からくり☆かーにばる
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/08 14:23



■オープニング本文

 全てのからくりが機能停止するからくり異変。
 元凶ともいえるクリノカラカミとの交渉の末、眠っていたからくり達は再び目を覚ました。

「私、は……?」
 布団に寝かされていたからくりメイド――瑠璃がゆっくりと目を開ける。
 彼女の視界に真っ先に映ったのは、自分を心配そうに覗き込んでいる主人の顔。
「……三成様?」
「瑠璃――!」
 目に涙を浮かべた主人が、メイドの胸に飛び込むように抱きつく。
「目覚めて、良かった……!」
 従者が目覚めたから、というだけで説明しきれない三成の反応。
 正しくは『家族が目覚めたから』、こんなに安堵しているし喜んでいるのだろう。
「……」
 しかし、人の感情に疎い瑠璃は何故三成がここまで自分を想ってくれるのかが分からない。
 それでも、胸に込み上げる衝動に従って、胸の中で泣く主人の頭を優しく撫でる。
 ――これがきっと……嬉しい、ってことなんですね。
 瑠璃の浮かべた微笑は、人形とは思えない程自然なものであった。

 こうして、からくり異変は終わりを告げた。
「それにしても、朝廷はなんでクリノカラカミを……」
「え、それ聞いたら割と引き返せないけどいいの?」
「……え、凄まじく嫌な予感がするんだけど……」
 こんなやり取りが三成と兄の間にあったりしたが、とにかく終わったのである。
 今大事なのはからくり達が再び主人と一緒の生活を送れるようになったということ。
 それだけでなく、開拓者達の手元にもからくりが届くようになっている。
「今頃、開拓者もからくりの教育に四苦八苦してんのかなぁ……」
「そういえばそんなこともあったわね……」
 懐かしむように、どこか遠い目をする正澄と三成。
 からくりは起動してしばらくは幼子のような知識しか持ち合わせておらず、学習から成長におおよそ1ヶ月から4ヶ月の時を必要するという。
 今では立派にメイドをしている瑠璃だが、やはり彼女も目覚めた当初は何も分かっておらず、その教育に開拓者達の手を借りたりしたものだ。
 ちなみにその瑠璃は厨房で昼食を作っている最中だ。起動してから十ヶ月も経った現状では、大抵の事は彼女に任せることができる。
 このように、育てれば非常に頼もしいのだが、育てるまで手間と時間がかかるのがからくりの特徴だ。
「うーん、俺達は割と人手もあったから教えるのなんとかなったけど、他の人たちはどうしてんのかなぁ」
「……気になるの?」
「ちょっちな」
 兄の気持ちは、なんとなく三成にも分かる。
 無意識のうちによその子が気になる親心に近いのだろう。尤も、今の瑠璃が子の立場かというと違うのではあるが。
 しかし、だからといって次の発言のような発想が出てこないのが三成と正澄の差であった。
「よし、じゃあ開拓者とからくりを呼んじゃおっか」
「……はい?」
「いやさ。気になる直接交流すれば分かるじゃん?」
「えーっと……」
 確かにそうだ。正澄の言い分は何も間違っていない。しかし、間違ってないからとはいって正しいとも限らない。
「あの、兄さん……交流って何するの……?」
「そこはほら、それであれでこれよ。どれだ?」
「やっぱり思いつきだけで喋ってた――!?」
 駄目だ。思い付きだけで兄が行動する時は大抵自分も巻き込まれる。それを知っている三成は焦りを隠せない。
「こまけぇこたぁいいんだよ! 俺ぁ、からくり達のきゃっきゃうふふが見たいんだよ!」
「何それ!?」
「あとはほら。開拓者達のお陰で瑠璃が目覚めたわけだし。そのお礼として俺達の経験談とかを話せば役に立つかもしれないじゃん?」
「そっちは……まだ分かる、かしら」
 ――あ、しまった。納得する素振りを見せちゃった……!
 後悔するが遅かった。言質を得たとばかりにうんうんと頷いている正澄の姿が三成の目に入る。
「よーし、それじゃあ開拓者とからくりを屋敷にご招待だー!」
 嬉々として手配を始める正澄。こういう時の兄は止められないことを知っている三成は、はぁーと深いため息を吐くのであった。

