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■オープニング本文 青い空、白い雲。そして光り輝く海。 暑い夏といったらやはり海水浴は欠かせない。そんなわけで、とある海岸は海水浴客で埋め尽くされていた。 友達と来ている者、家族と来ている者、勿論カップルで来ている者もいる。 「うっひょー! 凛さんの水着が見られるなんて‥‥生きててよかった!」 「君は、その、いささかオーバー過ぎではないか‥‥?」 といった風に浮かれるのも仕方ないだろう。周囲の男連中がカップルの男性を睨みつけているが‥‥やっかみぐらいは甘んじて受けるのがいい男というもの。 「あ、ん‥‥マーク君‥‥駄目‥‥見られちゃ、んん――!?」 「ふふ、大丈夫。声を抑えれば‥‥ね?」 岩陰でなんか怪しいことしてるカップルは見なかったことにしよう。 とにかく、海水浴客は皆楽しんでいるようであった。 この時はまだ誰も知らない。 この海岸で、あんな凄惨な事件が起ころうとは――。 「あ、いたっ」 海で泳いでいた水着のお姉さんの足に、小さな痛みが走る。まるで何かに刺されたようだ。 「もう‥‥クラゲかしら?」 潜って水中を確認。すると半透明の物体がふよふよ漂っているのが目に入る。触手のようなものをつけているからクラゲなのだろう。 「まったく、よくもやってくれたわね」 豪胆なお姉さんはクラゲを手で掴むと、沖に向かって放り投げてしまった。 ぱちゃんと着水したのを見届けてから、陸で手を振る友人達の方へと泳ぐお姉さん。 クラゲが瘴気を纏っていることには最後まで気付かずにいたのであった。 そう、実はこの海岸に現れたクラゲの正体はクラゲアヤカシだったのである。 やることは海水浴客を触手で刺す。それだけだ。別に食べたりはしない。何故ならそんな大それた事はできない程貧弱なアヤカシだからである。 刺した触手から人間の精気を吸っているのであろう。精気を吸うといっても、一般人ですら「なんか刺されて痛い」としか感じないのだが。疲労を感じても「遊び疲れたから」と大抵の人間は判断してしまう。 こうしてクラゲアヤカシは凄く地味に力を溜め、凄く地味に数を増やすこととなっていた。 凄惨な事件とはつまり、クラゲアヤカシの増殖‥‥この事に他ならない――! ある日の開拓者ギルド。 ジルベリア出身の少女騎士、ローズ・ロードロールはふらふらになりながらもギルドにやってきていた。 「暑い‥‥暑過ぎますわ‥‥。どうなってるんですの、天儀の夏は‥‥。融けてしまいそうですわ‥‥」 夏は暑い。当然のことである。 だが寒冷気候の儀であるジルベリアで生活していた彼女にとって、天儀の夏は暑過ぎるのだ。 「うぅ、せめて‥‥涼しくなるような何かはありませんの‥‥?」 金を稼ぐには依頼を受ける必要がある。ならば、せめて涼しくなれるような依頼は無いものか‥‥そう思いながら、貼り付けられた依頼書に目を通すローズ。 「あら、これは‥‥」 とある依頼が目に留まる。 依頼の内容を簡潔に述べるのならば、海に現れたクラゲアヤカシを退治してほしいというものであった。 クラゲアヤカシは非常に弱く、1匹2匹であれば一般人でも対処可能なのだが、いかんせんそうはいかない数になってしまったという。 その為、海水浴場は閉鎖されてしまい、多くの人が困っているとのことだ。 クラゲアヤカシの特徴として、普段は沖の方でぷかぷかと漂っているだけなのだが、楽しそうにしている人がいるとその人に近づくらしい。 精気を吸う為なのだろうが、恐らく「楽しい」という快の状態から、「刺されて痛い」という不快の状態になった際に発生する負の感情を求めてのことだろう。 「えーと、つまり、これらを要約しますと――」 ふむ、と腕を組んで考え込むローズ。 「クラゲアヤカシを誘い込む為に、海水浴場で遊んで楽しい気分になる必要がある。そして、非常に弱いクラゲアヤカシを倒して終わり‥‥ということですわね」 それからの思考時間は1秒にも満たなかっただろう。 「天儀の海‥‥どのようなものでしょう、楽しみですわね‥‥! あ、単純に遊ぶわけじゃありませんよ。アヤカシを誘い込む為ですわ! うん、せっかくだから水着も新調しましょうかしら‥‥」 足取り軽やかに受付へと歩いていくローズなのであった。 |
