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■オープニング本文 クリスマス。 天儀では未だ馴染みの薄い、ジルベリアの精霊祭である。 尤も、数年前からギルドに関連した依頼が出されることもあって、開拓者達の間では少しは知られるようになったかもしれない。 今年もクリスマスを広めたり楽しんだりする為の依頼がいくつかギルドに並んでいる。 故郷由来の祭が異国の地に広まっていくのを見て、つい嬉しくなってしまうジルベリアの者もいるだろう。彼女、ローズ・ロードロールもそのうちの1人であった。 「ふふ、いつかクリスマスが天儀でも定番のイベントになるかもしれませんわね」 そんなことを呟きながらギルドに貼られた依頼を眺める少女騎士。 ここはひとつ、ジルベリア出身らしくクリスマスを盛り上げる依頼に入るのもいいかもしれない――そんな事を考えていた彼女に、背後から老人が声をかけた。 「ひょっひょ、ちょうどいい所にちょうどいい人物がおったのう」 「えっと、あなたは確か……」 声をかけてきたのは、赤い着物を身に纏った背の高い老人だ。骨が浮き上がる程痩せており、左目の眼帯と長い白髭が特徴的だ。 ローズはこの老人を知っている。 「……サンタクロースが、何故このような所にいるんですの?」 サンタクロースとはジルベリアの伝承に出てくる不思議な人物のことだ。 クリスマスの夜、寝静まっている子供達のもとに現れ、そっとプレゼントを置いて去っていく老人。 勿論これは御伽噺であり、サンタクロースを信じているのは無垢な子供達だけ――と、ローズも思っていた。 だがローズは過去の事件から、サンタクロースが実在することと目の前の人物がサンタクロースの1人であることを知ったのだ。 「そりゃあギルドに依頼をしにきたからじゃよ」 「サンタクロースが、ですの?」 言ってから、そういえば2年前も孤児院でパーティーを開くよう直接依頼を持ち込んできたことを思い出す。 「ひょっひょ。しかし、ワシの事を知っているお前さんに頼んだ方が話は早く済みそうじゃのう」 「ど、どんな頼みごとですの?」 ジルベリアで育ったローズにとって、サンタという御伽噺の人物に依頼されるというのは中々胸が躍る状況であった。 「うむ。ある家にサンタとしてプレゼントを届けてほしくての」 「私がサンタに……!? い、いいんですの?」 「よいよい。赤くてそれらしい服を着てれば問題ないのう」 それで正当化されてしまうなら、赤い服を着た泥棒が大量発生してしまいそうなものだが、サンタ本人が言ってるのだから問題ないのだろう。きっと。 「サンタって随分緩いんですわね……。ともかく、そのとある家というのはどこかしら?」 「ひょっひょ。貴族の一んとこじゃ」 その名はローズにも聞き覚えがある。今年の初め、開拓者達に誘われて一(にのまえ)家での新年会に参加したからだ。 だが、それを聞いてローズは疑問に首を傾げる。 「……あら? でもあそこにはプレゼントを届けるような子供はいなかったと思いますけども」 それだけではない。一家は貴族ということもあり、生活には何一つ不自由していない。 サンタクロースがわざわざ用意しなくても、大抵のプレゼントは自前で用意できる筈だ。 「ひょっひょ。まぁ、色々あるんじゃよ」 「……でしたら、深くは聞きませんわ」 色々、と老人の誤魔化すような物言いに、ローズは追及することを諦める。こういう言葉を使ってくるということは、大抵話したくない事情が絡んでいるものだからだ。 それはそれとして、他にも気になることはある。 「でも、どうして私に? 人手が足りないんですの?」 「いや、人手は足りてるんじゃがのう……。問題が1つあってな」 「問題?」 「……あぁ。その家のメイドがの。サンタクロースを迎撃してくるんじゃ」 「えっ」 場所は変わって一の屋敷。 「ぐ、かはっ、げほっけほ――! ……ふぃー、誰かが俺のことを噂してんのかな?」 「喀血をくしゃみと同じ扱いにしないでよ!? ちょ、ちょっと、瑠璃ー!?」 布団に盛大に血をぶちまけた兄を見て、一家当主の三成は慌ててからくりメイドを呼ぶ。 主のただならぬ声で緊急だと判断したのだろう。