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■オープニング本文 一家に預けられ、三成を主人として起動したからくり。その名も瑠璃。 紆余曲折あったものの、開拓者達の初期教育もあり、彼女は立派‥‥かどうかは分からないが育っていた。 ちょっとした買い物程度であれば、1人でもできるぐらいだ。 とは言っても。 やはり瑠璃1人で外出させるには色々と不安要素があるということで、余裕があれば三成が同行している。 ――事件が起こったこの日も、三成が一緒だった。 「さて、残るは‥‥正澄様に頼まれたお菓子だけですね。三成様、どのお店かご存知ですか?」 「私は知らないわね。‥‥このまま帰ってもいいんじゃないかしら?」 「私としては別にそれでも構いません。ただ、後で胃を痛めるのは三成様になりますが」 「‥‥あー、そうねー‥‥」 そんな会話を続けながら、町を歩いて菓子屋を探す2人。貴族とからくりというかなり強烈な存在だが、町の者は皆慣れてしまったのか特に騒いだりはしない。 ちなみに2人の格好であるが、三成は上着を薄手の涼しいものに変えたいつもの巫女服で、瑠璃はロングスカートのメイド服だ。 瑠璃の格好が暑苦しそうに見えるが、からくりは暑さ寒さを不快と感じたりしない為、特に問題はない。 「‥‥? 何の騒ぎでしょうか」 歩いている2人の目の前に人だかりが見えた。人の壁で何が起きているかは分からないが、男性の嘆く声とそれを慰める声が聞こえる。 瑠璃は何が起きているのか気になったのか、様子を見に行っていいか三成に視線で問う‥‥が。 「わざわざ首をつっこんで面倒に巻き込まれることも無いわ。さっさと用事を済ませて帰りましょう」 「‥‥分かりました」 面倒を嫌う三成が許可を出すわけもなく。結局、2人はその人だかりをスルーして買い物を続けるのであった。 ‥‥この時詳しい事情を聞いていれば、後の悲劇を回避できたかもしれない。だが、現実とはかくも非情なものである。 買い物を終え、帰途につく三成と瑠璃。当然だが、荷物の多くは瑠璃が持っている。 2人は屋敷への最短距離を通る為、人通りのほとんどない裏通りを歩いていた。 貴族の当主にしてはやや不用心といえるが、一家は重職についているわけでもないのでまず何かに狙われる立場でもないので、その点に関してあまり警戒してないのが原因だった。 また、いざという時の護衛として瑠璃が付いており、それにいくら裏通りとはいっても町中で襲撃をするような馬鹿がいるわけはない。 ‥‥そう、三成にとって何より計算外だったのは、相手が馬鹿だった。これに尽きる。 「ヒャッハー! こいつぁ、素晴らしい袴が狩れそうな予感だゼー!!」 「――は?」 突然の頭の悪い奇声と共に、数人の男達が目の前に降り立つ。周囲が家屋に囲まれていることから、それらの屋根から下りてきたのだろう。 奇行もさることながら、何より異様だったのは男達の格好である。 衣服を殆ど身に着けておらず、腰に褌を巻いているだけで、他は素肌を晒しまくっている。いくら夏だからといっても少々はしゃぎすぎだろう。 更に、頭には巫女袴を被っていた。本来は下半身に穿くあの巫女袴だ。それを頭に被って、取れないように顎下で紐を縛っている。顔は完全に隠れているが、恐らく隙間から覗いて視界を確保しているのだろう。 「なぁ、こうして袴を頭に被るとよぉ、だらんとした部分がうさぎの耳に見えて可愛くねぇかな!? うさぎさんだぴょん!」 目の前の変態が何やら言っているが、こんなものと関わる気が一切無い三成は当然無視。さっさとこの場を抜け出そうと歩を進めるが、その行く手を男達が阻む。 「クックック‥‥! 行かせねぇぜ‥‥!」 「‥‥何が目的です?」 「知れたことよ! 我々はイカした男性が穿いている巫女袴を奪い、それをクンカクンカする! その為だけに活動している!!」 「へ、変態だー!?」 格好が変態なやつは、やはり行動も変態だった。 この変態集団は、最近町を騒がせている巫女袴狩りの犯人達であった。昼間の人だかりの中心にも、実は袴を狩られた哀れな男性巫女がいたのだ。 「‥‥というか、さらりと私が男だということを見破っている――!?」 