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■オープニング本文 世の中には様々な男性がいる。 そんな男性諸君に対して、好きにしろ悪しきにしろ何らかの印象を抱くのが女性というものだ。 さて、ここには多くの女性達から寄せられた意見がある。 「男は外見じゃなくて中身っしょ」 「貧乏でも一緒に頑張っていけばいいかな」 「無口な人ってクールなイメージがあってかっこいい!」 「優柔不断は優しいってことだよね」 「ちょっとくらい変なところがあっても、それが個性だよ」 「駄目な人には母性本能をくすぐられちゃう」 「空気を読めないって言われるけど、場を明るくしてくれるよね」 「悪ぶってる男ってステキ!」 ――などなど。 これらを読む限り、ちょっとした欠点があっても女性はそれを肯定してくれる、ように思える。 だが、多くの男性は決して喜ぶことはない。 何故ならば知っているからだ。 「おい、文末の大事な言葉忘れてんぞ。『ただしイケメンに限る』ってな」 とある森を4人の男達が歩いていた。各々が抱えている荷物から商人だというのが分かる。 気は優しくて力持ちの一蔵。頭の回転が早く計算高い二介。皆を引っ張るリーダーシップの持ち主の三太。何をやらせても駄目な四郎。 ちなみに女性に一番もてるのは四郎だという。理由は‥‥語らずとも分かるだろう。 そんな彼らが歩いていると、断続的に茂みの擦れる音が聞こえてきた。 初めは風か獣かと思っていたものの、どうも様子がおかしい。だんだん音が大きく‥‥近づいてくるのが分かるのだ。 もしやアヤカシではないかと緊張で身を固める4人。彼らの警戒はある意味正しかった。 「な、なんだこいつら!?」 4人の前に姿を見せたのは、人のように見えるが、ある意味では人として間違っていた。 何故なら褌一丁だけを身に纏った男達だからだ。 その顔にはイヤらしい笑みが張り付いており、筋骨逞しい体はてらてらと光っている。なんだかぬめぬめしてそうだ。 男達は何も言わずに、じりじりと距離を詰めてくる。 「お、お前達なんだってんだよ!」 三太が果敢にも前に出るが、男達は何も言わない。いや、それどころか目は三太を見てすらいない。 何を見てるのかと視線を追えば、その先にいたのは、 「‥‥お、俺?」 思わず自分を指差す四郎。直後、彼に男達が一斉に飛び掛った。 「うわ、ちょ、ぎゃぁぁ!?」 「なんばしっとんね!!」 このままで四郎が危ないと一蔵が護衛用の棍棒を男達に振るう‥‥が、 「馬鹿な!?」 渾身の力で叩き付けた棍棒が男達にダメージを与える事はなく、それどころか反動で折れてしまったのだ。 一蔵の手には、まるで鉄の塊を叩いたかのような感触が残る。 「――この人間とは思えない強靭さ、もしやアヤカシ! なるほど、だからか‥‥まるで知性をかんじませんよ」 二介の推測は正しい。 この場に現れた男達は全員本能のみで動くアヤカシなのだ。 「そんな‥‥!? アヤカシじゃ俺達にゃどうしようもないじゃないか!」 うろたえる3人を尻目に、アヤカシ達は四郎の服を剥いでいく。 そして四郎を地面に組み伏せたかと思うと、くんずほぐれつのぬっちょぬっちょ。 「ギャァァァ! 何すんだこいつらくそ気持ちわりぃ! あ、やめ、どこに口つけてやがんだアッー!?」 あっというまに四郎の体にはアヤカシのぬるぬるの液っぽいのがコーティングされ、そのうえあんなことやこんなことをされていた。 四郎の顔からあっという間に生気が失われていくのが分かる。 一蔵達3人には四郎を救うことはできない。ただ悔しさに歯噛みしながらその様子を見るだけだ。 だが、一蔵がこのままでなるものか、と折れた棍棒の破片を思いっきりアヤカシに向けて投げつける。 「こいつの使い道はまだあるぜー!」 勿論効果が無いことは覚悟してのことである。だが、このまま仲間が襲われるのを見過ごすだけではたまらないという思いからの行動だ。 先程と同じように投げた棍棒が弾かれる‥‥そう思った直後だ。 「オーウフ!?」 棍棒が直撃したアヤカシの1体が叫び声を上げた後、地面を転がりながら悶えているのだ。 