|
■オープニング本文 ■開拓者ギルド 「なぁ、お前は曲がりなりにも探検目的の空賊なんだろ? 別に仕事選んでも誰にも文句は言われないと思うんだが」 ギルド係員はまるで諌める様な口調で言うが、依頼書を手に取った彼女は気に留めなかった。 「いやー、私も船の整備とか資料買ったりとかで中々金欠で仕事選ぶ余裕も無い訳だし‥‥何より、こういう人様の役に立つ様な仕事ってのも、たまにはイイかなって思うんだよね」 彼女が持っている依頼書の内容‥‥それは、簡単に言えば『宣伝』だった。 「要するに、この色々な垂れ幕を飛行船に下げて、都の上をグルリゆっくりと飛んでね、って話でしょ」 バっ! と彼女は両手を広げてその垂れ幕を見る。 『予告! 来週から特売日! 風鈴、団扇、浴衣、夏物全品、二割引の特売!!』 ‥‥どこかの雑貨屋で、近々特売日が設けられるらしい。 他にも、様々な垂れ幕がある。 『給仕募集中 ○○食堂』、『逃げ出した迷いもふら、探しています。特徴は〜〜〜』、『剣士訓練相手急募』、『新書発行につき、作家大募集中! いや、ホントマジで大募集中!!』 ささやかなものから、結構必死なものまで、色々ある。 開拓者ギルドに出すまでも無いがチョットお願いしたい・宣伝したい様な事‥‥これらを簡潔な文にして書いた垂れ幕を下げて、空から宣伝して欲しい、というのが依頼の内容。 開拓者ならばパートナーで龍を飼っていたり、グライダーを所有していたりと、飛行する手段に欠かないと目論まれ依頼を出された。しかしながら、アヤカシの攻勢に依然として苦闘する辺境地域、砂の上に国を建てていると言う新文明への接触‥‥など 驚天動地の昨今の事情おいて、余りにもこの依頼は日常的でしょーもない内容であった。故に、そのインパクトの薄さから、係員によって半ば作為的に依頼授受簿の端っこに追いやられてたのがこの依頼であった。 なので、このまま誰も授受者が現れなければ、必要参加枠に達しなかった依頼としてお流れにしようと係員が考えていた所であったが、そこで空気を読まずに依頼書を手に取ったのが、彼女だった。 「まぁ、たまには都の風景を見るってのも良いと思うんだよね」 茶瞳黒髪、快活な語調と、比較的能天気そうな表情、恐らく余り難しい事は考えていないんだろなぁこの娘は‥‥とギルド係員が目するのは、ハジメ(iz0161)と言う名の少女。彼女は空賊として一隻の小型飛行船を有し、手持ちの地図を頼りに探検を繰り返す開拓者‥‥そう、ギルド係員は彼女のひととなりを記憶していた。 「なんて言うか‥‥余りにもコレ、庶民派空賊過ぎるだろ。お前、何かないの? ホラ、こう‥‥空への憧れとか、そういった類のプライドとかさ」 「え、別に良いんじゃないかな、こういう依頼も。それにアレだよ、一定の巡航速度をピタリと保ちながらゆっくり飛行を続け、それで旋回したりするのって、実は技量が必要なんだよ。だから、そういう練習も兼ねて、尚かつ人様の役に立てる様な依頼っていうんなら、私としては凄く受けたいな」 また言っても無駄だったか、係員は溜息をつきながら。 「あー、分かった。まぁ、こんな地味な依頼はお前以外に人が集まらないと思うが‥‥万が一、開拓者が揃ったら言っておいてくれ」 「係員さんがアドバイスくれるなんて、珍しいね」 「アドバイスじゃない。この依頼は、都の上を、ギルドの依頼として飛ぶんだ。開拓者として恥ずかしくない格好をしておけ‥‥って言う提言だよ」 「‥‥私、十二単でも着なきゃダメって事?」 「招宴の準備しろって言ってるんじゃない。こんな戦闘の心配の無い依頼であっても、だらしない格好をするなって事だ。市井にとって開拓者ってのは頼れる超人様なんだ。最低限装備は整え、見栄え良くしておけって事だ」 ■辺境某所、某空賊団アジト 「親分〜。俺ぁ育ち盛りなんでっさー。もっと肉を食いてぇもんだぜ」 「馬鹿野朗が! この俺だって肉にありつけたのなんて久しぶりだぜ!」 「ひぃ、ごめんよ親分! でも怒鳴らないでくれよ親分」 「親分じゃねぇ、船長って呼べ!」 「ひぃ、ホントごめんよ親分!」 