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■オープニング本文 ※このシナリオはハロウィンドリーム・シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません その学校はとてつもなく巨大で、カオスだった。 そんな学校にて、学園祭が行われていた。 「と、いうわけで今回は学園祭です」 そう述べ深々と挨拶するメイドの名はエルオール。レプリカントという種族のセメント系逢魔だ。 彼女がいるのは学校の生徒会室を利用した、運営本部である。学園祭を滞りなく進める為に必要な部署だ。 また運営本部としての役割だけでなく、出番の無い者が待機をする部屋を兼ねている為か、やたらと人が多い。 「えっと‥‥何が、というわけ、なんでしょうか?」 「細かい事は気にしない方が良いかと思われます」 先ほどのエルオールの発言が気になったのか、金髪の女生徒が手を挙げて質問するが、明確な答えは得られなかった。細かい事を気にしてたら色々と成り立たなくなるので仕方ない。 女生徒の名はコレット・ド・マリス。元の世界では円卓の騎士だったりで鎧を身に纏っているが、ここではブレザーの制服を着ている。 「‥‥なんでしょうか。22歳の私がこれを着ている事に物凄く抵抗があるのですが」 大丈夫だ、似合っていれば問題ない。 生徒会室を見渡していれば、制服を着ている者とそうではない者に分かれるが、その差は恐らく『なんとなく』、これだろう。 多くの者が制服姿を見たくなるような人物が制服を着てる傾向が強いか。 ガラッ。 「制服姿を見たいと言われた気がしてやってきたのじゃが」 無理しないでください、鼎様。 インプの司が部屋の隅っこでいじけていると、また新たに生徒会室に誰かがやってきた。 「グギギ。パレードは終わったぞ。クッキーも大好評だ」 「お疲れ様でした、バグア様」 部屋に入ってきたのは一般兵のバグアだ。先ほどまでパレードに参加していた為か、メイド服を着ている。あまりにも強烈な姿だがエルオールは気にせず応対を続ける。 「ではバグア様。申し訳ありませんが、見回りをお願いいたします」 「グギ、仕方ない‥‥。後でこの学校を手中に収めるにも現地調査は必要だからな。グギギ」 そう言うと、バグアは見回りの為に部屋を出ていった。メイド姿のままで、だ。 「あの‥‥物騒なことを言ってましたが放置してよろしいんですの?」 バグアを見送って、生徒会室で待機していたやはり制服を着たローズ・ロードロールが尤もな疑問を口に出す、が。 「何かを企んでいたとしましてもバグア様1人で出来る事もたかが知れてますので。‥‥それに、この学校で騒ぎを起こしたところで」 ついとエルオールは視線を窓の外の校庭へと向ける。そこでは爆発とか怒号とかが響く何か学園祭として間違っているような気がする競技が行われていた。 エルオールは視線を元に戻す。それ以上何も語らないが、先程見た光景だけで彼女が何を言いたいのかローズは理解していた。 「‥‥超人には困っていませんでしたわね」 それこそ、「ちょっと興奮した人がいても暴徒鎮圧は依頼で慣れてます! 俺に任せてください!」という人がいるだろう。 困ったところがあるとしたら、悪ノリをする人物も多いので、バグアに手を貸す人物がいるかもしれない、といったところか。 「ふぇっくしょん! ‥‥誰か噂をしたかね」 爺、お前は何もするな。 場所は再び生徒会室に戻る。 そこでは実行委員である逢魔がエルオールに様々な報告を行っていた。 「いくつかの問題をご報告します。まず1つ目、ゲーム研究部の出し物である『ギガテンプルムRPG』が完成しなかったようです」 「その名前は縁起が悪いと事前に申し上げた筈ですが‥‥。一先ず予定の教室は休憩スペースとして開放してください」 「このネタ、大丈夫なんですの‥‥?」 大丈夫だ、問題ない――といいなぁ。 「2つ目。模擬店のメイドカフェが好評で人手が足らないようです。