【負炎】湯屋の怪
マスター名：姫野里美
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| ■オープニング本文 理穴の戦。そこには様々な人々が関わっている。前線に送り込まれる兵や開拓者達もそうだが、そこに物資を運ぶ面々もまた、『戦の関係者』だ。 「だからー。あれは乗っていた舞姫さん一行に、アヤカシが紛れ込んでいたとかで、締め出し食らったんだって。俺のせいじゃねぇよ」 緑茂の里にある桟橋。その袂には、荷を運ぶ為の詰め所がある。そこで、呼び出された『船長』ことノイ・リーが、いかにも偉い人と言った風情の恰幅の良い男性から、叱責を受けていた。 「理由なんかどうでもいい。せっかく手配した舞姫なのに、逃げられるとは‥‥」 嘆く依頼主。彼らにとって、アヤカシがどうのと言う危険は、あまり感じていないようだ。上の方にいる人間には、時々いる。このまま言い合っていても、埒は明かない。言われる説教を右から左に流していた船長、相手が落ち着いたのを見計らって、こう言った。 「で？ 町長さんとしては、何をどーしたいんだ？」 「うむ。舞姫は結構待ちわびられていたようでな。代わりにこれを届けてくれ」 箱詰めされたお詫びの品。不足した物資も入っているようだ。結構な量のそれを届けて欲しいそうである。 「けど、船ぁいっぱいいっぱいなんだろ？ どうやって」 「おまえさんとこにはもふらさまがいるだろ」 「ぷらぁとじゃ、この量は無理だよ。もう少し大きい奴じゃないと」 「ああ、わかった。その代わり、貸出料は、依頼料から差っ引く」 「何ー。それじゃあ依頼料殆ど残らないぞ。アレは不可抗力なんだから、上乗せしてくれよ」 「駄目だ駄目だ。護衛くらいは出してやるが、経費はそっち持ちだからな」 「えー」 そんなやり取りが大声で繰り広げられている。しばらくやりあった後、船長は決まった事を繰り返すように言った。 「んじゃあ、運搬用のもふらさま１匹と、荷車１台は俺持ち。護衛はそっち持ちでいいな？」 「ああ。現地までは３日あるかないかだから、それ位は我慢しろ」 折り合いが付いたらしい。こうして、船長はぶつぶつと言いながら、受け取った荷物を荷車に詰め込み、仮の相棒になるもふらさまの様子を見に行ったのだが。 「もふー！ もふもふ！」 「もふ、もふもふ！」 何故か大きなもふらさまと、ぷらぁとが言い争っている様に見える。 「何があったんだ？」 「ああ。多分アレです‥‥。もふらに性別はないはずなんですが、ねぇ」 管理している人が教えてくれる。そこには、中くらいの大きさで、頭に小さな花飾りをつけたもふらさまがいた。やたらと目をうるうるさせて、大もふらさまとぷらぁとを交互に見つめている。何が起こったかを察して、頭を抱える船長。 と、その時である。町長の使いと称する子供が、言付けを伝えにきた。 「船長、悪いが追加注文だ。近くにこないだの舞姫が逗留しているらしい。迎えに行ってくれ」 何でも、例の砦から引き返した後、船長と別行動をしていたが、緑茂の里近くの町に逗留しているらしい。前線にも近いから、そこから仕事を行いに行っているのだろう。町長としては、詫びの菓子折でも持参して、早々に確保したいようだ。 「ったく。陸地は騒々しいよな‥‥」 次々と起こる問題に、早く空へ戻りたいと願う船長だった。 さて、その頃。緑茂の里へ至る道中にある、とある里では。 「舞姫さま、お綺麗ですなぁ」 兵士達が戦いの疲れを癒しにやってくる湯屋があった。休憩所を兼ねた広い畳敷きの部屋がある。片隅に簡単な舞台があり、時折客をもてなす演芸が行われているのだが、今回はその場所に、舞姫が待っていた。 「これだと、戦などやっている場合ではございませんなぁ」 手に手に酒を持った兵士と思しき面々が、その妖艶な舞いに、鼻の下を伸ばしている。と、楽団の１人が、何やら指示をした。それに頷いた湯屋の女性が、入り口の扉を閉める。 照明がふっと落とされた。 