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■オープニング本文 石鏡はとある山道。 左右を切り立った崖に挟まれたその坂道は、大体馬車が1台通れるかといった狭いものであった。 狭く不便な道とはいえ、山を越えるにはそこを通るしかないのが現状である。 そんな山道を、一隊の商人達が移動していた。 縦に並んだ3台の馬車。それを挟むように前後に武装した男達が歩いている。護衛だろう。 護衛の男達も、馬を操る商人達も、表情は厳しい。 理由は―― 「――ッ! きやがったか!?」 道の先から、複数人の‥‥しかも武装している男達がやってくるのが目に見えた。 最近、ここに現れるようになったという山賊である。 商人達を下がらせて、護衛は山賊の迎撃に当たろうと剣を構える。 「ぐっ!?」 護衛の肩に走る鋭い痛み。何かと思えば、矢が突き刺さっていた。 一体どこから‥‥その疑問はすぐに氷解することになる。 「う、上だぁ!?」 叫んだ商人の首が吹っ飛んだのが目に見えた。 首を吹き飛ばす矢が放たれたのは、崖の上から。とてもここから攻撃が届く距離ではない。 「くそっ‥‥!」 狭い道故に方向転換もままならないまま、崖上から飛来する幾多の矢によって隊は壊滅に導かれていく。 更に前からも山賊が迫っていた。剣を交わすことで志体持ちの山賊だということを改めて理解する。 「駄目だ、退くぞ!」 最早勝ち目はない。そう察した護衛達のリーダーが生き残りへと指示を出す。 商人達に生き残りはいない。全員崖上からの狙撃によって命を失っていた。 (なんという失態‥‥!) 速やかに撤退する護衛の男達。頭上からの矢はしばらく続いていたが、山賊達の追撃は無かった。深追いはしない、ということだろう。 護衛のリーダーは、護衛失敗の悔しさに歯噛みしながら山賊達の事を思う。 (ちぃ‥‥連携の取れた山賊がここまで厄介だとはな‥‥。それに、リーダー格らしき男が持っていた刀‥‥あいつは‥‥) 刀には、とある紋様が印されていた。 石鏡出身のリーダーは、その紋様を知っている。 (‥‥まさか、な) 1人の男が座ったまま自分の手を見つめていた。 いや、正確には手に握った短刀を、だ。 彼の名は武蔵。開拓者だ。 「仕方ねぇ‥‥か」 とある事情で有り金の多くを失い、生活の為に以前まで使っていた装備をも売った武蔵。 そんな彼が決心をして、とある場所‥‥質屋へと足を向ける。 神楽の都、とある質屋。 そこに訪れた武蔵が、短刀を主人へと差し出す。 「えぇっと、こいつを質にいれてぇんだが‥‥。ちょいと纏まった金が必要でな」 「うん? こんなもんで纏まった金なぁ。‥‥まぁ、見るだけは見てやるよ」 店の主人は短刀を受け取ると、渋々といった様子で短刀の検分を始める。 そんな彼の表情が柄に印された紋様を見て変わった。 「おめぇさん‥‥こいつは天羽の‥‥?」 「あ、おっちゃん知ってんのか?」 「俺は石鏡の出だからな。しかし、天羽は‥‥」 そこに印されていたのは、石鏡のある氏族――天羽家のものである。 だが、今や天羽は―― 「滅びた‥‥いや、滅ぼされた‥‥」 返す言葉もなく、武蔵の視線はただ下を向くばかり。 アヤカシが蔓延るこの時代、氏族が滅びるのは無いことではない。 ただ、天羽が滅びた経緯はそれとは少し違う。 「3年前に賊の襲撃にあって滅びた天羽。それの短刀を持つってこたぁ‥‥」 主人の視線が、詰問するような厳しいものになって武蔵に突き刺さる。 それの示すところは、お前は天羽を滅ぼした賊なのか、というものだ。 「いや‥‥違う」 武蔵は首を横に振り、否定を示す。 そして、改めて自分の名を名乗った。 「俺は天羽‥‥武蔵。天羽の最後の生き残りだ」 それを聞いた主人の口が思わず開くが、言葉は出ない。一瞬の間を置いてから、開いてしまったのを隠すように手を口へと当てる。 「武蔵‥‥確かに天羽の長男の名だ。‥‥生きてたのか」 「まぁ、な」 「ふんむ‥‥」 主人は一度武蔵を上から下まで眺めるように見てから、天羽の家紋が印された短刀へと視線を落とす。 その後再び視線を武蔵に移すと、納得できないと口を開く。 