三成のお正月
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/17 22:22



■オープニング本文

「みつなりー、新年会やろうぜー」
「何、馬鹿なこと言ってるの? 馬鹿なの? うん、馬鹿だったわね」

 襖を開けて突然部屋に入ってきた兄を、一三成は見もせずに一蹴した。
 三成の兄である正澄が「えー」と抗議の声を上げるが、三成は構うことなく黙々と目の前の山に手をかけていた。
 山の正体は紙束だ。今にも崩れそうなほど積み上げられている書類は三成が片付けなくてはいけない仕事の数々である。
 だというのに未だに何事か言う正澄にさすがにイライラしてきたのか、三成はこめかみを押さえて深い息を吐きながら兄へと向き直る。
「あのね兄さん、今の状況分かってる?」
「うむ、そこはかとなく大変な雰囲気が漂ってるな」
「雰囲気じゃなくて、実際に大変なのよ……。って、あー……」
 三成が軽く動かした手が机上の紙束にぶつかり、山は連鎖崩壊を起こしていく。
 それをげんなりとした目で見届けてから、糸が切れたかのように三成はぱたりと横になった。
「次から次へと仕事がやってきて……正月も何もあったものじゃないわ……」
「そりゃ、アヤカシには正月なんて無いもんなぁ」
 正澄は足元まで散らばった書類のうち1枚を拾い上げ、内容を確認する。それは現在行われている合戦に関するものだ。
 北面の戦いは過去のアル=カマルに関する戦いとは違い、特に一家が積極的に関わるようなものはない。
 だがだからといって何もしないでいいかというとそんなことはなく。朝廷の面倒事を押し付けられる立場である一家は、やはり今回も雑事を押し付けられていた。
 その結果が今の書類が散乱している部屋と憔悴しきった三成というわけだ。
 徐々に近づいてくる足音が聞こえ、正澄がそちらに視線を移すとメイドがお茶をお盆に乗せて歩いていた。その足元にはぴったりと猫がついている。
 メイドとはいってもただのメイドではない。彼女――瑠璃は遺跡で見つかり生きているからくりだ。
 稼動した当初は色々あったものの、今では学習をすっかり終えて見た目に相応しい知識を持っている。主人である三成の為にお茶を入れることもよくある日常だ。
 瑠璃は正澄に軽く会釈すると、部屋に足を踏み入れる。
「三成様、お茶を――あっ」
 するりと足元を抜けるように部屋に入った猫が散乱した紙に興奮したのか、飛び跳ねるように走り回り始めた。
 当然のように部屋の惨状は更に酷くなっていく……が、三成はぼんやりとした目でそれを追うだけで止めようとはしない。
「猫はいーなー……毎日気楽そうで……」
「お、おぉう、これは相当重症じゃないか……。やっぱり新年会が必要なんだよ!」
「正澄様、何故そうなるのでしょう。実は馬鹿なのでしょうか?」
「なんか最近アッパー入ってないか瑠璃……? お、お前のご主人様は誰か言ってみろよ!」
「三成様です」
「そうでしたー!」
「コントやりたいならよそでやってくれない……?」
 猫を取り押さえている瑠璃を横目に、正澄は手元の書類にさらりと筆を走らせてからそれを机の上に戻す。
「うーん、しかし実際のところ根をつめてばかりじゃ効率落ちるぞ? たまには息を抜かなきゃ」
「それができる状況ではないもの……」
「だーいじょうぶ、大丈夫。休んでる間にお仕事は妖精さんが片付けてくれるから」
「ふふふ、妖精なんているわけないじゃない……」
 いや、妖精自体はいるんだけどなー。
 しかしそんな事を言っても仕方ないか、と正澄はため息を吐きながら部屋を見渡す。
 ざっと見たところ比率的にはまだ片付いてない仕事の方が多い。そんなに手間を取らないものも多いが、当主になったばかりの三成にとっては大変なのは変わらないのだろう。
 やはり、このままでは三成が保ちそうにない。先の息抜きをした方がいいという言葉は本心からのものだ。
 瑠璃の方を見やれば、彼女も猫を抱きかかえたまま三成を心配そうに見ていた。
「うん。瑠璃、ちょいといいか」
 そんな彼女を、正澄は手招きして別室へと連れていくのであった。