何故効果があったのか分からない3人だったが、理由をいち早く理解したのはやはり二介であった。 「あいつら‥‥もしかして人を襲っている時だけ防御力が下がるのか?」 その推測はまたもや正しかった。 このアヤカシは異常なまでの防御力を誇るが、人を襲っている時だけその防御力が皆無といっていいほどに下がるのだ。 とはいえ、そんな弱点を持っていようがアヤカシはアヤカシである。悶えていたアヤカシの1体はすぐさま復帰すると、またもや四郎に飛びかかっていった。 結局志体を持たない彼らにどうこうできる相手ではないのだ。 そして、四郎が解放された時には既に‥‥もうなんというか非常に可哀想な状態となっていた。 一応息があるので生きてはいるのだろう。どうやら人を食うのではなく、恐怖の感情とか精気とかそういうのを糧とするアヤカシらしい。 四郎を解放したアヤカシ達は満足したようで、そのまま森の奥へと足を進める。 「俺達を襲う気は無いのか‥‥?」 三太の呟きに、アヤカシのうち1体が彼らを見た。 その視線はこう語っていたという。 『だって、あんたらイケメンじゃないし』 襲われなくて嬉しい筈なのに、謎の敗北感が3人を襲ったのであった。 それから、その森を通る男性だけを襲うアヤカシが度々現れるようになった。 俗にいうイケメンだけを襲う特性から、メンクイと呼ばれるようになったアヤカシ。 退治しようとした者もいたらしいが、異常なまでの防御力に攻撃が通じなかったそうだ。 そこで、開拓者達に改めてメンクイを討伐するよう依頼が出される。 ――ただし、囮はイケメンに限る。 |
■参加者一覧
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
詐欺マン(ia6851)
23歳・男・シ
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
ハッド(ib0295)
17歳・男・騎
ウルク・グランフェルト(ib2696)
14歳・男・騎
ネリク・シャーウッド(ib2898)
23歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●集まったイケメン 敵はイケメンを襲うというメンクイ。その性質から、討伐する為には囮としてイケメンが必ず1人は必要になる。 だからこそ今回の依頼もイケメンが少なくとも1人はいるべきなのだが‥‥。 「‥‥男にとってはこれ以上なく恐ろしい敵だな。しかも見事に男ばっかり‥‥誰が一体犠牲になるんだろうな」 ネリク・シャーウッド(ib2898)が集まった開拓者達を見回して、ぽつりと呟く。勿論ネリクも男だ。 この度メンクイ討伐の為に集まった開拓者は全員が男なのだ。 「まったく、物好きなやつらが多いよなぁ」 そう言う荒屋敷(ia3801)がこの依頼に参加した理由は、他の開拓者が襲われるのが見たいからというちょっとアレな理由である。 自分はイケメンとはまた違う男前なので襲われない‥‥と思い込んでる彼。なんだろう、襲われない方がむしろ不自然な気すらしてきた。 思うだけではなく囮回避に全力を注いでる男もいた。露羽(ia5413)だ。 「メンクイにも好みがあったりするんでしょうか‥‥と、そんな事を考えている場合ではありませんね。襲われると悲しいことになりそうですし、イケニ‥‥いえ、囮は全力で回避できるようがんばります」 にっこりと微笑む彼は傍目には女性にしか見えない。着物も化粧も、仕草すら女性のそれだ。この超気合の入った女装から彼の力の入れようが分かるというものだ。 「ともかく、誰が犠牲になっても恨みっこ無しと云う事で」 ウルク・グランフェルト(ib2696)の言葉に開拓者達は頷く。生け贄はメンクイに決めてもらおうということだ。 「ここはひとつ我輩がデコイ界でも王であるということを下々民に知らしめねばなるまい」 どこか面白そうに言うのはハッド(ib0295)だ。というか、今回のケースでデコイの王になってしまったら悲惨なことになるのだが。 ただ、一応それはそれでイケメンの証ということか。詐欺マン(ia6851)も何か納得したように頷く。 