明日のために、宴会！
マスター名：えのそら
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| ■オープニング本文 武天は此隅にある開拓者ギルドを、一人の老婆が訪れた。 「あ、はじめまして……、わしゃ、近くの村で村長をしておるものですじゃ。歩いて半日ほどのところにある人口１００人程度の村です」 髪の毛が真っ白で、腰の曲がった彼女。彼女はギルド員へ自己紹介した後、本題に入る。 「今回は、開拓者の皆さまに、宴会を手伝っていただきたいとお願いに来ましたのじゃ」 村長は続けた。 「実は、我が村は三か月前、アヤカシに襲われまして……。幸い、通りすがりの開拓者さまのおかげですぐに退治され、村人に被害はなかったのですが……なかったのですが……」 ぶるり、と老人は身を震わせた。細い腕で両肩を抱く。 思い出すだけで、体が震えるのだと説明する。 他の村人たちの多くも、同じようにアヤカシの襲撃を思い出すたび震えたり、あるいは眠れぬ夜を過ごしたり、しているのだという。 「他にも、村の子供たちは外で遊ばなくなってしまいました。村から、笑顔や活気が消えてしまったのです。」 村長はため息を突く。 「アヤカシを恐れるのは必要な事でしょう。ですが……これでは……」 そして、声を張り上げて言う。 「そこで、ワシは提案したのです！ 宴会を行おうと。――村の広場で皆を集めて、大宴会を開こうと」 『宴会で騒げば、元気や笑顔を取り戻すきっかけになるだろう』と考えたのだ。 幸い、村の有力者たちは、人手や資金を提供することを申し出てくれた。 村人たちも、多くが賛同。忙しくて来られないものもいるが、村人のうち８０人程度が参加を表明している。 「ですが……わしらは、大規模な宴会をした事がありません。どんな料理を出せば皆の元気が出るか、わかりません。 料理や酒のほかに、何か余興をしたいとも思うのですが、芸を披露できる村人もおりません」 「そこで、開拓者の皆さまに、料理と余興をお願いしたいのです」 村の若者１０名も手伝ってくれるが、宴会や余興に関する知識はない。料理は家事レベル。 開拓者が主導して行う必要があるだろう。 その代わり、食材などの調達は村人たちが行ってくれる。 特に、この村では牧畜も行っている為、牛や豚、鶏などの肉類は比較的豊富に手に入るだろう。 料理は、手に入る材料の範囲で、自由に作って構わない。 余興に関しては、開拓者自身が、村人の前で何か芸を披露してもいい。それ以外にもよい考えがあるなら、是非やってほしい。 「皆さんが村に到着してから、四日後の夜に宴会を行いますじゃ。 では、よろしくお願いいたしますじゃ」 老婆は深く頭を下げたのだった。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃（ia0191）20歳・女・泰 
荒屋敷（ia3801）17歳・男・サ 
琥龍 蒼羅（ib0214）18歳・男・シ 
シルフィリア・オーク（ib0350）32歳・女・騎 
幻獣朗（ib5203）20歳・男・シ 
エラト（ib5623）17歳・女・吟 
玉響和（ib5703）15歳・女・サ
ティエル・セシル（ib5921）15歳・男・吟 |
| ■リプレイ本文 ● ドンドン♪ ヒャララ♪ 村の広場から、笛や太鼓の音。 開拓者たちは、今朝村に到着し、さっそく宴会の準備を開始していた。 広場では、荒屋敷（ia3801）とティエル・セシル（ib5921）が村の青年達に、笛と太鼓の演奏を教えている。当日は、この曲に合わせ踊るのだ。 「いいぜ、ノってるな！ この音と拍子、よぉく覚えとけよ！ これにあわせて踊んだからなっ」 手で拍子を取り言うのは、荒屋敷。一人一人の目を見て指導。時折、親指を立て褒めてやる。 「もう少しだけ強く、息を吹き込んでください。‥‥そう、その調子。‥‥しかし、宴会での演奏‥‥。