8頭身のもふらはキモイ
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/14 06:59



■オープニング本文

 石鏡で行われている安須大祭。
 何やら色々と騒ぎが起きたり起きなかったりしているが、それはそれ。祭としては盛り上がりを見せていると言っていい。
 ‥‥が、騒ぎが大きくなったり人が集まったりすると、ちょっと変な人が現れたりするのが世の常だ。


 石鏡は陽天。観光都市らしく、今日も陽天は多くの人で賑わっていた。
 行き交うの人々をよく見ればもふらのぬいぐるみを持っている者が多い。屋台の看板も同様に、もふらの絵が描かれている。
 それもそうだ。安須大祭の成り立ちは初代大もふ様が降り立った年が豊作になったことを切っ掛けとして行われる事になった祭だからである。つまりもふら様の祭であり、だからこそそこかしこでもふら様をプッシュしてるというわけだ。
「あ、もふら様だー」
 ぬいぐるみだけでなくもふら様自体も大人気だ。その辺を歩いていると女の子が駆け寄り、気付けば女の子の集団に囲まれている‥‥というのもそこかしこでよく見る光景だ。
 そんな光景を独り身の青年である一は「いいなぁ‥‥」と眺めながら歩いていた。可愛い女の子に囲まれてきゃいきゃいと言われる。男なら憧れを抱くのも仕方ないかもしれない。
「代わってくれねぇかなぁ‥‥」
 ぽつりと思わずそんなことも呟いてしまう。この場合の代わるとは勿論もふら様と代わるということである。
 そんな風によそ見をしながら歩いていたからか。一は何かにぶつかってしまった。
「って。あっ、すみま――」
 前を見てみると、どうやら人にぶつかったらしい。白い服を着ていて相当背が高く顔は見上げなければ見えない。慌ててぶつかったことを謝ろうと顔を上げた一は絶句した。
「気にすることはないもふ」
「――」
 白だよ、真っ白。いや頭頂部だけは赤いのだが‥‥どう見ても人の顔ではない。簡単に言ってしまえばもふら様の顔がそこにあった。もふら様のお面をつけているわけでもない。恐らくは着ぐるみのようなものを被っているのだろう。
 あまりの事に衝撃を受けて一歩引く一。そうした結果、目の前にいる人物の全身が視界に改めて収まった。
 やはり真っ白であった。飾り気なんてものはあったものではない。というか、体にぴっちりと張り付いた服を着ているだけで他に何も着ていない。‥‥いや、よくよく見れば尻の辺りに尻尾のようなものがぶら下がっていた。体のラインが浮き出ているので、男だということがよく分かる。
 これが着ぐるみであれば大した衝撃ではないのだが、顔だけもふら様で体が完全に人の形をしているとビジュアル的には凄まじい。
「なっ、な‥‥!?」
 やばい、こいつはやばい。本能が打ち鳴らす警鐘のままに、後ずさる一。背中は見せない。見せた瞬間終わる気がするからだ。
 そんな一の心中を知ってか知らずか、もふら顔の男――8頭身もふらと言ったところか――は一気に距離を詰めると、一の肩をがっしりと掴んでいた。
「うわぁぁぁぁ!?」
「それにしても、先程面白いことを言っていたもふね。‥‥確か、代わってくれないか、と」
「そ、それが何だって言うんだよ!?」
「もふらに抱きつき頬ずりする女性達の気持ちはよく分かるもふ。お前のそんな望みをもふらが叶えてやるもふ」
「ちょ、違っ――!」
 一が弁解する暇もなく、8頭身もふらが一をがっしりと抱きしめる。そもそもこれでは抱きつく望みは叶えられない気がするが、どっちにしろ些細なことかもしれない。
「もふっもふっもふっ」
「離せ! 待て、どこに連れていくつもりだ!?」
 8頭身もふらは一を抱きしめたまま、裏路地へと走り‥‥そして、
「アッー!?」
 ひわ――悲哀が込められた叫びが辺りにこだました。


