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■オープニング本文 ※このシナリオはパンプキンマジック・シナリオです。オープニングは架空のものであり、DTSの世界観に一切影響を与えません。 日本のどこかにあるという巨大な学園。その名も天儀ヶ原学園。 これは、天儀ヶ原学園を舞台にしたお話である。 一般的な教室よりはやや狭い部屋の中、長机が四角を形成するように配置されていた。 教室にお馴染みの黒板は無く代わりにキャスター付きのホワイトボードがあることから、小教室の一種なのだろう。 「ところでよー、『ヶ原』は別にいらないんじゃね?」 「昨今の流行に合わせたのでしょう。どの辺りで流行っているかは存じませんが」 「2人ともいきなり何言ってるの!?」 パイプ椅子に座り、長机に頬杖をついている青年。スーツを着ているが、ボタンをしっかり留めていないせいでだらしなく見える。 青年――一 正澄のいきなりの問題発言に思わず立ち上がりそうになったのは一 三成、正澄の弟だ。そんな彼を抑えるようにまぁまぁと手で制するのはメイドロボの瑠璃である。学園に何故メイドがいるかは些細な問題なので気にしてはいけない。 三成の様子を気に留めることなく、正澄は自分のペースで話し始める。 「というわけで、今回は学園物です。いえーい」 「去年もやりましたが」 「前のは学園祭ものなので別カウントで。それに俺達いなかったしな! いやー、アーサー王が『最近の流行的に、私を召喚して戦うとかどうだ!?』とかプッシュしてきてどうしたものかと思ったよ」 「美少女ならともかく、おっさん召喚にどれだけ需要があるか分かりませんね。‥‥何故かラーンス様が正気を失いそうですし」 そんな正澄と瑠璃のある意味ギリギリな会話に、三成が口を挟む。 「えーと‥‥とりあえず、学園物だというのは分かりました。だけど、その、文句を言っていい‥‥?」 「あんまり聞きたくないなぁ」 「なんで私の制服が女子のものなの!?」 三成が机をバンと叩いて勢いよく立ち上がる。その勢いで倒れたパイプ椅子を、瑠璃が無言で直した。 先述した通り、三成は弟‥‥つまり男性だ。おとこのこである。しかし、彼が着ている服はブレザーにチェック柄のミニスカート‥‥完璧に女子のものである。 尤も、それでも似合っているのが彼らしいといえる。白いふとももと黒のオーバーニーソックスのコントラストが実に素晴らしい。 「何を今更。普段から女装してるのに」 「だからって、こんな時まで‥‥! そ、それに、これ、普段のと違って短いから‥‥み、見えそうだし‥‥!」 普段の彼が着ているものはデザイン的にあまり性差の出ない巫女服であった。故に、余計気になるのだろう。 恥ずかしいのか顔を真っ赤にする三成を見て、正澄は楽しそうに笑う。 「いいじゃないか、似合ってるし」 「嬉しくない! 大体、兄さんはなんでスーツなの!?」 「えーいや、ほら、あれ。教職員的な立場、だと思うよ?」 兄さんが先生とか嫌だなぁ、とは思う三成だが、同級生だったり別の立場でも結局嫌なのは変わらないから何か言う事を諦め、ため息を吐く。 「で、結局何するの?」 三成は気分を落ち着ける為に瑠璃が淹れたハーブティーを飲んでから、本題を正澄へと問う。 問われた正澄は両手を頭の後ろに回して組むと、仰け反って天井へと視線を移す。 「何しよっかぁ」 「え、えぇー‥‥」 「学園らしいことかー。‥‥んー、じゃあ焼きそばパン買ってきて」 「ただのパシリじゃない‥‥!?」 「おいおい、それは違うぞ三成」 正澄は腕を解くと、真剣な顔を三成へと向ける。 「‥‥いいか、この学園の購買では焼きそばパンは――1年に1個しか販売されない」 「たかが焼きそばパンがなんでそんなにレアなの!?」 「たかが? 今お前はたかが焼きそばパンと言ったのか?」 両手のひらを上に向けて、分かってないとでも言いたげに首を横に振る正澄。 「伝説、だからだよ」 「で、伝説‥‥?」 「あぁ。焼きそばパンを作るのは、かつて数々の料理大会を総なめにした料理人――彼が作る料理を食べた者は、あまりの美味しさに大阪城を破壊したという」 「料理と城破壊がどう繋がるの!?」 