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■オープニング本文 ジルベリアのとある村に数人の男達がやってくる。 「ヒャッハー! やってきたぜェー!!」 男達はみな逞しい体格の持ち主であり、何よりも特徴的なのが格好であった。 素肌に直接装備している皮鎧。無駄にトゲをつけた肩パッド。髪の毛は激しく逆立った上に、側頭部を剃った所謂モヒカンヘアー。 更に男達は各々が棍棒や斧といった武器を背負っていた。 そんな見るからに危険人物の集団の来訪に、村の住人である1人の男性が気付く。 「あ、あんたらは‥‥!」 舌なめずりをしながら、村人に近づくモヒカン達のリーダー。 「ヒャッハー! 俺たちが何の為にここに来たか‥‥分かってるよなァー!?」 「――はい。以前注文した品を届けてくださったのですね?」 「物分りが良くて助かるじゃねぇかァー!!」 モヒカン達は、商人であった。 その村は過去の戦で滅びたことがあった。 だが、その村出身である騎士少女が立ち上がり、それに開拓者達が手を貸したことで何とかある程度まで復興することができたのだ。 モヒカン商人達とはその際に知り合い、それからの付き合いだ。 村人達との商談を終えたモヒカンリーダーに、村人の1人が話しかける。 「なぁ、あんたら天儀にも寄るよな?」 「そうだぜェー! 俺たちの本拠地は天儀だからなァー!」 リーダーの言葉通り、彼らの本拠地は天儀である。 また、多くの儀を渡るバイタリティや、危険な場所でも物怖じせずに行くことができるメンタリティから様々な人に重宝されているとかいないとか。 なんでも「過去に死ぬような目に遭ってりゃ、大概の事はできるようになるもんよォー!」とのことらしい。 「で、それがどうしたってんだヒャッハー!?」 「あぁ。お嬢‥‥ローズの事は知ってるか?」 「ここの復興の旗頭だった嬢ちゃんか。当然知ってるぜぇー!」 「いや何、天儀に渡ったお嬢に、こっちの様子書いた手紙とか色々送ってやりたくてな」 「もののついでだ、運んでやるぜェー! お得意様だしなァー!」 ‥‥なんてことがあったのが数日前のことである。 「んもう! どうしてこんなことになるんですの‥‥!?」 小高い丘の上、斧を構える少女――ローズ・ロードロールの姿がそこにあった。 そんな彼女の小さい背に、更に縮こまって隠れるようにしているのは屈強な男達‥‥モヒカン商人達だ。 情けない姿ではあるが、仕方のないことである。何故なら彼らは志体を持たない一般人であり、今は――アヤカシに襲われているからだ。 話を少し遡ろう。 モヒカン商人達から荷物を受け渡したいとの連絡を受けたローズは、受け渡しの場所にこの丘を指定した。 神楽の都でない理由は彼女が開拓者として依頼を受けていたからだ。依頼を受けた帰りにこの場所を通り、かつモヒカン商人達もこの近くを通ると聞いて、ならここで受け渡した方が早いだろうというわけだ。 そして、当日。いざ合流して荷物を渡そうとした時に、アヤカシの襲撃を受けたのだ。 「まったく‥‥! 一体どこから湧いてきたんですの‥‥!?」 愚痴の1つもこぼしたくなるが、言っても仕方の無いこと。瘴気があればアヤカシが発生してもおかしくないからだ。 ローズ達を囲むアヤカシの数は12。そのどれもが同じ形をしていた。 「なんだアリャあ‥‥! 岩に見える‥‥けどよ」 大きさは大体1メートルぐらいだろうか。丸っこい岩の塊に、これまた石で出来た手足のようなものが、上下左右対象に8本つけられていた。 