【四月】超WT大戦
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 37人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/19 20:19



■オープニング本文

 精霊門。
 遠く離れた地へ一瞬で移動する事ができるというものだ。
 今はまだ同じ世界の門同士しか繋げる事のないが‥‥もしも。

 精霊門が違う世界と繋がった時、何が起きるだろうか?

 天儀暦1010年。
 ――世界が崩壊した。


「‥‥ここは?」
 そう呟いたのは1人の女性。
 青い髪を短めに整えており、その顔からは感情を窺うことはできない。
 服はいわゆるメイド服なのだが、何よりも特徴的なのは両腕に装備されている、金属製の篭手だろう。
 いや装備しているというのは語弊があるかもしれない。何故なら、その篭手は彼女の体の一部なのだから。
「困ったことになりそうですね」
 彼女の名はエルオール。
 神魔が戦う世界の住人だ。
 だが、エルオールが今いる場所はその世界ではない。
 天儀、神楽の都‥‥精霊門の1つがあった場所である。


 同じ頃、天儀のとある場所。
「おい、トマス。どういう事だと思う?」
「どういう事‥‥ですか」
 トマスと呼ばれた人物は、考え込むように腕を組む仕草を取る。
 その姿は全身を覆うような衣、深く被られたフードによって隠されており、男か女かすら分からない。
「大体の推測はできていますが‥‥バルトロマイ、あなたはどう思いますか?」
「あぁ、多分テメェと同じだよ」
 トマスの問いかけに乱暴な口調で返す、バルトロマイと呼ばれた人物。
 バルトロマイはトマスと違い、姿を隠していない。体つきや顔から察するに‥‥女性だ。
 銀色に輝く髪は足に着く程の長さであり、鋭い目は彼女の辛辣な性格を現すようである。
 動きやすさを考慮してか、体にぴったり合うスーツのような服を身にまとっており、少々露出が多いといえる。
 2人に共通しているのは背に生えた翼と、圧倒的な神々しさ。
 彼らは権天使と呼ばれる、神帝軍に属する天使。
 そして――
「私達は――」
「オレたちゃ――」
 ――この世界に飛ばされた。
「私達だけではありません」
 翼をはためかせ、空を飛んでいる2人が背後を見る。
 そこにあったのは空に浮かぶ巨大な城。直径2キロになろうかというものだ。
「ギガテンプルムまで転移しちまうとはな‥‥」
「転移の影響か、絶対不可侵領域の機能が停止していますが‥‥ひとまずは問題ないでしょう」
 そこまで話し、現状を確認し終わったのだろう。
 2人はこれからどうするか相談しはじめる。
「どーする?」
「といっても、元の世界へ戻る方法を探すしか‥‥」
「どうせだからこの世界を支配するってのはどうよ?」
「この世界を?」
「ここにも感情を持つ人間がいるようだしよ。元の世界に戻るのはオレ達の使命を果たしてからにしようぜ」
 神帝軍の使命。それは人間を支配し、正しく導く事。
 その為には感情搾取など、どのような手段も厭わない――。


 精霊門があった筈の場所。
 現在、そこには何も無かった。ただ、建物などが吹き飛ばされた跡が残るばかりだ。
「っつぅ‥‥一体なんですか、これは」
 瓦礫の下から、黒い全身鎧を纏った人物が這い出てくる。
 完全に瓦礫をどけ、立ち上がったその人物が被っていた兜を脱ぐ。現れた顔は整った顔立ちの女性のもの。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
 長い金髪を振り乱して周囲に呼びかける女性。
 イギリス王国が円卓の騎士――エクター・ド・マリス。
 彼女の声を聞いてか、瓦礫の下から何人もの人物が這い出てくる。どうやら彼女が知る者は全員無事のようだ。
 それを見て安堵したのも束の間、遠くから大勢の人間が走ってくるのが目に見えた。

「‥‥天儀?」
 エクターが、集まってきた者達から話を聞いた時の第一声がそれであった。
 話を聞いたところ、精霊門なる施設から異常なエネルギーを観測し、周辺の住人は全員避難した後に、謎の爆発が起きたそうだ。
 その跡地にいたのがエクター達というわけだ。
「我々は新たに現れたという月道の調査の為に派遣されたもので‥‥」
「月道? なんだそりゃ」
 どうも話が通じない。
 ふと、調査に同行していた冒険者の1人がある考えに辿りつく。
 もしやここはアトランティスと同じような異世界なのではないか、と。
「異世界――天儀」


 同じ頃。
 魔の森に渦巻いてる瘴気が、一点に集まっていき形を成していく。
 その瘴気の量はすさまじく、まさに魔の森にある全ての瘴気が集まっているといっても過言ではない。
 瘴気はやがて人の形へ‥‥いや。
 悪魔の形へと姿を変える。
「我は、ルシファー。魔界を統べる皇帝なり――」
 それは瘴気によって姿を現したアヤカシ。
 恐らくは、異世界にて封印されている魔王ルシファーの怨念が、何らかの形でアヤカシとなったのだろう。
 どうやらその事はルシファーアヤカシも理解しているようだ。
 しかし。
「例えこの体が偽者だとしても我が意思は本物。ならば、我は本物として世界に負の力を満たす‥‥そして」
 地獄の皇帝ルシファーが、天儀の大地に立つ。
「青銅の門を、開く」
 悪夢は力となり、現実へと姿を変える――。


「でよ、これはどういう事だと思う?」
「俺に聞かれても正直困る」
 異世界からの乱入者が現れた。
 この情報が天儀を駆け巡ると同時、巨大な城が浮かんでいる情報や、見たことのない化け物が姿を現したという情報も流れている。
 そのような状況で、新たな来訪者が現れた。
 来訪者は、能力者と呼ばれる、エミタを体に移植する事で戦う力を得た者達であった。
 また彼らだけでなく、強化人間と呼ばれる存在やワームと呼ばれる存在が確認されたという。
「さっさと元の世界に戻りたいが、まずはこっちで暴れてるやつなんとかするか」
「俺としては異世界のディアブロ見れただけでも十分なんだが」


