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■オープニング本文 武天は開拓者ギルドを、蒼い着物姿の女性が訪れた。 彼女はある町の女町長で、ギルドを訪れるのは二度目になると言う。 「開拓者の皆に、戦って欲しい。――剣ではなく包丁や鍋で。 そう、料理対決をしてほしいのだ!」 この町では、町おこしのため、夏に料理大会を行った。 その時、料理大会に出場したのは開拓者たちだ。素晴らしい料理が数多く出され、観客たちも盛り上がった。 「折角だから、開拓者に参加して貰っての料理大会を、恒例行事にしようと思ってね――開拓者を今回も募集したい! それぞれ選手となって、料理を作ってほしいのだ」 今回のお題は『屋台で鉄板料理』。 会場である広場に、選手の人数分の屋台を設置する。 選手は屋台で、それぞれ鉄板料理をつくり審査員たちに振舞うのだ。 鉄板で何を作るかは自由。 材料は町で用意してくれる。 この町や近隣の町では、牧畜や狩猟が比較的、盛ん。肉なら、新鮮で質のいい各種の肉が、比較的豊富に手に入る。 「ただ、新鮮な海産物や、季節外れの野菜や果物、泰国やジルベリア、アル=カマルの野菜や果物は手に入らない。干したり加工したものなら、手に入るが。 また余りに高級なものは手に入らない。その点は了承してほしい」 町長は続けた。 「屋台に必要な鉄板や燃料、その他は、我々が用意する。 人手が必要なら、町の中の青年団から人を出そう。特殊な技術はないが、成人男子として人並みの力はある」 「審査員だが――町や近隣の村の子ども、50人に審査員をしてもらう。 勝負は、夕食時。子どもたちにたっぷり美味しい物を食べさせてあげて欲しい」 食べ終わった後、子どもたちに採点して貰い、もっとも評価された者を優勝者とする。 「だが――採点には『美味しさ』だけではなく、今回は『楽しさ』も重視したい。 屋台で料理を作るさい、或いは料理をくばるさい、子どもたちを楽しませるようなパフォーマンスする等、工夫をしてほしい。屋台をうまく飾り立てるのも良いかもしれないな」 皆の自由な発想で、子どもたちを楽しませてやって欲しい、と町長は言う。 「なお、報酬は大会での順位や活躍の度合いに応じて支払おう。 それでは、料理と子供が大好きな開拓者諸君を待っている! よろしくお願いする」 頭をさげ、町長はギルドを去る。 翌日の昼。女町長は町に戻っていた。彼女が町中の通りをあるくと、道端で遊んでいた子どもたちが話しかけてくる。 「あ、ちょーちょーさん! こんにちはーっ! もうすぐりょーり大会だね!」 「私、前の日からご飯抜くってきめてるの!」 「ごちそう、ごちそう、たのしみ!」 口々に喋り出す子どもたち。 女町長は子どもたちに相槌を打ちながら、願う。 料理大会が成功し、子どもたちが、もっともっと笑顔になるように――と。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
にとろ(ib7839)
20歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●準備 日が沈み、広場の各所に設置されたかがり火台に火が灯される。バチ、飛び散る火の粉。 大会が始まるまで、まだ少しの時間がある。が、広場には、はやくも町の子どもたちが集まっていた。 男の子の一人は「俺、昨日からなんにも食べてないんぜー」と別の子に自慢。ある女の子は隣の子と顔を見合わせ、ひそひそ囁き合う。 広場の端では、四つの屋台が並べられている。 その一つで準備作業をしながら、長谷部 円秀 (ib4529)は一人ごちた。 (楽しみにしてくれているようですね。その期待に応えたいものです。喜んでもらえれば私も嬉しいですしね) そのためにも準備をきっちりしておかないと。 円秀はまな板においた豚肉を、包丁の背で叩く。とんとん、ととん。 町長から事前に聞いていた通り、この町で入る肉は高品質だ。卵も今朝産みたてのものが手に入った。良い料理ができると、円秀は口もとに笑みを浮かべた。 「あー、かえるがたくさんーっ」 別の屋台を一人の子どもが指差している。その子の言う通り、屋台には、木彫りのカエルやぬいぐるみのカエルがたくさん配置されている。 『ケロケロ亭』と書かれた看板にもカエルの絵。 かえるますたーこと、アルネイス(ia6104)の屋台だ。 アルネイスは指差した子どもに軽く手を振った。 