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■オープニング本文 ● 覚醒からくり。 からくりでありながら既存のからくりの範疇を超えた――まるで志体を持つかのような力を得たからくり達を指す言葉である。 これは、そんなある覚醒からくりが巻き込まれた事件である。 「ヘイ、帝人君起きてクダサーイ。今日はデートの約束デショー?」 「う、うーん……って、まだ夜が明けたばっかりじゃないか……。ダイヤ、もうちょっと寝かせてくれよ……」 「ショウガナイデスネー。ではワタシも一緒にベッドインネー♪」 青年のベッド……否、布団にもぞもぞ潜り込むは巫女服に似た服を着た1人の少女。 ダイヤと呼ばれた彼女はからくりであり、溜息を吐きながら布団のスペースを作る青年に仕えている。 仕えているとはいってもご主人様ラブのダイヤは隙あらばこうしてイチャつこうとしているので、傍目には恋人に見えるのかもしれない。 ……主である帝人が拒んだりしないのが、ここまで発展した理由の1つでもあるのだが。 そんなダイヤだが、実は覚醒からくりである。 先日、帝人と2人で海に遊びに行った時、アヤカシが出没。紆余曲折あって、その際に力の片鱗を見せたのだ。 ダイヤ本人は、 「コレで、帝人君をモット守れるネー!」 と至極喜んだため、ある意味では問題ない。帝人も元から守ってもらっていた事には変わりないので問題視していない。 つまるところ、ダイヤが覚醒しても彼女らの関係は何1つ変わらなかった。そういう例だ。 そうして彼女達はいつもの生活を続けた。 いや、少し変わったところがあったといえば、ダイヤが戦う術を探し始めたことぐらいだろうか。 尤も、現時点では覚醒からくりに対する警戒の目もあって検討の段階止まりなのだが。 「ワタシとしては砲術士が向いてる気がシマスネー。『ファイア!』――どうデス? キマってるデショウ?」 「んー……いいんじゃないか?」 「むー。……そういえば、帝人君はどうしてワタシにミコフクをプレゼントしたんデスカ?」 「……似合うと、思ったから」 「――! 帝人君、アイラブユーデース!」 「ちょっ、飯作ってんだから背後から抱きつくな!!」 だが、そんなダイヤの幸せ計画をぶち壊す事件が……起きた。 ● 「ホワッツ?」 ダイヤは目を疑った。そりゃもう疑った。 目にゴミが入ったのでないかと目を何度も擦ったし、幻覚でも見ているのではないかと頭を何度か叩いたりもした。 だが目の前の異様な存在は決して消えてくれなかった。 「ナ、こ、ここれはナンデスカー!?」 「猫でーす!」 事件が起きたのはある日の昼下がり。 帝人が家に弁当を置いていったことに気づいたダイヤが、それを職場に届けようと街中を歩いていた時のことだ。 彼女の行く手を阻むかのように何人もの人影が現れたのだ。 しかも、何故か揃いも揃って背が高い上に体格がいい。恐らく8頭身はある。 だが最も異様なのはその格好だ。ほぼ全裸である。一応褌をつけてはいるが、それ以外は何も着ていない。 服は着ていないくせに顔にはしっかりマスクをつけて顔を隠している。しかも何故か猫を模したマスクだ。 ちゃんとネコミミもある。猫尻尾もついている。 だが、 「ア、アナタ達を普通は猫だなんて認めまセーン!! ただのヘンタイじゃないデスカー!?」 これが至って普通の反応だろう。 しかし自称猫達は動揺を一切見せず。 「猫です」 あくまで自分達が猫であること主張しながらダイヤとの距離をじりじり詰める自称猫。 「ヒィ!?」 あまりにも怖ろしい状況に、ダイヤはつい手を出してしまう。 志体持ちと同等である覚醒からくりの彼女の拳が猫を捉える。 「なっ!?」 「甘いにゃー」 確かに猫を捉えた。 