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■オープニング本文 ● 天儀における精霊――特に、神ともされる高位の精霊は人間の手に負える存在ではない。 その世界と我々の世界には計り知れぬほどの隔たりがある。それも、高位で強大であればあるほど、その『ズレ』は再現なく拡大していく。 彼らが何を考えているのかは解らない。あるいは何も考えていないのかもしれないし、我々の世界に興味がないのかもしれない。我々が慎重にその恵みを引き出す傍ら、彼らは時に大きな災いを世にもたらす。まるで、自然そのもののように。 しかし、中には、人間世界と深い関係を築いた神も存在する。 からくりを――機械を司るという神ならば、あるいはそれは―― ● 「はぁ……」 一三成は本日何回目になるか分からないため息をついた。 机に頬杖をついて、視線はここではない遠くを見ている。心ここにあらずといった様子だ。 それも今日だけというわけではない。ここ最近ずっとこんな風に活気が無い。 原因は先日豊臣から言い渡された謹慎だ。 朝廷貴族の屋敷に不法に侵入し、資料を盗もうとしたことがバレての叱責。そのせいで三成は此度の異変に能動的に関わることを禁じられた。 当然といえば当然の結果だ。むしろそれ以上の懲罰が与えられてないことを慈悲と取るべきかもしれない。 しかし、それでも。 「はぁ……」 瑠璃を救いたくても何もできないという現状に、意気消沈するのは仕方が無いことなのかもしれない。 「――そんなわけで、大人しく寝てる場合じゃ無いよなぁ」 馬車に揺られながら、青年がひとりごちる。 青年の体つきは細く、肌の色や肉のつき方からいっても健康体からは遠い。少し強く押せばぽっきりと折れてしまいそうにも見える。 しかし陰鬱なものを感じさせない表情からは、容易く折れそうにない意志の強さを感じ取ることもできる。 彼の名は一正澄。三成の兄であり、病気で家督を三成に譲った一家元当主だ。 本来なら家でゆっくり過ごすか、せいぜい散歩ぐらいまでが体の弱い彼に許された行動である。 そんな彼が何故街を出て馬車に乗って長距離移動をしているのか。それは彼が膝の上に広げている資料に答えがあった。 「クリノカラカミが話し相手を求める理由……。何故、今更になって目覚めたのか……。そういうこと、か」 資料に記されているのは、正澄が各地の朝廷関係者や歴史学者にあたって調べた情報である。 病床に伏せる前に築いたコネクションを用いて接触し、得意の交渉で引き出した成果。1人1人が話す内容は断片的なものであったが、それを繋げていけば答えが見える。 「ふぅ……しかし、こんなに動いたのはいつ以来かな――グ、けふっ!?」 ――あちゃー、やっちまったか。 咳き込み、急いで口を手で抑えるがこみ上げてきた血を止めることはできず、資料をいくつか血に染めてしまう。 「あーあー……。まぁ、まだ読めるかな」 これ以上血で汚さない為にもと正澄は資料を片付けていく。 更に懐から包み紙を取り出すと、その中にある丸薬を一気に複数個飲み込む。 「ふひぃー……。帰ったら寝てぇーなー……。あぁ、その前に色んな人から怒られんのかなぁ……」 何はともあれ、疲れた。今はもう何かを考えるのをやめようと、正澄は目を閉じて深く背を預ける。 その直後だ。 「ん――ってうぉ!?」 馬車が揺れる。それもどこかに乗り上げたというわけではなく、横からの衝撃だ。 驚いて目を開けてみれば、何があったのか一目瞭然だ。 「――アヤカシか!?」 馬に乗った大太刀を持ったサムライが1人馬車に併走している。しかし、普通の人間ではないことが一目で分かる。 何故なら、馬も、それに乗っているサムライも――首が無いからだ。 首無し武士。これがアヤカシでなくてなんだろうか。 武士が大太刀を振るう。その一撃によって馬車の車輪が完全に破壊されてしまう。 「うぉ、ぬっ、おおおお!?」 車輪が壊された馬車は転倒し、その勢いのまま突っ込んでいく。 