乗じていちゃもんをつける輩も現れましたが、そちらは用務員兼警備員であるラーンス様が治めました」 「よりによって用務員ですか兄さん‥‥」 思わず頭を抱えるコレット。あの湖の騎士ラーンス・ロットがジャージを着て箒を手に掃除している姿をつい想像し‥‥似合ってると思ってしまい、更に悶絶する。 「こんなこともあろうかと、事前に王立セントメイド学園の皆さんに応援を要請しておきました。そちらに派遣することで問題解決すると思われます」 「3つ目の問題です。学園祭ということでか、滅多に現れない番長が姿を現しました。番長自体は特に何もしていませんが、武蔵様を始め何人かが彼に挑んで返り討ちにあっています」 「‥‥大きな騒ぎにならないようでしたら放っておいて問題ないかと。挑戦したい者を止める権利は我々にはありません」 こんなカオスな学校の番長とは一体どんな存在なのか。武蔵の出番はこれだけで終了なのか。色々と疑問があるが、答える者は誰もいない。 「あと、にゃんにゃん様が『最近のネコ娘はどんな感じなのか勝負にゃ!』と言って獣人系の方々に勝負を挑んでいますが‥‥」 「どうせなら某妖怪漫画に出てくる元祖ネコ娘に挑戦してください、とにゃんにゃん様にお伝えください。他にはありますか?」 大きな問題はこれぐらいなのだろう。逢魔はいくつかの連絡事項を述べた後、礼をしてから部屋を出ていった。 逢魔を見送ってから、時計を見ると、そろそろあるイベントが始まる時刻だ。 「もうすぐ『乱入上等! アドリブオンリーでもやってやるぜ劇』が始まるの」 不思議系美少女の白瀬留美が告げたイベント名に、ある意味当然の疑問を抱いたツンデレ金髪巨乳のマウル・ロベルがそれは何なのかと問う。 「それ、劇なのよね‥‥? イベント名だけ聞くと、とても劇として成立するとは思えないんだけど」 「参加自由でやりたい放題の劇なの。筋書きの無い舞台‥‥まさに人生と同じなの。ミニスカサンタ服を始めとした衣装もばっちり用意してあるの」 「ちょっと! その衣装、ピンポイントすぎない!?」 一体誰だ、そんなのを企画した馬鹿は。いやミニスカサンタ服はGJだが。 ‥‥よくよく考えれば、KVを始めとした何でもありの障害物競走なども相当にアレなのだが。 「すいませーん、こちらに落し物届いてませんかー?」 「落し物‥‥ですか?」 生徒会室に入ってきたのは、ナイトノワールであり司の歩美だ。そういえば、司就任当時の彼女は女子高生ということで色々と物議を醸し出したものだ。 「えぇと、その‥‥指輪を‥‥落としちゃって」 「指輪――もしかして」 直後、窓の外を巨大な何かが通過していった。確か、外では時間帯は障害物競走が行われている筈だ。 これはどういうことかというと‥‥まぁ、つまりは魔凱の使用解禁ということで。 そのレベルで何でもあり、ということだ。 さて、こんななんでもありな学園祭。どんなことをしてみようか――。 |
■参加者一覧 / 音羽 翡翠(ia0227) / ヘラルディア(ia0397) / 佐上 久野都(ia0826) / 秋霜夜(ia0979) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 平野 譲治(ia5226) / 雪切・透夜(ib0135) / 王 娘(ib4017) / やまねこ(ib5454) |
■リプレイ本文 ●祭を楽しむのも命がけ? そんなこんなで大騒ぎの学園祭。 色々な催し物があるけれど、やっぱり1人より誰かと一緒に回った方が楽しいものだ。 というわけで、廊下を歩いているコレットに声をかける少年が1人。 「エクター‥‥いや、今日はコレットか。どうだい、一緒に見て回らないか?」 「え、私‥‥ですか?」 少年の名は雪切・透夜(ib0135)。コレットと同じ世界の住人だ。正史で面識があるかと言えば怪しいところだが、細かい事は気にしてはいけない。 「何だかんだでお世話になったしね。その辺のお礼も兼ねて、お誘いだ」 「ん、んんー‥‥と言われましても、お礼を言われるような事をした覚えはありませんし‥‥」 だが真面目なコレットは礼と言われてもそれを素直に受け取ることができないらしい。