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■オープニング本文 荒鷹陣(アラブルタカノポーズ!) 外見:大仰な動作と激しい渇と共に荒らぶる鷹のような構えを取る事で、相手を威嚇する技。‥‥が、威嚇したから別にどうという事もない。 解説:効果時間中、対象の攻撃力を低下させる。 とある街に小さな道場があった。 道場と言うからには武道を学ぶ者が集う場所だろうと覗いてみれば、確かに武道家‥‥泰拳士が集まっている。 だが、単純に泰拳士としての実力をつける為の道場というわけでもない。 体操や基本の型を一通りやる‥‥ここまでは何も問題はない。普通の道場と大して変わらないだろう。 「荒鷹陣の構え、百回!」 師範代のかけ声に応と答える門下生達。彼らが次に取った行動は、ある構えだ。 両手をまっすぐ伸ばして掲げ、それでいて手首を曲げて指先は地へ。右足は限界まで持ち上げられており、しかし膝を曲げることでつま先は地面に。そして左足は爪先立ちだが、決して揺れることはない。 これこそが荒鷹陣――荒ぶる鷹のポーズである。 「うむ、頑張っておるようだな」 「あ、鷹王!」 道場の奥から30代後半ぐらいの男性が姿を見せる。地に着くか着かないかぐらいの長い髪が特徴的だ。 彼は荒ぶる鷹王と呼ばれている。その名が示す通り荒鷹陣の達人であり、またこの道場の主だ。 そう。この道場は鷹王が荒鷹陣の素晴らしさを世に広めるために、そして荒鷹陣を極める為に作られたものなのだ。 日々、荒鷹陣の修行をする鷹王達。 だが当然彼らはそれだけで立ち止まることはない。 ――荒鷹陣には無限の可能性がある。 その事を、鷹王は以前開拓者達と荒鷹陣勝負をした時に知ったからである。 だからこそ、鷹王は新たな境地を目指し常に研鑽を積んでいるのだ。 「はぁぁぁぁ! 荒鷹陣・幻!!」 両手を天へと掲げる鷹王。荒鷹陣の構えだが、通常のものと微妙に違う。 荒ぶる鷹を表現していることには変わりはないのだが‥‥そう、どこか優美さを感じさせるのだ。 通常の荒鷹陣は基本的には一瞬で構えを取り静止する、キレが大事な技だ。だが、鷹王が今披露しているものはそれとは違う。 手足は緩やかに動き、無駄な力は一切使わず構えを取る。 本来の荒鷹陣の荒々しさは薄れてしまっている。しかし―― 「‥‥美しい」 ぽつりと呟いたのは師範代だけではなく、鷹王の所作を見ていた門下生全員であった。 思わず見とれてしまう程の優美な荒鷹陣。これこそが鷹王が新たに考え付いた『荒鷹陣・幻(アラブルタカノポーズ・マボロシ!)』である。 だが新たな荒鷹陣はこれだけではない。 鷹王は手足を下ろすと、深呼吸をしながら構えを基本の立ち姿勢にする。 息を吐き出すと同時丹田に気を溜め、一気に解き放つ! 「荒鷹陣・激ィィッッ!!」 解き放たれた気の奔流が、鷹王の手足を巡り、いつも以上の激しい動きを可能にする。 鷹王が取った荒鷹陣の構えに遅れて、空気を張る音が辺りに響く。それどころか衝撃波が彼の手足周辺で発生したような気すらする。 あまりにも激しい荒鷹陣に、鷹王の荒鷹陣を見慣れている筈の師範代ですら腰を抜かし、息を呑む。 気を使うことで通常の荒鷹陣を遥かに凌駕する荒々しさで圧倒する――『荒鷹陣・激(アラブルタカノポーズ・ゲキ!)』である。 「ぐ‥‥かはっ」 「鷹王!?」 突如、鷹王の体が揺らぎ構えが崩れる。そのまま鷹王は両手を床につけると、座り込んでしまった。 鷹王の全身からは凄まじい量の汗が流れており、呼吸も激しい。見るだけで相当に疲労していることが分かる。 「くっ‥‥やはり未完成の技を2つ、同時に仕上げるのは厳しいものがあるか‥‥」 『荒鷹陣・幻』と『荒鷹陣・激』‥‥実はどちらの技も完成といえるものではない。 荒鷹陣の達人である鷹王だからこそなんとか使う事ができるが、今のままでは荒鷹陣を齧った程度の泰拳士が修得できるものではないのだ。 更に鷹王ですらかなり体力を消費していることから体への負担が大きいことも分かる。これではとても世に広めることができない。 だからこそ、最後の仕上げが大事なのだが‥‥。 