戦慄 戦斗メイド作戦
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/25 20:49



■オープニング本文

 日が沈んだ夜の神楽の都。
 騎士である少女‥‥ローズ・ロードロールがちょっとした雑用を済ませた帰り道、唐突にそれに遭遇した。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
 黒を基調とした服に足元まである長いスカート、清楚なイメージを見た者に抱かせる白いエプロン。
 所謂メイド服を纏った人物が2人、ローズの目の前に現れたのだ。
「お嬢様とか呼ばないでくださいな!」
 つっこむべきところが違う。
 何故ならメイドの1人は白髭を蓄えた逞しい老齢の男性。もう1人はやはり逞しい体つきをした若い男性、顔はそんなに悪くない。
 つまり、メイド服を着た男達というちょっとあれな人たちだ。つっこむべきはそこである。
 そもそもお帰りなさいと言われたが、場所は街中の道であり、ローズの家ではない。彼女が雇ったメイドでもないので迎えてもらう理由もない。
 総合すると、メイド服を着たただの不審者だ。
 ローズもその事を理解したのだろう。警戒しながらじりじりと距離を取る。
「‥‥で、何の用ですの。そもそもあなた達は一体何者ですの?」
 その問いに、若いメイドが答える。
「ふ、俺の名前はイチーゴ! メイド・ロード、所謂メイ道を突き進むメイドが1人!」
 それに続いて、老齢のメイドも口を開く。
「ワシの名はトウッコ! 同じくメイ道を突き進むメイドよ!」
「‥‥はぁ。その、メイ道を突き進むメイドさんが何の用ですの?」
 正直なところ、目の前にいる男達をあまりメイドとは呼びたくない。だが余計な問答をして面倒を抱えたくない、ともローズは考えていた。
 だから、率直に何の用かを尋ねた。
「ふっ、知れたことよ! お前をメイドにスカウトしにきたのだ!」
「お断りしますわ」
 当然の即答。だがメイド達は怯むことなく、ローズの前に立ちはだかる。
「やはり断るか。ならば、メイドらしく力ずくといこう!」
「どこがメイドらしいんですのー!?」
 イチーゴが地を蹴って、ローズへと駆け寄る。動きから推測するに志体持ちだ。
 動きは戦場に赴く者のそれではない。確かに素早いのだが、音を立てず、埃も立たず、どこか気品すら感じさせる――メイドの走りだ。
 だが、戦いにおいてそれが有利に働くかといえば否だ。ローズにとってイチーゴの突撃をかわすことなど容易いことで、ステップで距離を取る。
「まぁ、やっぱりその程度ですわね。‥‥ふふっ、あなた達が私を倒せるようでしたら、メイドでもなんでもしてあげますわよ?」
 騎士とメイド、実力差は明白。つい挑発してしまうぐらい、ローズは余裕を感じていた。
 いつもの斧を持っておらず、武器はせいぜい護身用のナイフぐらい。服は天儀で買った着物で鎧もないが、負ける要素は万に一つも無い――と。
 だが、それが落とし穴であった。
「ではワシも本気を出すとするかのう」
 どこからかモップを取り出すトウッコ。同じようにイチーゴは桶をその手に持っていた。
「えぇ!? どこから出しましたの!?」
「メイドさんのスカートの中は、浪漫が詰まっておるものじゃよ!」
 むさい男のスカートの中なんて見たくもないのだが。
 イチーゴが桶の中身‥‥水をローズに向かってぶちまける。当然ローズはびしょ濡れになり、地面も水浸しになっていた。
「メイ道必殺技が1つ! お掃除アタァーック!」
 水浸しになった地面を滑るように、モップをかけるトウッコ。
 彼が走る先には濡れて呆気に取られていたローズの姿があった。トウッコのモップはそのままローズを轢き、彼女を吹き飛ばしてしまう。
「きゃうん!?」
「今だ、イチーゴ!」
「はい、師匠!!」
 今更だが2人は師弟関係にあったらしい。
