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■オープニング本文 ※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 天儀歴1027年―― 天儀内を覆っていた多くの魔の森は開拓者達の尽力により消滅していた。 魔の森も無くなり、瘴気を封印する術を得たことで人々はアヤカシに脅える夜を過ごすことも無くなった。 新たな儀もいくつか見つかり、人々は新たな出会いの度に成長していった。 尤も、それらが何の代償も無しに手に入ったわけではない。 いくつかの組織は滅び、幾人もの戦士達が命を散らしていった。 またアヤカシが姿を消したとはいえ、覇を唱える為に虎視眈々と力を蓄える者もいる。 世界から争いの全てが無くなったわけではない。いや、きっとそれは人が人である限り不可能なことなのだろう。 しかし、それでも。 この平和な時代こそが人々の望んだものであることは間違いなかった。 うだるような暑さの中、墓場に2人の人影があった。 しゃがんで墓に手を合わせる青年。長い黒髪に加え、体格が細めなこともあって中性的な印象を受ける。 後ろに控える少女は炎天下の墓場には似合わないメイド服を着ている。だが暑さを苦としていないのか、汗の一つもかかず無表情を維持していた。 「……っと」 青年は今まで閉じていた目を開け立ち上がる……が、暑さにやられたのか立ち眩みを起こしてふらつく。 しかし、傍らに控えていたメイドがすぐさま体を支えてくれたお陰で倒れることは避けることができた。 「大丈夫ですか?」 「ん、ありがとう。……うーん、やっぱり30過ぎると体にガタが来るなぁ」 「お言葉ですが。三成様の場合、年齢の問題でなく単純に運動不足かと思われます」 「15年前から姿の変わらない瑠璃にそれを言われると、理不尽なものを感じるよ……」 苦笑しつつ、青年は墓の方へと振り返る。こうして付き添ってくれるメイドとの出会いを作ってくれたのもこの人だったんだよなー……と墓に眠る人物に感謝する。 いつも面倒な騒動を引き起こしてくれたけど、それも今となっては懐かしい思い出だ。 「さてと、あんまり長居するわけにもいかないし」 青年がメイドへ視線を送ると、彼女は持っていた桶の水を全部撒いて空にし、帰り支度を始める。 帰る準備が出来たのを見届けてから、青年は最後に墓へ別れの挨拶を告げた。 「それじゃ、また来年来るからね……兄さん」 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
アルフィール・レイオス(ib0136)
23歳・女・騎
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
猪 雷梅(ib5411)
25歳・女・砲
赤い花のダイリン(ib5471)
25歳・男・砲
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●独身貴族 「ハァ、まさか私がこんなことでギルドに依頼を出すことになるとは」 今日もギルドにやってくる依頼人が1人。アルフィール・レイオス(ib0136)だ。 開拓者時代には想像もできない女性らしい服を身に纏った彼女はまさに貴族の姫といった出で立ちである。 ……姫なんて歳でもないがな。 37歳という自分の年齢を自覚し、アルフィールは心の中でため息を漏らす。 「入り婿相手探し、ですか?」 「はい、私の結婚相手を探してほしいのです」 「事情をお聞きしてよろしいでしょうか?」 アルフィールは頷くと経緯を話し始める。 彼女の生家であるレイオス家はジルベリア貴族だ。しかし、彼女は母親が異国人であったせいで幼少の頃に家を追い出された。 だがこの15年間の戦いでレイオス家の直系は途絶えてしまう。 「そこで直系の私を家に呼び戻したというわけです」 彼女に課せられた義務はレイオス家の血を残すこと。その為に女性らしくなる特訓もした。 「ただ肝心の相手は待つだけでは現れません。なのでこうして依頼を出す……というわけです」 ……理想の王子様が手を差し伸べてくれるような立場でもないからな。 まともな結婚を半ば諦めている女性の境地であった。 「まさか私が『家人が納得するような入り婿を探してください』なんて依頼を出す立場になるとは思いませんでしたよ」 開拓者をやっていた時にたまに目にした変な依頼。