そんなコレットを見て、刀也は攻め方を変える。 「1人で回るよりは2人の方が楽しいんじゃないかな、俺もコレットも。色々と賑やかなのが其処此処でやってるみたいだしね」 純粋に楽しみたいから。そう言われてはコレットに断る理由は無い。せっかくの祭を楽しみたいのはコレットも同じなのだから。 並んで歩きながら、コレットはちょっとした疑問を刀也にぶつけてみる。 「それにしてもどうして私なんですか? 刀也さんなら声をかけるべき人が他にもいるような気がしますが‥‥」 男がわざわざ独り身の美女に声をかける。コレットは気付いていないようだが、常識的に考えればこれは明らかに他意があるものと考えるのが筋だろう。 「他意ってアホか! あったらまずいだろが」 「ど、どうしました?」 「あぁ、すまん。何かとんでもない事をさらりと誰かに言われたような気がしてな。全く、どうしてそうなるのやら‥‥」 恋人のいる自分がそんな行為に及ぶ筈無いだろう、とため息をつく刀也。だが、先程のコレットの誘い方といい、明らかにスケコマシのそれだ。 自分で発言の意味やらを理解していない天然としたら‥‥酷い女泣かせになる可能性も無くは無い。 それに‥‥と刀也は言葉を続ける。コレットに手を出さない理由は恋人がいる以外にもあると。 「ラーンスさんに斬られるのは勘弁だよ。稽古なら歓迎だけどね」 コレット‥‥エクターの兄であるラーンス・ロットは妹を大事に思っている。下手に手を出せば斬られかねない、と。 最強の騎士に目をつけられるのは厄介だと苦笑する刀也の首筋にすらりと横合いから箒が当てられた。 「‥‥呼んだか?」 「兄さん!?」 箒の持ち主はラーンス・ロットであった。事務員らしくジャージを身に纏っており、イケメンが台無しだ。 「えっと、これは‥‥?」 箒を首筋に当てられて刀也はひやりと汗を垂らす。何故だろう、木製の何の変哲もないただの箒の筈なのに油断すると大変な事になる気がする。 「いやなに、妹の危機を救うのが兄の役目だからな」 ラーンスの目は、コレットに手を出す悪い虫は斬るぞ‥‥と語っていた。ところでお兄さん、正史ではあなたが妹の危機になってましたよ? 「出しません、出しませんってば!」 「そうか‥‥ならいい」 ラーンスは箒を収め、そのまま刀也達とすれ違うように歩いていった。ラーンスの背を見送って、刀也は安堵のため息をつく。 「‥‥危ないところだった」 「えと、何がどうなってるんですか?」 先程のやり取りの意味を理解してないだろうコレットが疑問符を頭に浮かべてるのを見て、刀也は気にしなくていいと笑顔で告げる。 「何はともあれ偶ののんびりもいいもんだ。お祭りなんだし、楽しんでいこうか」 それと、 「制服よく似合ってるよ」 「あぅ‥‥ありがとうございます」 笑顔でこんな風に褒められたら女性としては恥ずかしくも嬉しいものだ。当のコレットも顔を赤くして照れていた。これで口説いてるつもりが無いというのだから天然スケコマシは怖ろしい。 と、青春みたいなやり取りをしている彼らの背後の方で何故か爆発音が聞こえた。驚いて振り向けば、爆発音がした方向からやってきた男性が何事かを叫んでいる。 「大変だー! ラーンスさんが聖なる箒『あろんだいと』の真の力を解放させたぞー!」 それを聞いて、刀也はコレットの手を取って走って逃げることを選択する。その行為がラーンスを更に煽る事に気付かず――。 さて、別の階ではまた戦いが始まろうとしていた。学園祭なのに。 熱いバトルを繰り広げようとしているのは、騒動の種として逢魔達が報告していたにゃんにゃんだ。相変わらず腹出しミニスカに巨大な猫手グローブと、今日も元気とセクシーを両立しているようで何よりです。 そんな彼女と対面しているのはやはり猫娘。猫の獣人である王 娘(ib4017)だ。猫で例えると大人しい黒猫といったところか。 綿飴片手の彼女の背後に、何か霊のようなものが見えている気がするが、できれば気のせいとしたい。 「あぁ、すりすりしたい‥‥にゃんにゃんのお腹すりすりしたい‥‥」 霊のようなものが何か言っているが、それでも気のせいにしておきたい。 