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■オープニング本文 嵐の門にある渡月島。 その門の向こうには、やはり同じ様な島がある。 勇敢なる開拓者達の働きで、幾度かの調査を経た島だった。 その道筋には、道しるべが設置されているものの、中々その先に進めない。それには、ある明確な理由があった‥‥。 そう。遺跡につき物の『化け物』が、船を襲撃していたのである。 「あのお嬢ちゃん達、やっぱアヤカシなのかな」 見張りの遠眼鏡越しに見える姿は、よくできた人形のように見える女性達。顔立ちははっきりしていない者ばかりで、絵姿に描かれる精霊のような格好だ。それが、嵐に光る雷のように、見え隠れしている。 人でない事は明らかな存在なのだが、かと言って、アヤカシである保障はない。なぜなら。 必ずしも、と言うわけではないようなのだが、嵐の門には、化け物・・・・すなわち人でなきものが増えていた。 「いや、わかんね。瘴気とか見えないし、もしかしたらケモノなのかも・・・・」 瘴気が目撃されていない。動きは、伝説に聞く竜神と言うモノに酷似していた。 「でも、これじゃあ先に進めないじゃないか」 吹きつける風が、時に鬼咲島まで押し寄せる。風そのものは、少し強い嵐程度で、さほど問題はない。ちょっと出力を上げた船なら、何とか通れるだろう。しかし、船を近付けた刹那、女性達が動いた。 「こっちきたぞ!」 その女性型の竜神もどきは、人の言葉こそ発しないが、近付く船へと取り付き、雷を放つ。時には、回し蹴りのような技さえ見せ、通り抜けようとする船に体当たりを敢行していた。 「見かけは人形なのに、何でこんなにぼっこぼこ穴が開くんだよ〜」 悲鳴を上げる乗組員。大きさは人並みだが、膂力と雷効果でか、生半可な装甲には穴が開けられていた。その為、良くて航行不能。運が悪いと船そのものが落ちてしまう。慌てて回れ右をする小型飛行艇達。その多くは新大陸へ商売の匂いを嗅ぎ取った商人や、天儀王朝の息のかかった物など様々だったが、力不足である事は明らかだ。 「ジルベリアや泰国の時もこうだったのかなぁ」 「さぁ。俺は知らないけど、やっぱり開拓者の力借りないと無理そうだぜ」 伝承はよくご存知ないようで、頭を抱えている。やはりここは、神楽の都へ依頼をしないと、立ち行かないようだった。 そして、その神楽の都にて。 ドッグ入りしてしまった自身の船の様子を見に来た御仁が居た。 ノイ・リー船長である。結局、雪姫の件はうやむやになってしまい、引き連れたまま、指定された一画へと向っていた。 「で、何で俺に?」 今までの経緯を考えれば、妥当な人選ではあるのだろう。だが、乗組員のメインは幼女にしか見えない雪姫と、ミニもふらのぷらぁと。周囲の人々が不審に思うのも、仕方はなかった。 「入り口のスケッチを調べた所、ご興味がありそうだと思ったものですから」 いつもの様に、港の事務室に案内されたノイ・リー。その彼に、ギルドの担当が差し出したのは、以前の調査で描き取られたスケッチの写しだった。 「船長の持ってた古文書にあった紋章と同じニャ」 「お前の持ってる護符も一緒だろ。つうか、邪魔だから外で遊んでろ」 雪姫がちゃぶ台の下から、ひょこりと顔を出す。そのえり首をひっつかみ、お外に出させたノイ・リーは、差し出された遺跡のスケッチに、眉を潜ませる。それは、確かに雪姫が持っていた護符と同じ紋章だ。 「それ、黒木ってぇ学者サマの担当じゃねぇのかよ」 「まぁ、スケジュールの都合と言う奴ですよ。それに、一度行かれているようですから」 航路に設置された案内のブイ。それを流してきたのは、ほかならぬ船長である。おかげで、船はドッグ入りを余儀なくされたが、それでも経験は残る。 「なので、引き続きあなたに調査を頼みたいと、上が言っているものですから」 担当の女性は言葉を濁したが、どうやら依頼元は天儀王朝そのもののようだ。大々的にやると、何か問題があるのかもしれない。そんな考えがよぎった船長に、担当はさらに続ける。 