|
■オープニング本文 とある村。広場の中に、三人の子供がやってきた。 三人は持ってきた毬で、遊び始めた。毬を投げ合い、きゃっきゃ、うふふ、ええい、やったなー! ‥‥と笑い合う。 数分も遊んだころ、広場の隅にある土蔵、その扉が、ギギギィと開いた。 中から現れたのは、緑色の、巨大なトカゲ。長さは大人の背よりも大きい。 トカゲはただの動物ではない――明らかにアヤカシ。それが二体。 生臭い匂い――。子供たちに向けた顔、その口を開いたとき、口の中から赤い液体が落ちた。 子供たちは、持っていた手毬を捨て、逃げ出した。取り残されたトカゲは、口から白い糸の様なものを吐き出す。糸は手毬に絡みついた。 糸に覆われた手毬に、トカゲは歩み寄り、体を回転させる。尻尾で手毬を叩き潰す。そして、再び蔵の中に戻った。 「‥‥という出来事が、近くの村であったようです。そのトカゲ二匹はアヤカシに相違ないでしょう」 ここは、神楽の都の開拓者ギルド。仕事はないかと開拓者に尋ねられた事務員が、依頼を紹介しているところだ。 「アヤカシは二匹とも、蔵の中から未だ動いてはいないようです。村人が先ほど、退治して欲しいと、依頼をしにやってきました」 アヤカシがいる蔵の中は、開拓者全員が入って戦うことはかろうじてできるだろうが、広くはない。 また、蔵は村の広場の中にある。広場はそれなりのスペースがある。 「ただ、蔵の中には、村にとって大事な壺や書物があるようです。アヤカシの撃破を優先しては欲しいが、できれば、それを壊さないように――とのことです。 広場に誘い出し戦うなど、工夫をすると、喜ばれるのではないでしょうか」 事務員はさらに付け加える。 「このトカゲと同じ種類であろうものが、別の村でも目撃されています。別の村に現れたものは、既に他の開拓者に退治されたようですが。 このトカゲは、子供達が遊んでいるところや、村祭りで皆が踊っているところ等、人が楽しんでいる所に姿を現すことが多いようです。 かなりの怪力。また、蜘蛛の糸のようなものを噴きだし、動物の動きを封じて喰らったところも目撃されています」 事務員は開拓者の目を見つめた。 「アヤカシは一般人にとっては、とても恐ろしいもの。依頼に来た人も目に見えて震えていました。彼らの平穏の為にも、また、子供達が安全に遊べるようになるためにも―― 引き受けていただけないでしょうか?」 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
桐(ia1102)
14歳・男・巫
空(ia1704)
33歳・男・砂
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
クルーヴ・オークウッド(ib0860)
15歳・男・騎
志宝(ib1898)
12歳・男・志
御影 銀藍(ib3683)
17歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●アヤカシをいざなう、蹴りと舞い 足元に生えた草が太陽の光を反射していた。草の中には、小さな花が幾つか混じる。 ここはとある村の広場。隅には、土蔵が一つある。 その広場の中央で、志宝(ib1898)とクルーヴ・オークウッド(ib0860)、御影 銀藍(ib3683)が球を蹴り合っている。 「蹴球ってええっと、思いっきり蹴っちゃえばいいんですよね――えいっ!」 「ええ、細かいルールは抜きにして、思いっきり蹴って、思いっきり楽しみましょう。ほら――シュート〜ッ!」 志宝は球を明るい掛け声とともに蹴り飛ばした。 球を受け止めたのは、クルーヴ。クルーヴも力強い蹴りを披露する。球はまっすぐに跳び、銀藍の胸に当たって弾かれた。 銀藍は仲間と共に蹴球に興じつつも、土蔵の入口に注意を払い続ける。 「今回のアヤカシは、楽しそうな所に現れるということでしたが‥‥」 小さく呟いた。 桐(ia1102)と菊池 志郎(ia5584)は少し前まで仲間と共に、広場の入り口を、村から借りた木材を使って簡単に封鎖していた。今は、蔵の前にいる。 二人は視線を交わす。 「私達も始めましょうか‥‥菊池さん、お願いします」 「はい、かしこまりました。