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■オープニング本文 伝説は語る。 かつて、空と海は1つだったのだと。 伝説は伝う。 限りなく広がる空と海に、人々は未来を託したのだと。 それから長い時が流れ、人々はその空海の上に、希望の種を見つけた。 種は広き島となり、人々を暖かく受け入れてくれた。 これは、そんな島々に暮らす人々と、希望の種を運ぶ風、そしてそれを守ろうとする戦士達の物語である。 天儀。 空に浮かぶ巨大な島。 いくつかの国と王朝を有するその島は、もはや大陸と言い換えても良いかもしれない。 そんな壮大な島の玄関口。空に浮かぶ天儀が、他の船と交易をする手段は、主に飛空船である。『沖』ともいえる空の彼方には、巨大な船が浮かび、そこと港を繋げる空を、小型飛行船が行き来する。中には王国の紋章を記したグライダーもあり、荷揚げの品を、もふらさまが運んでくれている。開拓者達の拠点である神楽の町も近いそこは、様々な人々でにぎわっていた。 そのにぎやかな港の一画に、たったいま定期船から降りたばかりの男女の姿があった、荷車には、家財道具を満載し、それをもふらさまに運ばせている。人々に必要な物資は、ここから各地へ運ばれていくのだが、どうやらその男女は、上陸手続きを済ませたばかりの兄妹のようだ。 「父さん、やっぱり迎えにこれないのかしら」 「次期村長役に抜擢されたって、この間手紙で言ってたから、そうなんじゃないかなぁ」 まだ若い兄妹は、周囲を見回してそう言うと、諦めたようにもふらさまを歩き出させる。行き先は、港から大きな街道を進み、神楽郊外にある村のようだった。 天儀には、都である大きな町の他、いくつかの村がある。大きいものから小さいものまで様々だが、たいていは数百人が暮らし、村長が居て、自給自足の生活を行っている。 「あれが‥‥、父さんのいる村だね」 手入れされた田の向こう、砂利道の先に、兄妹が目指す場所はあった。入り口に村の名前が書かれた集落。背後には、鎮守の森が広がり、ところどころ煮炊きの煙が立ち昇っている。 「ここの精霊様は、なんだったっけ?」 「もう、兄さんったら。前に父さんが言ってたでしょ。もふら岩って、大きな岩よ」 その鎮守の森には、精霊が奉られているようだ。妹に言われ、連れていたもふらさまを見る兄。真っ白な毛をもつもふらさまは、神の使いとも言われている。村にもふらさまみたいな岩があっても、別に不思議じゃない。もっとも、当のもふらさまは、不思議そうに首をかしげているだけなのだが。 「そっか。じゃあ後で挨拶しにいかなきゃな。家族で世話になるんだし」 裏山を見上げる兄。と、その兄が、目を細めて、難しい顔つきになる。 「どうしたの?」 「なぁ‥‥。もふら岩って、山の上の方にあるんだよな」 妹にそう言って、頂上付近を指し示す兄。そこから、黒い煙のようなものが昇り‥‥立ち込めていた。まるで、霧のように森を隠していく黒い煙。そう‥‥まるで瘴気のようだ。 「まさか‥‥」 顔を見合わせる兄妹、その直後である。奇怪な叫び声を上げて、森の中から毛むくじゃらの小鬼が飛び出してきたのは。 「わわわっ」 慌てて尻餅をついてしまう兄。きゅっと悲鳴をあげるもふらさまと妹。全部で5匹いるその小鬼は、2人を取り囲んでしまう。もふらさまも戦うようには出来ていないのか、妹に体を摺り寄せて怯えていた。 「おい、こっちだ! 逃げろ!」 そこへ、遠くに手を振る人影。見れば、村長卓のあるほうだ。 「に、にげようっ! おいでっ!」 荷車ともふらさまを繋いでいた綱を切り、目を瞑って走り出す兄妹。とすとすともふらさまが一目散に明後日の方向へ走り出したが、構ってはいられなかった。直後、どーんっと言う鈍い音が響き、からからと荷車が壊れる音が聞こえてきた。 「えーん、どうしてこんな事に〜」 半泣きの妹。引越し早々大変である。 村長の家は、たまに訪れる旅人を泊め、村人達との様々な相談ごとを行う為、広めに作られている。