 吹き飛んだローズを追いかけるようにジャンプするイチーゴ。彼の手にはやはりいつの間にか取り出したパイがあった。恐らくアップルパイである。
「メイ道烈火! アフタヌーンティーはパイと一緒にどうぞ!」
 空中にいるローズの顔面に、パイが叩き込まれた。食べ物を粗末にするのはよくない。あと夜なのでアフタヌーンティーは相応しくないと思うのだがどうか。
 とにかく、ローズは地面に叩きつけられる。
「な、なんということ‥‥ですの‥‥」
 がくり。顔面パイまみれで意識を失うローズ。地味にパイが美味しいのが悔しい。

 こうして、ローズとメイド達の戦いはメイド達の勝利に終わった。
 勝利のポーズを決めたトウッコが指を鳴らすと、どこからともなくメイドが6人程やってくる。こちらは全員女性である。
 メイド達は気を失ったローズを抱えると、どこかへ連れていってしまった。
 その様子を見届けてから、トウッコはうんうんと頷く。
「こうして新たなメイドがまた1人増える。‥‥いや、ただのメイドではない。ご主人様を守る戦闘力を持つ、戦斗メイドとも呼ぶべきメイドよ」
「師匠の弟子がまた増えることになりますね!」
「おうよ、メイドのいろはをきっちり叩き込んでやらんとなぁ」
 彼らの正体は紛れもなくメイドである。ただのメイドではない。メイド氏族のメイドだ。
 彼らの氏族は素晴らしいメイドを育て上げ、権力者に仕えさせることで力をつけてきた氏族だ。だからこそ決して慢心せず、究極ともいえるメイドを目指して彼らは努力し続けていた。
 それ故に、彼らは一般メイドではとても習得のできない数々のメイドスキルを編み出したのだ。
 そんなメイド氏族に、志体持ちが出てきたらどうなるか――そう、数々のメイドスキルは志体持ちの超人的能力によって、更なる力を発揮する。
 イチーゴとトウッコ。彼らこそ、メイドを超えたメイド‥‥戦斗メイドなのだ。ちなみにメイド氏族にとって『執事は甘え』らしい。男でもメイド。
「いくぞ、イチーゴ! 戦斗メイドを増やし、ご主人様を守るのじゃ!」
「はい、師匠ォォォ!!」
 メイドさんは今日もご主人様の為に頑張るのであった。


 後日、開拓者ギルド。
 メイド服を着たローズが受付にやってきていた。
「というわけで! あの馬鹿どもを、なんとしても懲らしめたいんですの!」
「は、はぁ‥‥。えと、そのメイド姿は一体‥‥?」
「気づいたらこの服を着せられていたんですわ。‥‥あんな事を言った手前、約束を破るわけにもいきませんし」
 あんな事とは、『メイドでもなんでもしてあげる』という挑発の事だ。
 律儀に約束を守って、メイド服を着ているのであろう。尤も、メイドになるつもりはさらさら無い。
 こうして、戦斗メイドを倒す依頼が出されるのであった。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
水月(ia2566
10歳・女・吟
リリアーナ・ピサレット(ib5752
19歳・女・泰
平賀 爽(ib6101
22歳・女・志
泡雪(ib6239
15歳・女・シ


■リプレイ本文

●メイド大戦
 この度街を騒がせている戦斗メイドを懲らしめる為に集まった開拓者。メイドに対して思うところがあるのか、やはりそれに関連した格好の者が多い。
 白を基調としたメイド服を着た水月(ia2566)もその1人だ。
「メイドさんは‥‥確かに素敵な‥‥職業ですけど、無理強いは良くないと思うの‥‥」
 だが、どうも彼女の口調は怪しい。口調どころか、意識がはっきりしているかどうかも危うい。
 最近忙しくて疲労が溜まっていたのか、水月の眠気は今がピークであった。
「まぁ‥‥子供には辛い時間帯ですわよね」
 ローズが舟をこいで今にも倒れそうな水月を後ろから支える。
 今のローズは戦斗メイドとの戦いに敗れた為、ミニスカメイド服を着ている。似合っているのだが、無理矢理着せられた彼女の心情は推して量るべし。
