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■開拓者活動絵巻
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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 岩戸島の結界を制御する舞照遺跡。 そのすぐ近くに作られた宿舎にて一三成は生活していた。 元々は遺跡を警護する兵の為に作られたものだ。あまり快適とはいえないが、野宿するよりはマシだろう。 瑠璃の助けもあり、ここでの生活にも慣れ始めたある日……三成を豊臣雪家が訪ねた。 挨拶もそこそこに雪家は用件を早速述べる。 「三成。そなたにも岩戸島に向かってもらう」 「私も……ですか?」 怪訝な顔をする三成に、雪家は理由を説明する。 「岩戸島に神器……八咫鏡が祀られているわけだが、そこでも封印が施されておってな」 随分厳重だなと思うが、封印されているモノがモノだ。ある意味当然なのだろう。 封印と聞いて三成は何故自分が岩戸島に行かなければいけないのかを理解する。 「つまり……その封印を解いて、八咫鏡を回収しろ……ということですか?」 「その通り。……そなたも中々物分りが良くなったのぅ?」 雪家は小さく笑みを零して話を続ける。 「島の危険を排除してから向かってもらった方が万全ではあるのだがの……。あまり悠長に構えてられる状況でもないのでな」 今はまだ島にいるのは正澄憑依アヤカシの一派だけだが、岩戸島が露出している現状だといつ他のアヤカシがやってくるか分かったものではない。 もし正澄が大アヤカシとまではいかなくても強大なアヤカシに情報を流していた場合、厄介なことになるのは目に見えている。 「だからこそ、正澄討伐隊に同行し、鏡を回収してもらいたくての。さすがに安全が確保できるまでは拠点で待機だろうがの」 「……成る程」 また巫女が数名いれば、岩戸島の結界は解除した状態を維持することができると、舞照遺跡を調査することで判明したそうだ。 しかし、と今の話を聞いて疑問に思ったことを三成は問う。 「封印があるのなら、それはアヤカシにも回収できないのでは……? それともやはり――」 正澄に憑依したアヤカシなら解除できるのか。 その問いに雪家は小さく頷く。 「うむ。正澄の体を使っている以上、瘴気でも封印を解くことはできる」 「そう、ですか。……けど、神器の封印がどうして瘴気でも解除できるのでしょう……?」 「人間は精霊力も瘴気も扱うことができるからのう。役目の者がどちらに適正があっても解除できるようにした……といったところかの」 尤もそれが裏目に出てしまったわけだが。 ともあれ、事情は大体理解した。三成に断る理由は無い。 「分かりました。私も岩戸島に向かいます」 「うむ、助かる」 ――それに、直接見届けることはできなくても……。終わりの時はなるべく傍に居たいから……。 ● こうして、三成と瑠璃、朝廷の兵らと共に開拓者達は再び岩戸島の土を踏む。 以前築いた拠点は変わらず健在。滞在していた朝廷の兵達も消耗はあるようだが無事であった。 「奴らの動向を探ってみたところ、こっちは無視して探索を優先している……って感じかな」 とは偵察を任されていた兵の言葉だ。 敵の動きを見る限り、未だ鏡には辿り着いていないと考えてよいようだ。 兵には散発的に牽制目的の攻撃しか行ってこず、消耗を避けているのが見て取れたとのこと。 「土地柄の問題だろうな。この島には瘴気が無い以上、あっちは補給できない。どんな仕掛けが島にあるか分からないんで無駄な労力は割けんってこった」 だが力の差が歴然である以上、兵達もアヤカシに仕掛けることはできず、偵察までに留まっていた。 「そろそろ奴らがアタリに辿り着いてもおかしくない状況だったからな……。このタイミングであんたらが来たのは助かったぜ」 正澄らアヤカシ討伐に向けて、情報を共有しつつ作戦を練る為に卓を囲む開拓者達。 だが、偵察に向かっていた兵の1人が持ってかえった情報で相談は中断されることとなった。 「報告! アヤカシ一団が新たな遺跡に侵入した模様!」 簡易地図に正澄らが侵入したポイントを書き込む偵察兵。それを見た三成が苦虫を噛み潰したような顔になる。 「まずい、ですね」 その場に居た者の視線が三成に集中する。もしや――と。 視線の意味を察した三成が頷いて言葉を続ける。 