 こうして、人類支配の為動く神帝軍、完全復活を目論むルシファー、便乗とばかり暴れるバグアとアヤカシ。
 これらと戦う為、1つの同盟が組まれる事となる。
「というわけで、異世界にきてまで迷惑をかけている困ったバルトロマイとトマスを倒しましょう。どうせ出番が無かったから暴れてるに違いありません」
「え、ちょ、エルオールさん!? 何言ってるんですか!?」
「また、我々としてはあんな風に暴れているルシファー様は偽ルシファー様と考えたいと思います。よって容赦なく倒してください」
「いや倒さなくていけない事には違いないんですが!」
「『俺達の戦いはこれからだ!』エンドや、『霊体の緋雨様の秘術によって全部元通り』エンドといった終わり方も十分ありえますので、無理に決着をつける事を考えずクロスオーバーを楽しめばいいと思います」
「言いたい放題ですね!? というかどっちも投げっぱなし前提の終わり方じゃないですか!?」
「それでは皆さん、よろしくお願いいたします」
 深々と礼をするエルオール。
 実にマイペースな彼女に、一同は唖然とするのであった。


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


■参加者一覧
/ 風雅 哲心(ia0135) / 三笠 三四郎(ia0163) / 犬神・彼方(ia0218) / 音羽 翡翠(ia0227) / まひる(ia0282) / ヘラルディア(ia0397) / 百舌鳥(ia0429) / ルーシア・ホジスン(ia0796) / 佐上 久野都(ia0826) / 鳳・陽媛(ia0920) / 秋霜夜(ia0979) / 氷海 威(ia1004) / 氷(ia1083) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / ルオウ(ia2445) / 周太郎(ia2935) / 痕離(ia6954) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 一心(ia8409) / 草薙 慎(ia8588) / ジェシュファ・ロッズ(ia9087) / 贋龍(ia9407) / 明夜珠 更紗(ia9606) / 草薙 玲(ia9629) / ベルトロイド・ロッズ(ia9729) / アリカ・フェルブランド(ib0029) / 猫宮・千佳(ib0045) / アグネス・ユーリ(ib0058) / リディエール(ib0241) / ハッド(ib0295) / 樋口 澪(ib0311) / フィーナ・ウェンカー(ib0389) / 不破 颯(ib0495) / フリーデライヒ・M(ib0581) / 岩宿 太郎(ib0852) / ウリハム・ソル(ib1110


■リプレイ本文

●集う人々
 天儀本島。
 そこは今、まさに混沌に飲み込まれていた。
「‥‥ん?」
 それを表すかのように、森の中を散歩していた不破 颯(ib0495)の目の前に、何かが落ちてくる。
 小型の飛空挺のような、それでいて車輪がついていて‥‥彼の知る常識の外にある巨大な何か。
 ナイトフォーゲル・HL12500・ヘルヘブン250――それが落ちてきたものの正体。
 天儀には存在しない筈の機動兵器。
 コクピットのハッチが開く。
「なんだこりゃぁって、人ぉ!? 大丈夫かぁ?」
 中から姿を現したのは、全身傷だらけの傭兵。ヘルヘブン250が落ちてきたことから、何らかの攻撃を受けたのだろう。
 傭兵は、心配した様子でこちらを見る颯の腕をこれ幸いと掴む。
「俺はもうだめだ。俺の代わりにやつを‥‥頼む!」
「え、ちょ!?」
 そのまま腕を引っ張られ、気づけば颯は操縦席へ。
 ブースターに、火が点る。
「おいおいおいこれどうすりゃいいんだよおぉぉ!?」
 ヘルヘブン250が、飛んだ。
 エミタの無い颯に何故それが動かせるかは分からない。もしかしたら志骨が代わりを果たしてるかもしれない。
 細かい事はいい。
 今重要なのは颯の乗るヘルヘブン250が飛び‥‥そして、目の前に敵がいるということ。
 鎧のような、人型の巨兵――ネフィリム。
 天使に導かれたグレゴールが操るそれが、剣を振るう。
「って何か来たんだけどぉ!?」
 直感で回避。
 そして、彼が銃を放つビジョンを想像すると同時、ヘルヘブン250が火を吹いた。
 火砲に晒されるネフィリム。直後、空から別の火線がネフィリムへと集中し‥‥爆発した。
「は〜死ぬかと思った。てか何が起きてんだぁ?」
 目の前の敵が排除されたのを見て、一先ずの安堵を得る颯。
 そんな彼の耳に、通信音声が入る。男の声だ。
「えーと、大丈夫か?」
「あ、あぁ‥‥。あんたは?」
「俺か、俺は――」
 男は名乗る、ストライクフェアリーの能力者、氷海 威(ia1004)だと。
 先程のネフィリムに援護を加えたのも彼らしい。 彼が駆るのはKVディアブロ。
「北米上空で戦闘中だったのに‥‥何で俺、日本人になってるんだろう‥‥」
 疑問はそれだけではない。
「なんかバグアまで和風になってる‥‥」
 周囲の空を見れば、アヤカシが辺りを飛んでいた。アヤカシとバグアは別物だが、彼にとっては区別がつかないのだろう。
 そんなアヤカシやバグアを撃墜していく多くの機体。様々な機動兵器や人型ロボが空を飛んでいた。
 彼らは知る。
 今、世界は彼らの知る世界では無いのだということを。

 颯と同じように、この世界に混乱している者は多くいた。
「せっかく魔皇様と静かに暮らしていたのに、ここは一体どこなのですか‥‥!」
 セイレーンのリディエール(ib0241)もその1人だ。
 幸いな事に元の世界の仲間である紫の魔皇の岩宿 太郎(ib0852)、ウィンターフォークの秋霜夜(ia0979)と出会ったからいいものの、まるで現状を把握できていない。
 近くに池を見つけて、これ幸いと流伝の泉の要領で仲間と連絡し‥‥1人の人物と繋がった。
「はい、こちらエルオールです。御用のある方はピーという声の後に――」
「何故流伝の泉なのに留守電風なんですか!?」
「これは失礼しました。お声からリディエール様かと察しますが、間違いないでしょうか?」
「はい、そうです! 一体これはどうなってるんですか!?」
 問われ、エルオールは何が起こったかを説明する。
 それを聞いて、太郎が腕を組んで唸る。
「うぅむ、相棒と飛ばされた先は何か魔皇が敵の王道な世界だった‥‥いかん、さっさと帰らないとアッサリ狩られて最弱魔皇として歴史に残っちまう!」
「いえ、別に我々に協力してくれる勢力も多数あります。最弱かどうかは別としますが」
「そっちもきっちり否定してくれよ!?」
「ともかく、神帝軍も転移している以上、我々のすべき事はシンプルでしょう」
 エルオールに言われ、空を見れば確かにメガテンプルムが浮かんでいるのが見える。
 そして彼らはメガテンプルムを目指す事となる。

