪」
「伝統の担い手になれた‥‥そう考えると感慨深いなぁ。後で、伝承の聞き取り調査もしてみようかな?」
 香澄は微笑ましげに村人たちを見やる。无は、二つの村の伝統と歴史に想いを馳せているような顔。

 空の西側は赤く染まっている。
 開拓者たちは水着をつけ、温泉にやってきていた。帰り道にアヤカシを掃討したいという者もいたが、依頼は達成済み。相談の結果、まず村で休憩し疲れをとろう、という話になったのだ。
 温泉は広い。透明な湯に、皆で体をつける。
「うーん、やっぱり温泉は休まるね。気持ちいいよ♪」
「うん、本当にそうだね。私、温泉楽しみにしてたんだ。ほら、お湯に入れる香り袋も用意してきたんだよ?」
 香澄は、温泉のふちの岩に背中を預けていた。沈みかけている太陽を見、ふぁ‥‥と心地よさげな息。
 香澄の言葉に、ほとりが返した。ほとりのつかっている場所から湯の香りに混じり、柑橘系の爽やかな匂いが漂っている。
「お疲れ様。疲れを癒すのに、酒は如何? 冷たい茶もある」
 からすは皆をねぎらいつつ、二つの容器を見せる。からすが持ち込んだ酒と茶が、入っているのだ。
 焔騎が、からすから酒を受け取った。礼を言った後、ゆっくりと口をつける。
「こういうのも、久しぶりだな‥‥悪くない」
 肌に染みる湯と胃に入る酒に、焔騎は目を細めた。
「では、私も貰えるかな、からすさん。あ、ありがとう‥‥んー。やっぱりお酒が旨いねぇ」
 无も酒を貰っていた。杯を口へ傾けつつ、女性陣の水着姿をそっと見る。眼福だと、心の中で一人ごちた。

 狸毬が飲むのは牛乳。陶器に入れた牛乳をんっく‥‥んっく‥‥と飲み干した。
「ぷっはー‥‥それにしても‥‥んー、細いなぁー‥‥いいなー‥‥うらやまし‥‥くないよー、ほんとだよー」
 彼女もまた、仲間の女性に目をやる。豊満な自分と、細身の水津の体を見比べて、羨望を顔に浮かべたり、誰にともなく言い訳したり。
 水津は貝殻とパレオ、赤い布を組み合わせた水着姿。先程まで、黒髪を丁寧に洗っていた。今は湯の中。
「細い‥‥? 私、貧乳じゃないもん‥‥」
 狸毬の台詞と視線に気づき、水津は恥ずかしがった。あらぬことを口走りつつ、自分の体を頭の先まで、湯の中に沈めた。体を隠しているらしい。ぶくぶく‥‥、湯の中から泡。
 その様子に仲間の何人かがくすり、と笑う。

 ふざけ合い、あるいは穏やかな空気に浸る開拓者たち。その頭上の空は徐々に藍色へ。月が姿を見せていた。