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■オープニング本文 1人の少女が畳の上で突っ伏していた。 この少女こそ一家当主の一 三成なのだが‥‥傍目に見てもやる気があるようには見えない。 「‥‥はぁー‥‥。危険な場所に乗り込んで‥‥開拓者の方々に助けられて‥‥朝廷の命に背いて‥‥」 三成が思い出すのは先のアル=カマルでの出来事。 色々あったが、最終的に朝廷の命に背いて確保した人形を盾に、朝廷の真意を探るという決意を固めたのだが‥‥。 「ぜ〜んぶ水の泡‥‥やる気も無くなるわ‥‥」 天儀に帰還した三成に衝撃的な報告が待っていた。 三成らが人形を確保した日から、各地で新たな遺跡が見つかり、更にその遺跡で「人形」が見つかったというのだ。 朝廷の思惑は未だに分からないが、朝廷が人形を求めているというのであればわざわざ三成の交渉に乗る必要は無い。 だから三成は自分の覚悟が水泡に帰したと考え‥‥簡潔に言ってしまえば、不貞腐れていたのだ。 三成が何をするでもなく部屋で転がっていると、唐突に襖が開かれる。 「‥‥誰です? 私室には立ち入るなと事前に――」 「これはすまんのう。確かに忙しそうに見える」 「――――」 三成の開いた口が塞がらない。 何故なら、部屋にやってきた人物というのが、 「と、豊臣さま!? ど、どどどうしてここに‥‥!?」 「おぉ、慌てるそなたを見れただけでわざわざ足を運んだ甲斐があるというものよ」 それを聞いて、居住まいを正しながら顔を赤くする三成。慌てた姿どころか、だらけきった姿も見られたのだ。生きた心地がしない。 訪問してきた人物というのは、朝廷三羽烏の一角、豊臣公の娘。貴族の中でも絶大な力を振るう、三成にとっては雲の上の地位の人物である。 「で、忙しいようならこのまま帰るがの?」 「いっ、いえ‥‥!」 こうしてバタバタとしたものの、三成と豊臣の2人が交渉の席に座るのであった。 「で、用件を述べるとな。人形を引き渡してもらいたいのよ」 「えっ?」 向かい合う豊臣が、茶を啜ってから述べた用件は三成にとっては予想外のものであった。 先述したように遺跡から人形が見つかったことで、三成は朝廷が人形を欲する理由は無くなったと考えていた。 (あの人形は‥‥朝廷が欲するだけの何かがある‥‥?) 何かは分からない。 だが、何かがあるのであれば、人形はまだ交渉材料になると判断して、三成は必死に頭を動かす。 「‥‥申し訳ありませんが、できません」 「ほう? なにゆえに」 「それは――彼の人形はある開拓者を主人として認識したようです。であれば、彼女の意思を無視するのはいかがなものかと‥‥」 交渉するにしても、まず引き渡さない正当な理由が必要であると三成は認識していた。 朝廷の命を受けて人形の確保をしたのだから、人形を渡さないことは朝廷への造反と受け取られてもおかしくはない。 罰を受けることは覚悟の上だが、造反者とされて人形を奪われては交渉どころではない。だから正当な理由を主張すべきだと判断したのだ。 「彼女の意思、な。それはどちらの、か?」 「‥‥どちらも、です」 そして、改めて交渉の本題に入る。 「ですので、彼女らの意思を無視して引渡しを要求するのであれば‥‥こちらからも要求したいものがあります」 豊臣は別段困った風でもなく、面白そうに笑みを見せながら促す。 「言うてみよ」 「朝廷の真意を――何故朝廷が人形を欲するか、です」 言われ、豊臣は手を顎に当てて考え込む素振りを見せる。あくまで素振りだけで、表情自体は先程から楽しそうなのだが。 「しかして、主人となった開拓者が引き渡しを拒否したらどうするつもりかの?」 「説得します。‥‥謗りを受ける覚悟もあります」 つまり、説得できなかったとしても人形を引き渡すということ。三成自身がどう思われようと、だ。 「‥‥いいだろう」 「では‥‥!」 「が、さすがに無条件とはいかぬな?」 何か条件を出されることは三成も想定のうちだ。 「そなたにはある遺跡から人形を確保してもらいたい」 さすれば朝廷の真意を話してやろう‥‥とのことであった。 「私が‥‥ですか?」 「別に開拓者の力を借りてもいいがの。あくまでもそなたが確保せねば、な」 今のところ朝廷の狙いが何かは分からない。 朝廷が人形を確保しなくてはならず、本来の代替を確保せよということかもしれない。 