【宝語】出航・拒
マスター名：はんた。
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| ■オープニング本文 「私の船出に手を貸してほしいの！」 女子にしては元気な声だった、聞こえの悪い声色ではないのだが‥‥夏の白昼では暑苦しさの方が際立ってしまって腕弛い。 「船出って‥‥あんた、定期便か何かやっているのかい？」 ギルド受付係員の男は張りの無い声で言った。暑さでやる気の無いのだろう。 男は団扇を片手に、少女は目に力を込めながら。両者の温度差というのは天地の離れさえ感じられた。 「それにしちゃあ若く見えるが――」 「聞いて驚くなかれ！ 私の名前はハジメ。空賊団の船長をやっているのよ！」 己が拳で胸を叩いて。自らを誇る様子の彼女とは、たまたま係員の男とは熱の差が甚だしい。 「へぇーそりゃあ凄い驚いた」 「‥‥あれ？ ね、ねぇねぇ。もうちょっと驚いてくれてもいいんじゃないかな？ 『その年で船長とは‥‥大した奴だ』とか、『やはり天才か』とか‥‥」 男は風鈴を見ながら言う。彼女を視界に収める事さえ、億劫とでも言いたいのだろうか。 「空賊団、と言いつつ実際は整備士込みでも二、三人だったりするんだろ。自前で戦力が揃っていれば、物好きでも無ければそもそもギルドの助けなんて借りようとしない。しかし物好きを決め込む程に懐に余裕がある様には見えんね、元気なお嬢ちゃん。依頼出すのは良いとして、報酬が用意できていないとかは勘弁してくれよ」 「う‥‥何だか色々鋭い。ここのギルド係員はやる気がなくて、女子が愛想よく微笑みながら申請するだけで依頼を受理してくれるって噂で聞いたのになぁ」 「‥‥そんな事言っていた野郎の居場所をリークすれば、依頼料を若干肩代わりしてやらん事もない」 お話は至って単純。ハジメ、と名乗る彼女の小型飛空船の出航に際して開拓者達に護衛を頼みたいとの事。 場所は石鏡のとある集落。石鏡と言う事でご多分に漏れず巫女が多い地域になるが、彼女自身は吟遊詩人だと言う。 「最近、周辺空域でアヤカシが沢山飛んでいてさ。私も、船を操縦しながら戦闘なんて出来ないし、そもそもそんなに戦上手でもないし‥‥考えも無しに飛び上がっても敵にやられてオシマイ。折角完成した自前の船なんだ、粗末には扱えないからね」 「現地に、協力者はいないのか？」 「え？」 すらすらと語っていた彼女の口上は、男の一言で淀みを見せる。 「ギルドを頼るな、って言うわけじゃあないが‥‥その辺りにいる巫女達に直接助力を求めた方が、きっと依頼を出すよりも安上がりに済むだろ。巫女とは言え攻撃の術が無い訳でもないし、そもそもそちらが言う様に、敵殲滅ではなく船出そのものが目的なら巫女でも十二分だ。巫女達も、自分達の頭上にアヤカシがうろつかれて良い気分ではないだろうし、進んで力を貸してくれるはず‥‥むしろ、協力しない理由なんて無いんじゃないか？」 「イヤそれが、あるんだよねー‥‥」 「どういう事だ？」 首を傾げる係員に、ハジメは後頭をかきながら。 「‥‥まぁこの辺りの氏族達ってのは、なかなか閉鎖体系でさ。特に巫女から吟遊詩人に鞍替えした私なんてのは、目の敵ってワケ」 『外』への考え方については、氏族によってばらつきがある。転職一つをとっても、一切気にしない、技術交流と思って歓迎するという開放的な氏族から、断じて許さず、命を奪ってでも阻止せんとする閉鎖的な氏族まで様々‥‥さすがにハジメは命を狙われるまでは至っていないらしいが、それでも村八分の扱いを受けているようだ。 「それでも、私は追いたい夢があるの。どうかお願い、この通りっ！」 （何でそんな面倒な事を、するのかね） 思いながら、係員はハジメの鞄からはみ出て見えた古めかしい本に目が行った。古書？ ‥‥断じて、考古学の為に空賊になるような娘には見えないが。 しかし男は、疑念を声に出す事はなかった。そんな事より、さっさと依頼書を書き上げて張り出しさっさと説明を終わらせ、そして自分の悪口を言った人間を探す事に注力したい風であった。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ（ia1037）17歳・男・シ 