無機物が、まるで生物のように足を動かして近づいてくる姿に言いようも知れぬ恐怖を感じるモヒカン商人達。 「‥‥しかし、まずいですわね」 ローズは斧の柄を強く握り締めながらひとりごちる。不利な要素が多過ぎるのだ。 まず彼女は依頼を受けた帰りだということ。それもアヤカシとの戦闘を伴うもの。よって体調は万全とは言いがたい。 (それに‥‥私だけでしたらともかく) ちらと自分の背に隠れているモヒカン商人達を見る。彼らはローズが護るしかない。無論、見捨てるという選択肢は無い。 だが戦闘ができるローズ1人に対してモヒカンは5人。少々厳しい数である。 更に問題点はまだある。 アヤカシ襲撃の騒動によって、モヒカン商人達が運んできた荷物は丘の下で散乱していた。 殆どは商品などだろうが、その中にローズ宛ての荷物が紛れていることは間違いない。 幸いなことにアヤカシは荷物に興味を持っていないようだが巻き込まれる事を考えたら、放置したままでは危険だろう。 回収したい‥‥だが人の命より優先すべきものでもない。そう判断し、彼女にとって家族同然の村人からの荷を見捨てる悔しさに歯噛みする。 「えぇい! ぐだぐだ考えてるだけでは解決しませんわ!」 荷への未練を振り切って動く。 まず敵を近づけないことが肝要だと判断したローズは、一番近づいてる岩塊に向かって走り出す。 岩塊は岩という外見にしては、動きはそこまで鈍くはない。8本の手足のお陰だろう。 しかし、単純な戦闘力でいえばローズの方が圧倒的に上だ。すぐに距離をつめ、斧を横薙ぎに振るう。 「もらいましたわ――!」 刃が岩塊の本体に衝突した瞬間――岩塊が爆発した。 「なっ!?」 爆発、というより破裂に近い。斧が衝突したところを中心に岩塊の3分の1が弾けとんだのだ。勿論、普通に斧を叩き付けただけでなる割れ方ではない。アヤカシの特性と見るべきだろう。 「ぐっ、つぅ‥‥!」 超至近距離から岩塊の破裂を受け、たたらを踏むローズ。石礫を受けたところを熱いものを感じることから、石礫は恐らく高熱を持っているのだろう。 痛手ではあるが、ローズにとっては致命傷には程遠い。だが、もしこれにモヒカンが巻き込まれたらひとたまりも無い。荷物に直撃した場合も同じくだ。 更に3分の1が吹き飛んだ目の前の岩塊はまだ動いている。本体の岩が全て吹き飛ぶまでは動き続けるのかもしれない。 「これでは――!」 「‥‥へ、へへ。どうやらここはオレ様の出番のようだな、ヒャッハー!」 「アニキ!?」 縮こまっていたモヒカン商人、その中のリーダーが立ち上がる。 「あの時のように、オレ様が助けを呼んでやる!!」 「無茶だアニキ!! この包囲網を突破するなんて!」 「そうです、無茶ですわ!?」 「無茶だと分かっていてもなァ――! 男にはやらなきゃいけねぇことがあるんだよォー!!」 制止を振り切って、モヒカンリーダーは一気に丘を駆けて下る。 当然のように岩塊が襲い掛かる、が。 「あぁもう! 無茶やるのでしたら、絶対に成功させてくださいな!?」 「ありがとうよ、お嬢ちゃん!」 飛び掛る岩塊を間一髪、ローズが斧で受け止める。受け止めただけでは爆発しないことから、一定以上の威力の衝撃を受けないと爆発しないのだろう。 こうしてモヒカンリーダーはなんとか包囲網を突破し、走る。 助けを求める為に。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎
龍馬・ロスチャイルド(ib0039)
28歳・男・騎
フリージア(ib0046)
24歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●誘引 アヤカシに襲われているローズとモヒカン商人達を救う為、現場の丘へと急ぐ開拓者一行。 「見えた! あれだね‥‥!」 遠目で丘を確認した北條 黯羽(ia0072)は鳥の姿をした人魂を空に放ち、丘へと向かわせる。上空からの俯瞰視線で、周囲の様子を探る為だ。 結果、 「よし、大体聞いた通り。北側も問題ないさね」 開拓者にとって重要だったのは、北側に敵を誘導して問題ないかどうか。 何故なら丘の南側には荷が散乱しているからだ。これらに被害を与えない為に北側へ誘導するべきだと判断したのである。 「こうして‥‥助けに‥‥入るのも‥‥2度目か。これ以上‥‥彼女達を‥‥危機に‥‥晒させん‥‥!」 「目的は救出だが、出来る限りは荷物も回収したい所だな」 黯羽から状況を確認した開拓者達は、二手に分かれて丘へと向かう。 羅轟(ia1687)を始めとした誘引班は北側へ。琥龍 蒼羅(ib0214)を始めとした護衛班は南側から回り込んでローズ達に合流を目指す。 回り込む、といっても敵である岩塊アヤカシは丘を完全に包囲するように配置されており、容易く突破できるものではない。 「ものの見事にアヤカシに囲まれていらっしゃいますのね‥‥。ローズさんはともかくモヒカンの方々にはとても危険な状態です。早く何とかしてさしあげないといけませんね」 丘に近づくにつれ戦況がよりはっきりと分かるようになり、速急な救助が必要だと判断した護衛班であるフリージア(ib0046)は足を速める。 このままだとアヤカシに迎撃にされてしまう、が。それをさせないのが北側へと回った誘引班の仕事だ。 「雄ォォォォ!!」 咆哮が、聞こえた。 叫び声の主は誘引班の羅轟だ。言うまでもなく、敵をおびき寄せるのが目的の咆哮である。 更にその場には巨大な鉄壁を前面に押し出した即席の陣地が構築されていた。朽葉・生(ib2229)のアイアンウォールによるものだ。 「壁は任せてください!」 敵を集めるということは集中攻撃を受けるということである。それを防ぐ為の鉄壁だ。 あとは近寄ってきた敵を叩くだけなのではあるが、しかし―― 「――!?」 「んん? 近づいてこない‥‥?」 というか無反応――? 咆哮を放った羅轟だけでなく、同じく誘引班であるアルクトゥルス(ib0016)も困惑を隠しきれない。 「もう一度‥‥だ‥‥!」 再度、吼える羅轟。 更にアルクトゥルスも武器を手放しての挑発、黯羽は手加減した斬撃符を撃つことでより確実に敵の気を引こうとする。 「牙ァァァァッ!!!」 「は、岩っころ程度素手でもなんとかなりそうだな? 違うというのなら、かかってきな!」 「こいつは――どうだい!」 結果として。 進路を北へと変えた岩塊アヤカシは――斬撃符を撃ちこまれた1体のみであった。 「どういう‥‥ことだ‥‥!?」 「あ、いえ、もしかして――」 3人の行動とそれぞれの対象の違いを観察していた生はある1つの理由に思い当たる。 「――聞こえていないのではないでしょうか?」 聞こえていないといっても、声が届いていないという意味ではない。声自体は確実に届いている筈だ。 問題はそもそも敵に聴覚があるかどうか、ということである。 今回の敵である岩塊アヤカシには顔が無い。当然目も無いし、耳も無い。見た目は岩の塊なのだから当然だ。 そのようなアヤカシがどうやって人間を感知しているのかという疑問はあるが、視覚・聴覚に頼っていない可能性は非常に高い。 そして、咆哮は相手に声が聞こえないと効果を発揮しない――! アルクトゥルスの挑発も似たようなものである。