■参加者一覧
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ルーディ・ガーランド(ib0966)
20歳・男・魔
ミリート・ティナーファ(ib3308)
15歳・女・砲
イクス・マギワークス(ib3887)
17歳・女・魔
シフォニア・L・ロール(ib7113)
22歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●うーみーだー クラゲアヤカシが現れた海にやってきた開拓者達は、早速各々水着に着替える。 「うーみー、ですわ!」 ローズは初めて見る天儀の海にはしゃいだ様子を隠すことなく、砂浜を走る。彼女の水着は青いビキニで、腰にパレオを巻いている。 今すぐにでも海に飛び込みそうなローズに、しかし羅轟(ia1687)が制止の声をかける。 「‥‥待った。準備運動‥‥した方が‥‥」 「むぅ、子供扱いしないでくだ――」 足を止めたローズが振り向きながら不満を言うが、それを最後まで言い切ることはなかった。 「‥‥なんですの、その格好は?」 「最低限‥‥頭‥‥だけでも‥‥武装を」 羅轟を見て思わず呆気に取られるローズ。今の羅轟は顔を完全に隠す兜と面をつけた上に、水辺服と着流しを着ているという‥‥簡潔に言えば怪しい格好をしていた。おおよそ海に来る者がする格好ではない。 「え、いえ、武装といいますか‥‥えー‥‥。まぁ、羅轟さんがそれでいいのでしたらいいのでしょうけど‥‥」 突っ込むのを諦め、無理矢理に自分を納得させるローズ。基本的に、今回はどのような格好をしていようがあまり問題ない。各々が楽しむことができればそれでいいからだ。 「海なんて久しぶりだよ。楽しみだな。はははっ」 「‥‥えぇ、本人がよろしいのでしたら」 シフォニア・L・ロール(ib7113)のように半袖とはいえ厚手のゴシック服を着てる人物がいたとしも問題はない。 しかし、一応気になったのかイクス・マギワークス(ib3887)が声をかける。 彼女は日焼け止め用にパーカーを羽織っており、その下の水着は側面が大きく開いている黒のモノキニだ。泳ぐ為というより見せる為といったデザインか。 「楽しみだというが‥‥その格好で楽しめるのか?」 ジルベリア出身のイクスはローズ同様天儀の暑さに参って、この依頼に参加した。よって、海に入るのにも適さない暑苦しそうな格好なシフォニアが気になったのだろう。 「泳げないし泳がないんで水着は不必要。‥‥半袖だから暑くないしな」 「そ、そういうものか‥‥」 半袖でも厚手の生地だと暑いものは暑い‥‥が、本人が暑くないと言ってるのだからこれ以上つっこむのも野暮というもの。 まったく海に適してない格好の羅轟とシフォニアの2人にやや呆れ気味のローズに、後ろからルーディ・ガーランド(ib0966)が声をかける。 「久しぶりだな。元気にやってるみたいじゃないか」 「あら、あなたは確か‥‥ルーディさん?」 「確か、ジルベリアを出立する時以来だったと思うけど、その後どうだい?」 ローズとルーディが会ったのは、ローズがジルベリアを出る宴の時だ。 同様にその時出会った琥龍 蒼羅(ib0214)の姿も見える。彼はローズと視線が合うと、静かに手を上げて挨拶をする。 