「ローズ殿‥‥なんという‥‥姿に」
「ど、同情するぐらいなら見ないでくださいな‥‥!」
 彼女の気持ちを察したのだろう。羅轟(ia1687)が思わず面をずらして目尻にハンカチを当てる。でもメイド姿のローズを良いと思ってるのは表に出さないでおく。
 知り合いに見られて改めて恥ずかしくなったのか、ローズは顔を真っ赤にして体を抱く。
 そんな彼女に追い討ちをかけるように言うは巴 渓(ia1334)。
「今回は相手をナメたローズの自業自得だ、似合うぜソレ!」
「似合っても嬉しくありませんわよ!?」
 何はともあれ、メイドではない者にメイドを強制するというのは本職メイドの者にとっては許し難いことらしい。
 開拓者兼メイドの泡雪(ib6239)が怒りの炎を燃やす。
「私、怒っております。戦斗メイドの行動はメイドの品格を貶めるものでしかないと思いますの」
 だから、
「メイドとして、彼らの行動をなんとか止めなければ!」
「ほーぅ、よくぞ言ったと褒めてやろう!」
「!?」
 月をバックに屋根の上に立つ2人の巨漢。2人ともあまりにも似合わないメイド服を着ている。
 戦斗メイド、イチーゴとトウッコが姿を現したのだ。
 跳躍し、開拓者達の目の前に降り立つイチーゴ。どうやらトウッコは様子見のようだ。
 着地は完璧で、音も無い。スカートがふわりと広がるが、
「見えそうで見えないアンビバレンツ‥‥! ご主人様をドキドキさせるのもメイドの務めよ!」
「別の意味でドキドキしたぞ!?」
 見たくもないを見せられて憤るは酒々井 統真(ia0893)。白く眩しいハイソックスを拝むことになったが、下着が目に入らなかっただけマシかもしれない。
「ひたすら迷惑な上に暑苦しくてむさ苦しいぞ! 執事が甘えとかどうとかいうが、甘い方がまだマシだ。こんな心休まらねぇメイドがいるか!」
「ふ、何を馬鹿な事を‥‥。見た目に関係なく癒しのオーラぐらい出せるものだろうが!」
 がっしと地を踏みしめて気合を入れるイチーゴ。それと同時に彼の方から熱気が漂ってくる。
「そんな暑苦しいオーラで癒されるやつはいねぇ!?」
 だがイチーゴが統真の文句を聞き入れるわけがなく、どこ吹く風だ。
「言っても無駄なら‥‥やっぱりまずは懲らしめなきゃね」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)がリボンを外して髪を下ろしながら一歩前に出た。風に吹かれて、長い髪が広がる。
「ぬぅ、貴様‥‥!!」
 絵梨乃を見て唸る戦斗メイド達。それもその筈、今の彼女は執事服を身に纏っていたからだ。
「貴様ならさぞかしメイド服が似合うだろうに‥‥! 執事になるとは許し難い!」
「お褒めの言葉として受け取っていいのかな?」
「もはや問答無用!!」
 そもそもまともに問答をしていなかった気がするが。ともかく、イチーゴが絵梨乃に向かって走る。
 手にはいつの間にか水が入った桶が握られている。
「その手は食わないよ!」
 だが事前に情報を聞いていた絵梨乃はすかさず間合いを詰めると、絶破昇竜脚で桶を蹴り飛ばし、更に空中でもう一度蹴る。
 桶は空中で破壊され、水が真下にいるイチーゴへと注がれることになった。
「くっ! こんなとこでメイドのお約束である『水で服が透けて嬉し恥ずかしイベント』が起きてしまうとは‥‥!」
「それもメイドさんのお約束なの!?」
 絵梨乃の驚きに、泡雪が首を横に振って答える。違うとは実に残念。
「だが、こいつならどうだ!」
 イチーゴがその場でくるりと一回転。するとどこからか取り出したのかパイを持っていた。ちなみに今回はピーチパイである。
 だがイチーゴが動き出す前に先に動いた人物がいた。水月だ。
 ローズの膝の上ですっかり寝ていた筈の彼女だが、ピーチパイの匂いを嗅いで覚醒。そう、美味しいものを求める野獣となったのだ!