 神楽の都。
 転移した者の多くはそこに集まっており、エルオールもそこにいた。
「‥‥ふむ」
 水から顔を上げると、彼女は後ろを向く。
 そこに居たのは樋口 澪(ib0311)。13歳の白の魔皇だ。並ぶようにレプリカントのヘラルディア(ia0397)が立っていた。
 口を開いたのは澪だ。
「えと、どうでしたか?」
「メガテンプルムに向かうようですね。他の多くの魔皇様方も、同じくです」
 それを聞いて、澪とヘラルディアは顔を見合わせる。お互い、本来のパートナーではないのだが同郷の者という事で行動を共にしていた。
 意思を確認するように目を合わせ、頷く2人、
「澪様、ここは私達もメガテンプルムに向かうのが良いと判断致します」
「はい、分かりました!」
 コアヴィーグルを召喚し、それに跨る澪とヘラルディア。
 澪の背につかまりながら、ヘラルディアは転移前の世界に考えを馳せる。
(北海道が再統合されやっと落ち着きを取り戻したので、ボランティアに勤しんでいたのですが‥‥)
 この身は戦いから離れられないということだろうか。
 嘆息しつつも、まずは元の世界に戻る為にやれる事をやろうと誓うのだった。
 2人を乗せたコアヴィーグルは走り出す。
 その姿が見えなくなってから、エルオールは首を傾げるのであった。
「‥‥はて。弓様のご息女の澪様ならもう少し幼かったと思うのですが」
 世界の法則が乱れているのだ。
 きっと、10年後の世界からやってきた者がいてもおかしくはない。

「あらぁ? 月道通ったと思ったんだけどー」
 同じく神楽の都にてきょとんとした様子で周囲を見渡すジプシーのアニェス(ib0058)。
「不思議なとこに来たわねぇ、アトランとも違うし。ま、地獄があるなら異世界だってあるわよね〜」
 だが、異世界というものに耐性があるのか、納得は早い。
 同郷のエクターを見つけ情報交換の末に、現状を理解する。
「月道を抜けるとそこは異世界だった。といったところですか」
 エクターで遊ぶ為に‥‥というのは置いといて、ともかく同行し、天儀へとやって来る事になったフィーナ・ウィンスレット(ib0389)の理解も早い。
「まあ、サクっとぶち殺してサクっと帰るとしましょう」
「そーね、久しぶりに暴れましょっか!」
「あれ!? そういう理解の仕方ですか!?」
「え、間違ってるの?」
「いや、間違ってるというかなんといいますか‥‥!」
「さぁ、エクターさん。か弱い私のことはしっかりと守ってくださいませ」
 にっこり。
 天儀においても黒き魔女の微笑みは健在だ。
 有無を言わさぬそれに、今や円卓の騎士のエクターですら両手を上げるしかないのであった。

 こうして、数々の戦士達が戦場であるメガテンプルムへと向かった。
 神楽の都に残ったエルオールや、他のバックアップのメンバーは彼らの背を見送るのだった。
「‥‥ところで、歩美様。意外と、魔凱を借りるという魔皇様‥‥いませんでしたね」
「魔凱は甘え、的な考えでもあったんじゃないかなぁ‥‥。べ、別に寂しくなんてないですよ?」

●新たな仲間
 空に浮かぶメガテンプルム。
 とはいっても、地上から攻める事も不可能でない為、大勢が地を駆けていた。
 コアヴィーグルを走らせている澪やヘラルディアがいい例だろう。
「‥‥やはりすんなりとは行きませんか」
 彼女らの目の前には多くのサーヴァントが立ちはだかっていた。
 勿論退く気は無い。向かってくるなら倒すまでだ。
「ポザネオ!」
 ヘラルディアの声に従い、猫型魔獣殻のポザネオがパイルバンカーへと姿を変えて彼女の腕に装着される。
 それによる一撃は、例え逢魔の彼女でもサーヴァントを易々と葬り去った。
 澪は3つのディフレクトウォールで守備を担当する‥‥が。
「数が多いです‥‥っ!?」
 1体の狼型サーヴァントが盾を抜け、澪に飛び掛った。
 が。
「っと、そうはさせねぇぜ!」
 横合いから飛び出してきた少年が、それを一刀の元に斬り捨てた。
 それを見て、サーヴァント達は少年も敵と認識し、次々に彼へと襲い掛かる。
「うっわ、なんだあ? 変な奴等が一杯来やがって…あんなゴツそうなアヤカシ見た事ねえよ‥‥でも暴れようってんなら相手になるぜぃ!」
 彼の名はルオウ(ia2445)。この世界に住むサムライの1人。
 敵を次々と斬り伏せながら、彼は澪達へと声をかける。
「おい! お前らは悪い奴じゃないんだな?」
「‥‥この状況を何とかしたいという意味なら、悪いやつではありませんが」
「なら正義の味方なんだな? じゃあ俺らと同じだぜ! 一緒に頑張ろうぜ!」
 正義の味方。
 魔として色々あった身だが、そうすっぱりと言われてしまうと嫌な気分はしない。
「おっと、あんたらは‥‥味方か!?」
 そこに更に新たな人物が現れる。明夜珠 更紗(ia9606)‥‥イギリス出身のウィザードだ。
 彼女が何かを詠唱したかと思うと、サーヴァントの影が爆発し、ダメージを与える。
「あんたは‥‥俺達の世界でいうウィザードか」
「その通り!」
「よっし、じゃあ火とか氷の魔法での援護頼むぜ!」
 ルオウの提案に、更紗は肉付きのよい胸を張り――
「だが断る!」
「なにぃ!?」
「何故なら私はまだ月魔法しか使えんからな!」
 彼女は元々バードであり、最近ウィザードに転職した為、このような事になっているそうだ。
 だが、わざわざ胸を張ってまで言うことではない。
「ま、それならそれでやる事はしっかりやるからさ」
 そして彼女は詠唱を初め――
「月は出ているか!?」
「出ていません」
 逃げ惑うのであった。

