【遺跡】痛い発掘やめて
マスター名:刃葉破
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/24 20:20



■オープニング本文

 神楽の都はとある酒場。
 日も高い真昼間だというのに酒を飲んでいる2人の男が居た。格好から開拓者だという事が分かる。
 そんな2人の話題は最近見つかった栢山遺跡についてだ。
「あの遺跡に本当に別の儀に繋がるブツなんてあるのかねぇ」
「いやぁ、実際どうかは別として、何かはあると思うぜ」
 開拓者としては、未知に挑むということでやはり遺跡への興味は尽きないのだろう。話はどんどん熱くなっていく。
 そんな2人がいるテーブルに、眼鏡をかけた男性が近づいていく。
 話をしていた男達も眼鏡の男性に気付いたのだろう、目がそちらを向いた。
 2人の視線を受けた眼鏡の男性は、一呼吸置くと、こう宣言した。
「話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!」
「な、なんだってー!?」
 思わずそう叫んでしまう男達。
 驚くのも無理はない。遺跡の話をしていたら、それが人類滅亡に繋がるのだと言われてしまったのだから。
「ど、どういうことだアンタ――えーっと‥‥」
「俺か。俺の名は森だ」
「森! 一体どういう事か説明しろよ!」
「いいだろう」
 森と名乗った眼鏡の男性は、懐から取り出した手帳を広げると、それを男達に見せる。
 そこに書かれていたのは文字であった。
「いいか。お前達は『おいたし でなでな おいわかこぬ』‥‥という呪文を知っているか?」
「あ、あぁ」
 それは、栢山遺跡に入るための呪文だ。その呪文を唱えることで遺跡の扉が開くのだ。
「この呪文には重大な秘密が隠されている」
「な、なんだってー!? あれか、逆から読むとか‥‥?」
「そんな単純なものではない!」
 森は広げた手帳に書かれた文字を指差しながら説明を始める。
「この呪文でまず着目すべきは『おい』の部分だ。最初の単語、最後の単語それぞれの頭についている」
「それが何なんだ?」
「この『おい』は一種の記号なのではないかと考える」
「記号‥‥?」
「分かりやすく甲に置き換えよう。『甲たし でなでな 甲わかこぬ』だな。さて、甲の意味を考えると同一を示しているのではないかと推測できる」
 男達の頭上には相変わらず疑問符が踊っているが、森は構わず説明を続ける。
「同一‥‥つまり一緒にしてしまえという事だな。これで『たしわかこぬ』となった」
「お、おいおい。『でなでな』はどこにいったんだよ」
「それは解読を妨害する単語だな。ノイズというやつだ。さて、この『たしわかこぬ』を並び替えると‥‥こうなる」
 森が手帳に書かれたとある単語を指し示す。
「かこぬわたし?」
「まぁ、ぬはのと置き換えれんこともない。『かこのわたし』となるわけだ。過去の私か渡しかははっきりせんが‥‥どちらの意味でも過去を言及している単語になる」
「つまり、どういうことだってばよ!?」
「いいか、我々が過去に遡った時‥‥その究極は何だ!」
 その森の問いに、男はしばらく考え込んでから答えを出す。
「子供‥‥いや赤ん坊か?」
「違う、無だ! 生まれる前、我々は存在していない! 『かこのわたし』とは無を示しているのだ」
 だから、
「不用意に遺跡を探索した結果、無へと‥‥そう、人類の滅亡へと導かれてしまうのだ!」
「な、なんだってー!?」
 再び男達の顔が驚愕に染まる。
 しかし、それは先程の荒唐無稽な宣言からの驚愕とは違うもの。
 そう、真実を知ってしまった故の驚愕。
 知ってしまったからには、最早このまま放っておく訳にはいかないと、男達は森に問い詰める。
「森! 俺達はどうすればいい!?」
「このまま人類が滅亡だなんて嫌だぜ!」
 だが、森の表情は暗い。
「いや、俺達は知るのが遅かったかもしれん‥‥。今やこの遺跡探索の流れは‥‥止められん」
 森は思いつめた表情でテーブルに突っ伏した。
 そんな森の肩に、手が置かれる。男達の手だ。
「まだ諦めるには早いんじゃないか?」
「俺達にだってまだできる事がある‥‥そうだろう?」
「お前達‥‥!」
 男達の表情は明るい。それは明るい未来を信じているからだ。
 森もその希望を信じてみたくなったのだろう。男達の手を取る。
「そうだな‥‥! よし、まずは肝心の遺跡を調査だ!」
 森と男達が立ち上がる。
「いくぞ! 栢山遺跡調査団、出動だ!」
 森先生の次回作にご期待ください。