一座にいたころを思い出しますね」 うまく出来ないものへ助言しているのは、ティエル。ティエルは教えながら、偶に遠くを見るような目をした。 二人のノリと丁寧さは、青年達のやる気に火をつけた。楽器の音が、一層盛んに響く。 楽器の練習が一段落すると、琥龍 蒼羅（ib0214）と玉響和（ib5703）が青年たちに木刀を配る。 剣術を教える為だ。宴会とは直接関係ないが、青年たちや村人たちに、勇気を与えようと。 「期間的に、基本しか教えられないが、しかし意味はある筈だ。まず、姿勢と刀の握り方を‥‥」 蒼羅は落ち着いた口調で、教授する。真摯な態度に、青年たちも神妙な顔つきに。 「アヤカシを恐れないのは、無謀。刀一つで全てどうにかなる訳では、ありません。けれど、少しでも刀を振れれば、自分の身や大切な人を、守れるかもしれません」 和は真面目に説き、振り方の手本を示すべく抜刀した。途端――、和の顔つきが変わる。鋭い眼で前方を見、ヤァ！ 鋭い掛け声。上段から刀を振り落とす！ 練習に励む皆の元へ、長い黒髪の男性、幻獣朗（ib5203）がやってくる。料理の載った皿を持って。 「皆さん、お疲れ様です！ 練習の合間に、よかったらどうぞ！」 差し入れるのは、おにぎりを薄い牛肉で包んだもの。 おにぎりで活力を得、皆は一層、練習に力を入れる。 踊りや剣術稽古の音は、少し離れた村外れの、原っぱまで響いていた。 ここにいるのは、シルフィリア・オーク（ib0350）と村の女性達。シルフィリアは、村の女性たちの前で踊っていた。 ダボシャツに膝上丈位の白パッチ、その上に毛皮を纏う。そのいでたちで、両手を激しく振る。足でステップを刻む。激しい踊り。この踊りはアヤカシに苦しむ人々が、平和への願いを情熱に昇華させたもの。 「わかったかい？ これが樹理穴踊りさ。あたい達で、皆の怖れをふっとばしてやろうじゃないか」 踊り終わると笑む。今からこの踊りを教えるよと、不敵に。 女性たちは始めて見る踊りに困惑するも、それでも村の為なら、と頷くのだった。 村長宅では、水鏡 絵梨乃（ia0191）が村の婦人と、料理作りを行っていた。 「お姉さん、後で味見お願いしますね？‥‥芋羊羹は作り慣れてるから、味は保証します」 絵梨乃は、婦人に愛想良くしつつ手際良く料理を進めていく。鍋の中に裏ごししたさつま芋をいれ、かき混ぜた。 自分の好物を皆にも好きになって欲しいからか、手つきは丁寧。 エラト（ib5623）は、同じ家の二階にいた。座布団の上に座り、作業している。 「樹理穴踊り‥‥シルフィリアさんに聞いた限りでは、これは欠かせません。裏方を引き受けたのです。しっかり作りませんと」 彼女が作っているのは、踊りに使う羽付き扇。細く切った竹に、紙を張る。そして羽をつけ、――エラトは精神を集中し作業を進めていく。 ● 翌日も、祭りに向けた練習は行われる。 踊りの稽古が始まるが、若者の一人が動こうとしない。恥ずかしがっているのだ。 もじもじする彼の背を――荒屋敷はパンっと叩いた。 「恥ずかしがるこたぁ、ねぇ。当日はお面つけるんだ。誰かなんてわかんねーしよ、失敗とか気にせず、ガンガンやりゃあいいって！」 力強い声と表情で、赤い顔の青年を励ます。青年は恥ずかしいのを堪え、踊り出した。 踊りの指導には、今日は蒼羅が加わっている。当日の踊りの際に彼も演奏をするからだ。 「次は、楽器の音に合わせ踊って貰おうか」 蒼羅は、目を閉じ指先をリュートの弦に。ぽろろん‥‥軽快に曲を奏でた。 踊りの次は剣術の授業。 「構え方が違う。そんなじゃ、自分の身を守るどころか傷つける。ほら、俺の構えをよく見とけ」 和は、青年の一人を叱咤。刀を構え、教え子に見せる。 きつく叱咤するのは、和が刀を持てば性格が変わる性質だから。しかし、刀の有益さと危険さを知るが故に、強く叱る――そういう側面もあるかもしれない。 和や若者達の額に、うっすらと汗の滴が浮かんでいた。 荒屋敷、蒼羅、和。彼らの指導は、青年たちに力を、確かに取り戻させつつあった。 