輝夜（ia1150）15歳・女・サ 
水月（ia2566）10歳・女・吟 
木綿花（ia3195）17歳・女・巫 
ペケ（ia5365）18歳・女・シ 
ナイピリカ・ゼッペロン（ia9962）15歳・女・騎 
ルシール・フルフラット（ib0072）20歳・女・騎 
ハッド（ib0295）17歳・男・騎 |
| ■リプレイ本文 殲刀「朱天」の柄が、強く握られた。 刹那、刃は陽光を乗せて一円の銀閃となり周囲の大蛾斬り払う。その身その羽を切り裂かれた大毒蛾はダイナミズムの均衡を失い――地表に墜落した時、またはその最中――塵へ還りそして四散していった。 殲刀の持ち主、輝夜（ia1150）は全く柄にもなく、叫んだ。 「ハジメ！」 大量のアヤカシに船を囲まれたこの状態、操舵をしながらのハジメ（iz0161）には、彼女に応え得る余裕は無い。ただ、歯を食いしばる。 再度、輝夜の元に怪鳥が飛来する。木綿花（ia3195）はすぐさま彼女の方へ向かい、敵のアヤカシからの裂傷は神風恩寵で即座に癒す。 空には、大量のアヤカシ。その中に、一隻の船。 飛行船は悲鳴をあげながらも上昇していく。 ●出航より、少しだけ前の話 ハジメに会いに来たのは、たった一人の女性。 「今の気分、聞いてみたいわ」 歳はハジメと同じ位か。微笑を浮かべてはいるが、つり目と高圧的な声色から、攻撃的な印象を受ける。 「氏族から期待されていた巫女が、皆を裏切って出て行くなんて私には絶対体験しえない事だろうから」 「‥‥皆、行こう」 「待ちなさい！」 無視された事に激昂し、彼女はハジメの肩を引いて強引に振り向かせた。 「この地の者は全員、貴方の船出を呪っているわ！ デタラメの地図に騙されて里を抜ける様な真似は止めなさい！」 「我は、そんな事を言わせる為に汝をここへ呼んだのではないぞ」 輝夜は、彼女と打って変わって静かな口調で言う。 「わしも同感じゃ。もしも本当に毛嫌いしているのならば、そもそもハジメに顔を合わせようと思わぬだろう。他の氏族達と同様に」 ナイピリカ・ゼッペロン（ia9962）にも言われると、彼女は腕を組んで返す。 「私は、一隻の飛行船が墜落するであろう場所を確かめに来ただけだわ」 「そんな事では、哀しい」 「私は、悲しんでなんかいない！」 「させませんよ、そんな事。私達が絶対に」 「ルシール‥‥」 ハジメの手は、一人の騎士の掌に握られる。 ルシール・フルフラット（ib0072）。その碧の双眸と、敵意を浮かばせた黒の双眸が衝突する。 「船出に手を貸す貴方達も、私の憎悪の対象だって事‥‥忘れない事ね」 「私は貴方と敵対するつもりもありません。ただ彼女の夢の為に一助を成す、それだけです」 まるで音が聞こえて来そうな程、彼女は奥歯を噛みしめる。が、ルシールは自身の言葉通り、瞳に負の感情を一片さえ浮かべていない。 「ハジメ、時間じゃ」 促すハッド（ib0295）は、単に空気を読んだだけではない。彼が事前に聞き入れたアヤカシの活動情報によれば、そろそろ船出のタイミング。数は多い事に変わりはないが、少しでも自分達にとって有利な状況で臨みたい。 ハジメは頷き‥‥そして唯一の見送りに別れを告げ、船はゆっくり浮き出していった。 「沙耶ぁ、いつか帰って来る！ その時は手を振って迎えてほしい！」 沙耶と呼ばれたその女性は、ただ見据えるだけだった。ハジメと開拓者達を乗せ、今まさに旅立たんとする、その船を。 甲板を打ちつける、足音。