 前言撤回。
 ちょっと変な人が現れるのではなく相当な変態が現れるのが世の常だ、と。嫌な世である。



「‥‥うん? ‥‥この依頼は‥‥」
 良さそうな依頼が無いか開拓者ギルドで張り出された依頼書を読んでいた天羽 扇姫は、ある依頼書で目を止めた。
 そこに書かれていたのを要約すると『祭に乗じて現れたもふら様の格好をした変態を退治してほしい』というものだ。
 変態はやたらと背が高いことから8頭身もふらと呼ばれており、その体格を活かして男性に襲い掛かるらしい。既に何人もが犠牲になっているとのことだ。
「安須大祭に‥‥変態が‥‥」
 扇姫は目を瞑って、数年前の祭を思い出す。石鏡出身である彼女にとって、祭は思い出深いものであった。弟の武蔵とよく遊んだものだ。
 彼女にとってとても大事な思い出がある安須大祭。それを、変態の手によって汚された気がした。
「‥‥うん、潰そう‥‥」
 そう考えると許せないものがある。だからこそ、彼女は依頼を受けることを受付係の青年に伝えた。
 無表情だが淡々と変態を潰すことを口にする扇姫の言葉に、受付係はなんとなく彼女の怒りを理解しつつも、おずおずと口を開く。
「ですが‥‥その、単純に退治する‥‥というわけにいかなくてですね」
「‥‥?」
「いえ、その、変態とはいえ一応もふら様の姿をしてるわけですから‥‥こう、子供達もいる祭の場であまり血みどろな展開にされても困る、といいますか」
 つまり、あまり祭の雰囲気を壊さないように対処しろ‥‥ということだろう。
 それが分かっているのか分かっていないのか、扇姫は先程から首を傾げたままだ。無表情な為に感情を読み取ることはできない。
 しばらくの無言のうち、扇姫が頷く。
「‥‥分かった。頑張ってみる‥‥」
 多分、分かってない。


■参加者一覧
クロウ(ia1278
15歳・男・陰
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
レグ・フォルワード(ia9526
29歳・男・砲
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
百々架(ib2570
17歳・女・志
禾室(ib3232
13歳・女・シ
繊月 朔(ib3416
15歳・女・巫
猪 雷梅(ib5411
25歳・女・砲


■リプレイ本文

●説得
 8頭身もふらが現れたという場所に集まった開拓者達。さて作戦開始‥‥とは簡単にいかなかった。
「‥‥?」
 理由は首を傾げている天羽 扇姫であった。彼女もまた依頼に参加した人物である。
「変態を‥‥潰す依頼‥‥よね?」
 確かに彼女の主張は間違っていない。この場で祭が行われていなければ、だが。
 さすがに祭を血祭りにしてしまうわけにはいかないから、と開拓者達は扇姫を説得する。
「祭りの為にも、人のいない場所の方がいいと思うんだ!」
 といい笑顔で主張するはクロウ(ia1278)。言うまでもないが潰すこと自体に異論は無いようだ。
 だが、それでも扇姫は首を傾げるばかり。感情が欠如している彼女にとって、一般人が血を見たらどう思うかが分からないのだろう。
 繊月 朔(ib3416)は真正面から扇姫の目をしっかりと見て、誠意を持ってぶつかる。
「変態が許せないのは私も一緒ですよ! ただ、見つけ次第成敗してしまうと、お祭り自体を汚してしまう可能性があります‥‥」
 そこで、と朔がちらと集まった男性陣を見やってまた話し始める。
「レグさんはじめ、他のメンバーもがんばって変態もふらさんを人目につかないところにおびき寄せます」
 それを聞いたレグ・フォルワード(ia9526)を始めとした男性陣は何かを諦めたともとれるような溜息を吐く。‥‥つまり、彼らは囮になるというわけだ。
「何で、こんな、事に‥‥」
 思わずそんな事を呟いてしまったのは囮役の羅轟(ia1687)だ。囮ということで、いつもの鎧などは装備せず素顔を見せている。
 何はともあれ、朔の説得は続く。
「その状況が作れるまでは私と行動を同じにしてください、お願いします!」
「‥‥」
 朔の言葉を受けた扇姫だが、相変わらずの無表情で無言を貫いていた。何を考えているか分からない。
 あまりにも感情が分からず、禾室(ib3232)が無意識に「おぉ」と声を上げていた。
(この感情の読めなさ‥‥シノビとしてわしは見習わんといかんのかも)
 どちらにせよこのままでは埒が明かないかもしれないと判断した羅轟も説得に加勢する。
「‥‥祭、汚す輩も、い、いかんが、その排除のために、祭を血で汚すのも、駄目だぞ? 武蔵殿も、かか悲しい、だろうし」
 武蔵の名を出したのは、彼の名が絡むと扇姫は割と素直になる‥‥と考えたからだ。
 その判断は正しく、扇姫の眉がぴくりと動く。
「‥‥祭が血で汚れると‥‥あの子が悲しむのね‥‥」
 エルディン・バウアー(ib0066)がうんうんと頷く。
「神聖なる祭りを変態の血で穢してはなりません」
 尤も、巫女である扇姫は祭の神聖さよりも、武蔵が悲しむかどうかの方が重要のようなのだが。
 でも‥‥と扇姫が口を開く。
「潰しちゃ駄目なら‥‥どうやって退治、するの‥‥?」
「うふふ‥‥血を流させずに成敗する方法ならここにあるわ!」
 扇姫の疑問に答えるように、百々架(ib2570)が何処からか赤い本を取り出す。
「扇姫さん、この本に書いてある言葉を彼の耳元で囁いてあげてください。出来る限り低い声で言った方が傷も深く深くなりますからん‥‥♪」
 笑みを見せながらその本を扇姫に渡す百々架。言ってる内容は相当黒いが笑みも黒い。恐らく本の内容も‥‥だろう。
 ともあれ、これで扇姫を抑える事はでき、血を見ずに済みそうだ。
 そう思っていると、猪 雷梅(ib5411)がけらけら笑いながら言い放った。
「あれだろ? 要はブン殴って突き出しゃいんだろ? そのきめぇもふらをさ」
「おぉい」
 いや言ってる事は間違ってないんだがやりすぎないようにな‥‥とレグが釘を刺しておくのだった。

