炎に立ち向かうお嬢
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/28 22:26



■オープニング本文

 ジルベリアはとある小さな村。
 一時期は戦乱の影響で焼け落ちてしまったが、村の者達の努力や開拓者の協力もあり、ある程度まで復興していた。
「ふぅ‥‥今日はこんなところですわね」
 少女騎士‥‥ローズ・ロードロールが運び終わった荷物を降ろしながら空を見上げる。
 ローズはこの村の住人であり、村復興の中心となった人物でもある。
 彼女の見る空は赤く、そろそろ日が沈もうかといった様子だ。日が落ちてからの作業は危険な為、これで今日の作業は切り上げというわけである。
 他の者たちの作業はどこまで進んだのだろうか、復興計画としてはどの段階だろうか‥‥夜はそれらの報告を纏めるのもいいな、とローズが考えながら歩いている時だった。
 ふと、違和感を感じた。
「‥‥? おかしいですわね」
 何かがおかしい。だが何がおかしいかは分からない。
 謎の違和感に首を傾げながら、ローズは後片付けをしていく。いつもならこれが終わる頃は大体日が沈んでいる。
 だが、今日は違った。
「空が‥‥明るい?」
 ようやく違和感に気付く。
 本来ならとっくに日は沈んでいるはずなのに、未だに空が赤いのだ。
 どういうことだ、とローズが考えていると、彼女の鼻が異臭を感知した。
 その臭いは、まるで木々が焼けているような――
「――違いますわ! 日が沈んでいないんじゃなくて‥‥森が燃えているんですわ!」
 日はとっくに沈んでいる。
 空が赤いのは、村の周りの森が燃えていることで赤々と照らされているからだ。
 他の村人達もようやく異常事態に気付いたのだろう。ざわめきが広がっていく。
「私が見に行きますわ!」
「あっ、お嬢!?」
 近くにいた村人に一声かけてから、ローズは森へと走る。
 臭いのする方向から考えて、村の北に広がる森の奥から火の手が上がっているようだ。今はまだそこしか燃えていないが、火が広がってしまえば大変なことになる。
 急いで消火作業を行う為にも状況を把握しなくてはいけないと、ローズは木々の枝が肌を引っ掻くのも厭わずに走り続ける。
 そして現場に到着した彼女が見たものは、
「猫!?」
 猫とはいっても、あくまでそのような形をしているだけだ。大型の犬と同じくらいのサイズだろう。
 それに何より目を引くのが、体表を覆う炎だ。全身に火を纏っているという表現がぴったり合う。
 当然、このような猫が通常の生物の範疇なわけがない。アヤカシであり、簡単に名付けるなら火猫といったところだろう。
 火猫の数は6。地にいるものもいれば、木に登っているものもいる。火猫の身軽さを示しているといえる。尤も、登られた木は火が移って燃えてしまっているのだが。
 この火事は火猫が起こしたものだろう。なら、まずは火猫を討伐しなくてはどんなに火を消しても埒があかない。
「私1人で‥‥どこまでいけるでしょうか‥‥!」
 念のために持ってきていた斧を構える。火猫も彼女の敵意を感じたのだろう。唸り声を上げて、ローズへと向き直る。
 先に仕掛けたのはローズ。一番近いところにいる火猫に向けて、斧を振り下ろす。
 手応えはある。だが、それは倒すまではいかずに、ローズが再度攻撃を加えようとしたところで、彼女は背中に衝撃を受ける。
「きゃぁ!?」
 衝撃と激痛。火猫のうちの1匹が爪を振り下ろしたのだ。肌を切り裂かれた痛みも強いが、それよりも傷を直接炎で焙られた激痛が酷い。
 怯んだ彼女に追い討ちをかけるよう、別の1匹が更に跳びかかってくる。
 なんとか斧で叩き落すが、それでダメージを与えられたとはいえない。弾かれた火猫は少し距離を取ったままこちらの様子を見ている。
「多勢に無勢‥‥ですわね」
 だが、それでもローズは退くわけにはいかない。
 彼女が退けば、森は更に燃えるだろう。そうなってしまえば、村にまで火の手が伸びるかもしれない。
 いや、その前に火猫自体が村に到着してしまえば――
「弱気は、いけませんわね」
 ローズは首を振って、最悪の考えを追い出す。
 せっかくあそこまで村を復興させたのだ。その村をまた滅ぼさせるわけにはいかない。
 自分が火猫を倒せなくても、こうして足止めをし、その間に救援が来れば‥‥と彼女は考える。
 村の者も、この異常事態が恐らくアヤカシか何かの仕業だと思い、きっと開拓者へと助けを求めているだろう。
 すぐに捕まるような場所に開拓者がいればいいが‥‥とそこまで考えてから、ローズはまた首を振る。
「またネガティブに考えてしまいましたわね。‥‥信じましょう。村の皆さんを、そしてこの状況を何とかしてくれる誰かを」
 その為に自分ができる事は――火猫の足止めだ、と。


