初めまして、開拓者!
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/25 23:56



■オープニング本文

 開拓者ギルド。
 そこには様々な依頼が日々持ち込まれる。
 常連のように持ち込む人も、勿論初めてギルドにやってくるという人も。
 そして、初めてそこを訪れるのは依頼人だけではない。


「どーもー。ちょっといいっすか」
 ギルドの受付カウンターにて声をかける1人の男性。
 相当にがっしりとした体躯で背も高い。歳は20代半ばぐらいだろうか。黒い髪はぼさぼさで手入れをしていない事からファッションなどには無頓着な事が伺える。
 彼を例えるなら野生的、という言葉がしっくりとくるだろう。
 長巻と鎧を装備している事から、開拓者だろうという事は推測できる。
「はいはい、どんな依頼をお探しで?」
 声をかけられた受付係も風体で判断したのだろう。最近受け付けた依頼を纏めた書類をぱらぱらと捲りながら返事をする。
 戦い慣れてそうだから強めのアヤカシと戦うのが良いだろうか‥‥そう思いながらおすすめの依頼を提示しようとした時、開拓者の方から待ったがかかる。
「いや、どんな依頼っていうか‥‥俺、依頼初めてだからよくわかんねぇのよ」
「え? あ、あぁ、これは失礼しました。初めて‥‥開拓者としての登録はお済で?」
「それは済ませてるぜ。あ、やっぱ名乗った方がいいのか? 俺は武蔵っつうんだけど」
 武蔵と名乗るこの男性。話を聞くと最近になって開拓者として登録したらしい。
 それまでは適当にぶらぶらと歩きながらの旅をしていたそうだが、昨今の事情を鑑みていっちょやってみるかと奮起したとのこと。
 旅をする以前に関して聞こうとするとどうも濁そうとするが、話したくない事の1つや2つあるものだろうと受付係は気にしない事にする。
「まぁ、そんなわけでよ。知り合いがいるわけでもなし、どうしたもんかなと途方に暮れちまったわけよ」
「ははぁ、成る程。それでは自分で良ければ簡単にですが案内しましょう」
 困ったように頭を掻く武蔵を見て、これも受付の務めと受付係は笑顔で丁寧に説明をしていく。
 依頼を受ける時はどうすればいいのか、どんな依頼があるのかを知りたい時は、依頼を受けた時、達成した時失敗した時‥‥その他諸々。
 数々の依頼をこなした開拓者にとっては今更な事でも、初めての武蔵にとってはとても重要な事。
 一言一句を聞き逃さぬよう耳を傾け―――
「それは‥‥手帳、ですか?」
 ふと受付係が気づけば、武蔵は手のひらより少し大きい程度の手帳に何かを書いているようだ。恐らくは先ほどから聞いている事だろう。
「いや、俺馬鹿だからさ。こういう大事な事って書いとかなきゃ忘れちまうんだよ」
 ほれ、と彼が指差すは自身の腰紐に結び付けられている何冊もの手帳だ。同じような理由で今まで書いてきたものだろう。
「それに、記憶がふっとんじまっても記録は残るだろ?」
「ふぅん‥‥?」
 何はともあれ説明再開。

 こうして、ギルドについてあらかた説明を終えた受付係。
「後は‥‥実際に依頼を受けてもらった方が分かりやすいかもしれませんね」
 駆け出しにうってつけの依頼は何か無かったかとぺらぺらと資料を捲る彼に、1つの依頼が目に留まる。
「お、これなんて中々良さそうですね」
「どれどれ?」
 その依頼内容は、単純なアヤカシ退治だ。
 とある村の近くに怪狼という狼型のアヤカシが現れたようだ。正確な数は不明だが、頭目を筆頭に群れとして襲ってくるらしい。
 今のところ森に入ったものが襲われたという話を聞くだけだが、そのうち村にまでやってくるだろうからなんとかしてほしい‥‥とのことだ。
「数は分かりませんが‥‥怪狼はそんなに強くないアヤカシですからね、駆け出しにはちょうどいいと思いますよ」
「へぇー、そうなのか。実際どんなもんなのか少し楽しみだな。んじゃ、それを受ける‥‥ってことで」
「はい、了解です」
 先程受けた説明通り、依頼を受ける手続きを済ませる武蔵。
「さて、この依頼はもう少し参加者を募集しますから、出発準備を整えながら待っててくださいね」
「おうよ! よーし、ちょっくら持ち物整理してくっかな!」
 言うが早いか、武蔵は走るようにギルドを出る。その足で商店辺りに向かったのだろう。
「おっとっと‥‥。うぅむ、中々突っ走るタイプのようで」
 やれやれといった様子で武蔵を見送る受付係。彼は再び、依頼の資料に目を落とす。


