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■オープニング本文 帝国で起きた反乱の話は、船長ことノイ・リーの元にも届いていた。戦争と言うのは、とかく需要の上がるもので、商売の種がそこらへんにごろごろと転がっているのだが、その為には、現地に赴かねばならない。しかし、そこには大きな問題があった。 「やっぱり帝国まで足を伸ばすのは無理だよなー。この船」 「さすがに、このレベルの小型船で、嵐の壁を越えようってのは無理だろ」 「だろうなぁ‥‥。なぁ、問題はどの辺だ?」 「まず出力が足りねーな。後は耐久値。まぁ大人しくこっちで商売してるこった」 顔なじみの店で、自分の船の能力値を確かめている船長。手入れはしているのだが、天儀近郊用の小型飛空船で、お隣ジルベリア大陸へ行こうってのは、中々難しい相談のようだ。 「なぁぷらぁと、お前どうする?」 「もふ?」 もちろん、足元にごろごろしているもふらさまのぷらぁとに聞いてもわからない。しかし、いくらぷらぁとをもふっても、答えは出ないので、とりあえず丈夫な外装を探しに、万商店へと向ったのだが。 「あ、ちょうど良いところにいたっ! 探してたのよ」 「げ、暁!」 いつも万商店で、開拓者達を相手にしている暁が、不自然にニコニコした表情で近付いてくる。何やらよからぬ事を考えているんだなと察した船長がずりずりと後ずさりするが、その足元にはいつの間にか呪縛符が設置されていた。 「やだなぁ、まっとうな依頼だよ。ちょっと度胸のある船乗りを探してたんだ。ジルベリアまでひとっ走りいってくれるようなね」 暁のおててには紹介状が握られている。既に逃げられない立場のようだ。 「何を運ばせるんだよ」 「うん。硬い壁」 アヤカシや反乱軍が攻めて来た時に、防護壁として使用する資材だそうだ。要するに、硬い木の板と思えばよろしい。 「そりゃあ構わないが、お前の事だから、絶対何かあるんだろ」 「運ぶだけなら定期便でやるよ。でも今回の道、どういうわけか、人面鳥がいてさぁ。普通の船通れないんだよね。物資が硬い分重いし、龍は物資輸送に使うわけにいかないしさぁ」 なんでも、資材運搬の妨害役として配備されているらしく、時折それっぽい船を見かけては襲っているらしい。 「猫なで声出したって、貰うモンはきっちり貰うぞ」 「そう言うと思った。そうだねぇ、お金はあんまり渡せないけど、その壁資材を一部流して上げるってのはどうかな?」 「危険手当くらい寄越せ。あと強化技師もいるだろ」 「その辺は自分で集めてね。じゃ、頼んだよー」 流石に相手も手馴れたもので、交渉の結果、あっという間に話をまとめてしまう。要するに、金は払うし、人も雇って良いから、期日までに運べと押し付けられてしまったようだ。 「‥‥面倒な事になった」 嵐の雲の向こう側は、まだ‥‥見えない。 結局、自分の船は嵐の壁を越えての走行に耐えられないとの事で、現地での操船に専念する事になった。 「他人の船ってなぁ落ち着かなくていけねぇなぁ? ぷらぁと」 「もふ〜」 何とか慣れたものの、助手役のもふらさま、ぷらぁとがなんだか具合が悪そうにしている。 「お、いっちょ前に船酔いか? もふらも船に酔うんだな」 「もふ〜!」 心外な。もふら様だって船酔いくらいする。そう言いたげに、船べりをたしたしと短いおててで叩いて主張するぷらぁと。そんなやり取りをしていた直後だった。甲板の上に、警告音が盛大に鳴り響く。 「どうやらおいでなすったようだな‥‥」 見れば、こちらへ向ってくる人面鳥。口々に、人には理解出来ない鳴き声で、指示を出しているのを見ると、話に聞いているアヤカシだろう。見る間に速度を上げて、こちらの船へと追いついてくる。 「エモノミーッケ」 「タベテイイ?」 「アノ銀色ノハ、オヤブンサンノ。ソレイガイハ、タベチャエタベチャエ」 片言にしか聞こえないハーピー達の言葉は、お互いにだけはよく通じているらしい。