だが今考えたところで意味は無い。目的を達すれば真意は分かるのだから――そう結論付けて、三成は頷く。 「‥‥分かりました」 「よしよし。あぁ、資料は後ほど送ろう」 これで交渉は纏まった。 残る三成にとっての難題は、何か弄られる前に豊臣に帰ってもらうことだけだ。 さてどうしたものか‥‥三成が思案し始めたところで、再び襖が開かれた。 「うぉーい、三成ー。そろそろ話終わったかー?」 片手に食べかけの最中を持った青年が部屋に入ってくる。もう片手には紙包みを持っているが、その包みからは甘い匂いがするので恐らく中身も最中だろう。 「に、兄さん‥‥!? ちょ、ちょっと今は――」 「あ、豊臣さん。お久しぶりっす」 慌てる三成を意に介することなく、豊臣に挨拶する青年。相手が誰か知っていながらまったく怖気づいてない。 「正澄か‥‥相変わらずのようだの。体は大丈夫なのか?」 「あぁ、割と大丈夫じゃないですけど気にしないでください」 青年の名は一 正澄。三成の兄であり、一家の前当主である。 三成より優れた素養を持ちながら、体を蝕む病のせいで当主を三成に譲ることになったのだ。 そんな病弱青年の正澄が、紙包みを卓の上に置く。 「あ、三成も豊臣さんも最中食います? ちょっと自分で食うには多過ぎる量買っちゃって‥‥」 「また出歩いたの!? 安静にしなきゃいけないって言われたばかりじゃない! それに自分が食べきれない程買ってどうするの――!?」 三成はそこまで怒ってから、豊臣がいる事を思い出したのだろう。小さく咳をして気を取り直す。 正澄は食いかけの最中を一気に食べ、テーブルにある三成の茶で飲み込む。 三成はもう何か言うことを諦めたのか、ため息を吐くばかりだ。その様子を気にすることなく正澄は豊臣に話しかける。 「いやぁ、この店の最中凄い人気なんですよ。美味いってのもあるんだけど、店の主人が趣味で作った小物をおまけにつけたら、それ目的で買う客が増えて大人気になって」 「菓子目的ではなくおまけ目的、のう」 「どっちがおまけか分かんない状態っすよ。‥‥豊臣さんはおまけの為に買いまくってお菓子捨てるとかできちゃう派?」 正澄の唐突な質問に、豊臣は先程まで浮かべていた笑みを消し、目を細める。 しかしそれも一瞬のことで、再び笑みを浮かべると答えた。 「菓子が美味ければ捨てはせぬよ」 「ですよねー」 それから後、豊臣は帰っていった。 この日は三成にとって非常に胃が痛くなる1日だったと言わざるを得ないだろう。 |
■参加者一覧
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
ルーディ・ガーランド(ib0966)
20歳・男・魔
ノクターン(ib2770)
16歳・男・吟
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
マハ シャンク(ib6351)
10歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●人形を目指し 三成と合流した開拓者らは、自己紹介を交えた話をしながら遺跡に向かっていた。 各地で人形が眠るだろう遺跡が見つかっているという話を聞いて、ルーディ・ガーランド(ib0966)は嘆息する。 「人形って各地にあるのか。‥‥神砂船探した時の苦労は何だったんだ」 三成も同様の感情を抱き、不貞腐れたが‥‥実際のところ朝廷が神砂船の人形を求めていることは変わらない。 だから、と三成が口を開く。 「私達が苦労した意味はあったのでしょう。‥‥その意味を知る為にも、これからまた苦労するわけですが」 朝廷の真意を聞く為にこの依頼が出されたわけだが、マハ シャンク(ib6351)が依頼人である三成に動機を問う。 「朝廷の真意を聞きどうするのだ? それで、それだけで満足か? それを知って何がしたいのだ?」 「‥‥明確に何をしたい、というビジョンはありません。ただ‥‥」 「ただ?」 「知らないままでは何をすべきか考えることすらできません。だから、まずは知って考える‥‥。全てはそれからだと思ってます」 三成の返答に、マハは何か追求したりはしない。彼女としては気になった事を聞いただけで、だから三成がどうするべきだとは考えていないからだ。 代わりに三成に入れ知恵をするはフレイア(ib0257)だ。 