 それはそれとして。
 森含む開拓者達の調査によって、遺跡にてとある部屋が発見される。
 部屋の先にも道があったようだがその部屋にアヤカシが居たため、突破できずに引き返す事となった。
 そのアヤカシがクセモノなのだ。
 森らの話によると、アヤカシは小さな子供のような姿をしていたという。とても強敵には見えなかった、とも。
 直接的な攻撃をされたわけではない。精神的なものだ。
 アヤカシの目が光った瞬間、森の意識は過去へと飛んだ。とびきりイタイ過去の幻覚を見せられたというのだ。
 それに耐え切れず、立ち向かう精神も削られ、森らは泣きながらその部屋を飛び出したという。
 そして、その部屋はこう名付けられた。
 『過去の私の間』と。


■参加者一覧
衛島 雫(ia1241
23歳・女・サ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
景倉 恭冶(ia6030
20歳・男・サ
アルクトゥルス(ib0016
20歳・女・騎
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
百々架(ib2570
17歳・女・志
レビィ・JS(ib2821
22歳・女・泰


■リプレイ本文

●過去への道
 栢山遺跡はとある一室の前、開拓者達が集まっていた。
 事前に聞いた通り、道中には障害は無く簡単にたどりつくことができた。後は目の前の石扉を開けて進むだけである。
 そしてこの先に待ち受けているのは――
「過去‥‥ねぇ? はてさてどんなもんを見せてくれるんかね?」
 この先にあるのは未来ではなく、過去。過去の幻覚を見せるアヤカシ――『発掘者』だ。
 景倉 恭冶(ia6030)は過去の幻覚に対して、恐怖でなく興味を抱いていた。
 ‥‥それは、曖昧な自分の過去を知る事ができるかもしれないからだ。
「自分の過去にそれほどの自信があるわけではない、が、向き合ってみるのも一興か」
 同じように過去への興味を抱いているのは衛島 雫(ia1241)だ。
 過去と向き合ってこそ、分かるものがあるかもしれない‥‥と。
「イタイ過去を見せるだなんて酷い‥‥でも過去との決別をするのには丁度良いわ。どんなものを見せられたって絶対に臆さないんだから!」
 百々架(ib2570)は過去と向き合う事に関しては同じだが、彼女の目的は決別。
 それは‥‥辛い過去を自覚している者ゆえの思い。
 決別すべき過去を持つ者が居るのならば、過去との再会を望む者もまた居た。御凪 祥(ia5285)だ。
(例え痛い幻覚であっても、その中に兄上の姿が有るのなら、再び会いたい‥‥そう思ってる)
 だが、とそこまで考えたところで祥は表情を苦いものに変える。
(叔父の姿も共に見てしまうんだろうが‥‥)
 自分の見たい過去が見れるわけではない。あくまでも本人にとって辛い過去を見ることになるのだ。
 それを理解しているからこそ、晴れやかな気持ちで過去に臨む‥‥ということはできはしない。
 他の開拓者達もまた、過去についてそれぞれの思惑を巡らせていた。
「過去の話ですか。‥‥まあ、女性の過去と体重はミステリアスなほうがいいですよね?」
「んん‥‥そういうもんかね。否定はせんが」
 朽葉・生(ib2229)の有無を言わせぬ言葉。それは自分がどんな様子だろうと過去を聞くな、という意思の表れだろうか。
 その様子にやや押されながらもアルクトゥルス(ib0016)も同意する。聞かれたくないのは過去か体重かというのはさておき。
 さて、恭冶、祥、百々架ら3人の腰には荒縄が結ばれていた。長く伸びた縄のもう一端は残りの開拓者達が手に持っている。
 縄を結ばれた3人は先行して部屋に入り、発掘者の能力や様子を探る。もしもの時は残った者が縄を引っ張って救出するという手筈だ。
「よし、これで大丈夫ね」
 嵩山 薫(ia1747)は縄が容易には外れない事を確認する。
 部屋に入るための準備は万端だ。
 レビィ・JS(ib2821)が扉を開けて、先行組が中に入るのを促す。
「さて、どんなものを見せられるんだろうね」