瑠璃はすぐさま駆けつけると、冷静に対処をしていく。 瑠璃によって換えられた布団の中で、先程血を吐いた正澄は不機嫌そうに横になる。 「あー、くっそー。世間はクリスマスだってのによー。なんで俺は布団の中で大人しくせにゃならんのよー」 「しょうがないじゃない。今は安静にしなきゃいけない時期なんだから。あと兄さんが言う程、世間はクリスマスに染まってないわよ」 「えっ、マジで?」 「マジで。大体、私もクリスマスってあんまり詳しくないし……」 三成のその言葉に、正澄は跳ねるように上半身を起こす。 「せっかくの馬鹿騒ぎできる日だというのに、その楽しみを知らないのは勿体無い! えぇい、こうなればなんとしても我が家でパーティーを――げふっ!?」 「あぁっ、また!? わ、分かったから落ち着いてよ兄さん!?」 興奮したせいかむせた正澄を、三成が背を優しく撫でて宥める。 「分かったと言ったな……? よし、三成の許可も得られたし、クリスマスパーティーだ!」 「え、えぇー……」 仕方ないなぁ、と溜息をつく三成。こういう時の兄は大体言っても無駄だ。 それでも、と最低限の釘は刺しておく。 「けど、兄さんはあんまり無茶しないようにね?」 「それぐらいは分かってるさ。皆が楽しんでるのに、水を差すようなことはしたくないからな」 「ならいいわ」 と、無事話は纏り。クリスマスパーティーをどうするかという相談に入る……のだが。 「しかし、問題が1つありますね」 そう言ったのは、今まで黙々と片付けをしていた瑠璃だ。 「襲撃してくるサンタクロースをどうするか、です」 「えっ」 |
■参加者一覧
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
郁磨(ia9365)
24歳・男・魔
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
ロゼオ・シンフォニー(ib4067)
17歳・男・魔
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●開幕 「ではサンタクロースとして笑顔を届けるとしましょうか」 白い雪に映える赤いミニスカサンタ服を身に纏ったローズ。 サンタクロースに渡されたプレゼントを確認して、袋ごと背負う。 さて出発だとローズが歩き始めた時、それは居た。 2メートルを超えるもふもふの毛皮を纏った巨体。あからさまに怪しい存在ではあるが、ローズにはこのようなことをする知り合いに心当たりがある。 「……羅轟さん。何をやっているんですの?」 『僕はトナカイさん! サンタさんのお手伝いをする為にやってきたんだ!』 羅轟(ia1687)と呼ばれた着ぐるみは、喋る代わりにどこからか取り出した看板に台詞を書いて返事する。 「でも、手伝ってもらうようなことなんてありませんわよ? プレゼント届けるだけですし」 格好やノリについては最早突っ込むことすらしないローズ。 羅轟もこの場ではキャラを作る意味も無いと判断したのか、普通に話し始めた。 「う……む……。だが、瑠璃殿……油断できん……」 羅轟は過去の実体験を教える。獅子舞を勘違いした瑠璃に吹き飛ばされたこと。今回も同様にサンタを勘違いしているのだろう、ということを。 「どうしてそんな勘違いをするんですの……?」 「どうして……だろうなー……」 場所は変わって。1人の少女が小さく歌いながら夜道を歩いていた。 長い白髪を棚引かせて雪の中を踊るように歩く彼女はまるで雪の精にも見える。 少女の名は水月(ia2566)。彼女は一家で行われるクリスマスパーティーに招待され、そこに向かっている最中だ。 楽しげに歩いているのも、それが理由である。 「ぱーてぃー♪ おいしいものいっぱいなのー♪」 更にパーティーとなればおいしい食事がたくさん出る筈。おいしいご飯に目がない大食娘としては足取りが軽くなるのも当然だ。 こうして、続々とパーティーに人が集まるのであった。 一家屋敷。やってきたお客達を、三成と瑠璃が出迎えていた。 その中でも屋敷の主とまったくの初対面ということもあって、ロゼオ・シンフォニー(ib4067)は丁寧に挨拶をする。 