「イケメンとはなんとも罪深き言葉でおじゃるか」 「いや、そういうもんすか‥‥?」 とは以心 伝助(ia9077)の言葉。彼は今回戦う事になるメンクイについて考え、首を傾げる。 「こんな森の妖精‥‥もとい、妖怪は全力でお断り申し上げたいっす。ていうかなんであの格好で防御力高いんすかね。褌っすか、超強化された超褌なんすか、あれは」 認めたくない現実から逃げるように、彼の問いかけは明後日の方向へ。勿論、答える者は誰もいない。 ‥‥いや、その明後日の方向から1人の男が姿を見せる。 「ふっふっふっふ‥‥イケメンをお探しと聞きましたぞ。お集まりの方々に於かれては確かに美男揃いではござるが、だが天儀じゃあ二番目だッ!!」 硬くて長い槍を携え、天儀魂を燃やした1人の男! 彼の名は相馬 玄蕃助(ia0925)。 外套から、ちらりと素肌と褌が覗くということはそれ以外何も身に付けていないということだろう。 そんな彼が叫ぶ。 「メンクイの囮に最適のイケメン鼻血志士とは、それがしの事ぞ!!」 ――やべぇ、こいつが襲われる気がしねぇ。 それは、玄蕃助を除く開拓者達全員が思ったことである。 ●イケメン☆楽園 メンクイが現れるという森を歩く開拓者達。 誰が襲われても文句は無し、といった風に等間隔に並んで歩いている。 森を歩く大勢のいい男たち。勿論メンクイが彼らを見逃すわけがなかった。 茂みを突っ切って姿を見せるメンクイ達。その数は8、聞いた数よりやや多い。 『ウホッ、いい男達じゃないの‥‥』 現れたメンクイ達は大体がそんな感じの視線で開拓者達を見ていた。 メンクイ達が地を蹴る――! 飛び掛るメンクイに対して武器を振るう開拓者達。だが傷一つつけられない現状を、ネリクはどこか遠い景色でも見るようにどこかぼーっと見ていた。 全員、必死だ。それも当然だろう。あんなのに襲われたいと思う者はいない。その気持ちはネリクも同じ。 「好きな女もまだ抱いてないのに、何が哀しくてアヤカシとはいえ野郎に抱きしめられなくちゃいけないんだ。俺は絶対にやられない」 ――あ。 そんな事を考えてたのが災いしたのか。気付けば、背後から迫りくるメンクイによって地面に引っ張られるように倒されていた。 仰向けに倒れているネリクに跨るメンクイ。顔を見れば、舌なめずりをしている。 手足に力を入れても体はびくともしない。 「そうか、これが俺の運命か‥‥」 ネリクは現状を確認して、ふっといい顔で呟く。そのまま彼の脳裏に浮かぶはとある人物の顔。 「思えばあいつを抱きしめたこともないのに、こんな野郎どもに抱きしめられることになるなんて、なんとも滑稽な話じゃないか」 目を閉じるとあいつと出会ってからの事が次々に浮かんでは消えていく。あぁ、これが走馬灯というやつか。 もし俺が汚されたとしても、いつかお前を抱きしめていいよな――そう覚悟して目を開ける。 「まぁそれだけ俺がカッコいいという証明だから名誉の負傷と思えば‥‥思えるかー!?」 目の前に迫るメンクイを見て、ようやく正気を取り戻したネリク。だが、何もかもが遅すぎた。 「俺は、俺はそっちの趣味はないんだ‥‥だから、負けてたまrアッーーーーーーーー!?」 男の叫びが、森の中にこだました。 「ぬぅ、ネリク殿がヤられたか!?」 玄蕃助がネリクの叫びに気付き、そちらを見やれば、メンクイに愛されている男が1人。 周囲を見渡せば、他にも同じように仲間達が襲われていた。 玄蕃助も男だ。仲間の危機に逃げようだなんて気は毛頭無い。襲ってくるなら迎え撃つまで! 外套を脱ぎ去り、褌一丁で煌く筋肉を見せびらかしながら、玄蕃助は目の前のメンクイに槍を向けて吼える。 「真正面から堂々と! 逃げも隠れもせぬ、いざ来たれメンクイども! 我が槍の錆としてくれるわ!」 キリッ。 しかし、メンクイはこれをスルー。他の男の物色を始める。 「な、何故‥‥!?」 玄蕃助の疑問に、メンクイが視線で答えた。 『だって、あんたイケメンというより濃いんだもの』 「濃いやつにそう思われるとショックでござるなあ!?」 悔し涙を浮かべ、がくりと項垂れる玄蕃助。襲われている男衆から「むしろ代わってくれよ!!」といった声が上がるが、今の彼の耳には届かない。 