「豊臣さんが示した人形の真相に裏があると感じましたら、三成君の方で豊臣さんに先んじて個人的に行動すればよいのですよ。人形は開拓者の側にもあるのですし、要は納得は全てに優先するといったところですわね」 その言葉に三成はやや不安そうな顔になりながらも頷く。朝廷に逆らうというのは貴族にとって非常に勇気がいることなのだが、覚悟はある‥‥ということだろう。 渦中の人形が話題に上がり、巴 渓(ia1334)が口を挟む。 「‥‥例の人形、どうせロクなものじゃない。妖魔を封印する鍵、それそのものが物騒な兵器の類‥‥いずれにせよ」 渓は組んでいた腕を解き、軽く拳を鳴らす。 「民衆の害になるか否か、見極める必要がある。ふん、害ならば破壊する。無害でも余計な騒乱の元ならば‥‥俺がぶっ壊す」 その言葉に、三成は静かに首を横に振る。 「騒乱の元になるだけで破壊されるというのであれば、この世には排除されなければいけないモノが多過ぎます。それに、あなたが見極める機会があるかどうかも怪しいものです」 「なんだ、見せてくれねぇのか?」 「少なくとも交渉が終わるまで公開するつもりはありません」 交渉材料である以上、現状それに手を出すのはアンフェアだということだろう。 「交渉の結果次第では皆さんの目に触れないまま朝廷に渡されることになるでしょうし‥‥」 その言葉を聞いて、マハが意外そうな顔をする。 「む。豊臣との交渉に同席できるものと思っていたが、違うのか?」 「‥‥むしろできると考えた事に驚きですが。豊臣公はお忙しい方ですから、交渉の続きがいつになるかも分かりませんし」 双方の都合を考えると、依頼終了後の交渉は豊臣が手綱を握ることになるだろう。お互いの立場を考えたら至極当然のことなのだが。 その状況で豊臣が開拓者の介入を許すかどうかは考えるまでもない。 むぅ、とマハが小さく唸ってから黙る。その代わり‥‥というわけでもないのだが、水月(ia2566)がおずおずと口を開く。 「あの‥‥今の話を聞いて‥‥。その、意思を持ってる子を、唯の物みたいに扱うのは‥‥あんまりよくないと思います」 今の話というのは、人形を交渉材料と考えたり、見極め云々のことだろう。 「なので引き渡した後、酷い事しないようにお願いしたい‥‥です」 意思を持つのであれば、人形といえど生きているといえる‥‥だからそれなりの扱いをしてほしい。優しい少女の言葉に、三成も頷く。 「そう、ですね。その点については私も進言したいと思います。彼女が道具ではなく‥‥彼女の意思で生きていられると良いのですが」 言ってから、遠い目でどこかを見る三成。三成が少し同情的なのは、自身もまた命が道具扱いだった経験があるからだろうか。 そんな三成の真正面にノクターン(ib2770)が立つと、じーっと顔を観察する。勿論三成は困惑し、何事かと問う。 「な、なんですか‥‥?」 「‥‥やっぱりてめぇは、俺と同じだな」 「――え?」 再びどういうことか聞く為に口を開けようとした三成の唇に、ノクターンは人差し指を押し付けウインクをする。 「何の事かはてめぇなら分かるはずだぜ? ま、黙っておくから安心してていいぜ」 クスクスと意地悪く笑いながら指を外すノクターン。周囲の人間は何のことか分からず、疑問符を浮かべるだけだ。 「あ――」 肝心の三成は、数瞬遅れて何の事か気づく。 ノクターンは少女のような服装や声から女性と思われる事が多いが、実際は男性である。生家の仕来りでそのような格好で生きてきたらしい。 だから彼には分かったのだろう。三成もまたノクターンと同じ‥‥女性として扱われているが、実際は男性だということに。 今のところ唯一気づいたノクターンは黙っておくようだが、もしかしたら今後も開拓者と触れ合ううちにバレるかもしれない。 その事を少し覚悟しながら、三成は遺跡に向かうのであった。 ●這うもの 「‥‥狭い」 遺跡に踏み込んだ羅轟(ia1687)が真っ先に述べた感想はそれであった。 遺跡は非常に狭く、道幅は1メートル。高さは3メートルしかない。事前に情報は聞いていたが、こうして実際に入ってみるとその狭さがよく実感できる。 特に羅轟は背が高くて体格もよく、鎧をつけているから尚更そう思えるのだろう。 「んー‥‥ぎりぎりいけるかなぁ、これ」 と殲刀「朱天」を素振りしながら言うは羽喰 琥珀(ib3263)だ。