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■オープニング本文 石鏡は陽天。 人が多く賑やかな観光都市であるそこは、いつも以上に多くの人々で溢れていた。 理由は簡単。国をあげての祭である安須大祭が開催されているからだ。祭の歴史やら経緯やらはここでは割愛しよう。 あちこちにある出店からは客を呼ぶ声がひっきりなしに上がり、飲めや歌えやの大騒ぎをしている者も多い。 そんな祭の様子に、ジルベリアからやってきた少女騎士、ローズ・ロードロールは圧倒されていた。 ローズが天儀にやってきたのは出稼ぎの為でもあるが、天儀に対して興味を持っていたからというのもある。 そんな彼女が石鏡で大規模な祭が行われていると聞いて、向かわない理由が無かった。 「これが‥‥天儀のお祭ですのね」 道を歩きながらも、きょろきょろと辺りを見回すローズ。最近天儀に渡ってきた彼女にとって、目につくものの多くが珍しく映るのだろう。 見たことも聞いた事もないあの食べ物はどんな味なのだろうか。辺りに響く祭囃子は一体どんな楽器で奏でているのだろうか。道行く者達が着ている服はどうやって着るのだろうか。好奇心が尽きることはない。 また、出店も食べ物系だけでなく、遊技を楽しむ店もあるようだ。見てみれば、客だろう若者が店主に金を払って何かを受け取っていた。 「っておっちゃん! 射的はいいとしてわざわざこんな本格的な弓でやるの!? 吹き矢とかじゃないの!?」 「あたぼうよ。うちはな、超本格射的を謳ってんだ。もちろん弓も矢も実戦で使えるものを用意したぜ!」 「危険すぎるよ! 素人にそんなもの使わせて、流れ矢とかどうするつもりだよ!」 「なぁに、ずぶの素人だと引くことすらできねぇから問題ねぇよ」 「この店本当にやる気あるの!?」 客と店主のやり取りを見て、ローズは成る程と頷く。 「遊びでも妥協しない‥‥これが天儀の流儀ということですわね」 少し遊んでみたかったが、弓の扱いはあまり得意ではないということでその場を立ち去る。満点景品の『ウルトラマーベラスアルティメットゴージャス等身大大もふ様ぬいぐるみ』には少し心惹かれたが仕方ない。 りんご飴を片手に祭の喧騒の中を歩くローズの目に、あるものが映る。道の真ん中で3人の女性が1人の男性を囲んでいたのだ。女性はみな背が高く、男性は少年といっても差し支えないレベルだ。 どうやら女性達は酔っているようで顔が赤く、体がふらふらと揺れている。酔った勢いでお姉さんが祭を楽しんでいる純朴な少年にあれやこれやを教え込もうといったところだろうか。 通行人が少年を助ける気配はない。せっかくの祭で面倒に巻き込まれるのはごめんといったところだろうか。時折少年に対して「代わってくれよ‥‥!」という呪詛や、「君も大人になるのか‥‥」といった生暖かい視線が送られるが、勿論そんなものが助けになるわけはない。ちなみにお姉さん達は皆レベル高めです。 と、男女逆のパターンならある意味お約束であり助けに入る人もいるだろうが、今回はある意味羨ましい状態なので助けはむしろ野暮といったところか。 ‥‥が、ローズから見れば少年が困っている事には変わりなく、困っている人を見過ごせない性質である彼女はその野暮なことをしてしまうのであった。 囲まれている少年の肩に手を伸ばすと、ぐいっと引っ張って彼を囲みから出す。何事かと視線を向けてくる女性達にローズは開口一番言い放つ。 「ちょっとあなた達、せっかくのお祭なんですから、人に迷惑をかけるのはやめたらどうですの?」 そう言われては女性達も黙ってられないだろう。彼女達は少年を楽しませるつもりだったのだから、色んな意味で。 「なによぅ。私達はそこのボクにイイコトしてあげるつもりだったんだから。別に嫌だなんて言われてないし、ねぇ?」 「え、っと‥‥僕は‥‥その‥‥」 話を振られた少年は顔を真っ赤にして、しどろもどろだ。困ってはいたが別に嫌というわけではなかったようだ。彼もまた男なのである。 だが、ローズにはそんな少年の機微は分からない。