「えぇい、この体さえ保てば何とかなるものを、口惜しい‥‥!」 「無理をなさらないでください、鷹王!」 おぼつかない足取りで立ち上がろうとする鷹王を、師範代達がなんとか押し留める。 やはり2つの技を完成させるのはいくら鷹王と言えども、体が持たないのだ。また、かなりの荒鷹陣の使い手でもある師範代達にもできる事は限りがある。 今のままでは、新たな荒鷹陣を2つとも完成させることは――できない。 そう考えた師範代の1人が、鷹王にある提案をする。 「鷹王‥‥意見をよろしいでしょうか?」 「なんだ」 「今のままでは、どちらの技も完成させる事はできません。‥‥ならば、1つに絞ってみるのはどうでしょうか」 「‥‥むぅ」 それを聞いて考え込む鷹王。 確かに師範代の言う通り、1つに絞るのが最も現実的な案だといえる。そもそも完成しなくては意味が無いのだから。 しかし、絞るとしても『幻』と『激』‥‥どちらにするべきか。安易に答えがでるものではない。 「いや‥‥決めるのは私達だけではない、か」 鷹王は新たな荒鷹陣が完成した時の事を考える。 完成し世に広まった時、多くの泰拳士が新たな荒鷹陣を修得するかもしれない。その時を考えれば、外の意見も聞いた方がいい筈だ。 こうして、開拓者ギルドに1つの依頼が張り出された。 新たな荒鷹陣を完成させる為に意見を募集する、というものである。 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
氏池 鳩子(ia0641)
19歳・女・泰
ミル ユーリア(ia1088)
17歳・女・泰
ラクチフローラ(ia7627)
16歳・女・泰
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
九条・颯(ib3144)
17歳・女・泰
リリアーナ・ピサレット(ib5752)
19歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●荒ぶる鷹たち 鷹王が開いている荒鷹陣道場。そこに集まった開拓者達はやはり、荒鷹陣を使う泰拳士ばかりであった。 「鷹王久しぶりじゃない。元気してたー?」 挨拶代わりの荒鷹陣をするミル ユーリア(ia1088)。だが、この場では誰も彼女に突っ込まない。何故なら荒鷹陣をするのが当たり前のことでもあるからだ。 「あぁ、勿論だ。そちらも元気そうで何より。荒鷹陣の出来でよく分かる」 鷹王も荒鷹陣で挨拶の返事をする。それを見て、同じく挨拶として荒鷹陣をしている氏池 鳩子(ia0641)が感嘆の声を上げる。 「さすが、鷹王は切れがあるな‥‥」 挨拶代わりの荒鷹陣であってもまったく隙が無い素晴らしいものであることは見てわかる。 特に荒鷹陣の使い手というわけでもない恵皇(ia0150)でも思わず見とれるほどだ。 「鷹王‥‥凄い男だな」 沸いた感情は尊敬のそれ。同じく武を志すものだからわかるのだ‥‥1つの技を極限まで高める事がどれ程困難な道かを。 だからこそ、恵皇はそれに挑む鷹王を本当に凄い男だと思う。 荒鷹陣を使わない恵皇でこれなのだから、荒鷹陣の道を突き進む者はどうかというと―― 「荒鷹陣には無限の可能性がある‥‥わたくしもその様に考えておりました。なんて素晴らしい依頼でしょう! 鷹王様に、わたくしの思いをお伝えしなくては!」 頬を上気させ、鷹王にきらきらとした熱い視線を送る女性の名はリリアーナ・ピサレット(ib5752)。その表情やら先程の言葉だけで考えるとまるで夢見る乙女のようだが、実際のところは同好の士を見つけて興奮しているだけである。 ‥‥普段の冷静沈着な彼女を知っている者が見たら、驚くことには違いないのだが。 リリアーナと同じく、鷹王にすっかり心酔している者がもう1人。小伝良 虎太郎(ia0375)だ。 「新しい荒鷹陣‥‥だと‥‥? 流石だよ鷹王、やっぱりあんた最高だ! 是非協力させて欲しいよ!」 ダークサイドならぬホークサイドにすっかり染まりきってしまったようだ。 新しい荒鷹陣。その言葉を聞いて、ラクチフローラ(ia7627)は考え込む。 