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■オープニング本文 ● 三位湖に浮かぶ島、安須神宮。 石鏡を纏める立場にある双子王、布刀玉と香香背はうきうきした様で何やら話し合っていた。 「そうなると……やはりこの日程が一番かな」 「みたいね。ふふっ、今から待ち遠しいわ!」 2人が話し合っていたのは安須神宮で行う予定である巫女達の新年会の日程だ。 国王である2人にとって、年始めというのは駆り出される催事も多く、中々日程の都合が合わず延び延びになっていた。 だが、だからといって新年会を行わないという選択肢は無い。 何故なら新年会という行事は、宴を通じて交流を深め、鋭気を養い、計画や目標を定める重要な催しであり、 「何よりも、食べて飲んで騒げるせっかくの機会なんだもの」 と、本心を隠そうともしない香香背の言葉に、しかし布刀玉も否定せずに頷く。 国王という責任ある立場といっても2人がまだ年若い身空であることには変わりなく、胸を躍らせるのは自然な流れだ。 日程が決まれば……と、2人ははしゃぎつつも次々に新年会の詳細を詰めていく。 こうした新年会の相談を淡々と事務的に補助するは、布刀玉側近の滝上沙耶。双子王の提案に抜けているものがあれば、的確に指摘していく。 だからこそ、彼女がそれを指摘したのは至極当然のことである。 「ところで、朝廷への招待はどうなされますか」 「えーっ」 だが香香背から真っ先に返ってきた反応は苦い顔と不満そうな声。 「やっぱり呼ばなきゃ駄目かしら」 「駄目、でしょうね」 香香背とは対照的に布刀玉は粛々と受け入れる。 石鏡は独立したといえど、あくまでも候という立場に変わりはなく、王朝を軽んじることはできない。 故に、何か催事があれば朝廷に招待を出すのが礼といえた。 「新年早々、宴の席で朝廷の気難しいおじさんに睨まれるのは遠慮したいのだけれども」 「……気持ちは分かるけど」 「こほん」 歯に衣着せぬ物言いをする香香背の言葉に、宥めるような物言いながらその実同意している布刀玉。 そんな2人を窘めるかのように、沙耶が咳払いをする。 「ともかく、私の方で朝廷に招待状を出しておきます」 「はーい」 渋々ながらも了承する香香背。昔の彼女なら駄々をこねそうなものだが、さすがに年を重ねたこともあってか、ある程度は聞き分けがよくなったようだ。 しかしどこか顔に不満が残る彼女の為にも、布刀玉はある提案をする。 「提案ですが。開拓者の方も招待してみるのはどうでしょうか?」 「開拓者を……ですか」 確かに、自由奔放な開拓者込みでの宴となれば、ある程度は無礼講となり、朝廷の者がいてもそれ程堅苦しくなることはないだろう。 その意図を察したのか、沙耶は考え込みながらも頷く。 「そう、ですね。一応は巫女達の警護という名目であれば、呼ぶこと自体は難しくないと判断できます」 「ではそちらの手配に関しても任せますよ」 こうして。開拓者ギルドに一応、名目上は、新年会の警護をする依頼が出されたのであった。 ● 場所は変わって、一家の屋敷。 新年早々来訪してきた人物に、当主である三成は目を丸くしていた。 「あけましておめでとう。元気にしておったか?」 「と、豊臣様……!? あ、いえ、はい、あけましておめでとうございます!」 豊臣雪家。強大な権力を持つ朝廷三羽烏が1人。 三成よりも遙かに身分が高く、新年の挨拶にやってくるような人物ではない。むしろこちらが挨拶に出向かう立場である。 ともあれ、彼女が挨拶の為だけにやってくるとは思えない。過去の例から考えても何か厄介事を持ち込んできたと考えるべきだろう。 ……うぅ、また面倒なことなんだろうな。 豊臣をただでさえ苦手とする三成にとっては、彼女の来訪は気が重くなるだけのイベントだ。 そんな陰鬱な感情が顔に出ていたのか、豊臣は意地の悪い笑みを浮かべながら嫌味を言う。 「ふぅむ。どうやら歓迎されておらぬのかの?」 「いいいいえ! そんなことはありません。どうぞ!」 「くっくっく」 実に弄りがいがあるのう、とほくそ笑む豊臣。これだから三成を弄るのはやめられない。 さて。実際のところだが、豊臣は勿論何の用も無しにやってきたわけではない。 「できたら、そなたと1日遊ぶのだがのう」 ――「私と」ではなく「私で」でしょう、と言いたい気持ちを三成はぐっと押さえ込む。 「では、用件だが。