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■オープニング本文 ● 遺跡発見の報に、ギルドは大いに湧きかえった。 その中で、ひとりぽつんと三成は目を閉じている。元々、皆で騒いだりするのを好む性格ではない。 「まだ、出発地点です。ここからが大変ですね」 その落ち着いた一言にギルド職員が笑った。 「えぇ、内部は広大です。遺跡の探索隊を組織せねばなりません」 「もちろん。さっそく手筈をお願いします」 頷く三成。 「それに、遺跡内部の探索だけではありません。探索のバックアップ体制然り、クリノカラカミとは何か、朝廷の真意など……どれも一筋縄にはいきませんから」 遺跡内部の探索が始まる前に、遺跡の外で起こる事件への対応も必要だ。からくり異変対策調査部は、にわかに慌しさを増していった。 ● 「ふむ、中々順調のようだの」 「……!」 ギルドの調査部にて責任者として様々な指示を出している三成の前に1人の女性が姿を現した。 豊臣雪家――強大な権力を持つ貴族。 ……そして朝廷三羽烏が1人、ね。 今回の異変調査を命じた人物でありながら、調査の妨害を仕掛けている朝廷に属している人間だ。 朝廷が命じておきながら妨害をする。あまりにもちぐはぐで矛盾した行動には疑問を抱かざるを得ない。 「どうした。顔に何かついておるかの?」 「い、いえっ」 豊臣の顔をじっと見て、つい考え込んでしまった三成は慌てて視線を逸らす。 そんな三成の様子を目の当たりにしながら、しかし豊臣は疑問に思うでもなく、楽しむように薄く笑みを浮かべるだけだ。 ……朝廷が妨害してることを知らないわけはない、わよね。 久々津の集落での妨害は限りなく黒だが、まだ朝廷の仕業とは言い切ることはできない。しかし、図書館で朝廷が妨害を仕掛けたことは大々的に知られている。 最初は豊臣とは違う派閥の人間が妨害を仕掛けたのかとも考えたが、朝廷の妨害について言及しようとしない豊臣の態度を見れば、豊臣も妨害を承知していると考えるのが妥当だろう。 ――つまり、調査の妨害は朝廷の総意? わけが分からないわ。 本当にわけが分からない。これならまだ派閥争いをしていると言われた方がすんなり納得できようというものだ。 「あ、っと……」 「うん?」 何故、朝廷が妨害をするのか。思わずそれを口に出して目の前の人物に聞きそうになった三成だが慌てて口を閉じる。 朝廷に従う貴族の身である三成にとって、遥か雲の上の地位である豊臣にそれを直接問うのはあまりにも不遜だからだ。 代わりに、三成は場を誤魔化すのを兼ねてちょっとした世間話を振る。 「最近、よくこちらに顔を出されるようですが、遭都からだと大変ではないですか?」 朝廷の人間である豊臣は居を遭都に構えている。いくら精霊門があるとはいえそう簡単にギルド本部がある神楽の都とは行き来できない。 豊臣のように忙しい立場にある人間なら尚更だろう。 「行き来するのであれば、確かに大変よのぅ」 「……? えぇと、ということは……」 「うむ。今はこちらに滞在しておっての。専らの仕事もこの異変に関わることゆえ、都合がよくてな」 豊臣が1人の貴族の名を上げる。それは三成も知っている名前で、確か豊臣派閥の貴族の名だ。その人物の邸宅に寝泊りしているという。 「夜這いをしたいのであれば、気づかれぬようにな?」 「しませんよ!?」 「むぅ、それは残念よのぅ」 笑いながら去っていく豊臣の背を見送りながら、三成はやっぱりあの女性は苦手だと思い知るのであった。 ● 場所は変わって、神楽の都のとある酒場。 喧騒から逃れるように、酒場の隅の方に数人の開拓者……そして三成が卓を囲んでいた。 「この度は皆さん集まっていただきありがとうございます」 三成がある依頼をしたいと呼びかけ、興味を持った開拓者達がここに集まったというわけである。 何故ギルドではないかというと、今回の依頼はギルドを通じてのものではないからだ。 「……本来、ギルドも朝廷の管理下にありますからね。できるだけ朝廷の耳に入れたくないのです」 この言葉に対して、ある開拓者が質問を投げかける。朝廷に知られるとまずい依頼なのか、と。 「そう……ですね。なので、朝廷と面倒を起こしたくないという方は、今のうちに退くことをおすすめします」 言い切ってから、しばらくの沈黙。