「クックック‥‥俺達の直感を侮ってもらっては困るぜ。女装少年とか大好物です!」 やばい。 理解したくはないが、明らかにやばい状況だということを理解する三成。 先ほどの降り立った動きを見る限り、この変態集団は志体持ちだと考えるのが無難だろう。そんなやつら相手に逃げ切るには――。 「そうだ、瑠璃‥‥!」 藁にもすがる思いで、後ろにいる筈の瑠璃に振り返る。彼女に助けてもらえば、と。 だが、 「三成様! 今、助けに――!」 「はっはっは、行かせんよ! 食らえ、股間から白霊弾!」 瑠璃は3人の変態に絡まれて、身動きが取れなくなっていた。ちなみに実際に股間から白霊弾を出しているわけではなく、掌を股間に持っていって、その上で白霊弾を放っているだけである。 そもそも現在の瑠璃の戦闘力は駆け出しの開拓者にすら敵うかどうか怪しいところである。そんな彼女が志体持ちの変態をどうこうできるわけがない。 「あ‥‥あ‥‥!?」 最早助けはなく。 こうして、三成の袴は変態達の手によって狩られたのであった。 袴を狩られ、誰かに見つからないように隠れながら家に帰った三成と瑠璃。 被害者である三成は当然のように凹んでいた。 「あぁぁぁ‥‥。あんな変態達に袴を奪われるなんて‥‥! 今頃あいつらは――」 屈辱的な格好をしたことも辛いが、何よりも変態が袴を被ってクンカクンカしてることを想像してしまい、思わず畳の上をごろごろと転がってしまう三成。まともな精神だととても耐えられる仕打ちではない。 「‥‥?」 そんな三成の様子を見て首を傾げる瑠璃。まだまだ感情に疎い彼女には、三成が何を苦しんでいるのか想像できないらしい。 「私には分かりませんが‥‥怪我はしてませんし、よかったのではないでしょうか?」 「全っ然よくないわ!? ‥‥いいわね、瑠璃。何としてもあの変態を退治するのよ‥‥!」 「‥‥了解しました」 激昂した様子の主人を見て、多分これは重大なことなんだろうなぁとうっすら考える瑠璃なのであった。 |
■参加者一覧
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
久藤 暮花(ib6612)
32歳・女・砂
シフォニア・L・ロール(ib7113)
22歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●戦いに向けて 袴狩りの変態達を討伐する為に集まった開拓者達。今回初めての戦闘する事になる瑠璃としては頼もしい仲間、の筈なのだが。 「‥‥皆さん、随分個性的なのですね」 「え、あれ、今すごい勢いで開拓者へのイメージが変わっていってる‥‥?」 相変わらずの無表情で開拓者達を見る瑠璃。彼女の無表情はいつものことだが、久藤 暮花(ib6612)にはその視線が何故か冷ややかなものに思われた。 瑠璃の視線の先には巫女袴を穿いた男性達が数名。いや、それ自体はおかしいことではない。変態達が巫女袴を狙う以上、囮は着るのが筋だろう。 「‥‥」 「えっと、この耳と尻尾は知り合いが付けるべきだと言ってましたので、それを信用したまでですよ‥‥?」 「別に何も言っておりませんが」 巫女袴を着るだけでなく狐の耳と尻尾をつけた相川・勝一(ia0675)が、瑠璃の無言の圧迫に耐えられなくなったのか言い訳をする。 本人としてもこれは恥ずかしいらしく、またつける意図を疑問に思っているらしいが知り合いを信用したとのこと。きっと騙されてる。 そこに、何かと噂の『みっちゃん』こと三成が主だという瑠璃を気にしてか、緋那岐(ib5664)が声をかける。 「そういえば、みっちゃん引き篭りー?」 「まぁ‥‥そうですね。この場に三成様が出てくる意味もありませんし」 そっかー、と残念がる緋那岐を見ながら瑠璃は疑問に思っていたことを口に出す。 「何故、女装しているのでしょうか?」 「え、あ、これ? 万商店で入手したモンは全部売り払っちまって。だからこっそり妹のを借りてきたわけよ」 瑠璃の言葉通り、緋那岐は女性の衣服を身につけていた。彼の言葉を信じるなら巫女袴を妹から借りた為にこうなったらしいが‥‥それでも、瑠璃の根本的な疑問は解けてはいない。 (‥‥別に、袴以外にも女装する必要はないと思うのですが) そんな彼女の疑問に正面からぶつかるような存在がこの場にいた。 「ふふん、あたしは紫江留! 紫江留・濃霧(しえる・のーむ)よ。皆、よろしくね〜!」 化粧をばっちり決めた、明らかにカツラと分かる長い髪をたなびかせる女性――いや、男性。 彼の名は村雨 紫狼(ia9073)。彼もまた女物の巫女袴を穿いた、女装戦士の1人である。 ちなみに彼は三成に頼んで囮用の巫女衣装を調達しようとしたのだが、そもそも三成は今回の事件において依頼人でもなんでもない。 依頼の参加者である瑠璃の主人という立場でしかなく、今回の事件においてはまるで関係が無い為に協力する義務は一切無い。 よって三成への要求は断られ、結局同じく参加者である羅轟(ia1687)が予備の巫女袴をギルドに申請していたので、それを借りて着ることとなったのだ。 その羅轟なのだが、目を血走らせてなにやら物騒なことをぶつぶつ呟いている。尤も面のせいで表情は窺えないのだが。 「変態‥‥滅殺‥‥変態‥‥滅殺‥‥」 彼にとって変態の行いというのは非常に許し難いものであり。だからこそ、瑠璃が誤った道に進まぬようにと、彼女の両肩をがしっと掴んで告げる。 「人に‥‥嫌がられる‥‥部類と‥‥しては‥‥最低に‥‥入る‥‥行いゆえ‥‥絶対‥‥やっては‥‥いかん」 「‥‥承知しました。三成様が嫌がるのであれば、やる理由はありません」 頷く瑠璃だが、もし仮に『三成が喜ぶ』のであれば、やる理由はあると言外に言っているような気がするのは気のせいだろうか。 ●囮の運命 こうして変態を退治する為の作戦が始まった。具体的には囮に誘われたところを叩くというシンプルなものだ。 「この格好で囮をすれば変態はひっかかりますかね。‥‥あまり引っかかって欲しくない気も少ししますけど」 嫌な汗を流しながら1人で人気のない裏路地を歩く勝一。作戦としては引っかかってもらわないと困るのだが、個人としては引っかかってほしくない。ジレンマである。 「僕は一体何をしているんだろう‥‥」 悪寒に体を震わせながら歩く勝一。‥‥が、彼はもっとその悪寒を信用すべきだった。それは本能が危険信号を発していたのだ、と。 「ヒャッハー、こんなところに可愛いキツネちゃんがいるぜェ〜?」 「ひゃっ!?」 いつの間にか、7人の変態達に囲まれていた。どいつもこいつも裸褌に巫女袴を被った見事な変態紳士である。 「キツネってことはお稲荷さんが好物なのか!」 「ぐぇっへっへ、そいつぁいいや。但し、それは私のおいなりさんだ!!」 「ひぃ!?」 変態達はあくまでも手を出さない。おいなりさんアピールをしているだけだ。アピールの詳細は伏せさせてもらう。 嫌なら見るな、という周囲のコールに押されて思わず目を閉じてしまう勝一。‥‥この状況で目を閉じることがどれだけ愚かなことかは言うまでもない。 「え、あ‥‥しま、あー!? く、待ってください! それを返してください!」 こうして、彼は袴を奪われてしまったのだった。 その頃。囮に引っかかった変態を追いかけなくてはいけない待機組は何をしていたかというと。 「ふっ、はっ‥‥! セイ――やぁ!」 「ん、と。はい‥‥!」 瑠璃と暮花が木刀で打ち合っていた。瑠璃の太刀筋は暮花に容易く受け止められている、が今日初めて刀を握ったにしては筋がいい方だろう。 こうなった経緯だが、 「瑠璃ちゃんは体術がお得意だとお聞きしたのですが、武器を使用しての戦法も一応は学んでおいた方が良いかと思いまして〜。それとその木刀は差し上げます〜」 という暮花の提案を受けて、この待機時間に練習しようということになったのだ。 ――練習とその観戦が盛り上がって、囮のところに駆けつけるのが遅れても‥‥それはきっと些細なことだろう。 「‥‥なんだか、嫌な予感がしますね」 囮として歩いていたのだが、背筋に冷たいものを感じて思わず足を止める玲璃(ia1114)。本職巫女の彼には巫女袴は実に似合っている。 彼の直感は見事に正しく。やはりいつの間にか変態達に囲まれていた。 「ヒャッハー! 綺麗な兄ちゃんよぉ、俺達は兄ちゃんの袴が――」 「――いいですよ、抵抗しません」 「ひょ?」 変態達の要求に抵抗するかと思いきや、玲璃が選んだ選択は無抵抗。 