「荒鷹陣は泰拳士の代表的なスキルだし、良く考えないといけない、かな。うーん時間かけて二つ完成させるのはだめなの、かな‥‥?」 荒鷹陣が泰拳士の代表的スキルということを否定する者は、この場には誰もいない。 また、荒鷹陣を極めんとする者である鷹王に荒鷹陣を見てもらいたいという者もいる。石動 神音(ib2662)はその1人だ。 「神音の荒鷹陣、どーかなー?」 荒鷹陣を披露し、鷹王に指導を仰ぐ。 「ふむ、そうだな。荒鷹陣で気をつけることといえば、まずメリハリで――」 荒鷹陣使いが増える事が嬉しいのか、鷹王は喜んで指導する。 「せっかくだから我の荒鷹陣も見てもらおうか」 とは九条・颯(ib3144)の言葉だ。 颯は鷹王を前にしてもまったく緊張せず、堂々と荒鷹陣を披露する。 獣人の特徴である翼を最大に広げ、尻尾は天を貫くように上へ。さらには彼女なりの拘りがあった。目を細めた鷹王がその拘りが何のためにあるかを見抜く。 「ほぅ‥‥その構え。成る程、次に繋げる為のものか」 「ふ、一目で分かるとはさすがだな」 颯は言うが早いが瞬脚を発動し後脚と尻尾で地面を蹴る。これで一気に前進し、更に前脚で蹴りを放ち、前脚を降ろす反動で後脚を放つ連環腿を披露。 彼女の荒鷹陣はどこか余裕を持たせたものであった。そう、これらの連携の始動という役目を担っているのだ。 思わず鷹王が笑みを漏らす。理由は、荒鷹陣の使い手が集まった事が嬉しくて、だ。 「これほどの使い手が集まるとは‥‥楽しみだ」 ●幻か激か 「さて、本題に入るとしよう」 鷹王が告げる。本題とは言うまでもなく、激か幻‥‥どちらの荒鷹陣を完成させるかということである。 「あぁ、その前にいいかな」 「ん?」 手を上げて遮るのは鳩子だ。鷹王の視線が彼女に向いたのを確認してから話し始める。 「いや、実際に見ないと判断できないからな。両方の技を見せてもらおうと思って」 「成る程、一理あるな」 鳩子の言うことも尤もだと判断したのか、鷹王は全員がよく見えるように道場の真ん中へと移動する。 「まずは幻からだ。見るがいい‥‥荒鷹陣・幻!」 無駄な力を一切抜いた、緩やかな動きで優美さを表現する荒鷹陣・幻。 あまりの美しさに、開拓者達は思わずほうと声を漏らす。 「下半身を片足で静止させながら上半身で鷹の動きを再現‥‥確かにこれは心を奪われる」 とは鳩子の感想だ。 続いて鷹王は両手両足を下ろし、精神を集中させる。 「いくぞ――荒鷹陣・激!!」 気を使うことで通常の荒鷹陣を超える荒々しさを表現する荒鷹陣・激。 先程の幻とは打って変わった激しさに、開拓者は圧倒される。鳩子も額に汗を流しながら感想を述べる。 「なるほど、丹田に力を込めて全身に気をめぐらす、いや、それだけではなく、腕の角度や足の位置もより荒ぶる鷹を表現するとは」 「ぐ‥‥くっ」 2つの荒鷹陣を続けて使ったせいか、鷹王が崩れ落ちる。駆け寄ろうとした開拓者達を手で制し、鷹王は意見を促す。 「‥‥さぁ、どちらがよいかの意見を頼む」 「俺としては幻だな」 最初に口を開いたのは恵皇だ。 「その理由は?」 「あぁ。やっぱり将来性を考えなきゃな。激の方だと、気を放出してしまうからその後は気の抜けた状態、そこから色々派生するには難しい気がする。だが幻は違う。そうだな‥‥相手を幻惑するのだから、その後はあっという間に相手との間合いを詰められるとか‥‥」 「将来を考えてか」 「今の段階でも、そうだな。荒鷹陣自体が相手を威嚇するような型なのだから、練力は消費しつつも相手の攻撃と知覚を両方下げられるような構えにしてもいいと思う。これならば相手によって使い分ける必要もないしな」 「ふむ‥‥」 次に話し始めたのはラクチフローラだ。 「個人的には荒鷹陣・幻の方が好みだけれど」 あくまでも好みは好みで別だとして、話を続ける。 「本来の荒鷹陣としての在り方からすればやはり荒鷹陣・激なのかなって。もともと威嚇というものなんだし」 さっきのを見てキレの鋭さは分かったしね、とのこと。 続いてリリアーナが意見を言う。彼女も幻の良さは認めつつも、激を推した。 「優美な事この上ない『幻』も捨てがたいのですが実用性となりますと、『激』に軍配が上がりますね。