そして連れてきた朋友・人妖ルーレンダーへ声をかける。 「ふふ、腕が鳴りますね〜♪ ルーレンダーちゃんも一緒に、頑張りましょうね?」 和服姿の人妖はぶぜんとした様子ながら、首を縦に。 「ねぇねぇ、お兄ちゃんはどんなお料理を作るのー?」 子どもの一人が、屋台の前で質問した。 尋ねられた風雅 哲心(ia0135)は涼やかな声で応える。 「出来上がってのお楽しみだ。興味があるなら、出来上がるまで見てても良いぞ?」 子どもと会話しつつも、哲心は準備作業の手を止めない。 醤油や酒、すったにんにく等を、椀の中で混ぜ合わせる。匙で小皿によそい、軽く味見。 (今日の審査員は子ども、なら甘い方がいいな。もう少しみりんを足すか……) 準備万端にするべく、哲心は作業を続ける。 一方。銀髪の猫獣人、にとろ(ib7839)はとろんとして眠たげな目。けれど、手は他の者以上に忙しく動いている。 白米に青ジソやゴマ等をまぜた、俵型のおむすび。単品でも美味しそうなそれを、下味をつけた牛肉にまきつける。 「まきまきにゃんすー」 独特の口調で言いながら、おむすびに肉をくるん、くるん♪ と巻きつける。 (良い子たちにぃ、お美味しいぃ鉄板焼きな料理をぉ、ご馳走するにゃんすよー) ぼんやりした顔つきながら、おむすびの一個一個に施す下準備は、丁寧に。 ●調理と実食 開拓者たちの準備は整った。 広場中央に青い着物の町長が立つ。町長は声を張り上げた。 「料理大会、はじめえええぇっ!」 そして、子どもたちの歓声。 四人はそれぞれ、既に熱していた鉄板に材料を乗せ始めた。 にとろの両手には、鉄べらがそれぞれ一つずつ。 「にっくにく、マッキマキ、コ〜ロコロ♪」 歌のリズムに合わせて、鉄板の上においた肉おにぎり十個を鉄べらで回転させる。 ヒョコヒョコ。揺れるのはにとろの腰から生えた、ふわふわ猫しっぽ。 肉おむすびの全面に焼き色がついた。 おむすびたちを中央によせ、取り出した円形の竹枠を鉄板の上に。おむすびを竹枠で囲う。 そして竹枠の中に、肉の付け汁――甘辛い味のそれを注いだ。 ジュジュー。蒸発する汁。湯気。 そして、 「はぁーい、『鉄板肉巻きおむすび』ぃ完成にゃんすー。 熱いからぁ気をつけてたべるにゃんすよー」 皿に乗せ、子どもたちに。 「いっただきまーす!」子どもらはおむすびをうけとり、食べ始める。 しっかり味がついた肉。でも、ご飯にゴマとシソを混ぜているので、後味はすっきり。 がっつがつ。夢中で食べる子どもたち。あっという間に完食。 「まだ貰ってない子もぉおかわりが欲しい子もぉ、これから焼くからぁ、待っててほしいにゃんすー」 にっくにっくマッキマキ♪ 歌いながら新しく焼き始めるにとろ。 彼女の歌を、女の子の一人がなんとなく真似しだす。 「にっくにく♪」 すると別の子も面白がって歌いだし、また別の子も……。 「「にっくにっく、マッキマッキ♪」」 にとろの屋台周辺で、にとろと子どもたちの歌声。 円秀は、にとろの屋台を眩しそうに見つめていた。 「流石、にとろさん。私も負けていられませんね」 十分に熱して湯気を立て始めた鉄板。その上に豚バラ肉を乗せる。 肉に火が通ったら千切りキャベツを加え、さらに炒める。 卵を流し入れ、片面が焼けたら 「よいしょっ」 へらで、ひっくり返す。その豪快な動きに、見ていた子どもたちがおーっと声をあげた。 そして、ハケでソースを塗る。零れたソースが鉄板の上で、じゅぅ。 果物や香辛料を使ったソースが焦げる。甘くてしかも刺激的な匂いが漂う。 (屋台で人を楽しませる要素は三つ。味とパフォーマンス、それに香り。この香りはどうでしょうか) はたして、円秀の思惑はあたったようだ。子どもの何人かが、ぐぅ、とお腹を鳴らし、ちょっと恥ずかしそうな顔をする。 ソースは最近出回ったばかり。子どもたちの中には、食べたことがない者も少なくない。興味しんしんの子どもたちの前で、円秀は料理に青のりと鰹節を振りかけた。 鰹節はソースの上でふわふわ揺れる。 「豚平焼きです。出来たてをどうぞ」 子どもたちは勧められるまま、豚平焼きに箸を入れる。 ソースで口を汚しながら、はふはふ貪る子どもたち。 円秀は満足そうに頷いた。 カエルグッズがたくさん置かれた屋台『ケロケロ亭』にも、子どもは多く集まっていた。屋台のすぐそばでは、幼子がカエルのぬいぐるみに抱きついている。 アルネイスは既に調理を始めていた。 にらと泰風ソバを炒め、途中で既に焼いたホルモンとソースを混ぜ合わせる。 