だが気のせいにする事にしても鬱陶しいのは事実。娘が戦う理由は、この鬱陶しい背後霊のせいだった。 「その腹にすりすりしないと鬱陶しい魂の絆的なものが切れないようだ‥‥覚悟してもらおう‥‥」 つまり、霊っぽいものは魔皇的な何かであり、にゃんにゃんの腹をすりすりできなかった悔しさから魂の絆みたいなものが繋がってる娘に取り憑いたのだろう。簡単に言ってしまえば多方面で迷惑な存在である。 迷惑な魂の絆的なものを断ち切る為に、にゃんにゃんを倒してお腹をすりすりする。それが娘の戦う理由だった。 「にゃにゃ、今は亡き魔皇様の為に頑張る‥‥逢魔の鑑ですにゃ〜」 「逢魔でも無いし魔皇的なものとは関係ない‥‥」 というか別にその魔皇は死んでないと思います、多分。 「しかし、それはそれ、これはこれですにゃ! 最新の猫娘よ、にゃんにゃんを越えてみせるがいいですにゃ!」 「上等‥‥」 こうして、WT史上最新の猫娘である獣人の娘と別に最古でもない猫娘のシャンブロウのにゃんにゃんの熱い戦いが始まったのであった。 にゃんにゃんがその元気な見た目と同じく奔放に動けば、娘は闇に潜む黒猫のように静かにそれを迎え撃つ。 猫らしくあちこちを跳んだりまわったり走ったりの戦いに周囲の人物を思わず目を止めていた。 「あんなミニスカで跳んだりして、実にいい‥‥」 というより、これが観客の本音であった。浪漫の為には水晶の召喚による被弾すら厭わない。それが男っていうものです。 そして戦いは終局を迎える。 「にゃにゃにゃ〜」 「‥‥ふっ‥‥!」 飛びかかりながらのにゃんにゃんのねこパンチを、娘は下に潜るように避けると立ち上がる際の勢いを利用してのアッパーをにゃんにゃんの顎へと叩き込む! 直後、にゃんにゃんは宙を舞い‥‥床に落ちた。 「燃え尽きた‥‥真っ白に燃え尽きましたにゃ‥‥」 「これで、私の勝ち‥‥」 約束は守ってもらう、と娘はにゃんにゃんに手を貸し彼女を起き上がらせる。 「にゃにゃ、仕方ないですにゃ。勝者に従うのが敗者の掟なのにゃ。それが世紀末なのにゃ」 今は世紀末じゃないです。 何はともあれ、にゃんにゃんは起き上がり腹を見せると――獣化して猫になった。体毛はにゃんにゃんの髪色と同じこげ茶だ。 「にゃにゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ〜」 猫になったにゃんにゃんは仰向けに寝て腹を露出させる。何を言ってるかは分からないが、存分に撫でろ‥‥といったところだろう。 どうやらにゃんにゃんは猫化した自分の腹をすりすりしたいものと誤解したらしい。女性の腹をすりすりしたいなんて声高に宣言する者はそういないから仕方ないかもしれないが。 「‥‥‥‥」 それを見てどうしたものかと悩む娘。彼女としては猫状態だろうがそうでなかろうがどっちでもいいのだが、魔皇的な何かは納得しないだろう。 とはいえ、一応すりすりできる機会なのですりすりはしておく。 「にゃんにゃんのお腹すりすりしたい‥‥これじゃ納得できないよ‥‥」 よし決めた、魔皇的な何かは後でボコって成仏させよう。そう考えながら娘はすりすりを続けるのだった。 ●クラス対抗模擬店大会PhaseX 熱い戦いとすりすりで友情を深めた娘とにゃんにゃんは模擬店であるメイドカフェに訪れていた。 そこに至るまでに、にゃんにゃんが獣化を解こうとしたら服が盗まれたとかの騒ぎはあったりしたが、些細なことだと判断して割愛する。 何故か用意されていたロシアメニューであるカラントドリンクやエンジェルプティングを食べて、これまた何故か懐かしい気分に浸ったり。 そのメイドカフェの控え室にメイドが1人。レプリカントの逢魔であるヘラルディア(ia0397)だ。 彼女は椅子に座り、何かを書いているようだった。 「拝啓、魔皇様へ――」 それは、己の半身である魔皇にあてた手紙だ。 『お元気でいらっしゃいますでしょうか? わたくしは今教室にて 外の学園祭の状況を眺めつつ 記載しております』 彼女が外に視線を向ければ、障害物競走の第3レースが始まろうとしていた。