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■オープニング本文 ●只の前置き 都外停留中の小型飛行船。その動力室―――『室』などと言う言葉を使うも憚れる狭い空間だが――で、少女一人が奮戦を続けていた。 いや。実際に、何か外敵と剣を交えている訳ではない。むしろ、対戦相手は彼女が愛する空の具現‥‥そう、小型飛行船そのもの。 「浮遊宝珠と動力部の接続‥‥うーん、やっぱり間違ってないよなぁ。推進羽根だって問題無いし‥‥となると残るは――」 彼女は呟きながら、腰付けの鐶に下げた幾つかの工具を用いて、点検を繰り返している。 少女の名前はハジメ(iz0161)。 地図を片手に空を掛ける駆け、 「――やっぱり、動力の宝珠自身の問題かなぁ‥‥」 そして今、飛行船の不調に頭を悩ませている空賊‥‥それが彼女だ。 「あー、お嬢ちゃん。こりゃあ宝珠の寿命だよ」 「ええ、ウソ? 浮遊宝珠にも寿命ってあるの!?」 「ワシもこの道のプロで俺も食って行ってるんだ。客に嘘なんてつけねぇや」 己が髭をさすりながら、飛行船整備士の男はハジメに言う。 快活な外見の少女が見せる、驚きや不安の表情。それらに幾ばくかの悄らしさを感じた男の口調は、もう少しつついてみようかと、言葉に詰問の色を滲ませてみた。 「結構な勢いで働かせたか、それともケチって安い宝珠を動力に組み込んだか‥‥心当たりは無ぇかい?」 ズキーン! ダブル心当たりである。 「安物買いのナントカって奴だな。まぁ安心しな、俺なら知り合いに宝珠を安く卸している商人が居る。紹介してやってもいい。ちゃんとした宝珠があれば、すぐにでも元気に‥‥いや、以前よりもパワフルに飛ぶ事だって出来るようになるさ」 宝珠の加工屋と、宝珠売りが繋がっている事など珍しくないし、そう言った商売の仕方は別に咎められるものでもない。 だから、ハジメが次に放った言葉は、男に何か特別嫌悪を感じて言った訳ではなかった。 「宝珠があればいいんだね‥‥分かった、オジサン。だったらその宝珠、採ってくるよ!」 「何‥‥だと‥‥!?」 「解読した宝の地図、ここに宝珠の在り処らしい記述があるの」 その地の洞穴に、飛翔の力を宿す宝珠あり‥‥と、確かに彼女が握る地図にはそう書いてある。だが、そこに浮遊宝珠が眠っていると言う確証があるわけじゃない。それに、その地と言うのが―― 「オイ! 嬢ちゃんココは確か、相当寒さが厳しい雪山だぞ!」 商売の都合ではなく、本当に彼女を心配して、男は声を荒げる。しかし当の本人に、懸念の色は無い。 「冬ってのは寒いものだし、雪が降るほうが自然だよ。それにこれでも一応、私は志体持ちだし‥‥」 「無茶だろ、一人で出来る訳が無い!」 「うん、確かに一人だと辛いと思うけどね」 ●ここからが、依頼のお話 「という訳で、依頼の申請に来たんだよ!」 防寒着にツルハシを持ち、ギルドに訪れた元気なハジメの姿を見た時、受付に居た係員は目に見えて面倒臭そうな顔をした。 「‥‥ここは炭鉱夫の斡旋所じゃねぇ」 係員の憎まれ口を華麗にスルーしながら申請書に綴られた、彼女からの依頼はこうだ。 「地図に示された雪山へ向かい、宝珠が採れる遺跡の探索。及びそこでの採掘‥‥」 「あとね、地図の記述にはこうも書いてあるんだ『岩に化けたアヤカシがその場に身を潜めている』って。恐らく、鉱物に擬態しているか、もしくは石そのまんまの姿のアヤカシがいるんじゃないかなぁ‥‥って予想しているんだ」 と、筆を動かしながら口を動かすハジメに、係員はフーンと無感嘆に言って返す。 「‥‥極寒地へ向かって労働を強いられるキツい仕事なのに、それに加えてアヤカシとの戦闘の可能性もあるってか。こりゃ、相応の見返りがないと、やる気なんて出ないよなあ、普通」 ハジメ曰く、浮遊の宝珠以外が採れた場合は、売却してそれを参加の開拓者人数分で割って、依頼の報酬とする予定との事。 しかし、係員は言葉を続ける。 「いやー、これは正直、労力に釣り合わないなぁー。