「御昼食ができました――三成様、どうなされました?」


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
水月(ia2566
10歳・女・吟
からす(ia6525
13歳・女・弓
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
禾室(ib3232
13歳・女・シ
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645
41歳・女・魔


■リプレイ本文

●わが子紹介
 一家屋敷は大広間。宴にも使われる場所にて三成らと開拓者達は顔を合わせていた。
 数日前までは寝たきりだった瑠璃が起きて活動していることに、何名かはほっと安堵の息をもらす。
「瑠璃が目覚めて三成殿も正澄殿も…よかったのじゃ、本当に」
 と禾室(ib3232)のように感極まったのか目に涙を浮かべる者もいれば、水月(ia2566)のように喜色満面で瑠璃に駆け寄る者もいる。彼女は今まで眠っている瑠璃にしか会ったことがないので喜びもひとしおなのだろう。
「あのっ、抱きついても良いですか……なの?」
「……? 構いませんよ」
「わぁ――」
 抱きつく理由が分からず少し困惑する瑠璃だが、これといって断る理由は無い。
 許可を得た水月はぎゅーっと抱きつく。ちょうど腰に手をまわす形だ。
 温かみを感じる。
 体温ではない。腕の中の人物が生きているという安心感だ。改めて瑠璃が起きているという実感を得る。
「良かったの〜」

「……うむ……良かった」
 水月だけでなく、羅轟(ia1687)もうんうんと頷いて心を楽にする。三成も瑠璃も正澄も無事なこの情景を見る為に頑張った甲斐があるというものだ。
 しかし彼の傍らにいる少女は嬉しがっている理由が分からないのか疑問を口にする。
「良いもの、なのですか?」
 浅葱色の髪と薄い水色の瞳が特徴的な少女の名は琴音。羅轟を主人としている少女型からくりだ。
 先の疑問を抱いたのは彼女がまだ学習段階にあるからだろう。だから、今は分からずともいずれは……と、そうなることを望んで答える。
「何時か……お前も……分かる」
「私にも、分かる、でしょうか」
 どこかたどたどしい琴音の口調。主の口調が移ってしまったのか。これが定着する前になんとかせねば……と今後の課題を目の当たりにする羅轟であった。

 さて、水月が瑠璃が抱きついている微笑ましい状況だが、それを良しとしない者もいる。
「主……いつまでそうやって抱きついているつもりだ?」
 水月を主と呼ぶ……つまりは彼女に仕えるからくりが忠告するように告げる。
 人間ならば20代前半ぐらいの女性型。見た感じだけだとおっとりとしていて優しそうな人物に見える。主の水月と同じ白髪と翠瞳から、得てすれば母親のような印象も受ける。
 が、先ほどの短い言葉だけで性格は男前だということが察せる。
「抱きつきたいなら……俺がいるだろう」
「もしかして、やきもち焼いてるの?」
「ち、違う……!」
 口では否定しつつも図星だったのかそっぽを向く。
 ――普段はしっかりしてるのに、たまに子供っぽいの。
 しかし、それもまた彼女の魅力なのかもしれない。瑠璃から離れた水月はにこにこと笑みを浮かべながら武人からくりの手を取る。
「……そういえば紹介をしてなかったの。えっと、翠蓮さんなの」
「む、名乗りが遅れてしまったな……俺の名は翠蓮。以後、見知りおき願おう」
 これをきっかけとして、それぞれのからくり紹介を始めることになる。

「うむ、ではわしからじゃ。ほれ、頑張るのじゃ玻璃!」
 禾室がぽんと傍にいる中性的な外見のからくりの背を叩く。
 外見年齢は14歳頃だろうか。紫がかった銀髪と紫水晶のような瞳を持っている。
「僕は玻璃、よろしく」
 挨拶を促された玻璃はシンプルにそれだけ言うと、これでいいかと禾室の方を見る。
 視線を受けた禾室はもう少し何か言うことはないのかとやや困った風に頭を掻いてから、代わりに挨拶を続ける。
「この通り、まだ愛想が足りとらん奴じゃが、よろしくなのじゃ」
「おー、よろしくー。……で、男なの? 女なの?」
 玻璃は中性的な外見故に性別がどちらか分からず、正澄が質問を投げる。尤もからくりに生物的な性別はなく、あくまでも外見と性格上の性別に過ぎない。
 故に、
「僕は男性でも女性でもないよ」
 という答えが返ってきても何もおかしくはないのだ。
「へー、どっちでもないんだってよ、三成」
「なんで私に振るの!?」