それにあの気の迸り‥‥ああ! わたくしも早く使いこなしたく思います! 切に!」 可憐な見た目に反して、荒々しい気の迸りに特に惹かれるというリリアーナ。ステゴロっ娘は伊達じゃない。 気の迸りに惹かれているのはリリアーナだけでなく、神音や颯も同様のようだ。 「神音は『荒鷹陣・激』を推したいな。ぶわーっと気が放出されるのってなんだかかっこよさそーなんだもん」 「我は『荒鷹陣・激』の方を推す。そのまま上位互換であり、派手さが有るからな。ただ気を放出するだけじゃなく、オーラの領域にまで練り上げて光を纏う事でより威圧感と華々しさと煌々しさを出せたら最高なんだが」 「ほぅ‥‥」 彼女らの意見を聞いて、鷹王が面白そうだと目を細める。 「ふむ、特に光を纏う‥‥というのは良いな。今の段階ではさすがにそこまでできないが、将来的にはそういうのもいいかもしれん」 光り輝くことによって威圧感を出すというのは鷹王も中々気に入ったようだ。 他にも虎太郎やミルは力強い荒鷹陣の正当進化ということで激を評価していた。 「おいらは『荒鷹陣・激』の方を推すよ。こっちの方がストレートに荒鷹陣の進化版って感じで好き」 「あたしも激の方が良いと思うな。まあ超個人的な見解だけど、そっちのが好きだから。やっぱ鷹っていうからにはさー、力強い方がらしいかな、って思うのよね」 これで7人が意見を出した。残るは鳩子だけだ。 鳩子は鷹王の荒鷹陣を見てからずっと腕を組んで考え込んでいた‥‥が、何かを思いついたようにすっと立ち上がる。 「どちらかに絞る‥‥そんなことしなくても、いっそのこと両方合体させてみてはどうだろうか」 唐突な思いつきを実践する為に、鳩子は構えを始める。 「な、馬鹿、よせ!!」 鷹王の制止の声もむなしく、鳩子は気を高め、静と動の両極を取り入れた荒鷹陣を発動しようとして―― 「はっ!! ‥‥ぐはっ!!」 「あわわ、鳩子さんが血を吐いた!」 「そうだ、いかんのだ! 幻と激を同時に使おうなどというのは荒鷹陣使いにとっては最もしてはいけないことなのだ!」 無茶しやがって‥‥と開拓者達が見守る中で鳩子が崩れ落ちる。真昼間なのに流れ星が見えた気がした。 「いや、死んでないよ?」 むくりと起き上がり、鳩子は改めて意見を述べる。 「さすがに両方一緒は無理か‥‥。個人的好みは激の方か。こちらの方がより荒ぶる鷹を表現していると思う」 これで開拓者達全員の意見が出揃った。 「激の方が圧倒的多数‥‥か」 意見を纏めると、やはり荒鷹陣の力強さを受け継いだ点が大きいようだ。鷹王はそれらの意見を元に結論を出す。 「では、完成させる荒鷹陣は『激』ということで決定させてもらう」 これでどちらを完成させるかは決まった。だが、話し合いはこれで終わりではない。 ●真 「では、できればこういう調整をしてほしい‥‥という意見があれば頼む」 鷹王の言葉に真っ先に反応したのは神音だ。 「神音としては多少練力がかかってもいーから、鍛えなくても通常の荒鷹陣より低下する攻撃力が多い方がいいなー」 しかし、それに颯が反対の意を唱える。 「我としては消費はなるべく抑えてもらえるといいのだが‥‥」 対立する2つの意見を聞いて、鷹王は視線を全員に巡らせる。この件に関して意見のある者は他にいないか、ということだ。 それに応えたのは虎太郎だ。 「おいらとしては、修得が難しくなったり消費が激しくなってもいいから、複数を対象に取れるようにしてほしいかな」 「ふぅむ‥‥。複数対象ができるかどうかはともかくとして、意見としては難しくなったり消費は激しくてもいいから、効果を上げてほしいといったところか」 だが虎太郎の意見に、今度はミルが待ったをかける。 「あたしとしては、あんまり難しい技にしすぎない程度にとどめてほしいかな。中堅程度の実力の人でも無理なく取得できる感じの。やっぱりさ、間口はある程度広い方がいろんな人に触れてもらえるじゃん。そしたら荒鷹陣の良さがもっと伝わると思うのね」 例えばこんな感じかな‥‥と言いながら立ち上がる。 「気を込めすぎず、ある程度余裕を持って。