「事前に豊臣様に伺った、『鏡が封印されている可能性が高い場所』のうちの1つです」 岩戸島内部の情報が見つかったのは正澄が朝廷から去った後だったので正澄は知らない筈だが、虱潰しの結果辿り着いたのだろう。 過程はどうあれ、問題はアヤカシが当たりに辿り着いたという事実だ。悠長にしていられない。 アヤカシの様子はどうだったのか偵察兵に話を促す。 「敵は遺跡入り口に警備用のアヤカシを固めています。恐らく正澄とその護衛だけが奥に向かったかと……」 「ちっ、そいつらを倒して突破する……にも手間取っちまったらアウトだな……」 足止めで時間を食い、その間に正澄が鏡に手を伸ばすのが最悪の状況だ。 そこで、朝廷兵と開拓者達は相談して、ある方針を打ち立てる。 「いいか。俺達が何としても道をこじ開ける――決めるのはあんた達だ」 朝廷兵が警備の相手を担当し、開拓者達が突破する為の道を作る。 開拓者達が奥に向かった後は朝廷兵達は入り口に留まり、アヤカシが追撃するのを防ぐ。 そして開拓者達が、奥にいる筈の正澄と相対し――倒す。 「悔しいが、あんた達の方が俺達より強い。適材適所だ。……頼むぜ?」 ● 岩戸島遺跡最深部。 自分のものとは別の2人分の影を伴った正澄がそこに足を踏み入れる。 「へー……こいつは……」 広間に石造りの舞台があるだけのシンプルな部屋。 どこか既視感を覚えるこの部屋に、正澄はにやりと笑みを浮かべる。 「うむ、ようやく当たり……ってところかな?」 正澄が舞台に上がりその身から瘴気を発すると、舞台が仄暗く光る。 「よしよし。どうせ舞うなら一曲欲しいところだが……」 ついと視線を付き人に移す。 巨大な野太刀を携えた紅の鎧武者。 その身を隠す程巨大な盾を携えた蒼の鎧武者。 「……紅鎧と蒼鎧にそんな気の利いたこと期待しても無駄か」 やれやれと溜息を吐く正純。 尤も、別に音楽は必須ではない。せいぜい本人が舞いやすいとかそれぐらいのものだ。 「んじゃま、邪魔が入る前にいっちょやりますか!」 天岩戸を開ける最後の舞い手。 それは三成か、それとも正澄か――。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
郁磨(ia9365)
24歳・男・魔
春原・歩(ib0850)
17歳・女・巫
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●突入 悠長にしていられないと、出撃の準備を始める兵と開拓者達。 そのうちの1人、ケロリーナ(ib2037)は三成から舞について話を聞いていた。 「封印が解かれるまで舞い続けなければいけない筈ですので、辿り着ければ阻止すること自体はそう難しくはない……と思います」 「なるほどなの〜……」 ただ、舞の様子から臨界点などを見極めることなどは難しいとのこと。 「とはいえ、場の様子からある程度判断できるかと思います」 「参考にさせてもらいますの〜」 そうこうしているちに、準備が完了したかを問う声が聞こえてくる。ちらほら聞こえる返事から判断する限り、他の者は出撃準備ができたようだ。 「わ、けろりーなも行かないといけませんの」 ケロリーナは立ち上がると、しかし背を向けるでなく三成と正面から向かい合う。 怪訝な顔の三成が何かを言う前に、ケロリーナがその手を三成の背に回し、ぎゅっと抱きしめる。 「必ず勝つから待っててほしいですの」 「……はい」 交わした約束を胸に、ケロリーナは出陣した。 「――いっけぇ!!」 遺跡入り口。多数のアヤカシが陣取るそこに魔槍砲の強力な爆撃が撃ち込まれる。 直後、一時的に手薄になった配置に朝廷兵が斬りこむことで穴ができた。彼らは道を維持する為に、詰め寄るアヤカシ達に体を盾として近づけさせない。 事前の打ち合わせ通り開拓者達はその道を走りぬける。 道を抜ける開拓者達の最後の1人、春原・歩(ib0850)は振り返って頭を下げた。 「ここはお願いします。――みんなで生きて帰ろうね!」 みんな、とは開拓者達だけではない。彼ら朝廷兵達もだ。 応、という力強い返事を背に受けて、歩は再び走り始める。 一本道の遺跡内部を進む開拓者達。 この奥に仇敵が待ち構えているからか、儀式を完遂させるわけにはいかないからか、彼らの歩みが鈍ることはない。 急ぐのはごく自然なことだ。だが、それでも……郁磨(ia9365)は親友に釘を刺す。逸りすぎるな、と。 「しゅしょー……無茶しても良いですけど、連れて帰るの大変なんで歩ける程度にしてくださいね?」 