車体が木に衝突して止まる。馬は転倒の際に綱が切れたのか逃げ出している。 首無し武士は近くにいない。逃げた馬を追いかけていったのかもしれない。 だが、あれがアヤカシだったら人間である正澄を殺して食う為にすぐに戻ってくるだろう。 転倒と衝突の衝撃は大きかったが、幸いなことに体に大きな怪我は無い。動くことはできる。 「あー、くっそ! 逃げ切れるといいなァ!」 倒れそうになる体に鞭打って、正澄は林の中に走っていくのであった。 それから数刻経った頃だろうか。 正澄は林の中、木にもたれかかるようにして腰を下ろしていた。 無我夢中で走ったためにここまでどうやって来たのか分からない。 いや、それ以前の問題かもしれない。 「……そもそも、道が分かっても動ける気がしねぇなぁ……」 体が鉛のように重い。足を動かすどころか、立ち上がることすら辛い。 ――あー、やっべぇなぁ、これ。死ぬっぽいよなぁ。 首無し武士が戻ってきたら、当然死ぬ。 戻ってこなくても―― 「薬落としたっぽいなぁ……。あー……」 早めに助けがくるといいなぁ、と天を仰ぎながら呟くのであった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
ゼス=R=御凪(ib8732)
23歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●襲撃現場 正澄の乗った馬車がアヤカシに襲われた。 その知らせを受けて手配された開拓者達は早馬に乗って襲撃現場へと急行した。 事前に伝え聞いた場所に向かうと、街道より外れるように横たわった馬車だったものが見える。正澄が乗っていた馬車だ。 八十神 蔵人(ia1422)は馬から降りて、周囲を警戒しつつも残骸へと近づく。 「おーおーまた派手にやらかしたもんやな」 馬車の壊れっぷりを見るにちょっとやそっとの修理じゃ使い物にならないだろう。これだけでアヤカシの脅威が分かるというものだ。 ……しかし、これは偶発的な遭遇なんかのう? ふと、思う。アヤカシがわざわざ正澄を襲ったのには何か別の理由があるのかもしれないと。 「……口封じ、とか考えすぎか」 この状況で口封じを企む人間といえば――そこまで考えて、蔵人は首を横に振る。考えるより、本人の口から直接聞いた方が早い、と。 「不幸中の幸いというべきか……。まだ無事なようですしね」 馬車の周囲を確認した朝比奈 空(ia0086)は見る限り死体や血といったものが見えないことに胸を撫で下ろす。 少なくとも、アヤカシに即座に殺されたという線は無いことがわかる。……かといって、油断はできない。 体の弱い正澄がそう簡単にアヤカシから逃げ切れるとは考えにくい。それだけでなく病気が悪化することも考えられる。 「正澄さんの体調を考えると、事態は一刻を争いますね……」 柊沢 霞澄(ia0067)の言葉に、羅轟(ia1687)は静かに頷く。 「正澄殿……急がねば」 彼にとって今回の依頼は償いでもある。自分がもっと上手く立ち回っていれば三成は謹慎せずに済んだ――なれば、正澄がこのような目に遭うこともなかっただろう。羅轟はそう考えていた。 失態は己の手で取り戻す――そう誓ってこの依頼に臨んでいるのは彼だけではない。 「くっ、わしらが不甲斐無いばかりにこんな事態を招くとは……じゃがまだ間に合う、いや、間に合わせるのじゃ!」 禾室(ib3232)も貴族邸潜入に参加していた身として、同じ想いを抱いていた。 必ず正澄を助ける。その為にもまずすべきは彼を見つけること。開拓者達は付近の林の様子を探る。 「これは……件の兄君の足跡か?」 それらしきものを見つけたのはゼス=M=ヘロージオ(ib8732)だ。人間のものと思われる足跡が林の中へと伸びている。 彼女の言葉を聞いて、すぐ近くを探っていた空も足跡の先へと視線を向ける。 「……草や茂みに何か通った跡がありますね。そう考えて間違いないでしょう」 「他はどうだ?」 