 さて、この依頼に集まる開拓者は同じような駆け出しか、それとも先輩開拓者か―――。


■参加者一覧
橘 琉架(ia2058
25歳・女・志
からす(ia6525
13歳・女・弓
以心 伝助(ia9077
22歳・男・シ
イェンス・エステベス(ib0065
17歳・男・吟
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
壬護 蒼樹(ib0423
29歳・男・志
カーター・ヘイウッド(ib0469
27歳・男・サ
カリク・レグゼカ(ib0554
19歳・男・魔


■リプレイ本文

●初依頼
 神楽の都のとある広場。開拓者の集合場所だ。
 そこに居た逞しい男性――武蔵に向かって、これまた逞しい体つきの男性が走っていく。
「とーつげーきっ、てやっ!」
「うおぉぉぉ!?」
 殆どタックルのような勢いで‥‥しかし本人としてはハグのつもりで突進したのはカーター・ヘイウッド(ib0469)。
 たたらを踏みながら何とかそれを受け止めた武蔵と同じような体格ながら、カーターは歌で援護する吟遊詩人だ。
「何だ!? こんな街中で襲撃か!?」
「友好の表現だよ! えへへ、カーターですっ。宜しくお願いしますです」
 僕も初心者でビギナーの開拓者だというカーターの話を聞き、どこか親近感を抱きながら納得したような表情の武蔵。
「成る程‥‥これが開拓者流の挨拶ってやつか。1つ学んだぜ!」
「え、そうなの? じゃあ僕もしなきゃいけないのかな?」
「いや待て。きみがやると大変な事になる」
 やはり同じく今回が初めての依頼となる壬護 蒼樹(ib0423)も一瞬武蔵と同じ勘違いをしそうになるが、彼の隣に立つ少女、からす(ia6525)に即座に止められる。
 それもそうだ。蒼樹の体格はこの依頼に集まった開拓者の中で一番大きく、隣に立つからすの約2倍の背である。‥‥やや極端な比較ではあるが。
 駆け出し開拓者といえばどこかおどおどとした様子のカリク・レグゼカ(ib0554)、元気溌剌としたイェンス・エステベス(ib0065)も同じくである。
「ぼ、僕は魔術師のカリク・レグゼカ。よ、よろしく」
「イェンスだよ。よろしくね!」
「おう! よろしくな!」
 挨拶と共に差し出した武蔵の友好の握手。それを取ると彼は自分の仲間が嬉しいのかぶんぶん振り回すので、細身のカリクは振り回されっぱなしだ。
 さて、そんな駆け出し開拓者達の先輩という事で、胸を張って笑顔で挨拶するはルンルン・パムポップン(ib0234)。
「ルンルンって言います、宜しくお願いしますね。‥‥私、武蔵さんの5倍ベテランだから、泥船に乗った気でいてください!」
「それはすげぇ! 頼りにするぜ!」
 どこからつっこめばいいのだろうか。まずルンルンの発言に何の疑問も抱いてない武蔵につっこむべきなんだろうか。
「ルンルンさん、泥舟じゃ沈んでしまうっすよ」
 ということで、的確なつっこみを入れてくれたのはルンルンと同じシノビの以心 伝助(ia9077)だ。
「ん、沈む? んん?」
「‥‥えーっとっすね。泥で出来た船が浮きやすかね?」
「そりゃ、浮くわけねぇだろ―――あぁ、成る程!」
 わざわざここまで説明されてようやく理解した様子の武蔵。そんな彼を見て、開拓者達はギルドで伝え聞いた彼の人相と全く同じだなと心中で頷く。
 となれば、彼が無茶な事をしないように事前にアドバイスをしてあげるのも先輩としての務め。
 だからこそ、きつい事でもはっきり言おうと口を開くは橘 琉架(ia2058)。
「初依頼なの? あなた‥‥そうね、くれぐれも無理しない方が良いけど、覚悟しておいて」
「おうさ! 先輩の意見は大事だからな。俺が馬鹿しそうになったらどんどん言ってくれ!」
 琉架のややきつめの意思が込められた言葉も、武蔵はめげるどころか素直にそれを受け入れる。
 それを見て、へぇ‥‥と感嘆を漏らすは伝助だ。武蔵の素直な所が彼にとっては好評価だったのだろう。
「よし、それではそろそろ行こうか」
 そう切り出すはからす。彼女も新人開拓者だと武蔵に自己紹介しているが‥‥。
 実は彼女、今回集まった開拓者の中で一番依頼を受けた回数が多いのであった。新人のふりは武蔵の反応を楽しむ為だという。
 何はともあれ、開拓者達は目的地の森の傍にある村へと向かうのであった。