「しかし、こいつは形見って事になるが‥‥お前さん、それでいいのか?」 対する武蔵は、分かってると頷いてから笑顔を見せる。精一杯の、無理矢理な笑顔を。 「そりゃ手放すのは辛ぇよ。俺と天羽の最後の繋がりだからな。でもよ、俺が最後の生き残りってんなら‥‥やっぱ何をしてでも生きなきゃなんねぇだろ?」 しばらくの沈黙。 それを最初に破ったのは主人の息を吐く音だ。 「‥‥わーった。そこまで言うんなら、引き取ってやるよ」 「マジか!?」 「おうよ、こんなちっぽけなもんでも業物だからな。それなりにはなると思うぜ」 それに、と言葉を続ける。 「流れちまう前に金を返してくれりゃ済む話だしな」 「その手があったか!」 「気付いてなかったのかよ!?」 なんて馬鹿な野郎なんだ、と思わず呆れ顔になる店の主人。対する武蔵は思い悩む事は無くなったと先程とは打って変わって晴れ晴れとした笑顔だ。 「なーに。依頼をいくつかこなしゃ返す分の金なんてすぐ貯まるさ」 「へいへい、そうですか」 カウンターの上に金を入れた袋が置かれる。 武蔵が袋の中身を確認していると、唐突に主人が声をあげた。 「あぁ、思い出した! 天羽の紋様見てから、なんか引っかかると思ってたんだが‥‥」 「あん? 何がだ?」 「最近どっかで天羽の話題を聞いたような気がしてな。お前さん、開拓者だろ? ちょっくらギルドに行ってみるといいぜ」 「お、おぉ‥‥分かった」 そして武蔵がギルドで目にしたのはとある山道に現れた山賊を倒してほしいという依頼だ。 何よりも武蔵の目を引いたのはただ一点。 『山賊の頭らしき男が、天羽の紋様が印された刀を所持している』 ――と。 |
■参加者一覧
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
詐欺マン(ia6851)
23歳・男・シ
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
四方山 揺徳(ib0906)
17歳・女・巫
花三札・猪乃介(ib2291)
15歳・男・騎
百々架(ib2570)
17歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●何を思う 山賊が現れたという山道の入り口。そこに開拓者達が集合していた。 目的はこの地に現れた山賊を退治する為だ。 「まったく山賊とは、やっかいだな」 音有・兵真(ia0221)は言いながら、山中に続く道を見据える。 道は狭く切り立った崖に挟まれており、この地形を山賊が活かす事を考えたら兵真がぼやくのも仕方がない。 とはいえ、この不利な状況に‥‥いや不利な状況だからこそ燃えている者がいた。御凪 祥(ia5285)だ。 「如何にこの状況をひっくり返してやろうか‥‥腕が鳴るな」 「如何に‥‥でござるか――ですか。山賊をとりあえず殴る、動かなくなるまで殴る、動かなくなっても殴る。身ぐるみ剥いて官憲に引き渡し、その後、彼らを見た物はいない‥‥こんな感じでござるかねー?」 「揺徳のねーちゃん、それ解決法なのか?」 闘志を燃やしている祥とは正反対にあくまでマイペースな四方山 揺徳(ib0906)。そんな彼女の言葉を受けて思わず花三札・猪乃介(ib2291)がツッコミを入れてしまうが聞いているのかどうか。 何はともあれ、とサーシャ(ia9980)が言葉を続ける。 「放っておくと被害が広がるばかりですからね。慌てず焦らず早々に殲滅してしまいましょう」 なにやら訳有りの方もいらっしゃるようですが――と開いているのかどうか分からない彼女の目が見るは武蔵だ。 どちらかというとお気楽なところがある彼だが、今回はどうも様子が違う。 妙に張り詰めた様子の武蔵を気にしてか、以心 伝助(ia9077)が声をかける。 「武蔵さんとはお久し振りですね。あっしの事覚えてやすか? ‥‥って、なーんか雰囲気変っすね。妙に気合入りすぎというか」 「ん、そうか? 自分じゃよくわかんねぇな‥‥」 感情を読み取る為、思わず武蔵の顔をじっと凝視する伝助。対する武蔵は自分がいつもと違うというのはあまり分かっていないようであった。 