気が弱い為に上手く答えられないだけだと判断し、女性達に食って掛かる。 「ほら、困ってるじゃありませんの」 「勝手に決め付けないで欲しいわねぇ」 そして始まるローズと女性達の口喧嘩。頑固なローズはどう言われようとも退こうとはしない。 しばらくして、 「もういいわ。いきましょっ」 と女性の1人が声をかけて、女性達は引き上げていったのだった。それを受けて、ローズは後ろにいる少年に振り返るのだが‥‥ 「‥‥あら?」 そこに少年の姿はない。少年は口喧嘩の最中に肩を落としてとぼとぼとどこかに歩いていってしまったのだ。 少年が何を思っていたのかは分からなかったが、ローズはこれで少年を助けることができたと考えていた。 「ふむ‥‥。もしかしたら同じように困っている人がいるかもしれませんわね」 ――なら、祭を楽しみながらも、困っている人を助けてみましょうか。 そう考えながら、ローズはりんご飴をしゃくりと齧るのであった。 |
■参加者一覧
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
胡蝶(ia1199)
19歳・女・陰
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
鞍馬 涼子(ib5031)
18歳・女・サ
洸 桃蓮(ib5176)
18歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223)
16歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●祭の醍醐味 連日行われている祭のどんちゃん騒ぎ。騒ぎが人を呼び、人が更に騒ぎを大きくしていく。 ふらっと祭にやってきた天ヶ瀬 焔騎(ia8250)も騒ぎに呼ばれたものの1人だ。 「‥‥久しぶりだな、この祭」 安須大祭の歴史は古い。焔騎も子供の頃に連れてもらった思い出があるそうだ。 ――子供の頃とはまた印象が違うなぁ、と思いながらあちこちを見て回る焔騎。違いは背の高さか、同行者の有無か。 そんな彼の目に1人の女性の姿が映る。白い髪が着物に映える彼女の名はベルナデット東條(ib5223)だ。 「おーい」 「む‥‥天ヶ瀬殿か。1人で回っているのか?」 「せっかくだから祭を楽しみつつ警備ってところかね。どうだい、せっかくだから一緒に回るか?」 焔騎の言葉を受けてベルナデットはふむ、と思案する。甘味巡りならば一緒に回っててもできるし、何より友人と一緒の方が楽しいに違いない‥‥そう考えて頷く。 「じゃあ、是非ご一緒したいな」 「よしきた。宴と祭には気が付いたら存在する志士とまで言われる俺が祭の醍醐味を味わわせよう」 こうして色々な店をまわり甘味を買うと、2人は落ち着いた場所で腰を降ろす。 そこで甘味を味わっている2人だったが、どうも騒がしい声を聞いて意識がそちらに向いた。 「あぁ!? テメェがぶつかってきたんだろうが!!」 「るっせぇ! おめぇだろうがヨォ!」 話してる内容を聞いてみれば、どうやら酔っ払い同士が喧嘩しているようだ。しかもやっている場所が道の真ん中の為に迷惑極まりない。 やれやれといった様子で腰を上げる2人。こういう困った客の対処も警備の仕事だ。 「おい、その辺にしとけよ。志体持ちの通告は素直に受けてもらいたいんだが」 焔騎の通告。だが正常な判断ができない酔っ払いが素直に聞くわけもなく。むしろ関係ない者が割って入ってきたことに怒り始めた。 「んだァ、志体持ちだかなんだかしんねぇけどよぉ、テメェらには関係ねぇだろうがよ!」 そんなわけで酔っ払いらしく、無茶理論で怒りの矛先は2人へと向かう。やはり分かっていたが口で言って聞きそうではない。 「少しは痛いと思うが、我慢しろよ?」 焔騎が酔っ払いの手を取る。次の瞬間には酔っ払いの体が宙を舞った。 「何してんだぁ!?」 投げ飛ばされた酔っ払いを見て怒る酔っ払い。怒りのままにベルナデットを掴もうとする、が。 