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
佐久間 一(ia0503
22歳・男・志
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
アルクトゥルス(ib0016
20歳・女・騎
シア(ib1085
17歳・女・ジ
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰


■リプレイ本文

●偶然の救い
 炎に包まれた森の中。空気は熱く、吸い込むと肺の中まで焼けそうなぐらいだ。
「まだ‥‥倒れるわけには‥‥!」
 少女‥‥ローズは身の丈以上の大きさを誇る斧を支えにして立っていた。
 全身に爪痕や火傷があり、戦いの激しさを示している。
 足が震え、最早武器を振るう事もできない。だがそれでも彼女は倒れるわけにはいかない。
 今彼女が倒れれば、村が襲われるのだから。
 だが火猫にとってそんな事は関係ない。アヤカシである彼らにとって、目の前のローズは敵でありエサだ。
 ローズにトドメをさそうと、火猫のうちの1匹が飛びかかる。
 飛びかかった火猫の爪が、ローズの首筋へと迫る。ローズはそれを理解しつつも動けない。
(これまで‥‥ですの‥‥?)
 そう思った時だった。
 横合いから飛来した何かが、火猫の顔面にぶつかる。大したダメージではないが牽制には十分だったようで、火猫は爪を立てることよりも着地して警戒する事を優先した。
 飛んできた物体は金属製の面頬。誰が投げたのかと、ローズは顔をそちらに向ける。
「あなたは‥‥」
 見たことのある顔だった。そこに居たのは羅轟(ia1687)だ。いや、いつも顔を面などで隠していたので、顔を見たのは初めてかもしれないが。
「ローズ殿‥‥無事か?」
 羅轟の呼びかけ。それによく聞けば、何者かがこの場に近づいてくる足音も聞こえる。救援が到着したということだろう。
 助けが来たことで緊張の糸が切れたのか、ローズの足から力が抜ける。倒れる前に、1人の男が素早く抱きとめた。
「お嬢様、ご無事ですか?」
「‥‥お嬢と呼ばないでくださいな」
 火猫達から身を守るよう我が身を盾に、むしろ抱きしめるぐらいの勢いでローズを支えるのは鷲尾天斗(ia0371)である。
 疲弊しているローズとしては、抱きしめられている状況を気にする余裕も無いのだろう。それでもつっこむ所はつっこんでいるのだが。
「怪我してるみたいだな。胡蝶、頼んだ!」
「分かってるわ!」
 陰陽師の少女‥‥胡蝶(ia1199)が、ローズ達の元に駆け寄る。
 胡蝶は天斗からローズを預かると、膝上に彼女の頭を乗せるようにして横に寝かせる。
「単身でアヤカシの相手をしようなんて、無謀な行いね」
「それは――」
 治癒符を発動し、ローズの傷を癒しながら無茶を戒めるような事を言う胡蝶。
 だがそれにも理由がある、とローズが反論しようと口を開くより先に、胡蝶が言葉を続けた。
「‥‥けれど、ジルベリアの騎士としては、悪くない気概だわ」
「っ‥‥当然ですわ」
 結局ローズの口から出たのは反論ではなかった。その様子を見て、彼女の事が少し理解できたのか胡蝶が小さく笑みを浮かべる。
 そこに牽制に使用した面頬を回収して装着した羅轟がやってくる。火猫達は駆けつけた開拓者達を警戒して、取り囲む程度に留まっている。
「‥‥よく持たせた。あとは、任せておけ」
 いつもの静かにぽつぽつと呟くような喋り方とは異なる、羅轟のそれ。それは彼が相当に怒っている証拠である。
 羅轟は符水の入った竹筒をローズに渡すと、背を向ける。視線の先は取り囲んでいる火猫達だ。
 また、同じように駆けつけた開拓者達もローズを守る様に立ち、火猫と相対していた。
 火猫に相対しながら、佐久間 一(ia0503)はローズを安心させるためか背中越しに声をかける。
「村の人達に消火の準備をお願いしましたから‥‥アヤカシさえ退治すれば何とかなります」
「ま、水かけるだけじゃどうしようも無いから木を切り倒す事になるだろうけどね」
 そこは私達の出番だ、と続けるはアルクトゥルス(ib0016)だ。
「あなた達は‥‥」
 知った顔である2人。彼らだけでなく、偶然とはいえ多くの開拓者達がこの場に来てくれた。
「チッ! まさかこんな所で面倒事が巻き起こるとはな。暢気な観光旅行のつもりだったんだがな。んじゃあ火消しッポイ事やってやろうか!」
「火を纏う猫か‥‥猫ならばもっと可愛げもあろうに。動物は好きだが‥‥やはりアヤカシはアヤカシよな!」
 各々に武器を構える九条・颯(ib3144)と紬 柳斎(ia1231)。更にシア(ib1085)もローズの様子を気にかけながら、火猫を睨む。
 ちらと見た、1人で火猫と戦い傷つき倒れたローズの姿を思い出しながらシアは考える。
(自分1人しか志体持ちがいなくて、他の人たちは戦ったりできないとなると、やっぱり全てを抱え込んでしまうもの?)
 強大な敵に仲間達と挑む開拓者の姿を見てこの道を選んだ彼女としては、1人で戦うローズの姿がどこか寂しく映るのか。だから、こうも思う。
(‥‥一緒に戦える仲間が、彼女にも出来たらいいのに)