「だからお前は――」 「どうでもいいけど親分、このままだと食料の備蓄も大分キツキツでっせ」 などと不毛な問答を繰り返しているのは、出来損ない・無駄な髭面・こすズルそうな連中‥‥と、概ね与太者・無法者の集まりであろう一団。 ここが彼等のアジトらしい。雨漏りしそうなあばら家、男臭さの漂う面々、なるほど、悪党の此処はアジト。分かりやすくて良い。 「そうなのか? なら一丁、略奪行為に勤しむとするぜ。さーって、どこに行くか‥‥」 「考えるの面倒臭いから、とりあえず手近な都付近を飛んで、なんか商人とか商業船っぽいの見つけたら、適当に襲うって感じでいいんじゃないかなぁ」 「それ名案! お前にしちゃ珍しく冴えているぞ! それで行こう!」 「へっへっへ。余り褒めんでくだせぇよ親分」 「だから親分じゃなくって――」 「じゃ、とりあえず飛行船に火を入れまっせ」 全体的に、頭脳を動かすのが不得意な連中な様だ。このメンバーと言うのは、基本的にツッコミ役がいない。 「おおよ。よし、お前ェら! これが成功したらちゃんとした肉食わせてやるから頑張りやがれ!」 「うおーーーーー!」 「俺も肉くいてー!」 「頑張るよ親分ー!」 「もう干し肉をステーキって騙されて食べるのは勘弁だー!」 「オイそこ! 文句言っている暇があったら船を動かす準備手伝いやがれ!」 何と言うか‥‥どこかで見た事があるような、全体的に凄く残念な連中だった。 |
■参加者一覧
及川至楽(ia0998)
23歳・男・志
雷華 愛弓(ia1901)
20歳・女・巫
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
ラクチフローラ(ia7627)
16歳・女・泰
ハッド(ib0295)
17歳・男・騎
イクス・マギワークス(ib3887)
17歳・女・魔
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
ナプテラ(ib6613)
19歳・女・泰 |
■リプレイ本文 風を切るのは相変わらず気分が良い。 でも、空気が含む水がいつもより多い――肌触り、そう感じる。雨が近いか、それとも雨季が近いのか。 そんな事を考えながら飛んでいたハジメ(iz0161)は、フと視線を横へ向ける。 滑空艇で併走しているイクス・マギワークス(ib3887)は、風を撫でながら飛んでいた。ハジメはイクスに軽く手を振ると、気付いた彼女は掌を滑空艇の取っ手に戻した。 現在開拓者達は都上空。それぞれ垂れ幕を吊るし、風に流している。 何と言うか、地味な依頼である。 「お金を稼ぐのって」 僅かに一息置いてから、次の言葉を放つ様な特徴的な口上の、 「けっこう大変な事なのね」 「うんうん」 ナプテラ(ib6613)の声にハジメも頷く。 「でも、こうして飛ぶのも悪くないわ。もう少し手を伸ばせば、雲にだって手が届きそうだもの」 銀の眼に上天が映る。駿龍、タロスの機嫌も悪くない。 「ドモドモ、ハジメさんおさしみぶりです♪」 わさびと醤油と天儀酒が欲しくなる様な挨拶はペケ(ia5365)。 「こちらこそ。遅めの飛行速度だけど、揺れには気を付けてね」 「私だってシノビなんですから。何も無い所で転ぶ事なんて、あんまり無――ひゃあ!?」 「おおっと!? か、風もあったりするから、ペケさんは特に『イロイロ』気を付けてね!」 いつもの事ながら二重の意味で危ないペケに、ハジメもハラハラせざるを得ない。 と、その背中に何か怪しい気配を感じたハジメは振り返る。 そこには雷華 愛弓(ia1901)。何ともワザとらしくふらつきながら、両手をわっきわっき。 「バックアタックだ!」 「宣伝のお手伝いというこの仕事、巫女の私が何かを企む訳がないです。ついついハジメさんの方へ転んで揉みくちゃするなんて事、断じて無いです」 うーん怪しい。しかし愛弓、この笑顔である。 「うむうむ。ハジメよ、久しぶりながら相変わらずよの〜」 この声は、ハッド(ib0295)。 「ハッドさんもお久しぶり‥‥あれ、縮んだ?」 「ちぢんでないっ! 遠近法ぞよ!」 そーなのか。 