別の場所を探っていた開拓者達は首を振る。人が通ったと思わしき跡はゼスが見つけたものだけのようである。 「足跡は一応見つけたといえば見つけたのじゃが……」 屈んだ禾室が確かめるように触れる足跡は人間のものではない。ちょうど馬の蹄の形をしている。 つまり、これは―― 「アヤカシ……じゃろうな」 「一応、兄君とは異なる方向に向かってるのが救いではある……か。どうか無事でいてくれよ……」 しかし、それはあくまでも最初だけの話だ。アヤカシが向かった先で方向転換した可能性はいくらでもある。 やはり正澄の動向だけでなくアヤカシの動向も等しく重要だと考えるべきだろう。 蔵人は馬車の付近に散らばっていた数枚の紙を纏めて懐に入れながら言う。恐らく正澄が手に入れた資料だろう。尤も今目を通す時間は無いが。 「ま、そういうわけでアヤカシは任せてもらおうか」 正澄とアヤカシ、両方の対処をする為に開拓者達が取った作戦は二手に分かれるというものだ。 蔵人は先の言葉通りアヤカシを相手取る一班だ。加えて空、禾室、ゼスの3人も一班で、残りが正澄捜索を行う二班となる。 「そちらはお願いします……なの」 「正澄おじさまはけろりーなたちがぜったいぜったいたすけるの!」 水月(ia2566)とケロリーナ(ib2037)、そして羅轟と霞澄の4人は正澄の足跡を追って、林の中へと入っていくのであった。 ●捜索 林へと入っていく二班を見送ってから、一班も行動に移る。 「蹄の音は……聞こえんの」 超越聴覚を働かせる禾室だが、アヤカシのものらしき足音は聞こえない。聴覚の範囲外ということはそれなりに遠くにいると考えてよいだろう。 「相手の居場所が分からんのやったら、わしらから誘い出すといこーか」 蔵人が取り出したのは吹くと大きな音が鳴るという大法螺貝だ。これを吹くことでアヤカシを呼び出そうという魂胆だ。 「そいじゃみんなー得物の準備はええかー?」 仲間が頷くのを確認してから、蔵人は大きく息を吸い込み、吸い込んだだけの空気を一気に法螺貝へと吹き込んだ。 ぶぉぉぉ――通常、合戦の合図に使われるものだけであって、低音ながら確実に遠くの空気を振るわせる。 「……どう、だ?」 「いや、まだ気配は無いの」 ゼスの問いかけに禾室は首を横に振る。 もしアヤカシに聞こえていたとしても、ここに来るかどうか限らないし、来るとしてもすぐにというわけにはいかないだろう。 「そうなると……この場に留まるよりは移動しながらの方がいいかもしれませんね」 「せやな。法螺貝関係なく鉢合わせ……っつうのもあるかもしれへんし」 空の提案を受けて、一班も林へと入っていくのであった。 正澄を探す為、林を走る二班。 形振り構わず逃げていたせいか、正澄が通った跡を見つけ出すのは非常に容易だったのが救いといえる。 ぶぉぉぉぉ――。 一班が鳴らしている法螺貝の音が二班のところまで聞こえていた。 「あの音が正澄さんに聞こえていればいいのですが……」 霞澄は瘴索結界を張ることで近くにアヤカシがいないか警戒しながら、正澄の意識があることを願っていた。 「正澄さんに助けが来ていることが分かれば……」 「……何かしらのリアクションを起こせるかもしれないの」 正澄がもし救援が来ていることを知って声を上げれば、それは超越聴覚を働かせている水月の耳に届くかもしれない。 いや、それだけではない。 「体調悪くて林の中で一人ぼっち……きっとすごく心細い思いをしてるはずなの」 そんな彼の心の支えにもなるかもしれない。 この局面において、心の支えは大事だとケロリーナが力説する。 「病は気からっていうですの。寂しいとどんどん元気がなくなるですの……そんなのはダメですの!」 「だから早く迎えにいってあげなくちゃ……三成さんも心配してるの」 「……うむ」 羅轟は正澄の薬を貰う為に一家を訪れた時のことを思い出す。その時対応に出た三成は酷く憔悴しきった顔をしていた。 三成が再び兄と馬鹿話をして笑うことができるようにする為にも……。 ――必ず……生かして……連れ戻す……しばし……待たれよ。 ●戦闘、救助 法螺貝を鳴り響かせながら進んでいる一班。 進路は二班と同じく正澄の足跡を追う形だ。これはアヤカシが正澄のところへと向かった可能性を考慮してのことである。 それが功を奏したのかもしれない。禾室の耳が何かの接近を察知した。 「――近づいておるぞ!」 「さーて来るか来るかー」 突撃に備えて木に身を隠しながら、蔵人は武器を構える。 高らかに鳴る馬の足音。それと連動するように響く木々が薙ぎ払われる音。それらが開拓者に近づいていき、 「来ました――!」 馬にも、それに乗っている武者にも首から上が無い――首無し武者が姿を見せる。 武者も馬も通常のサイズに比べて大きく、それに比例して威圧感も強い。 だが、だからといって怯んではいられない。 「吼ァァァァァ!!!」 蔵人のあげた咆哮が、辺りの空気を、木の葉を揺らす。 耳の無い首無し武者にどれだけ効果があるかは半信半疑であったが、しかし武者は武器の切っ先を蔵人へと向けた。 大太刀が振るわれることで旋風が生まれ、巻き込まれた木々は容易に薙ぎ倒される……が。 「ははは、そう息巻いても足を止めた騎馬兵なんぞ怖くないで? のこのことこんな障害物の多い場所に来た時点でお前さんの負けは確定しとるわ」 防御に徹した蔵人の2本の片槍鎌を抜けはしない。彼の言う通り障害物で威力が減衰しているのも大きい。 「……わしの寿命は大体30分位かな? はい、というわけで香典を徴収されたくない奴はわしが生きてる間に全力であいつへぶち込むように」 どこか余裕が見える蔵人。とはいえ、防御に徹しているからの現状であり、攻撃しない限りはジリ貧だ。 しかしそれは1対1の戦いの話であり、仲間がいるのであれば彼らに攻撃してもらえばいい。 「任せい! まずは――こいつじゃ!」 禾室の持つ手裏剣が一瞬で彼女の倍はある巨大な手裏剣へと変貌する。持つことすら大変そうなそれを、しかし禾室は器用に体のバネを活かして放り投げる。 風魔閃光手裏剣――投擲と同時に閃光を放つそれは馬の胴体に突き刺さる。 「続くぞ。その隙……頂く!」 馬が一撃を食らったことで首無し武者がぐらりと揺らぐ。これを好機と判断したゼスはすかさず強弾撃の準備を行う。 武者の胸部を狙って放たれたそれは、寸分違わず命中し、武者鎧を大きくへこませる。 この連撃に空も便乗する。 「あまり構っている暇は無いですし……早々に消えて頂きますよ」 彼女が放つは最大火力。全てを消し去る灰色――ララド=メ・デリタ。 詠唱が完了すると同時に、灰色の球体が首無し武者を馬ごと包み込んだ。 灰色が消えると、そこに残っていたのは空気だけ……。体の大部分を抉られるように消滅させられた首無し武者は当然のように倒れ、瘴気へと還っていくのであった。 ちょうど一班が首無し武者と戦闘している頃。二班の水月も決して聞き逃すことのできない音に気づいた。 「これ……多分、呼吸音なの!」 「真か……!」 水月の聴覚を信じて音の発生場所に向かえば、果たしてそこには、 「正澄おじさまー!」 「……は……く、はぁ……」 木の根元でくの字に倒れている正澄の姿があった。恐らく木に背を預けていたのだろうが、それすらできずに倒れてしまったのだろう。 「正澄殿……! 我らが……分かるか……!?」 「はぁ……ふ……ん……ぁ」 羅轟が呼びかけてみるが、返事は無い。いや、辛うじて瞳の動きだけでこちらを認識していることは分かる。 喋ることすら辛い、そういう状況なのだろう。 「見たところ怪我は無いということは、病状の悪化……!」 現状を即座に判断した霞澄は一家で受け取った薬と、それを飲ませる為の岩清水を取り出す。 苦しげに呻き、咽て吐き出したりと大分難航したが、何とか薬を飲ませることに成功する。 「ふぁ……は、ぁ……」 「体冷えてるですの……あたためるですの!」 正澄の体に触れたケロリーナは、体温低下に気づく。湿った地面に直接横になっていたせいもあるだろう。 