鳴き声にいた奇声を上げる女性型。その爪先が示すその狙いは、確かに船長達だ。しかし、それを積荷狙いの盗賊と勘違いした船長は、 「積荷狙ってきやがったか。おいぷらぁと。コマセ撒いてる場合じゃないぞ! 緊急事態だ!」 「も、もふふ〜!?」 青い顔をしているのは、何も具合が悪いせいではないだろう。そうこうしている間に、人面鳥は船を取り込むように、ぐるぐると周回し始める。 「あそこなら、何とかなりそうだ! 急げ! 食われるぞ!」 「もふ〜!」 その隙間に、小さな入り江を見つけた船長は、周囲にそこへ避難するよう進言する。岩場になっているそこは、崖で行き止まりになっていた。大きさゆえ、人面鳥達は入り口で何やら思案しているようだ。そのわずかな隙を利用し、なんとか救援要請を出す事が出来た。 「と言うわけで、どうも俺らを輸送させたくないみたいだな。今のところ、この界隈にいるのは俺が借りてる船だけだが、なんとかしろ。でないと、帝国のアホどもに食われる前に、アヤカシ姉ちゃんに食われちまう」 待機しているであろうギルドの面々に、船の風神器を使って呼びかける。それは、担当の職員によってまとめなおされ、依頼として張りだされていた。 【人面鳥達が、なんだか妨害したいようなのです。荷物は重いので、押しのけてる間に通るのが出来ません。面倒ですが、殲滅しちゃってください】 前置きが長いが、そう言う事らしい。 |
■参加者一覧
崔(ia0015)
24歳・男・泰
鬼島貫徹(ia0694)
45歳・男・サ
深凪 悠里(ia5376)
19歳・男・シ
茜ヶ原 ほとり(ia9204)
19歳・女・弓
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
アレン・シュタイナー(ib0038)
20歳・男・騎
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
ミカエル・クライム(ib0358)
22歳・女・魔
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
ブリジット(ib0407)
20歳・女・騎 |
■リプレイ本文 志体持ちの開拓者達が向かったのは、船長の潜んでいる入り江だ。それぞれの相棒に乗り、急行する彼らは、10人という人数から、3手に別れてアヤカシ退治に臨む事になった。 「人外とはいえおネエちゃんの乳とな」 月組所属の崔(ia0015)が、目の色を輝かせている。それに、アレン・シュタイナー(ib0038)がため息をつきながら、とても残念そうに答える。 「そうらしいな。しかし、見かけ女でもアヤカシじゃなあ」 これが普通のお姉ちゃんが、集団で乗せてーと船を取り囲んでいるとかならば、仕事が終わった後にでも、ゆっくりお空の散歩と行きたいところだが、今回のお姉ちゃんは後ろからがぶっと食いつかれそうだ。 「まぁ、間に合っているわけでもねェが、特に必要なわけでもねぇし」 視界には入るかもしれないが、そう言ってシャットアウトする崔。これで影響はないだろう。たぶん。 「なんか・・・男性陣は楽しそうでいいなぁ」 そんな男性陣を見て、ちょっぴりうらやましいかもしれない茜ヶ原 ほとり(ia9204)。曲芸飛行でも落ちないよう、しっかりと足腰をきつく龍に固定している。 「殿方の美形だったら、討伐に困っちゃうかも〜。むしろ、上手い事ペットにでもしちゃおうかしら」 ハーピー達は綺麗なおねいさんだと言うことだ。これが異性だったら、ミカエル・クライム(ib0358)のように捕獲して帰ろうと言う輩が出るかもしれない。 「ご飯代が大変」 「なーんてジョーダンジョーダン♪ あ、見えてきたわ」 ほとりがその性格上、短くそんなツッコミを入れる。