誰も席を立とうとせず、三成に話を促すように視線を送っている。 それを受けて、三成は一呼吸置いてから再び話し始めた。 「現在、朝廷の動きには不可解な点が多すぎます。……恐らく、朝廷はまだこちらに開示していない情報を持っていると考えてよいでしょう」 久々津に接触したのも、妨害を仕掛けてきたのも……その情報があるからだろう。 「その情報を開示するよう求めても素直に応えることはないでしょう。わざわざ妨害を仕掛けてくるぐらいなのですから」 ならば、どうするか。 「ならば――盗みましょう」 その瞬間、ある者は戸惑いの声を上げたかもしれないし、ある者は立ち上がったかもしれないし、ある者は沈黙を保ったままだったかもしれない。 何にせよ三成の提案は開拓者が動揺しても全くおかしくないものであった。 「現在、豊臣様は派閥に属する貴族の邸宅にて寝泊りしていることが分かっています。……今回の異変に関して動いているのであれば、当然関連資料も持ち込んでいる筈です」 それを盗み出そうというわけだ。 成るほど、確かにこれはギルドを通せないわけである。犯罪に変わりないからだ。 「言うまでもなく気づかれないのが最良です。……仮にバレてしまった場合は犯人から取り戻した風を装ってギルドを通じて返還することで、ある程度の言い訳はできるでしょう」 しかし……と、開拓者の1人が気になることを告げる。いくらなんでも、そんな茶番はバレるのではないか、と。 「それは私も思いますが……。豊臣様にとって『余興』で済む内は多分大丈夫……の筈、です」 あくまで推測である為か、断言することはできないようだ。 「な、なので! 洒落で済まない死傷は絶対に出さないようにお願いします! スマート、そうスマートを心がけてください」 中々に無茶な依頼を出してくる三成。 一体誰に似てきたのだろうか……そんなことをつい考えてしまう、無茶をする事が多い開拓者達であった。 ● 「据え膳食わぬはなんとやら、というやつかの」 |
■参加者一覧
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
詐欺マン(ia6851)
23歳・男・シ
フィーナ・ウェンカー(ib0389)
20歳・女・魔
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
煉谷 耀(ib3229)
33歳・男・シ
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)
41歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●悪事? 神楽の都は豊臣が宿泊している貴族の邸宅の近く、中の人間から死角になっている場所に開拓者達は集まっていた。 とはいっても、日が高いこの時間帯にわざわざ盗みに入ろうというわけではない。 その場にやや遅れてやってきた三成を見つけ、開拓者の1人が小走りで三成のもとへと走る 「三成おねえさま〜♪」 「わわっ!?」 大好きな姉を慕うように少女が三成に抱きつく。とはいっても少女――ケロリーナ(ib2037)の方が背が高いので、傍からだと妹か弟を可愛がる姉のように見えるかもしれない。 どぎまぎしながらケロリーナから離れた三成は、深呼吸をして心を落ち着かせてから開拓者達に進捗を問う。 「それで、屋敷の様子は……?」 「うむ、外から見える範囲では大体分かった……というところかのぅ」 それに答えるは禾室(ib3232)だ。シノビである彼女が先ほどまで行っていたのは屋敷の周辺を不自然にならない範疇で歩きまわることだ。 観察することで、人の出入りや煙の出る場所――台所などの大まかの場所を把握していた。 内部の詳細まで分かれば御の字であったが、残念ながらこの場に人魂を活性化させていた者がおらず諦めることになった。 また、バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)が聞き込みをして分かったことといえば、屋敷の警備が普段より強化されているといったことだろうか。 「豊臣様が宿泊なされてることを考えれば、当然でしょうね」 「そうじゃのぅ……」 朝廷の重鎮が泊まっている屋敷に侵入して盗みを行う。