●襲来
 こうして打ち合わせを済ませ、開拓者達は囮作戦の実行に移る。
 男性が適当に歩き、女性が影から見守る‥‥というペアになる形で行動していた。
 クロウは天儀人形を鞄の中にしまい武装してないように見せて、かつ気弱に見えるようおどおどと歩いていた。
 彼の後方では見物客を装った百々架がばっちり見守る態勢だ。
「もふら様の愛らしいお顔を使ってあーんな事やこーんな事をするだなんて許さないわ! やるんだったら正々堂々と素顔のままで往来でやればいいのよ!」
 頬を膨らませて可愛らしく憤慨している彼女だが、正々堂々だったらやってもいいという話ではない。
 そんな2人が歩いていると妙なものを発見する。人混みの中からもふらの顔だけがひょっこり生えているのだ。
「モフ男ね‥‥!」
 ごくりと唾を飲み込む百々架。ちなみにモフ男とは彼女のつけた8頭身もふらの仇名で、由来は『モフッ、良い男』だとか。
 人混みの中から出てきたのはやはり8頭身もふら‥‥モフ男だ。脇目も振らずクロウの元へと歩いていく。
「な、なに‥‥?」
 クロウの真正面に立ち、じっと見つめるモフ男。クロウは攻撃したい気持ちを抑えて話しかける。
「楽しいお祭なのにおどおどするのは勿体無いもふ。もっとハジけるべきもふよ」
「はぁ」
「もふらがもっと明るくなれるよう手を貸すもふ!」
 言ってることはそんなに間違ってるわけではない気もする。‥‥やることは別だが。モフ男はクロウの脇に手を通すと、そのまま一気に肩に担いでしまう。
「もふらと一緒にトレーニングもふ!」
「は、はなして‥‥」
(ダメダメ我慢我慢‥‥)
 スマートに進める為には囮を物陰に連れ去らせた方がいい。だからこそクロウも嫌なのを我慢して、気弱な少年を演じ続ける。
 こうして、クロウは路地裏へと連れ込まれたのだった。

 さて、また別の場所では羅轟が囮として歩いていた。彼を見守るは雷梅だ。
「おっ、これうまそー! おばちゃんそれひとつー!」
 ‥‥普通に祭を楽しむ客に見えるがそう装っているだけで、ちゃんと見守っています。
 囮役として歩いている羅轟だが、彼はクロウとは違い演技はしていない。何故なら、顔を大勢に見られると一気に気が縮んでしまう赤面症の彼の場合、祭のようなイベントでは顔を隠さなければ済む話だからだ。
 羅轟の背が一際高いことも相まって、普通に人混みの中を歩いているだけなのに非常に目立つ。
「‥‥この場合、成功するの、を、祈ればいい、のか、それとも、失敗を、祈れば、い、良いのか」
 作戦の事を考えれば成功した方がいいし、自分の身を考えれば失敗した方がいい。悩ましいものである。
 そして運命は彼に厳しかった。やはり一際目立つもふらが彼に後ろから話しかけたのだ。
「やぁ、いい体してるもふね。もふらーチームに入らないもふ?」
「‥‥!? も、もふら、チーム‥‥!?」
 何だろう、凄く不穏な言葉を聞いた気がする。そんな羅轟の混乱をよそに、モフ男はがっしりと腕を掴んでくる。
「さぁ、チームに入るにはこっちもふ!」
「お、おおお助けー!?」
 半泣きになりながらも助けを求める羅轟だが‥‥救いの手が彼に伸びることは無かった。