シルフィリアも、村の女性達に力を与えようとしている。 ここは村長宅の二階。集まった女性、その一人の前に立ち、手を動かしている シルフィリアは口紅で、女性の唇をすぅとなぞる。化粧を施しているのだ。 「ほら、鏡をごらん。どうだい？ 踊りの日も化粧して、髪も結って、綺麗な着物で、行こうじゃないか。皆もおいで。化粧を教えてあげるよ！」 他の女性にも化粧を施すべく、手招きする。 同じ村長宅の一階では、料理の試作会が行われていた。 「おいしーっ！ エラトって料理上手なんだね！ ――他にもまだ何か作るの？ なら、ボクも手伝わせて！」 「旅先で食べた物をこちらの材料でアレンジしたのですが、美味しくできたなら、何よりです。‥‥手伝って頂けるのですか？ なら、白菜を‥‥」 絵梨乃は、肉の刺さった串を一口し、感嘆の声をあげる。 只の串焼きではない。肉を天儀酒などで作ったタレに、一晩漬けこんでから、焼いたもの。 作ったエラトは、絵梨乃の称賛に、はにかんだ笑みを浮かべた。そして、手伝ってくれるという絵梨乃とともに、別の料理の製作に取り掛かる。 時間が経過し、幻獣朗とティエルは村の外にいた。彼らも料理の試作や手伝いをしていたが、今は買い物をする為、隣町への道を急いでいる。 「お酒はやっぱり必要ですよね♪ 村にもあるけど、種類と量を揃えておかないと。私達も飲んでいいそうですし♪ ――ところで、幻獣朗さんは何を買うんです？」 「村の人たちに元気と幸せを与えてくれる物、ですよ。思いついた事がありましてね」 ティエルの問いに、幻獣朗は悪戯っぽく片目を瞑る。 ● 準備期間の三日のうちに、開拓者らは必要な物を買い、或いは作る。余興の練習も余念なく。そして、宴会の夜を迎えた。 パチッ。広場中央に置かれた篝火がはぜる。灯りが、車座に座る七十人余りの村人を、照らす。 幻獣朗は、篝火の傍にいた。村人全員に飲み物がいきわたったのを見、杯を掲げる。 「では、乾杯の音頭を。――村の仲間と、明日のために！」 「「村の仲間と、明日の為に」」 杯と杯がぶつかる音。 「さあ、皆。注目っ！」 広場中央から呼びかけるのは、絵梨乃。足元に置いた毬を、蹴りあげる。毬は放物線を描き、地面に落ち――ない。落ちる前に、足で再び宙へ。 絵梨乃は蹴る毬を、三つに増やす。三つの毬は、脚へ宙へ肩へ、また脚へ――。最後は三つの毬をひときわ高く蹴り、 次の瞬間、絵梨乃の脚が蒼く光った。その爪先を、絵梨乃は毬へ叩きつけた。雷鳴に似た衝撃音！ 毬は――破裂。 広場は静まり返る。数秒後――大歓声！ 続いて、広場中央に立つは、蒼羅と和。 「さあ、俺たちの出番だ。全力を尽くそう」 「う、うまく出来るかわかりませんが‥‥――はっ！ この俺の技、目に焼きつけろ‥‥っ！」 観衆の前で、あくまで落ち着き払っている蒼羅。 和は緊張した面持ちを見せていたが――刀を抜いた途端、雄々しい声をあげた。 二人が披露するのは、剣の演舞。和が強く刀を振り、蒼羅は斬竜刀を素早く回転させる。二人の刃が篝火の光を反射していた。 そして、二人は、村人が持ってきた丸太の両側に立つ。目で合図をしあうと――二人は刀を一閃させる！ 和の直閃が、蒼羅の居合が丸太に命中――丸太は三等分に。 盛大な拍手。開拓者らの芸は、村人の心を掴んだようだ。 心を掴んだのは、芸だけではない。 「これが、噂のソースとお好みやき？ 食べたかったの！」 「鍋物もうまいぞぉ。体があったまる」 「これ、白菜の葉でお肉をくるんでるんだ。お汁もコクがあっておいしっ。串焼きもなんか風味が‥‥」 蒼羅が焼いたお好み焼きは、特に子供たちに人気。ソースで口を汚しつつ、かぶりついている。 幻獣朗の用意した焼き鳥と鍋料理はその温かさが好評。 特に人気なのは、エラトが作った天儀式ガルブツィーと特製串焼き。その珍しさと工夫の巧みさで、村人たちをすっかり魅了していた。 料理や酒を、近くの小屋から村人たちの元へ運ぶのは、エラト。 