声が聞こえていなかったのも大きいが、仮に聞こえていたとして敵に『精神』と呼べるものが存在しないと挑発による誘き寄せは成立しないだろう。 隙を見せることなどで、アヤカシの本能で動く岩塊がより攻撃的な態勢を取ることは有り得るだろう‥‥が、それは戦闘中に発動した場合であり、それ以上の効果を望むのが難しい。 よって、成立したのが『攻撃』という絶対に無視できない手段を取った黯羽だけになったのである。 「くっ‥‥!」 「まったく、手間かけさせてくれる!」 それが分かった以上、近接攻撃しか攻撃手段を持たない羅轟とアルクトゥルスは必然的に包囲網へと駆けるのであった。 ●合流 「む、こいつは‥‥」 南側へと回り、敵の様子を窺っていた護衛班の恵皇(ia0150)は敵の動きが作戦とは異なることに気付く。 北に移動することなく、丘の頂上‥‥ローズ達の方へと移動しているのだ。 「つまり、作戦は失敗って事か!?」 「いけません‥‥! このままでは――」 頂上にいる救助対象が危ない。焦りを顔に浮かべた龍馬・ロスチャイルド(ib0039)は、しかし即座に頭を切り替えると為すべきこと為す為に動く。 それは守護騎士として命を護ること。その為に頂上へと向かい走る。 岩塊アヤカシの中を突っ切ることになり、当然敵が見逃す筈もない。石の擦れる音と共に1体の岩塊が手足を器用に動かして飛び掛ってきた。 これに強い衝撃を与えることで爆発することは事前の情報で判明している。 「ですが受け止めるだけなら!」 飛び掛りを盾で受けると同時、腕に力を込めて相手を押し出す。この程度の衝撃では爆発しないことも事前に分かっている。 空中で押し出された岩塊は、勢いよく斜面に着地すると、8本の手足をうまく使い衝撃を打ち消した。 「よぉし、今だ!」 龍馬の働きによって作られた包囲網の穴を、恵皇が一気に瞬脚で駆け上がり頂上へとたどり着く。 目の前まで移動することで改めて分かるローズ達の様子。 「‥‥く、ふぅ‥‥っ‥‥!」 ローズは岩塊を爆発させないようにかつモヒカン商人に手を出させないよう対処‥‥圧倒的不利な状況で防戦に徹していたからか、体のあちこちに傷をつくっていた。体力の消耗も激しいのだろう。肩で息をし、大斧を支えになんとか立っているという状態であった。 モヒカン商人達は迫る命の危機に怯えてお互いを抱きしめつつ、しかし過去にも自分達を助けてくれた恵皇の姿を見て、顔をぱぁっと明るくさせる。 「あぁ、あんときの開拓者さんじゃねぇですか!」 「おう。お前ら、真面目にやってるようだな‥‥やってるんだよな?」 思わず問いかけてしまったのは、商人達の格好のせいだ。とても商人が板についているようには見えない。 「って、そんな話をしてる場合じゃないか。まずはここを切り抜けないとな! 俺は雑魚敵を見捨てない」 ちなみに雑魚敵と書いて友と読む‥‥そうだが、友を守ってる感がまるでしないのは何故だろうか。 恵皇は右手の拳を左手の掌で包むようにして気合を入れる。その直後、龍馬が敵を弾き続けることで作った道を蒼羅とフリージアも一気に駆け上がり、合流を果たしたのであった。 状況としては頂上にローズ含む救助対象が5人。 敵である岩塊アヤカシは12体中4体が北の方へと誘導され、8体が北以外からの方向から包囲しているという形になっている。 北以外ということは、勿論荷物が散乱している南の方にもいるわけで、荷物周辺にはアヤカシの姿が3体あった。 「引き付けられたら楽だったのですが‥‥。こうなった以上、仕方ありませんね」 ――何よりも命を優先してこの場を切り抜けるべきなのだから、と荷物に関しては覚悟を決めるフリージア。 