|
■オープニング本文 とある村。二人の男女が歩いていた。女はこの村の村長。男は村長の客人。 二人は村長の自宅へと向かっているようだ。 「いやあ、村長さんのお宅にある武具は、そんなに立派なものなのですか」 「ええ、そのうち一つは、名剣。その刃に一度も血がついたことがないという触れ込みでして」 それって、単に一度も使われてないから、血が付いてないだけでは――とは客人は突っ込まない。 「槍と盾は、伝説の防具職人の、妹の婿の親友の近所に住んでいた、職人が作ったという代物だそうで」 伝説の職人、関係ないよね――客人は突っ込まない。 「さらに兜は――とても繊細な兜で、大きな衝撃を受けると壊れてしまうのだとか」 不良品じゃん! 客人はあくまでにこにこ。 会話しつつ、二人は、村長の家の前まで辿りつく。 家の扉は開け放たれていた。そして――中には、鬼が三匹。村長たちを見て歯をむき出す。威嚇しているのだ。 鬼のうち、一匹は剣を、一匹は槍を、それぞれ手にしていた。別の一匹は兜をかぶっている。 「いやああ?! 私の武器が!?」 女村長は甲高く喚いた。 「……という事が、近くの村であったらしいです」 ここは神楽の都の開拓者ギルド。受付が、開拓者に依頼の説明をしている。 どうやら、村に鬼達が出現し、村長宅に侵入した。 「鬼達は現在も村長宅に陣取っています。 村長さんとお客さんは無事に逃げだしており、現在のところ怪我人は出ていません。でも、放置しておけば、被害は必ず出るでしょう。 その前に、皆さんに鬼退治をしてほしい、とのことです」 村長や他の目撃者の話によると、鬼は三体。 一匹は槍を、一匹は剣を手にし、また最後の一匹は兜をかぶっている。 槍を持つ鬼と、剣を持つ鬼は、ともに2メートルを超える巨体で怪力。技術はないが、当たれば威力は大きいだろう。 兜をかぶった鬼は、格闘を得意とする。 とくに、かかとを脳天に叩きつけられれば、回避や攻撃に支障が出るかもしれない。 さらに、拳の形をした気の固まりを遠距離に放つこともできる。 なお、戦場となる村長宅は、出入り口は玄関のみ。また、アヤカシは玄関すぐそばの居間に陣取っている。居間は、何とか開拓者全員とアヤカシが入って戦える広さ。 それから、受付は困った顔をした。 「それから、アヤカシが持っている武器は、村長さんが集めたものらしく、出来れば、あまり傷つけないでほしい、とのことです。 ただ、これは『出来れば』とのことなので、必要なら、傷つけても壊しても仕様がない、とのことです」 しばらく 「ちなみに――村長さんの武器は――多分、パチモンですね。 剣と槍は、普通に武器として使えるようですが、伝説の武器ではないです。兜は、壊れやすい不良品」 「村長さんは武器や防具がお好きなようですから、依頼を無事終えたら、皆さんの武器を見せたり、武器や防具のお話をしてあげると、喜ばれるかもですね。 アヤカシを見て、心を痛めているでしょうから、励ましてあげるのもよいのでは?」 それでは、ご武運お祈りしています、と受付は貴方達に頭を下げた。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
水無月 湧輝(ia0552)
15歳・男・志
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
紫堂(ib4616)
22歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●対面 開拓者たちは、村長の家の前に立っていた。その家は、わらぶき屋根。壁が変色するなど、年月を感じさせる。 周囲には、開拓者以外の人物はいない。アヤカシの存在を知り、皆避難したのだ。ここまで案内してくれた村長も、今は村外れの安全な場所で、待機している。 開拓者の一人、新咲 香澄(ia6036)。彼女の紫の瞳は、家の入口に向けられていた。その奥にアヤカシがいるのだ。 「ん、今はこの家から出てないようだけど、村に被害が出ないうちに退治しないとね!」 明るくかつ使命感に燃える口調で言う。 「うん。早く倒してしまおう。――武器を持って暴れるアヤカシ、相手にとって不足はないしね」 香澄に、水無月 湧輝(ia0552)が不敵に笑みながら同意した。湧輝の手は、刀の柄に添えられている。 バロン(ia6062)は、弓に矢をつがえながら、仲間に告げる。 「武具を傷つけるわけにはいかぬ。出来る限り、敵の攻撃は受けずに避けるようにな」 たとえ、村長の武具が、余人には理解できない物でも、村長にとっては、何よりの宝なのだろうから。 