「そうですわね。ここ最近の暑さには参っていましたが‥‥一応元気にやってましたわ」 軽く近況の話をするローズとルーディ。 一瞬、ローズの脳裏にメイドにされた記憶などが蘇るが即座に抹消。勿論そんな事を話したりはしない。 「‥‥すっかり馴染んでるというか、しっかり楽しんでるみたいだな」 天儀での話を聞いて、そして遊ぶ気満々のローズの水着姿を見て思わず苦笑いと共に言うルーディ。 「ま、水着はよく似合ってるしいいんじゃないか?」 「ん、む、と‥‥当然ですわ! ‥‥一応、ありがとうと言っておきますわ」 誉められ、ついと顔を赤くしてそっぽ向くローズ。照れているのだろう。 2人の会話中の暑さに参っていたという話を耳に挟んでか、ひょっこりと羅轟が顔を出す。 彼はローズに天儀の暑さを凌ぐ為には、日陰に入ったり、打ち水をしたりするといいといった情報を伝える。 「‥‥開拓者‥‥勧めた分‥‥この程度は」 羅轟としてはローズが無事に過ごしてるかどうかが心配だったらしい。 ――尤も、夏を無事に過ごせてるかどうかでいえば、ローズもある意味羅轟の事を心配していたのだが。 「羅轟さん‥‥普段の鎧、大丈夫ですの?」 「‥‥割と‥‥地獄‥‥」 黒のフルアーマー使いには厳しい季節だ。 準備を終えたのか、ミリート・ティナーファ(ib3308)も浜にやってきた。 「がお〜☆ ミリートだよ。それじゃ、ローズちゃんよろしくね」 「えぇ、こちらこそよろしくお願いしますわね」 ミリートの格好はセパレートタイプのビキニに長めのパレオ。頭には麦藁帽子を被っている。 また犬の獣人である為、水着には尻尾用の穴が開いていた。もしこの場に健全な男の子がいたら穴が気になって仕方がなかっただろう。実際はどうかは知らないが。 「えへへ、一緒に思いっきり泳ごっ。そうだね〜。砂場で物作ったり――だう?」 楽しそうに尻尾をぱたぱたと振りながらどんな遊びをしようか提案するミリート。だが、話相手のローズがいつの間にか目の前から消えていて首を傾げてしまう。 「――ふぇ?」 当のローズも首を傾げていた。視界は何故か流れており、一瞬の浮遊感の後‥‥彼女は海に叩き込まれた。 「な、なんですの!?」 「ふっふっふ。海に来たんだから、まずは海に入る! 何もおかしくはない!」 ローズが海面から顔を上げると、そこには仁王立ちをしたアルクトゥルス(ib0016)の姿があった。 彼女がローズを颯爽と抱きかかえて、海へと放り投げたのだ。 「何をしますのー!? こら、待ちなさい!」 「おーほっほっほ、捕まえてごらんなさーい?」 当然のごとく怒りの形相で追いかけるローズに、浅瀬をばちゃばちゃと逃げるアルクトゥルス。 どうもアルクトゥルスも暑さに弱いらしく、その反動でやたらとハイテンションになっているようだ。 「はやぁ〜。でも楽しそうだね、私も混ぜてもらおうっと」 あくまでもローズは怒っているのだが、傍から見れば楽しそうな追いかけっこにしか見えない。 ミリートもそう判断したのか、渚の追いかけっこに混ぜてもらうのであった。 クラゲの事なんて最早頭に無いかのように水のかけっこをして遊ぶ少女達を木陰から眺める少年が1人。 ワイシャツにパレオ、麦藁帽子を被った、傍目には少女にも見える彼の名は雪斗(ia5470)。依頼に参加した開拓者だ。 彼もジルベリア出身ということでローズと簡単な挨拶をした際に、女性かと間違われていたが、彼にとってはいつもの事‥‥らしい。 さて、そんな雪斗だが、クラゲのことはしっかり忘れていない。 「全く‥‥厄介な話だね。まぁ、出来る事はやってみるかな‥‥?」 遠い沖の方を見やる。きっとそこではクラゲアヤカシが漂っているのだろう。楽しそうに遊ぶ少女達に惹かれて、集まってくれたらよいのだが。 