【蒼雷】嵐の前
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/30 18:46



■オープニング本文

 雷を操る蒼き麒麟、聳弧型アヤカシ――都牟刈による須佐の街への襲撃。
 開拓者の助言もあって、墓場に眠る天羽家当主をアヤカシにするという目論みは阻止することができた。
 だが――
「都牟刈の連れていた男。あれは間違いなく……」
 墓場に現れた都牟刈は単独ではなく共を連れていた。
 筋骨逞しい肉体を誇り、不敵に笑う男。大太刀を振るい兵を切り捨てていく姿は正に万夫不当の戦士であった。
 しかし人の姿をしていても魂はそうではない。瘴気を纏った姿は彼がアヤカシであることの証。
 天尾家当主である天尾 秀正はアヤカシになる前の男を知っていた。
「かつて天羽の護衛を勤めていた伊都家当主――伊都 武政」
 だが彼はかつての主である天羽家に牙を剥き、死んだ。
 死んだ者がアヤカシとなって現れた。つまり、
「都牟刈が武政をアヤカシとして蘇らせ、配下にしたってことだね」
「……叢雲様、あまり楽しそうに言わないでください」
「え、そう見えた?」
 おっかしいなー、と自分の頬を確かめるように撫でる黒髪の少年。
 確かに秀正の指摘している通り少年叢雲の頬は緩んでいた。尤も、指摘されても悪びれた様子を見せることはないのだが。
 ――実際、面白いことになってるしねー。
 人間とは異なる思考を持つ叢雲にとって、今の状況は見る分には楽しいものだ。
 かつて死んだケモノがアヤカシとして蘇り、そのアヤカシが更に死んだ男をアヤカシにする。
 伊都 武政がかつて滅ぼした氏族の生き残り……天羽 扇姫は今もまだ復讐の炎を燃やし、当然新たに現れたアヤカシに対しても敵意を見せている。
 それだけではない。天羽滅亡の一因である武蔵はアヤカシに襲われた村を救う為に戦ったりした。もし彼に都牟刈討伐の協力を申し出れば、快く受けてくれるだろう。
 ……尤も、扇姫がそれを良しとするかどうかは別だけどね。
 だから、面白い。
 本音と建前。
 人間の情念。葛藤。憤怒。憎悪。
 そんなものを間近で見られるかもしれないとあって、叢雲はいつになく上機嫌であった。
「叢雲様」
「おっと」
 そんな胸中を察したのか嗜めるような秀正の視線を受けて、叢雲は話題を変える。
「……で、武蔵はどうしてる?」
「先日襲撃された村に滞在し、復興を手伝っているようです」
 現状の天尾家としては武蔵の監視はすれど介入はしないという方針であった。
 何せいつ都牟刈に襲われるか分からない状況だ。わざわざ馬鹿相手に戦力を割く余裕も必要もない。
「いやぁ、ある意味爆弾抱え込んじゃってる状態だねー」
「だから楽しそうに言わないでください」
 言うまでもないが武蔵の居場所……どころか、先の事件で武蔵が介入したことすら扇姫に知らされていない。
 ちなみに秀正の娘である天璃に対しても同様である。

 この状況で取るべき手は何か。
「んー、やっぱり決戦に向けての準備だよねー」
 決戦の日は近い、というのが叢雲と秀正の共通認識であった。
 先日相対した都牟刈にしろ武政にしろ、アヤカシとしての力を十二分に発揮しているように見えた。
 後は彼らが戦力を整えればこちらに攻め込んでくるだろう。
「……こちらの戦力は未だ不十分なのが気になるところですが」
 今のところ、須佐の常駐戦力は天尾家と縁の氏族で構成された警備隊ぐらいだ。
 須佐だけでなく十塚そのものの危機だとして阿治の大量家や高倉の佐士家に応援を要請してみたが、それも断られた。
 彼らとしても自分達の街を守るのが精一杯なのだろう。責めることはできない。
 かといってギルドに依頼を出して大量の開拓者を常駐させることができる程資金の余裕はない。
「ま、僕達だけでできることにも限界はあるしさ。ここは開拓者達に頼ってみるのも手じゃないかな」
「開拓者に、ですか」
「そーそー。常駐は無理でも、いずれ来る決戦には彼らの手も借りるだろうしね。戦場に立つ彼らの声も役に立つんじゃない?」
 それに、
「彼らなら、僕らが考えもしなかった面白い手を見せてくれそうじゃないか」