「次はボクだね。ほら、黒曜石」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)が連れてきたからくりへと声をかける。
 黒曜石と呼ばれたからくり――黒い和服を着た女性型のからくりは、目を瞑ったまま頷いて了解を示す。
 彼女の目はここに来てから……いや、ここに来る前からずっと閉じられたままだ。主の絵梨乃曰く、彼女の目が開くことは滅多に無いという。
 腰まで伸びている黒髪は黒い和服と併せて、確かに黒曜石の名に相応しい黒の印象を植え付けさせる。
「私は、黒曜石、です……よろしく、お願いし、ます……」
 どこか途切れ途切れの言葉は、まだ学習しきっていない為か。しかしそれでも丁寧な口調からは理知的な性格を窺わせた。

 次の紹介へ……移る前に、緋那岐(ib5664)はマイペースに瑠璃へと声をかける。
「お、瑠璃は久しぶりだなー。あ、みっちゃんも」
「お久しぶりです」
「まるでついでのような言い草ですね。って、肩叩かないでください!」
 瑠璃が眠っている時には見れなかったであろういつも通りの三成を見て、緋那岐はからからと笑う。
「これで枕を濡らす寂しい日々ともさよならだな。よかったな〜みっちゃん」
「べ、別に濡らしてませんよ!?」
 三成は話を変えようと緋那岐が連れている筈のからくりへと視線を向ける。
 それらしき人物は……いた。緋那岐の後ろに隠れるように、しかし興味があるのか澄んだ紫の瞳を輝かせて顔を覗かせる1人の少女。
 艶やかな蒼みがかった黒髪を持つ彼女の外見年齢は10歳ぐらいだろうか。緋那岐にべったりとくっついていることから妹のような印象を受ける。
「三成も昔はこんな風で――」
「捏造しないで兄さん。……えぇと、その子が?」
 あなたのからくりかという問いに緋那岐は「あぁ」と首肯すると、少女が前に出るように促す。
 それだけで彼女は主の思惑を察したのか、口を開く。
「名前……『くくり』……」
 ちなみに字では菊浬と書く、と緋那岐が補足する。
「こいつが『くくり』って名乗ったんだ。でも字がわからないって……だから、俺が適当に当てた」
「成る程……。よろしくお願いしますね?」
 菊浬に向けて挨拶をする三成……だが、返事は無く少女は助けを求めるような目を主に向けるだけだ。
「あー、菊浬は目覚めたばっかなんだよね。だから、今回の交流会は初期学習も兼ねてってことで」

 次にとバロネーシュ・ロンコワ(ib6645)が一歩前に出る。
「お久しぶりでございます。以前は強行に連れ添った挙句に多大な迷惑を被ったでしょうから、その旨お詫びしますね」
 三成は慌てて首を横に振ってあれは自分のミスだと否定する。
「いえいえ、あれは――」
 っとバロネーシュは再度否定しようと口を開くが、今回はそんな話をする為に来たわけではないと咳払いをしてから話を変える。
「まあ、重い話はここまでとしまして、今回は各々のからくりの育て具合の披露と交流を深めるのが焦点ですから、そこは色々と楽しみますね」
 微笑を浮かべつつ、バロネーシュの傍に控えている痩身の男性型からくりの肩をぽんと叩く。
 ――さあ、伊達。頑張ってくださいね。と、それだけを言うとバロネーシュは座ってお茶を飲み始める。
 伊達と呼ばれた彼は、おうと頷いて自己紹介を始める。
「そこの主の配下、黒竜王・伊達だ、宜しく頼むな」
 背はかなり高めで、人間ならば歳は20代といったところだろう。真っ直ぐな黒瞳からはしっかりとした意思を覗かせる。
 黒髪の腰までの長さにて、前髪一房にコバルトブルーメッシュが入るのが特徴の美丈夫だ。服装は和装の着流しである。
「主が後衛職なのでな、必然的に俺が前に出張る羽目になりさうだなと」
「ふむ……主を護る盾となり敵を倒す剣となる、か。俺と同じだな」
 伊達が己に任じた役割を理解できるのか、翠蓮も頷く。
「必然的に剣技を覚えてる最中なんだが、色々大変なんだぜ」
「確かにな……。騎士となるにはいくつもの修練を重ねる必要がある」
 やはりうんうんと頷く翠蓮。
 ――これはちょっとまずい、の。
 戦闘方面以外でも学んでほしいからこの交流会に連れてきたのに、更にそっちに偏るようなことになっては困る。
 そう考えた水月は話を逸らすように伊達へと声をかける。
「伊達さん、その格好とかは自分で考えたの?」
「容姿か、カッコイイだろう。わりかし気に入ってるんだぜ」
 にっかりと笑みを浮かべる伊達。同時に水月も喜びから顔を明るくする。
 ――これなら、翠蓮さんも可愛い格好してくれるかもしれないの!