疾駆しながら敵を斬りつけるのはペケ（ia5365）。一閃、二閃、走りながら大毒蛾を薙いでは、それを地へ落としていく。 「ハジメさん、大丈夫！？」 「な‥‥なんとかね」 ハジメは、ペケにそう言って返すものの口調は弱々しい。毒蛾の鱗粉を吸いこんでしまったせいでむせてしまっている。 大毒蛾の数は多く、操縦桿を握るハジメは動き回る事も出来ない。 「ん‥‥これでもう大丈夫‥‥」 「っぅ、ありがとう水月。大分、楽になった‥‥」 水月（ia2566）の解毒。気管に入った鱗粉を直接取り除く訳ではないが、これで毒に苦しむ心配はなさそうだ。 「ハジメさん、気をつけて‥‥そろそろ、鳥さん達も出て来たの‥‥」 「うん。怪鳥とかも、出て来たね」 「‥‥『とか』？」 水月の眼前に、突如飛来する影。 「〜〜〜〜〜？！」 有翼人型の胴体に、造形の崩れた人間の顔が付いたアヤカシ。顔面は水月に向けて、涎を垂らし嗤っている様に見えた。 醜面を貫く、刀身。 ハッドが既に間合いを詰めており、そのアヤカシに刺突を繰り出していた。更に、素早く引き抜くと瞬時に横に払う。アヤカシは傷口から瘴気を洩らしながら墜落して行った。 「あれも、鳥さんなんですか‥‥！？」 「あれは人面鳥。ホント、あのギルド係員って適当な人だよね」 「ハジメ、もっと船を上げるのじゃ！」 ハッドは、弓の準備をしながら。 「複数種のアヤカシに此れ以上取りつかれては具合が悪い。低空域を離れて、敵を怪鳥だけに絞るのじゃ！」 「上昇路、確保出来るの！？」 「させればいい、命令せよ！ 船長とはそういうものぞよ」 ハジメは、少し間を置いて、咳払いをした後に‥‥叫んだ。 「‥‥お願い！」 「応よッッ！」 陽光を背に、飛翔する龍の影。 「良し、遠慮はいらぬぞ。この大空、駆けるに相応しいのは誰であるかアヤカシ共に教えてやるのだ――ぉああ！？」 急上昇、急旋回、急加速。駿龍の激しい挙動に、一瞬振り落とされそうになるナイピリカ。しかし彼女はそれを敢えて制動しようとしない。 「‥‥それで良いッ、それで良いのだソードフィッシュ！ もっと速度を上げよ！」 言いながら、ナイピリカは片手剣を振るう。しかし状態は不安定、太刀筋は精彩を欠き怪鳥を止めるには至っていない。 それで良い。 「はあああああぁぁ！！」 一機のグライダー。乗っているのは天河 ふしぎ（ia1037）。 一陣の風は剣閃を帯び、煌いたかと思えば次の瞬間、通り様に怪鳥を両断した。 「大空への新たな挑戦者の旅立ちを阻む者、そしてこの大空を汚す者達よ。『夢の翼』の天河ふしぎが相手になる！」 ふしぎが張る大紋旗は風に打たれながら、まるでアヤカシ達に己が存在を顕示するかの如く、大きく広がった。 「我らも行くぞ輝桜、アヤカシごときにこの空を蹂躙されるわけにはいかんのじゃからの」 龍は大きく羽ばたいて毒蛾の鱗粉を吹き飛ばしながら、輝夜を乗せ上昇する。そして咆哮で敵を寄せて、回転切り。この一撃で、多くの怪鳥が落ちて行った。 「さぁ、はやて。私達も頑張るわよ」 木綿花は精霊符を敵方へ向ける。怪鳥はそれが何だか理解する頭脳は持ち合わせていなかったが、翼があらぬ方向への捻じれを体感した時、それを攻撃と理解した。決定的な威力では無い為、怪鳥は逆襲せんと、木綿花の方向へ飛んで行く。しかし木綿花も致命傷を与えようとは最初から考えていない。既に駿龍の手綱を強く握り、龍を方向転換させていた。あとは、全力移動で一気に距離を取る。 空戦の目的は、この空域に船のスペースを作る事。 全てのアヤカシを空戦組で引きつけられている訳ではないが、それでも飛行船に取り付いて来る数は目に見えて違ってくる。 「ナイ姉様が取りこぼした分は、私が！」 力強く踏み込み、穂先を突き出すルシール。当初は甲龍に騎乗していた彼女は、今は船に移り護衛に回っている。 