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■オープニング本文 アヤカシが跳梁跋扈するこの世界。 都市部は比較的安全だが、小さな村では中々そうはいかない。 強力なアヤカシに襲われると、たちまちに滅びてしまう事もそう珍しくないという。 そんなご時世だからこそ、人々が荒れてしまうのも無理は無い。 「ア、アニキぃ‥‥本当にやっちまうんですかい?」 「当たり前だ、やらなきゃ俺達が生きていけねぇんだからよぉ!」 不安そうな声と、それを一喝する野太い声。どちらも男のものだ。 そこは木々が生い茂る山の中。2人の男‥‥いや、それよりもっと多くの男達が身を隠すように茂みに潜んでいた。 少し茂みから顔を出せば、そこから見えるのは小さな家々。山に囲まれた小さな村といったところだろう。 山に囲まれてるといっても村の入り口から伸びる道はそれなりに整備されているし、村を訪れる者はみなそこを通るのだろう。 しかし、今囲まれている男達は違う。彼らはそこを通らずにあくまでも山の中に潜んでいる。その理由は――― 「ヘッヘッヘッヘッ‥‥。そうだ、今やこの世は修羅の世界。力ある者が全てを手に入れ支配するのだァ!」 「俺達はそれを嫌だというぐらいに知っている!」 「今は悪魔が微笑む時代なんだ!」 そう、男達は山賊であった。 力で弱者から何もかもを奪い取る悪しき集団。 言われてみれば、その場にいる男達は誰も彼も逞しい体つきをしている上に、斧や槍に棍棒といったいかにもな武器も持っていた。 防具の方は皮でできた鎧を身に着けており、肩パットには無駄にトゲがついていて痛そうである。しかしそんな所にトゲをつけて役立つのだろうか。 その上、鎧は素肌の上に直接つけており、肌が無駄に露出している有様である。お前ら本当は体守る気無いだろう。木の枝で引っかいたような傷がいくつもあるし。 極めつけに、男達は全員同じような髪型をしていた。髪を思いっきり逆立てた上で側頭部は思いっきり剃っているという‥‥どんな髪型かは、これで察してくれるとありがたく思う。 「ぐっふっふっふ‥‥。この日の為に俺達は山賊を研究し、今や完璧に山賊と言える姿となった。それも全てはこの襲撃を成功させる為よぉ!」 山賊をなんだと思っているんだこいつら。 「いくぜ、テメェら! 襲って奪ってヒャッハーだ!!」 「ヒャッハー!」 「ヒャッハー!」 「ヒャッハー!」 ヒャッハーという叫びがこだましている中、男達は勢いよく山を駆け降りていったのだった。 それぞれ武器を手に村へと走る山賊たち。 村を囲う柵を武器で破壊し、男達は雪崩れ込む。 「ヒャッハー! おらおら出て来いやぁ!!」 そんな男達の叫びが聞こえたのだろう。家々の扉がバタンと勢いよく開いて、中から人が出てくる。 男もいれば女もいる。老人もいれば子供もいた。まさに老若男女という言葉が相応しい。 村人達は、全員山賊の方に向かって走る。 「おいおい、活きのいいやつらじゃねぇか!」 村人達は走る。 山賊の様子や、持っている武器なぞまるで意に介さないかのように。 それは襲撃された普通の一般人とはまるで思えない。 これはまるで――― 「アァ〜アァァァ〜」 「ヒャッ‥‥ハー?」 村人達は誰も彼も死んだような目で、アーだのウーだの言葉になっていない言葉をただ吐き続けるばかり。 そう、村人は全員まともな人間ではない。 「やべぇアニキ! こいつら全員アヤカシに憑かれてやがる!!」 「な、なんだとぉ!?」 アヤカシに憑かれた人間は、最早人間ではなく、人を食う為だけに生きるアヤカシと化す。 その力も通常の人間とは大きく異なる。 それを示すかのように、1人の山賊が振るった棍棒はどうみても老人にしか見えないアヤカシに受け止められ、尋常ではない力でそのまま奪い取られてしまう。 「アニキ! 逃げるしかねぇっすよ!!」 「く、くそぉぉ!?」 そしてしばらく経って。 「どうすりゃいいんだ‥‥」 山賊達はとある建物の中にいた。 