「ところで武蔵、渾名はムッシィかむーたんかどっちが良い?」
「じゃあカーター、お前はカッタァかかーたんどっちがいいんだ?」
 そんなやり取りも交えつつ。

●アドバイス
 さて、道中せっかく時間があるという事で、武蔵にアドバイスをする仲間達。
 そのアドバイスの多くに含まれていたある事。それは―――
「え、俺そんなに単騎突撃しそうに見えんのか?」
 それに返ってくるは全員の即座の頷きという肯定。
「ぐ、全員に肯定されると反論しにくいぜ‥‥!」
「それじゃあ武蔵さん。今回のような敵が大勢で、かつ自分にとって不利な地形。まずどう動きやすか?」
 それならばという事で、伝助が今回戦うだろう状況を仮想させ、武蔵ならどう動くかをまず聞いてみる事にしたのだが‥‥。
「――――つ、突っ込んじゃ、駄目なんだよな?」
 それに返ってくるのもやはり全員の即座の頷き。
「むぐぅ‥‥」
「まずは考えることよ」
 琉架の言葉だ。
「考える?」
「そう。森なら森の動き方がある。森だから、静かに慎重に進む。木を踏む音に反応して、いつ出現するかも考える。森というだけで敵に遭う前にこれだけ考える必要があるの。敵に遭うまでは、周りにも気を付ける事ね? すぐ、気がつけば、すぐ対応できるでしょう」
「敵に遭う前に‥‥か」
 その琉架の言葉は、敵に遭ってからの事しか考えてなかった武蔵にとっては正に目から鱗であった。
 森ということで‥‥とカーターも言葉を続ける。
「そういえばムッシィは地断撃を使えるんだよね。でも、森の中だから使い所を考えたほうがいいかも」
「なんでだ? 今回みたいに敵が多い場合は有効なんじゃねぇのか?」
「そうだけどね。あれってドーンってなってバーンッって攻撃するものでしょ、下手に撃って周りの木が倒れたら危ないし可哀想じゃん、木さんが。ね?」
 へらりとどこか気の抜けた笑みを浮かべながら言うカーター。それだけを聞くと木を心配してるだけのようにも思えるが、そうではない。確かにカーターの言う通り周囲の被害が自分にマイナスの要素として襲い掛かってくる事もあるのだ。
「はー、なっるほどなぁ‥‥」
 先程からの数々のアドバイスを手帳に書く武蔵。彼の手が一先ず止まったのを見て、伝助が声をかける。
「それに武蔵さん。大事なことはまだありやす」
 彼は仲間の開拓者達の顔を一通り見てから、また武蔵に向き直る。
「それは仲間っす」
「仲間‥‥」
「開拓者には剣術に優れた方、術に優れた方、いろんな人がいやす。依頼ではそれぞれの長所で互いの弱点を補い合えるのが一番の良い所で、重要な所かと思うっす」
 例えば武蔵の長所ならば―――
「俺は‥‥えぇと、他より体が丈夫なところ、か?」
「そうっすね。そんな武蔵さんが前に立って仲間のガードして、ガードされた方は別の得意分野で武蔵さんをフォローする、とか」
 あくまで個人的な見解っすけども、と伝助は付け足す。しかし、その見解はここに集まった開拓者達の共通見解だ。
 彼らは1人ではない。だからこそ、仲間との連携を前提においた作戦を考えるのだ。
「仲間との連携、か。‥‥くーっ! さすが先輩、いい事言うじゃねぇか!」
 伝助の言葉に感銘を受けた様子の武蔵は、伝助の両肩を両手でばんばんと叩きながら何度も何度も頷く。さすがに言った本人の伝助もこれ程の反応が返ってくるとは思っていなかったようで少々戸惑っているようだ。
「よっしゃ! 張り切って壁役やったろうじゃねぇか!!」
 壁役に向けて燃える武蔵――その燃え方もどうなんだろう――の腰を誰かがぽんぽんと叩く。何だと見やれば、叩いたのはからすだ。
「燃えるのは結構だが今回は回復役がいない。無茶は禁物だ」
 そう言って彼女が武蔵に渡すは符水。体力を回復させる薬だ。
「え、タダじゃもらえねぇよ?」
「タダではない。きみが私達を守ってくれるのだろう?」
「むっ。なんか同じ新人に恵んでもらうってのが釈然としないが‥‥なら受け取るぜ。ありがとうな!」
「あぁ、気をつけるんだ。油断は命取り、だ」
 貰った符水を自分の懐に入れてから、武蔵は先程聞いた連携についてと油断は命取りという忠告をまた手帳に書き始める。
 それを見たカリクが、少し気になったようで武蔵に声をかける。
「ず、ずいぶん、勉強熱心なんだね」
「ん? あぁ、これか。勉強熱心ってわけじゃねぇけどな。馬鹿は馬鹿なりにがんばらねぇと」
 そういえばと、蒼樹はギルドの受付係から武蔵がこんな事を言っていたという話を思い出す。
「記憶が吹っ飛ぶとか言ってたそうだけど‥‥ご飯とか前にすると、理性が持たないことはよくあるけど、どういう事なんだろう?」
「い、いやご飯を前に理性が持たなくなる事も、ふ、普通は無いんじゃないなかなぁ」
 とつっこむカリクだが、武蔵の記憶の話は彼自身としても気になる話なので、視線を武蔵へと向ける。
 対して武蔵は―――
「へへっ、俺は馬鹿だからな」
 笑顔でそう言うだけであった。