「それに、気流の乱れを乗り切れる船乗りは、そう数が多くないものですから」 「むー」 褒められて、痒そうな船長。苦し紛れに「俺の船、修理中だぞ」と言いよどむ。 「こちらの船をお貸ししましょう。ただし、クルーの選定はお任せします」 とにかく、島には遺跡がある。遺跡には宝珠やお宝が眠っている。されど、気流は安定しない。と言うわけで、やむなく調査団は開拓者に任せようと言う話になった。開拓者達の中でも、それぞれ手に職を持つ者は多い。遺跡に宝珠以外の興味を持つ者も、少なくはないだろうと言う公算だ。 「わかった。行くだけは行く。その代わり、高くはつくからな」 不本意と言った雰囲気をかもし出しつつ、承諾する船長。 「結構です。ただし、中にはおそらく気流を安定させるような品もありますでしょうから、その辺は持ち帰ってくださいね」 しかし、どうやら相手の方が2枚ほど上手のようである。 こうして。 【渡月島(乙)の地下調査団を募集。結構広い遺跡だそうなので、船動かしたり、力仕事担当も合わせて、かなりの人数が要る。新人でも玄人でもかまわねーから、何か見つけたい奴は、俺ん所に申し出る事】 自分が関わった仕事は、最後まで面倒をを見るべきと思ったのだろうか。しばらくして、そんな依頼が乗っていた。 【ついでに名前も募集。この名前だと、使いづらい】 何か上手い名前はないだろうか。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / ヘラルディア(ia0397) / 柚乃(ia0638) / 酒々井 統真(ia0893) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 柏木 万騎(ia1100) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 八十神 蔵人(ia1422) / 喪越(ia1670) / 羅轟(ia1687) / フェルル=グライフ(ia4572) / アーニャ・ベルマン(ia5465) / 菊池 志郎(ia5584) / 天ヶ瀬 焔騎(ia8250) / 和奏(ia8807) / エルディン・バウアー(ib0066) / 雪切・透夜(ib0135) / オラース・カノーヴァ(ib0141) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / 朱鳳院 龍影(ib3148) / ヴァナルガンド(ib3170) / 月影 照(ib3253) / 鉄龍(ib3794) / リュミエール・S(ib4159) / かじ丸(ib5545) |
■リプレイ本文 ●出発の前に その日、仮で設置された港には、たくさんの開拓者達が集まっていた。結構な人数のそれは、修理中の船長の船では、とても運びきれそうにない。結構な調査団となっていたが、その雰囲気は割りと和やかだった。 「弁当出来たぞー」 船の厨房では、長旅に備えて、既に食事の準備が始まっている。保存食だけでは味気ないので、オラース・カノーヴァ(ib0141)が、それぞれの食事を担当していた。食堂で食べれない者も多いので、昼飯は冷めても良いよう、ジルベリア風の濃い味付けが施された弁当が、各位に配られていた。 「オラースさーん、飲み物系はどうしましょう?」 「それは出発してからで良いだろう。上空は寒いかもしれないから、衝撃に備えておいてくれ」 「はーい」 その厨房を手伝う礼野 真夢紀(ia1144)。人数分の食料とスープは、既に確認してある。本当はきちんと作りたいのだが、何かあるかもわからないので、保存色が中心となるが、それでも暖かい味噌汁くらいは作れそうだ。 「おいすー。嬢ちゃん、おひさー」 その弁当を受け取った八十神 蔵人(ia1422)が、雪姫を見つけて、手を降って来た。雪切・透夜(ib0135)も親しく雪姫に挨拶している。 「なんだか遠足に行くみたいですね。雪ちゃん、おはよう」 同じく、弁当を受け取り、雪姫に声をかけている柏木 万騎(ia1100)。