 時を同じくして、別の場所でも新たな出会いがあった。
(我が主は何処に‥‥時空が捩れた瞬間に感じた主の気配。ここは、この世界は‥‥)
 執事服を纏う1人のナイトノワール。名はクノト(ia0826)。
 そんな彼が不思議な感覚‥‥スピリットリンクに従い、空を飛んでいると1人の少女が目に入った。
 その少女を複数のグリフォン型サーヴァントが囲んでいる。
「え‥‥アヤカシなの?」
 見たことの無い存在に怯え、戸惑う彼女の名は鳳・陽媛(ia0920)。
 彼女を追い詰めるように、サーヴァントがじりじりと距離を詰める。
 戦うべきか逃げるべきか‥‥どうしようかと考えたその瞬間、銃声が鳴り響いた。
 直後、力を失ったように倒れるサーヴァント。見れば、頭部が撃ちぬかれている。
「やっと見つけた‥‥我が主」
「え?」
 クノトが陽媛を守るように、彼女の前へと降り立つ。
 そして展開される重力の檻。強力な重力で動けなくなったサーヴァントを、クノトは確実に排除していく。
 全てのサーヴァントが排除され、クノトが振り向いた時、陽媛は信じられないものを見た。
「兄さん‥‥!?」
 振り向いた彼の顔は、彼女に義兄の顔と瓜二つ。
 だが、クノトの反応は首を傾げるだけで鈍いものだ。
「え‥‥? 兄さん‥‥じゃ、ない‥‥の?」
「申し訳ありません‥‥」
 クノトは語る。自分がどこから来たのか、自分はどのような存在なのか。
 そして、陽媛がクノトにとっての主‥‥魔皇なのだと。
「異世界に住むわが主。ならば貴女の世界を守る為に戦いましょう」
 普通なら信じられない言葉かもしれない。
 しかし、陽媛は信じる事ができた。
 兄とそっくりな存在だからかもしれない。そして何より、スピリットリンクを感じることができた――!
「いきましょう‥‥!」
 覚醒。
 天儀の世界に魔皇の素質を持つものがいたのか。それとも世界が交ざる事で何らかの上書きが起きたのか。
 それは分からない。
 今確かな事は、新たに呼び出された殲騎が空を駆けるということだけだ。

 他にも多くの人々が共闘していた。
 この世界の志士、風雅 哲心(ia0135)もその1人だ。
「随分とまぁ、けったいなもんが現れたな。ま、この世界で好き勝手させるつもりはないけどな」
 言うが早いが、目の前にいた3体の下級デビルは光の粒子となっていた。彼の剣術の賜物である。
 彼が悪魔を斬る傍ら、天使を集中的に攻撃している者達もいた。
「神を騙る愚者達は此処でも侵略ねぇ。そろそろ痛い目にあわせないと駄目かな?」
 ジェシュファ・ロッズ(ia9087)が真魔皇殻で弾幕を張り、その隙間を縫うよう動く敵を真フォビドゥンガンナーで狙い撃つ。
「支配なんてどうしたって抗われるものさ。天儀の支配なんて寝ぼけた考えなんて吹っ飛ばしてやる!」
 それでも逃れた敵は、ベルトロイド・ロッズ(ia9729)が即座に接近し、斬り捨てていた。
 双子ならではのコンビネーションといえる。それによって多くのグレゴールを撃退していた。
 ‥‥が、それを見て哲心が疑問に思う。
「なぁ、お前らってこの世界の開拓者‥‥だよな?」
「うん。その筈だけど、ね」
 だが、それでも覚えているのだという。
 神帝軍への怒りを、憎しみを。神を騙る者の支配への否定を。
 きっと、彼らも何かが上書きされた結果、記憶と魔皇の力を手に入れたのだろう。
 とはいっても、中途半端な存在だからか、本来の魔皇に比べると幾分か劣る。それでも撃退できているのはやはり連携か。

「いよ‥‥っと!」
 同じくこの世界の開拓者、まひる(ia0282)。
 彼女の相棒の竜の七光との連携で敵を撃退していた。
 空を飛んだかと思うと、次の瞬間には目前に迫る蹴り。アクロバットの動きで翻弄している。
 巧みな連携という点ではロッズ兄弟と同じだが、違いがあるとすれば、
「そーれっ!」
「ぐっ!?」
 蹴り飛ばされたグレゴールが敵わないと見てか、背を向けて走り出す。
 だが彼女はそんな敵を追おうとはしない。
 あり得ない事が起きる夢の世界ならば‥‥甘くたっていいじゃない、と。
 この世界はあり得ない事が起きる世界。
 彼女は身を持ってそれを体験する事になる。
「――っ何!?」
 彼らの目の前に、巨体が立つ。
 それはバグアが誇る巨大兵器の一つ、ゴーレム。
 名前こそは天儀にあるものと同じだが、その力はとても生身で太刀打ちできるものではない。
 ゴーレムが剣を振り下ろす。
 間一髪なんとか直撃は避けたものの、地に叩きつけられた剣は、地面を爆発させる。
「うわぁぁ!?」
 生身の彼らにとっては強力無比としか言いようの無い一撃。
 だが、それはゴーレムにとって他愛の無い一撃。
 無慈悲に、ゴーレムが迫る――が。
「ふふん、そうはさせないよ!」
 赤き巨体が、ゴーレムを蹴り飛ばした。
 ディアブロ改。能力者達が操るKV‥‥ゴーレムの本来の敵。
 その蹴りは先程までのまひるとまったく同じモーションで、
「‥‥あっちゃー。無茶させすぎたかな」
 着地したディブアロから、1人の人物が降りてくる。今の挙動でディアブロがイカれたらしい。
 降りてきた人物は、マントを羽織っていて何者か把握する事はできない。
 呆然とした表情で座り込みながら、まひるは問う。
「あ、あんたは‥‥?」
「何やってんだい、もう一人の私。ほらしっかり立って、しっかり戦いな!」
 マントの人物が、まひるの手を引いて彼女を引き起こす。
 その反動か、マントが外れた。
 マントの下から現れた顔、それは――まひるとまったく同じ顔。
 彼女もまた、まひる(ib1110)。能力者達の世界のまひるだ。
「って、えぇー!? ちょ、偽者ー!」
「おぉう。偽者か判断する為にいきなり胸を揉んでくるとはさすが私だね!」
「くっ、この反応と胸の感触‥‥間違いなく私だね!」
「って、馬鹿やってる場合じゃないか」
 言われてみれば、先程蹴り飛ばしたゴーレムが起き上がろうとしていた。
 蹴りのダメージのお陰で動きは鈍い。今なら生身でも倒せるだろう。
 ここに、2人のまひるのタッグが組まれる。
 合言葉は、
「「おっぱいぶつけんぞてめー!」」