だが、それはヘンタイである猫のことではなく、いつの間にかヘンタイ猫がどこからか取り出した猫型盾の腹の部分に突き刺さっていたのだ! ――しかも、コノ一瞬で更に女装してマス!? 猫盾を持っているヘンタイ猫は、盾を取り出すと同時に何故か女装していた。何の意味があるかはさっぱり分からない。 何はともあれ、目の前の変態はただの変態ではない。恐らく志体持ち。今の術はシノビの術のちょっとした応用……なのかもしれない。 ならば手加減はいらない。いや、している場合ではない。 ダイヤは上段回し蹴りを猫の顔面にぶちこもうとする。 が、 「猫正座だにゃー!」 「!?」 ダイヤは虚空を蹴るに留まった。猫がしゃがんで――否、正座して回避した。やはり何故正座である意味があるのかは分からない。 「わ、わけがワカリマセーン!?」 「今ニャ!」 「アウチ――!?」 そんなダイヤの混乱をついて、他の猫が一斉に飛びかかる。 攻撃の直後であることもあってダイヤはとても避けられそうにない。このまま猫どもの餌食になるかと思われた、その瞬間――。 「――させませんわよ!」 ぶぉん、という風切り音が発生するとほぼ同時に鋼鉄の塊が空中の猫へと叩き付けられた。 「ふにゃん!?」 「アナタは……」 「大丈夫かしら。立てます?」 吹き飛ばされた猫とダイヤの間に立つのは大斧を抱えた少女。 ダイヤの記憶が正しければ、いつかの海でのアヤカシ騒ぎで一緒に戦った開拓者の騎士の筈だ。 少女騎士は、武器である斧を油断なく構えながら猫へと問うた。 「あなた達……こんなことして一体何が目的ですの!」 「にゃれにゃれの目的――それはからくりを捕まえることにゃ!」 「捕まえて、どうするつもりですの!?」 「聞きたいのかニャ?」 「やっぱりいいですわ」 即答であった。 「そんなわけで、そこのからくりのお嬢さんを頂こうとしたわけだニャ。何せ、にゃれにゃれ猫はからくりに対しては無敵――!」 「無敵……!? そんなこと、あるわけが!」 「あるんだニャ。にゃれにゃれはからくりを研究に研究しつくし、あらゆるモーション・動きを読みきれるようになったのニャ」 「ヒィ――!?」 ダイヤが本気で引いている。無理もないことではあるが。 「その努力をもっと健全な方に使えなかったんですの……?」 「とはいえ、にゃれにゃれが無敵なのはあくまでからくりに対して。ここは退かせてもらうにゃー」 「にゃー」 「にゃーにゃー」 そう告げたかと思った直後、猫達は本物の猫さながらの俊敏さでその場を去っていった。 残されたのは少女騎士と、 「猫コワイ猫コワイ猫コワイ……。お、お家帰って帝人君の紅茶飲みたいデース!」 猫へのトラウマを植えつけられたダイヤであった。 ● こうしてギルドに猫退治の依頼が持ち込まれる。 だが、ただ退治するというわけにはいかない。 「あいつが……ダイヤがさ。猫をすげぇ怖がるようになっちゃって。普通の猫にも対してさ」 依頼を持ち込んだのは帝人。噂によると依頼を出す為に相当無理して金を集めてきたらしい。 「だからそれを払拭する為にも『からくりだって猫に勝てる』ってところを、あいつに見せてくれないかな?」 |
■参加者一覧
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
リュート・グレイザー(ic0019)
20歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ●か・ら・こ・れ、はじまるよー! 猫達が現れたという町にやってきた6人の開拓者達。 依頼を受けた彼らが連れているは勿論6人のからくり。猫を倒し、ダイヤのトラウマを払拭する為召集された精鋭たちだ。 そんな彼らを、からくり収集を目的とした猫達が見逃す筈もなく。彼らの前に、どこからともなく猫が現れた。 「うわっ……なのです」 「こ、これが猫……」 尤も猫といってもあの可愛らしい猫ではない。人型の8頭身自称猫だ。ただの変態だ。 話に聞いていたとはいえ、斑鳩(ia1002)とその相棒であるわらびがドン引きするのも無理は無い。 「これはもはや、猫ではない何かですね! こんな気持ち悪い物体は断じて猫とは認めません!」 「なのです!」 「ふぅ……。現実を直視できないとは、実に哀れだにゃ……」 「な、なんでこの人達、『やれやれ、まったく仕方ない人達だ』みたいな上から目線なのです……!?」 変態とは得てしてそういうものだからだ。 「こんなモノの相手をわらびちゃんにさせるのは大変しのびないです、が! これも修行の一環として頑張ってもらいましょう! わらびちゃん、ファイト!」 「……なるべくなら、戦いたくはないですね」 わらびの切ない呟きが主に届くことは無かった。 変態そのものである猫を見ながら、1人静かに考察するのはリュート・グレイザー(ic0019)だ。 「何が目的でからくりを連れ去ろうとするのか……ここ最近のからくりの覚醒と関係あるのかな……?」 「……リュート。その考察は確実に意味が無いと思う。……断言できる」 そんな主に淡々と突っ込みを入れるは相棒であるシフォンだ。 実際、彼女の言葉は間違っていないだろう。この猫達は特に意味もなく食べるわけでもないクッキーを作り続けるタイプの狂人だ。 狂人の思考は理解できるものではない。狂人を相手にすべきことは、ただ倒すのみ。 「ふ、ふふ、頭だけ……着ぐるみ……くクク苦狗躯琥玖」 それを一番よく理解しているものは、 「主様、まだ暴れては、いけません」 相棒に羽交い絞めにされていた。 羽交い絞めされているは羅轟(ia1687)、しているのは琴音だ。 羅轟は頭だけ着ぐるみを被った8頭身のやはり変態に酷い目に遭わされた経験があり、それ故トラウマを抱いていた。 奇しくも今回の事件の発端であるダイヤと似たような境遇というわけだ。 「主様の、トラウマも、克服……とはいっても、根は、深そうです」 トラウマから発狂寸前になりかけの主を抑えながら、これからについて不安になる琴音であった。 何はともあれ、猫を倒すために集まった開拓者達だ。羅轟はいき過ぎだとしても、みな猫討伐の士気は高い。 「行くよハテナ、僕がしっかりサポートするから、変態達にハテナの力を見せてやるんだ!」 「イエス、マイキャプテン、ハテナにお任せくださいませ、そのような変態の存在はハテナも許せませぬゆえ」 からくりに悪さをする者は許せないと、更に何故か猫に対して心の奥底から怒りの炎が燃え上がる天河 ふしぎ(ia1037)。 彼の頼れる相棒はHA・TE・NA―17。愛称ハテナだ。ふしぎに忠実な彼女らしい受け答えだ。 「……しかしマイキャプテン、こういう時の掛け声は、いっこうせんふしg……うっ、頭が」 唐突に意味不明な単語を発して額を抑えるハテナ。頭の中で何かがあったのだろう。謎の爆発が起きなければよいのだが。 何はともあれ、目の前に敵がいる。 だが、 「どうやったら倒せるのでしょう」 「わかんなーい、わかんなーい」 首を捻るは鈴木 透子(ia5664)だ。事前にダイヤから話を聞いた感じだと、からくりが猫を倒すのは相当難しいように思える。 他のからくりより一回り小さい子供型の天邪雑鬼もそんな透子の周りをくるくると回りながら声を上げる。 というより、天邪雑鬼の場合、幼すぎて何も考えていないのかもしれないが。 彼女らと同じようにフレス(ib6696)もどうしたものかと唸っていた。 「今までにない強敵だと思うんだよ、まっるきり倒す手段が思いつかない……」 だからといって、ここで退くつもりはない。 ――けどからくりさん達守るために負けるわけには行かないんだよ! 頑張って猫さん達倒すんだよ! ふんと気合を入れるフレス。