でも相手に威圧感は与えられる程度の‥‥」 先程の鷹王の荒鷹陣・激をお手本に、それよりも気を抜いた‥‥簡単に言ってしまえば使いやすくなった荒鷹陣・激を披露する。尤も見様見真似なので粗も多いが、例えとしては十分だろう。 「何だっけ、能ある鷹はなんちゃらかんちゃらとかってあるじゃん。威嚇で全力出しちゃダメだと思うのね」 というのがミルの意見だ。 でも、と今度はラクチフローラがミルの意見に反対する。 「基本は誰でも出来るから今回のは求められる実力は高くてもいいと思う。使い手を選ぶくらいの技でいいんじゃないかな。そして練力消費も上げてもいいかな。これを使うのは本当に荒鷹陣を理解している人だけなんだろうし」 その言葉に、鷹王もふむと頷く。 「間口の広さ‥‥という点では基本の荒鷹陣があるからな。‥‥成る程、基本を理解した上で荒鷹陣の道を進むというのならば、多少は難しくしても大丈夫か」 入門用を基本の荒鷹陣としたら、今回の激は達人用‥‥とまではいかないがある程度実力をつけた者が学ぶものという位置にすることに落ち着きそうだ。 他には何か意見は無いか、という鷹王の促しに、リリアーナが口を開く。 「可能であれば、低下させるは命中のみに絞りその分、効力を増加させた方が宜しいかと存じます。当たらなければ攻撃力などそもそも無意味ですし、わたくし達泰拳士は、当てさせない戦い方をするのですから」 それを聞いて鷹王は腕を組んで、ぶつぶつと何やら呟きながら考え込む。 「ふむ‥‥相手の命中力を削ぐとなると、気の巡りと構えを調整して‥‥」 その後いくつか簡単に構えを取ってから、ふむと頷いた。 「当たらなければ攻撃力は意味は無い。‥‥実に泰拳士らしい尤もな意見だ。だが、荒鷹陣では相手の命中力だけ削ぐ‥‥というのは難しいだろう。まぁ、できるだけ調整してみるが」 「聞き届けていただき、誠にありがとうございます」 こうして、『荒鷹陣・激』のビジョンは大体見えてきた。 「あぁ、そういえば‥‥」 鷹王が何かを思い出したように話し始める。 「今のところ激と呼んでいるが、他に何か良い名前候補は無いだろうか?」 聞かれて、開拓者達は名前について思考を巡らせるが、多くは「激でもよいのでは」というものであった。 そこで案を出したのが神音と鳩子だ。 「鷹と鷲っておおざっぱに言えば体の大きさの違いだけらしーんだよね。鷲の方が大きいんだけど、荒鷹陣の上位すきるなんだから、鷹より大きい鷲の名をとって『荒鷲陣』でもいーんじゃないかなーと思うんだけど‥‥」 とは神音の案だ。対する鳩子のものは、 「荒鷹陣より上、と言うなら直球で、『真荒鷹陣』とか駄目か?」 実に直球でシンプルなものであった。これら2つの案を聞いて、鷹王が出した結論は―― 「‥‥そうだな。今回の激もシンプルな上位派生だからな。それを考えると、『真荒鷹陣』というのは悪くない。できれば、鷹というのは大事にしたい‥‥というのもある」 とのことであった。 ●未来の荒鷹陣 激‥‥いや、真荒鷹陣については固まった。 だが、荒鷹陣の進化は止まらない。なれば、ということで、鷹王はどんな荒鷹陣がほしいかと意見を募る。 そして挙がった意見の中で、鷹王が特に気に入ったのは、虎太郎が提案した相手の気を引くというもの。ミルと颯が提案した荒鷹陣から繋がる攻撃技。ラクチフローラと神音が提案した飛翔する荒鷹陣‥‥この3つだ。 他にも、今回没になった幻をより発展させて、相手に幻覚を見せたりするもの。相手の動きを止めるもの。自分を強化する‥‥などの案があった。 リリアーナなどはジルベリアの舞踊の動きを取り入れた荒鷹陣・舞を披露した――だけならいいのだが、あまりにも語るのが止まらない為に、鷹王が荒鷹陣を目の前で発動する事で無理やり止めたりした。 何はともあれ。 実際にこれらができるかどうかは分からない。いや、それよりも光り輝いて舞い動くことで、複数を相手取る荒鷹陣が先に編み出されるかもしれない。 しかし、細かいことはこの際置いておこう。荒鷹陣の道を行く若者がこれだけいるのだから、荒鷹陣の未来は明るい――! 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