普段は、冠婚葬祭時にしか使う事のない大きな部屋に集まって、村人達は頭を抱えていた。兄妹もそれに列席し、話を聞いてみる。兄妹が襲われた小鬼と、大きな丸太を抱えた鬼は、最近になって、村を襲うようになったらしい。なんでも、もふら岩に挨拶し、山菜を採りに行ったところ、アヤカシ達と遭遇してしまったのが発端だそうだ。 「そこの兄妹が見たモンの他に、骸骨みたいな奴を見た。多分アイツが何かやったんだ」 後で思い返してみると、もふら岩の裏に、瘴気が立ち込めていた。数日前に降った大雨で、何かの封印が転げ落ちてしまったのかもしれないと、村長は話す。何しろ、地図さえ必要のないような見慣れた山だ。 こんな事は初めてらしく、どうしようと頭を抱える村人に、妹がこう言い出す。 「あのぅ、村に風進術の道具ってあります?」 「一応‥‥。けど、動くかどうか分からんぞ」 通信の手段として利用されている風進術。それは、離れた場所に声を届かせるものだ。こんな村でも、一台くらいにはある模様。 「なら、神楽に使いを出しましょう。きっと、開拓者さんなら何とかしてくれるはずです‥‥」 それを使えば、すぐにでもやってくる。 アヤカシと闘う術を身につけた戦人達が。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
湊(ia0320)
16歳・男・志
桜木 一心(ia0926)
19歳・男・泰
風雲・空太(ia1036)
19歳・男・サ
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
煉夜(ia1130)
10歳・男・巫
紫鈴(ia1139)
18歳・女・巫
橘 天花(ia1196)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 天儀の人々は、普通、様々な移動を徒歩で行うものだ。精霊門を出た開拓者達も、その例に習い、急ぎながらもてくてくと村へ向かう。 「わたくし、橘天花と申します。未熟者ですけれど精一杯頑張りますから、よろしくお願い致します! お気軽に天花って呼んで下さいね☆」 たちばなのあめはな‥‥と名乗った橘 天花(ia1196)は、ぺこりとお辞儀する。街道の両側は、時に街中ではあるが、山野が広がっている場合もある。黙ったまま移動するよりはと、お互い自己紹介を済ませながら進む事にした。 「しかし、引っ越した矢先にアヤカシ遭うなんてついてない子たちだなぁ」 まるで他人事のように、そう語る紫鈴(ia1139)。そのおかげで、自分達に依頼が届いた事は不幸中の幸いだが、あいにくと彼女の性格はそれを表に出せるほど外向的ではない。それでもにぎりしめた拳は、ようやく戦える想いの表れだろう。 「美味しいご飯の為にも、アヤカシを討伐するのです」 見掛けは十歳の煉夜(ia1130)が言うと、大人も頑張らなきゃ行けない気になるから不思議だ。開拓ギルドに所属した時点で、そういう括りからは外されると言うのに。 「その方が良いでしょうね。調査をするなら、安全な方が良いでしょうし」 「んー。楽しめれば良いのだけどね」 もふら岩から出たという瘴気。調べたい空太だが、探している間に襲われる可能性もある。と、何か意味深な感じの霧崎 灯華(ia1054)さん。 (この陰陽符を使う機会がなければ良いのだけど) その袂と、胸の袷からは、着物の返しに見せかけた符が覗く。そういえば、ここに来る前、何やら針仕事をしていた。 そんな彼女に続き、一向は村長宅へ向かった。村で一番大きな家は、時に寄り合い所であり、旅人の宿代わりでもある。 「失礼する。神楽の都から来た者だが‥‥」 紫鈴がそう言って、開拓者である事を告げると、程なくして戸を開けてくれた。まだ子供とも言える年齢も混ざっている事に、村長が驚いていると、その一人かもしれない天花は、にっこりと笑顔を見せる。 