三成がどれだけ無茶なこと言っているのか改めて分かり、禾室は滝のように冷や汗を流す。 緋那岐(ib5664)も盗みという犯罪に手を染めることに対して、おどけるように言う。 「みっちゃん……ついに大泥棒への道に目覚めたのか?」 「目覚めてません!」 「ははっ、冗談だって。ま、ともかく俺たち共犯だよなー。運命共同体ってやつ?」 素敵な響きだと主張する彼に対して、しかし異を唱えるものが1人。 「悪い運命だとしたら、あまりご一緒したくありませんね」 辛辣に言い放つはフィーナ・ウェンカー(ib0389)。 「え、でも共犯は共犯じゃん?」 「いいえ、まずその認識から間違ってますね。盗みにいくのではなく、ただちょっと借りるだけです。なのでこれは犯罪でありません」 とんでもない理論を平然と笑顔で言い放つフィーナ。明らかに間違った言い分だが、その黒い笑顔に追及するのは何故だか躊躇われた。 ――どこまで本気なのだろうか。 他の開拓者達も思わずそんなことを考えてしまう。きっと、どこまでも本気なのだろう。 尤も、似たようなことを考えている開拓者達もいないわけではない。詐欺マン(ia6851)だ。 「隠匿された秘密とはなかなかに興味をひくものでおじゃる」 彼の自称は「愛と正義と真実の使者」であり、今回の盗みもからくり異変の謎を解き明かす為だ。 つまり彼にとっては正義の行いであり、後ろめたい悪事ではないのだ。 しかし、なんだかんだで覚悟を決めてやり遂げる意志が大事な今回の依頼では心強いといえる……のかもしれない。 また、先ほどまで緊張していた様子の禾室も覚悟を決める。 「……瑠璃の為なら例え火の中、貴族様のお屋敷の中じゃ!」 さて、豊臣が持ち込んでいる資料を手に入れるのが今回の依頼だが、そうなると重要なのは豊臣がどのような人物かだ。 「三成殿、豊臣殿の特徴などが分かればお聞きしたいのじゃが」 「特徴……ですか」 聞かれた三成は、ふむと暫く考え込む様子を見せてから、ぽつりぽつりと思いついた言葉を呟いていく。 「人で遊ぶのが好きですね。……自分の思い通りにする為なら手を惜しみませんし、かといって望まぬ状況になっても面白ければよしというところもあります」 そして、何かを思い出したのか顔から血の気が一瞬引く。 「……加えて冷徹さも兼ね備えています。邪魔な存在であれば今までの感情に関係なく排することができたり、と」 それでいて、豊臣雪家にはそれができるだけの能力も身分もあるのが三成にとって厄介なところか。 三成の話を聞いていたフィーナはなんとなく豊臣に親近感を覚えていた。 「きっと人が慌てふためくのを見るのが好きなタイプなんでしょうね」 「あぁ、そういうのは大好物ですね」 フィーナの言葉に三成は異論を挟むことなく同意する。 ――私と同じ匂いがします、というのは敢えて言わない。なんとなく。 さて、そうなると……とフィーナは言葉を続ける。 「こちらの動きは察知されている可能性が高いですね。折角のゲームを鑑賞しないなんて手はないでしょうし」 しかし、これは資料という褒賞があるゲームだ。故に察知されているとしても開拓者達は引くことができない。 まるで据え膳を目の前に置かれた男性のようだ……そう感じたバロネーシュがくすりと笑う。 「据え膳は頂くのが宜しいでしょうかね」 ●侵入 犯行は人目などを気にして夜に行われることとなった。 音もなく動く人影は、しかし闇に紛れている為か今のところ誰にも見つかっていない。 無事屋敷の中に侵入を果たしたのは煉谷 耀(ib3229)。 抜き足で足音を立てずに動き、それでいて超越聴覚を働かせて人の動きを察知する、まさにシノビの本領発揮だ。 「む……」 人が近づいてくるのを察して、耀はすぐさま縁側の下に隠れる。ここで息を潜めればそう見つかることはないだろう。 そうやってやり過ごしている間、こうして侵入することになった原因……朝廷の秘匿主義に関してついと思考を働かせていた。 「朝廷が妨害工作か。第三次開拓の際もそうだった記憶があるが、どうも秘密に触れる行いへは敏感だな。そうまでして隠したい何かがある、か」 そういえば、と第三次開拓に関連して三成についても思い出す。 「そういえば三成は、その開拓の際にも一悶着あった人物だったか。