 ――ふふ、面白さは大事だよね。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
以心 伝助(ia9077
22歳・男・シ
紛琴 殃(ib9737
18歳・男・巫


■リプレイ本文

●須佐にて
 都牟刈との決戦に向けての準備を行う為、須佐に集まった開拓者達。
 彼らは案内された一室で天尾秀正と叢雲の2人と面会していた。
「――というわけで、君たちは直接会ってないけど、あの場に都牟刈と奴が蘇らせたアヤカシがいてね」
 それが伊都家当主である武政だった……そう開拓者達に説明する叢雲。
「都牟刈……そして……伊都……武政」
 初めて聞く名前。会ったこともない存在。だが羅轟(ia1687)にとって伊都武政の名はただのアヤカシ以上の意味を持つ。
 何故ならば、彼こそが武蔵と扇姫2人の運命を狂わせた存在といっても過言ではないからだ。
「……必ず……討つ」
 十塚に牙向く邪獣と友に仇名す狂人。これを討つ事に躊躇いは一切無い。
「そーだね。このまま放っておいたらどんなことになるやら」
 少なくとも、現状を放置してまともな未来は訪れないだろう。柚乃(ia0638)が沈痛な面持ちで決意を固める。
「放っておけば、更なる罪なき人々が巻き込まれ命を落とすでしょう」
 だから、
「これ以上犠牲を出さぬ為にも、今出来うる限りの手で最善を尽くす……ですっ」
 その言葉に全員が頷く。それを模索し、実行する為に集まったのだ。
「しかし、実際どうしましょうか? 簡単に片付けばいいんですけど?」
「そうだったら苦労しないんだけどねー」
 紛琴 殃(ib9737)からの問いを受けて、叢雲は視線を以心 伝助(ia9077)へと移す。
「何かあるかな?」
「そうっすね。頭痛い事柄は他にもありやすけど……自分はまず都牟刈を調べてみようかと」
 これから戦う敵である都牟刈が今どこで何をしているかの情報は未だ不足気味だ。
 ならば、これらの情報を集めるのは必須事項であるといえた。
「後は……こちらの戦力増強も……」
 決戦を行うというのであれば、やはり戦力はあるに越したことは無い。
 その考えがすんなりと出てきたことから、羅轟には追加戦力の当てがあるのだろう。
 ……もっとも、何事もなく戦力が増えるだけ……なら良いのだが……。
 心の中で溜息をつく羅轟。いわゆる頭が痛くなる事柄なのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが。
「でも……」
 羅轟の言葉を受けて、柚乃が疑問を差し挟む。
「ただ戦力増加をする……ならギルドで人員を募れば事は済む、のかな」
 言ってから、先日の須佐襲撃事件を思い出して、首を横に振る。
「ううん、けど都牟刈が須佐に姿を見せた時の状況からしても……」
 突然の村襲撃。たまたま武蔵がその場にいたから良かったものの、事件が発生してからギルドへ応援を頼んでも間に合わないように思える。
 実際に襲撃事件で都牟刈と対峙した秀正が柚乃の危惧を首肯する。
「都牟刈が仕掛けてきてから救援を出す、では間に合いませんね。必要なのはここに常時置くことができる戦力です」
 ギルドの開拓者達はあくまでも金で雇う存在だ。そんな金食い虫を常駐させるほどの余裕は街には無い。
 そこまで聞いて、殃は思い当たる節があるのか、過去の報告書を読んで気になった存在を上げる。
「ね、秀正さん。高倉の傭兵さん達って雇えないかな?」
「……以前、扇姫殿が雇っていた者達……か」
 ある時は扇姫に雇われて羅轟ら開拓者と対峙し、またある時は閃津雨山へ調査に向かっていた傭兵のことだ。
「費用や窓口なら……扇姫殿が把握している、筈……。交渉……してみるのは……?」
「成る程、傭兵ですか」
 羅轟の提案に秀正は乗り気なようで、早速腰を上げる。詳しい話を聞きに扇姫の元へと向かうのだろう。
 それを見送った叢雲はこの場でのは話は一先ず終わりだと言わんばかりに気だるげに姿勢を崩す。
「皆の活躍に期待してるよー」
 というわけで、とりあえず解散となったのであった。