声をかけられたしゅしょー――羅轟(ia1687)は無言で頷くことで返事をする。無茶することを否定はしない。 郁磨も止めはしない。敵討ちを意気込む気持ちは分かる。 ……でも、しゅしょーに何かあったらみっちゃんはもっと辛くなるから。 だから、彼を失わせはしない。 「此れ以上の絶望なんて、いらない……」 その小さな呟きは誰かの耳に届くわけでもなく、しかし彼は決意をより強く固める。 ――大切な友の為に、全てを終わらせましょう。 ●戦 果たして、開拓者達が通路を抜けた先。 そこに広がるのは石造りの広間。どこかで見たような舞台もある。 そして―― 「やっと追い付きましたか、ここで決着……ですね」 朝比奈 空(ia0086)は舞台の上に陣取る1人の男性を見据える。 見知った顔、聞きなれた声、だがまったく別物の中身。 「観客さんいらっしゃい……ってわけにはいかないか」 アヤカシ――その名も一正澄。 「いや……正澄じゃなくて、偽澄だな。そう呼ばせてもらおうか」 正澄を騙らせてたまるかと偽の名を付けるは緋那岐(ib5664)だ。 これ以上好きにさせるつもりはない。何としてでもここで討滅する――そういう気概を示す。 禾室(ib3232)も同様だ。 「久し振りじゃな……今回は絶対、引かぬ! 逃げぬ! そしてやらせはせぬ!」 以前相対した時は『絶望』により成す術も無く逃げることを強いられた。 だが今回はそうはいかないと、今まで以上に気を強く持つ。 敵の様子を見る限り、鏡を持っているようには見えない。 舞台上に瘴気が広がり、舞台がほんのり光ってはいるが、言ってしまえばその程度だ。 「つまり、まだ封印は健在……!」 最悪の事態になってないことに水月(ia2566)は安堵しつつ、しかし気を決して緩めない。 水月の言葉に応えるように、偽澄がくるりとその場で舞う。 「そうなんだよなー、もうちょい時間がかかるっぽくってさ」 くるくる、くるくる。 自分の体、自分の舞台かのように踊る偽澄に水月は苛立ちを募らせる。 「その身体もここの封印も、あなたみたいなマガイモノが自由にして良いものじゃない。これ以上、その姿で好き勝手はさせないの……!」 「あぁ、まったくその通りだ……!」 正澄とは会ったことのないフランヴェル・ギーベリ(ib5897)でも、この相手には十分怒りを覚えていた。 「それじゃ、どうするか……ってのは聞かなくても分かるか」 「分かってても敢えて聞かせてやるよ――ぜってぇ叩く!!」 緋那岐の宣戦布告を開戦の合図として、鏡を巡る最後の戦いが始まった。 敵は舞台上の偽澄と、それを護るように舞台下にいる紅鎧と蒼鎧。 偽澄からは舞を継続しようという様子は見られない。 「邪魔されることが分かりきってるから、最初にその邪魔者を排除しようというところかの……!」 禾室の推測は恐らく正しい。これで開拓者は戦闘に集中できる、とはいえ。 「逆に……厳しいかもしれませんね」 空の推測も恐らく正しい。つまり、偽澄も最初から戦闘に集中するということだからだ。 「厳しくても――やるしかないですの!」 開拓者のうち、最初に仕掛けたのはケロリーナだ。 乱戦になる前にと彼女が放ったのは激しい吹雪による攻撃――ブリザーストーム。 極寒の嵐が偽澄と鎧を激しく叩くが、変わらず健在。 だがこれで倒せるとは開拓者達も誰一人として考えてはいない。躊躇い無く次の行動に移る。 「おのれアヤカシ! 叩き斬ってやる!」 怒りも露に偽澄へと突撃するフランヴェル。我武者羅に突っ込んでいるようにすら見える、が。 ――来い、紅鎧! 彼女が攻めたのは紅鎧がいる方向からだ。敵が彼女を止めるつもりならば前に立ちはだかるだろう。 それこそが彼女の狙い。交戦することで敵を誘導しようというのだ。 ――来い! フランヴェルが――紅鎧の横を通り抜けた。 「なっ!?」 代わりにと彼女の前に立つのは巨大な盾を構えた蒼鎧。 本来対処する予定だった紅鎧はフランヴェルに目もくれず、開拓者達の後衛に向かって突撃を始める。 後衛に紅鎧が向かうのは警戒していたが、まさかこちらの突撃を完全無視するとは考えておらず反応が遅れてしまった。 「くっ……!」 踵を返し、その背を追おうとするが間に合わない。 だがフランヴェルの突撃を蒼鎧が阻んだように、紅鎧の突撃もまた阻む者がいた。 「お任せを」 空だ。 当然、彼女を斬り捨てんと紅鎧が大太刀を大上段に構え、振り下ろす。 彼女を守る鋼ごと斬り裂かんばかりの斬撃。