「息抜きとしての新年会、ですか……」
 移動した先の部屋で瑠璃は正澄からの提案を聞いていた。
 なるほど、先は意味がよく分からなかった新年会の提案だったが改めて意図を聞いてみれば納得できると瑠璃は頷く。
「まぁ、せっかくの正月だしな。やっぱり少しぐらいは楽しまないと。せっかくだから開拓者とかを呼んで盛り上がりたいところだ」
「お正月……!」
 その単語を聞いた途端、瑠璃の顔に緊張が走る。
「暴れる獅子舞を1本の破魔矢で確実に仕留めないとその1年は災難に見舞われるというお正月ですね……。開拓者の力を借りる、ということは本気ですね」
「クリスマスの時もそうだったけど、瑠璃はどこでそんな知識仕入れてんの……?」
 何はともあれ。
「楽しい新年会にするとしますかー」


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
ルーディ・ガーランド(ib0966
20歳・男・魔
リリア・ローラント(ib3628
17歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰
捩花(ib7851
17歳・女・砲


■リプレイ本文

●新年
 新年会に参加するため、一家屋敷へとやってきた開拓者達。
「偶に息抜きしねぇと人間潰れるしなぁ……」
「……それは分かりますけども」
 北條 黯羽(ia0072)の言葉に、しかしと口を挟むのは少女騎士ローズ・ロードロール。
「私までお呼ばれしてよかったんですの?」
 彼女は依頼を受けてやってきたわけではない。
 参加者の1人が一家を通じて彼女に招待状を送ったのだ。
「……う、む。せっかくの新年会……人は多い方が……いい」
 招待状を送ったのは羅轟(ia1687)だ。今回はまるごとらいおんを着こんでの登場だ。新年会でもまるごとシリーズとは実にブレがない。
 やはりというべきか、周囲と比較しても非常に浮いている……が、羅轟にとっては慣れたことなのだろう。平静そのものだ。
 ……気分転換になれば、よいが。
 彼は以前に参加した依頼でローズ宛の荷物を護り切ることができなかったのをずっと気にしていた。
 実際に会ってみると、やはりというべきかローズの表情に以前よりも影が見える。まだその時のことをいくらか引き摺っているのだろう。
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない。せっかくのご飯をタカる機会……じゃない、えぇと、あれだ! 海老を食べる機会なんだから! ……うん?」
 宴といったらおいしい料理。何よりも豪勢な食事が食べられるかもしれないと思わず涎を垂らしながら豪語する捩花(ib7851)。
 彼女を見ていると遠慮していることが馬鹿らしくなったのか。ローズはため息ひとつ吐いてから、小さく笑みを浮かべる。
 そうこうしているうちにからくりメイド――瑠璃に案内されて、一向は宴会場へと移動するのであった。