ただし、緊張のせいか、それ以上の言葉は出なかったが。 「それで、状況は?」 灯華が確かめると、村長は鬼達の動向を教えてくれた。2日か3日に一度、山を降りてくると。 「あのぅ、雨で崩れた封印を戻す方法って、どなたかご存知ありませんか?」 と、そこへ天花がおずおずと言った調子で、そう声をかける。長老か村長あたりなら知っているだろうと思ったのだが、何分古い石碑。伝説しか伝わっていないそうだ。 「伝承では、大きなアヤカシをこの下にある穴へ追い込み、その上に蓋をして封印したらしいのです。ただ、穴そのものは見た事がないそうですわ」 問題の山へ向かう道すがら、天花はそう話した。村長の話では、もうかなり前の話で、封印した者達も方法も伝説化しており、具体的な封印の術はわからなかった。 「まぁ、行って見れば何かわかるだろ」 そう答える紫鈴。村長たちに家から出ぬよう伝え、風雅 哲心(ia0135)を先頭に、皆で山へと向かう事になったのだが、1人‥‥足りない。 「あれ? 灯華は?」 「別行動だって」 答える紫鈴。 「どっちにしろ、もふら岩まで行く必要がありますよね」 そう答える風雲・空太(ia1036)。もし、彼女が何らかの痕跡を見つけたとしても、おそらく行き先は同じだろうから。 「その割には足が震えてるぞ」 「こ、これは武者震いです!」 子鬼や普通の鬼だけではなく、骸骨みたいな奴まで出てくるとの事。仕留めたいとは思えども、重いとは裏腹に、足元はおぼついていない。 「超桜木流に不可能はない。ついてくると良い」 中には桜木 一心(ia0926)のように、出所不明な超絶自信と共に、山を登ってこうとする奴もいるのだが。 「いやそっち反対側」 もっとも、先頭の哲心にそう突っ込まれている。迷ったりはしない程度の山だが、進む方向が90度ほど違っていた。 「はうっ。じゃあ任せた」 「不可能はないんじゃなかったのかー」 明後日の方を向いて、頭の回りそうな面々に道を譲る一心。人間、得意じゃない事だってあるというものである。 山を登ると、一口に言えど、この辺りの山は、天を突く峰とは程遠い、里山だった。 「裏山の入り口は、この辺りからですねー」 入り口の神木を見上げ、そう呟く湊(ia0320)。入り口には小さな祭壇が設置されており、住民が供えたものと思しき品々が転がっている。 「元に戻す‥‥と言っても、大変そうですねぇ」 どうみても、何者かの手で荒らされた形跡があった。よく目撃されている現場にも近い。おそらく、通る道すがら荒らして行ったのだろう。 「ここにも、犠牲者がいたのでしょうか」 「だろうな。ここを見てごらん」 しょんぼりと心を痛める天花に、足元を指し示す湊。踏み荒らされた地面が、広範囲にわたって黒ずんでいる。雨ではないもの‥‥で。 「うう、早く何とかしないと‥‥」 ぞくぞくと背筋に冷たい者の走る煉夜。奇襲を警戒しているのか、きょろきょろと周囲を見回している。警戒しているらしいが、彼の容姿では怯えているように見えた。 「奥に瘴気が立ち込めている気がします。アヤカシ達はその辺りに居る事が多いんじゃないでしょうか」 「きっとあの向こうにアヤカシがいるんですよ」 そんな彼に、天花が里山なのに奥が見通せない事を指摘しつつ、そう言う。声が上ずっているものの、煉夜もぎゅっと杖を握り締める。空気だけが張り詰める中、山道は次第に頂上を目指して勾配を高くする。 「あの辺りかな‥‥」 煉夜がその先を指し示す。一項がたどる道の先に、大きな塊が見えてきた。遠くから見ると、座ったもふらさまに見える。おそらくあれがもふら岩だろう。森の中から、アヤカシが出てこないか注意しながら、そこへ近づくと。 「確かに雰囲気が悪いな‥‥。封印は、アレか」 周囲に立ち上る瘴気。その一番濃い部分に、綱を切られたもふら岩。その足元が少しへこんでおり、瘴気はそこから噴出しているようだ。 「鬼達はいませんね」 天花が地面に屈み込んでそう言った。濡れた地面には、大きいのから小さいの、人の足には見えないものまでぺたぺたと押し付けらている。