●辛き過去
 部屋に先行組の3人が入る。残りの開拓者達は部屋の中から幻覚にかけられないように、通路の陰で待機していた。
「大丈夫かー?」
「おぉ、何ともない」
 通路からの仲間の声に律儀に返事する恭冶。自分がまだ正気であるという事を示す為だ。
 まだ発掘者の姿は見えない‥‥本当に現れるのだろうか、そう思った直後。
「む!?」
 最初に気付いたのは誰か‥‥全員かもしれない。
 いつの間にか、先程まで何もなかった筈の場所に小さな子供の姿があった。大体6歳ぐらいの少年‥‥発掘者だ。
 すぐさま理解し、武器を抜こうとした直後‥‥アヤカシの目が光ったのを3人は自覚した。

 過去を見ていた。
 自分に優しくしてくれた姉の姿を。
 母親は自分が生まれた時に死んだ為にいない。姉だけだったのだ、自分に優しかったのは。
 一族に忌み子として扱われた幼い自分にとって、どれほどありがたかっただろう。
(姉さん!)
 それは恭冶の過去。彼が呼ぶ姉の姿は、記憶にあるどの姿ともかけ離れていた。
 姉の手は血に染まっていた。姉の血ではない‥‥地面に倒れている人々のもの。一族の者が見るも無残な姿で倒れていた。
(俺じゃ‥‥無い?)
 確かに今、恭冶の一族はこの世にいない。だがそれは自分が殺した筈だ。
 あの優しかった姉がこんな事をする筈がない。姉の手が血に染まるような事が起きる筈がない。
 そうだ、なら恭冶の手は赤く染まっているのだ? 恭冶が一族を殺したからではないのか?
 恭冶は目の前の惨劇の真実を見て、理解する――
(あぁ‥‥そうか)
 ――俺の手は、姉さんの血で染まっていたんやね。

 過去を見ていた。
 それは小さな村でのこと。
 1人の少女が、何人もの大人から殴る蹴るなどの暴行を受けていた。
「な‥‥何、これ‥‥嫌っ、嫌ぁぁぁぁぁぁっ!」
 それは百々架の過去。大人達は彼女を化け物と呼んでいた。
 力の無い彼ら一般人にとって、常識からかけ離れた志体持ちは化け物にしか見えないのかもしれない。
「い、痛い‥‥止め、てっ‥‥石は‥‥髪引っ張ら‥‥あたしは化け物なんかじゃない!」
 だから虐げる。力を持つ者が怖ろしいから‥‥憎いから。
 弱い人間は彼らだけではない。百々架の両親も、また同様で。
 化け物は――自分の娘ではない、と。
「嘘‥‥そんな、お母さん達がそんな事‥‥」
 化け物はいらない。手元に置きたくない。
 なら、どこへでも売り飛ばせばいい――彼女が聞いたその声は確かに母親のもので。
 親にまで存在を否定された自分に‥‥生きる意味はあるのだろうか?

 過去を見ていた。
 楽しそうに笑う兄弟の姿を。
 武芸は苦手で武門の総領としてはやや物足りないとも言われた兄。
 だが、陽気で義に厚くその不足を補うに足る人物だったと弟は思っていたし、周囲の人間もそう思っていた。
(兄上‥‥!)
 それは祥の過去。今にも泣き出しそうな声で兄を呼ぶが、兄が返事をすることはない。
 自分にとって大きな存在であった兄との生活はとても素晴らしいものであった。
 だが、今はもう兄はいない。
 ――景色が赤に染まる。
 赤く、紅く、血で染まる。
 血に濡れているのは兄か。兄を殺した武闘派の叔父か。それとも、怒りのままに叔父も従兄弟も殺してしまった自分か。
 どこまでも赤い――。
(赤い‥‥)
 赤い過去を、怒りを捨てる為に、『薛 春洋』という本当の名を捨てた。
 それでもまだ赤が迫る。
(いや‥‥これは‥‥)
 どこまでも赤い。だが、血ではない。
 それは名を変えた後に天儀本島で見た紅葉する山々。
「っ‥‥!」