逃げようとしたのだが、結局行く手を悉く阻まれて、村にあった安全そうな建物に逃げ込むしか無かったのだった。 幸い、逃げ込んだ先は食料庫だったようである程度の食料はある。 ‥‥が、問題はそんな事ではなく。 「アァ〜アァァ〜」 扉ごしに聞こえるは、アヤカシに憑かれた村人達のうめき声。それと同時に勢いよく扉が叩かれる音だ。 今は食料庫の中にあった物などを扉の前に置くことでバリケードとしているが、いつ破られるか分かったものではない。 最早山賊達の希望は‥‥。 「アニキ‥‥何とかしてくれるって信じてますぜ‥‥!」 この場にいない唯一の山賊。 1人だけ隙を見て村を抜け出す事に成功した、山賊達の兄貴分。 彼は走りながらこう言った。必ず助けを呼んでやる、と。 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
橘 琉璃(ia0472)
25歳・男・巫
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
ナイピリカ・ゼッペロン(ia9962)
15歳・女・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
ハッド(ib0295)
17歳・男・騎
長渡 昴(ib0310)
18歳・女・砲
フィーナ・ウェンカー(ib0389)
20歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●命はどうするものか アヤカシが居ついてるという村。 そこに到着した開拓者達が見たものは、なんとも分かりやすい状況であった。 「話に聞いた通り、アヤカシ達が1つの建物を集中して囲んでましたね。見落としが無ければ数は11だと思います!」 アヤカシに気づかれぬよう、ルンルン・パムポップン(ib0234)は周囲の森の木に登り、村の様子を探った結果を仲間達に伝える。 それを聞いてほっと安堵する一行。内容から推測すると救出対象はまだ無事だろう。 何はともあれと、そこから見える範囲で村を覗きながらぽつりと洩らすは王禄丸(ia1236)。 「こう、巨大な老婆が家に招いてくれるような機会がいずれある気がする」 「そんなデカイ婆さんがいるわけあるか〜!!」 牛の頭骨を模した面を被ってる為表情が伺えない王禄丸に至極真っ当な事を返すはハッド(ib0295)。 救出対象の妙な姿を思い返し、そんな男が老婆に変装してる姿でも想像したのだろう。どう考えても賊の罠なのだが、それに引っかかる者はいるのだろうか。 そして、恵皇(ia0150)は気合を入れるように首や指の骨をコキコキ鳴らす。 「アヤカシには地獄すら生ぬるい! しかし、村人に罪は無い。せめて俺達の手で安らかに眠らせてやろう」 その言葉に全員がこくりと頷く。 襲われてる者を助ける為‥‥そしてある意味で村人達も助ける為、開拓者達は事前に打ち合わせた通りに動きはじめる。 ●開拓者に逃走はあるのか 「YOU和食!!」 「いきなりどうしました。食べたパンがどうこうでも誰かに聞かれたんですか?」 「ワシはパン派じゃ。‥‥いや、米の飯も嫌いでは無いのじゃがのぅ」 それ以前に、何故いきなりそんな事を叫んだのか分からない彼女の名はナイピリカ・ゼッペロン(ia9962)。きっと叫ばなきゃいけない気になったのだろう。 そんな彼女につっこみを入れていたのはフィーナ・ウェンカー(ib0389)。洋食派か和食派か‥‥いや、そもそもこの場ではまったく関係ないのだが。 2人が話している場所はアヤカシに見つからぬよう隠れる事ができて、かつ一直線に向かっていける森の中。 更に同じ場所に隠れているのは2人の女性。 「何はともあれ、準備は大丈夫ですか?」 2人のやり取りが終わったのを見計らって、長渡 昴(ib0310)は声をかける。 彼女の言う準備とは、遠目に見えるアヤカシの群れ‥‥それに攻撃を仕掛ける準備の事だ。 