●初集団戦
 こうして問題の森へと到着した一行。
 ちなみに村での情報収集は――
「じゃあ、大体その辺で五作どんは襲われて、命からがら逃げてきたんですね‥‥あっ、武蔵さん、今のとこ大事だからメモです」
「あ、あいよ!」
 といった感じに、ルンルンが武蔵を引っ張るような形で行っていた。これも彼にとって良い経験になっただろう。

 そして森に入ってしばらく経った頃‥‥。
「‥‥ルンルンさん、これって」
「ルンルン忍法ジゴクイヤー‥‥。伝助さん、こっちでも感知しました。気を付けて、何ものかの接近を感知です!」
 2人のシノビが超越聴覚で察知した、何か‥‥獣がこちらに向かって走ってくるような音。
 その獣の数は恐らく複数で、森の木々や茂みに隠れるようにしてこちらに姿を見せずに近づいてくる――!
「‥‥っ! 囲まれました!」
 十中八九アヤカシだろう獣は、姿を隠したまま広範囲に展開。そのまま一気に距離を詰めることで囲いを狭める!
「なっ、こんな早い段階で囲まれんのかよ!?」
「いいから、後衛を守る!」
 驚き戸惑ってる武蔵を叱咤しつつ、琉架は後衛を守るよう指示を出す。
 蒼樹、伝助も含めて味方の後衛を四角で囲むような陣形だ。ルンルンがそれより一歩前に出る形だ。
 陣形が組まれると同時、その場に歌が広がる‥‥!
「いざや行け、救国の騎士 剣を取れ、突き進め
 いざや行け、救国の騎士 剣を取れ、敵を討て」
 それはイェンスの勇気を分け与える武勇の曲。
「それじゃ行くよ、聖戦の曲!」
 続けてイェンスの武勇の曲に合わせるように歌い始めるカーター。彼の曲目は騎士の魂。
 武勇と騎士ということで聖戦だ。
 彼らの歌により、開拓者達は強者に立ち向かう力を得る。
 その直後、怪狼達が一斉に飛び出し襲い掛かってくる!
「そこっ!」
 怪狼が飛び出すか否かというタイミングで、ルンルンは早駆けで一足で1体の怪狼の元まで跳ぶとそのまま刀で背を斬る。
 手応え、あり。
 だがそのまま倒すまでにはいかず、怪狼は深手を負いながらも固まってる開拓者に向かって走る!
「こちらを無視してですか!?」
「恐らくは‥‥頭目の指揮のせいか」
 迫る怪狼の1体の喉を貫く矢を放ちつつ、からすは冷静に分析をする。
 ならば、頭目を早々に崩せばあるいは―――。
「ふん! 後ろの人たちには手は出させませんよ!」
 迫る怪狼に巻き打ちを叩き込みながら、派手に棍を振るう蒼樹。
 その大振りさから、怪狼達はそこを隙だと判断したのか一挙にそこに迫る‥‥が。
「き、きたっ‥‥けど! ね、狙い通り!」
 敵の気を引くのが蒼樹の狙い。その意図を理解したカリクが隙を見せた怪狼に対して術を発動する。
「雷よ、わが声に応え集いてその力を示せ」
 彼には珍しいしっかりとした声の詠唱に後に発せられた雷が怪狼を貫く!
 また、迫る敵に対してはイェンスとカーターの歌がサポートとして響く。
「君知るや奴隷戦士の慟哭 己が運命を呪うも
 その声は天に届かず ただ牢屋に響くのみ‥‥」