「お酒も料理も、今出した物がなくなるまで、少し余裕がありそうですね‥‥。今のうちに、次の一品を盛り付けておきましょう‥‥」 運びながらも、村人たちの様子を観察。料理やお酒が途切れぬよう、気配りを忘れない。 芸や料理の味、裏方の気配り。宴は盛り上がったまま、進んでいく。 「天儀のお酒もなかなか‥‥‥‥あ、そろそろ出番でした」 ティエルは村人と一緒に酒を酌み交わしていたが、頭を下げ立ち上がる。中央付近にいる荒屋敷と合流した。 「じゃあ、行こうか。女性陣にたっぷり活躍して貰おうぜ！」 荒屋敷が宣言し、二人は三味線を手に取る。 奏でるのは、アップテンポの力強い曲。 広場の中央に立つのは、祭り装束に毛皮の外套を着た、シルフィリア。 曲に合わせ、踊りだす。体を震わせ、揺らし、ときに手に持つベルを鳴らす。艶かしく、しかも熱く！ 自分に釘づけになった観客の前で、シルフィリアは外套を投げる。 「さぁ、不安な気持ちも何もかも、陽気に踊って吹き払おうじゃないさ！」 シルフィリアが誘い、化粧や薄絹の衣でめかした女性たちが、踊りに加わる。彼女らの手には、エラト作の羽扇子。 我を忘れたように、腕を振り体をそらせ踊りだす。 ティエルと荒屋敷も、演奏する指をより激しく動かした。 音に踊りに村人は歓声。村人も何人かが、踊りに加わっていく。 ● その頃、幻獣朗は、広場を抜けだし、少し離れた道端で蹲っていた。 足元には、隣町で買った「福寿草」の鉢。 「これを見て皆が微笑んでくれますように‥‥花が村に幸せを呼んでくれますように‥‥外に出た皆さんに力と笑顔を与えてくれますように‥‥」 幻獣朗は願いを込めつつ、黄色い花の苗を鉢から地面へ植え替えていく。 広場の宴は、いまだ賑やか。 先程、芸を披露したシルフィリアや絵梨乃は、今は村人と歓談している。 「‥‥え？ さっきの踊りすごかった、あたいみたいになりたいって？ 光栄だね‥‥でも、あなたならもっと素敵になれるさ」 シルフィリアの元に、少女が一人やってきた。尊敬の眼を向けてくる彼女を、シルフィリアは優しく撫でてやる。 絵梨乃は徳利を片手に、村人達にお酌をしていた。 「お酒のお替りはどう？ はい、どうぞ。‥‥あ、キミ、後で芋羊羹とお茶を出すんだけど、よかったらボクと一緒に‥‥」 などと、お酌しつつ、気に入った女子に声をかけてみたり。 エラトは、そんな皆を広場から見ていた。彼女は変わらず、裏方作業に徹している。お酒や料理の手配に給仕。気分の悪くなった者は、近くの小屋まで連れていき休ませる。 地味な役だが、手を抜かずきっちり勤め上げている。 「盛り上がっているようですね。まだ終わりそうにありませんから‥‥お酒を少し追加しましょうか」 エラトは手拭いを取り出し、顔の汗を拭いた。 しゃん。ひゃらら。 再び三味線が鳴る。リュートと笛の音がそれに続く。 荒屋敷、蒼羅、ティエルが、演奏を始めたのだ。 （さあ、踊りを楽しんでもらわないと） ティエルの頬は赤い。村人と共に、何升ものお酒を飲んだからか。 （‥‥練習では恥ずかしがっているものいたが、大丈夫だろうか‥‥いや、心配はいらないだろうな‥‥） 蒼羅は涼やかな顔。 （さあ、お前らの頑張りをみせてやりなっ！） 荒屋敷は、唇の端を少し釣りあげている。 三者三様の表情。けれど、彼らの指や口や楽器が紡ぐ音は、いずれも明るく愉しげで。 三人は、視線を広場の隅に向けた。隅から現れるのは、ひょっとこの面をつけた若者たち。 三人の曲に合わせ、手を動かし、腰をくねらす。 お面と踊りと音楽の、明るさと滑稽さに、村人の一人が笑う。笑いはたちまち村人全員に感染。 和も、村人たちと一緒に鑑賞していた。声に出しては笑わない。けれど、目を少し細めた。 「踊りもいいものですね。何より皆笑って‥‥。なごみ達が村人さんを楽しませてあげられたなら、嬉しいです」 口の中で呟く。 村人たちは陽気に笑い続けている。今日はこの村にとって、大事な日になるに、違いない。 |