 こうしてローズと村の窮地に8人の開拓者が駆けつけた。
 きっかけは偶然なれど、守る為の戦いが始まる‥‥!

●炎の中の戦い
 突然増えた8人の開拓者達を見て、火猫は警戒したまま様子見をしていた。
 だが、このまま悠長に睨み合いというわけにはいかない。こうしている間にも、火は着実に森へと広がっていくのだ。
 一刻も早く火を消す為、開拓者達は勇んで火猫へと立ち向かう。
 1体の火猫につき1人が相対する形だ。

「時間との勝負‥‥ですね」
 火猫を正面に据え、抜刀するは一。
 やはり火猫は警戒しているようで攻めてこない。ならばと一は自分から踏み込んでいく。
 刀間合いに収めると同時、紅蓮紅葉を発動。刀が紅い燐光を帯び、速さの増した一撃が火猫を襲う。
 手応えは、ある。だがそれで倒れる敵ではない。お返しとばかりに爪をを振るう。
 待ちに徹していた事もあってか、火猫の狙いは確実だ。横踏を発動しても避けきれるものではない。
 いや、直撃を避けたとしても、
「くっ、あつっ‥‥!?」
 掠った程度。その程度で皮膚を、肉を焦がすには十分なのだ。
 体力などを温存して戦おうと思えば相当の強敵には違いない。
 だが、先程も述べた通り、一は時間との勝負だと理解していた。だからこそ出し惜しみはしない。
「逃がしませんよ‥‥!」
 練力も気力も振りしぼり、火猫の排除に向けて全力で刀を振るう――!

 アルクトゥルスもまた同じように火猫に張り付いて戦っていた。
 気をつけるべきは戦線を突破されないこと。抜かれてしまえば被害の拡大は目に見えているからだ。
 だからこそ、火猫の爪にも炎にも恐れず、彼女は斧槍を振るう。
「戦の傷は武人の名誉ってなぁ!」
 だが何回か振るうものの、そう簡単に命中とはいかない。
 ならばと挑発して気を引いた上で更に流し斬りを重ねていく。そして攻撃を重視した以上、火猫の爪がどうしても痛くなる。
「とはいえ‥‥基本相手に分があるか、ね!」
 当たれば大きいが不利である事を理解しつつ、アルクトゥルスは手頃な木にスマッシュを叩き込み、倒れるそれを火猫に向かって蹴り飛ばす。
 ダメージを与えるまではいかないが、動きを制限するのに繋がれば、と。
 倒れこむ木と同時に、アルクトゥルスは火猫へと突撃する。