人々が、何を始めるのかと、目を凝らす。と、その刹那、闇夜に浮かび上がる女性の姿。するりと帯を解き、長着が打ち捨てられ、襦袢をさらすと、さらに伊達締めにも手が掛かった。年若の兵士が、ぽっと頬を染める。湯屋の女性が、見てはいけないものを悟ったかのように、部屋を退出した直後である。 ざわついていた部屋が、静かになった。 「お客さん？」 しばらくは様子を見ていた彼女。しかし、あまりにも静かなので、恐る恐るふすまを開く。 「え‥‥！？」 呆然とする女性。そこには、舞姫も楽団の姿もなく、人が倒れているだけだったから。しかも、明らかに数が足りない。 「ど、どうしましょう！？」 ただおろおろとする湯屋の人。その里に、舞姫に注意されたしと言う報告が入ったのは、それから数刻たった後の事だった。 そう、ノイ・リーが荷物を乗せ、騒動の発端になった中もふらさまごと、出発しちゃった後である。 |
■参加者一覧
華御院 鬨（ia0351）22歳・男・志 
鬼島貫徹（ia0694）45歳・男・サ 
天河 ふしぎ（ia1037）17歳・男・シ 
グラスト＝ガーランド（ia1109）22歳・男・サ 
八十神 蔵人（ia1422）24歳・男・サ 
神楽坂 紫翠（ia5370）25歳・男・弓 
沢村楓（ia5437）17歳・女・志 
千麻（ia5704）17歳・女・巫 
浅井 灰音（ia7439）20歳・女・志 
点蔵・Ｃ・犬埼（ia8012）19歳・男・シ |
| ■リプレイ本文 沢村楓（ia5437）曰く。 開拓者の事件簿〜湯けむり集団失踪事件の謎〜もふらさまもいるよの巻！ だそうである。 「いやぁ‥‥もふらにも春が来るねんなぁ〜。‥‥ぷらぁと‥‥ヒモふらになったらあかんよ？」 当もふはそんな事、まぁぁぁったく存ぜぬ様子で、せっせと中もふのご機嫌をとろうとしている。そんなぷらぁとに、八十神 蔵人（ia1422）は同情気味に撫で撫で。 「誰がうまい事を‥‥」 そう思ったのは浅井 灰音（ia7439）だ。その彼女が注目している中もふは、大もふとぷらぁとの間で、不思議そうに首をかしげている。その姿に、彼女は中もふをもふもふと撫でながら、右目を瞑っていた。 「男を惑わす魔性の女だね。この花飾りのもふらさまは」 「もう、２匹を煽っちゃ駄目なんだぞっ！」 がるがると猫のように毛を逆立て、取っ組み合いを始めそうな２匹を、引き離す天河 ふしぎ（ia1037）。腕の中でぷるぷるしているぷらぁとを見て、彼は船長に事情を尋ねる事にした。それによると、大もふを受け取りに来た時、ちょうどやってきた中もふに、心を奪われてしまった模様。 「ぷらぁともお年頃なのかな？ でも、あんまり聞かない話だよね、その中くらいのもふら様、ほんとにもふら様なのかな？」 「もふもふ！」 ぷらぁとが、腕の中で抗議している。それを援護するように、大もふくんまでもふもふと文句言い始めた。 「えぇい、もふもふでは分からんわ！ 言いたいことがあるならはっきり言わんか！！」 あまりに言い争いが酷いので、鬼島貫徹（ia0694）、大小もふらの顎の下をわしゃわしゃと激しくもふりながら、無茶な注文を投げている。 「私に良い考えがある」 と、そんな大中小もふり放題な楽園に、楓がずずいっと前に一歩踏み出す。 「どちらかが相手に相相応しいか、お互い反対側から引っ張ってみてはどうかな？」 どこかで聞いたような話である。先に離した方がより深く愛してるとか言う逸話のアレだ。納得した一行は、とりあえず大中小と並べ、おててを取らせ、いっぱいに引っ張った。 「「もふ！？」」 が、大もふ小もふ、どういうわけか内側に引っ張られている。どうやら、見た目に反して、３匹の中で一番力があるのは中もふらしい。と、そこへ今まで成り行きを見守っていた神楽坂 紫翠（ia5370）が、こう言い出した。 「うーん。‥‥色恋‥‥詳しくなので‥‥これで、どうでしょう」 その手には、花束が二つ握られている。