どうせ抵抗しても無駄だろうという諦観から、それならさっさと奪ってもらい後で何とかした方がいいという思考から導き出した結論である。 「‥‥どうせ、無駄ですから‥‥」 手をもう片方の二の腕に回し、己の体をぎゅっと抱きしめる玲璃の姿に、変態達はごくりと唾を飲み込む。 「なんかこう諦観の末の据え膳ってのも悪くねぇなぁ‥‥!」 やだこいつら気持ち悪い。変態には今更の言葉ではあるが。こうして、変態達は労なく玲璃の袴を入手するのであった。 ――玲璃が最初に感じた嫌な予感とは、変態に襲われることだけではなく、待機組が来ないせいで追撃ができない事も含めてのことだったのかもしれない。 お次のターゲットは羅轟と緋那岐だ。2人は囮として一緒に夜の街を歩いていた。 緋那岐は隣を歩く男らしい体格の羅轟を見てから、自分の姿を確認して‥‥肝心なことに気付く。 「瓜二つではないといえ‥‥やっぱ似てるよな‥‥」 背が高くがっしりとした羅轟とは違い、背が低く細身の緋那岐が女装した場合、やはりより女性らしくなる。そして、それはつまり双子の妹そっくりの姿になるということでもある。 ――あれ、これもしかして袴奪われたらやばくね? 更に重大な事に今更気付く。巫女袴は妹から勝手に借りたものであり、それを奪われてクンカクンカされ‥‥それが知れたらどうなることか。当然、怒られるに決まっている。 「うん、よし、絶対に奪われないようにしよう‥‥!」 改めて気合を入れ直す緋那岐。 そんな彼の決意を確かめるように、変態達が現れた――! 「‥‥出たか‥‥!」 変態達の出現を確認し、羅轟はすかさず呼子笛を吹く。これならいくらなんでも待機組は気付くし、そう遅くない時間が経てばやってくるだろう。 あとはいかに時間を稼ぐか‥‥この点に置いて、羅轟には秘策があった。羅轟は変態のうち正面に立つ男に真っ直ぐ人差し指をつきつける。 「貴様に‥‥勝負を申し出る‥‥!」 「勝負、だぁ?」 勝負の内容は――ジャンケン。羅轟が勝てば奪った巫女袴を返し、負ければ巫女袴を渡すというもの。 「俺達としてはいつも通り奪ってもいいんだが‥‥偶にはこういうのもいいだろう!」 勝負、成立。 お互いが向き合い、腰を落とし、拳にした右手を左手の掌で包み込む。 それぞれの体に流れる練力、気力の奔流が拳へと注ぎ込まれ、見る者を圧倒するオーラがその身を包む。 2人の間の空気は暴れ、観戦している周囲の人間も思わず汗を流す程だ。 「必殺の一撃が、今放たれる――!」 「ジャンケンで!?」 羅轟と相手、共に同時に大地を蹴り、 「ジャーン‥‥ケーン‥‥」 「ジャーン‥‥ケーン‥‥」 「――飛べぇ!!」 「――砕けぇ!!」 2人が激突する。 羅轟の本来の狙いは、ジャンケンにかこつけて不意打ちの百虎箭疾歩を叩き込むことであった。 だが、敵が繰り出したのも百虎箭疾歩。そう、ジャンケンとは百虎箭疾歩のぶつかり合いだったのだ――! 「‥‥ふ‥‥やるな」 「お前も‥‥な」 腰を落としたのは、羅轟。彼が繰り出したのは拳のグー。対する相手が繰り出したのは‥‥掌底のパー。 つまり、羅轟が負けたのだ。 「‥‥貴様の‥‥勝ちだ‥‥受け取れ」 いそいそと物陰で着替えて、賞品である巫女袴を渡す羅轟。勝負を挑んだ以上、こういうところはきっちりと守るらしい。 「まぁ、それはそれとして」 熱い戦いの余韻も覚めやらぬまま、他の変態達の視線は残った巫女袴‥‥緋那岐へと集まる。 ぞくりと悪寒が走る‥‥が、それを打ち消す頼もしい仲間がこの場にやってきたのだ。 「お前ら変態はゴシックのよさが分からんのかぁ!」 ‥‥頼もしいのだろうか。 ●開拓者の戦い? 変態達を囲むように集結した開拓者達。そのうちシフォニア・L・ロール(ib7113)は怒っていた。 「見ろ! 俺の格好を!」 シフォニアも男性である為、巫女袴を着て囮となっていた‥‥のだが。 「頭には紅い大きなリボン! 袴も当然黒! これは譲れん。ゴシック服こそ俺だ! だから上の服もそれに合わせて黒と赤をメインにしたゴシックだ!」 彼の格好は言葉通りのもので、巫女袴というには随分ごちゃごちゃとしたものとなっていた。 尤も巫女袴としてどうかなんてのは彼には関係ない。