自分の背丈の半分くらいしかない雪姫を、背中からぎゅむーっと抱きかかえてなで撫でしていた。 「おはようだにゃ。でも、雪は前からこんな感じだから、慣れちゃったにゃ」 その辺はまだ子供なのだろう。むにむにされつつ、ゴロゴロと喉を鳴らす雪ちゃん。その頭には、ミニもふらのぷらぁとが乗っかっていたのだが、そのぷらぁとがいきなりひょいと消えた。 「きゃーーー。かわいいー! 今回はよろしくお願いしますね〜」 もふもふもふもふと、アーニャ・ベルマン(ia5465)に捕まっている。 「どうでも良いが、あんまり弄るなよ。遺跡に付く前につかれっちまう」 「はぁい」 通りすがりっぽく登場した船長が、抱えられたぷらぁとが戸惑ったような表情を浮かべているのを見て、そう注意してきた。素直に従いながらも、離そうとはしないアーニャ。そのおめめは、船員のローテーションを確認している船長に注がれていた。 (ああでも、ノイさんもかっこいー) その強烈な視線に、船長が「どした?」と振り返る。が、アーニャはぷらぁとを抱えたまま「なんでもありません。仲良くしましょうね〜」ともふもふすりすりしていた。 「八曜丸‥‥。そんなに飛空船が好きなの‥‥ね。でも、柚乃は一緒でうれしい」 そのもふらさまを連れた柚乃(ia0638)が、とてとてと船に乗り込む。と、同じもふらさま同士なのか。ぷらぁとが片手をあげてご挨拶。 「あ‥‥ぷらぁと、元気にしてた?」 柚乃が思わずもふぎゅっとしている。そんな彼女を含め、班分けが行われていた。 「はいはーい。ぷらぁとがいっしょがいいですー」 「ったく。仕方がねェな。じゃあお前はこっちでいいな」 「船の操縦くらい大丈夫だもん。人が足りないほうでいいし」 そのかわり、ぷらぁとは抱えたままである。すっかりぬいぐるみ状態となったぷらぁとを若干気の毒に思いつつも、配備を済ませた一行は、早速船を発進させる事にする。ゆっくりと出発する船が、空へと浮かび、強風の吹きつける門へと向うのだった‥‥。 ●現れた竜神もどき 障害は、風の門を進んで、だいぶたった頃に現れた。 「な、なんですか? あれ。見た事もないタイプです」 程なくして姿を見せる女性型の精霊らしきものに、アーニャが目を丸くしていた。ジルベリアの繁華街にあるマネキンに、良く似ている。 「現れましたね‥‥。」 風魔閃光手裏剣を使う菊池 志郎(ia5584)。竜神、と呼ばれる女性達は、歌うように声を発しながら、船の周囲を取り囲んできた。 「ふむ。あれが噂の‥‥。まぁ、私の方が別嬪じゃからな」 よくわからない発言をしつつ、やはり気になる様子の朱鳳院 龍影(ib3148)。今日は、なぜか新調したばかりの絵姿にそっくりな空賊長の服だ。 「人に危害は与えていないとの事ですし、追い払う程度にしたいんですが‥‥」 鶴を構える志郎。命中しやすくなった巨大な手裏剣が、竜神女の群れにお見舞いされる。避ける者も多く、その隙間に、船を滑り込ませる船長。だが、両脇に散った竜神女達は、追いすがるように距離を詰めてくる。その動きに、疑問を感じる志郎。 「彼女達は、自分の意思で攻撃しているのでしょうか‥‥」 「だが、アイツらを引き剥がさないと、先には進めないぞ」 ぱしんっとこぶしを打ち鳴らすは、酒々井 統真(ia0893)だ。その背中に寄り添い、フェルル=グライフ(ia4572)は長巻を構え、「背中は任せてください」と、その石突を鳴らした。 「ぉぉぉぉ‥‥ん」 鳴くような、そんな声が響いた。動きが止まり、顔を見合わせているようにも見える。だが、しばらくして、再び行動を開始する。それは、何とか仲良くなろうと試みる琉宇(ib1119)にも見えるよう、襲い掛かっていた。 「下がれ、琉宇!」 鉄龍(ib3794)が代わりに、ダーククレイモアの刀身で受けた。 「さすがに、竜神って言われるだけはあるな」_ 膂力は、普通の女性ではあり得ない強さだ。船の外へと放り出したものの、やはり、竜神もどきは船へと取り付きはじめる。その様子に、ダメだったのかと、琉宇は夜の子守唄へと切り替えた。まだ、チャンスはある。 