鮮血が飛び散るが、空は後ずさることなく敵と相対する。郁磨のホーリーサークルも助けになっただろう。 「――っ! 逃しは……しません」 彼女の巫女装束が白い燐光を放ち、梅の香りを纏う。 血で紅く染まった千早に相応しいとすら思える白梅香――千早から放たれた白光が紅鎧を激しく叩く。 白光に侵蝕されるように浄化されていく紅鎧の瘴気。 「まだっ!」 追撃の白梅香はしかし、見た目によらない身軽なバックステップで回避されてしまう。 空が負った怪我は歩が閃癒で即座に回復させる。 「治療はお任せだよ!」 敵の一連の動きを見て、緋那岐は敵の狙いを察す。 「機動力と攻撃力のある紅いのが後ろをかき乱す……か。セオリーすぎて嫌になるな、っと」 言いながら彼が生成するは黒い壁――黒の結界呪符。まさしく味方を護る壁だ。 「なら、まずは機動力を封じさせてもらうぜ」 更に新たな黒壁を後衛を護るように作り出していく。 壁により敵の攻撃の方向を限定させてしまえば、空も迎撃しやすくなるという判断のもとだ。 「……ま、ぶった斬られたら一撃で壊れるだろうが。その時はその時で隙ができるから問題無しってことで」 実際のところ、効果はあったのか。紅鎧は壁を嫌うかのように回り込む動きを見せる。 「なら、更に動きを縛ってやるのじゃ!」 紅鎧の足元へと伸びていく黒い影――それは禾室が伸ばした彼女自身の影だ。 影により敵の動きを止める影縛り。しかし、影が紅鎧の足へと絡みつくより先に紅鎧は跳躍してそれを避ける。 「ぬぅっ……!」 「焦らないでいきましょう。まだ戦いは始まったばかりです」 空の言葉に禾室は頷きで返すと、再び仕掛ける為の隙を窺うのであった。 もう1体の鎧武者、蒼鎧。 こちらは紅と違い、偽澄を防衛するための位置から動いていない。 そんな蒼鎧と対峙するは羅轟だ。蒼鎧を突破しないことには偽澄に攻撃を加えることはできない。 「だ、が……こいつは……!」 蒼鎧の全身を隠す程の巨大な盾に、それ以上の長大さを誇る野太刀が叩き付けられる。 並みの戦士なら盾ごと吹き飛んでいきそうな一撃だが、しかし蒼鎧は一歩下がるだけで衝撃を後ろへと受け流す。 ――下がったか、なら……! 追撃で更に追い込もうと、羅轟は振りぬいたばかりの野太刀の握りを返す。 「……っ!」 だが、彼は踏み込まなかった。ここで更に攻めるのは危険だと直感的に理解したからだ。 「こいつは……やはり……!」 攻撃を躊躇わせたのは蒼鎧が構えた槍だ。 敵は能動的に攻撃をしてこず、防戦一方だ。それならば、本来は連撃を叩き込めば圧倒できる。 だが、それは相手が防御しかしない時の話だ。 蒼鎧は攻撃を受けた上で、その際に出来た隙を確実に貫く後の後の戦術を取っていた。 仕掛ければ手痛い反撃を食らう。仕掛けなければ敵は防衛の任を果たすことができる。 「これが……防御特化……!」 攻撃の対応から隙を見出すつもりの羅轟であったが、相手に攻め気が無い以上隙が生まれることはないと痛感する。 ……我だけでは……突破できん……! だが、蒼鎧に立ち向かうは羅轟だけではない。 「鎧は黒いのだけで十分……っ!」 羅轟の後方から郁磨がアイヴィーバインドを発動させる。 石床から伸びた植物の蔓が蒼鎧の手足に絡みつく。これで少しは相手の動きを鈍らせることができる筈だ。 更に、 「立てないようにしてあげますの!」 ケロリーナが放った灰色――ララド=メ・デリタが蒼鎧の下半身を中心に飲み込んでいく。 灰色の球体が渦巻く速度を上げると、それに比して駆動音が甲高くなっていく。 果たして灰色が消滅した時には――蒼鎧は依然として健在であった。鎧とその身を護る瘴気が削られていたが、まだ致命傷には至っていない。 「……しかし……!」 しかし、と羅轟は考える。 敵が防御に専念するのであれば、こちらが蒼鎧の動きを抑えて後衛のケロリーナが安全に削りきれるのではないか。 だが、 「――後ろから叩けるのは、そっちの特権じゃ無いんだぜ?」 偽澄が動きを見せた。 「さーて、と」 戦場を把握して、一瞬の思考。 偽澄が紅鎧周辺に視線を向けながら、顔の前まで片手を挙げる。 「……っ、邪魔は、させない!」 明らかな攻撃の気配に、郁磨はアイシスケイラルで妨害を図る。偽澄の体に次々と氷槍が突き刺さるが、その身を包む瘴気と溶けあい一瞬で昇華されていた。 ……なんて、瘴気! ダメージが無いわけではない。瘴気と氷槍が共に昇華されたということは瘴気が減っているということでもある。 