「分かっておる。分かっておるのだ! 彼奴等が求めるイケメンとは、世間一般で言う所のイケメンとは、もっとシュッ☆ としてスマートなタイプであろう事は‥‥くくっ」 自分の姿を見る。確かに、スマートなイケメンには程遠いという事を自覚しながら。 「それがしとて! ちょっと古めではござるがイケメンじゃぞ!? 足は短いし顔はデカくてタッパも無いが、『古き良き天儀の侍ぶりがとっても良い男』って‥‥」 何故だろう。言ってて余計に涙が止まらなくなるのは。 でも、そうだ。自分は良い男なんだ――玄蕃助は主張する。 「ご近所の婦人がたには大人気にござる!」 ※ただし60歳以上に限る。 本当は若い子にちやほやされて、きゃっきゃうふふのあんなことやこんなことしてみたいのに。 「うぬぬー、おばちゃんの飴ちゃんばかりではなく若い桃が食べてみたーい!!」 そんな彼の叫びが天に届いたのか。目の前に、2つの桃が現れた。 『食べる?』 メンクイが玄蕃助を哀れに思ったのか、若い桃尻‥‥ネリクの桃尻を差し出したのだ。ネリクの意識があるかは‥‥まぁ、無い方が幸せか。 玄蕃助が無言で槍を構える。目の前のものを貫くため――いや、当然メンクイのことですよ? 「ネリク、お前の犠牲は忘れねーからな‥‥」 荒屋敷が惨劇を見ながら呟く。彼は基本的に距離を取っているため、まだ窮地ではない。 「さぁてと他のやつらの様子は‥‥」 視線を移せば、ちょうど露羽が押し倒されているところだった。 超気合の入った女装をした結果女性と見紛う程の姿になった彼だが、それでもメンクイはそんなの関係ねぇといきり立っていた。 「わ、わ、来ないでくださいっ!」 女装しているのに襲われるとは思わなかったのだろう。驚き慌て、いとも容易く地面に押し倒される。 メンクイは露羽に跨った状態で、彼の両手を片手で纏めて抑えると、もう片方の手で着物を無理矢理脱がしにかかる。 イヤイヤと首を振る露羽。髪を結んでいる紐が解け、艶やかな黒髪がぱらりと広がった。 露羽の肌に汗が浮かぶ。その汗のせいだろう、彼の長い髪が素肌にぺたりとくっついた。 「次から次に‥‥もう無理ですっ‥‥!」 露羽が悶えるが、メンクイはお構い無しに彼の体に手を這わす。 熱気で顔は赤くなり、嫌悪で涙を浮かべる露羽。そんな彼の姿は、女装しているというのも相まって、 ゴクリ―― 「――はっ!? いやいや落ち着け俺! くそっ、見ちゃいけないものを見た気分になったぜ‥‥」 生唾を飲み込んで、ようやく正気に戻る荒屋敷。 気を取り直して再度見やれば、ウルクがスマッシュで露羽を襲っていたメンクイを倒したところであった。 「無事ですか!? あちら側へ目覚めてませんか!?」 「うっう‥‥こんな私でも、誰かお婿に貰ってくれるでしょうか‥‥?」 しなを作って、泣き顔を着物の裾で隠す露羽。むしろ、これを見た方があちら側に行ってしまいそうな情景だ。 それを見て動揺したのがウルクの不幸か。彼もまた、背後からやってくるメンクイに気付かず、押し倒される事になった。 「‥‥これも試練なのでしょうか」 半ば諦めたように、持っていた剣と盾を捨てる。 だが、最後の最後まで諦めたわけではない。 「けど! 第3防衛ラインまでは死守します!」 唇を手で塞ぎ、下半身に向かってくる手を必死に払いのける。 対するイケメンは、抵抗してくれるならそれはそれで‥‥といった感じで、その抵抗すらも楽しんでいるようだった。 「この様子なら、もうちょっとくれぇなら持つかな」 メンクイが油断するまで待つ‥‥という言い訳のもと、荒屋敷はまだ救援の手を伸ばさない。 また別の場所に視線を移すと、ちょうどシノビコンビ――伝助と詐欺マンが襲われているところであった。 「へ、ちょ、あっしっすかぁ!?」 男前な仲間達ではなく自分が襲われる事に対して驚きを隠せない伝助。 全速力で逃げたいのをぐっと堪え、砂防壁を発動して迎え撃つ。囮の鑑といえるだろう。 メンクイの攻撃はどちらかというと精神的なものなので、砂防壁は効果を発揮すると言い難いが‥‥直接お肌が触れ合うよりはマシだと考えたからだろう。 そして砂は見事に思った通りの効果を発揮した。