「とにかく今日はのんびりできるとよいの〜」 「そうだね、ぐったり空を飛ぶのも楽しいよねー」 それは『ゆったり』の言い間違いか思う所ではあるがこの及川至楽(ia0998)、表情が死んでいる人だったので何となくツッコミの入れ所に困った。 「あ‥‥何て言うかソノ、退屈な依頼を手伝わせちゃってゴメンね」 「いやいやハジメさん、今、凄くわくわくしているよー」 至楽の表情を見てハジメは言ったが、別にそんな事は無いらしい。 「よし、この感情を呼子笛で表現してしまおう。ぴっ、ぴっ、ぴっぴっぴーっと」 「!!」 呼子笛の音が聞こえると蒼井 御子(ib4444)の帽子の『中』が動いた。 「宣伝の為の演奏、だね。さって!思いっきり演奏していくよー!」 演奏の話になると御子は目を輝かせた。ギルドで依頼を受注した時は、何か係員が失礼を働いたらしく少し拗ねた様な表情を見せていた彼女だが、やはりその本分は物事を楽しむ事にあるらしい。手に持つ管楽器が、彼女の信条を代弁する。 甲板上からそれが聞こえると、至楽はそのトランペットに音調を合わせる。 愛弓も、何処からか借りて来た異国のものらしい太鼓で、リズムをとって打ち鳴らす。 「コレ‥‥いいんじゃないの」 ラクチフローラ(ia7627)は甲龍、驟雨に跨りながら。 「いいよコレ、きっと地上からも注目される!」 「ここまで楽しそうに演奏していれば、人目を引かぬはずもないだろうな」 言いながら、がくりと急停止するイクスと滑空艇。 「!! きみ、大丈夫!?」 空中停止、そこからの急反転。ラクチフローラは声を張るが、心配はいらない。いずれも彼女の操縦技能によるものだ。 「大丈夫。音楽に合わせて、こちらも軽快に飛行するように努めてみる」 暫くの間、都の皆様には御刮目頂く。 幕開きである。 何事か、何事か。 お父さんお母さん、あれは何? 多分、開拓者達。 それにしても、何と気分屋の演奏団。 流れ旗? ゆっくり寝ていた休日の天井を騒がしくしてくれてありがとう。 でも、嫌いじゃないんだよねこういうのも。 「〜♪ 〜〜♪♪」 「これハジメや、速度を下げよ。そんな速さでは垂れ幕が見えぬ」 「あ、気が乗ってツイツイ」 ハジメは歌いながら舵を切る。が、仕事を忘れてはいけない。 甲板上、御子はとにかく楽しそうに演奏している。愛弓、至楽も。 演奏のタイミングに合わせて、至楽は聚楽に火を吹かせると、その都度に地上から喚声が起こる。 「「見ろ、ひとがナントカのようだーっ」」 愛弓、至楽の芝居がかった言葉は、何故だか良く分からないがお決まりの台詞に思える。 ナプテラとイクスも、飛行を演奏の盛り上がりに連動させる。彼女の手綱にタロスは忠実に従い空を駆けると、その周りをイクスの滑空艇が旋回しながら飛ぶ。 その尾を追いながらもゆっくりマイペースに、ハッドのかめが垂れ幕を揺らす。 (やっぱり音楽っていいなぁ‥‥ハっ!!) 聞き入っていたラクチフローラは重大な事に気が付いた。 とても、とても! と〜っても重大な事に! 「ダメダメ、このままじゃあダメ!」 「呼子笛にしては善処してるつもりなんですが」 どう言う原理か、ぴっぴー鳴らしながら至楽がそう話すが、ラクチフローラの言わんとしてる事はそうじゃないらしい。 「そうじゃないの! むしろ上手過ぎるからダメなの!」 至楽、頭上に『?』マーク。 「このままじゃあ、あたしが全然目立っていない!」 「あ、そりぁ大事ですねい」 「さぁー撒くよぉ〜、超、撒くよぉ〜!」 彼女は脇に大きな籠をドンと構えた。中には許可を得られた店の割引件、チラシ‥‥関係なさそうな物が混ざっている気もするが多分気のせい。 「さぁ次! ペケさん、おかわり!」 「は、はい〜っ! 今、精一杯頑張っています〜!」 チラシはすぐ切れ、ペケが書いて補充をしている。 「ちょ、ちょっとペケさん! 宣伝してはいけない物も宣伝しちゃダメー!」 安定速度とは言え空の上、風はある。ペケは習字に集中し過ぎてソレに気が付いていないらしい、ハジメが慌ててペケの褌紐を押さえる。 その様子を見ていた愛弓の眼がキラリと光った、様な気がした。 「地上の方々の注目も集まってきた事ですし‥‥はい、それではとっておきのダメ押しというヤツを行きましょう」 ジャン! なにかでてきた。 