KVやらが並び、相変わらずカオスだ。 『本日の催し物は 見る限りにおいて本当に楽しいく感じられて わたくし自身もこの一息を終えたら メイドカフェというもののお手伝いを参加なのですね』 というわけで、彼女はメイドの格好をしているのだ。メイドカフェを通りがかった時にせっかくだからやってみないかと声をかけられたのがきっかけだ。 一度客として店に入ってみると、色々なメイドがいた。レプリカントらしく忠実なメイド。店を間違ってないかと言いたくなるインプのメイド。イギリスでメイドと騎士を兼業していた者。アイドルということで歌って踊れるメイドなど様々だ。 そんな彼らに混じって思い出を作ってみたい、というのが彼女がメイドカフェを手伝う理由のひとつだ。 『そこでは在籍している多種多様の学生陣に相応しく 本当に奇抜な格好ばかりでして 又騒がしいさも何時もと倍と思われる有様』 そういえば‥‥客として入った時に端の方の席で怪しい老人を見かけましたね、と思い出す。 『カフェの片隅ではご老人が 何やら不穏な実験をして居られたので 戻った際にはエルオール様と一緒に 差し押さえしなければなりません』 「ふぇっくしょん! ‥‥ふむ、今日はどうもよく噂される日だね」 くしゃみをした老人とは言うまでもなくカッシングだ。メイドカフェでビーカーやフラスコで怪しい液体を混ぜている人物を見て、噂するなという方が無理がある。 「あぁ、すまない。お腹もすいたのでオムライスを頂けるかね。ケチャップは『カッシング様万歳』でお願いするよ」 誰かこの爺さん何とかしてくれ。 ともかくメイドカフェの控え室に戻れば、ヘラルディアが手紙を書き終える頃であった。 『毎日が健やかな便りが 伊賀にお届けできるのが幸いでしょうか これに失礼致しますね』 「敬具――っと。さて、そろそろ私も仕事をしましょうか。まずは老人を何とかすることですね」 手紙を封筒に入れてから立ち上がると、ちょうどエルオールが顔を見せるところであった。 「これは良いタイミングです、ヘラルディア様。老人が『ケチャップで似顔絵も描いてくれないと嫌だ』とゴネ始めまして力を借りたく」 というわけで、ヘラルディアの初仕事は困った老人の相手となりそうだ。 「ふむ‥‥」 空き教室で机の上に服を広げて悩む青年がいた。佐上 久野都(ia0826)‥‥いや、ここではナイトノワールのクノトか。 「さて、学園と言う事で異世界におわす我が主は詰襟とブレザーどちらを好まれるか‥‥」 彼が悩んでいるのはどちらを着た方が主は喜ぶかということであった。 いっそ白衣でも‥‥という考えが浮かんだ彼の背後から、声がかかる。 「そんなとこで何を悩んでおるのじゃ?」 声をかけたのは翡翠の司であるインプの鼎だ。ちなみにブレザーの制服を着たままである。 ちょうどいいと、クノトは悩みを鼎に打ち明けせっかくだから決めてもらいたいという事を告げた。 「わらわが決めるのか?」 「えぇ、お嬢様。貴女のお好みのままに」 にっこりと執事風にスマイル。むしろそれよりもお嬢様と呼んだのが効いたのかもしれない。鼎は嬉々としてクノトに似合う服を選び始めた。 結局鼎が選んだのは詰襟の制服だ。選んでもらった礼ということで、クノトは自分が働く喫茶店に鼎を案内することとなった。 「ここはやっぱり特殊な店なのかの?」 「はい、ここは逢魔喫茶‥‥運命の逢魔が居ない方に一時仕える喫茶店です。とはいっても、逢魔を束ねる身である鼎様に合うかどうかは分かりませんが‥‥」 「ふむ‥‥。まぁ、せっかくの祭であるのじゃし、いいんでないかの」 鼎は少し考えたが、ある意味貴重な体験ができるのだからいいかとすぐに結論を出す。 それを聞いて、クノトは鼎の前で片膝をつくと手を取り、手のひらに軽く口付けをする。 「今一時だけ‥‥私の主で居て頂けますか?」 「んん‥‥おぬしの奉仕、期待するぞ」 まず手始めとしてお茶を入れることからだ。勿論出来は抜群である。 他にも主の要求通りの菓子を出したりと仕事にそつはない‥‥が。 