「魔術師。獣人のロゼオ・シンフォニーです! よろしくお願いします!」 「いらっしゃいませ。私が当主の三成です。本日は楽しんでいってください」 そんな真面目に当主然した三成をからかってみたくなったのか、緋那岐(ib5664)が茶々を入れる。 「やぁ久しぶり。クルシミマスパーティーをするんだって?」 「えぇ、はい――え、えっ?」 勢いのまま頷いてしまったが、勿論そんなわけはない。 「なんでクルシミマスなんですか!? クリスマスですよ!」 「ふ、菊浬がいつの間にかこんな言葉を覚えてきていてな。……まったく、どこでこんな言葉覚えるんだろうな?」 ちなみに菊浬とは緋那岐の相棒であるからくりのことだ。今回はお留守番である。 からくりはいつの間にか間違った言葉を覚える性質でもあるのだろうか。緋那岐は苦労を分かち合うかのように、三成の肩を叩く。 「……からくりの教育も大変だよな。知らぬ間に育つ……何故か間違った方向に」 「本来なら、育成期間はとっくに終わってる筈なんですけどね」 はぁ、と溜息を吐く2人。当人である瑠璃は無表情のままであるが。 そんなどこか沈んだ空気を吹き飛ばすかのように、郁磨(ia9365)がにへらと笑いながら、聞き捨てならない発言をする。 「ある人物にとってはクルシミマスパーティーってのは間違ってないかもしれませんね〜。あ、これお土産です」 「あ、どうもこれはご丁寧に――って、いやいやいや、今のどういう意味です!?」 「……怪しいトナカイっぽいのが今晩此処に来るって情報を得たんですよねー」 郁磨の発したトナカイという単語に最も敏感に反応したのは、先程まで無表情を貫いていた瑠璃であった。 「サンタクロースの使役する魔獣、トナカイですか……!? その獣が引いたソリは雪上だけでなく空まで翔けるという……!」 「……多分それじゃないかなぁ」 少なくとも知っているトナカイとはかけ離れてる気がするが、面白そうなので訂正しない。 郁磨の肯定を受けて、瑠璃の瞳は動揺で揺れ、しかしすぐに決意の炎が宿るのであった。 「やはり来るようですね、サンタクロース……! 三成様を守るメイドとして、なんとしても迎撃してみせます!」 ●サンタ迎撃 一同は宴会場に移動し、そこで主催者である正澄と会う。 「うーっす、よく来てくれた」 「いえ、こちらこそお招き頂きありがとうございます――っと?」 出迎える為に立ち上がろうとする正澄であったが、ふらついて倒れそうになる。 そこを長谷部 円秀(ib4529)がすかさず手を伸ばし、無事に抱きとめて優しく座らせる。 その様子を心配したのか、ケロリーナ(ib2037)が傍に駆け寄る。 「正澄おじさま、お風邪ひかれたんですの? 体をあったかくするためにも、これをどうぞなの」 彼女が取り出したのは手編みのマフラーだ。それを正澄の首にくるくる巻いていく。 「おぉ、ありがと。血で汚さないように気をつけないとなぁ」 嬉しそうに笑う正澄だが、どこか無理しているように見えたのか。水月も寄り添い、背中を撫でて癒しの術を行使する。 「元気になぁれ……なの」 「なんていい子達なんだ……! 三成にもこんな時があったなぁ」 「あ、その話聞いてみたいのー♪」 三成の幼い頃の話と聞いて、ケロリーナもずいと身を乗り出す。 止めたくはあるが、今日の日に野暮はできないと溜息をついて見逃すだけの三成。 そんなある意味ではいつも通りの一兄弟を見て、そう重症ではないと分かりエラト(ib5623)は胸を撫で下ろす。 「正澄様も正常範囲のようで安心しました……しかし」 しかし気になるのは、とエラトは今この場にはいない瑠璃について考える。 「瑠璃さんは……何か意気込まれているようですが、どうされたんです?」 「えぇと……なんと言えばよいのでしょうか」 どう答えたものか、と逡巡する三成。そんな三成の代わりに答えるように襖が開かれ、瑠璃が部屋に入ってくる。 「ロゼオ様と緋那岐様が料理の準備を手伝ってくださるということで、私の方で迎撃準備が出来たのは幸いでした」 「げいげ――えっ?」 部屋に入ってきた瑠璃の様子を見て、エラトは思わず目を丸くする。瑠璃の手には戦闘用の鉄甲篭手が装着されており、明らかに戦場に赴く際の格好をしていたらだ。 