「またある者は体の悪い所が一瞬で治ったという。‥‥そんな彼が作る焼きそばパンだ。当然、欲しがる者は多い」 「そうかなぁ‥‥」 「そこで彼は世のパワーバランスが崩れることを憂い、1年に1回しか焼きそばパンを作らない事にした。――そして、今日がその日だ」 焼きそばパンで崩れるパワーバランスってなんなんだろうなぁ、とややげんなりする三成だが、この世界自体が理不尽の塊みたいなものなので考えるだけ無駄なのだろう。 兄が「焼きそばパンを手に入れたものはその1年の覇権を握る」だの「実はあらゆる願いを叶える願望器という噂もある」だの戯言を言っているが、三成は最早それを右から左に流すだけでまともに聞いていない。 どのタイミングで部屋を抜け出すべきかと思案している所に、ちょうど休み時間の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。 「あ、じゃあ私は授業があるから」 兄の返事を待つことなくそそくさと廊下へと出る。メイドの瑠璃も当たり前のようにその後ろを付いていった。 「‥‥教室にメイド連れていくのかなぁ」 1人寂しく残った正澄がぽつりと呟く。 授業‥‥三限目が始まり、校内は静けさを取り戻す。しかし、それが仮初の平和であることは誰も気付いていた。 戦いの始まりは、四限目が終わり昼休みを告げる鐘が鳴った瞬間。勿論、サボリなどをしないよう全教職員が目を光らせている。 こうして、熱血友情愛情陰謀策謀葛藤悲哀その他諸々が渦巻く焼きそばパン争奪戦の幕が上がろうとしていた。 勝者は何を得て、何を失うのか。それを知る者は、今はまだいない――。 |
■参加者一覧
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
ルーディ・ガーランド(ib0966)
20歳・男・魔
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
トィミトイ(ib7096)
18歳・男・砂
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ●出陣 天儀ヶ原学園、4時間目。嵐の前の静けさ――。 男子制服でなければ美少女と間違われてもおかしくない容姿をしている少年、天河 ふしぎ(ia1037)。争奪戦の参加者である。 彼が焼きそばパンを求めている理由は――恋だ。 恋の相手は入学式に一目見て恋に落ちた、学年もクラスも名前も分からない少女。 先輩に聞いた「伝説の焼きそばパンを手に入れて告白すると、その恋は必ず実る」という伝説が確かならば、負けられない。 「あの娘との恋‥‥絶対、成就させてみせる‥‥!」 小等部4年Z組。 窓際の一番後ろの席で、少女――水月(ia2566)は、窓から差し込む日光を浴びてのんびりしていた。 「はぁ‥‥ぽかぽかです」 このようにのんびりしたり、学内の半野良猫と戯れたりするのが好きな、やや大人しめの極普通の小学生。 しかし、美味しい食べ物が絡むと‥‥? 「はぅ、寝ちゃうところでした‥‥」 また別の教室。担任の教師がちょっとした注意をしていた。 「今日の給食当番は‥‥レティシアだったか。サボるなよ」 「えぇぇ!?」 先生に名指しで釘を刺され、不満を露にするかのように勢いよく立ち上がるレティシア(ib4475)。 放送部の彼女としては争奪戦なんて面白いネタを取材できないのは非常に困るのだ。 「ルシファー部長閣下を喜ばすことができないじゃないですか!」 「誰だよそれ。本物の放送部部長に謝れ」 「真の部長はルシファー部長閣下なんです! 人間には聞こえない歌声で交信してるんです!」 実際に交信しているのだろう、良くない電波と。この年齢の学生にはありがちな事なので、生暖かい目で見守ってあげよう。 そんな彼女を助けるように、クラスメイト達が先生を抑える。彼らとしても面白ければそれでいいのかもしれない。 「ここは私達に任せて先にいって!」 「皆‥‥!」 授業の終わりを告げる鐘が鳴った――。 直後、学園が揺れた。比喩ではなく実際に揺れたのだ。 校舎を揺らす程に多くの生徒達が動き始める。