しかし、気負っているのは確かで、そんな彼に伝助は一種の危うさを感じ取る。 だからこそ、冷静になり自分達を頼ってほしいと武蔵を諭す。 「相手は人、それも志体持ちが複数となれば厄介さは怪狼の比じゃありやせん。戦いの時は出来るだけ冷静に‥‥それと、仲間も頼ってくださいやしね。こちらも仲間として貴方を信じやすから」 「‥‥おうよ! 頼りにしてるぜ。さっさと貧乏生活も脱出してぇし頑張らないとな」 その言葉に少し気が楽になったのか、武蔵の表情が和らぐ。軽口を言う余裕すら生まれたようだ。 武蔵が貧乏になった経緯を知っているのか、詐欺マン(ia6851)も力を貸すと告げる。 「これ以上武蔵殿を貧しくするのも忍びないでおじゃる」 「へへっ、そう言ってくれると助かるぜ」 盛り上がる男衆を見て百々架(ib2570)は微笑ましく思うが、気になることがあると考えを切り替える。 (天羽の、3年前に滅びた氏族の刀を何で山賊が‥‥襲撃を受けた後に何故すぐ売らなかったのかしら?) ただ、それを考えるよりは直接本人に聞いた方が早いだろう、とも考える。 こうして、彼らは気合も十分に山賊が待ち受ける山道に臨むのであった。 ●対弓矢 慎重に歩を進める開拓者達。 道が一際狭くなっている地点を通ろうかという時だ。詐欺マンの超越聴覚で強化された耳が、不穏な物音を捕らえる。 「む‥‥」 「どうした?」 「そちらには聞こえないでおじゃるか、地獄に潜む悪鬼どもの呼び声が」 詐欺マンが察知したのは右方からの何かの接近。それと同じくして、伝助もまた左方からの何かの接近を察知していた。 「恐らく‥‥来やすね」 その言葉を受けて、開拓者達はいつ襲撃を受けてもいいように各々武器を構える。 伝助が忍眼で周囲を観察したところ、罠などは見当たらないのが幸いか。 そうこうしているうちに、山道の先に山賊が姿を現した。構えている武器から推測するに、全員前衛。 それと同時に、詐欺マンと伝助の耳が弓を使う山賊もすぐ近くに現れた事を察知する。 「来るぞ!」 誰かが叫んだと同時、上方から矢が何本か飛来する。狙いは揺徳。 「って、拙者狙いでござるかー!?」 巫女の排除を最優先に考えた為だろう。矢が次々に揺徳へとダメージを与える。 ござるという語尾を矯正しようとしている彼女が、そんな事を考える余裕も無くなる程の攻撃だ。 揺徳狙いを察した兵真が彼女の傍に立つと、ガードを上方へと向けて、矢のダメージを少しでも減らそうとする。 「とりあえず此処は、矢を凌いでから反撃か」 完全に防ぎきれる、というわけではないが無いよりは遥かにマシだ。 その状態を維持しながら、敵前衛との距離を詰める為に開拓者達は山道を走る。 背に矢を受けながらも、何とか敵前衛との接近を果たした開拓者達。 揺徳はいそいそと矢盾を設置し、それに隠れるようにして矢を凌ごうとする。 「よし、これで落ち着いて回復できるでござる――痛っ、回り込むなでござるー!」 1方向からの矢は防げるとはいえ、全てが防げるわけではない。それでも無い方向は仲間がカバーしてくれる事もあってダメージは大分抑えられる。 とはいえ、この様子では神風恩寵での回復にかかりきりになりそうだ。 積極的に前に出るは、祥、サーシャの2人だ。 「さて、乱戦になれば弓は使いにくくなると思うが‥‥!」 乱戦を狙い、敵陣に突っ込む祥。流れるような動作で槍を振るい、次々と敵を斬りつけていく。 「背はお任せください」 祥に続きサーシャも敵陣に突入し、敵の攻撃をグランドソードで受けては反撃するという形に持ち込んでいく。 ――彼らの乱戦に持ち込めば弓は使いにくくなる、という考えはある意味正しい。 だが、この場合敵の5人いる前衛が祥とサーシャだけを狙い、挟撃するような形を取った場合乱戦が形成されるのは彼らの周辺だけだ。 後詰が積極的に前に出ないのなら、敵としても祥とサーシャを排除してから動いた方がやりやすいのは確かなわけで、こうなったのだ。 結局弓による脅威は後詰班にとってはあまり変わらない状況になってしまった。 しかし、状況はどうあれ、まずは弓を何とかしなくてはいけないことには変わりはない。 遠距離攻撃ができるものは弓使いを狙い、できないものは彼らを守るように立ち回る。 