だが、それでもなお濃密すぎる瘴気を放つ敵に、底知れぬ上級アヤカシの力を思い知る。 攻撃を受けてなお涼しい顔の偽澄は、動きを止めず……軽やかに指を弾いた。 ――ぱちんっ。 直後、3人の開拓者の心を闇が侵蝕し始める。 鎧に大打撃を与えた空とケロリーナ、そして紅鎧を止めようとする前衛のフランヴェル。 「ああ……うぁ……!?」 彼女らの心を襲うは絶望的なまでの恐怖。この場から逃げなくてはいけないと理性を凌駕する本能の訴え。 アノバケモノトタタカッテハイケナイ――と。 瘴気に飲み込まれてはじめる心。気力を振り絞っても、心は絶望へと堕ちていく。 ――だが、そんな闇に差し込む光にならんと、澄み切った歌声が響く。 「……負けないでなの! 私が、私達がいますから……!」 水月の歌だ。霊鎧の歌と天使の影絵踏みを組み合わせた、狂気から心を護る為の歌。 光は……届いた。 「く、はぁ……! 子猫ちゃんの歌は最高の目覚ましだね……!」 今にも倒れそうだったフランヴェルだったが、大きく息を吐きだして呼吸を整えると再び力強く地を踏む。 これには偽澄も意外だったのか、感嘆の声を上げる。 「やるもんだ。まさか耐えられるやつがいるとはなぁ」 口ぶりから察するに相当自信があったのだろう。実際、空とケロリーナは心を折られていた。 だからといって絶望に屈した2人を責めることはできない。例え歌の加護があっても、相当に分の悪い……それほど強力な闇だったのだ。 「だめ、ダメです、これは……!?」 絶望に囚われた者は、絶望の対象……偽澄と同じ戦場に立つことはできない。事実上の戦闘不能だ。 このままでは彼女らは通路を逆戻りし、戦場を離脱しかねない。 ――しかし、その解決策は意外なところにあった。 「おいっ、逃げるならこっちだ!!」 空とケロリーナを呼ぶ声。それは黒壁の内側にいる緋那岐のものだ。 恐れる対象を目視できない距離まで逃げようとする恐慌の対策。それは目視しなくてよい場所を近場に作ることだ。 この場合は、緋那岐の作り出した結界呪符の避難所。少なくとも壁が破壊されない限り、偽澄を視界に収めることはない。 「何枚壁を吹き飛ばされてもいいように、作りまくらなきゃいけねぇけどな……!」 「すみません、です、の……」 逃げるように……いや、実際避難所に逃げ込む空とケロリーナ。戦闘不能状態には変わりないが、ここなら回復した時の戦線復帰は手早く済む。 だが自然回復を待っては時間がかかると2人に駆け寄った禾室が解術の法を試みる……が。 「ダメじゃ! 瘴気が強すぎて、わしの力じゃ剥がせそうにないのじゃ……!」 絶望に陥れた偽澄との力の差をはっきりと思い知る禾室。力の差がある場合は解術の法でも破邪を為すことはできない。より精霊力に長けた者ならばなんとかなったかもしれないが。 更に偽澄の攻撃の手は止まらない。 「そう、隠れてないでさっ!」 突き出した手より瘴気弾を2枚の黒壁に向けて放つ。軽い動作で放たれた2発の弾丸であったが、それぞれの壁を一撃で消滅させるには十分すぎる威力であった。 緋那岐は壁を生成することに専念しなければ避難所の維持はできないだろう。 「それでいて、ボクが踏ん張らなきゃね……!」 空の代わりに紅鎧の前に立つフランヴェル。先とは違い、抜かせないことに集中すれば敵を食い止めること自体はできないことではない。 戦いの激しさは加速していく。 ●破鎧 敵は紅鎧を前衛に置き、偽澄が後衛の砲台。蒼鎧が偽澄の護衛。 対する開拓者は2人が一時戦線離脱。敵最大火力の偽澄に手を出すことはできないという状況。 ならば、優先すべきは―― 「こちらは、我と郁で抑える……故に……紅を……!」 敵の数を減らす。更に言うならば、危険度が高いものの倒しやすいと思われる紅鎧を、だ。 「フランヴェルさん、お願い!」 「ありがとう、子猫ちゃん!」 歩の神楽舞「武」による援護を受けて、フランヴェルが紅鎧へと斬りかかる。 「セイヤァァァァァ!!!」 絶叫のような掛け声と共に繰り出されるは柳生無明剣。極限にまで鍛え上げられた彼女の剣技が紅鎧の足を捉える。 濃密な瘴気の壁に一瞬刃が阻まれる、が―― 「破ァァァァ!!」 裂帛の気合と共に刀を振りぬく。瘴気を突破した刃は鎧の足甲に大きな傷跡を付ける。 「今じゃ!」 紅鎧がバランスを崩したのを見て、好機と判断した禾室が再度の影縛りを仕掛ける。 再び伸びていく禾室の影は、今度こそ紅鎧を捕らえることに成功した。 「好し!」 「いいね、子猫ちゃん!」 