 1体のKVがゴーレムを撃ちぬく。
 次のゴーレムへ。次のゴーレムへ。次へ、次へ、次へ次へ次へ。
 次々と敵を打ち倒すKVを駆るのは紅 アリカ(ib0029)。能力者だ。
「‥‥何があったのかは知らないけど、大変なのは理解したわ」
 分かることは、目の前に敵がいるということ。
 KVを使った戦闘中にこちらに飛ばされた為、戦闘自体は問題ない。
 むしろ、目の前の敵は自分の世界で直前まで戦っていた敵にすら見える。
 ならば、世界が違えどやるべき任務をこなすだけだ。
「‥‥相手が誰であろうと3枚に下ろす。それだけね‥‥」
 今の彼女を止められる者は、この場にはいない。

 とはいっても、KVや殲騎を使える者は限られている。
 少数でワームやネフィリムを倒すのは中々難しい。
 そんな様子を見て、1人の女性がニヤリと笑う。
「ふん、大体わかった。俺が、かつて通り過ぎてきた世界たちの残照か‥‥」
 彼女の名は巴 渓(ia1334)。
「だが今の俺は、この世界の住人。この世界が俺に求めてくる‥‥通り過ぎずに戦う事をな!」
 彼女は言葉の通り、この世界の住人だが、やはり他の一部の者と同様何かが上書きされているのだろう。
 そして、彼女は自分が新たに得た力で戦いに身を投じる。
「この世界が俺に与えた切り札、遣わせて貰うぞ! 出ろぉぉっ、ガンドアァァァームッ!!」
 叫ぶと同時、指を鳴らした彼女の背後に、巨大な鎧のようなものが出てくる。
 これが彼女の切り札、ガンドアーム。所謂ゴーレムの一種、巨人機だ。
 どうやって手に入れたのか、どこから出てきたのか。そういうのは気にしちゃいけない。色々と上書きされた結果だ。
「まずはあのメガテンプルム‥‥懐かしくも忌々しいボロ小屋を叩き潰す! バトルファイト、レディィゴォォォッ!!!」
 巨人機が、メガテンプルムへと向けて飛ぶ。

●異界の者が集う戦場
 さて、戦場は空へと移る。
 勿論空を駆ける者の殆どは殲騎かKVだ。
 礼野 真夢紀(ia1144)と音羽 翡翠(ia0227)もその例に漏れず。
「‥‥確か私黒の魔皇の筈なんだけど」
 そう呟く真夢紀だが、彼女の体に浮かぶ刻印は黄金のもの。彼女が駆る殲騎はペインブラッドではなくディアブロだ。
 色々あったのだろう、こちらに転移してくる時に。
「私の種族はそのままですけどね。背後が――きゃぁっ!?」
 翡翠が何か言おうとした時、背後から攻撃を受けた。まるで余計な事は言うなとでも言いたげな一撃だ。
 何はともあれ、襲い掛かる敵は倒すのが彼女達の役目。
「1太刀でも良い、浴びせたら後は続く皆がきっと勝ってくれるから」
 道さえ作れば‥‥メガテンプルムに、そしてルシファーへとたどり着く者が現れる筈。
 ならば、自分は道を作る事に集中するだけだ。
「いくわよ!」
 超音速剣、超燕貫閃‥‥スピードを活かしたそれらの攻撃は、次々とワームやネフィリムを撃墜していく。
「世界が違うせいかしら、私でもちぃ姉様と同じ位に戦えるみたい」
 確かに、今の彼女の戦い方は黒ではなく黄金のもの。結果オーライといったところか。
 他にも多くのKVや殲騎が空で、道を作る為に戦っていた。
「あれが異界のディアブロ‥‥凄い!」
 驚いた様子の威が駆るのもまたディアブロ。だが彼のは殲騎ではなくKVだ。
 KVでは水陸機体のビーストソウル、いまだ開発途中のペインブラッドにガンスリンガー‥‥同じ名と意匠を持つ殲騎のそれを見て感動しているようだ。
 そんな彼の目の前を、1騎の龍が飛翔する。
「って、龍!?」
「ちょっ、待った待った!」
 思わず砲口をそちらに向けるが、直後に彼の耳に入るのは制止の言葉。よくよく見れば、龍の上に人が乗っている。
「俺は味方だ!」
「って、あんた俺達の世界の人じゃあ‥‥!?」
 威が驚くのも無理はない。龍の上に乗っていたのは一心(ia8409)。能力者だ。
「こっちに来た時にロビンが壊れてしまってな。そしたらこの龍に出会ったんだよ」
 怪我をした駿龍珂珀を見つけ、怪我の手当てをしたら懐かれて、今に至るというわけだ。
「キメラってわけじゃないんだな‥‥。それにしても色々いるなぁ」
「驚くのはまだ早いぞ、ほら」
 一心に言われ、彼が指差す方向を見れば、何かが飛んでいるのが見えた。