依頼を受けている間は、ごくごく真面目な対応なようなので、ミカエルは人面鳥達に注意を向ける。 「俺達は近〜中距離攻撃手。班分けは月班。ってところだ。いくぞ」 崔がそれぞれの役目を指示している。まずは月組が切り込み、花組が討伐する。そう言う作戦だった。 「OKっと。ほとりちゃん、2人で弾バラ撒くわよ!」 「弓矢よ」 ぴしゃりとそう言って、遠距離からサンダーを叩き込むミカエル。一瞬にして注意が開拓者達のほうへ向いた。ほとりがずびしと矢を撃ち、アヤカシ達をおびき寄せる。 「数は8匹か‥‥。結構な数だな」 飛行艇が潜んでいる岩場の近辺から出てきたアヤカシの数を数える崔。全員女性型だが、胸の大きさは個体差があるようだ。報告書では、人語を少しは解釈していたようだが、今は興奮しているのか、悲鳴じみた叫び声を上げているに過ぎなかった。 「まずは、様子見‥‥!」 どうやら、あまり知能の高い部類ではないようなので、彼はそのままアヤカシの中に切り込んで行く。囮を兼ねて岩場へと向えば、すぐに2匹が向ってくる。 「姿が見えない敵がいるかもしれないな‥‥」 それを一人で相手していると、後ろからサンダーがぶっ飛んできた。 「探索班が行っているはずだから。任せた方が良さそうよ」 1匹と、もう一匹が発射した主であるミカエルに群がる。派手な打ち上げ花火が浮かぶ中、ほとりの矢が風を切ってその間を分断していた。 「見くびるな」 おおよそ半数が、ミカエルの思惑通り、遠距離組の方へ向っていた。すでに、ほとりの思惑通り、船からはだいぶ引き離されている。そこへ、前衛と言う事で、アレンと共に再び攻撃へ移る崔。 「食らえっ!」 そのまま、気孔波をぶち当てる。アヤカシの注意を引いたと思った刹那、後ろへと龍を下げさせた。距離を取り、そのまま岩場から遠ざける作戦だ。 「やっぱり、戦いってのは良いねえ。この感覚がたまらない」 龍とその上の開拓者、そしてくるくると回る人面鳥達。その高揚感に、アレンがにやりと笑みを見せる。ともすれば、戦いを楽しんでいるように見えたが、決して単機突出はしておらず、崔と同じ位置を護っている。そして、彼の気孔波で引き寄せられたアヤカシの攻撃を受け止め、全力で切り返す。 「付け根を狙えっ!」 狙うは、相手の翼だが、そう簡単には問屋が卸さない。 「おびき寄せてくるわよっ」 「派手に引き剥がして」 ミカエルがサンダーをぶっ放すが、痺れを切らして突出することはないようだ。そこで、アレンは相棒と共に背後へと回り込もうとする。 「えぇい、間合いを詰めるぞっ!」 「一丸となってくる知能はないみたいね」 突破されたらまずいと判断するミカエルだが、人面鳥にそこまでの策は無理なようだ。 「よう相棒、お前も戦えて嬉しいか?」 「きっしゃあ!」 ニヤリと笑って、そう声をかけると、足元のアッシュが吼えた。それを見る限り、まだ平気そうだが、無理は禁物だろう。その証拠に、アヤカシ達は高度を下げ始めた。突破するよりは、下に下がる方を選んだのだろう。だがそこには、船長の船がある。しかも、崔が確かめた先に、別のアヤカシ達が姿を現す。 「それなりに数がいるようだな。囲まれると面倒だ。退路も確保しておかないとな。夜行、頼んだぞっ」 全力で急降下する崔。諦めと言う単語は、アヤカシ達にはまだないらしく、その狙いはまっすぐに飛空船。別働隊が向っているのはわかっているが、放っておくわけにもいかず、彼は夜行にダブルファングを食らわせるように指示を出す。 「フィアンマちゃん、お願い。あんまり飛ばない弾だしねっ」 その後ろから、ミカエルが愛龍に攻撃指示をだした。威力はファイヤーボールの方が上だ。得意とする炎の魔法が、アヤカシ達の上から降り注ぐ。振り返った1匹が、豊かな胸をぽよんぽよん揺らしながら、入り江の周囲に広がる森へ逃げ込もうと指示した。 「アヤカシのくせに主張してんじゃないわよっ!」 自分よりないすばでぃなその姿に、うきーっとファイヤーボールの矛先が向いた。