もちろん、前述の3人もだ。 彼女達はまったく同じタイミングで教室の窓を開け、 ――跳んだ。 ●見学者 購買よりやや離れた学食。争奪戦に参加する気のない者の多くはここにやってきていた。 「伝説の焼きそばパン‥‥あー、そんなのもあったなあ」 苦笑しながら、喧騒を遠目に眺めるトレーナーとジーンズ、ジャケットといた私服姿の青年。ルーディ・ガーランド(ib0966)。 彼もまた争奪戦には興味ない人間であった。そして彼の目の前にもまた争奪戦に興味がない一三成が座っていた。 「で、結局争奪には参加しないのか」 「まぁ‥‥別に兄さんの言うことを聞く義理もありませんし」 大学で宇宙物理学を専攻してるルーディは、いつかのメイドロボ事件で知り合った一三成を目にかけており、彼に食事を奢っていた。 「ま、食わないならメリットがないわな。取り敢えず争奪戦は見物だし、見物でもしてったらどうだ」 「見物‥‥ですか?」 「あぁ、中々見応えあるぜ。‥‥っと、争奪始まったな。今日は鎮圧部隊出るかどうか」 鎮圧部隊が出るような争奪戦とは一体なんなのか、三成は思わず頭を抱えてしまう。 そんな彼を気にすることなく、ルーディはマイペースに大盛りの牛皿定食に箸を伸ばしていた。 「僕は焼きそばパンって滅多食べたことないんだよな。ほら、紅生姜が嫌いでさ」 牛皿定食にも紅生姜は無く、七味唐辛子がかけられているだけだ。 「‥‥焼きそばパン食べたことない人ってのも、また珍しいですねー‥‥」 ●バトル! 「な‥‥に‥‥!?」 先程までグラウンドで授業をしていた体育教師、羅轟(ia1687)は驚愕に目を見開く。 目を見開くといっても、兜と面のせいで表情は分からないのだが。ちなみに首より下はジャージです。 彼は授業が終わり次第、校則違反をしたものを片っ端から注意するつもりであった。そう、せいぜい廊下を走った者に常識的な説教をするぐらいだと。 だがそれどころではなく、窓から飛び降りる生徒達がいた。無事着地できるだけの技術があるとはいえ危険行為には変わりない。 「これは‥‥指導室‥‥送りだ‥‥!」 最早手心を加える必要はない。そう判断した彼は、走る。 渡り廊下の屋根を走り、一気に購買を目指すふしぎ。 しかし、そうは問屋が卸さないと他の生徒達が妨害をしてきた。。 「ヒャッハー!」 「潰せぇー!」 「行かせてたまるかァー!」 「ヒャッハー!」 「この学校、モヒカン多いなぁ!?」 ともあれ、こんなところで雑魚に構ってる余裕はない。 「ここを突破して焼きそばパンを手に入れて、そして‥‥! 僕はその為なら時だって止めてみせるんだからなっ」 ドーンという効果音と共に世界の色が反転する。その世界を動いているのは、ふしぎだけだ。 これこそが夜――! 彼だけの『世界』――! 交戦をしていた生徒達が気付いた時には、既にふしぎは大分先行していた。 「あ‥‥ありのまま今、起こった事を話すぜ! 『俺は奴の前で竹刀を振ったと思ったらいつの間にかボールをホームランしていた』。な‥‥何を言ってるのかわからねーと思うが――」 恐ろしいものの片鱗を味わって恐怖している生徒達を尻目に、ふしぎは走る! 水月もまた数多くの敵を避けて購買へと進んでいた。 「ん‥‥!」 小柄な彼女は直接戦闘にはあまり向いていない。だが、それならそれでやりようはあるというもの。 乱闘している生徒達の隙間を縫うように、するりと駆け抜ける。俊敏な猫を思わせる動きだ。 だが、そんな少女の前に、新たな強敵が立ちはだかる! 「ふ、さすがですわね。でも‥‥私の目は誤魔化せませんわよ?」 轟音と共に、水月の目の前にいる生徒達が吹き飛んだ。そこに立っていたのは高等部の制服に身を包んだ1人の少女――ローズ・ロードロール。 (『ツンデレのお姉さん』‥‥!) 過去、究極のかつサンド争奪戦や至高のメロンパン争奪戦といった数々の激戦で手を合わせた強敵。名前も分からないが、彼女の強さはこの身に染み付いている。 今回もやはり目的は伝説の焼きそばパンだろう。 「わ、私はべつにこんな庶民のパンなんて欲しくありませんわ。しかし、やむにやまれない事情という物が世の中にはあるのです」 ‥‥聞いても無いのに何故か言い訳をしているが気にしないことにしよう。 