 祥の思考が、現実へと引き戻される。今自分が立っている理由を想起したからだ。
 目の前には発掘者が1体いた。それを、斬る。
 発掘者は特に避ける事もせずに、そのまま消滅してしまった。肝心の能力以外は相当弱いのだろう。
 部屋を見渡せば、発掘者がもう1体。しかし、祥がそちらに向かう前に、発掘者は倒された。
「『己を信じ、其の力を他のために使用せよ』‥‥あの人の、あたしの師匠の言葉よ。あなたにこれの意味が分かる?」
 発掘者を斬ったのは百々架だ。師匠の言葉を思い出し、なんとか立ち直ったのだろう。
 とりあえず発掘者がいなくなった為か、恭冶の意識も現実へと引き戻される。
「くぅ、とりあえずは‥‥終わりやね」
 落ち着く時間が欲しい‥‥そう思った時だ。
「げ」
 更に発掘者が何体か奥から現れるのが見えた。
 過去の幻覚を打ち破ったとはいえ、精神的に疲弊した状態でまた立ち向かうのは得策とは思えない。
 そう判断し、3人は一先ず撤退するのであった。

●過去を越える
 先行組と交代で、部屋の中に入る後発組。
 発掘者の能力や部屋の様子などに関しては、入る前に先行組から聞いていた。
 先行組の精神疲弊の度合いから、アルクトゥルスはどんな過去を見たのかと推測する。
「先行組は‥‥全員シリアスな過去を見たようだな」
「なんとなく、私が先行組に入らなくてよかった気がします」
 それを聞いてぽつりと漏らす生。どういう意味かはこれから分かる‥‥のかもしれない。
 ともかく、部屋に入った彼らの目にも発掘者の姿が映る。
 先制しようと思うも、やはり発掘者の目が光るのが先であった。

「本人にとって痛々しい過去なんて、誰でもあって然るべきもの‥‥恥じる事も悔いる事もないわ」
 目が光る。それは即ち過去の幻覚を見せられるという合図だ。
 だから薫はどんな過去だろうと受け止めてみせる‥‥そう覚悟した、直後。
『な、何よ‥‥。別にアンタの為に作ったんじゃないんだからね! ただ材料が余っただけなんだから!』
「ちょ!?」
 浮かぶ過去は薫が亭主と交際を始めた頃の記憶だ。
 記憶の中の薫は若かりし頃の亭主に弁当を渡していた。とても余り物で作ったとは思えない程豪華な弁当だ。
『え、美味しいって‥‥? そ、そんな風に褒められても別に嬉しくないんだからね!』
「やめてくれぇぇ!?」
 薫は覚悟していた。恐らく孤児の時の生活を過去として見せられるのだろうな‥‥と。
 だが実際は、こちらの方がより見せられて辛い過去ということだろう。
『アンタがどうしてもって言うんなら‥‥また作ってあげてもいいわよ?』
「うわぁぁぁぁ!!」
 頭を抱えてゴンゴンと床に叩きつける薫。
 確かに、そんなツンデレ全開のイタイ過去を見せられたとしたら‥‥悶えるのも致し方なし。

 薫が頭を床に頭をゴンゴンと叩きつけている頃、アルクトゥルスは何もない空中に向かって拳を振るっていた。
「やめろぉ! ちょ、何やってんだ!?」
 彼女が今見ている幻覚は、やはり過去のアルクトゥルス。
 過去の彼女は酒を飲んでいた。とにかく馬鹿みたいに、だ。
 加減を知らないかのように飲めばどうなるか。答えは明快、盛大に酔うに決まっている。
「あぁ、脱ぐな! 吐くな! そんな状態で更に飲もうとするなぁ!!」
 バカみたいに笑いながら大騒ぎする過去の彼女。周囲の者達はどう対処すればいいのか困り果てていた。
 服をはだけた状態で男性に絡み、ある意味サービスしたかと思うと顔に盛大にぶちまける。何を、とは明言しない。女性はイメージが大事だからね!
 その上で男性に倒れこんでお持ち帰りコースかと思いきや、むくりと起き上がってもっと飲めと強要する絡み酒。
 気付けばアルクトゥルスの周囲には誰もいなくなっていた。
「全力でブン殴って説教したい‥‥!」
 今はさすがに酒の許容量というものを理解しているから、こんな醜態は見せることがない。
 だからこそ、こんなものを見せられるとたまらないのだが‥‥彼女の拳は空を切るだけであった。

 さて、彼らが一体どんな幻覚を見ているかは一応分からない。
 彼らが漏らす言葉でなんとなく察するしかないからだ。
 ‥‥が、1人だけとんでもない幻覚を見ているのが分かる者がいた。
 生だ。
「GYAAAAーーー!! カマが、カマが、カマがKAMAGAーー!!」
「筋肉の海が海がUMIGAーー!」
「マッチョはIYAAAAーーー!!」
 うん!
 どんな過去を見ているかは言及しないようにしよう!
 生お姉さんとの約束だ!