ゴシックアレンジが素晴らしくできた‥‥それだけが重要であり、テンションを上げる要因となっていた。 「だというのに‥‥! お前らは俺を無視してノーマルな袴に釣られて‥‥! もう一度言う、お前ら変態はゴシックのよさが分からんのかぁ!」 「え、いや、だって、その服は巫女袴っていうには――」 「問答無用!!」 シフォニアは口答えしようとした1人の変態の背後に素早く回りこむと、胴を両腕で掴んでそのまま後方に仰け反るようにして地面に叩きつける。バックドロップだ。 彼にとっては己のゴシック袴が認められないってのは非常に許し難いことらしい。 怒れるゴシック男をこのまま放置するのは面倒だと判断したのだろう、また別の男がシフォニアに近づく。 「へっへっへ、じゃあお前さんの袴をお望み通り奪って――」 「‥‥その汚い手で俺のゴシックを取ろうとするなんていい度胸だなぁ!」 再びバックドロップ。 「なにこいつめんどくせえええー!?」 叫ぶのを抑えられない変態一同であった。 待機組の瑠璃達が突撃しようとするのを、同じく待機組のフランヴェル・ギーベリ(ib5897)が手で制する。 「いいかい、ボクの闘法だけは決して真似してはいけないよ」 その言葉に瑠璃が首を傾げた直後、フランヴェルが服を脱いだ。服の下に白いワンピース水着を着込んでいたのだ。 そして彼女は事前に持ち込んだ子供用寝巻きを右手に巻きつけると、同じく持ち込んだ子供ぱんつを顔面に装着する‥‥! ――ちなみにその2つ。共に最愛の姪の寝汗が染み込んだものを無断借用したものらしい。普通の子供ならまず泣く。 「フォオオオ! 幼女臭ゥウウウ!」 精神を高揚させたフランヴェルが、変態達の前に躍り出る! 「現れたな袴超人共! 私は仮面貴族エル・パンツーラ!」 「へ、変態だー!?」 味方に変態呼ばわりされているが、それも覚悟の上なのだろう。まったく気にせず、フランヴェルは口上を続ける。 「君達にマスク剥ぎデスマッチを申し込む! とぅ!」 ジャンプし、フライングクロスチョップから抑え付けてのアイアンクローの連携を変態に食らわせるフランヴェル。 「ふははは! 君達にとって異臭である幼女臭はどうだ! 苦しいだろう!」 「ぐあぁぁぁ!?」 それにしてもこの仮面貴族、ノリノリである。 楽しそうな仮面貴族やシフォニア達を見て、瑠璃は納得したように頷く。 「成る程、これが開拓者様の戦い方なのですね」 「違うよ、瑠璃ちゃん!?」 が、暮花の訂正の声も虚しく。 「褌将軍として、褌姿の変態は放置出来ぬ! 俺が成敗してくれよう!」 全裸に褌一丁。狐の面を装着した、褌将軍と名乗る者が戦場で爪を振るっていた。正体は勝一である。 「‥‥ち、違う、よ?」 「それとも、面をつけた方々が特殊なんでしょうか‥‥」 「‥‥その誤解は‥‥待って‥‥!?」 こうして、戦いは乱戦になった。 「つ・か・ま・え・た‥‥はい、呪縛符。地獄の底まで、逃しはしませんわよ」 「緋那岐きゅんさー、怪しい道に片足つっこんでない?」 「ないよ!? 女装が趣味にな‥‥んてならないからなっ!」 「俺は結構女装好きだけどなー」 などと会話しながら変態退治を続ける女装2人組だったり。 「死ななければどんな怪我でも全員治せますので、心置きなくお仕置きの方をどうぞ」 と物騒なこと言いながら、捕縛した変態をわざわざ治療する本職巫女がいたり。 色々と混沌な状況になりつつ、変態達は倒されたのだった。 ●戦い終わって 変態から取り戻した袴を開拓者達は洗濯していた。瑠璃に洗濯を教える意味もある。 「他人に迷惑をかけなければ、変態でも全く問題ないのだ!」 「なのですか?」 「イヤ、アレは特殊なんだよ敵も味方もー!」 フランヴェルの言葉を聞いた瑠璃が確認を取るが、さすがに紫狼がツッコミを入れる。尤も、紫狼も特殊なカテゴリーに入るので説得力が微妙ではあるが。 「汚れきった物を落とすのにはやはりお洗濯が一番ですね〜♪」 「洗ってもこの袴、履く気にならなさそうです‥‥」 楽しそうに洗濯する暮花と違い、袴を奪われた勝一の顔は暗い。なんだかんだで変態達はわずかな隙を見つけてくんかくんかしていたのだ。 彼の言葉は正しく、後にギルドに預けられた袴を引き取りにきた者はいなかったという‥‥。 |