と、その刹那、前にいたアレンから、鋭い声が飛ぶ。 「ミカエル、そいつから目を離すな!」 「ええっ。きゃあんっ」 いきなり言われても、悲鳴を上げてしまう彼女。見れば、浮上してきた巨乳アヤカシに迫られるミカエル。そこへ、アレンが割って入る。 「こちとらこれでも、硬さには自身があるんだよっ」 がきっと着込んだブリガンダインに食い込む爪。引き剥がそうと、ほとりの矢がぶっ飛んでくる。左回りに龍を急旋回させ、さらに反対側から矢を打ち込んだ。急激な風力が体にかかるが、気にしてはいられない。 「だいぶ引き離した。後は花組に任そう」 そこへ、状況を見守っていた崔がそう指示を出す。聞こえてくる龍の羽音。それは、花組のものだ。波状攻撃を食らわせるなら、引き時は今だ。 「分断し切れてないけど、上手いことやってもらいましょ」 「ブリジットのいる組か‥‥。まぁあいつなら無事だと思うがな‥‥」 同意したミカエルとアレンが、その後に続くように龍を回頭させ、飛空船の方へと向うのだった。 さて、時間は多少前後する。 「始まったな‥‥。それにしても、タイミングが良すぎだ」 深凪 悠里(ia5376)は、エルディン・バウアー(ib0066)と共に、陸地へと向っていた。敵襲の手際が良いことに、影で指揮をするアヤカシの存在を疑ったからである。 「狩りだけで見ると、あれが群のリーダーっぽいですけど、アヤカシに帝国の物だけを識別する知能があるとは思えませんし‥‥」 エルディンが空の上を指し示す。しかし、きしゃあと鳴き声を上げ、今にも開拓者達に襲い掛からんとする人面鳥が、それほど賢いとは思えない。 「あの胸の大きい奴か‥‥」 攻撃の先頭に立っているのは、その中でも一際胸のでかい固体だ。しかし、策を弄していると言う感覚は、エルディンにはどうしても持てなかった。 (もうちょっとあの姿形、なんとかなりませんかね。…ほら、色っぽさを出すならねー…) キリっと引き締まった真面目な顔をしながらも、の視線はじぃぃぃっと胸元に注がれている。余りにも注視しているので、悠里が「どうかしたか?」と聞き正すほどだ。 「いえ。やはり見た限りは、狩の長ですよ」 頭を振るエルディン。直前まで、胸を見ていたとは思えない金髪神父である。その牧師曰く、司令塔、と言うには行動が拙すぎるとの事。 「いや、良いんだが。ふむ、心当たりを船長にも聞いてみるか‥‥」 悠里もそれは感じ取っていたらしい。そこで2人は、陸地からこっそりと、船長達のいる船へ向った。もし、司令塔がいるならば、離れた場所にいるか、群に指示を出すため、何らかのアクションを取るはずとは、エルディンの弁。 「陰陽師の劫光という。よろしく頼む」 そこでは、既に劫光(ia9510)が挨拶を交わしつつ、状況を確認していた。同じく挨拶に来たアレーナは、全身白い鎧に身を包み、首をかしげている。見た感じ、アヤカシに持てるような姿形やオーラを発しているようには見えなかった。 「帝国の積荷の護衛か…まあ仕事ならこなすだけだがな」 同じく注視していても、劫光の興味は積み込んだ荷の方だ。と、やっぱり挨拶していた鬼島貫徹(ia0694)は、口の端に笑みを浮かべてこう口にする。 「これも名を上げるためだ。せいぜい役に立ってもらおうではないか」 「何でもいーけどよ。俺は荷物が無事ならそれで良い」 一通り話を聞き終わったノイ・リー(iz0007)がそう言う。そこへ、悠里が事情を問いただした。 「何か心当たりはないのか?」 「ありすぎて覚えてねェな。おおかた、どっかの反帝国の連中が差し向けたんだろ」 船長、依頼主に関しては口をつぐむ。と言うより、その辺の権力抗争には関心がないようで、煙管をぷかりと吹かしたっきりだ。 「ハーピーか、ガルーダか…飛行船には性質が悪いアヤカシだね…しかも、ジルベリアまでとは‥‥。商売とはいえ、大変だね」 ブリジット(ib0407)が空を見上げながらそう言う。