その船の様子は飛びながらも見えている。 「博雅の士へ、一つ私の疑問を投げかけたい」 イクスの言葉が、自分へ向けられたそれと気づきナプテラは彼女の方を向く。 「甲板上にて、巫女の女史が矢鱈に裾の短い女中服を船長に突き付けている事について」 「うーん」 ナプテラが首を傾げる。 「私も、何であんなにフリルが付いているのか分からないわ」 「いや、そこじゃない」 諸学の識者にも、分からない事は有る。 「ちなみに、ハジメさんが着ない場合は、ハッドさんがこれを着る事になります」 「にょ!? な、ななな何故!?」 「なのなのなすびで指に止まったのが、偶然にもハッドさんだったからです」 「ぐぬぬ、我が祖国のそれでは至楽が当たる言うのに」 「ぴっ、ぴっ、ぴっぴっぴー。良く響く呼子笛だなぁ。お陰で誰の声も聞こえないです」 「と言う訳で、ハッドさん‥‥」 「わ、わかった、私が着るから!」 ハジメが矢鱈に裾の短い女中服を愛弓から受け取って、着替えに船内に行った一連の流れは特段筆頭するまでも無い日常風景として、そんな喧騒の中においても頓着せずに演奏を続ける御子は流石と言った所。 「ミニスカメイド服では伝統的過ぎて、インパクト無かったでしょうか」 「いや、演奏に集中している故だと思うぞよ」 ハッドと愛弓、その声と視線を感じて、漸く御子はそれに気が付く。 「ん、何かご用事?」 「「いえいえ、何も」」 「そう? じゃあボクは暫くしたらまた演奏に戻るよ」 トランペットの唾抜きをしながら言う。 「吟遊詩人さんは、色々な楽器をお持ちなんですね」 とペケが聞き及ぶと、御子は手持ちの管楽器を軽く紹介しながら言う。 「いつもはハープだけどねー。御子は楽器を選ばず、なんてね。演奏だけに集中できる依頼って結構限られているし、こういう時にはいつもと違う楽器で思いっきり楽しんでみたいと思ったんだ!」 演奏している時、そして演奏の話をしている時の御子の顔は喜色に満ちている。ペケも、それに笑み返しながら。 「このお仕事は、誰かの不幸を前提にしたものじゃない。私はこう言う依頼と、こう言う依頼にみなさんとご一緒出来る事は本当に素晴らしい事だと思います」 また、御子の帽子の『中』が動く。帽子の端から‥‥狐耳がこぼれ見えた。 その様子を横で見ていたラクチフローラも微笑んでいた‥‥その時、前方のイクス、ナプテラからの合図と声に気付く。 「護身の心構え‥‥しておいて無駄にはならなそうね」 「小型飛行船、一。急速接近」 飛行船は、『如何にも』な空賊旗を揺らしていた。 幾人かで射ながら、直線軌道で迫ってくる。 「ところで親分、あれ本当に商業船なの?」 「あんなに商売文句垂れ下げているってんだから間違いねぇ!」 「そーなんすかね」 「周囲は護衛の開拓者。蹴散らして乗り込んで、あとはサッサと奪い遂せれば今夜は焼肉食べ放題だぜ!!」 鬨の声。頭脳は不幸な出来らしいが、威勢は十分。 変則的な軌道を見せながら、イクスは間に割って入ると敵方へ向けブリザーストームを放つ。 「ぶえっくしょい! ハン、しかしそんな吹雪程度で俺達をやれるって思ったか」 無論、やれると思っているイクスでは無い。 「視界を遮る事が出来れば」 「推力あげて、さっさと商業船に取り付――おおわ!」 「「「お、おやぶーん」」」 「う、うろたえるな! この衝撃は何だってんだ!」 至楽と聚楽が、敵船の船首を下方から体当たりをして振動させていた。 「あ、そーれ。どーん」 「下に取り付かれてるぅ、どうしよ!?」 「どうもしなくって良い!」 「なんで――うわぁあ!?」 衝撃。 「横にも取り付かれたからだ! そっちを先に向かえ撃てぇ!」 甲龍の防御力を頼って接近すると、ハッド、ラクチフローラが敵の船に乗り込む。 「ズギャンときりさいてくれよ〜」 「演奏とか不幸云々とかって所、折角良い話を聞いていたって言うのにー!」 「行くぜお前達! 幾ら腕が立つ開拓者って言っても、こっちには数があるってもんよぉ!」 「親分に続け――痛、続けない!」 子分格の敵を涙目にしたのは、愛弓の放つ小さな弾丸であった。 「小さい銃ですけど、届くんですね」 「ええ、ペケさん。