なんとなく、ぬるぬるした感触が来ない気がする。もしかしたらそう思い込んでるだけかもしれないが、来ないものは来ない。 とはいえ、言うまでもなく辛い。 (‥‥こんなの天井の染み数えてりゃ終わ‥‥ああここ天井ないっすね。それじゃ素数でも数えやすか。2、3、5‥‥) どこか悟ったような表情で空を見上げる伝助。実際今起こっている事を考えようとしたら大変な事になるから仕方ない。 「な、なにをするきさまらー!」 同じように押し倒されている詐欺マンの叫び声が、伝助の耳に入る。非常に大事なものを奪い取られそうになっているのだろう。 「くぁwせdrftgyふじこlp」 もはや今の詐欺マンの声は声になっていなかった。余程酷い状況になっているのだろう。 見なければいいのに、伝助はつい顔の角度を変えて、そちらを見てしまう。 今の詐欺マンの状態は、メンクイに尻をがっしりと掴まれた状態であった。最早一刻の猶予もない。 それも詐欺マンを理解しているのだろう。火遁が発動した。 ※ただし、火は尻から出る。 とはいっても、ビジュアル的にそう見えるだけで、実際尻から火が出ているわけではない。そうではないと信じたい。 火を受けてよろめいたメンクイが、視線で語る。 『それがイケメンのやることかぁ!?』 「イケメンだからやるんだろぉ!」 必死すぎておじゃるとか言ってる場合ではない。 そのままメンクイの急所っぽいところに、打剣を発動し苦無を投げる。 詐欺マンは悶えるメンクイを見下ろしながら、呟く。 「絶望という言葉を思い知るといいでおじゃる」 それは、絶望というものを知ったから言える言葉か。 そんな形振り構わない詐欺マンの戦いを見たからか‥‥伝助は自分を省みる。 そうだ、このまま一方的にヤられるぐらいなら―― 彼の何かがプツンと切れた。 ヤられるぐらいなら死なば諸共ヤる。いや殺る。 裏術・鉄血針を発動。当然彼自身も巻き込まれるが気にしちゃいない。それどころではないからだ。 自分を捨てた男は‥‥強い。 「すげぇな‥‥おい」 鬼気迫る男達の戦いを見て、呆然と呟く荒屋敷。 そして、今まで見ているだけであった彼にも‥‥ついに魔の手が迫ってきた。 「あああ、やっぱ来ンのね!?」 正面から迫り来るメンクイ。迎え撃つが、傷を与えることはできない。 押し倒され、強力で得た怪力で振りほどこうとするが、やはり無駄。 「くっそ! 変なトコ‥‥あぁああああ!! ひゃ、ひゃやく、ひゃっつけてくれぇ!!」 とはいえ、様子見をしていた彼を速やかに助ける者がいるかどうかは‥‥怪しい。 助けてくれる者はいないかと荒屋敷は首を振って周囲を見る。 そんな彼の視界に入ったのは、四つんばいになったメンクイに腰掛けているハッドの姿であった。 「わたしの指名料は高いんだからねっ!」 言いながら、メンクイの尻をばしっと踵で蹴る。蹴られたメンクイは呻くが、喜んでいるようにも見える。 「やはり王たる我輩はこうでないとの〜」 金髪巻き毛をくるくると手で弄りながら、メンクイに気合の入った蹴りを再度入れる。 そのまま、先程まで自分が腰掛けていたメンクイを仰向けに倒すと、顔の上に足を乗せて徐々に力を入れていく。 「ほほほ、下々の者らしく、我輩の下で足掻くがよいぞよ」 ‥‥ハッドが逆に攻めていた。メンクイもそれで喜んでいるのである意味問題はない、のか? そんな彼や先程の玄蕃助の様子を思い出しながら、荒屋敷は理解する。 「‥‥あぁ、俺もあんな風に濃かったら生き残れたのかなぁ」 彼の意識は、そこで途絶えた。 ●俺達の戦いはこれからだ‥‥? しばらくして、主に玄蕃助の手によってメンクイ達は倒された。 ‥‥だが、代償して開拓者達は心に深い傷を負った。 空の青さに現実逃避する者、今日の事は無かったことにする者、ただ泣く者‥‥。 「恐ろしいやつらだった。二度と会いたくないもんだ。けど黒いあれと変態は1匹見たら30匹はいるって言うもんな‥‥うぁ、想像したらきつすぎる」 ネリクは、ふと浮かんだ嫌な考えを追い出すように首を振り、天を仰ぐ。 そんな彼の考えを、ハッドが遠い目をしながら継いだ。 「夏になるとかようなヘンタイやアヤカシが増えるのかの‥‥」 ――暑い夏はまだまだ続く。 |