「足元がお留守のようだが‥‥?」 ベルナデットが軽く横に避けると同時に足をかけると、酔っ払いは無様に転んでしまった。 荒縄で縛った方がいいかもしれない。そう思い、ベルナデットは荒縄を取り出す。 ‥‥と、その荒縄が横合いから伸びてきた何者かの手によって取られた。何かと思い見れば、そこに居たのは熊だった。いや、正しくはまるごとくまさんという着ぐるみを着た何者かであった。 熊は半紙が貼られた看板を持っており、それを見るように指で示す。 「『後は任せて』‥‥?」 熊はこくりと頷くと、立ち上がろうとした酔っ払い2人をあっという間に縛り上げ、どこかに連行していった。 「何者だろう‥‥」 去っていく熊の背を見送り、ベルナデットはぽつりと呟く。些細な仕草から熊が只者では無い事が分かる。 「今度、その腕前を拝見したいものだ」 「熊の腕前をか」 警備隊の詰所にて酔っ払いに説教をしている熊。『警備熊』と書かれた腕章と『らごー』と書かれた名札をつけている彼の名は羅轟(ia1687)。 彼もまた祭の警備の為にやってきた開拓者であった。 ●少女と音楽 2人の少女が立て看板に書かれていた文を興味深そうに読んでいた。 背の低い吟遊詩人の少女が蒼井 御子(ib4444)。尻尾に結ばれたリボンが可愛らしいもう1人が洸 桃蓮(ib5176)だ。 少女2人が見ている看板に書かれていたのは、ある催しについてだ。 「うん? 歌コンテスト‥‥? えっと――行っていい?」 祭などのイベントではお約束とも言えるコンテスト。吟遊詩人である御子としてはやはり参加したくなるもので、参加していいかどうかを桃蓮に問う。 「はい、勿論ですよ」 「やったぁ、それじゃ会場に急ごう!」 「え、きゃっ――!?」 喜ぶ御子に手を引かれて驚く桃蓮。その小さな体にどんな力があるのか、景色がどんどん流れていく。 ‥‥と、突然御子が止まりその勢いに桃蓮がつんのめる。 「どうしましたか?」 「あの子‥‥」 御子の視線の先には居るのは5歳ぐらいの少年だ。今にも泣きそうなのを我慢して、俯きながらとぼとぼと歩いている。恐らく迷子だろう。放ってはおけないと御子が少年に話しかける。 「やは、どーしたの? 迷子‥‥かな?」 「う‥‥」 迷子という現実を突きつけられて、少年の目尻に涙が浮かぶ。だが泣くのを我慢し、涙を服の袖で拭くと、声を震えさせながらも男の子らしく意地を張る。 「うるさいやい! 迷子なんかじゃないもん、そっちだって1人じゃないか!」 どうやら少年には桃蓮の姿が目に入らなかったらしい。いや、それよりも御子にとって重要なのは彼女自身も子供と思われたことかもしれない。 「え? ボク? ボクは違うよ、これでも16――」 「うそだっ! こんなにちっちゃい大人がいるわけないもん!」 「信じてないなーっ! よーし、後でギルドに連れて行ってあげよう‥‥! ボクの年齢を証明してやるっ」 ムキになったせいで目的が変わっている事に本人は気付いていない。 そんなやり取りをしている2人を見ながら、どうしましょうか‥‥と桃蓮は頭を悩ませる。 「そういえば近くに警備隊の方々が‥‥あっ」 見知った顔を見かけて桃蓮は声をかける。かけられたのは警備として見回りをしていた鞍馬 涼子(ib5031)だ。 「ん? どうした?」 「いえ、その‥‥」 ちらと視線を御子と少年の2人へと移す。涼子も状況を理解したのだろう、腕を組んで頷く。 「成る程‥‥迷子が2人か」 「ボクは迷子じゃないよ!?」 涼子の声が聞こえたのか、御子は少年の腕を引っ張って彼女の元までやってきた。 少年は御子とは違いちゃんと大人に見える涼子達を見て、意地を張れなくなってきたのか、その目には涙が次から次へと浮かぶ。 「あ、あぁ‥‥その、大丈夫だ。えっと‥‥なんと言えばいいか」 迷子の保護も警備隊の仕事‥‥とはいえ、幼い子供の相手が苦手な涼子としてはどう対処したらいいものか戸惑っていた。 と、そこに救世主が現れる。ただし、 「熊‥‥?」 まるごとくまさんを着込んだ羅轟だ。中の人はともかくとして、中々お目にかかれない熊ということで御子は目を輝かせる。 