いや、俺がそう思うだけ、だけどなぁ」 ただ呟く風に言ってはいる係員だが、ハジメが書き途中の依頼書に目を落としながらもチラチラと彼女の方を見ながら、そんな事を呟く。 「正直金って幾らあっても足りないしなぁ。開拓者だったら尚更だよなぁ。これで寒い思いをして、報酬は不安定、更に掘っても出てきたのがクズ鉄とかばかりだったら正直キツいなぁ。クズ鉄なんて見飽きているヤツだっているだろうしなぁーっ」 「あ‥‥、でも無事に宝珠を採掘できれば、参加のみんなにもちゃんとした報酬額が用意出来ると思うんだ!」 「あくまでも『採掘できたら』の話だろ? しかも小型飛行船に積載できる量だって無限じゃないんだから‥‥仮に採掘出来る遺跡を発見できたとしても、一攫千金が可能な依頼には思えんなぁ。見返りが不十分な仕事だと思うなぁ俺は」 「いや、お金以外にも、探検には見返りはあるよ!」 「何?」 「え、えぇーっと‥‥」 彼女は少し間をおいて、 「雪景色が綺麗!」 「それはすごい」 係員は依頼書を彼女から無理矢理奪い、唯一空欄の項目に殴り書きした。 報酬:不明 |
■参加者一覧
一心(ia8409)
20歳・男・弓
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
ハッド(ib0295)
17歳・男・騎
アッシュ・クライン(ib0456)
26歳・男・騎
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
針野(ib3728)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 視界が揺れる―― 振動が胃袋を殴り、震動が三半規管を蹴り飛ばす。 ――どんな暴れ馬の鞍を跨ごうともこれ程の揺れは体験し得ないだろう。小型船内にて開拓者の一人、アッシュ・クライン(ib0456)は座して寡黙に、そう沈潜する。 「うむむ、これではおちおちワインも飲めんにょ」 アッシュの耳に、ハッド(ib0295)の声が入ってきた‥‥のだが、感じるのは口調の違和感。 「ハッド‥‥その口調は、一体?」 「うみゅ、このきぐるみを来たら何故かにょにょという口調になるにょ。これがにょろいというヤツかにょ」 「呪い‥‥」 多分違う何かだろうと思うも、ハッド自身が楽しそうだったので、敢えて言及はしないアッシュであった。 再三の、振動。 「うおっとと」 体勢を崩しそうになり、針野(ib3728)は適当な縁を掴みながら。 「宝珠が調子悪いと、飛行船も随分ご機嫌ナナメになるんねー」 「‥‥不覚だ、まさか不調の飛空船が、これほどのものとは‥‥実に、美しくない」 膝を付くロック・J・グリフィス(ib0293)。彼の持つ薔薇がぽろり花弁を落とす。 「飛行船自体もナナメになりそうだにょ。こんな状態にしてしまうとは全く、あ奴も仕方のないヤツなにょ‥‥と言ってる傍から本人登場にょ」 「うーーー寒ッ、サブーいっ!」 扉を開け、部屋に飛び込んできたのはハッドの言う、『あ奴』。ハジメ(iz0161)である。 「流石は雪山の上空だ、なかなか冷え切っているモンだぜ」 彼女の後に部屋へ入ってきたのは、髭の凍った八頭身わんこ‥‥じゃなくてオラース・カノーヴァ(ib0141)。彼とハジメは今しがたまで飛行船の甲板上にいた。上空から遺跡跡を探す為だ。まるごとわんこの性能を見定めていただけではない。 「立地は記憶している。文字を集めて‥‥書面化できるか?」 「絵とかもあれば、分かり易いでしょう。仰い頂ければ、書き加えますよ」 「おまえ絵描きか何か、か?」 「夢見ていないと言い切るならば、それは嘘にもなるでしょう」 言いながら、雪切・透夜(ib0135)は写生帳を取り出すとつらつらとオラースの言葉を二次元化していく。 「わぁ透夜おにーさん、お上手っ。‥‥あれ、どうしたの?」 「い、いえ。これ位、誰でも描けますよ」 描きながら俯く透夜に、石動 神音(ib2662)は首を傾げる。いや、言われて悪い気はしないが‥‥こう、面向いての賛辞は矢張りこそばゆい気もする。 