「うん。他にも武器を壊さないために、出来るだけのことはやってみよう。色々考えてきたしね」 琉宇(ib1119)は、バロンの言葉に小さく頷く。琉宇は、軽くだけ眉を寄せた。あらかじめ立ててきた作戦を頭の中で確認しているようだ。 三笠 三四郎(ia0163)は皆の顔を見る。 「‥‥皆さん。準備はよろしいですか」 仲間に確認を取った後、息を吸い込む。 そして、地を震わすほどの雄叫びをあげた。 数秒後、家の中から複数の足音。 やがて、家の入口に、足音の主――三体の鬼が姿を現す。 三体の鬼のうち、二体は筋骨隆々の巨体。手には、それぞれ剣と槍。 一体は長身。手足が長い。頭には兜がある。 先頭に立つのは槍の鬼。彼は三四郎に槍の切っ先を向けながら、近づいてくる。槍の鬼は、咆哮の影響を受けているのだ。 他の二体も、開拓者たちを敵と判断したらしい。武器を構え、こちらに歩いてきた。 鬼たちが持つ武器は、高価にも高品質にも見えない。兜は、いかにも薄っぺらい。欠陥品だ。 しかし、浅井 灰音(ia7439)と趙 彩虹(ia8292)は気づく。剣も槍も兜も、どれもきれいに磨かれている。丁寧に手入れされているようだ。 「村長さん、大切に保管していたんだろうね。なんとしても無事に取り戻してあげないと、ね」 「武器に対する想い、受け取りました! 全力を尽くしますよ♪」 二人は互いに視線を交わし合い、そして視線をアヤカシ達へ戻す。 ●激突 琉宇は、皆の後方で、バイオリンに弓をあてがう。 (武器を傷つけないで。大切に扱ってほしいんだ) 想いを、心の旋律に載せ、歌い奏でる。 アヤカシたちは琉宇の曲をどう受け止めたのか。少なくとも、武器を手放す気配はない。 「いくよ、彩!」 「うん。いこう、ハイネ!」 灰音は短銃の引き金を弾く。弾丸は、兜の鬼の足元に、突き刺さった。鬼の脚が一瞬だけ止まる。 その隙に、彩虹は駆ける。敵との距離を一気に詰めた。棍で胸を打つ。敵の動きを牽制する。 しかし、兜の鬼は、動きを止めない。両腕を光らせる。掌から気の球を生み出し、灰音へ投げつけた。 顔面めがけ飛んでくる気。灰音はそれを、首をわずかに動かす最低限の動きで、避けた。虚心で攻撃の軌道を見切ったのだ。 一方、三四郎は槍の鬼と対峙していた。 鬼が槍を振る。槍を棍棒のように扱い、三四郎の腹を横殴りにしようとする。 バロンは鋭い眼差しで、鬼を見据える。 「力だけはありあまる敵のようだの。――三四郎、援護させてもらおう」 バロンが、墨色の弓より先即封の矢を放つ。バロンの矢は、鬼の脚をかすめ、鬼の動きを鈍らせた。 鬼の槍は、三四郎には当たらず、空を切る。三四郎はバロンに視線だけで礼を言うと、 「武器を破損なく奪うには‥‥腕、ですね。まずは牽制からいきましょうか」 体中から気を発し、槍の鬼を威圧する。鬼をひるませ、さらに、相手の脚を突いた。 「があああああああ!!!」 槍の鬼は、痛みと怒りに喚いた。 怒りが、仲間の鬼にも伝染したのか。鬼は三体とも、苛烈な反撃を加えてくる。兜の鬼が蹴り、槍の鬼が突く。 さらに―― 剣の鬼の斬撃が、湧輝の肩をえぐった。湧輝は悲鳴をあげないが、それでも苦痛に足が揺れた。 そんな彼に、子狐の形をした式が近づく。式は前足で彼の体を撫でた。 それは、香澄の治癒符。 「水無月さん、頑張って!」 凛とした声。香澄は清浄な力で、仲間の体を癒しきる。 香澄の術と声援に、湧輝は体勢を立て直した。細かい刺突や斬り払いの技を繰り出し、剣の鬼を消耗させていく。 「これで苛立って‥‥大ぶりの一撃を出そうとしてくれれば‥‥その時の一瞬が勝負‥‥」 攻撃を繰り出し続ける湧輝。彼の瞳には、強い意志が宿っていた。 ●決着 開拓者と鬼の戦いは、一進一退。しかし、激しい戦いにも関わらず、鬼が持つ武器は傷ついていない。 開拓者たちが、武器に武器を強く当てないよう、兜が地面に落ちぬよう、細心の注意を払っていたからだ。 琉宇は自分の手を見おろす。怠惰なる日常や共鳴の力場を奏でるつもりだったが、調子が悪く、今回は出来そうにない。 けれど、琉宇は焦った様子を見せない。アヤカシたちに語りかけた。 「さっきの心の旋律は、あまりお気に召さなかったみたいだね。‥‥じゃあ、曲を変えよう。こういうのは、どうかな?」 ゆっくりと手を動かした。穏やかな調子の曲が戦場に流れる。‥‥その音は聞く者を眠りに誘う、夜の子守唄。 槍の鬼の脚が崩れた。両膝が地面に着く。眠りに落ちたのだ。 