 そんなはっちゃけた過去を見ている者が多い後発組の中で、唯一シリアスな幻覚を見ている者がいた。
 雫だ。
 過去を見ていた。
 幻覚の中の彼女は、更に夢を見ていた。
 それは幼少の時、故郷がアヤカシに襲われた際の記憶。
「ひぃっ!?」
 アヤカシは人型をしており、何よりも怖ろしく奇妙だったのが、全身を覆う大量の眼。
 家族が、友人が、知り合いが、次々にアヤカシに食われていく。雫が食われなかったのは運が良かっただけに過ぎない。
 その時の事を夢に見るのだ。
 夢の中のアヤカシは彼女を見る。そのいくつもある眼で。
 顔にある眼、首にある眼、胸にある眼、肩にある目、腕にある眼、腹にある眼、腰にある眼、足にある眼。
 眼が彼女を見る。
「あぁ‥‥この眼は‥‥」
 見た事がある、そんな気がした。でもどこだろう。
 しかし、彼女の疑問はすぐに解けた。何故なら彼女を見る眼は、食われた者の眼と同じに見えたからだ。
 ただの偶然かもしれない。だが、彼女にはこう言われてるように思えた。
 ――何故お前だけ生きているんだ。
 過去の雫が、夢から覚める。
 だが彼女は夢の視線を‥‥罪悪感を振り払うことができない。だから目を逸らすために周囲の人を傷つけてばかりいた。
「私、生きている価値なんて‥‥」

「人は誰でも忘れたい思い出はあるものだよ。悪趣味が過ぎる!」
 雫を始め、後発組が押しつぶされそうになった時‥‥1体の発掘者が消滅する。
 何かが起きたとそちらを見やれば、レビィが発掘者を斬り捨てていたのだ。
 発掘者の数が減ったからだろうか。他の者達もなんとか意識を現実へと取り戻し、発掘者に攻撃を仕掛けていく。
 全ての発掘者が倒されるまでに、そう時間はかからなかった。

●そして、今
 安全が確保されてから、開拓者達は1つ疑問を抱いていた。
 何故レビィは幻覚に苦痛を覚えることなく行動できたのだろうか、と。
 そう問われ、彼女もまた不思議そうな表情で答える。
「おかしな事に、わたしが見た幻影は別にイタイものでも何でもなかったんだよ」
「‥‥どんな過去だったの?」
 薫に聞かれ、レビィは顎に指を当てて、思い出すように1つずつ話していく。
 なんでもそれは旅の最中に放った言葉らしい。
「フッ‥‥神ならぬ身であるわたしには、分からぬことなのだろうね」
 キリッ。
「このコートはとても大切なものなんだ。この身に流れる赤い血と同じ‥‥いや、それ以上にね」
 キリリッ。
「そう、様々な出会いが、夜空に輝く星々の様に、わたしの行く先を照らしてくれているのかもしれないね」
 キリリリッ。
 どれもシリアスな表情で語るレビィ。だが、どうも彼女の話を聞いている限りだと『別にその状況でそんなにキメなくてもよくね?』という発言ばかりであった。
 例えば最初の発言にしても、とある商人の『また会えますかね?』という社交辞令に対しての返答なのだ。商人の困り顔が容易に想像できる。
 話を聞いている方が、顔を赤くして転げまわりたくなるような数々の発言なのだが、レビィは何もおかしいとは思っていないようだ。
 そんな彼女の肩に、薫が手を乗せて告げる。
「それらの発言を手帳に纏めて、5年後とかに見つかるよう押入れに隠すのをオススメするわ」
 どういう意図か分からずレビィはただ首を傾げるばかり。
 5年後に黒き過去の詰まった手帳を見てどう反応するかは‥‥今を生きる彼女には分からないことかもしれない。

 今を生きるレビィはともかくとして、過去に向き直った事で得る物があった者もいる。
「さて、行こうか」
 今の家族を護る決心を再確認した雫。
「そっか‥‥そうだったんやね」
 女性アレルギーの恐らく原因である過去の真実にたどり着いた恭冶。
 そして――
「皆さんは何も見なかったし聞かなかった。そうですね?」
 生お姉さんとの約束は守ろうね!