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■オープニング本文 ここは武天に位置する、比較的大きな街。 商店街として栄えている為、昼夜に関わらず何時も人通りは多い街なのだが、今日は特に人の波が目につく様子であった。 「おっかぁ、花火まだぁ」 「花火は日が沈んでからよ。それよりほら、あっちで父ちゃんの出店の支度を手伝わなくちゃ」 花火、という言葉を先程から連呼している童の姿も多く見受けられていたが、そう、今日は何といっても夏の醍醐味の一つ、祭りがおこなわれる日なのだ。 まだ時刻は正午を少し過ぎた程度なので、出店の準備をしている人達が多い状況だが、直にここら一帯は商売人と見物客によって更に人通りも増えるだろう。普段から仕事の忙しい人にとっても、家族と中々遊ぶ時間の取れない人も、今日だけは思う存分に楽しむことを許される日なのだ。 「それで、例の件はどうなった?」 「はい。開拓者を何人か手配しましたので、あとは彼らの働きに任せるしか‥‥」 「そうか‥‥」 ――しかし。その賑わいの中に似つかわしくない、苦い声で呟く男が一人、高台の上から街を眺めていた。 彼の名前は一鉄。この街を武天から任せられる者であり、言わばこの街で一番のお偉いさんのようなものである。 そんな彼が、先程から頻りに連絡を取り合っていたのが開拓者ギルドの役人であった。 何でも、最近夜になると、街中にアヤカシが出没しているとの話なのだ。 近くの森から紛れ込んだか、或いはエサを求めてやってきたのか。その真意は定かではない。 だが、既に犠牲者と思しき人物も出ている為に、おそらくは後者の方が理由としては強いだろう。 とは言え、幸いにも目撃されたアヤカシは2体のみ。一鉄の考えでは、開拓者が連携して警備に当たれば、被害の出る前に叩くことは出来るだろうとのことだった。 「この祭りは街の誇る行事の一つだ。何としても成功させなくてはならん」 かくして、暗雲をただよわせたまま日は沈んでいく。 今宵は月も綺麗な夜らしい。だが、人々の心に雨が降らぬように。 喜びと幸せに満ちた宴の中で、もうひとつの宴が今、始まろうとしていた―― |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
飛鳥・月奈(ia0159)
15歳・女・泰
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
天青 晶(ia0657)
17歳・女・志
周藤・雫(ia0685)
17歳・女・志
上杉 莉緒(ia1251)
11歳・男・巫
星風 珠光(ia2391)
17歳・女・陰
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ |
■リプレイ本文 「事情は分りました。お祭りを騒がすアヤカシ、そのままにしてはおけませんね‥‥」 ――武天に位置する、街。 生温かい湿った空気が多少鬱陶しくはあったが、それでも今日、この街を行きかう人々の顔は皆笑顔に包まれていた。 そんな中、街でも上位の地位に就く一鉄から、こちらは険しい顔つきで話を聞く人物が1人。 「まずは何にせよ索敵からですね。それにしても‥‥狛犬はなぜ服を‥‥」 こう呟く、青い髪が目を引く女性、周藤・雫(ia0685)だ。 今回、この街にて行われる大規模な祭りの警備を頼まれていた彼女達は、最近になって目撃情報の多いアヤカシについて、色々と情報を集めている最中だった。 「ふ、服ですか!? 女の人が衣服取られたら大変ですっ! 何としても、ボクが護らないと‥‥」 と、その情報収拾中に聞いた、『目撃されたアヤカシは如何やら衣服を盗むことを得意としているらしい』との情報に、上杉 莉緒(ia1251)が参加者の中でも一際大きな反応を見せる。 ボクが、と言うからには如何やら男の子の様だが、端整な顔立ちに加え、ミニスカート風の装束に身を包んだその姿は、正直どう見ても少女そのものである。 「って言っても、莉緒が剥がされればぁ、それはそれでぇ面白そぉだなぁ」 「な、何を言っているのですか! ボ、ボクがいくら男とはいえ、その、最近までボクは自分のことを女の子だとばかり‥‥」 そんな上杉をからかうわけではないが、こちらは何か楽しそうなことでも考えたのか、犬神・彼方(ia0218)がニヤニヤと笑いながら囁く。 