剣の鬼は、起きてはいたが、仲間が眠ったことに動揺したのか、剣の切っ先をわずかに震わせた。 「皆さん、今が好機です。畳み掛けましょう!」 三四郎が仲間に呼びかけた。同時に、鬼腕で己の力を増幅させる。三つ又の穂先で、剣の鬼の腕を狙った。 三四郎の一撃は、鬼を抑え込むには至らない。が、穂先が腕をえぐる。与えた苦痛で、鬼の体をのけぞらさせる! 湧輝は、鬼の懐に飛び込んだ。下段に構えた刀に炎をまとわせ、 「‥‥秘剣、落椿‥‥」 全身のばねを活かし、鬼の手首に――斬撃。剣の鬼の傷をより深いものへ。 だが、鬼は戦意を失わなかった。痛むだろう腕を動かし、剣を振りかぶる。 バロンは、敵の反撃を許さない。 「弓術師のわしから注意をそらすとは、うかつ。報いを受けるがよい」 六節を利用した、二発の猟兵射。バロンの矢は、鬼の首と眉間に、違うことなく命中する。 剣が地面に落ちる。鬼の命が尽きたのだ。 戦いは、開拓者有利のまま展開する。――ほどなく、開拓者たちは、槍の鬼の退治にも成功した。 残る敵は、兜をかぶった鬼のみ。 兜の鬼は、足を持ち上げる。高くあげられたかかとが、彩虹の脳天へ迫った。 だが、彩虹は棍で、鬼の脚を捌き、防御。 「皆さんも鬼を倒したようですし、そろそろ本気で行きますよ♪」 彩虹は、腕に気を集中させる。白い気をまとわせた棍で、鬼のみぞおちを正確に打つ。 白い気が、虎のごとくの唸り声を発しながら、鬼の身を貫いた。 灰音は、鬼の背後に回っていた。 腕を振りぬく。鬼の脇腹に片手剣の刀身を叩きこむ。 鬼の顔が苦痛と恐怖で歪む。首を左右に動かしはじめた。戦意を失い、逃げ道を探そうとしているようだ。 「逃がすわけにはいかない。頼む、香澄さんっ!」 「了解だよ、浅井さん! ――さあ、アヤカシ。ボクの火輪に耐えられるかな?」 灰音が呼びかけ、香澄が応じた。 香澄は「玉藻御前」を持つ手に精神を集中し、二撃の火輪を飛ばした。炎で、鬼の体を焼き焦がす! ――そして、鬼を終わらせた。 ●鬼退治の後は 鬼は兜をつけたまま倒れそうになったが、三四郎、彩虹、灰音が、鬼の体へ手を伸ばし、兜が地面に落ちることを防いだ。 三四郎は、仲間たちと兜や武器の具合を確認する。傷がないのを知り、 「無事回収できましたね。多少、痛い思いをしましたが‥‥」 と安堵の息を吐いた。 やがて、開拓者たちは、避難していた村長のもとへ、報告に行く。村長はアヤカシが退治されたのを聞き、喜ぶ。無事な武具を見て目を輝かせた。 村長は笑顔で、開拓者たちを家へと招待してくれた。 そして、今、開拓者たちは、村長宅の客間で、茶を飲んでいる。 「村長さんの武器、壊れてなくてよかったよ〜。――ん、ボクの刀? ‥‥ああ、これは、その辺で売っている普通の刀だけどね」 湧輝は村長に向かって微笑む。女村長が開拓者たちの武器に興味を示しているのに気付くと、自分の刀を見せた。今回、湧輝と共に戦った刀だ。 他の者も、自分の武器を披露していく。 「私は、虎的なものを好みますが、中でもこの二つは別格です。実戦を何度も経験し、改良に改良を重ねて仕上げましたから♪」 彩虹は立ち上がると棍を軽く振る。そして、身につけた、白い聖獣を思わせる防具に視線を移す。『雷同烈虎』と『まるごととらさん』。どちらも、彩虹が愛用する武具。 「‥‥私がジルベリアの武器を使うのは、お母様の影響が大きいかもしれないね。お母様もジルベリアの大剣を使っていた時期があるらしいんだ」 灰音は、『ヴィーナスソード』を掲げて見せながら、ジルベリア製の武器への想いを、静かな口調で語る。時折、右目を瞑り物思う表情に。 村長は武器を凝視。開拓者の言葉の一つ一つに、熱心に頷く。手帳を取り出し、武器の絵や解説を書き始めた。 香澄はおもむろに自分の髪に『風也』の刃を押しつける。 「この刀は、切れ味は十分♪ でも、女性の髪だけは斬れない名刀なんだよ?」 目を丸くする村長の前で、香澄は「ね、斬れないでしょ?」と、愉快そうに笑って見せる。 琉宇が見せたのは、装飾の施されたバイオリン。 「楽器も吟遊詩人にとっては、武器かなあ? ――これで、いろんな想いを伝えることができるんだ。たとえば‥‥」 琉宇はバイオリンの弓を操り、再び、心の旋律を奏でる。優しい愛の詩に、女村長は目を閉じる。うっとりとした顔。 バロンは、村長が出してくれた茶に口をつけつつ、目を細め穏やかな表情で、村長や皆を見ていた。 (彼女の願い、叶えれたようだの) 声に出さず呟く。 音楽に聞き惚れる村長の背後には窓。 窓の向こうには、外が見える。開拓者が守った村。村の上の青空を、雲がゆっくりと流れていた。 |