「ったく、美人のねーちゃんがいると聞いて飛んできたのに‥‥。話は通じそうにねェな」 喪越(ia1670)が心底残念そうにそう言う。手には、焙烙玉が握られ、船の下へと放り投げられた。衝撃が巻き起こって、船が激しく揺れる。その風に、柚乃と八曜丸がわたわたと転がる中、アーニャは力強く弓を引き絞る。 「さぁ、お人形さん達、私が相手ですよ!」 びゅっとその矢が牽制のように放たれる。だが、物理攻撃は通じない相手もいるようだ。知覚が良いというわけでもないようだったが。 「船は任せてください。ね? ぷらぁと」 「もふ」 「うん。八曜丸もお手伝いしてね」 もふらに囲まれた柚乃が、船のロープを抱えて右往左往する中、オラースがブリザーストームをぶっ放していた。 「厨房に手出しはさせん!」 食料は皆の力の元だ、アークブラストは同じ雷なので、相性が悪いかも知れないので、周囲を見回しながら、吹雪の嵐をお見舞いする。巻き込まれた女性方が吹き飛ばされていた。中にはすっ転んでいる船員もいるが、礼野とヘラルディア(ia0397)達回復担当の巫女班が、閃癒で回復している。 だが、遠巻きになった刹那、琉宇が場の流れを遮っていた。 「待って。どうも聞いてないみたいだし、ちょっとやってみたい事があるんだ」 彼には、思うところがあるようだ。 「どうも、僕にはただのアヤカシだとは思えないんだよね」 それは、彼以外も考えていた事だ。ジルベリアで起きた戦の影響もあるのかもしれない。 「だから、出来るならば、どういう存在なのかを調べたいし、思っている通りにアヤカシじゃないならば、倒さない、戦いにならない、そういうのを見付けたいな。もしかしたら新大陸を守る精霊か何かなのかもしれないし‥‥」 「なるほど。確かに人への被害は出していないといいますしね」 その思いは、フェルルも抱いていたらしく、しばらく様子を見るようだ。長巻を収め、統真の背に守られながらも、こう言った。 「この場合、私達が侵略者に映るのかなぁ。あなた達と会話がしたいんですっ! 話を聞いてもらえませんか?」 人の言葉がわかるのだろうか。動きが止まる。それを、話のとっかかりと解釈した琉宇は、バイオリン『サンクトペトロ』を取り出し、心の旋律を奏で始める。言葉の通じぬ相手にも、意味が伝わると言う技。もしかしたら、遺跡を見たいと言う思いは、伝わるのだろうか。 「るううう‥‥」 歌が、変わる。迷っている様子。どうやら、雪姫をじっと見ているようだ。 「実体化した精霊ってやつかのう。あれ、取り込んだら、ウチの雪華がでかくなったりせぇへんかなー」 側で護衛をしていた蔵人が、のほほんとそんな事を言う。確かに人ではなさそうなのだが、やっぱり美人ではあるので。 「さ、お雪ちゃんはこっちへ」 今のうちに、と万騎が雪姫を、船の部屋へ連れて行こうとした時だった。扉の向こうに消えた雪姫に、すううっとその両側を開く。 「通じた?」 「わかりません。ですが、進ませてくれるみたいですね」 危害を加える物ではないと言う、琉宇の思いは通じたようだ。沸き立つ開拓者達。その1人、【夢の翼】を率いる天河 ふしぎ(ia1037)が、空賊団の仲間と共に、グライダーで飛び立つ。 「いくぞ! 新世界がボク達を呼んでいるんだ!」 いの一番に降りたってみせる‥‥と、船を飛び出す彼。目指す目的地を示す魔法のガイドブイが、ほのかな光を発す中、それぞれを乗せた龍が、遺跡の潜む大地へと降り立く。 「あいつらはえーなー。じゃあ、俺達も行くか」 その後をついて行くように、船を島へと乗りつける船長。予定では、数人が船を操作し、力仕事やらなにやらをする予定なのだが。 「この島は、今から【ふしぎ島】と命名するんだからなっ」 「それはどうよ‥‥」 到着してみると、ふしぎが旗を遺跡の前に突き立てて、力強く宣言していた。思わず突っ込みを入れるリュミエール。 「ふしぎ島なんて、個人名じゃないかのう。ここは、竜神島とか」 龍影がのほほんと周囲を見回して、そう言っている。竜神もどきはまだ周辺に漂っており、自分達の一挙一動に注目しているらしかった。 