こういうのも出す側には事情があるのだと開拓者をやめてから実感するとは何と皮肉だろうか。 「あー、はは……。では、具体的にどのような相手が望ましいのですか?」 「あぁ、私個人は特に注文は付けません。この歳ですし開拓者時代は女捨ててましたしどうしても今更感が。ただ……」 「ただ?」 「家人からは『入り婿必須』『レイオス家に釣り合う家柄もしくは人物』『絶対に私との間に子を成す』等の条件が出されてますが、やはり無理ですかね?」 不安げなのは年齢と経歴もあってか社交界ではこの条件をクリアする相手が見つからなかったせいだ。 しかし、と受付係は依頼人を安心させる信頼と実績の笑顔で応える。 「いいえ。どのような困難な依頼でも達成するのが開拓者です!」 ●理想の女性 独身の悲哀を背負った者もいれば、幸せな家庭を築いた者もいる。 華御院 鬨(ia0351)がその例だ。 とある小さな村に訪れている彼の今の格好は男性ながら和服が似合う京美人といった言葉がよく似合うものだ。 現在の彼は一応開拓者を続けているが、最近は専ら歌舞伎役者として活動を行っている。この女装も歌舞伎役者故だ。 「皆はん、楽しんでくれてなによりどす」 都市部だけでなくこういった小さな村で公演を行うことは彼にとっては珍しくない。 今日は出張公演の最後の日だ。片付けが終われば都へと戻ることになる。 「久々にかかあの作る飯が食えるぜ。鬨のとこも嫁が待ってるんだっけ?」 「えぇ、その通りどす」 役者仲間の言葉に、鬨は愛しい妻のことを……そして彼女との出会いを想い出す。 7年前。鬨は今と変わらず歌舞伎役者として充実した日々を送っていた。 そろそろ結婚して世継ぎを見せてほしいと両親に小言を頻繁に言われるのが違うところだ。 面倒だから結婚しないわけではない。結婚よりも歌舞伎役者としての上達を上位に置いているが為だ。 また、彼の理想のタイプは自分より女性らしい女性、である。女形の実力が身につけば身につく程理想がいなくなるジレンマを抱えていた。 勿論それではいけないと両親が見合いを持ってきても、 「未だ、うちは最高の女性の域には到達できない修行の身どす」 と断ってしまっていた。 そんな彼に転機が訪れたのはある休日のこと。本来の男性の姿で街を歩く鬨の足が止まる。 「え、今のは……?」 すれ違った人物を確かめる為に振り向く。 居た。どのような人物かは敢えて伏せるが、確かにそこに自分より女性らしい女性が居た。 「ちょっと待ってください!」 「――」 思わず駆け出して彼女へと声をかける。その自分では出せない愁いや芯の強さを醸し出すためには、どうしたらいいのか。 ――そんな歌舞伎役者としての理由は建前だ。鬨は恋に落ちていた。 鬨と彼女が絆を強めるのにはそんなに時間がかからなかった。 彼女がシングルマザーだったこともあり、両親には結婚を反対されたものの、最終的には承諾し今へと至るのだった。 ●終わらぬ戦い 開拓者ではなく独自の道を進んだ者は他にもいる。不破 颯(ib0495)がその1人だ。 数年前に開拓者を引退した彼は、それまでに集めた道具と築いたコネを活用し、自分の屋敷で「不破堂」という店を開いていた。 さて、不破堂が何を扱う店かというと古道具&貸し道具屋だ。 引退した開拓者の道具装備などを引き取り、必要な所は修復。売る際は元値の2分の1、レンタルの場合は10分の1という値段で現開拓者に提供するのだ。 お手軽価格で良い装備が手に入るということで開拓者達には人気で、今日も店は繁盛していた。 「あの頃と比べて随分平和になったもんだぜ……表向きは、だけどねぇ」 店内の様子を奥の座敷で煙管を吹かせながら眺める颯。 ……うちが儲かるってことは、戦いの火はまだ燻ぶってるってことだよねぇ。 小競合い程度しか起きないアヤカシ相手ならば、そんなに装備は必要ない。――ならば、何と戦うというのだろうか。 「……ま、引退した身の俺には関係ないかねぇ」 「……あ、あのー」 「はい。あ、あなたは――!」 ある開拓者が申し訳なさそうにおずおずと受付を勤めるからくりの空澄へと声をかける。 空澄は彼に見覚えがあった。随分前に武具を貸し出した開拓者だ。 「その、依頼でドジっちゃって……」 彼が見せた刀は見事にぽっきり折れている。 「これは……弁償していただかないとなりませんね。