「図が描き上がれば、後はハジメ殿の地図とも突合させて採掘地点の選定‥‥それと事前情報の共有も行っておきましょう」 「事前情報?」 ええ、とハジメに言葉を返すのは一心(ia8409)。 「自分や透夜殿、神音殿にて‥‥依頼に先立って山師や炭鉱夫の方々から、事のご教授を賜っていたんですよ」 「わ、私にも、何か出来る事は無いかな!?」 「え!?」 突拍子の無いハジメに、一心は一瞬だけ面食らう。 只でさえ報酬不安定な依頼なのに、現時点で至れり尽くせりの状況。彼女なりに負い目を感じているらしい。 「何でも言ってみて!」 ぽつり、アッシュが呟く。 「では此の飛行船の揺れはどうにかして欲しい」 「そ、それはチョット無理かなぁ‥‥」 バツを悪そうにして返すハジメ。アッシュも半分冗談であったのだろう、言及する様子も無い。 「ならドンと構えていろよ」 オラースが、諭す様にして言う。 「船長なんだろ?」 頷くハジメ。 船は風に乗りながら、着陸地点へとゆっくり流れていく。 洞穴の中、採掘音以外のそれが響いた。 「そこなにょだああぁぁ!!」 剣閃、横薙ぎ。 飛び掛ってくる岩アヤカシを、まるで分かっていたかの様に撃ち返すハッド。 何故か。 応えは明白、分かっていたからだ。 「次はあっちの方向さー!」 針野の指差す方向から、岩を象ったそれが動き出す。 神音が既に、駆け出していた。 小柄の胴は脚力を以ってして一つの弾丸へと変転する。一足飛びに距離を詰めた頃には彼女の拳は出来上がっていた。 練り上げられた気は、足から脚へ、脚から腰、胴、上腕、腕、そして拳へ流れ行く。そして―― 「大技一撃、いくよー!」 ――爆砕! 「しかし、本当にここに宝珠があるってのか!? これじゃアヤカシ退治依頼だぜ」 ホーリーアローを放ちながら、オラース。言いたくなる気持ちも分かる。魔術矢が当たった岩もまた、岩ではなく岩アヤカシであった。 苦笑しながら、一心は構える。 矢の向く方向は、ロックが対峙している岩アヤカシ。 「岩のアヤカシならば、ツルハシは天敵という者だ‥‥些か美しさには欠けるがな」 ロックはこれこそ岩アヤカシの弱点、と一片の疑いも持たずツルハシで攻撃している。 鋭光を携えた黒の視線がアヤカシを見貫く――と、刹那、白の矢羽は空を切り、矢尻は岩面のヒビを貫き、その身を砕く。 「これで何体目か‥‥結構な数を倒したと思うのですが」 「わしも正直、その数が分かった時はギョっとしたんよ」 針野の鏡弦の反応は‥‥とにかく沢山であった。 「いずれにせよ、敵を倒しきらなければ集中して採掘も出来まい」 敵方へ歩を進め、剣の柄に力を込めながら言うアッシュであったが、そんな彼は不思議な感触を味わう。 機微は平時通りにて冷静なままだが、どこか漂う、昂進感。まるで、氷が熱を持った様な奇妙な感覚‥‥振り向けば、オカリナを奏でているハジメがいた。彼女がウインクをしてみせると、アッシュはそれに頷き、そして駆け出す。 どういう運動原理か分からないが、岩アヤカシは元気に跳躍すると、アッシュ目掛け飛び跳ねた。彼は滑らかに手首を返してその体当たりを大剣の腹で受け止める。そこから、右足を一歩引くと同時に腰を半回転させながら同じ方向へ両手剣を引く。そして膂力、その剣を相手へ向け走らせる。 ごとり。岩アヤカシが地に落ちた時、既に大剣は間合いを引き裂いていた。振り下ろされた一撃、その結果など当然過ぎて記する事さえ憚られる。 (次は‥‥) 漆黒の牙は、次の獲物を探す。 床が弾かれる音。青の眼光が、それを追う。 「いやぁ、流石に岩の具現と言えるでしょう」 しかしアッシュの聴覚は破砕音を知覚した。音源は透夜、彼が持つ大斧。 「兎に角、硬い。僕も大柄の獲物無しでは苦労していたでしょう」 そうは見えない‥‥と言おうとしたものの、それよりも敵の殲滅を優先するべく、アッシュは口を閉めた。 それから。 「あれですか‥‥どう見ても岩にしか見えません、が‥‥」 「大丈夫、間違い無いっさー!」 矢が飛び、 「お前達もくず鉄にしてやるよ〜」 拳撃が飛び、 「雷撃はイマイチか? なら、こいつはどうだ!」 