「もっふもっふだー!」 全力で飛びつく御子。どう見ても子供のやることです。そんな子供の行動にも慣れてるのか、羅轟はがっしと受け止める。 そんな羅轟の後ろから1人の女性が姿を見せる。女性は少年を見ると、すぐに駆け寄り抱きしめる。 「もう‥‥心配したんだから!」 「母ちゃん‥‥うわぁぁぁぁん!!」 親子の再会だ。どうやら羅轟が子供を捜してる親を見つけてここまで連れてきたらしい。 うんうんと頷いている羅轟に、桃蓮が話しかける。 「あ、握手してください♪」 くまさん大人気。 こうして一波乱あったものの、御子と桃蓮は無事に会場にたどり着く。時間ぎりぎりだったようで、受付が終わればすぐに出番だ。 舞台に立つ御子を、桃蓮は客席から見守る。 「さーて‥‥思いっきりいくよー!」 ハープを強く弾いて、まずは客の興味を引き、それから歌声を披露する。 「見上げる夜空に輝く月、そこに神あり。闇から我らを守り、見守る神に感謝をささげよう――」 この歌は御子の故郷で祭の際に歌うものだ。月の神に捧げるものらしいから本来は夜に歌うものだが、この際細かいことはいい。それが祭だ。 「闇をとどめ、五穀を守り。我らに恵みを授ける事に感謝いたします――」 御子の歌を聞き、桃蓮は里で聞いたある話を思い出していた。 「音楽とは音を楽しむもの‥‥。音色・波長を追求する学(がく)というよりも、音色・波長を弾き手と聞き手が一緒になって楽しむ楽(がく)」 つまりどういうことかというと。 「ふふっ‥‥。こちらまで楽しい気分になりますね」 ●困った騎士? 「ふむ‥‥良い歌を聞かせて頂きましたわ」 大盛り上がりで終わった歌コンテストの会場から出てくる少女騎士‥‥ローズだ。 さて、次はどこに向かおうか‥‥そう思って歩いていた彼女だったが、ある店から出てきた人物を見かけて足を止める。 「あら、あなたは‥‥」 過去にローズとも何度か会ったことのある胡蝶(ia1199)だ。 「‥‥ローズ? また変な場所で会ったわね」 「変なのは場所よりもむしろあなたの格好だと思うのですけども‥‥その格好はなんですの?」 指摘された胡蝶の格好はいつもとは違い、紅白の正統な巫女服だ。巫女以外が着る事は滅多にないものだろう。言うまでもないが胡蝶は巫女ではなく陰陽師だ。 「何って‥‥巫女服よ。ジルベリアでいう修道服ね」 「えぇと、そうだとして‥‥どうしてあなたが着ているんですの?」 「どうしてって、郷に入っては郷に従えって言葉があるでしょ」 胡蝶が言うには石鏡は巫女の国だから、目立つ陰陽服や西洋鎧より巫女服の方がいい‥‥とのことだった。 そもそも祭期間中は様々な国から人がやってきているのだから、よっぽどでなければ目立つことはない。巫女服を着たい胡蝶が着る理由をでっちあげたようにも思える‥‥が、そこは天儀の文化に疎いローズ。そういうものなのかと納得してしまう。 「あなたも着てみたら? この店で貸し出してるわよ」 この店、とは胡蝶が出てきた店だ。彼女もこの店で巫女服を借りたのだろう。 胡蝶の言葉に納得し、かつ天儀の文化に興味があるローズとしては断る理由が無い。店に入り、巫女服を借りて着替えるのであった さて、着替えも終わり店から出てきた胡蝶は改めてローズへと問う。 「こっちは観光だけど‥‥そっちは何しに来たのよ」 「同じようなものですわ。楽しそうでしたし、天儀の文化を知るのにちょうどいいと思いまして」 そうそう、こんな事がありましたわ‥‥とここに来るまでにあったことを話すローズ。 それを聞いて、胡蝶は思わず頭が痛くなったのを感じた。この『困った騎士』を放置していればまたトラブルを引き起こすかもしれない‥‥と。 お守りとして同行する事を告げようとした時胡蝶はある事に気付いた。道の向こうから女性ばかりの集団がこちらに歩いてきてるのだ。 「お姉さま、こいつですっ」 集団の先頭を歩いていた女性が集団の真ん中にいたリーダー格と思われるお色気たっぷりのお姉さんに話しかける。話しかけた方の女性は逆ナンパをローズに邪魔されたお姉さんだ。 