そなたに新年会に出てもらいたくての」 「新年会……」 「とはいっても、朝廷が催すものではない」 言葉と共に豊臣が懐から書簡を取り出す。それは石鏡から朝廷に送られた招待状だ。 「石鏡の新年会に、そなたに出てもらおうかと思っての」 「私が……ですか?」 「うむ。私が出向いて双子王を可愛がる……というのも面白そうではあったが。残念ながら日程の都合が合わなくての」 双子王にとっては、間一髪といったところか。 「そこで、石鏡王と歳も近く、かつそれなりに暇そうなそなたなら適任ではないかと判断しての」 「え、えぇと……」 その言葉には頷いてよいものだろうか。三成は戸惑いつつ、曖昧に言葉を濁す。 「どうかの?」 「……分かりました。お引き受けします」 結局のところ、三成に断る選択肢はなく、受けるしかないのだが。 三成にとって幸いなのが、双子王がフレンドリーな人物ということだろう。そう堅苦しくなる必要もなさそうだ。 話も纏った、というところで唐突に部屋の襖が勢いよく開かれる。 「新年会と聞いて!」 「兄さんはお留守番ね」 「な、なにぃー!?」 話題に混ざろうとした正澄だったが、容赦のない宣告によって二の句を立たれる。 「病み上がりだし、そも兄さんは遠出禁止でしょ。瑠璃を置いていくから安静にしてて」 「ぬぐぐ……」 ぐうの音も出ない程の正論に、正澄はただただうな垂れるばかりだ。 あまりにもいつも通りの会話を豊臣の目の前でしてしまったことに気づいた三成は、慌ててそれを取り繕う。 「あ……! 失礼しました!」 と、そこに部屋の外からメイドの瑠璃が声をかける。 「三成様。お客様がいらっしゃいましたが、どうなされますか?」 「あ……えーっと……」 豊臣を置いて対応していいものかと思案する三成に、助け舟を出したのは当の豊臣だ。 「よい。私の方の話はもう終わったのでの。適当なタイミングで帰らせてもらうよ」 「了解しました。……それでは、失礼いたします」 部屋を出て、来客の対応へと向かう三成。 こうして、部屋には豊臣と正澄だけが残されたのであった。 「……なぁ、雪ちゃんよ」 「なんだ、澄子よ」 「まだ根に持ってんのかよ……。それはともかく、本当にただの新年会なのか?」 「心配性だの。弟離れができてないと見えるが」 「ま、残念だけど否が応でももうすぐ離れることになるさ。……リミットは、粋な贈り物が切れた時、かな」 「そうか」 「なぁ、雪家」 「なんだ、正澄」 「三成のこと、頼むわ」 「知らぬわ。……馬鹿が」 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
ミリート・ティナーファ(ib3308)
15歳・女・砲
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
朱宇子(ib9060)
18歳・女・巫
桃原 朔樂(ic0008)
28歳・女・武
アーク・ウイング(ic0259)
12歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●安須神宮へ 安須神宮に向かって三位湖を進む開拓者達を乗せた船。 「新年会〜面白いわよね〜おね〜さん楽しみよ〜」 楽しい新年会が催されるということで桃原 朔樂(ic0008)は期待に胸を躍らせる。物理的にも。 勿論、楽しみにしているのは彼女だけでなく。ケロリーナ(ib2037)やミリート・ティナーファ(ib3308)といった少女達も久々に双子王に会えるということで胸を躍らせていた。物理は別として。 「布刀玉おにいさまと香香背おねえさまにお会いするのお久しぶりですの♪ けろりーなとぉっても楽しみですの〜♪」 「2人とも1年以上会えてないんだよね。また一緒に遊べるのがわくわくするや♪」 王というよりは友達に会いにいくような空気を醸し出している少女2人を見て、アーク・ウイング(ic0259)は王の人柄を推測する。 「石鏡の双子王か。会うのは初めてだけど……親しみやすい人なのかな?」 「だろう、な。気楽に楽しめるような宴の席をわざわざ設けるような方だからな」 彼女の疑問に答えたのは羅喉丸(ia0347)だ。今回や過去の大祭から気さくな人物であることが分かる。 ある意味では民達に非常に近い王といえる。別の意味で開拓者達に近いのは興志王かもしれないが。 「とはいえ、こうして実際にお目にかかる時がくるとはな。