 野獣となった水月の動きは素早い。あっという間にイチーゴの懐にもぐりこむと、目にも止まらぬ速さでパイを奪取し、即座に帰還する。
 奪われたパイは泡雪の手によって、いつの間にか用意されていたテーブルに配膳されていた。その様子を見ている水月にもし尻尾があったのなら、嬉しそうにぱたぱた振っているだろう。
「‥‥野獣というよりは子猫か子犬ですわね」
 ため息を吐くローズ。水月と泡雪の手によって、お茶会の準備ができていた。
 戦斗メイドの部下である6人のメイド達もいつの間にかお茶の用意をしながら混ざっているのはどういうことか。
 肝心のパイの味はまさに絶妙。料理人である渓が思わず唸るぐらいだ。
「成る程、こいつはやるじゃねぇか‥‥! 基本という基本が完璧で、なおかつ隠し味に‥‥ふむ」
 公平なジャッジを謳う渓にとって、料理の腕という点では認めざるを得ない。
 パイを奪った水月だけでなく、メイド部下達も実に美味しそうに食べている。それを見て、泡雪は戦斗メイド達に忠言を投げかける。
「美味しいですか? そもそも料理とは美味しく食べていただくために創意工夫したもの。それを他者を傷つけるために用いるとはメイド以前、人としての道徳の問題です。全ての食材に謝罪なさい」
 それを受けて、パイを食べ終えた平賀 爽(ib6101)が口元を拭きながらメイドとは何なのかを語る。
「泡雪様達をご覧になってください。これがメイドのあるべき姿ですよ? 自発的におこなってこそです。強制で仕事をさせている貴方がたは、メイド失格ですね」
 肝心の戦斗メイドの反応だが――
「戦斗メイドに同じ技は通用しない‥‥今やこれは常識、か。成る程、貴様らは戦斗メイドに相応しいようだな!」
 やっぱりまるで聞いちゃいなかった。
「イチーゴよ、お主だけでは手に余るようだの」
「はっ、申し訳ありません、師匠‥‥!」
 そして、今まで様子見に徹していたトウッコがついに降り立つ。
 トップと思われる人物が降りてきたことで、羅轟は彼に対して馬鹿なことはやめるよう言い放つ。
「力ずく‥‥誘拐とか‥‥メイ道‥‥以前に‥‥人の道‥‥外れて‥‥どうする。そもそも‥‥こんな‥‥方法で‥‥人材‥‥集めてる‥‥知られたら‥‥氏族‥‥信用‥‥ガタ落ち」
 結論として、
「――全儀の真面目なメイドさん達に謝れ」
 対するトウッコの返事は至ってシンプル。
「まずは形から‥‥便利な言葉だとは思わんかな?」
 やっぱり聞き入れる気は無いようだ。トウッコはターゲットを羅轟に決めたようで、彼に向かって突進する。
「ちぃ‥‥!」
 裏一重で避けながら、掌底によるクロスカウンターを叩き込む‥‥が浅い。筋肉の鎧に阻まれてまともにダメージがいってないのが手応えで分かる。
 だが、こちらもダメージは無い――羅轟はそう思っていた。
「羅轟、お前‥‥!!」
 統真を始めとする仲間達の視線が妙だった。痛いモノを見て、笑っちゃいけないんだけど、直視した笑いを堪えきれる自信が無いので、必死に視線を逸らす‥‥そんな感じだ。
 羅轟には何が起きたのかが分からない。何も変わってない筈だ‥‥そう思い、自分の篭手を見るとある事に気づいた。
「‥‥え?」
 真っ黒な鎧を着ていた筈なのに、何故か色が塗られている。
 そう、羅轟の鎧はトウッコにより塗装を施されてしまったのだ。しかもメイド服に見えるようなカラーリングでだ。これこそ正にメイド服ならぬメイド鎧といえる。
「クックック、今日から貴様は鬼面のメイド鎧といったところかな?」
「や、やめろ!? ‥‥そんな風に呼ぶな‥‥!?」
「いいや、呼ぶね!!」
 この瞬間、羅轟は鬼面のメイド鎧の称号を手に入れてしまった――!