その気合の入りっぷりは相棒のファルの装備にも表れていた。 「……いえ、あの、いいですか?」 「うん?」 「これ、何の意味があるんです……?」 ファルの武器は青みがかった巨大な剣――はいいとして、何故か背中に紙で作られた砲を背負っていた。フレスお手製の装備だ。 勿論紙で作られた砲に攻撃能力なんてものはない。お飾りにすぎない。すぎないのだが……。 「よくわからないけどそうすべきだって気がするんだよ!」 「……分かりました。これ以上は追及しないのです……」 お手製の紙砲以外にも何故か鯖を買ってきている主人に対してこれ以上突っ込むのを諦めるファル。諦観からか口調も少し変わってきているように思える。 こうして、ダイヤが物陰から見守る中、からくりと猫達の戦いが始まろうとしていた。 ●暁の地平線に―― 「ほぅ、君たちからくりは6人か……。ではにゃれにゃれもフェアに6匹といこうかにゃ」 からくり達に対峙するよう、前に出てくる6人の猫。 「……自分達を匹でカウントしてる辺り、ある意味、本格的……」 何が本格的なのかは敢えて言わずに伏せるシフォン。 そんな彼女の主であるリュートが猫達に自分達について言及する。 「そちらがフェアな戦いを主張するのは勝手だけど、俺達も手を出すよ?」 「構わないにゃ。支援部隊が出てくるのもお約束なのにゃ」 「お約束って、何……?」 シフォンの疑問に答える者はいなかった。 ともあれ、猫が相手ということもあって、あることを試そうとする者達が2組。 「相手が猫ならば……いけるかもしれん」 透子が取りだしたるは猫じゃらしだ。 更に羅轟が琴音にやはり猫じゃらしとマタタビを持たせる。 それらを受け取った琴音は猫じゃらしをまるで剣のようにずいっと相手に突きつける。 「これらは、猫だけでなく、獅子や虎も、じゃれつくそうです」 即ち、 「これに反応しないなら、貴方達はネコ科ですらない……そうです」 対する猫達の反応はというと……。 「ま、また『やれやれ、まったく仕方ない人達だ』みたいな反応してるです、この人達……!」 「実際、本物の猫でも猫じゃらしを無視する子はいますしねー」 少し前にわらびが見たものと全く同じ反応。斑鳩が本物の猫について補足しているが、そういう問題ではない気がする。 「そのようなものに釣られると考えるとは、君たちはにゃれにゃれ猫族を少し甘く見すぎだと思うにゃ」 「あ、猫族なんだ……」 「ちょ、ちょっと待ってほしいよー! 私はアヌビスだけど、これは獣人への風評被害な気がするよ!?」 フレスの痛切な叫びを聞いて、他の者達が「分かってるから」と彼女を必死に宥める。 「……と、ともかく。あなた達は猫を名乗ってるくせに、これに反応しないのですか?」 「しょうがないにゃあ……いいよ」 琴音の追及に、猫のうち1匹が渋々といった様子で猫じゃらしにシュッシュと拳を繰り出す。一応挙動は猫パンチのそれだ。 「ほらー、ほらー」 同じく天邪雑鬼が振り回す猫じゃらしにも1匹が猫パンチを連打する。 それを隙と見た天邪雑鬼が空いている右手で猫へストレートパンチを叩き込む――! 「あ、あれー? あれれー?」 ――だが、拳が猫に当たることはなく。それどころか、天邪雑鬼の腕を一瞬で取った猫が、彼女を頭上に掲げるようにしていた。 「にゃあ、本気でじゃれついてたわけじゃにゃいからにゃあ」 「しまった。演技でじゃれついてたということは、隙は作り出されたもの……カウンターされて当然ということですか」 透子が視線を琴音の方に移してみれば、彼女もまた猫に持ち上げられていた。 「はなせー、はなせー!」 「くっ、なんという、失態……!」 更に猫達はその姿勢から、 「らしんばんまわすよー」 なんと、腕を巧みに使ってからくり少女達を頭上で回し始めたではないか。