嵐の門、遺跡、傀儡、一の血筋には、どこかに繋がりでもあるのかもしれぬ」 とりとめもなく色々と考えがでてくる。 しかし邪推はここまでだ。人の気配が無くなったのを確認してから、耀は再び動き始める。 また、同様に侵入していた禾室もある場所を目指して隠密行動をしていた。 2人のシノビが先行して隠密侵入している間、他の開拓者達は屋敷のすぐ傍で待機していた。 加えて三成もその場にいた。三成本人としては足手纏いになるから同行する気はなかったのだが、ある開拓者に提案されて同行することになったのだ。 「で、えぇと……。その、こんな格好する必要はあるんですか……?」 ややげんなりした様子で己の服装を省みる三成。現在の三成はいつもの格好ではなく、エプロンドレスに加えて獣耳カチューシャをつけている。 「賊に扮しての盗みのお仕事ですので、変装は必須ですの☆」 三成にその格好をさせた張本人であるケロリーナはお面をつけて顔を隠していた。 また羅轟(ia1687)も変装ということで、まるごとくまさんを着用していた。 『まるくま参上』 どうやら意志の伝達は片手に持った立て札で行うようだ。 いつもの甲冑だと特徴的ということでこの格好らしいが、これはこれで別の意味で目立つだろう。 きぐるみの上からほっかむりをしている為、非常に緊張感を削ぐ。 『余興ですから』 うん、一応、変装としては成り立っているからいいことにしておこう。 「三成おねえさまの獣耳少女の変装、似合ってますの〜☆」 「え、でも顔が隠れてないから変装の意味が無いんじゃ……?」 三成が抗議をしようとしたその時、塀を越えて屋敷の中から人影がその場に降り立つ。。 「豊臣公が風呂に入ったようだ」 そう告げたのは先ほどまで内部に侵入していた耀だ。同じように屋敷に侵入し風呂場を監視していた禾室から連絡が入ったので、知らせにきたのだ。 豊臣が風呂に入ってる隙に資料を探して盗む作戦だ。 『では、行くとしよう』 「あれ、結局私はこの格好のままなんですか……?」 ケロリーナが作った縄ばしごを使って、侵入する開拓者達であった。 ●失策 屋敷の中に侵入した開拓者達は耀に先導してもらっていた。 先に侵入して内部を把握していたこともあり、そこまでは非常にスムーズだったといえるだろう。 「あ……」 バロネーシュが何かに気づいたように声を上げる。 「……反応がありましたか?」 バロネーシュの異変に真っ先に気づいたのは、同じく魔術師のフィーナだ。 この2人に加えてケロリーナの3人は、通った道に分担してムスタシュィルを設置しており、そのお陰で既に通った道ならば人の動きが分かるようになっている。 そしてバロネーシュが設置したムスタシュィルはここからそう遠くない場所でかつ一本道だ。うかうかしているとすぐに追いつかれるだろう。 「隠れるぞ……!」 耀の超越聴覚も接近を察知したのだろう。すぐさま隠れるように促す。彼の指示を受けて、開拓者達は次々に隠れる……が。 「あ、えっと……!?」 慌てていたせいか足音を消そうともせず動き回る三成。三成は志体持ちとはいえ、普段から体を動かすことは殆ど無いので非常に鈍臭いのだ。 どたばたどたばたと音を立てていれば、当然警備の人間も不審に思いこちらへと走ってくる。 結果、 「侵入者だァー!!」 普通に見つかってしまったのだった。 賊が侵入しているという報が屋敷中に広まったことで、屋敷は俄かに慌しくなる。 『……まずい、な』 先の警備は羅轟が抑えている間にケロリーナがアムルリープで眠らせて、即座にその場を離れた。 しかしその現場に駆けつけた人間が見れば、志体持ちの侵入者がいるということは一目瞭然だろう。実際、屋敷は静まるどころか騒がしくなっている。 「こうなったら豊臣公の部屋目指して一直線……ってわけにもいかないか」 走りながら提案する緋那岐だが、自分の言い出したことを途中で否定する。そもそも、豊臣の部屋がどこかすら分かっていないからだ。 騒ぎに紛れて、手当たり次第に部屋を当たるしかない。それが開拓者達に残された唯一の手段であった。 「むぅ、この騒がしさ……見つかったでおじゃるか」 侵入者でありながら堂々と屋敷の中を歩いている詐欺マン。今のところ幸いなことに誰とも会っていない。 だが、侵入者がいたことが屋敷中に知られてしまったこともあり、警備の人間が活発に動き回ればそうはいかない。 