炎撃が飛び、 「む、石の中にいたか。ぞっとしない奴らだな」 「攻撃、タイミング‥‥今! トドメはお任せします!」 「硬度など幾ら有ろうとも――黒き鋭牙にて、全て斬り穿つ!」 剣撃が飛び、 「さて、此処は我輩も前へ出て華麗に――」 「私も! この黄金の右足でぇぇ!!」 蹴りが飛んできた。 「ハジメっ、お主も前に出て来てどうするのにゃー!」 「あ、ついつい」 武勇の曲。範囲内の志体を持った対象全員に勇気を分け与える。 アヤカシ戦も落ち着き、採掘に取り掛かる。 まずは岩壁を掘削し、穴を開ける。まずそこへ火薬をしこたま入れるのが、山師流採掘方法何だとか。 焙烙玉は採掘用火薬ではないが、全く効果が無い訳でもない。 炸裂の跡を中心に、そこから更にピッケルで掘り進める。 各人、口元や目を保護していた。 時折、雪を溶かした水を撒いている。これも炭鉱夫や山師達の教え。何でも、こうやって時より水で鎮めないと、山の神が怒り出して火を吹くんだとか。 そうして、皆で作業を進めている‥‥が、 掘削。 掘削。 掘削。 酷く、根気の要る作業だ。 だから、心が折れる前に誰からか休憩の提案が出た時、誰も反対などしなかった。 靴も天幕内に入れる。革靴を凍らせない為だ。 (んー。これ、どういう仕組みになっているんかなぁ) 「にょーっ、我輩の虎耳を弄くるでなーい」 「うーん、何だか物珍しくてツイツイもふりたくなってくるっさー」 針野とハッドとのやりとりを見ながら、ハジメ。 「いやー、二人ともまだまだ元気が残っているみたいだ。あ、透夜さん、ソレ私も一欠片貰っていいかな?」 透夜は、チョコをパキっと折ると、それをハジメに渡す。 「構いませんよ。ハイ、どうぞ」 「ありがとう! んんー、甘くて美味しい〜」 透夜の他に、神音もチョコを持参して来ていて、それを割って皆で食べている。天幕内に、甘味の香りが広がっていた。 「疲れた時のちょこは、尚更美味しく感じるよねー」 「いや、ホントそう――ん? 神音、それって?」 ハジメは、神音のチョコは何か変わった形をしている事に気がつく。 所謂、ハート型である。そう言えば少し前にバレンタインがあった。天儀本島に渡って久しい異文化‥‥そういえば、そろそろ『お返しの日』も近いんだとか。 「そーいえば、ハジメおねーさんはばれんたいんに誰かにちょこをあげたの?」 「チョコっ?」 神音の声に、ハジメは肩を揺らす。 「神音は大好きなセンセーがいるけど、ハジメおねーさんは? 気になる人とか‥‥あ、でも友達にあげたりする事もあるんだって」 「好意を形にする、ジルベリアの文化だ」 「ロ、ロックさん!?」 「年に一度と言う事もあって人々の関心も高い」 「そ、そうなんだー」 「で?」 「え?」 そこへ、オラースも首を突っ込む。 「で、どうなんだ」 「な、何がかなー‥‥?」 「誰にあげたかって話にょ」 ハッドも加勢する。 「ぇと‥‥‥」 押し黙ってはいるが――ちらり、透夜は毛布に包まりながら視線だけ向ける。 「ど‥‥どうなん、ハジメさん?」 針野の問いにも、口篭るハジメ。一心も、空気を読んでとりあえず様子を見守る。 「実は、日にち忘れてて気が付いた時はバレンタイン過ぎてたんだよねーっ!」 ズコー。 いやーはっはっは、と後頭をかきながら言うハジメ。 「さて、休憩もそろそろ充分な時間が経ったな」 言いながら、立ち上がるアッシュ。休憩時間も、長すぎれば次に立ち上がるのが辛くなる。 掘削を続け、それに一番最初に気がついたのは一心だった。 「あれ‥‥ここ、何か違いませんか?」 「本当だ。心なしか、岩が崩れ易いですし」 透夜がスマッシュを当てた岩壁にも、今までよりも大きなヒビが入っている。 「ん、これってもしや‥‥」 針野、その青の眼がヒビを凝視する。 「ロックさん、ちょっとここをお願いするさー」 「心得た。煌めけ、まだ地の中に眠りし宝よ‥‥」 ロックはツルハシを構えながら、祈る様にして、それ掲げ上げ、 「見切った!」 そして振り下ろす。 