一応小振りな刀を持ってきているが、もしそれでも振り回しにくいようなら予備の更に短い刀に持ち替えるつもりであった。結果としてはぎりぎり許容範囲といったところ。 こういった軽い確認作業を終え、開拓者達は一列になって遺跡に入っていく。この狭さでは二列以上になるのは無理だからだ。 ちなみに、順番はマハ、琥珀、フレイア、ノクターン、三成、羅轟、水月、ルーディ、渓となっている。 遺跡内部に明かりは一切無く暗闇に包まれているが、各自が用意していた松明などの明かりによって、視界は何とか確保されていた。 明かりに照らされた床や壁面をルーディは慎重に調べながら進んでいく。 「偵察の先行があった場所でも、見落としの可能性はあるからな」 今のところ、偵察の報告通りそれらしい異常はない。が、報告通りであるならば、 「来たか‥‥!」 人間以外の何かの足音が近づいてくる。ガサガサというその音は虫が近づいてくる際のそれに近い。 その感想は正しく、蜘蛛のように多数の足で床や壁を這うように移動する人形の姿が視界に入った。 床を這うもの1、壁と天井を這うものが2。天井を這う人形のうち1つは頭部に何か印字が刻まれており、事前情報が正しければ自爆して攻撃してくる自殺兵だろう。 「皆、怪我しないよう気をつけて‥‥なの」 迫る戦闘に向けて、水月が騎士の魂を歌うことで、開拓者達を応援する。 床を這って近づいてくるものはマハが迎撃する‥‥が、天井と壁のには手がまわらない。 「ブリザーストーム‥‥は、無理ですわね」 フレイアはブリザーストームで迎撃しようと考えていたが、この位置では間違いなく前にいる味方2人を巻き込んでしまう撃つ事ができない。 巻き込まないよう気をつけたとしても、この狭さで味方を巻き込まないのはどんなに頑張っても無理だ。 ならば後衛に対する接近を封じる為にもと、フロストマインを設置する。 三成の後方に位置する羅轟は天井を這う蜘蛛目掛け、弓矢を放つ。 「‥‥背が高くて‥‥良かった‥‥」 背が高くても床や壁を這う人形に対しては射線の問題上狙うことはできないのだが、天井の敵ならば問題は無い。 「うん、その‥‥僕は狙えないんだけどね」 「‥‥す、すまん‥‥」 尤も羅轟より後方に位置するルーディなどは、敵が床だろうと天井だろうと狙う事ができないのだが。これは仕方ないと割り切るべきか。 壁を這う自殺兵がマハの横を抜ける‥‥が、そこを琥珀が刀で突き刺す。 「これ以上はいかせない‥‥よ!」 自殺兵は非常に脆く、琥珀に2回刺されただけでその動きを止めてしまった。どうやら自爆以外の性能は最低限のものらしい。 蜘蛛はそれに比べれば幾分か丈夫なようで、天井を這うものは羅轟の矢を受けながらも、着実に隊列の中ほどまで迫ってくる。 が、この時先ほどフレイアが仕掛けたフロストマインが地面より出てくる。 「えっ?」 敵に向かうと思われた吹雪の罠は、しかしフレイアの目の前にいる琥珀に向けて放たれることとなった。 「んなぁっ!?」 突然の猛吹雪に琥珀は足を止め、体を震わせる。強力なそれは琥珀の体力を確実に奪っていった。 フロストマインは術者以外に反応する罠を設置する術であり、対象者は敵味方を問わない。このような状況で設置すれば、こうなる事は自明の理ともいえる。 術に頼れない事に気づいたフレイアは慌ててピストルに持ち替えるが、それよりも羅轟の矢が蜘蛛にトドメを刺すのが先であった。 マハも何とか蜘蛛を破壊し、この場での戦闘は一先ず終結を迎える。 「すみません‥‥大丈夫ですか?」 「うん、なんとかね‥‥。次からは気をつけて頼むよ?」 フレイアの謝罪に琥珀は気にしすぎないよう笑顔で返す。敵の増援が無い事を確認した上で、水月が今の戦闘で傷ついたものを癒した。 「今はなんとかなったけど、次に大量の敵が来たらちょいと大変かもしれないぜ」 先ほどまで歌による支援をしながら戦況を分析していたノクターンの言葉に全員が一様に頷く。狭い場所を敵が十全に活用できるというのは思っていたよりも大変だったからだ。 敵の一体一体の性能がそれほど高くないのが救いとはいえる。尤も、それを数で押されたら面倒なことになるかもしれないが。 そんな彼らの心配はそれから更に進んだところで現実になる。 「‥‥うっわ、これ絶対あれだよね」 最初に気づいたのは壁や天井に注意を払っていた琥珀だ。天井に通路と同じぐらいの広さの穴が開いているのだ。 敵の性質から考えるに、この穴から出てくることは容易に想像できる。