何事も分からないものだ」 「私もこうしてお会いする日が来るとは思ってませんでした。……せっかくの機会だし、大切にしなきゃ」 近づいてきた安須神宮を眺めながら、ぐっと握り拳を作る朱宇子(ib9060)であった。 ともあれ、安須神宮が間近に迫ったということもあってか、開拓者達が次々と船首の方へ集まってきた。 「あ、牧場も見えますの〜♪ 大もふさまはお元気ですかしらなの」 「うげ、もふら牧場か」 安須神宮に隣接しているもふら牧場も見えて、ケロリーナははしゃぎ気味に身を乗り出す。 それとは逆に苦い顔をしたのは、もふらが苦手な緋那岐(ib5664)だ。 家を出るまではばば様に挨拶をするためによく家族で石鏡に訪れたという彼だが、めっきり訪れなくなったのは各地にあるもふら牧場も理由の1つかもしれない。 さて、もう1人いるもふら苦手、羅轟(ia1687)はというと―― 『楽しい新年会にしましょう』 まるごとくまさんを着込んだ上から黒い羽織や袴を着用しているという、もふらがどうこう以前の様相を呈していた。 会話は半紙を貼った立て札に文字を書いて行うというスタイルだ。 知らない人が見れば如何にも不審人物だが、知っている人にとってはある意味いつものことだ。 一三成はよく知っている組であり、半ば呆れつつも一応問いかける。 「何故、そのような格好を?」 『催しものの時これで出るのが癖になっちゃって……』 「癖ですか。……成る程、癖ですか」 「癖じゃあ、しょうがないなー」 「しょうがないですのー♪」 癖ならば仕方がない、と納得するように頷く三成。というより、深く考えても仕方ないと諦めた感も垣間見える。 緋那岐とケロリーナが同意したのも、羅轟との付き合いが長くなってきたからかもしれない。 尤も、超過保護人間の沙耶に通じるかどうかは別で。 くまを不審人物扱いして、ちょっとした一悶着があったのはここだけの話。 ●挨拶 安須神宮は宴会場。乾杯の挨拶をするのは勿論双子王だ。 「皆さん、あけましておめでとうございます」 「今年もよろしくねってことで……かんぱーい!」 こうして、石鏡新年会が始まるのであった。 名目上警備の為にやってきた開拓者達、始めは軽く会場を見回る。 とはいっても束の間のことだ。双子王への挨拶をきっかけにして、宴へと混ざっていく。 「初めまして、アーク・ウイングと申します。今後ともよろしくお願いします」 「こちらこそよろしくお願いします」 宴の席ということもあり挨拶は簡潔に済ませると、アークはお土産として雛あられを取り出す。 「ありがとね! あなた中々分かってるじゃないの」 「いえいえ、それ程でも。布刀玉さんもどうぞ」 布刀玉に対しては直接手が触れ合うように手渡し、かつ少し身を乗り出していた為にその大きな胸が揺れる。 このセクシーアピールは反応で性格を推し量ってみようという彼女の策略だ。悪戯心もちょっぴり。 対する布刀玉はというと。 「ありがとうございます。美味しくいただきますね?」 動揺はなく、微笑で返すだけだ。興味がないのか、平静に見せかけているだけかは分からない。 ――ま、やっぱりこれだけじゃ人のことなんて大して分からないかな? しかしアークは考えをさっと切り替えて宴へと混ざるのであった。 挨拶といえば、朝廷の使者である三成も勿論しなければならないことであり、双子王の前に出ると恭しく頭を垂れる。 「此度はお招き頂きありがとうございます。朝廷より使わされました、一――」 「こっちはからくり命のみっちゃん。夢見る乙女……だそうだ」 「何を無いこと無いこと吹き込んでるんですか!?」 真面目に挨拶をしていた三成だが、緋那岐がいつもの気さくなノリでからからと笑いながら乱入してきたので、三成もつい突っ込みを入れてしまう。 「あ……」 王の前で失礼を働いてしまったと、動揺で言葉を失う三成。だが肝心の双子王……香香背の反応はというと、 「朝廷の使者だからどんな堅物かと思ったけど……楽しそうな人じゃない!」 「え、えぇ!?」 と上々のようであった。 まるごとくま状態の羅轟も現れ、三成について更に紹介する。 『それだけでなく、真面目で良い人ですよ。ノリもなかなか良く』 「ノリってなんですか、ノリって!?」 「くす……親しくなれそうですね?」 そのノリの一端を今のやり取りで理解したのだろう、布刀玉が笑みを零す。 「歳も近そうだけど……あなた、いくつ?」 「先日18になったばかりです」 「ちなみに、この俺緋那岐は永遠の14歳だ!」 