 【北十字隊】。
 異世界の者達が協力して作り上げた隊だ。
 まず目立つのは、1機のKVディアブロ。それが多くのアヤカシやキメラを追い掛け回していた。
「‥‥それで、何。アレをブッ飛ばしたらいいわけ?」
 パイロットはヘヴィガンナーの痕離(ia6954)。コードネームは【スペード】だ。
 機体の下部に取り付けられたスナイパーライフルが目の前のワームを撃ち落すのとは別に、次々と飛行キメラが地に落ちていった。
「ようは、蹴散らせば良い。って事だろ?」
 ディアブロの背に男が乗っていた。コードネーム【ダイヤ】、周太郎(ia2935)。
 高速で飛ぶそれに乗りながら、見事な術で細々とした敵を撃墜するのが彼の役目だ。
「‥‥大丈夫なのかな、この人」
「あぁ!? 何か言ったか! 風が強くて聞こえねぇ!」
「なんでもない」
 能力者でもこんな状況で戦うのは正気の沙汰ではない、とぽつりと漏らす痕離。
 だが、周太郎は気にしない。むしろ楽しそうに次々と術を放つ。
「はっ! たまにはこういうのも面白れぇもんだな!」
 戦う事が楽しくて楽しくて仕方がない、といった感じか。そんな彼の右目は、まるで蛇のような瞳孔になっていた。
「ふぅっ‥‥追い詰めたよ!」
 痕離が声をかける。機上の周太郎にではない。自機の遥か前方に向かってだ。
 そこにいるのはディアブロから逃げるように飛ぶ多くのアヤカシ、キメラ、サーヴァント。
 そして、
「それじゃ、追い込み漁といきましょー!」
「漁なら、消さずに確保しなくちゃいけないのかしら」
 2人の女性が生身で飛んでいた。
 【クラブ】の夜・黒妖(ia0218)と、【ハート】のデモリス(ia0429)。
 ナイトノワールであるデモリスの背に乗せてもらい、飛んでいるのであった。
 尤もこのままアヤカシ等を迎え撃つつもりはない。
 直後、2人の姿が鎧に包まれる。残酷の黒の証、殲騎ペインブラッドへと。
 ペインブラッドが、手を広げる。
「それじゃ、ゆっくりしんでいってね!」
「ゆっくりじゃなくても、死んでいってね!」
 闇の力による網が、向かってきたアヤカシらを全て捕らえる。
 後は簡単。撃つだけだ。
「俺のターン! 俺のターン! ずっと俺のターン!」
「馬鹿ねぇ黒妖。どうせなら相手にターンを渡しつつ、それでいて絶望させた方が楽しいじゃない」
「あ、それもあるね☆」
 きゃっきゃと2人は騒ぎながらも、決して攻撃の手を緩めない。気づけば周囲の雑魚は全て落ちていた。
 まさに悪魔という言葉が相応しい存在だ。

 さて、雑魚の相手は容易いとしてもエース級の相手はそうではない。
 強化ネフィリム、本星型ワームの姿もちらほらと見えて、戦いは激化していく。
 共に戦う仲間達含め、次々と損傷が増えていく。
「翡翠!」
「分かりました!」
 真夢紀機が、下がる。
「怪我をした機体は私達の周囲に集まって下さい、多少なら治す事が出来ますから」
 翡翠が歌う。それは癒しの歌声。
 不思議な力により、友軍の損傷が塞がれていく。
 これならまだ、戦える――!
 そう思った直後、友軍のKVの1機が、唐突に墜ちた。
「何っ!?」
 攻撃した敵の姿は見えない。そんな敵の事を、能力者達は知っている。
「ファームライドかっ!」
 気づいた彼らのペイント弾により、迷彩を剥がされ姿を現す赤きKV。
 そのスピードは今までの敵の比ではなく、次々と友軍を落としていく。
 その様子を見て、ガンスリンガーを駆る太郎が歯噛みする。
「えぇい機銃はこっちも持っとるんじゃ! 墜ちろ〜!!」
 パルスマシンガンによる射撃。だが効果は芳しくない。
「む‥‥流石にFRは簡単に墜ちませんね‥‥」
 ふと、霜夜は自分達の世界のトラウマ存在‥‥ヴァーチャーを思い出す。
「どこの世界も、ボスクラスは変わりませんね」
「言ってる場合かー!?」
 赤き光を灯らせたファームライドが、目の前に迫る。
 落とされる、そう思った瞬間。
「させないっ!」
 割り込むように1騎のガンスリンガーが太郎機の目の前に立った。
 太郎機の代わりに攻撃を受けるそれ。衝撃で弾けとんだのはクロムブレイドか。
 だが、肝心の身代わりのガンスリンガー自体は無事だ。
「よし‥‥間に合ったか‥‥!」
「まったく、おにぃは無茶するんだから!」
 魔皇シン・クサナギ(ia8588)、そして彼の相棒の玲(ia9629)。
 シン機は新たにクロムライフルとデヴァステイターを構えると、周囲を見る。
 そこにはやはり、ネフィリム、ワーム。そして距離を取るファームライド。
「まったく、どうなってるんだかこれは‥‥」
「いいじゃないですか、せっかくの活躍の場なんですからっ!」
「って! くっつくな! 抱きつくな! 頬を寄せるな!」
 思わず何人かがシン機に銃を向けたくなったが無理もない。
「ともかく、やることはやるぞ!」
「それでは懐かしくありますが、やってやりましょう!」
 ファームライドとの戦いが始まった。

●神魔戦記
 メガテンプルム。
 戦いの中心のそれだが、何人かはようやく辿りついていた。
 一心も、激戦をくぐりぬけ、ようやく味方が壁にあけた穴から潜入を果たす。
「ありがとな、竜さん!」
 この先は駿龍を連れていくには厳しい戦場だ。短い間だったが、確かに相棒だった龍に別れを告げる。
 直後、近くの壁に激しい音を立ててKVが墜落した。
 威の機体だ。出てきた彼の息は激しい。
「おい、大丈夫か!?」
「なんとかな。とはいっても、戦うのは厳しい‥‥あんたに任せる」
 拡張練成強化と拡張練成治療を、一心‥‥そしてその場にいた他の面子にかける。
「これが今の俺にできる事だ。‥‥頼んだぞ」
 威の言葉に、一心はこくりと頷く。
 彼らの潜入を知ってか、多くのグレゴールが向かってくるのが見えた。
 だが、彼らは負けない。
「疾く誘え! 閃光の導を! 疾風‥‥迅雷!」
 青き閃光と化した一心が、敵陣を貫く。