その言葉に顔を赤らめつつ反論する上杉だが、なるほど、本人もどうやら今までは女の子として育っていた様子。 「そろそろ、日も沈みます、ね。お祭りは、楽しくなくてはいけません。不届きなアヤカシは、成敗、です」 既に賑わい始めているとはいえ、やはり祭りの本番は辺りが暗くなってからである。 闇に紛れて如何なるアヤカシが現れるのか。何れにせよ、あとはそれぞれ散開し、祭りの平穏を死守するだけだ。 こうして、天青 晶(ia0657)が静かに告げると同時に、街に集った開拓者8人はそれぞれ2班に分かれ、祭りの人ごみに紛れていくのだった―― ●遭遇 「お祭り♪ お祭り♪ 仕事としてお祭りくるのは初めてだわ」 「いやぁ〜何と言うか。アヤカシも面白そうだけど、お祭りの方が楽しそうだね」 さて、警戒を始めてから僅かばかり。時間はそれほど経っていないとはいえ、日が沈むと同時に当たりは盛大な賑わいを見せていた。 その光景に、年頃なせいか興味津々なのは飛鳥・月奈(ia0159)と星風 珠光(ia2391)の2人だ。 「遊びに来ているわけではありませんよ」 「それぐらい分ってます。神聖な祭りを邪魔立てする者は何人たりとも許せませんからっ!」 歩けば歩くほどに、周囲に広がる甘い匂いや無邪気な子供たちの笑い声が目や鼻につく。それでも、苦笑する周藤に対し、まずは仕事を優先すると意気込む星風。 とは言え、時々横のリンゴ飴に目が行っているのを本人が自覚しているかは別として、祭りを楽し為にもアヤカシを早々に見つけたいというのが、彼女の本心でもあった。 「ハッ、狛犬が何だってんだ。褌姿晒すなんて、相撲取るって考えりゃいいんだよ、相撲! こんなの楽勝だぜ」 「そうか。じゃあいざって時は荒屋敷が剥がれ役だな」 「え、いや、剥がされること前提かよ!」 一方、こちらも同じく警挿を強めていた、比較的脱がされたら絵的にマズいメンバーを除いて構成された対狛犬班の風雅 哲心(ia0135)達。 脱がされてもそれ程問題はない――つまり、性別が男というわけなのだが、何としても脱がされまいと誓う哲心とは反対に、表情では軽く笑って見せる荒屋敷(ia3801)。 まだ若い顔立ちとは言え筋肉質な体が目を引く彼だが、口では脱がされても平気と言ってはいるものの、その本音は定かではない。 「まぁ、俺も脱がされるのはぁ、ごめんだぁね」 対狛犬班は3人中2人が男であったが、そこに似つかわしくないの存在が犬神だった。 確実に脱がされたら色々とヤバい気もするが、自分の裸見て喜ぶやつなんていないだろうと笑って気にする様子もない彼女。 が、思考がどこか思考が年寄りくさいとは言え、実年齢はまだ若いはずである。男勝りとは言え、犬神を脱がせるわけにはいかないのもまた、哲心と荒屋敷の秘かな悩みであった。 そして、祭りは進み。 「あ、あの‥‥。すみません、少し厠に」 「いってらっしゃーい」 こちらは対天狗班の5人。特に騒ぎが起きる気配もない祭りに安堵したのか、緊張のほどけた上杉が、1人班から離れて厠へと向かっていた。 「人が集まる、この機会は、アヤカシにとっても好機なはずですが‥‥。それらしい様子は、ありませんね」 「だねぇ〜。あー、早くしないと屋台巡りが出来なくなっちゃうー」 索敵を開始してから、結構な時間は過ぎている。それでも一向に敵が現れる気配はなく、開拓者達も周りの雰囲気のせいか、若干祭りに心が傾き始めているのも事実だった。 このままいけば、特に戦闘はないか。そう思った天青が、珠刀の柄にかけていた手を緩めた――と、その時! 「み、皆さん、あ、アヤカシが‥‥っ!」 「!?」 心の静寂を突き抜け、一斉に身構える4人。そして、ざわめき始める一般人達。 しかし、それもそのはずだった。何故ならば―― 「上杉さん、その格好‥‥」 そう。そこにはなんと、厠に行っていたはずの上杉が、パンツ一丁(しかもカボチャパンツ)の涙目で走っていたのだから!! 「聞こえたか、今の悲鳴」 「ああ、あっちだな」 上杉が悲惨な目にあうと同時に、近くにいた為にその騒ぎに気づいた哲心達。 