 個性豊かなからくり達に目を輝かせていたケロリーナ(ib2037)が次は自分の番だと意気揚々と切り出す。
「けろりーなのからくりさんはコレットちゃんっていうですの〜」
「……コレットと申します。よろしくお願いします」
 コレットと呼ばれた20歳前後の女性型からくりは丁寧に挨拶をする。真面目な性格ということが一目で分かる動きだ。
 見た目は金髪碧眼で人間ならかなりの美人と評されるだろう。長い髪は後ろで編んで束ねられている。
「私は立派な騎士を目指すのです」
 という彼女の言葉通り、雰囲気だけで騎士然としたものを感じ取ることができる。ケロリーナが読み聞かせたという物語の影響かもしれない。

 そして羅轟の琴音が改めて紹介を終えてから、最後はからす(ia6525)だ。
「ん、それじゃあ笑喝」
 笑喝と呼ばれた少女型からくりは、それだけの言葉で全てを察したのか動き始める。
 長い白髪を伸ばした彼女の何よりの特徴は顔を覆う白狐の面だろう。
「私は笑喝と申します。よろしくおくんなまし」
「ん……。なんだか、他の子とはちょっと雰囲気が違うね?」
 とは絵梨乃の言葉である。面が一種異様な雰囲気を醸し出しているというのはあるが、それとはまた別だ。
 そう言われて答えるのは主のからすでなく、当の笑喝だ。
「ホホ、私は学習が終わっとりますから。そのせいかもしれまへんね」
 学習を終えるのに要する期間は1ヶ月から4ヶ月と言われている。笑喝は最速学習組なのだろう。
「へぇー。じゃあ、今回は笑喝にも色々と教わりそうだね」
「とは言われましても、私のはあくまで知識メインどすからなぁ。実践ではどうなることやら分かりまへんよ?」
 なんかんだで、今でも学ぶことはたくさんありそうだ。人間がそうであるように。

●どんな風に?
 そんなこんなで始まった交流会。
 まずは三成が瑠璃を教育した時の話を聞きたいということで、何人かが三成らのもとへと集まっていた。
 ケロリーナが筆記用具などを用意して、メモする準備を整えてから正澄へと問いかける。
「三成おねえさまは瑠璃ちゃんをどうやって育ててたのですの〜?」
「そうだなぁ。そりゃあ甲斐甲斐しかったよ。口では文句を言いつつも、手は抜かずに……」
「に、兄さん……!」
 まるで子育てを聞かれてるようで恥ずかしいのか三成は止めるように言うが、正澄が従うはずがない。
「後は興味を持ったりやりたい事があるようだったら、基本的にはやらせるように付き合ってきたかな」
 例えば音楽だったり。例えば猫を飼うことだったり。
 それを聞いて、羅轟はちらと琴音の方を見る。
「うむ……。琴音も……三味線に、興味……持ってる……」
「私は、主様のように、上手に弾けない……」
 せっかくだからやらせているし教えてもいるが、今はまだ不協和音しか出すことができない。
 しかし、
「……肝要なのは練習です。私も始めはまともに音を出すことすらできませんでした」
 同じ経験をした瑠璃が言う。練習が必要なのは人間もからくりも変わらないのだから、と。
「はい、頑張って、みます」
 だから、という意思を込めて琴音が羅轟を見上げる。
「あぁ……。ちゃんと……教える……ぞ」