ルンルンも含めた彼女達A班の役目は、待機しているB班と挟撃ができるようアヤカシの気を惹いて誘導する事である。 昴の言葉に全員が首を下に振る。準備万端だ。 「よし‥‥いこう!」 アヤカシを誘導する為の作戦は至極簡単。 「お主らなんぞ指先ひとつでダウンじゃぞー♪」 「さすがにこれで仕留められるとは思っていませんが‥‥ね!」 食料庫に集まるアヤカシに向けて攻撃し、気を惹くというものだ。 接近し、前衛として武器を思いっきり振るうはナイピリカと昴。 アヤカシにとってみれば突然の襲撃者なのだが‥‥動揺する精神といったものが無いからか、対応は素早い。 ナイピリカのファルシオン、昴の長脇差ともに腕で受け流される。 刃である以上受け流しても無傷というわけではないが、しかし決して有効打にはなっていない。 「ジュゲームジュゲームパムポップン、ルンルン忍法ファイヤーフラワー‥‥アヤカシ汚物は消毒消毒です!」 ルンルンも前衛と同じく一気に接近しつつ、周囲の建物に気をつけながら、火遁の術を発動させる。 炎に包まれたアヤカシの反応を見る限り、いくらかダメージを与えているといえる。 「さて、この位置なら大丈夫ですかね」 一撃が致命傷になりかねないフィーナは他3人とは違い、距離を取ってのサンダー。 これも、一撃で相手を仕留める事ができる程の威力ではないが、ダメージとしては十分だ。 術による攻撃なら比較的安定したダメージを与える事ができる相手という事だろう。 ‥‥が、そもそもA班の目的は敵を倒す事ではない。気を惹く事だ。 唸り声と共に、アヤカシ達が一斉に開拓者達に振り向き、足をそちらへと向ける。 この時点で彼女らの目的は半ば達成されたと言っていい。 「よし! 殿を務めます!」 それを確認し、敵に向けた長脇差を自身を守るように構えなおしながら、一先ずバックステップする昴。 ナイピリカも同様だ。彼女ら2人が盾となりつつ誘導しようということだ。 「この美少女のやわ肌、たぶん美味いぞー!!」 ナイピリカの挑発の言葉‥‥とはいえそれが通じるような相手とも思えないが、彼女としても気分を盛り上げる為だろう。 「自分でそこまで言うとは‥‥凄い自信ですね。ある意味羨ましいです」 「なんじゃ! 文句があるのか!?」 「いえいえ、お気になさらず」 言いつつ、もう一度サンダーによる援護を入れてから脱兎のごとく走るフィーナ。ルンルンも早駆けで素早く離れている。 ナイピリカとしても彼女らのように一気に走りたいが、それをするには少々敵が近すぎる。 「えぇい! 鬱陶しい!」 「くっ‥‥! 1、2の3で一気に走りましょう!」 鬱陶しいと思ったのは昴も同じくか。さすがに後退しながら11のアヤカシを2人で捌くのは無理がある。 敵の攻撃を受ける事に集中しても限界だ。2人はタイミングを合わせ、目の前のアヤカシを同時に突き飛ばして、全速力で走る! 突き飛ばされたアヤカシは他のアヤカシにぶつかり巻き込み、何体かの体勢を崩すが、すぐに立ち直り2人を追いかける。 ある程度のリードがあった為、このまま走れば2人はなんとか捕まらずに所定の場所まで逃げ切る事ができるだろう。 「ぬぉぉぉぉぉ!!?」 この壮絶な追いかけっこは――― 「いよーし、それまでだ!」 仲間との挟撃という形で、終わりを迎える。 ●そもそも痛みを知る存在だろうか A班が誘導した先。 そこはある家と家の間。都などと違い、村なので十分な広さがある事には違いないが、それでも無いよりはアヤカシの動きを制限する事には違いない。 そこにアヤカシ達が入った次の瞬間、A班と挟むような形でB班が姿を現す。 恵皇、王禄丸、ハッド、そして橘 琉璃(ia0472)の4人だ。ちなみにこちらは全員男性だったりする。 彼らがアヤカシの背後にまわったのを見て、A班の4人も足を止め、アヤカシの方に向き直る。 アヤカシはこの状況を理解してるのかしてないのか。しかし、どちらにせよ彼らのやる事は変わらない。目の前の人間を襲う‥‥それだけだ。 勿論、それを甘んじて受ける開拓者ではない。 