しかも‥‥たくさんだ。 「まずは、この封印の石碑を直してしまいましょう」 煉夜が注連縄を元に戻そうとするが、なかなか重いらしく、上手くいかない。前のほうにいた他の面々も、元に戻そうと、手伝いはするものの、中々上手くいかなかった。 と、その時である。石碑と登ってきた方を軸にして、おおよそ九十度くらいの森の中で、なにやら足音が複数こちらに近づいてくる。怒号と共に。 「今のは!」 「見てくる」 一行の中でも素早い面々‥‥一心、哲心、空太、そして湊がそちらへ向かう。最初にたどり着いたのは、一番身の軽い一心だった。 「うふふふ。自分の血でも、血飛沫は華やかになって良いわねぇ‥‥」 そこでは、手に符を握り締めた灯華が、子鬼達に取り囲まれていた。何とか敵の背後に回りこもうとしていたが、相手のほうが素早い為、回りこみきれないでいる。その上、ボスと思しき鬼と骸骨みたいなアヤカシは、多勢に無勢なのを知っているのか、後ろのほうでにやにやと様子をみているのみだ。 「なるほど、考えてみれば、鬼が人の道を通るとは限らないですね」 湊がそう言った。山にいるとは聞いていたが、考えてみれば、鬼達が人の生活に準じているわけはない。 「おいでなすったな。俺はでかいのをやる、雑魚は任せたぜ」 刀の柄に手をかける哲心。そこへ、ようやく追いついてきた天花が声を上げる。 「みなさぁん! こっちに鬼が出ましたよー!」 「ああっ、怪我してるっ」 駆け寄る煉夜。が、灯華は平気な顔ですくりと起き上がり、顔についた血をぬぐう。 「これはただの化粧。さあ、楽しい死舞を始めましょう」 そして、両の手にまるで舞い扇のように、符を持ち、本来の位置へと戻った。バラバラと現れた増援に、大きい方の鬼と骸骨みたいな奴も立ち上がる。その周囲に、子鬼達を配し、用意には近づかせないようにしていた。 「まずは、あの小さいアヤカシを倒しましょうか」 そう言って、湊が指示をする。最初に動いたのは一心だった。 「派手に動き回ってやるか。超桜木流・超絶骨法起承拳!」 目の前にいる子鬼の1匹に、拳を打ち込む。鎧なんて上等な物は着ていないその腹の辺りをめがけて。 「村に危害を加える悪鬼ども。この風雲が、お相手いたします!」 続いたのは空太だった。とは言え、相手も黙ってはいない。お互い牙を向いたのは同時。その攻撃を太刀で受け止め、体重を乗せながら力任せに切り結ぶ。ざしゅりと肉を切る音が響いた。 「じゃ、俺はあのでかい奴を狙うとするか」 三番手の哲心は、子鬼達には見向きもせず、まっすぐ大きな鬼の方へと向かった。どこから手に入れてきたのか、肉の名残と、錆びた鎧を身につけているその二匹は、子鬼達よりも若干動きが早かった。 「守りに回るのは、向きませんし。さあ貴方達はどんな音色を奏でてくれるんでしょうね?」 もう1人は湊。既に、表情が変わっている。舌なめずりをしながら、そんな事を言った彼は、どういうわけか集中的に足元を狙っていた。炎魂縛武を使い、炎の力で、子鬼達が苦痛の声を上げる度、その表情に笑みが浮かぶ。アヤカシに手加減する必要などないと言わんばかりに。 「灯華さん、大丈夫ですか?」 その間に、天華が風の精霊の力を使い、灯華の傷を癒していた。その一方では、煉夜が囲まれないように、力の歪みを使って、近づかせないようにしていた。 「く、数が多い‥‥」 だが、それでも手は足りない。体がついていかないわけではないが、存外しぶとく、小鬼達も中々こちらへ攻撃する手を緩めてはくれなかった。 「わわっ。足止めしなきゃ‥‥」 反撃に防戦している他の面々を支援するべく、精霊に祈る天花。神楽舞・攻を舞い、周囲を鼓舞する。 「頑張ってください、皆さん」 にこっと笑顔でそう言う天花。と、傷の治った灯華は、意味ありげににやりと笑う。 「さて、悪い子にはお仕置きしないとねぇ。あんたの力戴くわ」 取り出したのは、陰陽符。それを、吸心符の作法に則り、小鬼達に向ける。