「誰の命も失わせはしません――!」 彼女の歌う『騎士の魂』がこの場にいる志体持ちへ抵抗する力を与える。 「これなら、私も‥‥!」 その力に背を押され、防衛に出ようとするローズを、しかし龍馬が手で制す。 「ここまで一人で持ち堪えてくれた事に感謝します、優麗な騎士の方。――そして、ここからは私達の仕事です」 「ですがっ!」 「私が護るべき対象は――ローズさん、キミも含めてです」 「そうだ。あまり無茶をするべきではない」 龍馬に続いて蒼羅にも諭され、ローズは歯噛みして一歩下がる。彼女も立つので精一杯であることは自覚している。だが、騎士としての意地からか。それとも別の要因でか――容易く受け入れたくないようだ。 「さて‥‥守護騎士の名に掛けて全てを護り切りましょう」 龍馬が盾を正面へと構えた。 ●撃破 北側に位置する4体の石塊。それらは誘引班によって誘いだされたアヤカシだ。 誘うといっても、手加減した攻撃を一度叩き込んで逃げるという実に手間のかかるものである。再度丘の頂上を狙われてはいけない為、逃げ過ぎずといった距離が重要だからだ。 「これぐらいなら大丈夫かね」 ある程度丘から引き離したことを確認した黯羽は何度目かとなる斬撃符を放つ。今度は手加減抜きの本気の威力だ。 敵を切り裂く式が岩塊に直撃すると同時、岩塊は爆発。3分の1が吹き飛ぶ代わりに辺りに石礫を撒き散らす‥‥が、彼女は遠距離攻撃で距離をとり、なおかつ他の者が近づいてないことを確認してからの為、周囲に被害は無い。 対照的なのはアルクトゥルスだ。彼女は岩塊の前に立つと、槍斧を思いっきりフルスイングして叩き付けたのだ。 当然、爆発した。いくらオーラドライブで防御力を上げているとはいえ、痛いものは痛い。しかし、彼女は再度槍斧を構える。 「岩っころの一つや二つ!」 躊躇していたら余計に怪我が増えるという判断のもとであった。護衛対象が傍にいないからこそできる手段ともいえる。 再び叩きつけられた岩塊は爆発。更に飛来した石礫がすぐ傍にいた別の石塊に直撃し、その石塊も爆発する。誘爆のせいで先以上の石礫がアルクトゥルスに直撃するが、彼女はニヤリと笑みを浮かべる。 「いいね。これでパッパと片付けられるってもんだ!」 「あまり‥‥無茶は‥‥」 アルクトゥルスに無理をしないよう言う羅轟だが、彼も彼で石礫を気にする事なく石塊に刀を向けていた。 やはり護衛対象が傍にいないからであり、また、 「‥‥石ころ共、タダで済むと思うなよ‥‥!」 丘に近づいた時に目に入ったローズの負傷具合のせいでキレていたのだった。 丘での戦いは、変わらず防戦一方となった。 やはり一番の問題は衝撃を与えると爆発するという点だ。商人を守ることを考えたら、近づいている状態で攻撃をすることは絶対にできない。 また戦場の問題もあった。傾斜のせいで足場が安定しないというのも戦いにくさに拍車をかけていた。 「ちぃ、それならこいつは‥‥どうだ!」 恵皇は石塊の飛び掛りをダメージ覚悟で受け止めると、バランスを崩すように足払いをかける。 転んだ――と思ったが、しかし8本のある手足のうち新たに接地した4本の足がしっかり地面を踏みしめて転がり落ちていくのを防ぐ。 「見た目の割には器用ですね‥‥!」 引き続き『騎士の魂』を歌い続けるフリージアだが、その顔に焦りが浮かぶ。 再び、こちらに攻め様とする石塊たち。 だが――そのうちの1体が灰色の光球に包まれ、次の瞬間には石塊は灰へと化し消滅した。 「今のは――」 「‥‥成る程、この魔法は有効のようですね」 声のもとへと視線を移せば、そこには生の姿があった。 