腕を組んで尊大なポーズを取っているハッドが、腕を前に突き出すと同時に声を張り上げる。 「みなににょ、皆のものかかれ〜!!!」 「――――噛んだ?」 「か、噛んでない!!」 ともあれ、本格的な戦闘が始まる! 「死に場所を選べ。せめて愛した村で天に還そう‥‥」 襲い掛かってくるアヤカシ達。しかし、恵皇は冷静に‥‥怒りと悲しみと愛を込めた空気撃で的確に1体ずつ転倒させていく。 「ふむ‥‥確実に、な!」 人を求めるアヤカシの性質故か、逃げる気配は無い。ならばと王禄丸は転倒しているアヤカシを仕留める為、大斧を振るっていく! しかし確実に対処していっても元からアヤカシの数が多い。ハッドなどは複数から同時に攻撃を受けていた。 「効かぬなぁ〜!」 そう言う彼だが、思いっきり涙目であった。効いててもおくびに出さないのが、王と言い張る彼にとっては大事なのだろう。 そんなハッドを棍棒で攻撃するアヤカシの1体が、いきなり炎に包まれる。 「大丈夫ですか?」 琉璃の浄炎だ。これにより、攻撃の手が休まりハッドは何とか反撃の態勢へと移る! 「しゃう〜! きりさけっ!」 それは、後ろ手に持つ事で目の前のアヤカシに見えないようにしたシザーフィンで、居合い切りの如く斬り裂く! 炎に包まれた上、ハッドの攻撃を連続で受けたそのアヤカシは力尽き、崩れ落ちてゆく。 また、ルンルンは近くの家の壁を利用した三角跳びでアヤカシの背後にまわると、刀による首を狙った一撃をお見舞いする! 「ルンルン忍法、くりてぃかるひっと!」 が、首を狙ったからといって人間とは別物のアヤカシ、それで倒れるわけではない。アヤカシは倒れそうになるものの、踏みとどまると同時振り向きながら斧をぶん回す! さすがにそこまで大雑把な攻撃だとそう簡単に直撃はしないが、その素早く強力な一撃はルンルンの皮膚を切り裂くには十分なものであった。 更に追撃として斧を大上段に構えたアヤカシだったが‥‥ドスという衝撃がそれに響いた直後、崩れ落ちていった。 「あまり敵陣に入り込むような無茶はしないようにな」 それは、恵皇の気功掌が見事アヤカシへと直撃した結果だ。 そして戦いは乱戦へと移行したが、移行前にアヤカシを数体排除できていた為、戦いは開拓者優勢で進んでいた。 「憑依された村人に罪はありませんが、こうするしか他に手立てはないですからね。諦めて消毒されてくださいまし」 そのフィーナの言葉と共に発動されるサンダーに貫かれふらついたアヤカシを、拳が打ち貫く。 「指先ひとつでダウンさ。‥‥とはいっても、さすがに武器で攻撃した方が効くか」 それは敢えて素手で殴ってみた王禄丸の攻撃。素手で白梅香が使えるが試してみてそれはできなかったのだが。それにしても先程誰かが似たような事を言っていたような気がする。 何はともあれ、こうして確実に1体ずつアヤカシは倒されていき‥‥そして。 「アヤカシの気配ひとつこの世には残さん!」 恵皇がそう宣言した時、少なくとも村にアヤカシの気配は残っていなかった。 ●力こそ正義の時代なのか 「た、助かったぁぁ〜!」 アヤカシをすべて排除したのを確認してから、今まで森に隠れていた依頼人が食料庫の中に呼びかける事数分後。 ガタガタという音がしてから、扉を開けて出てきた男達の第一声であった。 確かに男達は助かった。助かったのだが、気になる事がありすぎる。 何故なら―――― (なんだよ、その格好は!?) 話には聞いてはいても壮観であった。モヒカンヘアーの筋骨隆々の男達が裸の上にアーマーを着込んでいる姿というのは。 ‥‥これで自称商売人というのだから。 「まぁ、しかし、開拓者の中にはもっと怪しい奴、いるよな」 見慣れていると言えば見慣れてる‥‥と恵皇は1人勝手に納得しているのだが、その考えは少数派だろう。 「なんだ、何故俺を見る」 しかし全員の視線が牛頭の面を被った王禄丸に集中していた。‥‥恵皇の意見に同意せざるを得ないかもしれない。 開拓者の格好はともかくとして、モヒカン男達が商売人だというのに疑問が残る事は間違いない。 