故郷へ向う道中の船だ。護ってあげたい。 「飯の種だしな。それに、1割資材もらえるみたいだから、船の強化には充分だ」 船長は、ブリジットが抱える故郷への正義感とは離れた所に目的があるようだが。 「ともあれ、迎撃すれば良い話ではあるな」 「その通りだ。討伐花組と呼称する事にするが、かまわぬな?」 劫光に頷く鬼島。便宜上の名称だが、なかなか風流かもしれない。アレーナ・オレアリス(ib0405)がその花に則り、白バラを胸に挿して、空へと舞い上がった。 「白薔薇の騎士アレーナ、いざ参る!」 構えた弓は、これまた白である。 「今のうちに、船の航路を見てくるとしようか。指示しやすそうな場所は、こっちだな」 目立つアレーナの純白な姿は、良い囮と強襲になっているようだ。その間に、悠里はこっそりと、岩場へと近付いて行った。その先は、切り立った崖になっており、鳥が飛び立つには充分な気流がある。 「誘導された気もしますがね」 シノビの悠里と違い、魔術師のエルディンは、かなり後ろから苦労しつつ近付いてくる。それでも、ようやく崖を覗き込むと、そこには瘴気に包まれた小立があった。 「後ろ、お願いします」 「心得た」 周囲には砂浜がある。下りて行く小道は、獣たちが利用しているのか、細い通路のようなモノがあった。大人一人がやっとと折れるくらいの幅の道を、そぉっと下りて行く2人。その先にある木立に近寄った刹那だった。 「きしゃあ」 その小立から、いきなり人面鳥が飛び出してくる。 「やはり、見張りがいたな」 悠里の手裏剣が飛んできた。エルディンが、岩の陰に逃げ込む。その間、人面鳥を引き剥がした悠里は、瘴気の立ち上る森へと駆け込んだ。 「しゃげぇ!」 「こっちだ、食らえ!」 追いかけてきた人面鳥に、ショートボウをお見舞いする悠里。その様子を後ろから見ていたエルディンが、ホーリーアローをお見舞いしていた。人面鳥が何やら躊躇ったように撤退するのを見て、悠里はこの先に何かが隠されている事を知る。 「これは‥‥」 彼とエルディンが、その先に隠されたものをみつけたのは、間もなくの事だ。 「こいつが目的だな」 悠里がそう言った。板切れに見えるそれには、反乱軍と思しき紋章が押されている。それは、荷物に施されていた封と同じ素材だ。 「ミーターナー」 森の奥で、光る目。 「さっさと帰った方がよさそうですね」 気付かれないうちに離脱しよう。とエルディンが、梵露丸を口に放り込みながらそう提案する。 「ああ。合流するぞ」 一番近いのは、おそらく空のアヤカシを相手にしている花組だろう。しかし、さすがに行かせまいと、複数の人面鳥が駆けつけてきた。 「俺が抑える。先に離れてろ!」 「どんなに美女でもアヤカシなら全力で退治する‥‥。それが私の本分、聖職者の務めです!」 悠里が立ちはだかろうとしたが、エルディンもそのままにはしておけないらしく、一撃離脱を繰り返す。なんとか矢を番え、さくさくとその足元に打ち込んでいた。 「今のうちに全力で離脱!」 「はいっ」 人面鳥たちがおたおたしている間に、悠里はそう言うと、一釵に飛び乗り、エルディンを連れて一目散に戻るのだった。 その頃、再び戦場は空へと戻った。偵察に行ったのを確かめたアレーナと鬼島が、咆哮を利用してアヤカシ達を引きつけている。射抜くようにアレーナが矢を放つ中、鬼島が上へと吊り上げる。 「射線は通るようにしなければな!」 仲間の矢が通るよう、空の広い所を使おうとする鬼島。だいぶ離れてしまったそこへ、ブリジットは理穴弓を放つ。 「優先順位は近くて早い方だよ!」 低い所の敵は、その後で良い。牽制の矢が放たれる中、彼女は距離を詰め、ルーンソードへと持ち替えた。だが、その刹那、足元から浮き足立つように、新たな人面鳥が姿を見せる。 「く、増援のようだな。気をつけろ!」 偵察の様子をみつけた劫光が相棒の炎龍『火太名』を操り、上空へと上ってきた。