「これで‥‥当たりやすか!」 崖上の弓使いを狙い、白弓で矢を放つ伝助。 当てる事だけを考えた狙い撃ちの為に、動きまわっての回避はできない。その為にも砂防壁で被害を減らす。 「その距離なら。水でも被るといいでおじゃる」 水遁が届く距離である事を確認した上で、詐欺マンは水遁を発動。弓使いが水を被るのを確認する。 水を被った事でか弓の狙いがやや覚束なくなっていた。 また別の弓使いへと水遁を発動し、同じように敵の命中率を低下させる‥‥といったことを繰り返す。 ダメージが入っているとは言い難いが、場を少しでも有利な状況に持ち込むには重要なことだ。 更に猪乃介がアーバレストでの追撃を行う。 「本職の弓使いとじゃ劣るかも知れねぇけど‥‥俺だって、機械弓一つで戦ってきたんだッ!」 伝助の攻撃によって隙が出来たところを狙い、射撃。 機械の力により発射される強力な矢は弓使いを穿ち、大きな傷を与える事に成功する。 だが、弓使いによる攻撃が止む事はない。 3人の弓による射撃。更に時折連環弓で2本同時に矢を放つ事もあって、火力自体は圧倒的に相手が上だと言わざるを得ない。 それに対して、開拓者達で火力になるのは伝助と猪乃介の2人。また猪乃介の機械弓は威力こそ強力なのだが、攻撃するのに時間がかかるのが厳しいところだ。 「め、目がまわるでござる〜」 必死に回復を続ける揺徳がいるからこそ、なんとか場が持っているようなものであった。 「ちっ‥‥!」 猪乃介に射られた弓使いのうち1人が舌打ちをすると同時、背を向けその場を離脱する。 傷が深くなってきたのもあり、山賊としては命をかけるつもりはないのだろう。 追撃をするにしても、崖を登って追いかけるのも無理だし、弓による攻撃も無理がある。ここは大人しく見逃すしかないだろう。 とはいえ、敵が1人減ることで、狙いを更に絞ることができる。2人目の排除はそう遠くなさそうだ。 ●仲間 敵弓使い3人を排除しきったのはそれからしばらく後の事であった。 敵前衛は5人とも変わらず健在。祥とサーシャもダメージを負っていたが健在であった。 これで、後詰を守るために動いてた開拓者達がようやく前に出る事ができる。 「矢さえなくなればっ」 八尺棍を構え、敵の前衛へと瞬脚を使い一気に距離を詰める。 それに猪乃介が続いて突撃し、伝助は援護するように射撃を行う。詐欺マンも水遁で援護だ。 ここにきて、敵前衛も前衛だけを狙う形から、後衛も狙う為に1人が突っ込んでくる。 それから後衛を守るは武蔵と百々架の2人だ。 「ここは通さないわよ‥‥!」 腕、腿を中心に狙い士気を下げる程度の軽い傷で済まそうとする百々架。後々情報を聞き出す事を考え、命を取らないようにする為だ。 が、その程度で止まる山賊ではない。それどころか居合術――雪折による手痛い反撃を貰うことになる。 「やらなきゃやられる! 覚悟しとけ!」 武蔵が百々架の前に立ち、咆哮で敵の注意を集めながら彼女に叱咤する。 「手加減できる相手じゃない‥‥ってことよね」 自分の考えが甘かったと百々架は認識を改める。自分が手加減するには強い相手だ、と。 さて前衛組だが、数の上で並ぶことによって、ようやく戦局が有利に傾く事になった。 「ふぅ‥‥一時期はどうなるかと思ったが‥‥」 「これで、ようやく先程のお返しができます」 5人を2人で相手するという無茶をした為に、祥もサーシャも全身傷だらけだ。 それでも、未だ闘志の炎が消えていない2人に3人の山賊が迫る。 1人を祥が、1人をサーシャが、それぞれ相対するがもう1人はどうしようもない‥‥そう思った時だ。 猪乃介が割って入り、零距離まで近づいた状態でアーバレストの矢を放つ。 「これだけ近けりゃ、俺だって当てられるぜッ!」 「ぐっ!?」 強力な一撃。だが、代償は小さくはない。零距離まで近づくということは、敵の攻撃もまた同じように食らうということだからだ。 なんとか発射はできたものの、敵の新陰流の連撃を諸に受ける事になってしまった。 「その意気や良し‥‥!」 猪乃介に触発されたか、祥が傷ついた体を叱咤しながら、葉擦を繰り出し、敵を追い詰めていく。 「引き際か!」 一撃を加えられたのはシノビだったのだろう。