桐さんの舞いに、俺の笛の腕が追いつくのか、それが心配なのですが‥‥」 志郎は横笛にそっと口をつける。明るい音色が響き始める。紡がれる曲は軽やかな調子のもの。 桐が舞う。志郎の曲に合わせ時にゆったりと、時に激しく。桐の手首に巻かれた白布が、舞いに合わせ宙に揺れる。 球を蹴る音、掛け声、笛の音、踊り――全てが調和し、賑やかな雰囲気を作り上げていた。 そこに、ガタン、と音。音は蔵の中から。 扉が内側から開いた。中から、大トカゲの姿をしたアヤカシ二匹が姿を現す。 犬神・彼方(ia0218)は蔵から離れた位置で、遊ぶ皆を見守っていた。トカゲの出現を見て、後ろ手に回していた槍を構える。 「賑やかさぁに惹かれて出てきたぁね? もう少し此方へ来てぇもらおうか」 そして、彼方は息を吸い込む。吠えた! 大地を揺らさんばかりに強く。 咆哮は、トカゲの一体に怒りをもたらす。トカゲは目を大きく見開き、四本の脚を動かす。彼方に向かって突き進む。もう一体も、開拓者に向かって駆けた。 柊沢 霞澄(ia0067)は蔵の脇に潜んでいた。彼女の近くに、埋伏りで気配を消した空(ia1704)もいる。 「蔵の中に、瘴気は残っていません‥‥。空さん‥‥」 「俺の心眼でも、あの二匹以外のアヤカシは視えねェ。‥‥さって、一仕事ヤろうか」 二人は、蔵の中をそれぞれの能力で確認した後、扉を閉める。そして、アヤカシへと向きなおった。 ●闘いの始まり 桐は後ろに下がりながら、まだ舞い続けていた。 「鬼さん、こちらですよ〜」 間延びした声と笑顔、白布のひらひらとした動きでトカゲ一体を誘う。 『キシャアアア!!』 トカゲは喚きたて、口から一筋の糸を吐く。だが、桐の動き――月歩がトカゲの目をくらませていた。糸は見当外れの方向に飛ぶ。 「桐さん、無理はなさらないでくださいね」 志郎は既に演奏をやめていた。己の影を伸ばす。影はトカゲに巻きつき動きを封じた。 トカゲは慌てた様子で手足をばたつかせる。蔵の方向へと体を反転させた。 だが、振りむいたトカゲは見る。至近距離まで迫る空の姿を。 「ヒッヒッ!」 唇の端を釣り上げ、笑う空。 空の腕が閃く。次の瞬間には、刃がトカゲに新たな傷を作っていた。 トカゲはなんとか反撃の一打を放とうとするが―― 「させません‥‥」 霞澄が白き光を放ち、トカゲの尾に命中させる。トカゲの動きを妨げた。 もう一体のトカゲは、彼方に接近していた。彼方へ、白い糸を吹きかける。糸は彼方の体に巻きついた。 「人様ぁが楽しんでいるとこぉを、糸で縛ってまで邪魔しようなんざぁ‥‥粋じゃないアヤカシだぁね。だけど‥‥全く動けないわけじゃぁない」 彼方は、糸に巻きつかれた体を強引に動かす。式を生成、トカゲの手足を呪縛する。 「彼方さん、大丈夫ですか? 多分これで、何とかなるはずっ」 志宝が彼方の隣に立った。己の刃に炎を纏わせ、彼方を縛る糸を、さっとあぶって無効化する。 返す刀で、トカゲの顔面を斬りつけた。 さらに、胴体に二本のクナイが突き刺さる。正確な狙いと速度。それを放ったのは、銀藍。 「クルーヴさん、今のうちに‥‥」 「了解しました!」 淡々とした銀藍の声に、クルーヴが応じた。クルーヴは、トカゲの側面に回り込む。剣の柄を握る手に力を入れる。姿勢を低くして、相手の足に――斬撃! トカゲの態勢を大きく崩す。 ●力と技の応酬の末に 開拓者の猛攻は続く。数の優位を十分に活かし、二体をそれぞれ個別に包囲する。二体に連携を取らせないまま、確実に敵の足に胴に首に傷を負わせていく。 今も、銀藍が攻めていた。口を大きく開けたトカゲへ、 「蜘蛛の糸を吐かれるのは、厄介‥‥。なら、こうすれば‥‥」 銀藍は、刀を振るう。上から下へ刀身を叩きつけ、口を無理やりに閉じさせる。 積み重ねられた傷ゆえか、トカゲの動きには無駄が目立つようになってきていた。 にやり、笑ったのは、彼方。傍らにいた志宝へ告げる。 「連携攻撃で決めといこぉか、志宝?」 「はい、いきましょう。それほどの強敵とは思えませんが、長引かせれば打ち漏らす可能性も出てきますしね。――さあ、トカゲさん、こちら♪」 志宝は腕を動かす。炎魂縛武によって強化された刀が、トカゲを両断せんばかりに斬る。 彼方は志宝の反対側に回る。