「のう。これは‥‥普通の執事喫茶とやらと変わらないのではないのか? いや執事喫茶自体も聞いた話でしか知らんのじゃが」 という鼎の疑問も尤もだ。喫茶店である限り、やれる事にそう幅は無いので仕方ないかもしれないが。 そんな彼女の疑問に応えるように、クノトが鼎の手を取る。 「そう言われると思いまして、ピンチになった主を逢魔である私が助けに行くサービスもありますよ」 「ピンチ‥‥じゃと?」 はて、喫茶店で起こるピンチとは何じゃろうか‥‥と鼎が困惑してる隙をついて、クノトは流れるように彼女を抱き上げる。お姫様抱っこの状態だ。 「な、なんじゃ!?」 「しっかり掴まっていてくださいね」 そのまま窓から外へ、石の翼を広げて飛ぶ先はグラウンドの真ん中。ちょうど何でもありの障害物競走のコース中だ。 クノトはそこへ降り立つと、鼎を降ろして飛び立つ。 「なっ‥‥!?」 コース中ということは競争に巻き込まれるということだ。それを示すようにKVやら殲騎に乗り、火器や魔法にダークフォースをぶっ放す集団が彼女の身に迫っていた。 「ちょっ、ちょっと待つのじゃー!?」 鼎の叫び声は怒号にかき消される事となった――。 ●障害物競走(超人用) 結局レース集団に巻き込まれる直前に、クノトの手によって鼎は救い出されていた。勿論助ける時もお姫様抱っこだ。 「どうでした? 結構ドキドキしたと思いますが」 「客が求めているのはこういうドキドキでは無いと思うんじゃがの‥‥。大体、窮地に追い込んだのもおぬしではないか!」 突然の出来事で体がうまく動かなかった為か、鼎はクノトの体にしがみつくようになっていた。胸が凄い勢いでドキドキして顔も赤くなっているが、勿論恋愛感情から来るものではない。 グラウンドの端っこでクノトは鼎を降ろし、落ち着くのを待つ。 「落ち着くまで、障害物競走でも観戦しましょうか」 なんでもありの障害物競走。本来障害物競走の障害とはコース中に設置されているものだが、この競技に限ってはその定義は怪しいものであった。 何せ『なんでもあり』なのだ。走者が別の走者に攻撃を仕掛けることすら許されている。もはや対戦相手すらも障害扱いだ。 「一体みんな誰と戦っているんだ」 と思わず呟いた者もいるが、走者に言わせれば答えは簡単だ。――全てが敵です。 そんな競技だからか注目度も高い。放送部もしっかりリポートをしている。 マイクを握りカメラに目線を送る彼女の名は秋霜夜(ia0979)、ウィンターフォークの逢魔である。あぁ、ミニスカ仕様の制服から伸びる足が眩しい。 「はい! お昼の部リポート担当の霜夜です」 そして競技を実況していくのかと思いきや、 「競技会の真実に鋭く迫りたいと思います!」 と彼女は言い放った。 こんなカオスな競技に迫るほどの真実やらが隠されているのかは謎だが、視聴者のそんな疑問に答えることなく、カンペを見ながら霜夜は話し続ける。 「午後の部の花、障害物競走はKVも参加可という事で『殲機で対抗せずにどーする!』と、参加を画策する魔皇さまがいるとか‥‥その辺、裏事情にお詳しい鼎さまを直撃します!」 参加を画策する以前に第1レースで既に魔凱殲騎を使う者すらいたのだが、それはこの際置いておく。 鼎様はどこかなー、と周囲を見渡す霜夜の目に先程からグラウンドの端で休憩している鼎の姿が映る。 「おっ、あそこに居ますね。それでは伺ってみましょう。恐縮です〜」 「今度はなんじゃ!?」 戸惑った様子を気にせず霜夜はマイクを鼎に向ける。 「魔皇さま復権に向け、鼎さまが糸を引いてると噂がありますがっ?」 「わらわが!? 誰じゃ、そんな事を言っていたのは!」 「噂ですので具体的に誰とは‥‥」 「そもそも何故そんな噂が出回るのじゃ!」 「表向き魔皇様は参加してない筈の競技なのに、参加できるような事が書かれてたからじゃないですかね。それで魔皇様復権を企む者がいて、その人物が鼎様ではないかと‥‥」 「その結論に至る経緯がよく分からんのじゃが‥‥。