すでに、人魂で報告はしてある。そこへ、上から斬撃符を放ち、翼の付け根を狙う。 「射程外から‥‥と言うほどに、頭が悪くはないみたいです」 敵の進路を妨害するように、前へ前へと周り混んでいたブリジットが、そう判断した。一撃離脱を行う可能性は低そうだ。深追いの必要はなくなったが、向かってくる所を狙って攻撃も出来ない。むしろ、乱戦になっている。 「と言う事は、誰か指揮している者がいるな。さぁ、次はどいつだ!?」 周囲を見回す劫光。近付いてくる敵の攻撃を刀で受け流し、切り返す。羽毛が飛び散って、血の匂いが周囲に広がる。それに目の色を変え、噛み付こうとする人面鳥達。 「ええい、浅ましい連中め。行儀悪にも程があるわ!」 そう言って、龍の上で戦斧を振り回す鬼島。食い気たっぷりの人面鳥は気に食わないようだ。 「女性はつつましいのが好みじゃからのう。肉食は獣肉だけでたくさんじゃ。はしたない!」 時代の流れだろうガなんだろうが、破廉恥なのは許さない模様。見かけはゴツいが、芯は真面目なようで、逆に一喝している。 「蝶のように、蜂のように。これぞ、白薔薇の舞い!」 その一喝と、振り回された斧、吐き出した炎で分断したアヤカシを、アレーナが流れるような動きで、切り捨てていた。通称流し切りと言われるその術は、白く輝く鎧に照らされて、とても優雅な動きになっている。その中でも、胸に挿した白薔薇を散らさぬよう心がけているのは、さすがと言うべきか。 「船員を連れ去られたりしたら、大変だよ。スカイア、咆哮を!」 ブリジットの命に答え、龍がきしゃあと力強く叫ぶ。その間に追いついたエルディンは、今しがた見てきた事を早速告げた。 「どうやら、反帝国の差し向けたアヤカシのようです。おそらく、積荷を奪って行こうとしたらしいのです」 「見張りがいた。ただ、黒幕っぽいのはいなかった。もしかしたら、逃げたのかもしれない」 シノビの悠里が口ぞえするのだ。それは真実として、その場にいる龍乗り達に広がって行く。しかし、アヤカシもそれをみすみす許すほどではなかったらしく、集まった開拓者達を逆に分断しようと群がってくる。 「人類の敵、アヤカシども、我が力をもって鉄槌をくだす。神の矢をくらうがいい!」 「忍法雷火手裏剣! 焼き鳥にしちゃる!」 ホーリーアローと手裏剣がぶっ飛んできた。都合10人が合流したそれを見た巨乳のアヤカシが、ようやく不利を悟ったか、上空へと舞い上がる。 「ナンカイッパイキチャッタから、カエルねー」 数を半数に減じたと言うのに、気楽なものだ。だからこそ、アヤカシなのかもしれないと、開拓者達は感じるのだった。 そして。 「船長さん、あんたとその相棒も怪我はないかい?」 「大丈夫だぜ。まぁ、積荷はちょっとばっかし落とされちまったが、かまわねぇだろ」 アレンが確かめると、船長が積荷の影から姿を見せる。衝撃で少し崩れていたが、中身はしっかりしていたようで。隙間からぷらぁとまで這い出してもふもふ言っている。 「おお、小もふらではないか。見ていたか俺の働きを」 「も、もふ」 安否を確認した鬼島が、ぷらぁとを抱き上げ激しくもふりながら、己の武勇を自慢しに来た。が、ぷらぁとは申し訳なさそうに首を横に振る。 「むう、何故見ていなかったのか」 「まぁまぁ。きっと怖くて隠れていたんだよ。これでもどうぞ」 ブリジットが酒を持ち出してきて差し出す。必要そうな者に注いで行く彼女だったが、何故か杯が1つ多い。 「せめて、この花を手向けに。迷える魂が再びさまよい出ぬように、かな」 それは、アレーナが空へと散った人面鳥達の為に用意させたものだ。酒と共に放たれた薔薇が、青い空へと手向けられる。 「帝国も反乱軍も、どちらにも血を流して欲しくないものですねぇ」 帝国の刻印に、複雑な思いを浮かべたエルディンが、心の中で十字を切った。 人々がアヤカシの脅威に晒されるのなら、捨てた祖国だろうと、どこへでも。 そう‥‥誓って。 |