 颯は弓で火猫の対応をしていた。それも中々特殊な戦い方をして、だ。
 弓の利点といえば遠距離から攻撃ができることだが、彼女はその利点を捨て、わざわざ敵の懐まで飛び込んでいた。
 矢を番えた状態で瞬脚で距離を詰め、口や目といった急所を狙い、放つ。
「こんだけ近けりゃ‥‥外さねぇだろ!」
 確かに超至近距離で矢を放てば、遠くから狙い撃つよりは命中率が上がるだろう。実際、効果はあるといえる。
 だが、それを常に行うならば最初から剣を振るえばいい。弓は射程に優れているのであって、特に命中や威力に優れているわけでもないのだ。
「ぐっ‥‥!」
 弓の弱点には矢を番えるという行為が必要な事もある。その為手数はどうしても少なくなりがちだ。
 火猫の迎撃として蹴りで空気撃を放つも、そうすると自分の体勢も崩れて矢が放てなくなる。悪循環だ。
「ヤベ――!?」
 火猫の爪が目前まで迫る。
 だが、それが届くより先に火猫の体を横合いから放たれた矢が貫いた。
「危ないところだったな」
 矢が飛んできた方向を見やれば、そこには弓を構えた柳斎の姿。
 射られたことで怒ったのか、火猫が狙いを彼女へと変えて跳びかかる。
「怒りにかられた獣の動きなど‥‥読みやすいだけよ」
 対する柳斎は冷静に弓を捨てた。
 柳斎が次の行動を取るよりも火猫の爪が届くのが早い。だが命を奪うには程遠い。
 ならば、決着は必殺の一撃を持つ者に旗が上がる。
「――柳生無明剣」
 柳斎の振り下ろした刃が、火猫を両断した。

 火猫の数は6。開拓者達は1対1で相手している為2人余る。そのうち1人の胡蝶はローズの治療に専念し、もう1人の天斗はその護衛だ。
「くっ‥‥私だけ寝てるわけにはいきませんわ‥‥!」
 逸るローズを抑えつつ、胡蝶は治癒符を再度発動する。
「まったく、体も満足に動かないのに無茶言うんじゃないわよ」
「そーそー――っと」
 戦闘中の火猫のうち1体が本来の相手から離れて近づいて来るの見て、天斗が槍を振り回して牽制する。
 護る事を念頭に置いたそれは、ダメージを与える事はできないが護るには十分だ。
「美少女を護れるとは志士の本懐、なんてな」
「‥‥志士の方々ってそういうのが本懐なんですの?」
「志士じゃなくて、この人がちょっとアレなだけよ」
「えっ、酷くね?」
 何はともあれ、符水や治癒符のお陰でローズの体は何とか立って走れるぐらいまで回復する。
 そんな彼女に胡蝶は村まで戻り、村人を指揮する事を指示する。
「火事から村人を守れるのはあなただけ。‥‥任せるわよ?」
 戦線復帰できない事に対して、ローズは少し不満を顔に出すが、すぐに息をついて納得したように頷く。
「ふぅ‥‥分かりました。いつかの時に、適材適所が大事だと言われましたしね」
 ローズが開拓者達に背を向ける。足の向かう先は村の方向だ。
 彼女に追撃の手が及ばないよう、天斗も胡蝶も火猫の動きに気をつける。
「‥‥大丈夫だと、信じてますわよ」
 その言葉を最後に、ローズは全力で村へと駆けていった。
 ローズが無事離脱したのを見て、天斗と胡蝶も戦闘に加わる。
 天斗が大きく息を吸い込む。やはり肺が焼けるような熱さと痛みだが、それが味わえるのもこの空間だからこそ。
「やはり火はええのぅ‥‥さぁ! お前等が作った最高の舞台だ!」
 槍の穂先を火猫へと向ける。
「此処で屍を曝し、空に水面に浮いて漂え」
 戦況が動く。