 同じく囮のエルディンは天儀に来たばかりのもふら好きのジルベリア人‥‥という設定できょろきょろ見回っていた。
「天儀はいいですね、神父服で自由に出歩けるのですから」
 そんな彼を見守っているのは禾室だ。エルディンを追いかけながら、8頭身もふらについて思考を巡らす。
「何故普通の着ぐるみでなく8頭身にしてしもうたのかわからぬが‥‥想像しただけでもキモいのじゃ。やっとる事もあまりよろしく無いようじゃし、これは成敗しなければの」
 8頭身もふらが男性を襲う‥‥そこまで考えてしまい、
「‥‥襲われる気弱な美男子というフレーズに、ちょっとイケナイドキドキを感じるのは抜群に秘密なのじゃ」
 イケナイ素質があるようです。本当に彼女が見守る役目で大丈夫なのだろうか。
 そんな微妙に危険な囮役であるエルディンはというと、もふらのぬいぐるみに抱きついて頬ずりしていた。
「大もふ様にはどこへ行けば会えるのでしょうか。ああ、もふもふしたいです」
「大もふ様は無理でも‥‥もふらに存分にもふもふとするといいもふ!」
 背後からかけられた声。逆光で姿はよく見えないが、そのシルエットは正に8頭身のもふら。
「え、まさか本物のモフテラス様!?」
 8頭身のもふらといえば石鏡などで貰えるお守りに描かれたモフテラス様。そのモフテラス様が今ここに――
「もふっもふっ」
 いるわきゃなかった。逆光が晴れて見えるようなったその姿はお守りに描かれたものとはかけ離れている。尤もお守りのモフテラス様の妙な美化っぷりが問題なのかもしれない。そもそもモフテラス様ってなんなんだ。
「もふらを愛してやまない私ですが、これはちょっと‥‥」
「さぁ、存分にもふもふするといいもふ!」
「いけません、モフテラス様。私は神に仕える身であります!」
 エルディンの言い分も空しく、彼もまた浚われていったのであった。

 最後の囮であるレグは銃に布を巻いて適当に歩いていた。
「気弱な演技しろって言われてもな‥‥はぁ」
 脱力して溜息しか出ない。気を張らなければ十分なのでそれで問題はないのだが。
 ちなみに彼を見守っているのは朔と扇姫だ。
「それにしても結構歩いた筈なのですが‥‥」
 未だに襲われる気配はない、と朔が零したのを聞いた扇姫が何の気無しに口を開く。
「‥‥他が‥‥襲われてる、とか‥‥」
「あ」
 そういえば襲われた場合の連絡手段をしっかりと決めていなかった。祭の騒々しさで多少の騒ぎ声程度はかき消されてしまうのだから、ばらばらに動く場合はそれを決めておくべきだった。
「レグさん! 他の方々と一旦合流した方がよろしいかと‥‥!」
 朔の言葉を聞いて、レグも他が襲われている可能性に気付いたらしい。頷いてから、3人は走り始める。