「って、何だあれ」 しかし、彼らが駆け付けた時には、既に戦闘が始っている様子だった。 「話に聞いた狛犬は‥‥アイツか!」 1人どう見ても剥がれている少年に多少の哀れみを抱きつつも、予定通り展開する哲心、犬上、荒屋敷の3人。 そして、その少年上杉を含む残りの5人はと言うと、 「あっち! あっちに背の高い人が!」 「分りました。すみません、こちらは任せます」 合流した哲心らに一先ず狛犬を託し、月奈の見つけた巨大な影を追うことに。 皆の笑顔を護る為、そして祭りを楽しみたいとの想いもこっそり抱きつつ。 かくして、いよいよアヤカシとの本格的な対決が開始されるのだった―― ●天狗と狛犬 「おら、俺が相手してやっぜ! こっちこいやぁぁああ!」 まず、狛犬と向かい合った3人中、先手を取ったのは荒屋敷。耳を劈くほどの大きさで咆哮した彼は、口元に挑発的な笑みを浮かべつつ、狛犬の気を自分に向かせる。 「ググ‥‥グルァ!」 と、どうやらその誘いに乗ったらしく、狛犬は荒屋敷目掛け一気に地を一蹴り! 「今だ、犬神サン。呪縛符でアイツの動きを‥‥!」 「よーし、ちょっとぉ待っててなぁ。今、符に持ち替えを‥‥」 「って早‥‥く‥‥うわぁぁあ」 が、それに対し犬神に呪縛符を催促する荒屋敷だったのだが、装備していた槍から符へと持ち替える為、僅かばかりに縛るのが遅れてしまった犬神。 その一瞬の隙に、狛犬の攻撃が直撃したのは荒屋敷だ! 刹那の瞬きに衣服が剥ぎ取られてしまった彼は、抵抗する間もなく気づけば褌一丁という悲しいお姿に。 「犬の神の名の下に――制せぇよ、呪縛符!」 とは言え、荒屋敷が褌一丁になってしまうのを防ぐことは出来なかったものの、なんとか犬神の発動した呪縛符は敵を捉えていた。 「悪ぃが手前ぇに服を剥かれるわけにはいかねぇんだよ。大人しくしてな!」 そこにすかさず踏み込む哲心。光を淡く反射する薄い刀身の珠刀は、一突きと同時に直線を描き、アヤカシの首元に見事突き刺さる! 「っへ! 褌一丁が何だってんだ! 動きやすくなったって考えれば良いんだよ!」 若干涙目で強がっている辺りが何とも可愛そうだが、哲心の攻撃にたじろぐ狛犬に、とりあえず服を返せとの意味も込めて荒屋敷も追撃態勢へ。 「グルゥアア」 「あ、そっちぃ逃げた!」 「ちっ、追うぞ!」 だが、その気迫に押されたのか、はたまた分が悪いと判断したのか。一歩後ろへ脚を戻した狛犬は、そのまま振り返り人ごみへと一目散! 「ちくしょー、俺の着物返しやがれ!」 魂の叫びとはこんな感じのことを言うのだろうか。とりあえず、1人鬼の形相で下駄音を響かせる少年と2人は、アヤカシを追って悲鳴の渦へと駆け込んでいくのだった。 「お、おい! 何だこの騒ぎは!」 「そ、それが、何か天狗のアヤカシ相手に開拓者が戦ってるらしいんだが、1人裸の女の子が下着姿で‥‥」 「何‥‥だと‥‥!?」 一方、狛犬の近くにいた背の高い影を天狗と睨み、見事にその予想が的中した月奈達も、既に天狗との戦闘を始めていた。 しかし 「このアヤカシ、見た目によらず硬い! 上杉さん、引き続き神楽舞での援護を!」 「は‥‥はい‥‥。ぐすん、ああ、視線が、皆さんの視線がボクに‥‥」 壮絶だった。巨大な天狗と対峙する5人。各々武器を手に立ち向かう姿は頼もしいの一言に尽きるのだが、カボチャパンツ姿で必死に踊る少女――ではなく、少年が1人、明らかに浮いていたのだ。 そう、言うまでもなくその正体は、先程狛犬に服をはがされた上杉君。 舞うたびに顔を紅潮し、果てはこんな舞を見て士気が上がるのかと自問自答までし始めていた彼。 (「うぅ‥‥ボクは男の子なんです、これ位でめげちゃダメっ‥‥」) と、その言葉だけを懸命に自分へ言い聞かせることで頑張っていた上杉だが、目に熱いものを浮かべながら舞う姿は実に愛くるs‥‥涙ぐましい。 「そんなに得意じゃないですけど‥‥外すわけにはいきません」 「お祭りを邪魔するならさっさと無に帰りなさい!」 とは言え、何だかんだで上杉の舞による攻撃力増加は地味に効き、周藤の放った矢が天狗の足を貫くと、次いで星風が砕魂符による爆発花火! 「ギシャア!」 甲高い悲鳴と同時に、青い採光に包まれた部位が消滅していく天狗。 「迅速に、しかし、確実に。