「あのお肉って何のお肉?」「牛の肝だよ。うちでもたまに食べるんだー」 などと会話する子どもたちの前で、 「さぁ、仕上げ行きますよ〜♪ そ〜れっ!」 アルネイスは鉄ベラでソバを持ち上げ、ひょいっと空中に放りあげる。 そして――カエルの式を作りだす。 式は口を開き、宙に浮いたソバへ ボウ!! 小さな火炎を放射する。 「?!」 子どもたちの何人かが予想外の出来事に尻餅をつく。わあああ、口々に声をあげる。 「大丈夫ですか〜」 と尻餅をついた子どもたちに怪我がないのを確認してから、アルネイスは盛り付ける。天かすとちぎった海苔をかけて、完成。 「『ケロケロ亭の絶品ホルソバ』できあがりです〜。ルーレンダーちゃん、配るのお願いしますね〜。 あ、ソースは三種類ありますので、辛いのや甘いのが好きな方は言って下さい〜」 朋友の人妖に頼み、子どもたちに配っていく。 香りの強いニラと、コクと歯ごたえあるホルモンとの相性は、抜群。炎をかけたおかげで、余計な脂が抜け味も引き締まっている。評判は上々だ。 「ねね、もういっぺん、さっきのしてくれる?」「私にも作って」 アルネイスにせがんでくる子どもたち。いいですよ〜とアルネイスは朗らかに頷く。 哲心が焼いているのは、四角く切った豚の肩肉。鉄べらで肉を抑えつければ、ジュゥ、肉汁が音を立てる。 片面が焼ければ、手際良くひっくり返す。両面を焼けば、今度は火加減を弱めに。 「まず両面をしっかり焼くことで旨みを閉じ込め、次に弱火で中まで火を通す。こういうやり方もあるんだ」 集まってきた子どもたちに軽く説明する哲心。 哲心の屋台には、余りたくさんの子どもは集まらなかった。 肉が手に入りやすいこの町では、肉を焼くこと自体は、それほど珍しくないからだ。 けれど、何人かの子どもは、哲心の手際の良さ、火加減や焼きかた等の工夫の巧みさを、理解しているようだ。感心した瞳で哲心の調理を見つめる。 お玉で、染みでた油をすくって肉に掛ける。するとまた、油が音を立てる。 ゴクリ。 子どもたちの喉がなった。 肉を串にさして皿に入れてから、今度はタレを鉄板に。じゅじゅじゅじゅじゅっ! 沸騰するタレ。子どもたちはまたまた、ゴクリ。 火を止め、タレを串にからめ―― 「さぁ、できたぞ。熱いうちに食べてくれ。火傷にだけは気をつけろよ?」 「はぁーーいっ!」 哲心の言葉に威勢よく頷く子ども。そしてはふはふ言いつつ、がぶりつく。珍しくはないとは言っても、やっぱり肉はご馳走。焼き加減やタレの調合が良ければ、なおさらだ。 かじりつく子どもたち。一人の子どもが「あちっ」と口を押さえ、哲心は苦笑しながら、水を出してやる。 ●結果発表! 子どもたちは四つの屋台を回り、肉巻きおにぎりに、串焼きに、ホルソバに、豚平焼きに舌包みをうつ。 開拓者四人も五十人分、汗を流しながら作り続け――そして時間はあっという間に過ぎ去った。 食べる時間が終わり、採点の集計も完了。 広場の中央に、再び町長が立つ。 「参加者の四人全員が、それぞれに美味しく楽しい料理で、皆の目を、舌を、胃袋を、満足させてくれた! その事に、心から感謝を! ――皆、四人に拍手をお願いする」 町長が言うと、子どもたちは一斉に手を叩く。パチパチパチ!! 「では採点結果を発表しよう。準優勝者は――にとろ!」 町長は説明する。 肉とご飯の味のバランスの良さ。そして、鉄板の上でたくさんのおむすびをころがすという見た目の面白さ。 それらが、子どもたちから評価されたのだ、と。 「そして、栄えある優勝者は――アルネイス!」 ホルモンとニラとソバを組み合わせた味もさることながら、屋台の飾りつけ、開拓者のスキルを活かしたパフォーマンス。 子どもたちを魅了したが故の優勝。 「「おめでとー」」 にとろとアルネイスには、子どもたちから称賛の言葉が送られる。 「やったにゃんすー」 にとろはふにゃあ、とはにかんだ。 アルネイスはカエルのぬいぐるみを使って「みんなありがと〜」と腹話術。 円秀と哲心も点数は振るわなかったものの、評判は決して悪くない。 「おにーちゃんのソースおいしかったよー」 女の子の一人が円秀に言う。 「肉、ありがとー」 男の子の一人が、哲心の料理に素直な感謝を。 円秀は少女の前で腰を落とし、頭をなでてやる。哲心はお礼をいう少年に親指を立て軽く笑った。 あれがおいしかった、これもうまかった! おねーちゃんおにーちゃん、ありがとー。子どもたちの賑やかな声はしばらく続くのだった。 |