綺麗に束ねられたそれを、紫翠は大もふとぷらぁとの双方に持たせた。 「はっきりとさせることが大切どす。例え、振られたとしても」 身だしなみを整える事には、女性以上に女性らしい手段をお持ちの華御院 鬨（ia0351）さんが、しっかりと見た目を整えてくれる。 「上手く、行っても振られても後悔は、無いはずです」 「ぷらぁとが見事目的果たせたら‥‥せやなーわしの報酬の半分出したろ。中もふらの身請けの足しにしや」 紫翠が背中を押す中、この依頼が終わっても別れる心配はしなくて良い事を、蔵人が申し出た。そして、イケメンもふらになった２匹が、中もふさまの正面に座り、それぞれ花束を差し出す。 「も‥‥もふもふもふ」 ぺこりと頭を下げる中もふさま。通訳しなくても分かる。『ご、ごめんなさい！』だ。 「あらら、両方振られちゃったね」 灰音がそう言った。しょぼーんとおちこむもふら２匹。さっきまでがりがりとやっていたのはどこへやら、お互いしょんぼりと方を寄せ合っている状態だ。 「元気出して、きっと次の出会いが有るんだぞっ！」 「もふ‥‥」 ふしぎが背中をもふもふしているが、ぷらぁとは凹んだままである。気のせいか、毛並みまでしぼんでしまっているようだ。そのへこみっぷりに、灰音がばしばしと背中をひっぱたく。 「何時までしょげてるのさ、男ならしっかりしなよ」 「ただ私は欲しい者は壊してでも奪い取る派だが」 楓さん曰く、念願の品を手に入れると、何故か襲われると言う話だが、それでは、せっかくの切ない話が台無しである。 「そろそろ、行き先の里が近いな」 灰音が遠くの山野を見つめてそう言った。周囲には畑もちらほらと見え、整えられた感がある。人里が近いと言う事だろう。 「何事もなくてよかった」 「やはり、見張りを分担してたのがよろしかったんどすやろうか‥‥」 そう話し合う灰音と華御院。その後、数日間は何もなかった。いや、時折荷を狙おうと盗賊の類がちらちらと見え隠れしていたが、護衛が多くついていることを見て取ると、引き返して行ったようだった。 「聞き込みをしてくるでござるが‥‥。藪を突付いて蛇が出る‥‥なんて事にならないといいで御座るなぁ」 里に近づくにつれ、人の姿も増えてきた。程なくして、里の入り口が見え、関所がわりに身分を確かめている。それなりに列が出来ていたので、点蔵・Ｃ・犬埼（ia8012）はその彼らに話を聞きに行く事にした。 「美姫との噂だ。少し動けば、話くらいは聞けるだろう。嫌な予感はするが‥‥な」 そう告げるグラスト＝ガーランド（ia1109）。普通の生活だったら、まず目撃しない職業である。目撃情報はたくさんあるに違いない。舞姫に注意されたしと言う報告も耳に入るだろう。 「でもでも、ただ無作為に探しても無駄だと思うのっ」 「ふむ。まずは行方不明者の特徴を聞いてみるか‥‥」 千麻（ia5704）がそう言うと、人の多いあたりに突っ走って行く。それを追いかけるグラスト。見れば、町の人を捕まえて、舞姫の目撃証言を集めているようだ。 「こんな感じなんだけど、誰か知らない？」 足の綺麗な、彼岸花の着物。妖艶な感じの美女。楽隊を引き連れている。それだけの手がかりしかない為、町の人の反応は定かではない。 「いたとか、何人とか、どれくらい前だったとか、聞ければ良いんだけど‥‥」 それでも、何組か綺麗なお姉さんのいるらしい事はわかった。どうやら、楽団ともどもバラけて里入りしたようだ。 「美人の舞姫が、湯屋にいると言う話だが‥‥」 グラストが、それぞれの足取りを追った所、やはり湯屋街に集まっているようだ。その地域は、行方不明者も多く出ているらしい。 「だそうだよ。やっぱり、この界隈に来ている事は確かみたい」 いくつか情報を聞き出した千麻が、鬼島にそう報告をしてきた。紫翠が聞き出した特徴の舞姫も、この辺りの湯屋を回っていると言う話らしい。それと共に、行方不明者も多く出ており、グラストが聞いてきたところによると、大半は生気の有り余ってそうな者達だそうだ。 