そんな彼女に続くように、緋那岐とロゼオの2人も部屋に入ってくる。尤も彼らの手にあるのは武器ではなく料理なのだが。 「みっちゃん。瑠璃止めなくていいのか?」 「うーん。なんか面白い事のにおいがする」 事情を分かっていない者達とは裏腹に、面白さ優先でものを考えている郁磨は瑠璃にサンタ人形を渡して更に煽る。 「よし、るりりん。そろそろサンタクロースも来るだろうし、一緒に待ち構えようか」 「了解しました」 他の者が止める間もなく、サンタが侵入してくるだろう庭へと向かう2人。 ちょうどサンタとトナカイは……庭にいた。 「……正面から家を訪問した方がこじれない気がしてきましたわ」 『でも、サンタさんの代理なんだから、サンタさんのルールでいかないと!』 「それはそうなんですけど」 『頑張って良い子にプレゼントを届けてあげようね!』 サンタとトナカイは庭の茂みに隠れて、家に潜り込む機会を窺っているようであった――が。 「ヤッパリしゅしょー来たんですね〜」 「!?」 巨大な着ぐるみが容易く隠れられるわけがなく。郁磨にあっさりと見つかっていた。 「――って郁さん、何故にここに!?」 郁磨は羅轟が率いる小隊に属していることもあって、あっさりと正体や行動パターンを見破っていたのだろう。 「何故っていうと……」 そんな彼の前に出るのは、瑠璃。既にサンタとトナカイを敵性人物と認識し、戦闘態勢を取っている。 「リミット・ブレイク――!」 「るりりんのお手伝い?」 やる気満々の瑠璃と郁磨。勿論サンタ側としては、戦闘するつもりは無いのだが。 「ど、どうしますの羅轟さん!?」 「我が……やる……!」 サンタを守るように前に出るまるごとトナカイ。 『僕の名はサンタさんを良い子の下へ導くトナカイさん! さあ、サンタさんの道を開けて貰うよ!』 「……良い子も泣いて逃げる様な格好しちゃって、よく言いますよ」 郁磨は溜息をつきながら得物――ハリセンを用意する。 「……まぁ何にせよ、此処で遭ったが百年目、ですね〜。逃げたら神が笑いますよ〜」 「ええい、例え郁でも今回は譲れん、勝負――!」 ●パーティー それから。紆余曲折あったものの、サンタ迎撃戦は開拓者達の介入もあり、無事難を逃れた。 なんとか落ち着かせた瑠璃に、エラトがサンタクロースの正しい知識を伝える。 「クリスマスというのは大いなる精霊を祝う日でサンタクロースは精霊の使いとして1年良い行いをしていた子供にプレゼント持ってくる、という伝承がお祭りになったというのが私の聞いた話です」 「……では、外道精霊ではない、のですか?」 瑠璃の勘違いに、水月が悲しそうな眼をして首を振る。サンタが悪人のように勘違いされるのは悲しすぎる、と。 「さんたさんは、悪くないの……。来て欲しくない家に無断で入ってきたりはしないですし、足袋にプレゼント入れるのは誰宛かを間違えない為……と、足袋に入りきらないような無茶なお願いをしないようにっていう戒めみたいなものなの」 水月の説明を補足するように、緋那岐が傀儡操術でサンタ人形を操作し、簡単な寸劇を行う。 「そんな感じで、良い子に贈り物をくれるわけだ。親の了承済みなんで問題ない」 「そう、だったのですか……」 とんでもない勘違いをしていたということを理解したのか。瑠璃は申し訳なさそうにサンタとボロボロになったトナカイへと向き直る。 「この度は私の無知で、とんでもないご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません……!」 「あ、いえ、私は大丈夫ですし……」 羅轟のお陰でこれといった損害を被っていないローズは、ちらと羅轟の方を見る。そして当の羅轟は、 『大丈夫だよ! さぁ、顔を上げて一緒にパーティーを楽しもう!』 瑠璃を悲しませない為に精一杯明るく振舞う。 ともあれ、瑠璃もパーティーでサンタをもてなす事が償いだと判断したのか。奉仕を頑張ることを誓うのであった。 こうして改めて再開したパーティー。 「う〜ん、お正月?」 とケロリーナが首を傾げるのも無理はない。雑煮などの餅料理がいくつか並んでいるからだ。 それらを用意した当人である瑠璃は、その理由を淡々と語る。 