すると、亀裂の中から岩石のそれとは明らかに違う色の鉱物が顔を覗かせた。 「ハジメさんハジメさん、ちょいと見てほしいっさ!」 針野の声にハジメは駆け寄り、それらを見る。 資料の通り、岩のそれとは違う手触りと、楕円形の拳大の大きさ、くすんだ表面。更に奥を覗き込むと、僅かにぼんやり光っても見えるような‥‥。 「これ、間違いない! これが宝珠に違い無いよ!」 「ハジメおねぇさーん、こっちにもー!」 神音の方からも、それらしいものが見つかったとの報告。どうやら、宝珠が埋まっている『層』に辿りついた様だ。 「さて、これから忙しくなるぜ」 「こういう作業は俺らの仕事だ、任せて貰おう」 口の端を吊り上げるオラースと、対照的に淡々として言うアッシュ。 一行は、その場所で暫く掘り続け、概ね掘り尽くした所で出てきた宝珠を一旦小型飛行船へ積み、そして一息入れた後に別口の採掘場へ向かう。 そうして日が落ちる頃、帰路に着くため飛行船を再び動かしたハジメ。 その積載量は、船が落ちてしまうのではないかと、心配する程だったとか。 「復ッ活ッ!」 持ち帰った宝珠の中には、しっかり浮遊宝珠があった。かくして飛行船は動力を取り戻す。 「小型飛行船復活ッ!」 何やらハジメが変なテンションではしゃいでいるが、まぁそれ位に嬉しいのだろう。気持ちは分からないでもないから敢えて突っ込みは入れず、苦笑と拍手を送る一心と透夜の二人。 「ハジメおねーさん、よかったね!」 「またこれで冒険に行けるさね。機会があったら、ご一緒させてほしいんよ」 わっと駆け寄る神音と針野は、まるで自分の事に様にして喜ぶ。 「みんなありがとう。うん、こちらこそ是非! また一緒に冒険に行こうね。‥‥アッシュさんも、ありがとー!」 「自分のするべき事をしたまでだ」 少し離れた所で、アッシュは腕を組みながら。採掘から運搬まで、結構な重労働だが彼は嫌がる様子一つ見せなかった。 「最後に、聞いておきたい事がある。資料の件だ」 水を差すようで悪い、と前置きを置いてオラース。 「お前から渡された、本だよ。こりゃ何だ。『宝』の大仰な説明と、地図の集合体‥‥まるで考古学者のレポートだぜ」 「これ、私のおじいちゃんが渡しに残した、宝の地図なんだ。ご覧の通り古書顔負けの古めかしさと仰々しい文章から、地元では『デタラメな地図』なんて言われたんだけどね」 言うには、彼女はこの地図に胸を躍らせ、そして空賊になったのだという。 「でもちゃんと今回、宝珠も見つかったし‥‥嘘は書いていない代物だと思うんだよね」 「ふむ、今回は珍しく稼ぎになったのう。ハジメ、これを機にふっかふかの椅子を――」 「あ、ゴメン。宝珠の加工代、取り付けの工賃諸々で、私の懐には殆ど残金ないんだよね」 「にょにょ‥‥もう少しインテリアにお洒落してもよかろうに」 ハッドと言葉を交わすハジメ。 個人書を頼りにしての冒険‥‥彼女は、何て不確実情報を元に行動をする人間だろうか。 (何を考えているか、分からん娘だ) とは言え、報酬を公平に分割した事、そして資料提示などに応じた所には礼を言っておこう。そう、オラースは思った。 「‥‥ん?」 「色々と助かった」 くしゃくしゃと、ハジメの黒髪を撫でる大きな手。手荒いそれだが、彼女もそう悪い気はしなかったらしい。 「時にハジメ。近う寄るのだ」 「ん? 何かな?」 手招きするハッド。トトトと彼に近寄るハジメの首に、一つのペンダントが下げられる。 「‥‥?」 「インテリアが無理なら、せめて自身のお洒落に気を向けてみてはどうか」 宝珠の中で、小さくて動力に組み込めなさそうな物の一つを、加工して作られたペンダント。 「わ。ハッドさん、ありがとう!」 「別に宝珠が余っていただけぞよー」 「フ‥‥澄んだ白銀の峰も見れ、浮遊の宝珠も見つかって良かったが‥‥やはり一番の宝はやはりハジメ嬢、キミの笑顔だな」 「私のカオなんて、そんな対したモンじゃないってばー!」 ロックに言葉に、どこか照れ隠しの様にして返すハジメの表情は、 「これからもっと、色々なお宝を見つけて回るんだからね」 満面の笑顔であった。 |