戟は必殺の威力を以って怪鳥を貫いて、その動きを止める。 「次は――あ！ ペケさん危ない！」 「‥‥ぇ？」 同じく船の護衛のペケ、彼女の視界外から一羽の怪鳥が迫るのが、ルシールには見えた。ペケの顔を目掛け嘴を突き付けた怪鳥は、一直線に飛んでくる。 「うわ、風が！？」 「はわわわ、足元が‥‥きゃん！」 上空域の突風にハジメはバランスを崩し、船を傾ける。そのぐらつきの拍子にペケはよろめき、偶然にも怪鳥の攻撃を避け、更に不可抗力で振り回してしまった刀が怪鳥に命中しそれを屠る。 「‥‥ペケさん」 「アイタタ、いやーお見苦しい所を。面目ないですー」 （ある意味、凄い‥‥） 「ところでハジメさん、これって好機じゃないですか？」 「え？」 ペケの言葉に、ハジメは素っ頓狂な声で返すが彼女は気にせず続ける。 「突破力という点では、十二分な風力がこの空域にはありますし、高度も充分。後は、多分‥‥運勢もっ」 「うん、そうだね！ なら進路調整、出力全開にして‥‥あ！」 ハジメが声を上げた理由、それは進路前方にかたまっているアヤカシの群集。怪鳥をはじめとした空アヤカシ。中には、一回り二回り、サイズアップしている怪鳥もいる。 しかし、小型飛行船の水力では進路変更は出来ない。この風なら、尚更‥‥。 「ハジメ、行くのだ」 声はナイピリカから。 「我々もいる」 「だから飛ぶ事を躊躇わないで、ハジメ！」 輝夜、ふしぎも彼女の続き、そして風を切って群集の中へ突き進んで行く。 「私達もハジメさんも‥‥皆の無事は、約束します」 そう言い残し、木綿花も後に続いた。 「‥‥一気に抜ける！ 皆、揺れるからどこかに掴まっていて！」 と、ハジメが促すもこの小さい船に、安定した足場と把手など、どこにあるのか‥‥。 ましてや小柄な水月などは、不安を感じるなと言う方が無理な注文だ。 「水月。もし場所に困っていたら、私に掴まっていて」 「ぇ‥‥」 「少しの間、目を閉じていれば済むだろうからさ」 ハジメに優しくそう言われると、水月はこくりと頷き、彼女の背中を掴んで瞳を閉じた。 「‥‥っよし、行っけぇぇええーー！！」 水月の耳に聞こえる、咆哮の様なハジメの声。速度が増していけば、それさえ風切音によって途切れ途切れになる。白髪は荒く乱され、巫女袴は忙しなくはためく。 怪鳥は、まるで脅す様に不気味さを増した鳴き声を響かせ、それに比例させて騒がしい羽音を出す。 水月はより強く、ハジメの背中を抱いた。 開拓者の‥‥皆の声も聞こえる。皆が、戦っている。 どれだけ？ あとどれだけで、この黒い雲の中を抜け出せるのか？ あと、どれだけで―― 「水月‥‥」 「‥、‥‥？」 「大丈夫、目を開けてみて」 水月はハジメに従い、ゆっくりと瞼を‥‥上げた。 青。 いつもは見上げるだけの空の青さ、それが自分の目と同じ高さに広がっている。 そしてその下には深緑、見下ろして分かる、広大さ‥‥そしてその繊細さ。 突如、水月の視界に、そんな二大美が広がっていた。 風はゆるやかに白の髪を弄び、柔肌を擽る様は愛撫でさえある。 「これが、空‥‥」 「うぉぉぉおああああああああああ！！」 叫び声に、水月はビクリと肩を揺らす！ 声の主は、ハジメ。握りしめた右手の拳を掲げ上げて、叫んでいた。まるで‥‥いやまさに、鬨の声だった。 「ほほ。全く、騒がしい娘じゃの」 ハッドはハジメに合わせる様に、天へ向けて剣を。 ペケは刀身を、ルシールは槍先を。 船右側からは、船に追いついて合流したふしぎが旗を。左側からは輝夜が朱剣を。 後に続いて木綿花は駿龍はやてに乗りながら、ゆるり穏やかに白い腕（かいな）を。ナイピリカはソードフィッシュの勢いを抑えてふらつきながらも、空色の剣を。 ハっ、と気付き、そして水月も杖を。 「これが空だ！ 私達は今、空に‥‥空に出たんだぁ！！」 ハジメの声は昂ぶりから震えている様にも‥‥泣いている様にも聞こえた。 