今のところ出てくる様子は無いが、開拓者達が通り過ぎたら挟撃するつもりなのかもしれない。 フレイアがアイアンウォールで通路を封鎖することも考えたが、まず狭いこの場所ではアイアンウォールで壁を作り出す事すらできない。 結局のところ開拓者達はその場を通り過ぎるしかなく、後方からの襲撃に備えるしかなかった。 また少し進んだところ。相変わらず狭い道で、だが目の前から蜘蛛が少なくとも5体は近づいてきているのが目に入った。 その上、 「後ろから来た、応戦するぞ!」 ルーディが言うように後方からも5体。どちらも自殺兵が混ざっている。 「は、ようやく出番がまわってきたってところか」 後方からの敵を向かえ撃つは渓だ。敵に近づかれる前に気功波で着実にダメージを与えていく。 また、後方の敵に対してならば視界が通るためルーディもそちらを優先してサンダーで狙い撃ちをしていた。 尤もそれで処理しきれる数ではない。自殺兵のうち2体が接近し、うち1体は渓が拳で叩き潰すが、もう1体は渓に組み付くこととなった。 「んな――!」 人形の頭部が光るとほぼ同時に、爆発を起こす。爆発の範囲はそれほど広くなく、その威力は渓だけが受ける事となった。 幸いだとすれば渓が他の開拓者達に比べて幾分か丈夫だったことだろう。傷はそれほど深くない。 同じように前方のマハも自爆攻撃を食らっていた。こちらは少々傷が深いが、戦えないほどではない。 「それでも‥‥数で来られるときついぜ‥‥!」 この数を相手するには‥‥とノクターンが広範囲を攻撃する重力の爆音を発動させる。これは指定した場所に重低音を叩きつけ周囲にいる者を攻撃をする術だ。 勿論、敵味方の例外は無い。 「きゃっ‥‥!」 「あ、しま――」 しまったと思うより早く、重低音が仲間を傷つける。救いがあるとすれば、味方よりも敵の方がダメージを大きいことか。 しかし、それでもまともな戦闘力を持たない三成にとっては苦しいようで、膝をついてしまう。 その上で痛みを感じない人形達は、壊れる体を気にすることなくクナイなどを投擲して攻撃してくる。威力自体はそれほどでもないが、蓄積すると厳しいものがあった。 「皆‥‥頑張って、なの‥‥!」 それでも開拓者達が戦うことができたのは、絶え間なく閃癒で全員を癒し続けた水月のお陰である。 彼女の回復支援を受けて、開拓者達は人形を1体、また1体と倒していった。 「これで、最後‥‥!」 最後の1体を琥珀の雷鳴剣が砕き、戦闘は終わった。 水月が開拓者達を癒している中、羅轟は人形兵の残骸を見やる。 「‥‥これは‥‥まだ大丈夫‥‥か?」 比較的損傷が少ない部位を、荷物の中に入れる。人形兵の解析に何か役立つのではないかと一縷の希望を望んで。 ●眠りしモノ こうして人形兵らを退けた三成らは、最奥の部屋に到着した。部屋は今までの狭い道に比べて十分な広さが確保されている。 そして、部屋の中央にそれらはあった。 「これは‥‥神砂船にあったものと同じ‥‥」 三成の言葉通り、神砂船で見つかった人形が入っていた棺と同じものがあった。それも、4つ。 蓋にはやはり水晶の窓のようなものがあり、そこから中を覗けば人間が――いや、人間と見紛うほど精巧な人形が横になっていた。 いずれの棺にも白い肌着を纏った人形が横たわっており、4体の人形が見つかったことになる。 他に何か目ぼしいものは無いかと部屋を探っていたマハが棺のうち1つを覗き込む。部屋には棺以外これといったものは無かった。 覗き込んだ限りでは、肌着以外は何も身に着けていないように見える。 「ふむ‥‥人形が身に着けているものに意味があるとすれば‥‥」 調べてみたいので蓋を開けていいかを問うマハだが、三成は首を横に振る。 「余計なことをして起動させたくありません。神砂船の時は、蓋を開けたせいか起動してしまいましたし‥‥」 だから万全を期する為に蓋を開けてはいけないということだ。 それを聞いて、琥珀が「げ」と苦い顔をする。 「つまり‥‥この入れもんごと運ぶ‥‥ってこと?」 「そう‥‥なりますね。曲がり角は‥‥頑張って立てましょう」 三成の言葉を受けて、羅轟が試しにと棺を持ち上げてみる‥‥があまりの重さに床に下ろす。開拓者といえど複数人で運ぶこと前提になりそうだ。 「‥‥行きよりも、帰りの方が大変そうなの」 水月の言葉に、思わず全員がため息を吐いてしまうのであった。 |