雪斗がタロット占いのカードを捲る。 「‥‥成る程ね‥‥法王の正位置か。悪い事には、ならなそうだ」 ●レッツエンジョイ海! そんなこんなで開拓者達は各々遊び始めた。 「ふ‥‥はっ、せい!」 遊ぶとはいっても、蒼羅のように鍛錬を始めた者もいるのだが。 足場の悪い砂浜はある意味居合いの鍛錬にはちょうどいい。 ある程度刀を振るうと、今度は武器を弓に持ち換える。クラゲ退治では弓を中心に戦うつもりなので、多少は勘を取り戻しておこうということなのだろう。 打って変わって磯では、ミリートとローズが一緒に探索をしていた。 しゃがみこんで、水溜りの中を覗き込む2人。 「へぇ‥‥色々いますのね」 「そうだね〜。ほら、こっちにもいるよ」 水溜まりの中にいたヤドカリをつんつんとつつくローズ。ミリートが石を返せば、隠れていた蟹が新たな隠れ場を探して移動を始める。 こういう場所には来た事が無いからか、ローズはまるで子供のように目を輝かせている。 「うんしょ、こっちは‥‥はやぁ〜」 「げ‥‥」 次にミリートが捲った石の裏からは大量のフナムシが姿を見せ、一斉に辺りへ散らばる。 ミリートは慣れている為か特に驚いた様子を見せないが、ローズは気味が悪かったのか、苦い顔で思わず立ち上がって後ずさる。 そんな彼女の背後にいつの間にか忍び寄っていたアルクトゥルスが、何かをぺたりとローズの背に貼り付けた。 「ほいさ」 「ひゃあうん!?」 突然の事に跳びあがるローズ。貼り付けられたのはヒトデだが、彼女には何を貼り付けられたのかが分からず涙目でうろたえるばかりだ。 「ちょ、ひゃぁ、いやっ‥‥!? な、なんです、なんなんですの!? 取って、取って〜!?」 「わわ、ローズちゃん落ち着いて」 ぺりぺりとヒトデを剥がすミリート。貼られたものを確認して安堵したローズに次に湧いてきた感情は、当然怒りだ。 ちなみにアルクトゥルスは既にすたこらさっさと逃げ出している。 「こらー、待ちなさいなー!!」 「はっはっはー、ここまでおいでー! お嬢さ〜ん!」 「お嬢って言うなー!」 と、再び追いかけっこを始めるのであった。 「はやぁ〜、仲がいいんだなぁ」 さて、またもや場所は変わって、今度は海中だ。浜からはやや離れた潜れるぐらいの深さの場所である。 そこを泳いで‥‥いや、歩いているのは羅轟だ。 (‥‥涼しい‥‥) 泳いだ事が無いために海底を歩いているらしい。もっとも、泳ぐと海底を歩くでは後者の方が遥かに難しいのではあるが。兜を始めとした沈む装備のお陰だろう。 息が苦しくなれば、事前に用意した浮き袋に結んだ荒縄を引っ張り浮上。そして再度潜るといった繰り返しで海底探索を楽しむ。 (‥‥綺麗だ‥‥。あれは‥‥珊瑚‥‥か?) 彩り豊かな珊瑚に目を惹かれ、そちらに向かう。ある程度歩いたところである事に気付いた。 (‥‥ん?) やや沖の方を何かを漂っているのが目に入った。水中の為、よく分からないが‥‥恐らくクラゲアヤカシだろう。 確実に近づいてる。おびき寄せるにはもう一押しといったところか。 再び羅轟が息継ぎの為に浮上すると、砂浜の方から声が聞こえた。 「おーい、せっかくだしボールで遊ばないかー?」 声の主はイクスだ。羅轟はその提案に乗るために、砂浜へと急ぐのであった。 遊びの内容は1つのボールを落とさないようにしつつ、相手の陣地に入れるという簡単なものだ。 参加者は羅轟、アルクトゥルス、蒼羅、ルーディ、ミリート、イクス、ローズの7人だ。 提案者のイクス、遊ぶ気満々の数人に加え、蒼羅はこれといった予定が無いので付き合うことに。 「本当にプライベートならハンモック下げて寝転がって読書にふけるところなんだけど、流石にそうもいかないかな」 ということで、のんびり派のルーディも参加している。 