●武蔵
 先日アヤカシに襲撃された村。
 家々が焼け落ち村人も何人かが命を落としたが、開拓者達の働きのお陰で村自体は残っていた。
 復興作業をする村人達。そんな中に、1人の男がいた。
「……武蔵殿」
「ん? おぉ、羅轟か」
 名前を呼ばれた男――武蔵が肩に担いでいた斧を地面に下ろす。
「あぁ……。伝助殿にも……よろしくと伝言を承っている」
「そっか。んで、こりゃまたどうした?」
「うむ……」
 早速、羅轟は都牟刈との決戦に向けて天尾家が戦力を求めていることを、そして武蔵に協力してほしいことを告げる。
「尤も……敵に、伊都武政がいる……から」
「親父が?」
「故に……屍人とはいえ、親子で……殺し合いに、なる。大丈夫か……?」
 普通なら思うところが色々とあるだろう。しかし、
「はー、親父がねー。アヤカシになっちゃったか」
 武蔵の反応は大したものではなかった。近所の誰某さんが結婚した程度の話を聞いたものと大差ない。
「……気に、ならないのか?」
「ん? いや、所詮は親父の殻被ったアヤカシで本人ってわけでもねぇしなぁ。本人だったら本人だったでぶちのめしてぇけどよ」
 それよりも、
「そっち側が大丈夫なのか?」
 武蔵の言うそっち側とは天尾家。この場合は扇姫といっていいかもしれない。
「……うむ。バレたら殺される可能性……非常に高い」
「死にたくはねぇなぁ……」
「バレたら……だ」
 バレなければ良い、と。変装し、伊都固有の技も控えるなどすればよいと提案する。
「うげ、面倒そうだな」
「……一度殺されて生死流転で蘇生させて貰うわけにもいくまい?」
 やらなければ死ぬ、という現実を突きつけられ、武蔵はげんなりとした様子で両手を挙げる。
「分かった分かった、やりますよう」
「……うむ。演技指導は……付き合う」

●都牟刈
 場所は変わって、十塚は北の方に位置する小さな村。
 そこを訪れていたのは伝助だ。
「こっちの方はまだ調査が済んでないみたいっすね……」
 事前に天尾家がどこまで調べたのか把握し、未だ手が届いてない地域の調査を行う為やってきたのだ。
 手がかりも、ある。
「現状アヤカシは最低でも2体っすから、『食事』もそれなりにある筈……。特性上『雷』も手がかりになりそうっすね」
 冷静に思考しているつもり、ではある。だが胸糞が悪くなるのは否定できない。
 アヤカシの食事の跡を探す、ということは……つまり、そういうことだからだ。
 しかしこの場ではその感情を振り払い、冷徹なシノビらしく頭を回転させる。
「仮に向こうが戦力増強を狙うとすれば『墓荒らし』や『失踪事件』も手掛りになるっすかね」
 そういった噂を聞き、集めた情報を元にやってきたのだ。

 結果、村で得られた情報。
 噂で聞いたとおりの事件は実際に起こっていた。そして、それら以上に気になる話があった。
「ケモノの姿を……見ない?」
「そうなんですよ。この近辺には猪のケモノが結構な数いる筈なんですが……。ここ最近、すっかり姿を見なくて」
 詳しく聞いてみると、姿を見なくなった時期は失踪事件などがおき始めた時期と一致する。
「でも、どうして――」
 考え始めてすぐに、伝助はある事件を思い出す。
 大人しい筈の猿がアヤカシに脅されたことで人を襲うようになった事件のことを。
「もっと調べてみた方が良さそうっすね……」