式の力を纏わせた穂先で、トカゲの体を貫く! 『ヒッギャアッ!!』 トカゲの口から漏れる悲鳴。 トカゲは肌に無数の傷を負いながらも、しかし、まだ倒れない。 体をすばやく回転させる。長い尻尾を志宝の腹に叩きつけた。打撃の威力に、体が一瞬持ちあがる。体がくの字に曲がる。志宝は膝をつきそうになるのを堪えつつ、負けないよ、と視線で敵に告げた。 もう一体のトカゲもまた、尻尾を振り回す。勢いの強いその一撃は、空の膝の頭を激しく叩いた。前のめりに倒れる空。 だが、 「精霊さん、皆さんの怪我を癒して‥‥」 霞澄が祈る。小さい声に、『大きな怪我をさせない』という強い意志をこめて。 霞澄の体が淡く光り、その光が周囲に広がる。傷ついた仲間たちの体を癒していく。 倒れていた空も、ゆらり、立ち上がる。 「斬ル」 空は忍刀を振るう。さらに精霊の白き力を、刃に宿した。トカゲを負傷させ、体内の瘴気を浄化させる。 トカゲは、ほとんど瀕死の状態になった。トカゲの首が動く。逃げる場所を探しているのだろうか。 「逃げる場所なんてありませんよ? あらかじめ私達が封鎖しておきましたから」 桐は、トカゲに言葉を投げかけた。白塗りの杖の先端をトカゲへ向ける。 「ええ、逃がしはしません。それと――隙だらけです」 志郎は地面を蹴る。敵との距離を一気に詰めた。刃の切っ先を敵の急所――喉元へ刺した。 桐も呼応し、力を行使。精霊砲で敵の体を、撃ち抜くっ! トカゲは吹き飛び、地面に落下。瘴気を傷口から吹きだしながら、憎々しげに開拓者をにらみ――そして、消えた。 残った一体のトカゲは、もはや逃げようとしない。再び、攻撃を放とうとする。その対象は、クルーヴ。 「騎士やサムライの使うスマッシュの様な技でしょうか。ガードを固めても被害はきっと大きい。――なら、前に出ます!」 クルーヴは、攻撃を仕掛けようとしているトカゲにあえて接近。剣にオーラを纏わせ、トカゲの胴に刃を落とす! すでに開拓者達の攻撃に傷ついていたトカゲは――その攻撃に耐え切れない。トカゲの瞳から光が消える。トカゲは活動を停止した。 ●戦闘の終結した広場で 戦闘が終わり、広場内はすっかり静まり返る。 「‥‥これで、終わりですね‥‥」 銀藍は、アヤカシが完全に消滅したのを確認する。構えていた刀を鞘へおさめた。 やがて、開拓者たちは、封鎖した入口を元に戻す作業を開始した。 「全く、とんだ迷惑トカゲだったぁね」 「ああ、高級品の詰め込まれた蔵に入るとはねェ。どーにもアヤカシさんは、厄介なところにもぐりこむのが好きなようだ」 板を取り除きながら、彼方がトカゲの方向を見ながら、苦笑い。それに応えて空は肩をすくめた。 入口を元に戻すと、居住区から村人たちがやってきた。戦闘が終結したのを感じたのだろう。おそるおそる近づいてくる。 「開拓者様、お怪我はありませんか? アヤカシはどうなりました?」 まだ不安な様子の村人達。 「はい、僕たちは見ての通り無事です。アヤカシも撃破できましたよ!」 「蔵の中の収蔵品も傷めてないので、そちらもご安心ください」 志宝は元気な声で、クルーヴは丁寧な口調で、報告する。ともに、村人たちを安心させようと。 村人たちは開拓者の顔をしばらく見つめた後、歓声を上げる。頭を何度も下げた。 大人達の声を聞きつけて、子供達も広場へと走ってくる。 霞澄は子供たちに近づく。屈み気味になり、彼らと視線を合わせた。 「もう大丈夫‥‥」 優しく告げる。霞澄は、子供たちに毬を差し出した。アヤカシに壊された毬の代わりにと。 「うわあ! 貰っていいの? 有難う、おねえちゃん!」 子供たちは弾んだ声を出し、球を受け取った。親らしき村人も、また頭を下げ、礼を言う。 「もしよろしければですけれど、蔵のお片付け、お手伝いさせていただけないでしょうか? アヤカシのせいで荒れているかもしれませんから」 桐が、村人たちにそう申し出る。村人たちは恐縮しながらも、ありがたがる。 他の数人も片付けの協力を申し出た。 志郎も片付けをすべく蔵に向かっていたが、ふと視線を動かす。子供達が霞澄から受け取った毬で遊び始めていた。えい、やぁ、とはしゃぐ声。 その様子を見て、志郎は小さな笑みを浮かべた。 平和を取り戻せた、そのことを喜ぶのだった。 |