「わしは狸じゃ!」 ともあれ、相手の動きを拘束できるのは大きい。フランヴェルが更なる剣撃を打ち込もうと構えた、その瞬間。 「――!」 構えたのは刀では盾。 フランヴェルに黒紫の弾丸が飛来し、爆発する。 「そう易々とはやらせないぜ?」 「ぐ、うぅ……!」 「もう1発……と言わず、倒れるまで何発も――っと」 突き出した偽澄の掌に、橙色の軌跡が突き刺さった。 軌跡を辿れば、そこには何かを投擲した態勢の水月。 「あなたがどんなに強くても、人の記憶を奪っても……なんでも出来ると思わないで」 「何でもは出来ないさ。――ただ、出来ることをやってるだけだ」 余裕の笑みを見せながら、掌に突き刺さった太陽針を引き抜く。 「こんな風にな――!」 偽澄の体から莫大な量の瘴気が立ち上り、広間の天井付近で暗黒雲が形成される。 そして、雲は雨となり――弾丸が開拓者達に降り注いだ。 「が、あ……はっ――!」 「っしゅしょー……!」 1発1発は先ほどまでの弾丸より大分弱い。だが、それでも並みのアヤカシの攻撃を凌駕する威力の雨が開拓者達の体力を着実に削る。 「っ、ここで、私が倒れるわけには、いかないんだよ……!」 瘴気の雨に打たれながらも治癒の光を放つ、歩。 更に彼女だけでは間に合わないと判断した水月も閃癒を発動する。 「私達は……そう簡単には、屈しない――!」 「あぁ、俺達もそう簡単には屈しないぜ?」 偽澄の言葉と共に動き出したのは、紅鎧。影で縛られながらも降りしきる雨の中、1歩踏み込んで薙ぎ払うように大太刀を振るう。 刃はフランヴェルと禾室を斬り裂き、鮮血を撒き散らす。返り血が紅鎧に降り注ぐが、鎧の紅と極自然に馴染んでいた。 「かはっ!?」 動きは影縛りのお陰で鈍い。だが変わらず必殺の一撃を放つ紅鎧に、危機感を募らせる。 だから、 だから、彼女達は絶望に心を苛まれながらも、動いた。 「いつまでも、逃げてばかりでは……!」 「何度折れても、その度に立ち上がってみせるの!」 雨で消滅していく壁の中から顔を見せる、空とケロリーナ。 未だに心の闇は晴れていない。気を抜けばすぐにでも逃げ出したくなる。 だが、今は、この時だけはと。気力を奮い立てて、敵を見据える。 「貫け――氷槍!」 「消しさってやりますの〜!」 雨を吹き飛ばす氷刃の嵐が紅鎧をずたずたに切り裂き、灰色が瘴気ごと虚空へと消し去っていく。 灰色の稼動音が止まると同時に、最後に残った紅い兜が地面に叩きつけられ、辺りに甲高い音を響かせた。 紅鎧が倒された以上、防御特化の蒼鎧は大した問題ではない。 いくら防御特化といっても、紅に当たっていた人員が全員蒼に当たれば捌き切れるわけもなく。 「そっち頼んだよっ!」 「了解……! これ以上、時間かけられん……!」 羅轟が受け止められること前提で正面からの鬼切を叩き込み、その隙に回り込んだフランヴェルが柳生無明剣を打ち込む。 「これで、終わりじゃ!」 禾室の投擲した巨大な手裏剣が、瘴気の殆ど消滅した鎧を打ち砕いたのだった。 ●偽澄 紅鎧も、蒼鎧も倒し、残るは偽澄だけとなった。 が、戦局は開拓者に有利だとはとても言えない。 蒼鎧に護られていた偽澄は大きな損耗もなく、だが開拓者達は鎧を倒す上で瘴撃を受けている。 「最終局面……といったところか」 偽澄が両手を突き出し、今までより大きな瘴気の弾丸を放つ。 それは開拓者達の陣形まで入り込むと爆発を起こし、開拓者に猛烈な爆瘴が襲い掛かった。 「がっ……まだ、こんな手を……!?」 吹き飛ばされながらも、なんとか立ち上がる郁磨。先までは見なかった範囲攻撃だ。 「ま、味方に被害が及んじまうからな、こういうのは。だが――これからは気にせずぶっ放していくぜ?」 宣言の直後、2つ目、3つ目の爆発が起き、開拓者達を吹き飛ばしていく。 「負けない……あなたなんかに!」 それを支えるは歩の閃癒。水月は霊鎧の歌で仲間達の爆破への抵抗力を上げる。 「だが――迂闊だぜっ!」 全員を回復させる為か、前に出すぎていた歩。 勿論回復の要である彼女を偽澄が見逃すわけはない。 極爆の瘴気を、しかし爆発させることなく圧縮させた一撃必滅の弾丸を彼女に向けて撃ち出す。 しかし、それこそが、 ――狙い通り! この状況になって、敵が自分を狙わないわけはない。そうと分かっていればカウンターを叩き込みやすくもなる。 「その身体から、出てってーーー!」 歩が被弾覚悟の浄炎を放つ。 直後、歩と偽澄が同時に炎に包まれた。 「ちっ!」 