さながらくるくる回る羅針盤の針といったところか。 「――って、待て! 羅針盤は回すものではないぞ!?」 飛空船乗りとして当然のツッコミを入れるふしぎだが、猫達は知ったことじゃないとばかりに2人を回し続ける。 「北東、東、北西!」 「にっ、にっ!?」 「南、西、西、北西!」 「よんっ、さんっ!?」 回すスピードが最高潮になった辺りで、猫達はそれぞれ手を離し琴音と天邪雑鬼を射出。凄まじい勢いで空中に投げ出された2人は思わず声にならない声を上げる。 「危なっ……!」 「大丈夫!?」 地面に激突する寸前に、なんとか2人をキャッチする羅轟と透子。 その甲斐あって、からくり少女達に大きなダメージはない。 「ばかー、ばかー」 「うっ」 自分の失策を責める天邪雑鬼に返す言葉の無い透子。実際、天邪雑鬼が痛い目に遭ってる以上、これは受け入れるしかない。 「ばかー、ばかー」 「う……」 「ばかー、ばかー」 「……」 「ばかー、ばかー」 そして、途中で気づく。この子はせっかくの機会だとばかりに自分を馬鹿にしたいだけなのだと。 「あとで折檻です」 「えっ」 ●勝利を刻みなさい! 何はともあれ、場は仕切りなおされる。 先ほどまでのアレな動きをしていた猫に圧されたのか。ふしぎがじりと一歩後ずさる。 「…そっ、想像以上に恐ろしい相手なんだぞ」 「マイキャプテンを怯えさせるとは、許せませぬ……ハテナ、行きまする!」 「べっ、別に怯えてなんか、無いんだからなっ」 主の尊厳のため、巨大な斧であるウコンバサラを構えるハテナ。ふしぎが抗議をするが多分聞いていない。 「こうなったら、やっぱり大事なのは私たちの連携っ。よーし、たんじゅーじんだよ!」 「了解です」 フレスがファルに攻撃の指示を出す。ついでに一番攻撃力が上がるような気がする陣形の指示を皆にも出しておく。 それに従ったのか、突撃するファルの後ろについてシフォンも突撃する。 「にゃにゃっ、突撃とはその心意気やよし! 迎え撃つにゃ!」 先頭のファルを迎え撃とうと、猫が構える。 だが、相手は対からくりにおいては無敵の猫。このままではファルに勝ち目はない! 「にゃっ!?」 だが、猫の目の魔に突然現れる小鳥――の形をした人魂。直後、猫の体が呪縛符で縛られる。 「ハテナ今だっ!」 「お任せくださいませマイキャプテン――」 ふしぎの支援術。さらに突撃する2人の陰に隠れていたハテナが飛び出してウコンバサラを振るう! 縛られた猫に回避する術はない。直撃だ――! ……だが、無惨にも。ウコンバサラは斬ってはいけないものまで斬ってしまっていた。 「…………」 はらりと地面に落ちる猫の褌。見たくないものがハテナの目に入る。鋼鉄の精神が無ければ、酷い精神的ダメージを負っていただろう。 ともあれ、これで1匹が落ちた。だが負けじと続けての猫がやはり先頭のファルに襲いかかる。 「にゃー――にゃ!?」 「させないよっ。ファル――!」 「なのです!」 飛びかかる猫の攻撃を受け止めたのは、割り込んだフレスのナイフだ。彼女はダークガーデンで即座に反撃を行うと、そこに出来た隙にファルが剣を叩き込む。 2匹目撃破。 続けて、3匹目。そちらはシフォンが真っ向から相手をしていた。 「にゃにゃ、にゃかにゃかやるにゃ……!」 「……無駄に動いて鬱陶しい……」 「猫好きとしてはアレを猫とは認めたくないなあ……」 シフォンが猫と戦えているのはリュートがウイントカッターなどの術で援護を行っているからだ。 更にとリュートがアクセラレートをシフォンにかけることで、彼女の速度を更に上げていく。 「はらしょー。こいつは力を感じる」 「なにそれ」 「……わからない。異国の言葉らしいけど」 強化を受けて、ついと自分も知らない単語が漏れるシフォン。 ともあれ、リュートのアイヴィーバインドが拘束したところに拳を叩き込み、3匹目も撃破。 