「ふしぎさんらしいです。でも、そこがいい所ですね。そう思いませんか? 照さん」 「まぁ、やる気なのは、いい事じゃないかな。とりあえず賛成しとくよ」 苦笑しながらそう問うて来るヴァナルガンド(ib3170)に、月影 照(ib3253)は言われた名前を手元のメモ帳にしっかりと記録している。そこには、様々な島の名前候補と、言い出した開拓者の名前が書かれていた。 「あれに相応しい名前なんて、乙姫位しかないんじゃないのか」と、鉄龍。 「甲が月ですし、こちらは星降りかな」これは透夜。 「そうやなー。風雲雪姫城とかどうや? 朝廷が嫌がるでー」 中には、蔵人のように、どう見ても悪戯にしか見えない名前もあったが。 まぁ、その名前は後で船長か、雪姫にでも決めてもらうのが妥当だろう。まずは、地下にある遺跡の完全な姿を、記録に止めねばならない。 「未だに、新大陸そのものには至っていませんし‥‥。いつになったらたどり着けるのでしょうか‥‥」 モハメド・アルハムディ(ib1210)が、遠い空に想いをはせた。確信に近い想いを抱いているが、さすがに疲れてきたようだった。 ●扉の向こうへ 数々の調査により、遺跡がある事はわかっている。 ので、それぞれ昼食を済ませると、必要そうな物資を船から降ろし、さっそくその調査へと赴く事になった。 「遺跡調査って、わくわくしますね。なにか、これからの開拓で役に立つモノが見つかると良いのですが」 そう言いながら、松明と白墨を何本か用意してくる志郎。また、地図やスケッチ用の紙も、たっぷりと用意されていた。 「新天地か。楽しみだな‥‥」 人妖の蓮華を連れた羅喉丸(ia0347)が、そう言った。話では、雪姫の護符に付いている紋章が、この遺跡にもあると言うことだが、探したら見つかるだろうか。 「って、あった」 案外、すぐに見つかった。それは、入り口と思しき岩の扉に、いくつも表札のように刻まれていた。 「おうい、ここに紋章があるぞ。雪姫さん、協力してもらえないか?」 「あい、今行くのニャ」 お知らせされて、すぐにとてとてと駆け寄ってくる雪姫。 「開けられるか?」 「んー、これとはサイズが合わないのニャ‥‥」 よっこいせと持ち上げて、その紋章に自分の護符をあわせて見るが、サイズが全く違う。どうやら、ここは外れのようだ。 「黒井の奴、ここにも調査に来てるんじゃないかと思ったが‥‥。違うようだな」 一方で、天ヶ瀬 焔騎(ia8250)もまた、かつて共に遺跡へ望んだ友の姿を思いつつ、その値を調査していた。紋章のある場所を書きいれ、表面から見える間取り図を書き記していた。こうしていると、楽しそうに遺跡への思いをはせていた友人の顔が浮かぶ。今は、その心中がわからなくもない。 「なんか、嬉しそうですよ?」 「まぁ、こう言うのは、楽しいからな」 同じく、記録を取っていたモハメドに、そう答える彼。表層から見える部分だけでも、どこそこにレリーフが書かれていたり、天儀では見かけられない動物が描かれたりしている。モハメドの家に伝わる伝承に、同じ存在が出てきていた為、やはり新大陸に関わると思われた。 「祖先の儀ですから、早くたどり着きたいのですが‥‥ね」 その彫刻や文字を、伝承と照らし合わせてみると、故郷の言葉が潜んでいるように、モハメドには思えた。 「描いた物はこちらに。中の仕組みに何があるのか、ヒントになると思いますから」 その集めた物を取りまとめる透夜。と、その書かれた彫刻の顔が、一つ一つ違う事に気付く。 「雪姫さん、ちょっといいですか? こっちの彫刻の下に立って、同じポーズしてもらえます?」 「うにゃ? えっと、こうかにゃ?」 雪姫を呼び、遺跡の彫刻を真似させる透夜。確かにとてもよく似ている。と、彼女自身も気付いたらしく、はたとその彫刻を見上げ、こう呟いた。 「かかさま、にゃ‥‥」 思い出したのだろう。少ししょんぼりした顔になる。その頭をぽふんと撫でつつ、透夜はこう言った。 「大丈夫。守ってあげますから」 「うん、ありがとうにゃ‥‥」 まだ、自分に敵と戦うだけの力がない事は、重々承知しているのだろう。