「そろそろ、聞いてもいいタイミングかな」 「‥‥ん？」 「ぇと‥‥ハジメさんを揺り動かした夢って何なのかな、って」 「うむっ。開拓者たる本分、ワシも大いに興味があるぞ」 「まさか只の家出っていう訳でもなさそうだし」 木綿花とナイピリカに聞かれたハジメは「待ってました」と言わんばかりに仰々しく、それを鞄から取り出して見せる。 「むむ、古い本に見える‥‥」 「ハジメさん、これって？」 「宝の地図の集合体‥‥見てよ。この本全てのページが様々な宝物とその説明が書かれているんだ」 沙耶が言っていた『デタラメの地図』とは、この事か。 萎れ所々に変色したその古書は、確かに見方によっては胡散臭い。しかし、それを説明するハジメは、この本自体が宝物と言わんばかりに喜々としていた。 「目的があるのはよい。ならばこの空賊団、名前と旗があって然るべきであろう。ハジメ、その辺はどこまで考えておるのだ？」 どこからいつの間に用意したのか、豪華な椅子に座りながら脚を組み、ハジメにそう問うハッド。 「あ‥‥」 「やはりまだ決めておらぬか、まぁよい。吾輩らが参考を挙げるのも吝かではないぞよ」 「空賊って言っても強面さんとかじゃないですから‥‥どっちかって言うと可愛い感じとかが良いんじゃ無いでしょうか」 「ハジメ、汝の新たなる人生‥‥その旅立ちの意味も持たせたい所じゃな。うーむ‥‥『始まりの団』あるいは、『始まりの翼』などはどうか」 「我輩としては色や動物の名前を組み合わせたものも捨て難いと思うぞよ」 ハッドや水月、輝夜の提案に、ハジメは腕を組んで唸る。 「うぅーん‥‥」 「どうした？ 不満があれば、別の案を考えても良い」 「あ、イヤイヤそうじゃなく！ いやー皆、そういうセンス良い名前、よく思いつくなーって」 「‥‥‥」 それを聞いて輝夜は、少々伏し目気味に。照れている‥‥かどうかは本人のみぞ知る。 「まぁ、今じゃ無くて、おいおいハジメさんが決めても良いかもしれませんねー」 「そうだね、今は迷って決めかねる‥‥ってのが正直なところ」 おっとりとした口調で言うペケに、ハジメは頷く。 「それにしても、空ってこんなに広かったんですね。いつもの見上げるのとまた別の風景に、ペケ、少し感動しちゃいました」 「そうでしょ！ それが私にとって、一番初めに手に入れた宝物って事で！」 「これからも、こういう宝物が多く見つかると良いですねー」 「うん！」 開拓者達を優しく撫でる清風に、広がる景勝。確かにそれは、宝と言って差し支えない。 「後は旗とかも、おいおい‥‥かな？」 「あ‥‥そういえばあなたも確か、空賊なんだって？」 白い翼と、ドクロのゴーグル。それが天の川と組み合わされてデザインされた旗を持つのは、ふしぎ。 「この旗の元、僕は僕の信念で戦う。大空を駆け、追い求めはすれども非道はせず、それが真の空賊‥‥僕はあの人にそう教わった、だからハジメにも」 「うん、私も辛い事があってもめげない様に、信念をしっかり持つ様にする。同じ女性空賊としてお互い頑張っていこうね、ふしぎさん」 「ぼっ、僕は男だっ！」 「え、ウソ‥‥」 「本当にっ」 まぁこの辺のやりとりは最早、様式美。 「ハジメさん、旗と空賊団の名前、決まったら教えて下さいね。いつかその名を耳にすることもあるかもしれませんし、旗の文様も、染め織りなら多少の心得はありますから」 「うーん。それだったら先にデザインだけでも決めて、木綿花さんに染めて貰える様にしておけば良かった！」 ハジメは木綿花とそんな話をしていた。彼女らから少し離れた位置からも、声は聞こえる。 「夢追いと言うのは理屈ではない‥‥私も良く知る所。だからこそ、惜しみない力添えをしてあげたいと感じるのです。ね、ナイ姉様？」 「ふむ、ワシも同感じゃ」 かくして団は飛び立った。 広い広い、大空へ。 |