 その歌を聞いた怪狼の体勢が僅かに崩れ、隙を見せた所に琉架が刀で斬りつける。
「このままいけばなんとか‥‥ってうひゃあ、コッチ見んな!」
 次の歌を歌う為に一息ついたイェンスがふと前を見やれば、こちらを見る怪狼の1体とちょうど目が合った。
 怪狼は目の合ったイェンスを標的と認識し飛び掛ろうとするが、次の瞬間風切り音と共に振り下ろされる刃が怪狼を地に斬り伏せさせた。
「へっ、まずは俺が壁として守るって言ってるだろーが」
 武蔵だ。彼は事前の仲間達のアドバイスに従い、壁役として徹底していたのだ。
「‥‥あれは!」
 同じく壁として徹していた伝助が怪狼の中に、積極的にこちらに攻めてこない個体がいる事に気づいた。
 それは他の個体に比べ姿も大きく威厳のある姿をしている‥‥が、迂闊には攻めてこない慎重さ。恐らくあれが。
「‥‥頭目!」
 その存在に気づいたからすが弓を引き絞りながら矢先を頭目へと向ける。
「大将には早々と御退場願おうか」
 次の瞬間放たれた矢は寸分たがわず頭目の喉元へと突き刺さる!
 更にトドメとばかりにルンルンがワンドを振りながら、呪文を唱え――
「ジュゲームジュゲームパムポップン‥‥ルンルン忍法ファイヤーフラワー!」
 頭目が、燃える! 火遁の術だ。
 これだけの攻撃を受けて頭目が立っていられるわけもなく、崩れ落ち‥‥消えていく。
「指揮官無き軍なぞ烏合の衆に等しい」
 後はからすの言葉通り、烏合の衆と化した怪狼達は全て葬られるのであった。

●無事終了
 こうして全ての怪狼は討伐された。
「おーわったー!」
「こ、これで村も安心だね」
 周囲に気配が無い事を確認してから、武蔵は大の字に寝転ぶ。その隣に座り微笑みながら安堵を浮かべるカリク。
 そんな武蔵を見て琉架は先輩らしくこれからも頑張るよう促す。
「こんなものかしら? とりあえず、経験積みなさい。慣れて行った方が良いけど、少しの失敗でも諦め無い事ね。まあ私も慣れていると言っても、他の先輩方には、かなわないんだけど‥‥」
 そう言う彼女の視線はからすの方へと。それに気づき武蔵はむくりと起き上がりからすの方へと向き直る。
「って、お前本当に新人か!? なんかすごかったんだけど、こうバビューンザシューンって感じでよ!」
「あぁ、すまない。それは嘘だ」
「嘘!?」
 と、ここでネタばらしをするからす。それを聞いて脱力したように武蔵はまた寝転ぶ。
「なんだそれぇ!?」
「まぁまぁ。‥‥せっかくだから、勉強会を兼ねたお茶会でもしようか?」
「あ、それいいね! ボクいつか開拓者をテーマにした戯曲をつくるんだ♪ だからお話聞きたい!」
 からすの提案にまず乗ってきたのはイェンスだ。続けて他のメンバーを次々に賛成の声を上げる。
「うーあー、じゃあまずは森を出るか!」
 そんなこんなで、どんなお茶会にするかを話しながら森を出る開拓者達。
 こういう時は駆け出しもベテランも関係ない、ただ楽しむだけだ。

 ちなみに。
「それにしても、犬鍋が食べたくなってきます」
 という蒼樹のぼそっとした一言は全員が聞かないふりをしたという。