ともかく、彼女相手に正面突破は分が悪い。 (皆の力を‥‥借ります!) そう決めた水月は口笛を吹く。 「何を狙ってますの‥‥!」 警戒するローズがじりと一歩下がる。しかし、彼女が衝撃を感じたのはまったく予想外の方向からであった。 「にゃーん!」 「にゃにゃーん!」 「にゃうーん♪」 「ね、猫ー!?」 ねこねこねこ。どこからかやってきた猫がローズへと飛び掛って纏わりついたのだ。 この猫達は水月の友達で、口笛で呼んだのだ。 「くっ、可愛くて攻撃できませんわ‥‥!」 予想通り『ツンデレのお姉さん』には効果抜群だ。振り払えずまごまごしてる彼女の隣を水月は颯爽と駆け抜けるのであった。 「いやー、それにしても凄い戦いですねぇ」 そんな戦いを遠巻きに観察しているのは、大学部1年の鬼啼里 鎮璃(ia0871)だ。 血のついた白衣を羽織っているせいで、彼も何かやらかしたのかとぎょっとしてしまいそうになるがなんてことはなく、獣医学を専攻している故についてしまった血だ。 ‥‥それでも、そんな返り血を浴びた白衣でうろうろするのは如何なものかと思われるが。 カレーパン目当ての彼としては争奪戦に参加するつもりはない。とはいえ、せっかくだから冷やかしとして見学しにきたのだ。 「皆さん、頑張ってくださいね〜」 実に無責任な応援。これこそ外部の人間の余裕というものだろう。 そんな彼の目に、戦いに敗れてうずくまっている男の姿が目に入る。額から出血しているようだ。 「大丈夫ですか‥‥? 手当て、しましょうか?」 「ん、その白衣は医学部か‥‥ありがてぇ」 「いえ、獣医学部ですけど。人間だって動物の一種です。大丈夫、任せてください」 「ちょっと任せたくなくなったぜ‥‥!」 こうして、簡易治療所ができたとかできなかったとか。 「ふっふっふー、盛り上がってますね!」 激闘をカメラで追うレティシア。戦いの様子をリアルタイム配信してる学園裏サイトのアクセスは先程から鰻上りである。 「ありのまま起こった事を話すインタビューも好評でしたし、これは部長閣下も楽しんでくださる筈!」 レティシアはカメラ片手に激戦区へと走り続ける。彼女の目の前で再び戦闘が繰り広げられていた。 「おー、やーれーやーれーぶっつぶせー♪」 「いくぜ! 建御雷ィー!」 煽りコールに乗るかのように、戦っていた片割れの青年――武蔵がその身に雷を纏って突撃する。 ちなみにこの青年。結構いい歳しているが高校生である。留年しまくってるのだ。 そんな彼の雷パンチが生徒の1人を吹き飛ばした。 「――っと、危ない」 生徒が壁に激突する直前、レティシアは共鳴の力場で激突ダメージを緩和させる。争奪戦の参加者である以上敗れるのは仕方ないが、それでも怪我人が出るのは心が痛むからだ。 勝者である武蔵は購買目掛けて再び走り出し、レティシアもそれを追う――が、2人の前に新たな人物が立ちはだかった。 「‥‥廊下は‥‥走る‥‥べからず! いや、もう‥‥それどころでは‥‥ないが」 「ゲェー、羅轟!」 鬼面の体育教師、羅轟! 「レティシア殿も、あんな危険なことして‥‥!」 「くっ、しかしあれは秩序と言う名の停滞を強いる世界へのささやかな反逆です」 レティシアはここに来る途中に入手したコッペパンを槍に見立てるように構え、更に日傘を開いてスタイリッシュさを演出する。 「本気になるのは忌まわしきあの第七期争奪戦‥‥偽りのこっぺぱん事件以来ですね」 教師と生徒の戦いが始まる――! とはいっても。 教師が強いのは当たり前の話で、2人はあっさりと取り押さえられていた。 「覚悟は‥‥おーけー?」 「おじいちゃんに連絡するのだけは〜!」 「え、あ、ちょ、天羽先生がこっちに来るのが見えるんだけど! マジで解放してくんねぇかな!?」 南無。 ●決着は 「さて、どうしたものかな‥‥」 購買に向かいながらトィミトイ(ib7096)は無表情で思案していた。 彼は焼きそばパンに興味が無い人間である。それ故に購買が落ち着くまで適当に時間を過ごそうと思い、図書館に寄って本を借りてきたのだが‥‥。 「まだケリがついていないとはな‥‥」 購買へと続く道ではいまだ怒号が鳴り響く戦いが繰り広げられていた。