 あまりの事にがくりと項垂れてしまう羅轟。かといってメイド鎧を脱ぐことはできない。‥‥部下メイド達がメイド服を用意して待機してるからだ。鎧を脱いだらどうなるかは容易に想像できる。
 また、渓は先程のトウッコの動きに慄いていた。
「なんて洗練された動きだったんだ‥‥! あれこそ正に壁の補修などで培われた動きに違いねぇ。だが、そんなもんまでメイドがやることなのか‥‥!?」
「――完璧なメイドとして、やらない方がおかしいだろう?」
 とはトウッコの言葉。
「いいか、おぬしら。完璧なメイドイコール完璧超人‥‥! 分かるか?」
「分からねぇよ!」
 そんな超理論を飲み込める開拓者がどれだけいるというのか。飲み込めない開拓者達は皆一様につっこみを入れる。
 やはり、戦斗メイドを倒すには正攻法では駄目だ――正攻法で敗れた羅轟を見て、開拓者達は理解する。
 そう、彼らに立ち向かうはリリアーナ・ピサレット(ib5752)――彼女曰くバトルメイドだ。
 リリアーナは戦斗メイド達に相対すると、一礼してから自分の経歴を語る。
「わたくしもボディガード兼メイドとして色々なお屋敷で働いてきましたので分かりますが、戦闘能力のあるメイドは重宝されるのです。わたくし、言いたい事は言いますし度を越えたセクハラには実力行使で応えてきましたので解雇される事も多くございまして。それでも妹三人を養ってこられたのはバトルメイドに対する需要のお蔭と存じております」
 確かに彼女の経歴ならばバトルメイドを名乗ってもいいだろう。そして、その有り様は戦斗メイドと似たようなものである。メイドとしてはちょっとあれなところも同じく。
 トウッコもほぅと目を細めて感心している。
 戦斗メイドと似たような存在であるリリアーナだからこそ、その存在を認めることができる。‥‥戦斗メイドの存在自体は有なのだ。
「強引なやり方‥‥それと食べ物を粗末にする点を改めて頂ければわたくしは貴方達の行いに異議は唱えません」
 いや、もう1つ問題があったか、とリリアーナは指摘する。
「あ、もう一つ問題点がありました。貴方達二人の出で立ちです! はっきり言いますが気持ち悪いです。その姿では誰も近寄りませんよ。甘えでも何でもいいですからまともな服に着替えて下さい。お二人は素材はいいんですから!」
「ふっ、着替えてほしいならばどうするべきか‥‥バトルメイドのお主なら分かるだろう?」
「えぇ――力ずくで脱がすまでですね!」
 荒鷹陣を発動しながら、全力で服を引き剥がしにかかるリリアーナ。目が輝いて、凄く生き生きしてるように見えるのは何故だろうか。
 こうして再び開拓者達と戦斗メイドの戦いが始まる。
 トウッコの箒に仕込まれた刀による斬撃を八極天陣で避けながら、統真がなんとか懐に潜り込む。
「仕込み箒ってなんだよ!?」
「メイドの基本よ!」
 そんな基本知ったこっちゃねぇ――トウッコがどこからか取り出したフライパンでガードする体勢に移ろうとするが、一手遅い。統真が拳を叩き込むのが先だ。
「いよし、貰っ――!?」
 後は拳を突き出すだけ――なのだが、そんな彼の意識が急にどこか遠くへといってしまった。