聖なる炎に包まれながら、珍しく苛立たしげに舌打ちをする偽澄。 対する歩は吹き飛ばされたきり動く気配は無い。少なくともこの戦いで彼女が起き上がることはないだろう。 回復を担う巫女が倒された背水の陣。だが、偽澄が怯んだ今、好機でもある。 ぼろぼろの体に鞭打ちながら、羅轟が突撃する。 ……正澄殿を殺した妖物。体も、知識も、名すらも貴様にくれてやる気は無い……斬る。 羅轟が側面を突く。更に挟むようにフランヴェルも位置を取る。 ちっ、と再び舌打ちする偽澄が動き出すより先に、緋那岐の作りだした式がその身を瘴気ごと食らいつく。 「効果の程はわからねぇが……塵も積もれば、ってな!」 「はっ!」 直後、偽澄の気合と同時に吹き飛ばされる式。だが、その隙を突くように氷槍が彼の体を貫く。 「ここで、なんとしても討ち果たす……!」 援護の術を飛ばすは郁磨だ。 ……でも、奴を討つべきなのは俺じゃない。だから俺は、前に出ず己の役目を全うするだけ。 そう理解している。だから彼は叫ぶ。 「しゅしょー!!」 「我が全てを以て……滅せよ、妖物! チェストオオオオオオオオッ!!」 「悪い夢は――終わらせる!」 羅轟の鬼切と、フランヴェルの柳生無明剣が同時に偽澄に叩き込まれる――! 「――調子に、乗るなァ!!」 直後、偽澄の全身から吐き出される爆瘴が2人を吹き飛ばす。 怒りを乗せた大爆発を至近で受けた2人のダメージは想像に難くない。 だが、開拓者達の攻撃は終わらない。 「正澄殿の遺体を冒涜したのも心底、抜群に許せぬが……何より、今、わしらの腕には天儀の多くの人々の未来がかかっておる!」 爆炎を潜り抜け、禾室が偽澄の背後を取る。 「わしらが開拓するのは明るき未来、アヤカシのいらぬ企みなぞここでメタメタに打ち砕いてくれる!」 稲穂刈と名付けられた鎌が偽澄の背中に突き刺さった。 だが離脱するより先に、偽澄の伸ばした手に顔面を掴まれ、零距離で瘴爆をその身に受けることとなる。 「まだ、やれる……!」 「――もう終わりにしましょう。そろそろ幕を引くべきです」 その声は意外にも近く。禾室に気を取られていたせいで気づくのが遅れた。 声の主は絶望を乗り越えた空。彼女の白梅香が偽澄の瘴気を浄化していく。 「アヤカシなんかに正澄おじさまの思いを、三成おねえさまの思いを、これ以上穢させはしないですの!」 同じく絶望を克服したケロリーナのストーンアタックが偽澄の身体を打ちのめす。 だがまだ倒れんと瘴気を振りまき続ける偽澄。 1人、また1人と倒れながらも、攻撃を続ける開拓者達。 そして、最後に勝ったのは――。 ●勝利者 「あー……終わりだな、こりゃ」 お手上げだという風に両手を挙げる偽澄。その体からは瘴気が立ち上り、空中で散滅していく。 幾度も見たことのあるアヤカシの死の瞬間。だが、それでも開拓者達は油断なく武器を構える。 ――憑依するアヤカシ。つまり、最期には体を捨てて逃げるかもしれない、と。 だが、拍子抜けするほどに。偽澄は己の消滅を選んだ。 「そんなに警戒すんなって。俺は死ぬんだからさ」 瘴気と共に次第に消えていく偽澄……正澄の体。 憑依された時点で彼の体もアヤカシに変質されたのだろう。残念だが、正澄の体が残ることは無い。 そして、上級アヤカシにしては随分とあっさり消滅を受け入れたのは……正澄の影響が強いのかもしれない。 偽澄はアヤカシではあるが、正澄の性格をトレースした存在だ。故に、正澄の死生観――いざという時に死を受け入れる感覚も模倣してしまっているのだろう。 だが、 「例え、消えるとしても……1秒でも長く、貴様を……その姿でいさせるわけには、いかない……!」 血反吐を吐きながら、起き上がろうとする羅轟。この手で友を冒涜した存在を消滅させる為に。 だが、今の彼には剣を振るうどころか、起き上がる力すら、無い。 「あんま無茶すんなって。……んじゃ、冥土の土産にいいこと教えてやるよ。いや、冥土に行くのは俺だけどな」 「何……?」 体の大部分が消滅しながらも、偽澄は笑顔で開拓者達に語りかける。 「まず1つ。神代とか色々隠してた朝廷だけどな。――実はそれらと比較にならないレベルの、もっとやばい事を隠してる」 何を言っているんだ。そう動揺する開拓者達の様子を尻目に、偽澄は気にすることなく話を続ける。 「2つ目。神器について雪ちゃんに色々と聞いただろうけど。確信を持って言えることがある。――雪ちゃんは神器を揃えなきゃいけない一番の理由を、お前達に話していない」 神器について、雪家はなんと言った? 