「ふっふっふ、しかしそやつら3匹は我々の中で最も小物――」 「最も小物が3匹いるってどういうこと」 「気にすることではないにゃ。にゃれにゃれの攻撃を食らうにゃー!」 残った3匹が一斉にそれぞれハテナ、ファル、シフォンへと飛びかかる! 「くっ……!」 それぞれ迎撃する3人。主の援護もあるが、確かに先の3匹より強いのかとどめに遠い――! だが、 「なのです!」 「んにゃぁ!?」 まったく警戒していない方向から飛んできたウコンバサラが、猫を叩きのめした。 それに一番驚いたのは、斧を振るった本人――わらびだ。 「はわわわ……びっくりしたのです……」 主である斑鳩が彼女に指示した作戦は「下手な攻撃も振り回せば当たるよ」作戦だ。 内容はその名の通り、何も考えず適当に斧を振るうだけというもの。ぶっちゃけ作戦と呼べるものではない。 が、それがラッキーヒットを生んだのだ。 「な、何が起こるか分からないものなのです。……では改めて、わらびの本気を見るのです!」 こうして、間もなく残る2匹の猫も撃破したのであった。 ●これでFinish!? 「――な訳無いデショ!」 「な、なんだかセリフを取られた気がシマス!」 6匹の猫を撃破し、これで終わりかと思いきや。新たな猫が現れる。物陰からダイヤが何やら抗議していたり。 「にゃーの出番が来るとはにゃ……!」 新たに現れた猫は練り上げた気を赤いオーラとして発生させ、纏っていた。 「そう、にゃーは――エリート猫だにゃ!」 エリート猫。それが恐らく猫達の首領であり、最大の敵――! 「では、にゃーの力の一端……軽く見せてあげるにゃ」 エリート猫がぱちんと指を弾く。直後、開拓者達は信じられないものを見た。 「なんだ……あれは……!? 空飛ぶ少女……!?」 空を見上げる羅轟の視界に入るのは十を超える少女が空を飛ぶという奇怪な絵。 だが、それで終わりではない。空飛ぶ少女達はなんと猫を上空から落としてくるではないか。 「これぞ、猫爆撃だにゃ――!」 爆撃の名に相応しく、降下した猫は地面に着弾すると同時に爆発を巻き起こす。瘴気が発生していることから式を使った陰陽術の一種なのだろう。 「さらに、猫雷撃――!」 再びエリート猫が指を弾くと、今度はエリート猫本体から猫がまっすぐ開拓者達に向けて射出される。これも先ほどと同じく猫爆弾式だ。 「ちょっ、空爆に雷撃ってなんですかそれ! ズルですよズル!」 爆風から身を庇いながら指摘する斑鳩。だがエリート猫はどこ吹く風だ。 「全然ズルじゃないにゃ。クラゲでもこれぐらいのことはできるにゃ」 「どんなクラゲですか!!」 きっと進化するアヤカシクラゲなのだろう。 ともあれ、エリート猫は想像以上に手強い。このまま戦うと苦戦は免れないだろう。 だから、透子は覚悟を決める。 「最後の手段です」 最後の手段。 透子はこの戦いの前に、依頼人である帝人にある協力を頼んでいた。 うまくいけばダイヤがトラウマごと猫を粉砕できるかもしれない作戦。だが、それは当然リスクを伴う。 協力する以上、帝人の身に危険が及ぶし、ある意味でダイヤが可哀想なことになる。 だからそれを実行するかどうかは帝人の意志に任せると、透子は告げた。 そして、もしやる気があるのなら――。 透子が手を振ってサインを送る。 直後、再びエリート猫が猫空爆を行った。 「にゃにゃー!」 爆発で巻き起こる砂埃により視界が遮られた。 しばらくして、視界が晴れていく。 それと同時に物陰から人影がふらふらと現れ、倒れた。 その人物はダイヤにとってよく見覚えのある人物。 「帝人君!?」 「隠れて見守ってるつもりだったが……爆撃の余波を食らった……」 倒れた帝人に駆け寄るダイヤ。負傷したのか、帝人の声は弱々しい。 「すまない、ダイヤ……。