壁に向かって跳ぶと、そのまま三角跳で崖上へと上がり、戦場を離脱してしまった。 「ん‥‥この人は‥‥」 侍らしき山賊と鍔迫り合いをしていたサーシャがあることに気付く。 他の山賊は金のかかってない無骨な武器を使用しているのに対して、目の前の山賊だけが銘入りと思われるものを使用しているのだ。 サーシャの反応に、他の者達も気付いたのだろう。その山賊が天羽の刀を使う者だということに。 「あいつが‥‥!!」 目の前の山賊を後衛との協力の末に倒した武蔵が、刀持ちの山賊へと走ろうとしたところを、百々架が武蔵の服を掴む。 「馬鹿っ! あなたが出て行ったら殺されちゃうかもしれないでしょ‥‥!?」 今にも泣き出しそうな顔で、小声で武蔵を引き止める。 1人だけ特別な刀を使用しているということもあって、敵はリーダーの可能性が高い。 確かにそれに武蔵が立ち向かうのは無謀ともいえる。 だが、 「大丈夫だろうさ」 武蔵は笑顔で返す。根拠の無い言葉ではない。 「武蔵のにーちゃんを止めないでやってくれ! 責任は‥‥まだガキだけどよ、俺が持つッ!」 「過去をその手で断ち切るでおじゃる」 仲間達の武蔵を後押しする言葉だ。 頼れる仲間がいて、武蔵は1人で戦うわけではない‥‥だからこそ、彼は大丈夫だと言うのだ。 ‥‥そうこられては百々架も無理に止めることはできない。 百々架は泣きそうな顔を無理矢理笑顔に変えて、その手を離すのであった。 ●過去 戦闘終了自体はそれからすぐの事であった。 数は圧倒的に開拓者が上であったし、実力も上。傷も揺徳が回復させたので負ける要素は無かった。 「拙者、超頑張ったでござる。だからこいつらの身ぐるみ剥いで売り捌いちゃダメでござるかねー?」 「いいと思うのか?」 縛り上げた4人の山賊達の装備を見ながら目を輝かせる揺徳の提案は即座に祥によって却下される。 また、山賊のうちリーダーに百々架が問いかける。 「あなた、3年前に天羽家を襲撃した人? それともこれは憶測だけど‥‥天羽の生き残り?」 「はっ、俺は火事場泥棒‥‥っつうの? そいつ経由で手に入れただけだ」 肝心の天羽の刀は、武蔵が拾い、じっと見つめていた。 やはり武蔵は天羽の刀に思うところがあるのだろう。 「それで、この刀を手に入れてどうする気だ?」 「どうする‥‥か」 一体何を思うのか、どうするつもりなのか‥‥その意を込めて兵真が問いかけるが、武蔵からははっきりとした言葉が返ってこない。 「とりあえず、そちと天羽家がどういう関係か教えてくれぬか?」 「あー‥‥」 そして武蔵は語る。 自分は天羽家最後の生き残り‥‥天羽武蔵。それを示す証拠の短刀は今は質屋に預けている、と。 そして、 「俺には3年より前の記憶がねぇんだ。‥‥俺の覚えてる最初の記憶は、炎に包まれる天羽の家だ」 武蔵の話は続く。 「だから家を失った恨みとかそういうのはあんまねぇんだ。‥‥家の記憶がねぇから。俺が天羽のもんだと分かったのは、人の話を聞いてようやく分かったぐらいだし。でもさ、その程度の繋がりとはいえ‥‥天羽は俺の過去に繋がってんだよ」 それ故に武蔵は天羽の刀を求めたのだろう。もしかすると自分の過去に繋がっているかもしれない‥‥と。 彼の言葉を聞き、開拓者達は一度顔を見合わせると頷き、再び彼の方を見る。 百々架が自分の手を刀を握る武蔵の手に合わせ、口を開く。 「その刀はあなたの刀よ。それから、今質に入れてる短刀だけど、あなたには『生き残りとして天羽の存在を残す』意味でその短刀をきちんと最期まで所持する義務があるんだから‥‥絶対に手放しちゃ駄目よ?」 本当なら自分の不要な着物などを渡して足しにしてあげたかったが‥‥それらを持ってきてなかったのでできないのが残念、と続く。 「お持ち帰りしたいのであれば、止めはしないでござるー‥‥止めはしない」 揺徳もそれに同意しつつ、思わず言ったござる言葉を訂正してキリッと決めてみせた。 武蔵は天羽の刀を手にする資格を認められたのが嬉しかったのだろう。どこか照れた様子で開拓者達に感謝の言葉を告げる。 「お前らありがとうな。あ、どうでもいいけど揺徳、別に決まってねぇからござるのままでいいんじゃね?」 |