 宴会場に案内されて少ししてから、あまり乗り気ではない顔の三成とそんな彼の背を押す正澄がやってきた。
「うぃーっす、あけおめー」
「……あけましておめでとうございます」
「よう、明けましておめでとう。今年も色々世話になると思うけど、よろしく頼むぜ」
 ルーディ・ガーランド(ib0966)に声をかけられ、見知った顔がいることで気が楽になったのか三成の顔が少し緩む。
「……こちらこそ、お世話になるかと思います……?」
 語尾に疑問が含まれているのは、別にルーディに問題があったわけではない。
 彼の背に隠れている少女……リリア・ローラント(ib3628)が、隠れながらもこちらをじーっと見ていることが気にかかったからだ。
 視線が自分に向けられていることに気付いたリリアは慌てたようにルーディの背に完全に隠れてしまう。
 勢い任せに三成に会いにやってきたリリアであるが、とある事情からあたふたして話しかけられないでいるのだ。
 ……私のこと、覚えてるかな。忘れちゃってる……か、な。
 しかしリリアの事情が分からない三成は、ルーディの背でもごもごしている彼女を不思議そうに見るだけだ。
 こうして会話をしている三成の隙をついて……というのもおかしな言い方だが。緋那岐(ib5664)はこそりと正澄の傍へ行くと、何事か小声で提案をする。
「ふっふっふ、――というのはどうだ?」
「面白そうではあるけど……用意はあるのか?」
「そこは任せてくれ!」
 ぐっといい笑顔で親指を立ててみせる緋那岐。嫌な予感を感じたのか、三成が体をぶるっと震わせるがもう遅い。
 ちょうど部屋に入ってきた瑠璃に正澄がなにやら伝えると、頷くことで了解を示したからくりメイドは三成に声をかける。
 怪訝な様子で瑠璃に連れられ別室へと移動する三成。
 しばらくの後、宴会場に戻ってきた2人の格好は部屋を出る前とは異なるものであった。
「おー、似合ってるじゃん」
 2人が着ているのは色鮮やかな振袖だ。事前に緋那岐が持ち込んだものである。
「……断るのも悪いので、一応着ましたが……」
「私まで……良かったのですか?」
「ま、俺が世話になってるのは呉服屋なんで、どーって事ないわけ。それに瑠璃にとっては初めての正月だろ?」
 やや申し訳無さそうにしている瑠璃に、気にする事ないと緋那岐が軽く手を振る。
 人間らしく動き喋る瑠璃を見て、リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は感心したように言う。
「ふぅん……この子がねぇ。近くで見るのは初めてなんだけど、すごいのね」
 カラクリ自体には興味はない……とはいうものの。老いる事もなく生きている存在――命と呼べるかどうかはまだ分からないとはいえ、その仕組みは気になるかもしれない。
 そんな年頃の魔女さんなのであった。

●宴の始まり
「そんじゃまー、あけましておめでとうございます」
「あけましておめとうございます」
 宴の主催者である正澄が乾杯の音頭を取り、参加者もそれに合わせる。
 テーブルの上には正月らしく豪勢に海老などが入った御節が広げられており、酒もしっかりと用意されている。
「天儀の正月は2回目だけど、中々風情がある……と言いたいんだけど。あれは何なのかしら?」
「え、宴といったらこういうのはお約束じゃないですか?」
 杯に注がれた酒を飲み干したリーゼロッテは酒を注ぐか食事に箸を伸ばそうかとして、テーブルの端の方に置かれているナニカに気付く。
 蛇や蛙を材料として、とりあえず調理してみました……そんな明らかに雰囲気にそぐわないゲテモノ料理が鎮座しているのだ。
 他の者はすぐに視線を逸らして見ないようにするが、捩花だけはニコニコと間違ったお約束を語る。
「捩花様より要望があり用意させていただきました。宴席にはこのような料理も必要だと知ることができて良かったと判断します」
「えぇと、その知識は間違ったものですので今すぐ忘れた方がいいですよ?」
 実際に料理を用意した瑠璃の誤った学習をすぐさま訂正させる為にフレイア(ib0257)はツッコミを入れる。
 一体どちらが正しいのか分からず首を傾げる瑠璃にはしっかりと教える必要がありそうだ。
「……いつのまにか瑠璃さんが穢れている気がしてお姉さんは哀しい」
「え、そ、そこで俺を見るの!? 俺はなんもしてないぞ!?」
「しっかし、実際あれはどうするさね? ……おっと、お、おぉ、と」
 黯羽は醤油をつけた餅が予想以上に伸びて噛み切るのに苦戦しつつ、ゲテモノ料理を指差す。勿論彼女自身は食べるつもりは一切無い。
「……解毒なら、してあげるわよ?」
「解毒を必要とするのなら、それはもう料理と言えないと思いますわ」
 あれを食す勇者がいれば手を貸そうとリーゼロッテが言うが、誰も手を挙げない。理由はローズの言う通りだろう。
「えー、そんなにハードル高いかなぁ?」
 というわけで一番最初に箸をつけたのは要望をした本人である捩花。笑顔で食べていることから、ゲテモノでもいける口なのだろう。
 だがこれを自分だけで味わうのは勿体無いとでも考えたのか。それとも単に場を盛り上げる為か。うん、と頷いて宣言する。
「おぬしをゲテモノの刑に処すぞー!」
「やめんかい!!」