何の力にも、なれなくて……」 「そんな……! 帝人君! 帝人君!?」 帝人からの返事は、ない。 その様子を見て、エリート猫が首を傾げる。 「……にゃにゃ? 妙だにゃ?」 あの位置だとどう考えても爆撃は届かない筈だ――そう口にしようとした直後、エリート猫の額に鉛の弾が直撃した。 「うにゃ!?」 「絶対に――許さないからネ!」 銃を構えたダイヤ。そう、今の攻撃はダイヤが放ったものだ。 「え、いや、ちょっと待つにゃ!?」 「バアアアアニング、ラァァァァブ!!!」 愛する人を傷つけられた怒りのままに銃を連射するダイヤ。事件以前に砲術士を目指していたこともあってか、その射撃は正確無比だ。 射撃を受けてのけぞるエリート猫。猫が無敵なのはからくりに対して――こうして力をちゃんと発揮した覚醒からくりに対しては、別だったのだ。 それを愛と怒りで引き出すのが透子の作戦。 「……なんだけどさぁ」 「はい」 「これ、バレたら俺がやばくないかな……?」 「やばいー、やばいー」 倒れたまま帝人が傍にいる透子にぽつりと呟く。 実際のところ、彼には傷一つない。あくまでも負傷した体で倒れる演技をしたのだ。 「えぇと、言い訳に関しては……頑張ってくださいね?」 「がんばれー、がんばれー」 「くっそぅ、紅茶代で給料何ヶ月飛ぶかな……!」 ともあれ、ダイヤの奮戦によりエリート猫に大きな隙ができた。 開拓者達も相棒にそれぞれ最後の指示を出す。 「ハテナ、援護入れるよ!」 「これがマイキャプテンとハテナの絆の一撃にございまする!」 ふしぎが呪縛符で縛ったところに、ハテナが制限解除からの必殺攻撃を叩き込み。 「今だ……琴音!」 「はい――あぅ」 よろけた猫を羅轟が刺又で動きを止め、琴音が痛撃を食らわせようと剣を振るい……勢いあまって躓いてしまい、だが結果剣が猫の危険なところにいい感じに入ってしまったり。 「……何度でも立ち上がる。不死鳥のように……!」 「頑張れシフォン……! 俺は君を、君だからこそ、『信頼できる』!」 「ураа!」 猫爆撃のダメージから起き上がったシフォンが、リュートの応援を受けて破穿撃を全力で叩き込み。 「ほら、ファル! 最後のトドメはこの鯖で!」 「え、な、なんで……? わ、分かりました――なのです!」 最後に、ファルがフレスから手渡された鯖をエリート猫の顔面に叩き込んだ。 こうしてからくり達の連撃を食らったエリート猫が崩れ落ちる。 「にゃ、そ、そんにゃ馬鹿にゃ……!? 鯖、鯖にゃ……!? 鯖が強化され……!!?」 何故か最後の鯖攻撃で一番ダメージを食らってるように見えるが、気にしないことにしよう。 鯖、鯖……と謎のうわ言を呟きながら――エリート猫は、倒れた。 ●完全勝利! こうして、戦いは終わった。 「……悪夢は、去った」 「ある意味、『猫』さん達の、悪夢でした」 半ば虚ろになりながら、ひっ捕らえられる猫達を見送る羅轟と琴音。 羅轟のトラウマがどうなったかは分からないが、ダイヤのトラウマは――。 「もう! 私を騙すだなんて、酷いデス帝人君!」 克服されたと考えていいかもしれない。 「よーし、戦いも終わったことだし、お風呂に行こうよ!」 「分かりました。……今日はバケツでお湯を被るより、ゆっくりしたい気分ですね」 仲良く帰っていくフレスとファルを見送りながら、戦いが終わった実感を得たハテナはふと呟くのであった。 「猫は滅びた、でもお気を付けくださいませ、世の中には更に恐ろしい羅針――」 「やめるんだハテナ。下手なことを言うと金色のオーラを纏った猫とかが出てきかねないんだぞ……」 戦いは終わった……筈だ。 後日、トラウマを克服したダイヤは開拓者としてギルドに登録したらしい。 それから更に後日、帝人の家にダイヤと同型のからくり姉妹が追加で3人やってくるのはまた別のお話。 |