 簡単に言ってしまえば、凄く眠い。だが急に眠くなる理由が分からない。トウッコも驚いてるから彼の仕業ではないのだろう。
 統真が意識を失う前に最後に見たもの。それはお腹いっぱいの幸せ状態で寝ている水月の姿であった。
「はふぅ‥‥むにゃ‥‥」
 そんな彼女の無意識の寝言は‥‥まどろみを誘う夜の子守唄となり、聞いた者を眠らせてしまう。
「あぁ、見てて和むなぁとか言ってる場合じゃなかった――!?」
 がくり。
 ついに睡魔に屈してしまった統真。彼が次に目を覚ました時、纏っているメイド服を見てどのような気持ちになったかは‥‥今は語るまい。
「これでよい」
 戦闘中にも関わらず、統真の着せ替えを優先したトウッコ。だがこれが彼にとって致命的な隙になってしまった。
 さっと背後に忍び寄っていた爽が手に持っていた何かをトウッコに向けてぶちまける。
「食べ物を粗末にしちゃいけませ――ん!!」
 トウッコの顔面はぬっちょぬちょのぐっちゃぐちゃ状態になってしまった。爽がぶちまけたのは納豆だったのだ。
 これはさすがに溜まったものではない。
「食べ物を粗末にって、お主が言うことじゃないだろう!?」
「いいえ、納豆は食物である前に武器であるべきなのですよ!」
 謝れ! 全国の納豆職人に謝れ!
 ――と、冗談はさておき。豆腐屋を営んでいる爽は最近納豆を作るようになったのだが、先程ぶちまけた納豆は所謂食べられない失敗作というやつだ。
 つまり食えるものでない、普通に腐っただけの豆である。豆腐屋が腐った豆を作るというのもどうか。
「ぐぅ、メイドパワーを支えるカチューシャがこんなに汚れてしまっては‥‥!?」
 膝を突くトウッコ。そんな彼の前に泡雪が立つ。
「忠誠心は自ら捧げるもの。強要されるのは隷属と言います。貴方方はメイド姿の奴隷を作っているだけの犯罪者です」
「ぐあぁぁぁ!? ま、眩しい‥‥白く輝くカチューシャが‥‥眩しい!?」
 最早わけがわからない。
「成る程‥‥。メイドの証であるカチューシャが汚れたことで、正統派メイドのカチューシャ‥‥いや、メイド本来の輝きに目を焼かれたってところか」
 渓が納得したように解説を入れるが、それが正しいかどうかは‥‥もうどうでもいいことだ。
 倒れるトウッコ。それとイチーゴがリリアーナの手によって下着一丁になるのはほぼ同時であった。
「ふぅ‥‥いい仕事でした」
 きらきらと輝く汗を拭きながら実にいい笑顔のリリアーナ。部下メイド達も何故か大喜びしている。

 こうして、戦斗メイド達は倒れた。メイド本来の輝きを知った彼らがいつかきっとメイ道を正すことを開拓者達は信じるのであった。
「世の中には様々な事情で訓練を受けていない志体持ちの方々がいらっしゃいますし、そういった方々を広く受け入れる学び舎を作り無料にて教育を施せば貴方達の言う戦斗メイドは順調に増えていくと思いますよ」
 リリアーナの言う通り、彼らはやり方を間違えただけで、望まれない存在ではないからだ‥‥多分。
 何はともあれ、正統メイドの輝きを見せた泡雪を絵梨乃が優しく頭を撫でる。
「さすが、本物のメイドさんだな」
「‥‥メイドって、何なんでしょう」
 ぽつりと呟いたローズに、答える者はいない――。