戦いが激化している為、いまだに誰も辿りつけていないのだろう。 それにしても爆発音まで聞こえるが、ここは本当に学校なのだろうか。 そんなことを考えていると、喧騒の中から1人の青年が弾き出されるのが目に入る。知った顔だ。 「いっつつ‥‥。例年よりも激しいなぁ。だけど、今年こそ、焼きそばパンは俺が頂くっ!」 彼の名はケイウス=アルカーム(ib7387)。サボりすぎて数度留年している大学部1年生だ。毎年争奪戦に参加しているものの、1度も勝ったことは無い。 そんなケイウスが起き上がる際、トィミトイが彼の視界に入った。 「トィ! お願い手伝ってっ!!」 「知るか」 友人――尤も、そう思っているのはケイウスだけなのだが――の申し出はあっさりと却下。 「そ、そんなあっさり‥‥! そんなんじゃ友達できないよ?」 「必要ない」 またもばっさり。実にクール。 またどこかで適当に時間を潰そう‥‥そう考えたトィミトイは喧騒に背を向ける、が。 「な‥‥!?」 彼の目に入ったのは遅れてやってきた集団。新たな集団は、進路上にいるトィミトイをも巻き込んで戦場へと突っ込んでいく。 「お、おー‥‥トィ、大丈夫かー?」 「他のパンを買う人間は巻き込まれない。そう思っていた時期が俺にも‥‥ふざけるなよ貴様ら」 揉みくちゃにされながら、どこからか剣を取り出す。 「残らず撫で斬りだ。さもなくばコッペパンを寄越せ」 怒りのまま、周囲の生徒達を剣でなぎ払うトィミトイ。そんな彼の奮闘を見て、ケイウスがうんうんと頷く。 「なんだかんだで手伝ってくれる辺り、持つべきものは友人だなー‥‥って、うん?」 戦闘の余波だろう。トィミトイの鞄から、数冊の本がとび出していた。 ケイウスがそれを拾い上げる。そこに書かれていたのは『友達の作り方』『人付き合いの15のコツ』といったタイトル――。 トィミトイも本を落とした事に気付くが、もう遅い。 「ト、トィ‥‥お前‥‥!」 「誤解するな、現文の課題だ! それ以上でも以下でもない!」 「いやいや、ごまかさなくてもいいんだよ。俺はわかってるからさ!」 「分かってない! もう一度言うがただの課題だ! あと笑うな!」 「いや――」 そんなやり取りをしてる内に、購買から歓声が上がる。 ――勝者が出たのだ。 ●青春 再び学食。争奪戦が収束したこともあり、ルーディと三成は取りとめもない雑談をしていた。 「‥‥それはともかく、女装もいい加減どーにかならんのか」 「私だって、どうにかしたいですよ――!」 今の話題は三成の格好についてだ。彼が男子として知っているルーディとしてはやはり違和感があるらしい。 ――けど、男子制服を着たらそれはそれで物凄い違和感なんだろうなぁ。 そして、三成が男子であることを知らない1人の人物が、彼を呼び出す。 呼び出されて学食を出る三成の背中に、ルーディは「頑張れよー」と声をかけるのであった。 「‥‥うん、あの呼び出しは色んな意味で頑張る羽目になるだろうなぁ」 三成を呼び出したのは――ふしぎだ。 そんな彼の手に握られているのは‥‥まさしく、伝説の焼きそばパン! 光輝くオーラを放つパンを見て、さすがに三成も気付いたのだろう。驚いて口を開く。 「それは‥‥あの焼きそばパン、ですか?」 「うん! 恋の伝説を実現する為、頑張ったんだ!」 「え――?」 顔を真っ赤にしたふしぎが勇気を振り絞って切り出す。 「にゅ、入学式の時から好きだったんだ、僕とお付き合いしてくださいっ!」 時間が止まったのかと錯覚する程の沈黙。 そして―― 「私、男ですよ‥‥?」 「――えっ、えぇぇぇ!?」 争奪戦は終わった。 だが、それは数あるイベントのうちの1つでしかない。 学生達はイベントがあろうとなかろうと、青春の日々を過ごすのだ。 「負けたのは残念だけど。せっかくだから、一緒に昼飯食べよっか、トィ」 「ちょ、離せ‥‥! 俺は一人でいい!」 「ふっふっふ、そんなそっけなくしても俺は動じないぞっ。友達の作り方、この俺がレクチャーしてあげようじゃないか!」 「余計なお世話だ!」 「さぁ行くぞ! 俺達の昼休みはまだ始まったばかりだー!」 そう。 彼らの青春はまだ始まったばかりなのだ。 |