●モフ男の愛は侵略行為
 3人のモフ男によって連れ去られた男性陣は裏路地のある場所にて集められていた。
「3人‥‥!?」
「今までは1人ずつしか行動していなかっただけもふよ」
「追っ手もいたようだけど、地の利があるこちらに勝つのは難しい話もふ」
「さぁ、メインディッシュといこうもふ」
 モフ男達の手が男性陣に伸びる。勿論それを甘んじて受ける開拓者達ではない。反撃の為にクロウは鞄へと手を伸ばす‥‥が。
「おぉっと、そうはさせないもふよ?」
 モフ男がその手を掴んだかと思うと、次の瞬間には鞄を奪っていた。
「返せよ俺の鞄!」
「男なら道具に頼らず自分の拳で未来を切り開くもふ。それを教えるのがもふらの愛もふ」
「な、なななな、なら‥‥!」
 力で抗ってやるとばかりに羅轟が鬼腕を発動させつつ、自分を羽交い絞めにするモフ男に抵抗する‥‥のだが。
「う、う、動かない‥‥!?」
「もっふもっふ。力だけでも難しいものがあるもふ。やっぱり愛あってこそもふ」
 ぴくりとも動かない。モフ男が後ろから羽交い絞めにしている為、はぁはぁと荒い息が聞こえる。こんなものを愛とは認めたくない。
 最後の1人のエルディンはというと‥‥。
「あぁ、お止めになってください‥‥!」
「もふ! この愛、開拓者さんに届け!」
 既に服を剥かれていた。必死のアムルリープも余裕で抵抗され、もはやエルディンにできる抵抗は何一つ無かった。
 冬の寒空に加え、モフ男のキモさのせいで鳥肌が立ちまくっている白い肌。そんなものに興奮したのか、モフ男は荒い息をエルディンの耳へと吹きかける。
「あぁっ‥‥耳は‥‥!」
「ここが弱いもふか、ここもふか!」
 なにこれひどい。
 そんなこんなでついにエルディンは褌一丁にまでなってしまった。クロウもそこまではいかずとも剥かれてしまい、羅轟は力で押し倒されていた。実に楽しそうなモフ男達である。
「だ‥‥だれか、助けてー!!」
 心の底から助けを求めるクロウの声が辺りに響く。しかし、無情にも声が響くだけに思われた‥‥が。
「そこまでよ!」
 上の方から声がし、何かと思い見上げれば、屋根の上に3人分の人影。
 1人はもふらの尻尾を生やし、もふらの耳の形をした獣耳カチューシャをつけた自称『もふら愛の戦士百々架』。
「お前の悪行、お天道様が許しても、この私が許さねーぜ! 観念しやがれい!」
 もう1人は雷梅だ。ところでこんな悪行、お天道様も許さないと思います。
 最後の1人はかっこよく木刀を構える禾室である。
「祭を汚す変態め、このわしが成敗致す!」
 仲間に連絡する為にこの場に集まるのが少々遅れたのだ。
 そこに普通に走ってやってきたレグ、朔、扇姫の3人が合流する。
「そこまでですっ変態さん!」
「頭に風穴開けられたくなかったら離れやがれ変態野郎」
 レグがエルディンを抑えつけているモフ男の額に銃口を向ける。威嚇だ。
「そんなものでもふらのプリチーヘッドを貫けるとでも思うもふか?」
 対するモフ男は余裕綽々。まったく怯んでいない。
 だが、モフ男の言葉を聞いた雷梅は腹を抱えて爆笑し始めた。
「お前‥‥その格好さ。自分でかわいいとか思ってんの? ねぇ、かわいいとか思ってんの?」
「当然!」
「こいつら本物だよ!」
 返答を聞いて、げらげらとした笑いは留まるどころか更に加速していた。
「いいから早く助けてくれ!」
「む、そうであったの」
 クロウの声を聞いて、禾室はもうちょっと見ていたいという欲望を抑えながら屋根から降りる。他2人も同様だ。
「必殺☆ 淡雪もふらーーーシュッ!」
 まず炸裂したのは百々架の雪折を発動した居合い斬りだ。それが羅轟を抑えつけていたモフ男を切り裂き、怯ませる。
「もふっ!?」
 そしていい加減に堪忍袋の緒も切れていた羅轟が、モフ男の背後に回りこんで絞める!
「‥‥そうか、そんなに抱き絞めて欲しいか。ならばくたばれ、このニセもふらがぁー!」
 KO。
 もう1人のモフ男にもレグが空撃砲による転倒を決め、そこに雷梅が笑いながら実に楽しそうに殴る蹴るといった攻撃を加えていた。
「何こいつ! 思った以上にきめぇ!!」
「‥‥どっちが悪役だよ」
 レグがそう零すのも仕方なし。
 最後の1人は、
「ふむ」
「もふぁ!?」
 何の気無しに振るった禾室の木刀が‥‥その、大事なところにクリーンヒットしてしまい、悶絶していた。
「‥‥なんだかよくわからないけど」
 痛みを知らない扇姫が非情に無情に、追撃の浄炎で燃やす。
 こうして3人のモフ男は退治されたのであった。

 捕縛されたモフ男は朔が神風恩寵で回復したことによって意識を取り戻していた。
「変態に情けは無用なんですけどね‥‥」
 ‥‥しかし、起き上がったモフ男に容赦なく百々架と扇姫が言葉責めしている辺り、寝てた方が良かったかもしれない。
「おぉ、もふもふしとる」
 禾室はモフ男の顔部分を触ってもふもふ具合を確かめていた。変態でももふもふしてるものはしっかりしてるようだ。
 何はともあれ、
「これにて一件落着ぅ!」
 と雷梅が締める。
 ‥‥羅轟がトラウマを抱いてしまったので、一件落着といえるのかどうかは怪しいが。
「もふら怖い変態怖いもふら怖い変態怖い‥‥」