 そういえば、と正澄がからすへと視線を向ける。
「そっち……笑喝にはどんな教育をしたんだ?」
「ん、私か? 私は何もしてないよ」
「何もしてない?」
「あえて言えば外出担当、かな」
 訝しむ正澄らに、どういう意味かとからすは説明を始める。
「朋友達は仲が良くてね――」
 この言葉の意味を伝える為に、まずからすの屋敷の状況を説明するのが先だろう。
 からすの家には非常に多くの相棒がいるのだ。
 面倒見の良い猫又……沙門。屋敷管理土偶……地衝。無表情な知識人妖……琴音。学友の羽妖精……キリエ等々だ。
 つまり、からす本人が何かを教えなくても彼らが色々と教えてくれたというわけだ。
 ヒトの方が少ない賑やかなからすの屋敷だからこそできる教育方法だろう。
「おぉう、なんという参考にならない方法……! いや、友人や仲間が大事というのは参考になるのか……?」
「そうだね。あとは知識の勉強という点では本がメインだったし……それぐらいは参考になるんじゃないかな」

 今まで黙って話を聞いていた玻璃……とはいっても、彼には特段珍しいことではない。
 禾室は学習不足故に感情をあまり出さないと考えているが、実際はそういう性格故に自ら思いを表に出すことはあまりない。
 そんな彼が、珍しくぽつりと呟いた。
「瑠璃と僕の名前、似てるね」
 瑠璃の名前を聞いた時からずっと気になっていたのだろう呟きだ。
「瑠璃の名前案出したの、わしじゃしなぁ」
 そう、瑠璃という名は三成が名を決める時に出された案の1つであり、それを出したのが禾室だった。
「せっかくじゃし、名前の意味も教えておくのじゃ」
「名前の意味……?」
「瑠璃は青い宝石、玻璃は水晶……透明な石で、お主の髪のように紫がかった物もあるのじゃよ」
 どちらも髪色から連想した宝石の名前、ということだ。
「ふぅん……。それって、なんだか」
「兄弟みたい……ですね」
 玻璃が思ったことを瑠璃が続けて述べる。
 その言葉を聞いても玻璃は相変わらず感情を出さず、瑠璃もやはり無表情のままで。
 ――そんなところが似てしまってものぅ。

 話を聞いていた緋那岐にふとある疑問が浮かぶ。
 正澄のことだ。話を聞いている限り、彼はからくりの事を好きなように思える。
「けど……正澄さんはからくり持たないのか?」
 一家ならからくりがもう1人増えても十分養えるだろう。そうしない理由は何故なのか、と。
 対する正澄の答えは、
「いや、俺そんなに遠くないうちに死ぬじゃん? で、俺が死んだ時の事を考えたら……やっぱなぁ」
 とのことだった。

●お着替え
 せっかくだから色々着せ替えしてみてはどうだろうか――。
 そんな提案をしたのは誰だろうか。誰かは分からないが、これに正澄が乗らないわけはなく。
 広間には所狭しと様々な衣服が広げられていた。
「兄さん、いつの間にこれだけ用意したの……?」
「うん、聞きたいか?」
「やっぱりいい」
 ただいま衣服を品定めしているからくりの大半は女性型である。
 人間ではないとはいえ、やはり女性の着替えと見るのべきではない……そう考えることができて紳士を名乗る資格がある。
 そして、羅轟は紳士であった。
「では……我は退室する……」
「え、私、は?」
 主と逸れることで少し不安そうな表情をする琴音。そんな彼女を安心させるようにいつもと同じ調子で、しかし優しさを含ませた声で告げる。
「そう無い……機会だ……本当に……危険なら……助けるから……行ってこい」
「はい、というわけで兄さんも緋那岐さんも出ましょうねー。私が外でしっかりと監視しますので」
「えぇっ!?」
 2人の声がハモった。勿論三成は抗議を聞かず、2人をずるずると外に連れ出す。
「俺はどうすれば……」
 この状況で途方に暮れているのは唯一の男性型からくりの伊達だ。そこで主であるバロネーシュが助け舟を出す。
「あなたは外で正澄さんらに着替えさせてもらったらどうです?」
「あいよー……。性別が主と違うと色々大変だよな」
 どこか遠い目をしながら部屋を出る伊達。もしかしたら家で女性ものを着せられた過去があるのかもしれない。
 しばらくして、外から正澄の声が聞こえた。
「男を着せ替えさせても楽しくねぇよ!!」
 全員がその抗議を無視したことは語るまでもないことである。