あと延滞料もです」 武具レンタルには依頼終了後3日までという期限があり、1日過ぎるごとに500文の延滞料が発生する。 弁償代も含めて開拓者の負債は10000文に達していた。 「そんな金ないっすよ!?」 「――じゃあ、体で払ってもらうしかないよねぇ?」 いつから話を聞いていたのか。いつの間にか空澄の後ろに立っていた颯が覗き込んでいた。 「うっ……」 強制労働を持ちかけられて、開拓者はじりと一歩下がる。このまま逃げていきそうな雰囲気だ。 だが、 「逃げる奴ぁ頭ぶち抜くからなぁ? 40前だが、腕は鈍っちゃいないよぉ?」 ヘラリと笑いながら弓を構える店主の姿に、諦めて項垂れるのであった。 ●幸せ夫婦 赤い花のダイリン(ib5471)は開拓者の肩書き通り、様々な新しい儀を探索していた。 調査を終えたダイリンは愛する妻の待つ家へと帰ってきたのだった。 「久々に我が家に帰ってこれたな。……しかしすっかり遅くなっちまった。皆もう寝ちまってるか」 「私はまだ起きてるよ。子供達は皆寝てるけどね」 ダイリンを迎えた妻は猪 雷梅(ib5411)。20代の時よりすっかり落ち着き、女らしくなっている。 子供も3人おり、夫婦仲は今でも良好だ。 「たーだいまー。今回も無事に帰ってきたぜ」 「お帰りなさい。……って、なんだよ。疲れた顔してんなぁ。折角女らしく迎えてやろーって思ってたのに」 けらけらと笑う雷梅。こういう所は今でも変わらない。その笑顔を見ているだけでもダイリンの疲れは吹っ飛ぶ……が。 「んじゃ、元気になる話してやろーか? ほら……」 雷梅はダイリンの手を取ると自分のお腹を触らせる。そこに感じるのは新たな命の胎動。 「4人目だ」 「でかした! こいつぁ目出度い!」 これから宴でも始めてしまいそうなテンションになるダイリンと、それを微笑ましく見守る雷梅であった。 落ち着いてから、ダイリンはあるものを取り出す。 「と、そうだ。この簪なんだが、今回の探索に行った先で手に入れたんだ。お前への土産にと思ってよ」 「ん? ……それ、私に?」 ダイリンから簪を受け取り、破顔する雷梅。 「ありがとう……すげー嬉しい! 大事にする!」 つけた姿を見てほしいのか、雷梅は簪をさす。 「……似合う?」 「あぁ、思ったとおりだ。よく似合ってるぜ。流石は俺の自慢の嫁さんだな」 「……へへ、だろお?」 離れていた期間の分だけ睦み合いたいのか、2人の会話が途切れることはない。 「なあなあ。次の仕事終わって…こいつ生まれたらさ。どっか行かねえ? どこでもいい。お前の好きな所、行きたい所、全部回ろうぜ。な、いいだろ? 約束な!」 勿論だ……そうダイリンが答えようとした時、彼の持つ風信機が鳴った。 「……って、あん? 緊急の呼び出し?」 呼び出しの内容は精霊門に似た穴が見つかったというもの。すぐに行くと答えてから通信を切る。 「悪いな、雷梅。てことでまた行かなきゃならねぇ。ま、今度は遠出って訳でも無ぇし、すぐに戻ってくるさ」 「……ンだよ。もう行っちまうのか」 寂しそうな雷梅を宥めるように、ダイリンを旅行に話を戻す。 「旅行の行き先は、一緒に考えるとしようぜ。家族皆でな!」 「分かった。あいつらが起きたら、私から話しとく。きっと喜ぶぜ!」 そしてダイリンは再び出発する。 「じゃあ……いってらっしゃい。あなた。……なんてな」 ニカっと笑う妻に送られて、夫は家を出る。 「あぁ、いってきます!」 ダイリンが向かった先。そこには妙な敵がいた。 天使か悪魔か。敵はダイリンを容赦なく襲う。 「……ヘッ、覚悟を決めるっきゃねぇか。……俺を誰だと思っていやがる! 俺はダイリン! 人呼んで赤い花の……ッ!?」 その言葉を最後に、ダイリンの姿は穴に吸い込まれるように消えていった。 「あ――!?」 ちょうどその頃。雷梅は掃除の最中、プレゼントしてもらった簪を誤って落としてしまった。 慌てて拾うが、飾りの部分が割れてしまっている。 それに嫌な胸騒ぎがする。 不安な表情で窓の外を見ると、雷梅の心を表すかのように、夕暮れであるのに外は雨雲で薄暗かった。 ●消えぬ絆 墓参りを済ませた三成と瑠璃が帰ろうとしたその瞬間であった。 彼らの背後にある墓石の裏から鈍い打撃音が響く。直後、墓石の裏から音の主が姿を見せた。 『風の熊三郎、参上』 「適当な名乗りは、いけないと思います、主様」 立て札を手にまるくまを着込んだ謎の人物であった。からくり付き。 