 外の戦いは落ち着いていた。ファームライドも、多くの犠牲の末に墜ちたようだ。
 だが、メガテンプルム内の戦いは激しくなっていた。
「うおおオオッ」
 AU−KVリンドブルムを駆り、大暴れしているのはドラグーンのドリル(ia0796)だ。
 真デヴァステイターで弾をバラまきつつ、内部を探る。
 そんな彼女の目の前に、強敵が立ちはだかる。
「ちょいと、それ以上暴れるのはやめてもらいてぇんだがなぁ」
 バルトロマイ、そしてトマス。
「む、むぅ! いきなりこんな大物に当たるとは‥‥!?」
「あなたでは私達には勝てません」
 トマスの言う通り、彼女1人ではボスクラス2人はいかんともし難い。
 だが、そこに1人の男が現れる。
「いきなり現れて世界を支配‥‥迷惑な話ですね。まぁ、手をこまねいて見ているつもりはありませんがね」
 開拓者、贋龍(ia9407)。彼は二刀を抜き、目の前の天使に向ける。
「どうやら雑魚では無いようですね。‥‥本気で行きます」
「はっ、本気でやったからってどうにかなると思ってんのか?」
「やってみなくては、ね!」
「面白ぇ! トマス、テメェは手を出すなよ!」
 贋龍の刀に、バルトロマイが戦斧を合わせる事で答える。
 苛烈な攻めを続ける贋龍。だが、バルトロマイから余裕の笑みは消えない。
「それがテメェの本気か?」
「‥‥炎魂縛武!」
 贋龍の刀を炎が纏い、刀が加速する。それはバルトロマイの予測外の動きをし、
「何っ!?」
 一太刀を浴びせる。
 バックステップで距離を取る、バルトロマイ。彼女からは笑みはまだ消えない。
「面白ぇ‥‥面白ぇじゃねぇか‥‥! いいぜ、俺も本気を出してやるよ!」
 バルトロマイが戦斧を前に突き出すよう構える。
「轟閃神輝掌<ブラッシュフィンガー>」
 戦斧に光が集まる。
 そして彼女が地を蹴ったと認識した次の瞬間、贋龍の目の前にバルトロマイがいた。
 贋龍が空を舞い、叩きつけられる。
「ぐぅ‥‥!」
「へぇ、まだ起き上がれるとは大したもんじゃねぇか」
 刀を支えに、起きようとする贋龍を見て感心した様子のバルトロマイ。
 だが、彼女は攻撃の手を緩めることはない。再び、地を蹴ろうとしたところで――
「ふっふっふっ‥‥しばし待つがよい」
 何者かの声が響く。
 足を止め、そちらを見るとそこに立っていたのは2人の少女。
 黄金の魔皇フリーデライヒ・M(ib0581)と、シャンブロウの猫宮・千佳(ib0045)。
 実に楽しそうな様子のフリーデライヒとは対照的に、千佳はどことなく諦め顔だ。
「また今回も変なことされそうにゃ‥‥」
 というのがその理由らしい。
「んだテメェらは」
「お主らが、人の愛というものを否定しておると聞いたのでのぅ‥‥見せてやろうぞ、妾達の愛を!」
 バルトロマイの話をまったく聞いてない様子のフリーデライヒ。
 それどころか‥‥。
「えっと愛はどうやって‥‥って、みゃぁ!? や、やっぱりそうなるのにゃ!? ちょ、ここでは‥‥んんっ!?」
「ここか? ここがいいのだろう? ふふ‥‥」
「は、恥ずかしいにゃよ!? やっぱり‥‥あーうー‥‥。ご主人様の鬼畜ー」
 敢えて何をしているかは書かない。千佳の反応だけでご察しください。
「ふ、どうじゃ‥‥愛し合うとは斯様に気持ち良き事よ。お主らも――」
「閃光烈破弾<クラッグショット>」
「げふっ!? 撃ちおったな!? しかも最上級SFで!」
「撃つのが正解だと思ったからな」
 バルトロマイのその言葉に、トマスだけでなく贋龍やドリルまでもが頷いていた。
「‥‥ご主人様、否定できにゃいにゃよ」
 そこに更に乱入者が現れる。
「やっほー! なんか強そうなのがいるね」
「‥‥黒妖。‥‥別にアレを倒してしまってもいいんでしょう?」
 黒妖とデモリスのペアだ。
 それを見て、頭を抑えてトマスが言う。
「あなた方も‥‥私達を倒し、メガテンプルムを落としにきましたか」
「何それ? 遊びにきただけよ」
「遊びにきましたー!」
 一瞬の沈黙。
「百雨失楽園<パラダイスロスト>」
「聖光翼閃陣<ギガフレアケージ>」
「外道ー!?」

●地獄の皇帝
 さて、メガテンプルムに潜入し、権天使に遭遇することなく進む者達。
 そんな彼らをメガテンプルム内のとある一室でモニターしている者がいた。
「ふっふっふ‥‥中々よい感じぞよ〜」
 ふかふかのソファーに横たわりながら、果実酒を堪能する男。
 彼の名はバアル3世(ib0295)、悪魔だ。
「いやぁ、ここまでうまくいくとは思ってなかったぞよ」
「ふふ‥‥そうですね。バアル閣下」
 彼と同じように、モニターを見ているのは1人の天使。否、天使のような悪魔のクロセルだ。
「まさか我輩らがクロセルの特性を活かして、密かにメガテンプルムを乗っ取っているとは思ってもいないだろうぞよ」
「ふふ‥‥。陛下も、戦の中心であるここで力を溜める事ができますし、ね」
 彼女の言葉によると、ルシファーがメガテンプルムにいるのだという。
「それにしても‥‥」
「なんですか?」
「随分と楽しそうであるな〜?」
「えぇ、楽しいですよ」
 何故なら。
「こんな試練、そうそうお目にかかれないじゃないですか」
 試練マニアは相変わらずのようであった。
「だが、敵側が我輩1人なのは寂しいものがあるぞよ‥‥」