そこで、ケロリーナは荷物から毛布を取り出して、それで正澄を優しく包み込むようにする。 また、水月は呼子笛を鳴らす。これは一班に正澄を見つけたことを告げるものだ。 「連絡はできたの!」 「……よし。では……移動する……!」 なるべく苦しい体勢にならないようにと、羅轟が慎重に正澄を抱きかかえる。 羅轟が襲われないようにと、他3人は周囲を警戒しながら脱出を敢行するのであった。 ●明かされるは、謎 アヤカシを倒し、正澄を保護したそれぞれの班は林の中で合流し、外を目指し一緒に行動していた。 羅轟に抱きかかえられている正澄は未だ苦しそうに喘いでいるというのが現状だ。 「妹を……悲しませるな……生きろ」 「そうじゃ、いくら情報を得ても、おぬしが死んでしまってはなんにもならぬわ!」 正澄の意識をこちら側に繋ぎ止めるため、抱えている羅轟だけでなく、禾室も声をかけ続けていた。 そうこうしている内に、一行は林の外に出る。繋いでいた馬は幸いなことにその場に残っていた。 これから馬で帰るということで、ゼスは正澄を自分が運ぶことを申し出る。 「馬の扱いには慣れている。良ければ俺が受け持つが」 「……頼む……」 正澄を抱えながら器用に馬に乗るゼス。スピードは出せないが、安静に運ぶことができたら十分だろう。 荒い息を吐く正澄を身近に感じながら、ゼスはふと自分の病気で死んだ兄のことを思い出す。 ……同じ病弱な兄でも、色々と大違いのようだな……と。 体が弱くても、家族の為に命を張る正澄。それは、ゼスの知る兄とは大きく異なり―― 「しっかりするのじゃ! 三成殿と瑠璃がメイド服で待っておるぞ!」 正澄にかけ続けられている禾室の声。そして、 「……マジか、よ――!?」 「えぇっ、今ので返事するのか!?」 ――うん、確かに俺の知る兄とは大違いだな。 メイド効果か、薬が効いたのか。後者だと願いたいが、とにかく正澄の体は回復へと向かっていた。 一家の屋敷は正澄の部屋にて、正澄は布団に入りながら蔵人が回収していた資料に改めて目を通していた。 その様子を見て、もう会話も問題ないと判断した蔵人は早速気になっていたことを問いただす。 「そんじゃま、判ったことを話してもらおかな」 「おーおー。随分と目を輝かせて……」 「いやね、世間を騒がしとる騒動の真相を真っ先に答え見れるとか、もうたまらなくね?」 「気持ちはわかるかもなー」 その言葉にケロリーナも同意するように頷く。 「クリノカラカミさまと人形事件の因果の推論をお聞きしたいですの」 「ふむ……。ま、それを教える為に色々調べたんだしな」 正澄は資料をぺらぺらと捲り、ある1枚を読みながら話し始める。 「まず、クリノカラカミだが……こいつは引きこもりみたいなもんで。その引きこもる為の仲間を欲してたってところだな。それが話し相手ってやつだ。んで、自分が眠るまで相手してほしいから、当然その相手は寿命の無いからくりが望ましい……と」 「からくりが……話し相手」 そう聞いて空には思い当たる点がある。そう、クリノカラカミに呼ばれたからくりが居たはずだと。 「そ、本来の話し相手はあの常葉だ。……まー、常葉をあそこに連れてくかどうかはまた色々とあるんだろうけど」 とはいえ、ここまでの情報はさほど重要というわけではない。 最も重要な情報。それは―― 「んで、クリノカラカミが目覚めた理由なんだけど。……いや、目覚めた理由というか。目覚めさせたというか」 「……目覚め、させた?」 「うん。クリノカラカミを目覚めさせたのって、朝廷なんだよね」 「な――!?」 つまり、朝廷は人形異変が起きたから動き出したのではない。 朝廷がクリノカラカミを目覚めさせたことで――人形異変が起きたのだ。 「異変は解決してほしい、けどクリノカラカミにはあんま触れてほしくない……ってのが、朝廷の矛盾の理由ってとこかな」 「なぜ、朝廷はそんなことを……?」 水月の当然の疑問。対する正澄は、 「教えない」 ――そう、笑顔で答えるのであった。 |