誘引班の彼女ではあるが、陣地を構築した時点で役目を果たしたのでこちらに合流する為やってきたのだ。 そして先ほど放った魔法はララド=メ・デリタ。『灰色』で敵を朽ちさせる、複合精霊魔法である。 超強力ともいえる攻撃力を持つこの魔法で特筆するべきは一瞬で敵を朽ちさせるという点だろう。つまり、この魔法なら岩塊が爆発することはない。 敵を消滅させて確保した道を通って合流した生は、レ・リカルで傷を負った者を回復させていく。 「ローズさん、これを‥‥」 傷がある程度回復したローズへと微量ながらも練力が回復する節分豆を渡し、自分も同じく梵露丸で練力を回復させる。 「ふむ‥‥」 このように生が回復させている間、蒼羅は先ほどのララド=メ・デリタによる敵撃破を見てある閃きを得ていた。 「衝撃を与えずに倒す――つまり、触れただけで敵の瘴気を浄化させるこの技ならば‥‥!」 蒼羅の持つ野太刀が梅の香りと白い気を纏う――白梅香による効果だ。それを岩塊へと振るう。 直撃。しかし、爆発はしない。触れたところから瘴気が浄化され消滅していくだけだ。 「――良し」 これもララド=メ・デリタと同じく有効である事を確認し、武器を握る手により強く力を込めた。 ララド=メ・デリタと白梅香という有効手を得た開拓者達は次々に岩塊を撃破していく。尤も、前者は連発できるほど燃費は良くないのだが。 敵が減ったことから、防衛に徹していたものたちも攻勢へと転じる。決して商人を巻き込まないように。決して荷を巻き込まないように。 ――だが、石塊を巻き込まないように気をつける者は誰もいなかった。 ●届いた手、届かなかった手 「――え?」 その石塊を攻撃したのは誰か。いや、その事自体は些細なことかもしれない。 攻撃した本人は確かに荷を巻き込まないように気をつけて攻撃したつもりだ。確かに、その石塊が荷を傷つけることはなかった。 だが、爆発した石塊の石礫が、別の石塊に直撃し――その石塊も爆発した。 誘爆の有効性を考慮していた者は確かにいた。だが‥‥危険性を考慮していたものは誰もいなかった。 新たに爆発した石礫が散乱していた荷の辺りに飛来した。 それからしばらくして、敵は全て撃破された。 商人達も大きな怪我はなく、開拓者達の負傷も魔法などである程度回復していた。 だが、 「‥‥あー。嬢ちゃん。あんたへの荷物は‥‥その、なんつうか」 「‥‥ん」 モヒカンリーダーが無惨な姿へとなった何かを手に持っていた。石礫を食らい思いっきり変形した上高熱で燃えたせいで、すっかり元が何か分からなくなってしまっている。 リーダーの言葉が正しければ、それが彼女へ宛てた故郷からの荷だったのだろう。 それに対してローズは何も言わない。怒りも、嘆きも、悲しみも。‥‥ただ目に涙を浮かべ、それを決して流さないようにするだけだ。 「‥‥」 ローズと同じく故郷から離れてるアルクトゥルスも思うことはあるのか。しかし、何も言うことはできない。 またモヒカン商人達の荷物も大体半分ぐらいが駄目になっていた。 そのことについて謝罪する恵皇。落ち着けば荷を回収するつもりだったが、その前にあの誘爆が起きたのだ。 「すまんな‥‥。お前らにとっては命とも言える荷物なのに、よ」 「‥‥いや。ヒャッハー‥‥っす」 明らかに落ち込んでいるモヒカン商人を見かねて、フリージアが声をかける。 「命があればまたやり直せるはずです。人生なんて結局積み木を積んで崩しての連続ですもの」 やり直せる、という励ましの言葉。 ――しかし、 「‥‥無くなった積み木は、積み直すことができねぇんす」 リーダーの視線の先には俯いたまま顔を上げないローズの姿があった。 |