「じゃあ、あたしは永遠の13歳ね!」 見た感じ歳が近いことから、三成の年齢を聞く香香背。三成が答えれば、緋那岐もここぞとばかりに自己紹介を兼ねて流れに乗る。 ちなみに双子王が13歳だったのは過去の話であり、現在は17歳である。17歳である。大事なことなので2回書きました。 ついで手土産にと緋那岐が取り出したるは季節外れな2つのサンタ人形。 「……どうしてサンタ?」 「え、なんとなく?」 そして締めにと、羅轟がお決まりの挨拶をするのであった。 『あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします』 「陽州が修羅の子、巫女の朱宇子と申します。どうぞ、よろしくお願い致します」 次にと挨拶をしたのは、朱宇子。双子王も挨拶を返し、香香背がついでにと気になったことを問いかける。 「へぇ、陽州の巫女なのね。ね、ね、やっぱりこっちとは違う感じ?」 「どうでしょう……あまり大きくは変わらないと思いますけど」 あ、だけど石鏡に来て驚いたことがあります、と朱宇子が言葉を続ける。 「神社や鳥居がすごく多くて……さすがは巫女の国、と感じました」 石鏡の各地には必ず神社や鳥居といったものがある。 布刀玉によると、それらの施設で巫女達は修行を一環として働いているという。 それから、と朱宇子は一番強く印象に残った点を挙げる。 「後は……やはり国王が布刀玉さまと香香背さまというところでしょうか。えと、その――」 その印象に残った理由というのが、 「……そ、その、私自身も巫女で、双子の片割れだから、っていう分かりやすい理由から、なんですけども」 単純な思考をした自分が恥ずかしいとでも思ったのか、顔を真っ赤にする朱宇子。 だが双子王はそれを笑うことなく、むしろ興味津々で身を乗り出す。 「あなたも双子なのね! やっぱりお兄さんがいるのかしら?」 「あ、私の場合は姉で……」 「もしよろしければ、どのような方か伺っても?」 「はい!」 と、双子トークに花を咲かせる巫女達なのであった。 ●宴会 こうして挨拶も一段落し、宴も次第に盛り上がっていく。 先のやり取りから緊張もほぐれたのか双子王と三成は酒の席を共にし、そこに開拓者が集まっている状態だ。 「新年のお祝い、チョコクッキーだよ♪」 と、今朝作ったばかりのチョコでコーティングしたクッキーを広げるミリート。 「お花見の時に作ったチョコクッキーね。また食べたいと思ってたのよ」 早速手を伸ばして堪能する香香背。その味は期待と思い出を裏切らないものだ。 これには負けてられない、とケロリーナも作ってきたお菓子があるという。 「けろりーなはプティングを作ってきたですの〜」 これも以前の花見で出されたお菓子だ。その時は湯のみと土鍋作ったものが出てきたが、 「ふふふ、今回はもっと凄いですの〜」 ケロリーナが背中に隠していたブツを、どん、という音と共に前に出す。 「……バケツ!?」 「この量なら皆で食べても大丈夫ですの♪」 ということで、宴の参加者にプティングが振舞われたのであった。 さて、宴を盛り上げる話のタネ。 石鏡から離れるのが難しいだろう双子王を喜ばせるには、ということで話題になったのは希儀についてだ。 数々の冒険譚を羅喉丸、そしてケロリーナやミリートも話し、双子王は興味深そうに耳を傾ける。 特に香香背の興味を引いたのはミリートのオリーブ農園の話だ。 「そこでは新式の油が取れるんだよ。今後、こっちの料理でも使う機会が増えるかも」 「あなたのお菓子がもっと美味しくなるかもしれない……ってこと? これは楽しみね」 「希儀土産といえば――」 と、今日実際に持ってきたものがある、と羅喉丸が取り出すは小さな宝珠の欠片だ。 「希儀で見つかった遺跡の欠片です。渡す許可は事前に滝上殿に頂いておりますので、どうぞ」 「ありがとうございます。大事にしますね?」 それを円満の笑みで受け取る双子王であった。 開拓者達が最近体験した話をすれば、自然に話題は双子王が最近何をしていたかというものに移っていく。 「布刀玉おにいさまと香香背おねえさまはどんなコトしてましたの〜?」 「やはり国王としての執務が殆どでしたね」 ここ最近は国単位で目立った事件は起きていなかったが、それでも国王としての仕事は毎日毎日あったらしい。 「はや〜、大変そうだね……」 と、ミリートな率直な感想に布刀玉は頷いて肯定しつつも、しかし、と言葉を続ける。 