 さて、主催者の正澄と酒を酌み交わしながら雑談をするはフレイア。
「存外お元気なご様子ですね」
「んあ、正月ぐらいはなー。頑張って元気にならんとなー」
「そこは頑張ってなんとかなるところなんですか……?」
 尤もさすがに健康を気にしてか、正澄の飲酒量は少なく、ちびちびと飲んでいるといった感じだ。
「そういえば……せっかくの機会ですし、三成さんが小さい頃はどんな子だったのでしょうか?」
「えっ、ちょ!?」
「んー、そうだなぁ……」
 みっちゃんの恥ずかしい話などに興味津々といった様子で切り出すフレイア。三成の慌てて止める声を聞き流して、正澄は腕を組んで考え込む。
「……可愛かったなぁ。あの頃はねえさ――兄様兄様って俺の跡をついてくるんだよなぁ」
「何恥ずかしいこと言ってるんですかー!?」
 さらりと妙なことを口走っていたような気もするが、それを追及するより先に三成が抗議したことではちゃめちゃになったのであった。

●余興
 宴も盛り上がってきたところで、羅轟が余興の準備ということで席を立つ。
 それからしばらくして、部屋に戻ってきたのはまるごとらいおん姿の羅轟ではなく――
「あ、あれは……!?」
 真っ先に反応したのは瑠璃だ。
 そう、現れたのは彼女にとって恐るべき相手――赤い顔に緑の胴体を持つ獣、獅子舞!
「不幸を招く暴れ獅子舞がこのようなところに……!」
「いや、だから皆なんで俺を見んの!?」
「てか三成。……アレ絶対正澄の影響なんだろ」
「ちっくしょう、グレてやるー!」
 瑠璃に妙な知識を教え込んだ犯人は誰だと、その場の視線が正澄に集まる。皆の代表として意見したルーディの言葉に三成は否定することなく。正澄はぶわっと泣きながら部屋を飛び出したのであった。
「あ、放っておいていいですよ」
「……いいんだ」
 そんなことはさておき。
 獅子舞の正体は羅轟だ。どこからか取り出した立て札を使い、獅子舞の説明を行う。
『獅子舞に頭を噛まれると賢くなるとか邪気を払えるとか言われてます』
 なにやら誤解をしている瑠璃を安心させる為にも三成を楽しませるためにも荒ぶる獅子舞。黯羽が三味線を、捩花が横笛を演奏することで場を盛り上げる。
「ってぇ、随分と腕が鳴る演奏だね……!」
「そうですか? ぴーぽー♪」
「ライオンダンス……!」
 お世辞にも上手いとは言えない捩花の即興演奏に、黯羽が何とか合わせることで無理矢理聞ける曲へと矯正していく。
 また曲に合わせてリリアがブレスレット・ベルを鳴らしながら羅轟の周りをぐるぐると回る。
 さらに、
「神の使いに邪気を祓……てより、食って貰うっつーことで?」
 何故かもふら様を思い浮かべた緋那岐がもふらの舞いをすることで、会場は獅子舞なのかなんなのかよく分からない状況になっていた。
 そして獅子舞といえば先ほど羅轟が立て札で述べた通り頭を噛むことでの厄除けだ。
 そのお手本として、リリアが真っ先に噛まれようと獅子舞の前に立つ。
「……ばりばり……むしゃー……」
 しかし、天儀の人間ではないリリアも獅子舞に噛まれることは初めてなのか。これはまるで……と妙な考えが頭をよぎる。
「は。これはまさか、無病息災の為に羅轟さんへ生贄を捧げる、儀式……?」
「生贄――やはり危険な存在なのですね……!?」
 そうと分かれば危険な獅子舞から客人を救う為にと瑠璃は己が全力を解放する……!
「リミット・ブレイク――!」
「な……目の色、変わって……む、オーラ……!?」
「私の拳を……破魔の矢といたしましょう――!」
 ちゅどーん、と派手に吹き飛ぶ獅子舞なのであった。
 ちなみに瑠璃の誤解に関してはこの後全力で解いたのでご安心を。