揃えた時に何が起こるか分からない。 アヤカシとの戦いを終わらせる鍵となる。 アヤカシの手に渡った場合、天儀全土に大いなる災いが齎される。 彼女はそう言っていた。 雪家のことだから、嘘はついていない筈だ。 ……なら、これらに矛盾しない範囲で、意図的に神器を揃え“なくてはいけない”理由を伏せたことになる。 「どういう意味ですか……!? 神器の意義とは――!」 空が問う。 だが、 「あぁ、悪い。時間切れみたいだわ――」 偽澄が消滅していく。 最期に一言残して。 「朝廷を、雪家を――」 ――疑え。 ――信じろ。 矛盾した言葉が同時に開拓者達の耳に届いた。 正澄の身体と、知識を喰らうアヤカシ――識喰が、瘴気となり、消滅していった――。 ●真実 アヤカシが、正澄が、最期に残した謎。 何故偽澄があんなことを言い出しのか。なんとなくだが、推測はできる。 「多分……きっとあれは澄さんの人格、だったんだろうね」 そう言ったのは郁磨だ。 アヤカシが正澄の人格を模倣しすぎたせいで、アヤカシではなく正澄として開拓者達に助言をしたのだろう……と。 それをどう受け取るべきかは、今の彼には判断できない。 正澄の人格から発せられた言葉なのだから、正澄の言葉として受け取るべきか。 それともあくまでも偽者が模倣している以上、偽者の言葉として受け取るべきか。 どちらにせよ、本物の正澄とは二度と話すことはできない。それが現実だ。 ――だけど、敢えて我儘を言うなら……。 郁磨は消えていった正澄が居たところを見やり、小さく呟く。 「さようなら、澄さん……」 ――澄さんともっと、話したかったなぁ……。 また、緋那岐も戦い終わった今だからこそ、気になることがあった。 それは精霊力と瘴気について。陰と陽。 だが、と思う。その2つの力が反発ではなく結合したら、と。 「力は失われる? ……龍脈に流れ込み、消えた瘴気のように。地に流れる力は儀を浮かせる力……か?」 推測だ。ただの推測にしか過ぎない。だが、何か、何かが引っかかる。 そもそも精霊力と瘴気とは何なのか。 この遺跡にしても、何故正反対のそれぞれで封印を解除することができるのか。 人間が何故この2つを扱うことができるのか。 正澄が最期に残した朝廷の隠し事とは。 大アヤカシが口にする『滅び』とは。 引っかかるものがある。あるが、この場では答えが出ない。 『精霊力』と『瘴気』と、そして――。 ともあれ、戦いは終わった。 「皆で三成様に報告にいこ」 目覚めた歩の言葉に首を横に振る者はおらず、開拓者達は遺跡の広間を後にする。 入り口の戦いも終わっていたようで、朝廷兵達はみな満身創痍だったものの死者もおらず、勝利といっていいだろう。 拠点に無事戻った開拓者達は、治療を施してから再び遺跡最奥へと赴く。 八咫鏡の封印を解く為に。 「……」 最奥の広間。舞台上で儀式の舞を踊る三成。 精霊力の燐光に照らされて、神聖な雰囲気を醸し出している。 その舞の担い手が三成……というのは、以前から三成を知る者にとってはある意味感慨深いものもあるだろう。 尤も、残念ながら起き上がることすら難しい数名は拠点で待機することになったので、舞を見ることは叶わなかったのだが。 「……うん? ううん? 子猫、ちゃん……?」 ふと首を傾げるのはフランヴェルだ。何かがおかしい、と。 同じタイミングで他の者も気づいたのだろう。「え?」という小さな声が広間のあちこちから聞こえていた。 彼らの視線の先にいるのは当然、舞う三成。 普段とは違う舞い手用の衣装を着込んだ三成は、いつもでは隠れていた体格も薄っすらと分かり―― 「私の目がおかしくなったの……?」 神聖な儀式の最中だというのに、目を丸くして思わず声を上げてしまう水月。当の三成は気にすることなく舞い続ける。 その瞬間だ。儀式が終わったのか、舞台の中心に穴が開き、何かがせり上がってくる。 せり上がってきた台に安置されていた鏡――八咫鏡に手を伸ばす三成に、ケロリーナが全員の心を代弁して突っ込みを入れた。 「おねえさまが、おにいさまだったですのー!!?」 ●八咫鏡 三成曰く、 「え、いや、当主として覚悟を決めましたし……。いい加減自分を偽ったままというのもどうかと思いまして……」 とのこと。ある事情から一家の男は女性として生きなければいけないのだが、もう自分がその役目を果たすことはないだろうと判断してのことだという。 最後に一悶着あったものの。 回収された八咫鏡は朝廷に渡ったのであった。 |