「あなたね‥‥。私達の楽しみを邪魔したのは」 「あら、それで他の人に迷惑をかけてもいいんですの?」 ローズは真っ向から受けて立つ。‥‥が、酔っ払いには基本何を言っても無駄であることを知っている胡蝶は面倒を回避する為に、ローズに忠告する。 「ローズ、止めなさい。酔っ払いに何を言っても‥‥」 その胡蝶の態度が弱気に見えたのか。リーダーは彼女を小馬鹿にしたような態度で言い放った。 「そっちはよく分かってるじゃないの。女の魅力が足りない子はそうやって大人しくしてればいいのよ」 「――」 一瞬で辺りが冷気に包まれた、ような気がした。 と、胡蝶が指摘された部分を気にしてるかどうかは置いておいて、馬鹿にされたという点では明らかに許せないらしい。 「‥‥お祭りに免じて人が穏便に済まそうとしてるっていうのに‥‥」 懐から取り出した符を構える。いざという時は呪縛符による捕縛も厭わない態勢だ。 辺りにピリピリとした空気が漂う――がそんな空気をぶち壊すかのように、ローズ達の肩がとんとんと叩かれる。 「もう、なんですの――って」 やはりというかお約束というか、熊がそこにいた。 「えぇと、熊‥‥うん‥‥?」 混乱気味のローズを落ち着かせるためか、熊は自分の胸につけてある『らごー』の名札を指差す。 熊の正体が羅轟であることを知り、胡蝶は呆れながら問う。 「羅轟‥‥何でここに‥‥よりも、それ何よ‥‥?」 「いつもの‥‥格好‥‥子供‥‥泣く」 しょんぼりとしつつ答える羅轟。なら着るのではなく脱げばいいのでないか、とつっこむべきか。 そんな熊の姿に毒気を抜かれたのか、リーダーは大きく溜息を吐くと、ローズ達に背を向ける。 「白けちゃったわ。てっしゅー」 引くのであれば追う理由も無い。どこかに去っていくお姉さん集団を見送るのであった。 ●祭とは 行き交う多くの人々を見て、ヘラルディア(ia0397)の顔に思わず笑みが浮かぶ。 「聞く所によれば年々華やかな面が押し出されて、本来の大もふ様へ敬意の念が副次的なものとなっているらしいのですが‥‥」 しかし、とヘラルディアは思う。 解釈は各々で違いはあるだろうが、参加している以上それはそれで良いのではないか‥‥と。 「わたくしも巫女の力を得た端くれとしてまさに有る意味根源の故郷たる処ですからこうして訪れた訳ですし」 つまり、人が来ない祭よりも、多くの人々が参加して楽しめる祭の方がよっぽど良いではないか、と。 楽しそうに話しながら出店でアクセサリーを物色している者達を見ても思う。 「むむ、どれが良いかな‥‥洸さーん。どっちがいいと思う?」 「そうですね‥‥。蒼井さんには青が似合いますし、こちらでしょうか。あっ、天ヶ瀬さん」 「お、洸さんも来てたか」 「え、えっと‥‥どちらのリボンが、わ、私の尻尾に似合うでしょうか‥‥?」 「迷うときは両方買えば良いんだ、その分はこちらで持つぞ?」 ‥‥この男性、女心を理解していないように思えます。 それはそれとして、安須大祭が今のような祭でなければ、彼らがこの地にやってきたかどうかは分からない。 そう考えれば、やはり今の形で良かったとヘラルディアは思う。 「むむ‥‥あの子が喜びそうなものは‥‥こっちか、いやこっちかもしれないな」 弟にお土産を買っていくということで、色々と物色する涼子。だが、何を買うかは中々決まらない。弟が大事だとお土産選びも一大事だ。 と、そこへローズ達もやってくる。 同行していた胡蝶が視線を前に移すと、そこにいたのは桃蓮だ。少し迷った後、胡蝶は意を決して話しかける。 「貴方‥‥弓術師よね? ‥‥後で射的に行く気‥‥ないかしら」 「射的‥‥ですか?」 首を傾げる桃蓮。胡蝶が射的を気にする理由は、『ウルトラ〜大もふ様ぬいぐるみ』が気になるからだが、決して口にはしない。 こうして色々と話をしたり買ったりして笑いあう人々を見て、ヘラルディアは祭が楽しいものでよかったと思う。 「私も‥‥お店の手伝いが終わったら、色々見て回りましょうか」 さぁ、まずはどんな店を見て回ろうか。 |