「ふぅ‥‥」
 呼吸を整える為にシアが息を吐く。炎で満ちたこの場は息苦しいが、それでも呼吸しないよりはマシだ。
 彼女の目の前にいた火猫はどうも苛立っているようだった。それもそうだろう。シアは酔拳での回避に専念し、まるで隙を見せないのだから。
 とはいえ、回避に専念して攻撃を仕掛けていないということは火猫にある判断をさせる可能性もある。
「――逃がしはしないわよ!」
 火猫の狙いが変わった。どうやらシアを敵と見なさず、別の人物をターゲットにしようというのだ。
 シアは、火猫の踏み込んだ足が自分の方に向いてない事からそれに気付く。
 ある意味隙ともいえるその横腹に向かい、踏み込む。
 素早く前進しながら、肘鉄を叩き込む――頂心肘。
 今のシアには肉を穿った手応えよりも、炎の痛みの方がより感じるかもしれない。だが、
「熱いとばかりも言ってられないもの‥‥!」
 吹き飛ばされた火猫が再びシアを睨む。今度こそ脅威と認定されただろう。
 その直後、
「食らい付いてやりなさい!」
 猫を犬が襲った。
 いや、正確には犬の形をした式だ。
「‥‥ふん、相手が猫なら、うってつけの相手ね」
 胡蝶が作り出した式による攻撃。それは火猫の体力を確実に奪う。
「手が増えたなら、回避に専念すること無いわね」
 再びシアが火猫に踏み込む――!

「‥‥滅せよ、妖物!」
 火猫の最後の1体を羅轟が断ち斬る。
 本来は猿叫を使い、もう少し効率的に倒そうと思っていたのだが、使おうとした瞬間まで、今の自分が使えない事を忘れていたらしい。
 その為に少々手間取ってしまったが、倒すには倒した。
 だが、戦いはこれで終わりではない。
「早いとこ消さないと、取り返しがつかないぞ」
 颯の言う通り、森は変わらず燃えている。このまま放っておけば火はどんどん広がるだろう。
「聞こえればいいのですが‥‥」
 一が戦闘が終わった事を合図する呼子笛を吹く。
 そのほぼ直後だろうか。
「待たせましたわね、皆さん!」
 ローズが村人達を引き連れてやってきたのだ。

●消火という戦い
「力があるやつは、斧で木を切れ! 隙間を作って延焼を防ぐんだ!」
「‥‥水じゃ‥‥間に合わない‥‥! 土砂で‥‥消火‥‥!」
 そして開拓者達の指示の元、消火作業が始まる。
 救援を要請された時に、事前準備をするよう村人に指示したこともあって、作業に取りかかる事自体はスムーズであった。
 しかし、どれだけ準備をしていても、困難を極めるのが消火作業というものだ。
 中には空気や熱気にやられて倒れた村人もいる。火傷を負った者もいる。開拓者達の体力も同様に削られていった。
「タイ捨剣! えぇい、次はどこを切ればいい!?」
「おサムライさん、こっちです!」
 だが、どれだけ激しく険しい火事であっても、開拓者と村人達は諦めず、協力していた。

 そして数時間後――
 ようやく森から火の気配が消えていた。
 火元を中心として、大分燃えてしまった。延焼を防ぐ為に伐採を行ったが、それでもどうしても燃えてしまった部分はある。
 この火事が森に与える影響は計り知れないだろう。だが、それでも村の壊滅は免れることができたのだ。
 体力の限界が来たのか、森のその辺で倒れる村人もいた。
「ん‥‥? おぉ、すまねぇな。嬢ちゃん」
「‥‥半端な余力が残っていたから、ついでよ」
 傷ついた村人を治癒符で回復する胡蝶。半端な余力とは言うが、胡蝶の練力も最早空に近い。
 それでも村人を治療するのは、彼女なりの優しさか。
 そんな様子を見た天斗が、彼女に声をかける。
「じゃあ俺も治療してくれない?」
「貴方たちは頑丈なのだから、ツバでも付けときなさい」
「美少女のツバなら嬉しいけど」
 胡蝶の反応は当然、無視。むしろ殴られなかった分いいのかもしれない。
 そして、村人達と同様にローズもまた精根尽きて横になっていた。
 そんな彼女の隣に、羅轟が腰を下ろす。彼はローズの様子を確かめると、安心したように息を吐いた。
「‥‥まあ‥‥無事で‥‥良かった」
 言葉を受けて、ローズは微笑むと上体を起こし、周囲にいる開拓者達や村人を眺める。
「皆さんのお陰ですわ。‥‥村が無事で本当に良かったです」

 こうして、村は炎の脅威から救われた。
 この事件も村人達の絆を深める分には‥‥ある意味良かったのかもしれない。