「けど、僕達には沙耶や楠木……それに丹爾儀廼(ニニギノ)様の親族など、支えてくださる方がたくさんいますから」 「丹爾儀廼様というと、確か……」 三成は自身の記憶を漁る。確か、それは先代の石鏡王の名前である筈だ。 彼が没する前に当時12歳だった布刀玉と香香背を国王に指名したのだと聞いたことがある。 三成の記憶は間違っておらず、一緒に話を聞いていた沙耶がそれを肯定する。 「先王様は安須神宮近くのもふら牧場で働いていたお2人の聡明さ、能力の高さを評価し、そして指名なされたのです」 「あの時は驚いたわね〜」 当時を懐かしむように、うんうんと頷く香香背。 彼女らの話によると、苦労したものの当時から支えてくれる者が多くいたという。 支えてくれる先代の親族、という話を聞いてふと浮かんだのだろう。羅轟が三成へと質問を投げかける。 『そういえば三成さん、正澄さんはお元気ですか?』 「最近はすっかり元気になりましたね。クリスマスの時に貰った薬が効いているようです」 『そうですか……とにかく病み上がりですし、お大事にとお伝えください』 それを聞いて羅轟はほっと胸を撫で下ろすのであった。 双子王と話す機会、ということで探究心がうずく者もいた。緋那岐がその代表だ。 「安雲の都自体、遺跡の上にあるんだったよな? 探検した奴っていんの?」 「基本的には調査済みですね」 あ、遺跡といえばこんな話を知っていますか……と布刀玉が話し始める。 「安須神宮のすぐ傍に小島があるのが、ここに来る途中に見えたと思いますが……」 一同が頷いたのを見て、布刀玉は言葉を続ける。 「あそこには祠がありまして、偉大な精霊がいる……という伝説のようなものがあります。尤も、実際に見た人はいないんですけどね」 それを聞いて、ケロリーナは過去に大祭で聞いた安須神宮が祀っているという精霊の名を思い出す。 「もしかして『空翔覇龍』ですの?」 「かもしれませんね」 「あ、じゃあ精霊ってことでまた気になることがあるんだけど」 と再び緋那岐が疑問をぶつける。 「八咫烏について、石鏡にも関連資料とかあるんかね。古来より朝廷の祭祀に深く関わりを持っているわけだし」 その問いに対しては布刀玉は申し訳なさそうに首を振る。 「こちらでも資料などはなく……」 「そっかー……」 双子王らと話す者もいれば、酒宴に興じる者もいたり。 例えば朔樂などは、相手の素性を気にすることなく声をかけ、酒を共にしていた。 「冷えた時には〜やっぱり皆でお酒よね〜」 「ふふふ、そうねー……っと、ありがと」 ある巫女の猪口が空になったのを見て、朱宇子が気を利かせて酌をする。 そんな先ほどから酌ばかりであまり飲んでいない朱宇子が気になったのだろう、朔樂が誘う。 「せっかくだから〜一緒に飲まない〜?」 「ええと……」 どうしようか、と思案する朱宇子。別に酒を飲めないわけではない。 むしろ周囲に酒豪が多かった影響で酒に強く、そのせいで飲み過ぎないかと危惧しているのだ。 ……でも、せっかく誘われたんだし。 「はい、それでは私も頂きますね」 というわけで、朱宇子は朔樂の酒を受けるのであった。 「あうー、何か暑いなー」 「彼女を止めろー!?」 酔いので全裸になろうとしているアークのようにはならないようにしよう、と強く戒めながら。 ●祈願 宴も盛り上がり、余興として遊びや芸も繰り広げられていた。 羅轟が持ち出した羽根突きには対戦相手として羅喉丸が名を挙げる。 「酔っているから、丁度よいか。全力だと危ないしな」 更に臼を背負うなどのハンデもあり、巫女相手であっても中々白熱した勝負になっていた。 「酔八仙拳の妙技を見せてやろう――!」 「スマァァッシュ!!」 ずばしゃあ! 「……いや、これだと動けなかったな」 敗北ペナルティはお約束の顔への落書きだ。 そして宴会場に響く歌声と演奏――ミリートの歌だ。 『見上げる空は ただ遠く 歩く道のり 白化粧』 羅轟は三味線を演奏し、朔樂が歌に合わせて舞う。 「新年の行事だからね〜やる所はちゃんとやらないとね〜」 『舞い降りる花 この手にと 伸ばしては溶け 消えて行く』 朱宇子も演奏に手拍子で参加しながら、年始めらしく願う。 (今年一年、よき年になりますように。去年だけでも、たくさんの人に会って、物も事も、知ることができたから) だから、 『儚く そしてまっさらな 冬という日の 雪桜――』 ――今年もそうありますように。 |