 村人に教わった、猪が住んでいる筈の山へと潜入する伝助。
 だが、
「ケモノの気配が……まるでしないっすね」
 いや、正確には生きているケモノの気配、だ。死臭は奥に進めば進むほど濃くなっている。
 しばらく進んだ伝助の見つけたもの。それは、
「これは、猪の死体……っすか?」
 この山に猪が住んでいることを知っているという前知識があれば、辛うじてそう分かる程度の黒い何かが辺りに散乱していた。
 完全に炭化しているようで、手で触れてしまえばぼろぼろと崩れ落ちてしまう。
 しかし、わざわざこんなことをして何の意味が。その疑問は周囲を調べるうちに氷解していった。
「足跡を見る限り、集団を連れて山を下りているみたいっすね」
 更に、周囲には瘴気の残り香が漂っている。
 これらの事実から導き出される結論は。

●ケモノ
 過去の報告書を読み返し、気になったことがあった柚乃は高倉の街へと向かっていた。
 高倉はケモノの研究を主に行っている街であり、過去に傭兵を閃津雨山へと向かわせたのも高倉の氏族であった。
「今、黒龍はどうしてるのかな……」
 その事が気になり聞き込みを行う、が。彼女が得た情報は予想外のものであった。
「んにゃ、ここ最近はずっと黒龍を見かけてないな」
「見かけてない……ですか?」
 正確には閃津雨山へと飛んでいく黒龍の姿を、だ。以前なら時折あった目撃情報が今では皆無になっているのだ。
 改めて情報を集めていくうちに、あることに気づく。
「……閃津雨山の封印が壊れてから、姿を見せなくなった?」
 時期的にはちょうど一致する。
 封印が壊れてしまった以上、閃津雨山にやってくる理由は無い、といったところか。
「それならそれで、普段はどこにいるんでしょうね」
 だが、その事に関する情報は殆ど集まらなかった。唯一といっていい情報は、黒龍は須佐のある方向から飛んできていた……ぐらいである。

 他に気になった情報。例えば別に強力なケモノがいないか……などについても情報を集めていた。
「そういえば、他の麒麟ってどこにいるのでしょうね……」
「麒麟? 麒麟なぁ」
 研究者のうち1人が腕組みをして考え込む。
「確かに色によって炎駒だの索冥だの呼ばれるわけだが……かといって、それらが全て実在するかどうかは別だ」
「そういうものなんですか?」
「あくまでも呼び方が決まってるってだけで。今のところ十塚で確認された麒麟は蒼の聳弧……都牟刈だけだ」
 柚乃としては残念な事実だが、彼女は諦めずに引き続き質問を投げかける。
「では麒麟でなくとも、強力なケモノとかは……?」
「さすがに麒麟レベルはそういないだろうな。そこまででないのならちょくちょくいるだろうが……。しかし、なんでまたそんなことを?」
「力を貸して貰えたなら、心強いかなって。一度お話してみたいです」
 まるで夢のような希望。だが、研究者を笑ったりはしない。『それ』ができるのが十塚という地域だからだ。
「ふ、む。成る程……。よし、こっちでももうちょっと調べてみよう。そういうのがどれだけいるか、とかな」
「ありがとうございます!」

●伊都
 殃は敢えて須佐に残って調べものをしていた。
 須佐にある伊都家の資料等を漁りながら、同じ部屋で何やら金勘定をしている秀正へと声をかける。
「少し、いいですか?」
「なんでしょうか」
「伊都と麒麟って、何か関係があるんですか?」
 彼がその2つを結びつけたのは理由がある。
 伊都家が主に扱う技は雷を用いたものであり、麒麟――正確には麒麟の一種である都牟刈もまた雷を操る。
 同じ地域に雷を使うものが現れた……となれば、気になるのは仕方のないことなのかもしれない。
 対する秀正は金勘定を続けたまま、冷静に返す。
「私の知る限りでは、関係ありません」
「そうなんですか?」
「彼ら伊都家の、建御雷を始めとする技は彼らがあくまでも人として編み出した技術体系に過ぎません」
 その言葉をきっかけに、秀正の筆が止まり、懐かしむようにどこか遠くを見る。
「……私はその事を知っています」
「そっか……」
 では伊都家が都牟刈の情報を持っているわけもない。聞いても意味のないことだろう。
 弱点とかが分かれば良かったのだけど……と、残念そうに溜息を吐く。
「雷に対して強いって土しかないけど土の獣とかいないよねぇ? 麒麟さんはどうやってお亡くなりになったのかなぁ」
「土のケモノについては知りませんが」
 だが、と秀正は言葉を続ける。
「どうやって倒されたかは叢雲様が知っているかもしれません」