シフォニアはどこかに行ってしまっており、雪斗は雰囲気だけ楽しめればいいということで、木陰で眺めていた。 「チーム分けとかルールとかは‥‥適当でいいか」 「提案者がそれでいいんですの‥‥?」 といったやり取りもあり、男女に分かれての対決に。男3人女4人と女性の方が多いが、ハンデみたいなものだ。 「いやちょっと待って。一般人ならともかく、開拓者の女性相手にハンデっておかしくないか‥‥!?」 「‥‥ルーディ殿‥‥。言っても‥‥多分、聞いてもらえない‥‥」 「まぁ、これも鍛錬だと思えば――来るぞ!」 ローズが上げたボールに合わせて、アルクトゥルスがジャンプする。 「必殺アタァァック!」 バシィとルーディと蒼羅の間をすり抜けて地面に吸い込まれるボール。見事決まったのを見て、アルクトゥルスとローズがハイタッチをする。 「はやぁ〜、なんだかんだで、2人とも仲いいんだね」 「うむ。‥‥ところで、遊びで必殺はいかがなものか」 ●さっくり討伐後 そんなこんなで。 開拓者達が楽しんだこともあって、クラゲアヤカシは見事に浅瀬に集まり、そこを叩く事によってアヤカシ討伐は見事完了した。 ちなみにイクスが1匹捕まえて浜で放置してみたが、干からびることはなかった。アヤカシなので何らかの方法で水分の蒸発を防いでいるのだろう。 アヤカシが討伐され、安全が確保された事もあってシフォニアが船を借りてきた。いなくなっていたのは持ち主に交渉をしていた為らしい。勿論、しっかり金は取られたが。 舵を取るのは借りてきたシフォニア本人だ。 「海上育ちの俺には舵取りなんて簡単なモノさ」 とのことらしい。 「さあさあ、みんな乗って乗って。時間は限られているんだから」 というシフォニアの言葉に誘われて、全員が船に乗り込む。せっかくだから滅多にできない遊びをしようということだ。 「ご飯を船の上で食べるなんて、そうある事じゃないだろう?」 そして肝心の食材はアルクトゥルスやミリートが磯で獲った貝や蟹といった海の幸だ。 更に羅轟とルーディが船の上で海釣りをして、適時食材を追加している。 「よし、調理は任せろ」 料理の心得がある蒼羅が捌き、次々と焼かれていく。凝った調理ではない。新鮮な素材はシンプルに調理した方が美味いというやつだ。 獲れたて、焼きたて、運動の後。アルクトゥルスに言わせれば、これで呑まないのは嘘らしい。凄い勢いで酒が消費されていく。 呑むかどうかは別として、他の者達も船上の食事を楽しんでいた。更にデザートもあるからたまらない。 「カキ氷?」 首を傾げるローズの前に、ルーディが手回し式かき氷削り器を置き、更に魔術師組がフローズで用意した氷をセットする。 ハンドルを回せば、削られた氷が器にどんどんと盛られていく。初めて見る光景にローズは目を輝かせていた。 「シロップの用意は大丈夫か?」 「‥‥大丈夫‥‥問題ない‥‥」 ルーディの言葉に羅轟が答える。羅轟が苺や蜜柑、西瓜などの果物を加工したシロップを用意していた。ちなみに西瓜自体はそのまま食べる用も用意してある。 冷たく甘いカキ氷。そんな魅力的なデザートを食べるローズの手は止まらない。 「あ、そんなに急いで食べては‥‥」 抹茶味のカキ氷をゆっくり食べている雪斗が注意するも、後の祭り。お約束の通り、ローズは頭痛に悶えるのであった。 水平線に消えようとしている夕陽を船上で見送る開拓者達。普段の生活では中々見ることのできない風景だろう。 心に刻むよう、陽が沈む様子をじっと見ていたローズにシフォニアが声をかける。 「いい思い出になったかい、お嬢ちゃん」 「お嬢ちゃんと呼ばないでください。‥‥でもまぁ、いい思い出という言葉は否定できませんわね」 「はははっ、それは良かった」 言ってからシフォニアが皆を見る。 ローズだけでなく、全員にとって良い思い出になれば‥‥そんな願いを込めて。 |