不届き者は、滅しなさい」 そして――苦痛に歪むアヤカシを前に、初撃を寸前で止めフェイントをかけた天青は、そのまま半円を描き天狗の背に珠刀を突き立てる! 「グ、ガァア!」 逃げなくては。そう判断した天狗は空に飛び跳ねる――しかし 「美しい夜空に、あなたは似合いませんよ」 地上から放たれた周藤の矢が一筋。それは美しい花火を背に、天狗の頭に突き刺さっていた―― *** 「見つけたぁ! 今度こそ着物返しやがれぇ!」 「いやぁ、さっきは縛るの遅れちゃってゴメンネ、テヘ!」 さて、天狗が無事討伐できたところで、舞台は戻って再び狛犬班。 全速力で狛犬を追った風雅達は、なんとか狛犬を人の少ない街角にまで追い詰めていた。 もう如何にでもなれと褌一丁にも吹っ切れた様子の荒屋敷に、先ほどは呪縛符の発動に時間がかかってごめんねと返す犬神。若干顔がまだ楽しそうに笑っている気もしなくはないが、さすがにお遊びもここまでである。 これ以上の混乱を防ぐためにも、何としてもここでケリをつけなくては。 「これで最期だ。さっさと倒れな!」 「犬の牙よ! 我が刃ぁに宿れ――霊青打ぁ!」 「って、俺の着物破くなよ!!」 そして―― 3人の各々の声(1人は叫び)とともに、狛犬は土に還っていくのだった。 ●そして、祭りへ 「おぉ! あんちゃん、さっきは褌一丁だろ! 随分と粋だったぜ!」 「あぁ、今日はホントにあっちィなしな! ちょっと水くれないか」 討伐終って。この街に対する脅威も取り除かれたため、そこでは、仕事を成し遂げた満足感とともに、それぞれ祭りを楽しむ8人の姿があった。 今回、ある意味一番の被害者の1人であった荒屋敷は、街中の人に悲しい姿を晒してしまったわけだが、そんなこと気にしてられるかと絶賛出店を巡回中。 その目は常に女性を捉え、隙あらば「今晩の祭り楽しいなぁ、今暇かい?」などとナンパに励んでいる。 「星風さん、周藤さん。そ、その、ナンパとかされたらどうしましょう」 「その時はその時♪」 「わ、私は‥‥どうしましょう」 一方、こちらも荒屋敷と同じくパンツ一丁にさせられてしまった上杉は、周藤と星風の3人で祭りを楽しんでいた。 辺りの美味しそうな菓子類に思わず目移りする姿はまだ幼さを感じさせるが、可愛い娘が3人並んで歩いているだけに、寄ってくる酔っ払いどもも結構多そうだ。 「あ、あっちで太鼓やってる! ねね、行ってみよう」 が、そんな不安など何のその。祭りを楽しむことで一杯一杯の星風は、太鼓の音に引かれながら上杉達の手を引っ張る。 「太鼓、得意なのですか?」 「ん、踊り関係なら任せて♪ 勿論、太鼓もね」 「あ、それでは‥‥」 と、その一言に何か閃くことでもあったのか、突如としてひそひそと星風に耳打ちする上杉。 「それ良いね! のった♪」 「?」 そんな彼の言葉にこう笑顔で告げた星風は、頭にクエスチョンマークの周藤に一言告げ、そのまま2人で街の中央部へと。 ――しばらくして。 「ああ、そういうことですか」 ふっと笑顔で見つめる周藤の視線の先には、祭りの専用衣装に着替えた上杉と星風の2人が見受けられていた。 余談だが、今年のこの街の祭りでは、巧い太鼓叩きの少女と、それに合わせ見事な舞を披露した少女(?)が、ちょっぴり話題になっとか。 「おーい、そこのお嬢さん。俺ぇと遊ばないか」 かくして、それぞれの想い巡る時は過ぎていく。 可愛い子と一緒に祭りを楽しみたいと言い残し、ふらっと人ごみに消えていった犬神や、酔っ払いのおっちゃん達に混ざって、何故かこちらはご相伴中の月奈。 「ん、お触りはダメだけよー。でも、お酌ぐらいならできるから♪」 そう笑顔で言ってのける姿は、外見の幼さに相反して実に神秘的にすら感じられる。 「折角のお祭り、皆で楽しめて、良かったですね」 「あぁ。やっぱ、花火を肴に飲む酒は最高だな」 美しい月と夜空、そこを更に彩る花火の下で。 天青の穏やかな微笑とともに語りかけられた一言に、哲心は遥か彼方を見上げながら静かに返すのだった。 平穏を取り戻し、盛大な盛り上がりを見せていく街のあちらこちら。 本日のメインと言わんばかりに、空には巨大な華が幾重にも散らばっている。 それはまるで、夏の思い出を護りきった8人を祝福するかのように、皆の心に何時までも咲き誇るのであった |