 正月遊びということで、羽根突きをしたり、書初めをしたり。
「羽付きは……くくっ、俺は負けないっ」
「わ、私だって負けませんわよっ!」
 負けず嫌いのローズが本気で叩き込む羽根はとても正月遊びと言えないような事態を引き起こしていたりしたが。
「ん……『望』と。私の望む未来を手繰り寄せられるように、ね」
「我は……『進』だ」
 進む事を躊躇うべからずとの思いを込めた羅轟の書初め。字は違えどリーゼロッテと同じく前を見ている開拓者らしい思いかもしれない。
 そんな彼らを座って眺めている三成……を更に見つめる少女、リリア。
「……で、リリア。お前何してる」
「ひゃっ!?」
 喋りたいなら喋ればいいのに、とルーディが背を押すことで少女は三成の前に出ることになる。
 さすがにここまで来て話さないわけにはいかないと、リリアは必死になって言葉を探す……が、中々出てこない。
「えと、あの……その」
「……?」
「こ、これ!」
 迷った末に彼女が取った行動は、三成に物を渡すというものだ。
「これは……お守り、ですか?」
「あなたが、息災でありますように……って」
 手の中のお守りを確かめるように見ていた三成が、ふと小さく笑みを見せた……ような気がした。
「……二度目、ですね」
「え――」
 覚えてた。覚えていてくれた。
 以前、お守りを渡した事を。
 その事が分かって、リリアは無性に嬉しくなり思わず三成に飛びつくように抱きつく。
「な、なななな、なんですか!?」
 顔を真っ赤にして慌てる三成だが、三成ともっと仲良くなりたいリリアは離そうとしない。三成を女性だと勘違いしてるからできる大胆な行動であった。
「え、えぇぇ、何がどうなってるんです……!?」

●終宴
 さて、盛り上がっている宴席とは違い静まり返った屋敷の執務室。
 そこに瑠璃に案内されてフレイアがやってきた。
「ん、どーした?」
「あら、正澄さん」
 待ち受けていたのは宴会場から飛び出していた正澄だ。彼の目の前には書類が山積み状態になっている。
「せっかくですから何か三成さんの手助けになることができればいいと思ってきたのですが……」
「また物好きだなぁ」
 会話をしながらも、正澄の作業の手は止まってはない。相当なスピードで書類を片付けながら正澄は少し考えてから、口を開く。
「んじゃ見せていいのを回すから、分類して整理してくれないか?」
「了解しました」

 戻って宴席。
 余興なども終わり、再び酒の席に戻っていた。
 宴が始まる前に比べたら随分と明るくなっているローズに、羅轟が自分の住所と連絡先の記された紙を渡す。
「……償いになるとも思えんが、何かあれば、ここに来るか、手紙でも、出してくれ。すぐに駆け付ける」
 少し驚いた様子のローズだったが、羅轟が以前の事件のことで自分に気を遣っていると分かり、微笑みながら受け取る。
「ふふっ、頼らずともなんとかしてみますが……ありがたく受け取りますわ」
 しかし、
「その格好では……しまりませんわね」
 くすりと笑うローズを見て、笑ってもらえたのならそれはそれでいいかと考える羅轟であった。

 さて、宴の主役ともいえる三成だが。
 ルーディや黯羽に酒を注がれては一気に煽っていた。
「うぅ……まったく、面倒事が多過ぎる……! なんでもかんでも押し付ければいいと思ってるんじゃないですか……!」
「そうさなぁ……。ほら、せっかくの機会だ。不満があるならぶちまけちまいな」
「普段色々大変そうだしなあ。たまには息抜きも大事だぜ……無理にでも暇作ったりとかさ」
「無理に暇を作れば、そこに仕事をねじ込まれる生活なんて……!」
 うっうっ……と愚痴を零しては酒を煽る三成。一般成人であればとっくに倒れてもおかしくない酒量だが平然としているように見える辺り、酒には異常に強いのかもしれない。
 ……こ、これは付き合う方が大変そうだぞ!?
 三成に付き合ってダウンした者は自称優しい巫女さんであるリーゼロッテがアムルリープでお休みさせてあげるのであった。


 宴が終わってみれば、付き合って死んだように眠る者も現れたものの、三成の気分転換にはなったといえる。
 妖精さんがある程度仕事を片付けたこともあって、三成の正月はある程度余裕ができたらしい。