からくりの名は琴音。そして琴音の主はただ1人、羅轟(ia1687)であった。 そんな彼の足元に気絶している男が1人。 『三成さんを監視してる者がいたので気絶させました』 とのこと。 だが三成にとっては羅轟がここにいることの方が重要だ。 「今まで何やってたんですか……!?」 何せ10年前に消息不明だった人物が現れたのだから。 まるくまを脱いだ羅轟の姿は、やはり鎧であった。 「あなたー、どうしたんです?」 三成をあなたと呼ぶ女性が墓地の入り口の方からやってくる。 先端が縦ロールしている金髪のストレートヘアーに、長身に相応しい抜群のスタイルを誇る落ち着いた雰囲気の美女。 「あなた……ということは……」 「妻です」 三成の言葉に驚愕する羅轟を見て、三成の妻は「あぁ!」と思い至ったように両手を合わせる。 「羅轟さん! お久しぶりですね」 「む。失礼、どこかで会ったか……?」 誰だか分からないといった様子の羅轟に、女性は髪を両手で持ち上げて当時の髪型と喋り方を再現する。 「では、こうすれば思い出せるですの?」 「ま、まさか……!?」 ようやく羅轟も見当がつく。ケロリーナ(ib2037)――それが羅轟の知る少女の名前だ。 「今は本名のエカテリーナを名乗っていますけどね」 更に新たな人物が顔を見せる。 「あれ。羅轟じゃん、久しぶりー」 羅轟の知る15年前の姿とあまり変わっていない男性の名は緋那岐(ib5664)。彼もまたからくりの菊浬を連れていた。 「って、緋那岐さん……! あぁ、いや、もうどこか落ち着ける場所で話しましょう」 「あ、うん。よく分からないけどそれでいいんじゃないか?」 実は彼もしばらく前に行方不明になっていたのだが、それを感じさせない軽さであった。 場所は移って一家の屋敷。 「で、まずは謎が一番多い羅轟さんから何があったのか説明してもらいたいのですが……」 進行はお約束として三成だ。 「う、む。実はだな……」 ある依頼で手足を失った羅轟は、駆鎧応用義肢を開発していると聞いてジルベリアへと渡った。 だが、施術したのが帝国に反乱を企む悪の組織で、頭部以外改造されてしまったのだ。 「洗脳手術される前に……逃げだしたのだ」 「鬼面開拓者羅轟は改造人間である、ってことか」 緋那岐の言葉に頷いて、縁側から庭に降りる羅轟。 ボルトアームを撃ち出したり、足裏から練力噴射で跳んでみたり、膝に隠された魔槍砲を披露する。 「アーマーだ……」 「アーマーです……」 「アーマーですね……」 他3人が全く同じ感想を抱くのも仕方なし。 それから戦ったり逃げたりの日々を送っていたらしい。 「羅轟も大変だったんだなぁ」 「緋那岐さんも行方不明になってたじゃないですか……」 他人事のように話す緋那岐に、三成はため息をつく。 長い付き合いの友人である三成にとっては、依頼に赴いた緋那岐が消息を絶って気が気ではなかったのだ。 しかし緋那岐は何事もなかったような素振りで、 「いやー、ちょいと道に迷って帰れなくなっちまってさ。どうなるかと思ったけど」 あははは、と呑気に笑う。 「あのですねぇ――!」 妹や嫁に怒られた緋那岐であったが、ここでも友人に怒られるのであった。 「うぅ、菊浬……みっちゃんが虐める」 幼子のようなからくりに泣きつく、が。 「……心配させるのはダメ」 逆に窘められるのであった。 こんな彼だが、陰陽寮関係者として数々の術を開発をした人物でもあったり。 「緋那岐殿は相変わらずだが……ケロリーナ殿、いやエカテリーナ殿は……随分変わったな」 「ふふ、そうかもしれませんね」 彼女は三成が男性だったことを知りショックを受けたものの、気を取り直して猛アタックをかけて結ばれたのだった。 「三成さんってちょっと頼りないところがあるんですけど、それがいいんですよね」 「ここでそんなこと言わないでくださいよ!?」 どうやら母性本能をくすぐられるタイプのようだ。 趣味は正澄の残した日記の解読と、おろおろする三成を見ること。実に充実した毎日を送ってるとのこと。 だが、幸せなだけでなく悩みもあるという。 「4歳になる息子がいるんですけど、一家の仕来りに従って女性として育てるべきなのかどうか……」 「仕来り、なのか……」 「仕来りなんだ……」 「仕来りなんです……」 こうして男の娘の伝統は受け継がれていくのだった。 変わるもの、変わらぬもの 未来がどうなるかは――まだ誰にも分からない。 |