やはりというべきか、それからすぐに詐欺マンは見つかってしまった。 槍を構えた警備が詐欺マンの前に立ちはだかる。 「おい、貴様! 何者だ!」 しかし、詐欺マンは慌てることなくそれどころか余裕すら見せて堂々と振舞う。 「ほほ、豊臣様の使いであるゆえ、どちらにおられるか教えて欲しいでおじゃる」 「豊臣様の――って騙されるか馬鹿! 勝手に入ってくる使いなんているわけないだろうが!」 その上、侵入者がいることが分かっている状況だ。警備が信じるわけがない。 「むむ……。戦えない、となったらやることはひとつでおじゃるな」 そう、この状況にできることはただひとつ。 「逃げるでおじゃる〜!」 「待てェー!」 場所は変わって、風呂場。 禾室は風呂場のすぐ外で聞き耳を立てて、中に入っている豊臣の様子を伺っていた。 当然、屋敷の騒がしさも耳に入り、心が不安で掻き毟られる。 ……皆、大丈夫かの。 「ふむ、随分と騒がしいことよのぅ。ある意味想定の範囲内ではあるが……」 風呂場の方から声が聞こえる。誰に向けたというわけではない豊臣の独り言。 直後、豊臣とは別の女性の声がした。恐らくは彼女の護衛だろう。 「豊臣様、賊です! 何が目的かは分かりませんが、安全の為に避難を!」 「――風呂ぐらいゆっくり入りたかったの。まったく……」 ざばぁという湯の中から出る音がして、風呂場から人の気配が消える。 豊臣の声音に込められた感情は、禾室をより不安にさせるには十分なもので。 ――豊臣殿、怒っておるのか? ●猶予 屋敷全体に響くような足音と怒号が飛び交う騒ぎの中、三成と開拓者達は追っ手から逃れるようにある部屋に飛び込む。 『どうやら、警備の人間は我ら以外を追っているようだが』 羅轟の疑問に答えるのは、超越聴覚で動向を把握している耀だ。 「詐欺マンと禾室が囮となっているようだ。……前者は狙って囮をやっている、というわけではないと思うが」 そのお陰で三成達への追っ手が薄れたというわけだ。 開拓者たちは一息ついてから、ようやく忍び込んだ部屋を観察する余裕ができたのかあることに気づく。 「ふぁ〜、巻物がいっぱいですの〜」 驚愕の声をあげるケロリーナ。整頓されているが、しかしそれでも相当な量の巻物や本が置かれているのだ。 「これは……もしかして、当たりかもしれません」 ぱらぱらとすぐ近くにあった紙束をめくる三成。いくつかに記された名前は朝廷の人間のものだ。となると、これらは朝廷関係者のものだろう。 『この量だと纏めて運ぶ、というのは無理か』 最悪、全部持ち帰るということを想定していた羅轟だが、それができる量ではない。しっかり選別するしかないだろう。 「時間的余裕がどれだけあるかといったところですが……」 本に触れたと思ったら、それを別の場所に置いてまた他の書物に触れるだけの作業をするフィーナ。 フィフロスを使用しているため、これだけで目的の情報が載っているかどうかが分かるのだ。調査ワードは人形、からくり、操乃空神、神砂船、紋様だ。 バロネーシュも同様にフィフロスで選定を行う。 しばらくして、引っかかった書物が数冊見つかった頃だろうか。部屋の襖が開かれた。 「あ……」 部屋にやってきたのは、豊臣雪家本人。 彼女は侵入者に驚くことなく、しかし冷たく告げる。 「去れ」 「え、あ、その」 「今すぐ去るというのであれば、見逃してもいい……と言っておる」 豊臣の言葉を受けて、開拓者達は顔を見合わせる。この状況で、見逃してくれるというのであればそれに乗るしか救いは無い。 部屋から出る為に立ち上がる。実は懐に見つけた資料を忍ばせているが、豊臣はそれも見逃すようだ。 開拓者達が部屋を出て、最後に三成が出ようとした時……しかし豊臣は三成の肩を掴んで、引き止める。 「そなたは残れ」 有無を言わせぬ口調。当然、三成に逆らう権利は無い。 こうして、三成を豊臣のもとに残したまま開拓者達は屋敷を脱するのであった。 ●結果 開拓者達が入手した資料に書かれていた情報。 それは、クリノカラカミは相手を欲している――というものであった。 相手の意味とは。何故欲しているのか。それらの詳細はまた別途資料に書いてあるそうだが、その資料は手元にない。 それでもこの事実が分かっただけ収穫はあるといえるだろう。 そして、一三成には謹慎が言い渡されることになった。 |