彼女の符から出てきたのは蛇。しゅるしゅると小鬼に絡みついた蛇は、その身体から生命力を丸呑みにし、彼女へと戻ってくる。そのおかげか、食らわされた怪我は、だいぶ回復したようだ。 が、その直後、小鬼達の向こうで吼える声。見れば、大きな鬼が、丸太を抱えてこちらへ突進してきた所だ。 「さすがに親玉が出てきましたね‥‥」 小鬼達が遠巻きになったのを見て、空太がそちらへと加勢する。 「まだ一発は残ってる」 空気撃一発分程度の余力を残した一心もまた、小鬼より骸骨を狙った。 「ボスはあの2体だけ見たいですからね。倒してしまえばよろしいでしょう」 湊がそう言う。あちこちに走る痛みは、攻撃を受けたことを物語るが、それもまた一興と言った表情だった。 「力が拮抗してるな。出来るだけ、錬力は温存しておきたいものだが!」 集中攻撃を受けているわけではないので、神風恩寵が回らない。その代わりに紫鈴は、骸骨達の力に対抗できるよう、神楽舞を踊る。邪魔だといわんばかりに、丸太ががこんっと振りまわされる。 「ふ、その程度の攻撃ではこの俺は怯みませんよ! まだまだ‥‥まだ‥‥ま‥‥いてぇわボケェ!」 その相手をしていた空太、一発食らったらしく、地が出てしまっている。その様子に、紫鈴はため息1つ。 「まぁいい。私が舞う間、存分に働いて貰うぞ」 くるり、と袖がふわりと円を書いた。今回灯華以外の後衛は、全て巫女の力を保有している。くるりと舞う彼らの力は、前衛たちに力を与えてくれる。 「足止めくらいはやってあげるわ」 そこへ、灯華が、呪縛符を使う。現れた蛇が絡みつくは‥‥一番手間取っている骸骨だった。それでも、彼らはにぃと笑う。まるで、そんな彼らを捧げられた生贄とみなしているように。 「たかが骨ごときが、ふざけた真似してんじゃねぇよ!」 激昂したように、哲心が地を蹴った。そして、大鬼が持っている丸太を狙う。が、相手とてむざむざやられはしない。腕を狙ったその一撃は、丸太で受け止められてしう。 「最後に立っているものが勝者です!」 大鬼が、哲心とのやり取りに手を取られている間に、横から切りかかる空太。正々堂々が武士道と教えられはしたが、それはあくまで人が相手の時。 「こんのぉぉぉ!!!」 そこへ、哲心が刀を振り下ろす。どうっと倒れる大鬼。その躯は、もふら岩の穴に落ちると、風にまぎれて消えて行った。 「長老の話では、巫女が祈祷をしたとかうかがいましたから、やってみてください」 「しかたない。手伝うか。これも我が超桜木流の為」 もふら岩をずらし、蓋のようにする事を指示する煉夜。もっとも、彼の力だけでは足りないので、自信の流派を連呼している一心が、よっこらしょっと手伝っている。その間に、空太はもふらさま探しだ。しかし、中々見つからず、煉夜のほうの作業が終わってしまう。 「おかしいなー。オレの前進からは、もふらフェロモンが放たれているのに」 そのセリフに、煉夜はじーっと空太を見つめるが、見かけはまったく変わっていない。 「そんなに遠くへはいっていないと思うのですが、無事でしょうか」 「名前はもふえもんらしいですよ」 天花が、飼い主から名前を聞いてきた。ので、逃げた方向へ向かって、大声で名前を読んでみる。 「も、もふぅ…?」 と、その明後日の方向にあった農作業用の小屋の影から、怯えた声が聞こえた。扉を開くと所々すすけたもふらさまが、うるうるした目を向けている。 「まあ、本当にもふもふですね」 もふもふしてもよろしいですか?と訪ねると、こくんと頷いてくれた。ほっとした様子の飼い主兄弟を見て、満足そうに頷く紫鈴。 「ようし、これでしばらく食い物には困らないぜ!」 その後ろで、報酬をもらった空太は、久々に神楽の都でうな重を食うんだといきまいている。 「どうやら、ここはもう安全な様だな。では、次なる修業にまいるとしよう」 そんな光景を見納めた一心、皆の元へ戻ることなく、姿を消すのだった。 後日、もふら岩に、『超桜木流、ここにあり』の碑文が残されていたという。 |