モヒカン男達はみな目を合わせないよう視線を逸らしている。 「お前のような怪しい商人がいるか〜!!!」 と、業を煮やしたハッドが荒縄でモヒカン男達を縛り上げるが、それを止める者はいない。 それどころか、ここぞとばかりに開拓者達はモヒカン男達を取り囲む。 絶対的強者の目で、彼らを見下ろして口を開くはフィーナ。 「ふふ‥‥何の商売をしているのか、何を取り扱っているのか、普段どういう商売法をとっているのか。そこらへんを根掘り葉掘り小一時間ぐらい問い詰めてみたい気分ですね」 「ね、根掘り葉掘りって言葉よ―――」 「そういう事はどうでもいいので、早く答えてくれませんかね?」 にっこり。 笑顔の筈なのに、モヒカン男達の背筋に走るは寒気のみ。慌ててしどろもどろでやれ狩猟をしてるだの、それを捌いて商売してるだの、この格好や武器はその為だの、説明を始めるモヒカン男達。 「と、いうことで‥‥」 「ふーん」 「えっと、いや、だから‥‥」 「へー」 「俺達は‥‥その」 「ほー」 半目の昴が、棒のような発音で相槌を打つたびにモヒカン男達の声が小さくなっていく。 彼女の同業者としての勘が、男達の本来の目的に当たりをつけている為このような態度になるのだろう。彼女の職が何かは一先ず触れないとして。 ついにモヒカン男達は押し黙ってしまう。あと一押しといったところだろうか。そしてその一押しは―――。 「もしも悪い子たちだったら‥‥‥こちらも消毒が必要かしら? ‥‥ふふふ。冗談ですよ。冗談」 「あー、なんていうんだったかな? お前はもう、死んでいる?」 フィーナの笑顔と、面を外して百の目が描かれた覆面を見せ付けた王禄丸だった。‥‥笑顔と百目の覆面が並ぶのもどうかとは思うが。 ヒィィィと顔を青くしたモヒカン男達は‥‥観念したように語り始める。 昨今のアヤカシ騒ぎだののせいでまともに働いては食えないようになった事、山賊として生きるのを決心したこと、山賊として初めて襲ったのがこの村であった事―――。 「略奪しようとしたら、失敗した? 自業自得では、無いですか? これ」 琉璃が呆れるのも無理は無い。 ルンルンなどはぷんぷんと頬を膨らませて怒っている。 「その格好は東洋の神秘だと思ったのに、私達を騙してたなんて酷いです。‥‥二度と悪さ出来ないように、指先一つでダウンなんだからっ!」 怒りのベクトルがずれている気がする。そもそも天儀の人間をなんだと思っているんだ。あと指先でダウンさせるのが流行っているのか。 それはともかくとして、真剣に怒っているのはナイピリカだ。 「いくら悪魔が微笑む時代とは言え、己が悪魔になってどうするのじゃ! たわけめ!」 「う‥‥‥」 「その逞しい肉体と筋力があれば、如何様にも働けように。こんな時代だからこそ、情けは人の為ならずと言う物よ」 「‥‥‥‥‥」 自分より遥かに年下であるナイピリカに説教され、顔を上げる事のできないモヒカン男達。だが――― 「俺の名前を言ってみろ〜では無く、自分の名前を徳と共に世に刻みつければ良いのじゃ」 彼女のその言葉に、何かに気づいたのか。彼らはぱっと顔を上げる。 「そうか‥‥。そうだよな‥‥。自分が食う為だけにもし誰かを殺したら‥‥『んん? 間違えたかな?』じゃ済まねぇもんな‥‥」 「誰かから奪うより、殺すより‥‥生かして、支えて‥‥それで支えられて生きる方が‥‥ずっと楽しいよな‥‥」 モヒカン男達にとって救いだったのは、初めて襲った村がここだったという事だろうか。 彼らは‥‥まだ、後戻りできるのだ。 「おい、お前ら」 恵皇がモヒカン男達の縄を解いて、立ち上がらせる。 「村人を丁重に弔うぞ、手伝え」 その言葉に、男達は拒否を示すどころか――― 「ヒャッハー! もちろんでさ!!」 ―――ヒャッハーはともかく、彼らも前を向いて生きる事ができるだろう。 (我輩の幻視によるとこの者共は天性のアヤカシを引き寄せる才能を持っておるぞよ) ハッドが物凄く不吉な予感を抱いているのは、今はまだ彼しか知らない。 |