と言うより相手が中途半端に近付いて、短筒の距離に入ってくれていました」 「あ、本当に。結構近い‥‥」 「取り付いている甲龍さんを足場にすれば、飛び乗れそうですね」 「そうです、飛び乗れそうです!」 それに気が付くや、ペケは疾走する。相手の射手は彼女に気付けば、それを阻止せんと弦を引いた。 「そうはさせんっす」 「そうはさせない」 「また吹雪を呼んだぁ!?」 イクスのブリザーストーム。 「有効と言うなら、二度でも三度でも‥‥っ」 「♪、〜♪」 その風と射界干渉で放たれた矢は大きく狙いを外して、 「♪〜〜! どわーっ!? 一体なにさ!?」 御子のすぐ足元にが刺さった。 「‥‥あったまきた! 寝ちゃえ!」 「良く狙えって、お前の――」 「あれ親分、急に‥‥あ、俺も眠く――」 「そーれ、もう一丁どーん」 「どわわ! 畜生、眠らせるか起すか、どっちかにしやがれ!」 「はい、ごめんなさいどーんどーん」 至楽、楽しそうで何よりである。 「しかし、珍しい楽器に奇妙な術‥‥それにここまで強いとは、一体こいつら何者なんだぁ?」 敵の首領格のそんな呟きに、ラクチフローラは待ってましたと言わんばかりに、前に出る。 そして、そこには一羽の‥‥ 一羽の荒ぶる鷹がいた! 荒 鷹 陣 ! 「このラクチフローラ、悪党に名乗る名前など無い!!」 「何‥‥だと?」 どや! (決まった‥‥) 「親分。あの娘、ラクチフローラちゃんって言うらしいっすね」 「あァ、そうだな」 「しまった、あたし自身から名乗っちゃった!」 「でも隙有りなのだ、ズギャン」 「ぬわーーっっ!」 「「「親分!」」」 と、相手の首領格に丁度一撃与えた所で、船が大きく傾いた。 「何事ぞよ?」 「わ、私の『どこでも飯綱落とし』が、効き過ぎたって事は無いですよね?」 「確かにペケさんのソレは見事なもんでしたが、この揺れはそれとまた違う理由があるっぽいです」 「至楽さん?」 炎龍に跨った至楽がふわり姿を現すと、賊達に言って聞かせる。 「手加減して体当たりしていたってのに此処までガタがくるって、かなり安物で粗悪な飛行宝珠を動力に組み込んでいたんじゃないです? この船」 「そ、そんな事、そんな事は‥‥ある!」 「親分〜!?」 「うるさい、背に腹は代えら――おおっ!? 揺れが酷くなってきた」 「巻き添えになってもしょうがないし、ここは、逃げるが勝ちって事で」 「ラクチフローラに続くのだ! ペケ、転ぶんじゃないぞよ!」 「は、は〜い!」 「はい、誰も得しないメイド服で私、参上‥‥ってアレ?」 着替え終わり、甲板上に出てきたハジメに、遠退いて行く一隻の飛行船が見えた。随分、不安定な状態で飛行している。 「それに、微妙に見覚えの有る空賊旗の様な‥‥」 「‥‥風が、‥‥くる! ‥‥」 「ち、ちょっと、愛弓さん! 転ぶフリにしたって、せめてもうチョット自然なフリってあるでしょー!」 愛弓はハジメに組み付いて、何か訴えている。 「いや、強風にあおられまして‥‥嗚呼! ハジメさん、下穿きの上にスカートを穿くなんて邪道! 折角、裾が短いそれなのに!」 「愛弓さんを転ばせる程の、風があるのなら!」 「だからこそ、なのですよ!」 「だからこそ、なのー!?」 まぁ、それで人々の注目を集められるんなら、別に良いんじゃなかろうか。 ‥‥人々の、注目? そうだ忘れてはならない、そう言う仕事の最中だった。 「垂れ幕は、特に被害被らなくて済んだみたいだね」 「一応、巻き込まない様に注意していましたんで」 至楽やラクチフローラは、忘れていなかった。 「楽曲‥‥お願いがあれば言ってもいいのかしら」 ナプテラの声を聞くと、御子は笑顔で振り向いて見せる。 「ん、何かリクエストの曲がある? ボクが知っている曲なら演奏するよ!」 「明確な注文があるって訳でもないんだけど」 甲板上の、愛弓とハジメの遣り取りをみてクスリと嗤いながら、ナプテラは言う。 「ほんのもう少しだけ、明るい曲でもいいかもしれないわね」 「オッケー! よーし、今日はとことん演奏するよー!」 青空が音で満たされる。飛行船は再びゆったり動き出すと、トランペットのリズムに合わせながら、まるで聖者の様に行進していった。 |