「クリスマスの料理がどういうものか分かりませんでしたので……。そういう意味でも、緋那岐様とロゼオ様には感謝したいと思います」 正月料理だけでなく、ビーフシチューやローストビーフ、ケーキなども並んでいる。これは前述の2人が作ったものだ。 「僕、料理結構好きですから、頑張りました」 「こちらでは中々お目にかからないお菓子もたくさんありますね」 と、エラトは並べられたタルトに手を伸ばす。 「クリスマスといえば、やっぱりスウィーツかなと思いまして」 「へぇ……どれどれ。あ、いけますわね」 ロゼオが作ったスウィーツに興味が湧いたのか、ローズはパイを食べる。その味は確かに懐かしい故郷を想起させる甘みだ。 自分の作ったスウィーツに舌鼓を打ったローズを見て、チャンスだと判断したのかロゼオが声をかける。 「あの、ローズさん……! サンタさんの代理とのことですが、サンタさんってどんな人だったんですか!?」 やはりジルベリア人としてはサンタは気になる存在なのだろう。 まずは何から言うべきかとローズは顎に指を当てて考え始める。 「そうですわねぇ……」 「サンタさんはえちぃですの?」 「何故そうなるんですの!?」 と、横合いから問いを投げかけてきたのはケロリーナだ。唐突かつあんまりなものだったので、ローズは顔を真っ赤にする。 ケロリーナがそう思った理由としては、やはりミニスカサンタというきわどい格好が理由だろうか。 それを察したのか、円秀がローズの肩に上着をかける。 「はは、寒そうに見えるからかもしれませんね。これ、どうぞ?」 「む、むぅ……!」 上着を羽織り、己の体を抱くようにするローズ。まさかそう見られているとは思わなかったようだ。 宴もたけなわとなった頃。 パーティーの美味しい料理を堪能した水月が歌と踊りで場を盛り上げていた。 「〜♪」 彼女の踊りに合わせるように、エラトもリュートで演奏を行う。 そうなってくると、見ている側も踊りたくなるというもの。 正澄との希儀の話が一段落した円秀は宴席の端でお酒を飲んでいた可憐な少女へと声をかける。 「一曲、よろしいですか?」 「なっ、私ですか!?」 その少女とは三成であった。今の三成はケロリーナに渡されたジルベリア風の赤ゴスドレスを着ており、知らない人が見たら確かに少女に見える。 三成自身は着替えるのを拒みたいのが本心であったが、場の流れや正澄に押されたりと、結局着る羽目になったのだ。 「あ〜! けろりーなも三成おねえさまと踊りたいですの〜!」 「人気者じゃないかみっちゃん。じゃあせっかくだし俺も」 「えぇー!?」 うろたえる三成を見て、エラトは小さく微笑みながら、追い込みをかける。 「では、私も演奏を張り切りませんと」 ●ラストプレゼント 最後に。 「あ、そういえばサンタさんからのプレゼントとは何だったんですか?」 「そうですわ。私も本来の仕事をしませんと」 ロゼオに言われて思い出したようにローズは袋から小さな包みを1つ取り出す。 それを渡す相手は、正澄だ。 「俺?」 「そう聞いていますわよ」 「何故兄さんが……。良い子でも子供でもないのに」 「今まで青春とか投げ捨てて頑張ってきたことに対する御褒美、的な?」 えー、と納得できないような声を漏らす三成を無視して、正澄は包みを広げる。 その中身は、 「粉末を固めた……丸薬、のように見えますが?」 「メモもついてるな」 そこに書かれていたのは『正澄用の薬である』というメッセージ。エラトの第一印象通りの代物ということだろう。 「……サンタクロースからの初めてのプレゼントが薬、か」 「これで正澄おじさまも元気になるですのー?」 ケロリーナの無垢な言葉に、正澄は笑顔でこくりと頷く。 プレゼントといえば、と郁磨も用意したのを羅轟へと渡す。 「あ、しゅしょー。もっふもふな聖夜をプレゼントです」 「もふら……!? 遠慮する……!」 「折角しゅしょーの為に用意したのに……」 郁磨の泣き真似に屈することなく、羅轟は逃げるように正澄へと挨拶する。 「ともあれ。……まあ、また来年もよろしく、だ」 「あぁ、よろしく」 薬のお陰か。楽しいパーティーのお陰か。 正澄の体調はすっかり良くなったそうだ。 |