 そんな悪魔達の思惑はさておき、冒険者がある事に気づく。
「‥‥え、どういう事?」
 最初に気づいたのはアニェスだ。
 そう、ルシファーがここにいる事に魔法の力で気づいたのだ。
 反応は目の前の扉の奥。玉座の間から。
 何故神の城に、地獄の皇帝がいるかは分からない。しかし、ルシファーもまた倒すべき敵。
 扉を開ける。
「来たか‥‥」
 そこにいたのは確かにルシファー。
 正確にはルシファーのアヤカシだが、意思は紛れもなく本物。
「もう少しで青銅の門が開く、のだがな」
 そうはさせない。
 それは、ジ・アースの冒険者全員共通の想い。
 だからこそ、彼らは戦う。
「皆、いっくよ〜♪」
 アニェスの掛け声をきっかけに、次々と攻撃をルシファーへと叩き込む。
 だが――
「‥‥ふ」
 まるで効いていない。
「さすがは元ラスボスってところか!」
 ルシファーが軽く腕を振るうだけで、多くの仲間達が宙を舞った。
 戦力差は明らか。
 だが。
「絶対不敗‥‥それが阿修羅の徒の意地です」
 決して膝を突かない。三笠昭信(ia0163)が立ち上がり、ウィークポイントを発動させる。
 見える、ルシファーの弱点が‥‥!
「皆さん! やつは瘴気により構成された偽の体! 時間を置けば回復しますが、連続攻撃には弱い!」
 それは、攻撃にも防御にも、膨大な力を消費するルシファーアヤカシの唯一の弱点。
「だから、諦めずに‥‥立ち上がるのみです!」
 そして、この場に数々の苦難を乗り越えた仲間達が集結する。
 目の前の邪悪を討ち果たさんと!
「あのデアボライズしたとおぼしきオッサンが原因か! ツノへし折って泣かして帰るぞ!」
 生身で潜入していた太郎が再び殲騎を召喚。
「や、だからってルシ君に突っ込まないでー!」
「血路の先で待ってろデアボラ親父ィィィ!!」
 ガンスリンガーがバスターライフルを召喚し、構える。
 放たれる光の奔流を、ルシファーは片手で受け止める‥‥が、その顔は歪んでいる。
「これルシ夫! また地上に這い出て! さっさと戻りなさい天誅っ」
 そこにすかさず銃弾を撃ち込むドリル。
 連撃はまだ終わらない。
「手前ぇにも刻み込んでやる、星竜の爪牙をな! 食らえ、星竜光牙斬!!」
 哲心が白梅香と流れ斬りを組み合わせた必殺技を放つ。
 それを、もう片方の手で止めるルシファー。
 止められた。しかし、両手を使わせた。
「しゃらァーッ!!」
「俺達がいる限り! 好き勝手にはさせないぜ!」
「ふふ、キャメロットの黒き魔女をなめると物理的に死にますよ?」
「阿修羅の徒の力‥‥見せてあげましょう!」
 周太郎の蹴りが、ルオウの刀が、フィーナのライトニングサンダーボルトが、昭信のグラムが‥‥ルシファーを貫く!
「まだだ‥‥! まだ、我は‥‥!」
 ルシファーの体が少しずつ崩れ、瘴気へと還っていく。
 だが、地獄の皇帝はまだ滅びない。
「ならば、力を全て使い果たしてでも――!」
 防御を捨て、両手を頭上へと掲げる。
 そこに集まるのはルシファーの全てのパワー。それが叩きつけられた時の――破壊。
 下手すると青銅の門が開くかもしれない。
「これで、終わりだ!」
 ルシファーが、止まらない――!
「――させねぇよ」
 1人の男が宝珠を掲げる。
 ルシファーの破壊の力が、宝珠へと吸い込まれていく。
「な、馬鹿な‥‥!? それは、リア・ファル!」
 リア・ファル。
 七つの冠の1つ。ケルトの至宝。
 それを掲げているのは、円卓の騎士【放浪候】マナウス・ドラッケン(ia8037)。
 彼のイギリスでの任務は、古代遺跡の管理。
「まったく、リア・ファルをルーの元に返す時に巻き込まれるとは‥‥運がいいのか悪いのか」
 そして彼は、懐からもう1つのあるものを取り出す。
 セブンフォースエレメンタラースタッフ。イギリスの地に眠っていたもの。

「あら」
「どうしたぞよ、クロセル」
「あれがあるのならば‥‥動きますね」
「動く? 何のことぞよ?」
「ピースブレイカー‥‥いえ、ピースガーディアンが」

 マナウスがスタッフを掲げると、巨体が床をぶち割り姿を現す。
 スタッフの力で動くドラゴンボーンゴーレム。同じくイギリスに眠っていたもの。
「俺達の戦いは、人が人の力で魔と神に並び立つ為のもの。超人による決着など断じて認めるわけにはいかない。違うかい? 魔王!」
 マナウスの声に応える様にゴーレムが‥‥ピースガーディアンが吼える。
 ルシファーを構成する、瘴気が――拡散していく。
「馬鹿なァ――!?」
 瘴気が消滅するが、ピースガーディアンの咆哮は止まらない。
 それは世界を振動させる。
 世界が崩壊を告げるかのように。


 神楽の都。
 世界の振動を、そこに滞在する彼女らもまた‥‥感じ取っていた。
「‥‥緋雨様。そして、司の皆様‥‥どうやら勝利したようです」
 彼女らは手を掲げ、秘術を完成させる。
 願いを叶える秘術『ウィッシュ』を。
 逢魔全員の力を合わせたそれは、誰の命も奪うことなく――そして。

●夢の終わり
「んー‥‥」
 ベッドから起き上がったシンは頭をかく。
 頭がはっきりしない。とても妙な夢を見たような。
「‥‥変な夢、懐かしいような気がするし‥‥。まあいいや、忘れよう」
 彼と同じ家に住む玲もまた、同じ夢を見ていた。
「面白い夢でしたねー、おにぃにも話してみようかな」

 彼らと同じ、神魔の世界の空を眺める1人の逢魔‥‥クノト。
「陽媛様‥‥生きる世界は別れても、貴女の無事を‥‥」
 あの体験は夢かもしれない。しかし、そうではないかもしれない。
 そんな事は彼にとっては些細なこと。
 彼の主は‥‥確かに、天儀で生きているのだ、と。

 天儀が朝を迎える。
 光を瞼に感じ、あくびをしながら起き上がったアグネス。
「‥‥ん、夢見てた‥‥? 覚えてないけど。あたしは‥‥吟遊詩人のアグネス‥‥」
 でも、どうしてだろう。
「目と喉の奥が熱い‥‥」


 世界が繋がった証は何一つとして存在しない。
 だが――きっと。

 想いは、確かな筈だ。