 こうして女子達の着せ替えっこが始まった。
「コレットちゃんにはこのドレスを――ふぇぇ〜?」
 ケロリーナが用意した白いドレスを着せる前に、コレットは何故かそこにあった黒い重厚な兜を選び、顔を隠してしまった。何故だか凄く落ち着いているように見える。
「ど、どうなってるんですの、三成おねえさま〜!」
 三成に助けを求めるが、当人は正澄を監視するためという名目でここにはいない。
「ん……。後は鎧に、大剣もあれば理想ですね。髪も三つ編みよりポニーテールがよいでしょうか」
 コレットからは何故か脳筋の気配がした。
 もう1人の騎士娘はというと……。
「こ、これを着るのか……?」
 水月が翠蓮に提示したのはフリフリの多い可愛らしい洋服だ。
「駄目……なの?」
「騎士たる者が、このような服を身に纏う訳には……」
 拒否を口にする翠蓮、だが。
「着てほしいの……!」
 期待するようなきらきらとした主の眼差し。
「く、うぅ……」
「じぃー」
「うっ……き、着ます」
 主の期待を裏切ることはできず、恥ずかしさを耐え忍ぶことを選んだ翠蓮であった。割とちょろい。

 やや困った様子で周囲を見ている菊浬。彼女が今着ているのは呉服屋に連れていってもらった際に興味を持った服……巫女服だ。
 何より彼女は自分から服をどうこうする程自我が確立していない。
 そんな彼女に助け舟を出したのは、学習が終わっている笑喝だ。
「なんや困っとるみたいどすなぁ。そや、ならウチらで衣装交換っていうのはどうでっしゃろ?」
「……えと、はい」
「ホホホ、それじゃあこれを――」
 というわけで衣装交換を始める2人。おぼつかない手つきの菊浬を笑喝が手伝うことで何とか着せていく。
「どうどすー? ウチら綺麗でっしゃろー?」
 こうして、巫女服を着た笑喝。和服に加えて白狐の面をつけた菊浬ができた。
「お面……」
 興味深いのか、自分がつけている面をぺたぺたと触る菊浬。笑喝は美しい笑顔を浮かべながらそれを見守っている。
「貸してよかったのか?」
「ウチらは同じからくりどす。大丈夫」

「うーん、やっぱり普段と違うのを着てみるのがいいよね」
 辺りに広がっている様々な衣装を眺めながら、黒曜石に似合うのは何かと見定める絵梨乃。
「お」
 そんな彼女の目に止まったのはやはり黒の服。しかし和服でもなければ洋服でもない。
「泰国のドレスか……」
 深いスリットが入っていることで足を見せるようになっている服だ。普段から露出の少ない黒曜石だからこそギャップがあっていいかもしれない。
「黒曜石ー、これどうかな?」
「初めて、見ました……とても興味深い、です……」
「よし、それじゃあまずはこれ」
「……まずは?」
「着せてみたい服はまだまだ色々あるからっ!」

 こうして、女子のお着替えタイムは終わり、玻璃が外の男性陣を呼びにいった。一度は女性の格好をしていた彼ももういつもの男女兼用の天儀の服だ。
「……やっぱり、この方が楽だ」
 そんな彼の目に真っ先に入ったのは、悲しそうに膝を抱えている正澄であった。

●料理?
 着替えが終わってから、からくり達は料理に挑戦することとなった。
 中々の大惨事だったので、簡単なダイジェストで送ろう。

「ちょ、調味料を入れすぎじゃ!?」
「え、だって、味を変える目的で入れるんだし……」

「くっ……主命とあらば是非もなし。この命尽きようとも、必ずや叶えてご覧に入れましょう」
「料理で命が尽きる……なの?」

「分からないことがあったら聞いてもいいんだからな、黒曜石」
「ここからの、挽回方法を、教えて、ください」

「ほほほ、味噌汁とはこんなに味が無いものどすか?」
「だし、忘れてない?」


 ……何事も経験に勝る学習は無い。そう実感した開拓者であった。
「残しはせぬ……残しは……せぬ……ぐふっ」