「ふむ。やはり騒動がおきているようだ。まさに天命‥‥と言ったところか」 「ともかく、足取りを追おう。捕まえられるかはわからんが」 鬼島が運命を感じている中、グラスとはそう言って、事件の起きた湯屋に、目星を付けるのだった。 湯屋に出入りしている事はわかったが、足取りはそこでふっつりと切れた。と、それを聞いた鬼島が、こう切り出した。 「舞姫は踊るのが商売だ。景気付けの為に、舞いを所望する者達‥‥というのはどうかな」 出陣を盛り上げると言うのは、よくある相談だ。相談の結果、費用はギルドに必要経費として持ち込み、駄目なら囮班で割勘と言う事になった。杞憂でも、本当に宴会するだけなので、怪しまれはしないだろう。 「剣は渡しておく。いざと言う時は頼む」 言い出した鬼島は、脇差を懐にしのばせ、剣を外で様子を見ている女性陣達に預けている。 「そういや不浄や穢れに敏感なもふらやったら、人に憑依したアヤカシを嗅ぎ付けられへんかな。ぷらぁと、ちょいこっちおいで」 一方、蔵人はそう言うと、ぷらぁとをよいせっと持ち上げた。ふかふかのそれを、自分の懐に押し入れる。いざとなれば、喧嘩煙管が役に立つだろう。斧は部屋の外だ。同じ様に、紫翠も囮に回っている。 「どうやら、おいでなすったようだぜ」 そうこうしていると、何やら控え室の方でざわつく湯屋の者達がいた。どうやら、舞姫へのお取次ぎが出来たようだ。 「ふむ、接触するようでござるな」 場を盛り上げようと、酒なども運ばれてくるのを見て、そう報告してくる点蔵。グラストは、出されたものには手を付けず、自前の竹筒をあおっている中、蔵人は黒装束姿の楽師に、酒を勧めていた。 「舶来物の酒も用意したでーぐぐっといってやー」 楽師は答えない。黒装束は、舞姫も同じらしく、彼岸花の描かれた着物は見えない。だが、その裾から綺麗な足が見え隠れしているのを見て、華御院が舞台袖にある控え室へと誘う。 「舞姫はんどすな？ ちょっと話があるんどす」 舞姫と思しき御仁が答えなかった。ただ、華御院の顔を見て、誘われるままに控え室へと向う。 「ええどすか？ 妖艶さを表現するんやったら、服を脱いではいけまへんな」 普段は女形をしている彼、さすがに舞う事に関しては、並々ならぬ思いがあるようで、本来の性別にもどって、びしびしと指導している。その身に宿る役者魂が、女性の体で魅了するような真似を許せないらしい。 「でも舞姫、関心ないみたいだね」 千麻ががっかりとした様子でそう言った。その場の雰囲気を変え、見えるようで見えないチラリズムの美学を力説しているが、どうやら分かってもらえなかったらしい。 「うちと妖艶さで勝負どす。負けたら素直について来てももらいやす」 勝手にそう決めてしまう。だが、逆に舞姫を引っ張り出すことには成功したようだ。程なくして、高音域だがゆったりと流れる楽の音。 先に踊ったのは華御院。手を袖に隠し、着物の裾を回し、そのゆったりとした音にあわせて舞う。演目がなんだか分からなかったが、紫翠が、まぶしそうに目を細めている。 「綺麗‥‥ですね。女性のたおやかさ、清楚さが、とてもよく表現されていますよ‥‥」 きっと、出るところに出れば、差し出された手を受け取ってしまいそうだ。と、入れ替わるように現れたのは、黒装束の女。顔を面で隠した彼女は、その黒装束をするりと脱ぐ。出てきたのは、白い彼岸花柄の着物‥‥いや、長襦袢。 「‥‥？‥‥‥‥？‥‥‥‥ニゃー！？」 今しがた、華御院が踊っていたのは、女性にも分かる芸術としての舞だ。だが今は違う。引きずり込まれそうな妖艶な雰囲気に、楓は軽く混乱を起こしているようだ。いや、楓ばかりではなかった。 「く、くうっ。生物的な本能と下半身がここで寝るなと言うとる！」 最前列で見ていた蔵人に、異変が起きていた。苦しげに顔をゆがめ、なにやら必死で抵抗している。 「やはり奴はアヤカシか‥‥この‥‥っ‥‥」 グラストにも、やはり効果が及んでいた。意識が遠のきかける。