●再び須佐
 調査や交渉の為に十塚中に散らばっていた開拓者達であったが、再び須佐に戻っていた。
 伝助は街の住民の避難訓練を提案し、それを実行するため秀正や天璃と共に打ち合わせしていた。

 また、羅轟は扇姫と面会していた。
「……以前、どこであったかは忘れたが……武蔵殿と再会してな」
「何……ですって……!?」
 相変わらずの無表情は、しかし羅轟の言葉を聞いて瞳に憎悪が宿る。
「どこで……! あいつは、何をしていたの……!?」
「その時、武蔵殿は……都牟刈配下のアヤカシと戦っていて、な」
 嘘は言ってない。
「……もし彼が、都牟刈と戦うようであれば……その間は手を出さないよう……お願いしたい」
「……どうして?」
 敢えて問いかける形になっているが、扇姫の口調は否定が濃い。
「……彼が武政達と殺し合うなら貴殿にとっても得だろう? 奴らとの戦いは天瑠殿も含め天尾家も無事で済む可能性は低い。ならばその可能性、仇を利用してでも上げた方が良いはずだ」
 あくまでも、感情論ではなく実利を提示しての説得。実際彼女に感情論が通じないことは過去の経験からよく分かっている。
 暫くの沈黙。
「……いいわ。戦いの間は、手を出さないであげる……」
 あくまでも『戦いの間』だけではあるのだが。
 ……決戦後は武蔵殿逃がさねば、と今後の算段を立て始める羅轟であった。

 叢雲と向かい合う殃と柚乃。
「えっと、麒麟さんはどうやって倒されたのか、叢雲さんが知ってる……って秀正さんが言ってたんですけど?」
「うん、知ってるよー」
 返ってきたのは拍子抜けするほどあっさりとした答えだった。
 まるで底が見えない少年が、知り合いに似てる気がして柚乃はクスリと小さく笑う。
「いろいろと知っていそうですね……いろいろと」
 実は凄く長生きだったりするのでは……という柚乃の推測は、実は当たっていたりする。
「知ってるなら早いかな。麒麟さんは誰にやられたの?」
「黒龍だねー」
「黒龍さんは麒麟さん退治に協力してくれるのかな」
 叢雲に聞いてもある意味どうしようもない質問。だが、殃にはある疑惑が浮かんでいた為、質問を躊躇わない。
 ……もしかして、叢雲さんが黒龍なんじゃないかな。
 確信は無いから口には出さない。そして叢雲は特に困った様子を見せることもなく普通に答える。
「状況次第じゃない?」
「状況?」
「だって、仮に街中で戦闘が起きたとして……黒龍が細かいこと気にせずブレスとか撃ったらどうなると思う?」
「あー……」
 言われて、考える。そんなことになったらアヤカシ並かそれ以上の被害が出そうだ。
 そして、目の前の少年は細かいことを考えるぐらいなら面倒くさいということで戦わなさそうな気がする。
 仮にやる気になってもそれはそれで困る気がする。
「つまり……街中で戦闘が起こった時点でアウトってことですね」
「そうだねー。他にも理由はあるけど、今回に関してはそれが大きいんじゃない?」
 そうなると、現状では殃に出来ることはない。
 ただ、敵を街にさえ入れなかったら切り札を切れるかもしれない……そういう情報を得た分には意味があったのかもしれない。


 決戦は――近い。