確かに魔皇様の地位が復権するのはよい事だと思うが、今は今で平和じゃしのう」 まぁ、と一旦間を置いて競技に参加している魔属の者を眺めながら、鼎はどこか懐かしいものを見るような目になる。 「こうして魔皇様達が表舞台に出てくれたのはやはり嬉しいことじゃの‥‥」 そういえば、と今度は鼎が霜夜に質問する。 「おぬしも逢魔だが何か競技に参加したのかの?」 「あたしですか? 大食い大会に参加しましたよー」 先程まで行われていた大食い大会に参加していたらしい。その時の事を思い出したのか、少し苦しそうにお腹をさする。 「報告書に名前も載って――」 そこまで言ったところで、メイド服を着た実行委員が霜夜の手を掴みどこかへ連れていこうと引っ張る。どうやら放送内容がお叱りを受けるようなものだったらしい。 「ぐっ‥苦しい、手を離して〜。い、以上霜夜がお送りし‥‥」 こうして霜夜はフェードアウトすることになったのであった。 さて、障害物競走もいよいよ大詰め。 終盤らしく、スタート地点で魔凱殲騎やらネフィリム・ヴァーチャーやらシェイドやらが並んでいたりした。 「えぇと、これは‥‥」 何故自分がこんな物に乗っているんだろうかと頭を抱える礼野 真夢紀(ia1144)。残酷の黒の刻印を持つ魔皇である。 普通の殲騎に乗って、そこそこの相手とレースをするつもりだったのだが、何故かこんな大物枠に放り込まれていた。 そもそも魔凱殲騎は魔凱と呼ばれる特別な指輪を所持していないと呼び出すことができない。当然自分はそんなものは所持していない筈‥‥なのだが。 「あ」 それが彼女の手の中にあった。 そう、それは先程廊下で拾ったものだ。落し物の指輪を届けようとしたら、逢魔の音羽 翡翠(ia0227)にレースの時間だと呼ばれて結局そのまま来てしまったのだ。 拾った指輪が魔凱だったなんて、誰が思うだろうか。落とした歩美様は反省してください。 そして真夢紀はある事に気付いた。今まではこういうイベントでは刻印が修羅の黄金に変わっていたりしたのだが、今回は本来のものである黒のままだ。 よって殲騎はペインブラッド。それにフェアリーテイルの魔凱装備である『フェアリーウイング』が装着されている。分離してエネルギー砲台となる3対6枚の巨大な羽根だ。本来は光の羽根なのだが、ペインらしく黒く蝙蝠の翼のような形をしている。 魔凱殲騎の姿を認識して、真夢紀は自分の刻印が変わってない理由に気付く。 「‥‥今回やっと本来の刻印でこれたのって‥‥」 「確実に誰かさんの陰謀でしょう。『使いたいけど使えなかったー』ってぼやいてましたしねぇ」 真夢紀の背に抱きつくように一緒に搭乗している翡翠が言葉を続ける。 「黒とフェアリーテイルの組み合わせって、確か下のお姉様の仲間にいましたしねぇ。確かこの組み合わせの魔骸形状発表なかったから見たかったんでしょう、誰かが」 「フェアリーテイル一番少なかったらしいしね。うちは2人‥‥翡翠いれたら10人中3人と多いけど」 「性別は形状には関係ないみたいですしね」 「あっちは――っと、そろそろ競技が始まるわね」 彼女らの会話を遮るように、競技開始が告げられそうになっていた。 「とにかく逃げ切らなきゃね‥‥!」 スターターピストルが開始を告げる音を鳴らす。 彼女らの戦法はとにかく逃げ切り、真ワイズマンクロックやフェアリーウイングなどの遠隔操作が可能な武器で後方に妨害を仕掛ける、というものだ。 特にフェアリーウイングによる砲撃は強力で、大物とはいかなくても中堅クラスの敵なら容易く粉砕していた――が。 「ちょっとー! あれってズルじゃないの!?」 敵はヴァーチャーだったりシェイドだったりするのだ。ドミニオンが出てないだけマシかもしれない。 こうして、壮絶な生き残りをかけたレースは更に波乱の展開を見せていくことになったのだった。‥‥あれ、これって障害物競走でいいんだよね? ●乱入上等! アドリブオンリーでもやってやるぜ劇 なんでもありなのは障害物競走だけではない。アドリブオンリーで突き進んでいく劇もそれだ。 アドリブオンリーと聞いて燃えている男がいた。男の名は平野 譲治(ia5226)。 「アドリブオンリー‥‥! エチュードなりねっ!」 