だが、必死で抵抗し、懐に忍ばせた呼子を吹き鳴らす。甲高い音に、ふすまががらりと開いた。 「皆、まずは武器を！」 灰音がそう言うや否や、預かっていたグラストのショートスピアを放り投げる。ころころと転がる用にして、足元に滑り込んで言ったのを確かめると、彼女は自身のショートソードを抜き、鋭い目で睨みつける。 「‥‥そこまでだよ、舞姫さん」 「目を覚まして下さいっ」 彼女がひきつけている間に、楓が飛び込んで行った。そして、魅了にかけられかけている紫翠のみぞおちに容赦なく拳を叩きつける。 「ちょ‥‥遠慮ない‥‥ですね‥‥」 「いいから、正気に返ったら手伝って！」 楓が預かっていた弓を投げた。その間に、千麻が周り中に告げるように大きな声で宣言する。 「現行犯よ。捕まえて！」 「抜き足を使うまでもなかったでござるな！」 もし逃げるなら、尾行して監視を続行しようとしていた点蔵だが、そこまで至らなかったらしい。 「よし、全てを見通せ心の目‥‥正体はお見通しなんだからなっ！」 そこへ、今まで様子を見守っていたふしぎ‥‥なぜか囮班には加わっていなかった‥‥が、心眼を使う。 「ふも‥‥」 「え？ 中もふ？」 だが、それに反応したのは中もふらだった。荷物ごと持っていかれたら大変だと、張り付いていたのだが、心の目は、どう見てもその中もふに反応してしまっている。 「詰まらんことを企むのは鼠か狐狸か。フン、化けの皮剥いでくれるわ！」 状況に、危険を察知した鬼島が、力ある咆哮を叫ぶ。その刹那、黒装束の面々が、こちらを向いた。どうやら、取り巻きもアヤカシのようだ。 「ひょっとして‥‥扇動の笠の”あの女”もお前の同業者か」 その中心にいるのは、舞姫。楓が、カマを駆けている。だったらどうする？ と言わんばかりに、舞姫がにぃっと笑った。その袂に、中もふが駆け寄る。いや、もふらに似たアヤカシだろうか。 「どうやらそのようだな。その偽もふらは、手ゴマと言ったところか」 灰音がまず黒装束の取り巻きに向って行った。合流したグラストが、ショートスピアを振るう。舞姫が後ろに下がろうとするのを、今度は華御院が立ちはだかる。 「舞いは、人を楽しませるもの。その舞いを汚したおまえさんを、許してはおけまへん！」 「舞いは、人に力を与えるものなのよ！」 彼が舞うように剣を振るう。横に、フェイント。そんな彼を援護するように、後ろの千麻が神楽舞でその威力を上げる。しかし、舞姫には中々当たらない。むしろ、悠然と待ち構える用に微笑んでいる。 「気をつけて。あの舞い姫‥‥、出来る！」 分かっている。頷いた楓は、武器は無理に抜かず、素手に精霊の力を宿し、そのまま殴りかかった。 「ひょっとして、抜くタイミングをまっていたのかな？」 舞姫、その動きを見越してか、後ろにそれる。それを追い出そうとした楓を、点蔵が援護するように刀を連撃するが、そこには取り巻きが立ちはだかって反撃をしてきた。 「忍法、木の葉がくれの術！」 ずざざざざっと葉が舞った。目隠しに隠れた楓が、舞姫の退路へと回りこむ。刀を抜き、間合いを取る。それでも、乗り越えようとする舞姫に、今度はグラストが荒縄を投げつけた。 「逃がすかっ！ 捕まえろ！」 ここで逃げられたら、行方不明者の居場所はわからない。が、舞姫はその荒縄を、まるで糸でも切るかのように引きちぎっていた。そのまま、湯屋の外へと逃げてしまう。 「くっ。やはりまともにやりあうわけにゃいかんかっ」 何しろ、相手は下手をすると修骸骨と同格。下手においかけるわけにはいかなかった。だが、その代わりに、取り巻き達は全員倒されていたらしい。 「行方不明の人々は、どうしたのかな」 怪我をした者も何人かいるようだ。回復の術をかけながら、千麻がそう呟く。と、湯屋の人が悲鳴を上げた。どうやら、舞姫の術が解けたことで、隠された人々が見つかったらしい。 「ものすごく‥‥疲れました‥‥精神的に‥‥」 紫翠は、今回もやっぱりげんなりしているのだった。 |