確かにエチュード(即興劇)といえばエチュードなのだが、エチュードにはエチュードなりのルールがある。‥‥が、今回のこれはそのルールがあるかどうかすら疑わしいものだったりする。 しかし、そんなことはやる気に満ち溢れている譲治には些細なことなのか、自分がやれることは無いかと楽屋をきょろきょろと見渡す。 「なればなれば‥‥」 「ちょっと、やっぱり今回も私これ着なきゃ駄目なの!?」 廊下から女性の声が聞こえ、ついそちらに目を向ける。そこに居たのはミニスカサンタ服を着たマウルだ。結局着せられてしまったらしい。 そんなサンタマウルを見て、閃くものがあったのか譲治はがさごそと衣装を漁ると、見つけたそれを着て廊下に躍り出る。 「‥‥! なななっ! サンタやるなりっ!? ならなら、おいらトナカイやるなりよっ!」 「えっ、えぇっ! そんな事言われたら引けないじゃない!?」 マウるんは押しておけば意外と何とかなるかもしれない。カップリングイベントなどに彼女を参加させる場合も押し押しでいけばきっと何とかなるだろう、うん。 色々とあったものの、舞台の幕が上がる。 こうして始まった劇はマウルがサンタとしてプレゼントを配るというものだ。 「えぇと、何々‥‥ミユ社長の抱き枕が欲しい‥‥? うん、見なかったことにしていいわね」 勿論配るプレゼントは健全なものの範囲だ。マウるんの添い寝とかはもってのほかだ! れいちゃんフィギュアやもふら人形。様々なプレゼントを配り終え、ついには残り最後の1個となった。 「これを配れば、今年のお仕事は終わりなりね!」 「グギギ、そうはいかんぞ!」 トナカイ譲治の前に立ったのは、やはりまだメイド服に身を包んだバグアだった。 「その荷物は我々に渡してもらうぞ、グギギ」 「我々、なりか!?」 そう、我々と言うからにはバグアは単身で向かってきたわけではない。舞台の袖から更に2人姿を見せる。 「そのプレゼントを配らせるわけにはいかないの‥‥」 「‥‥何かここだけやたらとキャラが濃くないか?」 現れたのは制服に身を包んだ留美と、チンピラ風に学ランを着る武蔵であった。 「何故なり!? 何故このプレゼントを配ってはいけないなり!?」 「――――」 「必死に理由考えてる!? 先に理由考えてから言いましょうよ!」 「理由なんて些細なことなの。とにかく奪うの。力こそが正義、良い時代になったものだ‥‥なの」 「ひ、酷いなの!」 トナカイさん、口調が移ってますよ。 何はともあれサンタマウルと邪魔をする3人の戦いが始まった。トナカイ譲治は応援が基本です。 ヒャッハーと言いながら襲いかかるバグアと武蔵、モヒカンヘアーでないのが惜しまれる。勿論観客はそんな男連中よりマウルを応援する‥‥と思いきや。 「いけぇー! もっと動きまわれ!」 「よし、そこで掴め‥‥あぁ、惜しい!」 意外と応援の声が上がっていた。しかも男連中から。 それもそうだろう。マウルが派手に戦えば戦う程、きわどい服からこう‥‥ご褒美的なものが見えるかもしれないからだ。 「ノー、KENZEN。イエス、健全‥‥なの」 そんな応援の様子を見て何を思ったのか、留美が謎のスイッチを押した。すると、直後幕が降り、次に幕が上がった時にはバグアと武蔵は倒れ伏していた。 「‥‥舞台上でよかったなりよ」 どんな戦いが繰り広げられたかを知っているラッキーな男は、舞台に立っていた譲治だけであった。 何はともあれ、サンタとトナカイは無事最後の1人の家へとたどり着く。 その家はカプロイア伯爵のものだ。 「さてさて、伯爵が欲しいものは何なり〜?」 枕元に吊るされた靴下に譲治が近づくと、寝ていた筈の伯爵がむくりと起き上がり、譲治の手をしっかと掴む。 「うむ。喋るトナカイとは中々不思議だね。是非調べたいから君が欲しい」 「なり!?」 こうして、伯爵にはトナカイがプレゼントされる事になったのであった。 本来のプレゼントの中身? 皆さんの想像にお任せするというのはどうでしょうか。 そんなこんなでカオスな学園祭は多くの世界を巻き込み、大盛況のうちに終わるのであった。 |