申し訳なさそうな感情を、必死でこらえるように、目を潤ませながら、そう答える雪姫。 「さて、では開錠かな」 「ええ、ここはまだ大丈夫だと思いますけど‥‥」 羅喉丸に言われ、志郎が忍眼で、周囲の様子を探る。ここまでは、調査班が入った事もあって、敵と思しき連中の姿は感じられなかった。天ヶ瀬も、上空から全体像を見渡して見る。広々とした草原に出る入り口は、島の広さに比べて狭い。どうみても、その地下に何かが潜んでいる事は確かそうだった。 「あけて、いいのにゃ?」 頷く一行。手にした護符を手に、遺跡らしき構造物の入り口に向う。すでに、そこに遺跡がある事は、別の依頼で確認されていた為、案外すんなりと、その奥に入る事が出来たのだが。 「何だか、色々なモノがありますが‥‥。これ、どうすればいいんでしょうか?」 ごろごろと転がる、用途の分からない品物。壊れた石の椅子のようなものが転がっており、底の抜けた箱みたいなものや、細長い小さな板みたいなものもある。和奏(ia8807)には、何なのかさっぱりわからない。 「他の遺跡にゃなかったなぁ。あー、これは見た事あるかも」 喪越が、見た目の割には軽い石のようなものを持ち上げて見る。何に使うのか分からないが、カチカチと音のするそれは、触っていて非常に楽しい。 「まだ‥‥先は長いか‥‥。太刀は、なさそうだな」 中にいるアヤカシをひきつけるべく、付いてきた羅轟(ia1687)は、転がる遺物の中に、武器がない事を知って、がっかりと肩を落としている。と、その時だった。 「って、だめですよ、光華姫!」 それは人妖の光華姫にとっても同じだったようだ。興味津々のおもちゃに映ってしまったらしく、これなぁにー? とばかりに、あちこち触りまくるので、和奏は慌てて引き剥がす事になる。 「このままだと、また悪戯されてしまいますから、誰かお手本をお願いしたいのですが‥‥」 「そうですねぇ。何か掘り返してみるとか‥‥」 が、万騎もこのへんには全く詳しくないので、がさごそと直感的にひっくり返してしまっている。 「とりあえず、ある物は全部記録していきましょう。運び出すかどうかは、中身をしっかり見てからでも大丈夫だと思いますし」 そう言い出す志郎。遺跡は相当広そうなので、順番に進む事になった。 「上手くやれば、あの雷飛ばすお嬢ちゃんたちと、お友達になれるかもしれへねんな」 「だと良いのですけど‥‥」 遺跡に、手がかりがある事は、蔵人も期待しているようだ。と、ふしぎが周囲を見回して、ある事に気付く。 「渡月島遺跡と似てる気がするんだ。もしかしたら、同じ存在に作られたのかもしれない‥‥」 彼の記憶の中では、牌紋の遺跡と良く似ていると思えてならなかった。 「でも、どうして? 封印され、まるで僕らから隔離されてるみたいじゃないか‥‥」 「確かに興味深い事象ですね。その予想だと、入り口があるのもわかります?」 照が、そのご意見をメモメモと記録している。と、ふしぎはある一画を指し示した。 「うん。たぶんこっちの方かな。ここか、反対側だと思う」 対になる可能性も考えたのだろう。その意見に従い、ある方へ進むと。そこには、目立つ紋章が、人の胸ほどの位置にあった。志郎が、念の為鍵開け道具を差し込んで見るが、うんともすんとも言わない。 「こいつで壊せんかな」 解除困難な錠前と見て、錆壊符を取り出す喪越。しかし、さすがに通常の品とは違うのだろう。発動しなかった。 「船長、これってやっぱり扉なんでしょうか」 「かもしれねぇな。見てみろ、ここに隙間があるし」 指摘されて見てみれば、わずかに紙一枚が通るか通らないかの切れ目があった。それはちょうど、飛空船の扉に酷似している。 「こっちにもあったぞ」 同じ紋章を探してきた羅喉丸。彼より少し上の位置にも、紋章があり、横に何か違う文字らしきモノが書いてあった。 「雪姫さん、開けられるかい?」 「やってみるにゃ」 護符を取り出す雪姫。と、彼はその彼女をいつでも庇える位置に移動して、甲忠告する。 「気をつけろ。なんか出てくるかもしれん」 守護者が出てくる可能性は、おおいにあった。 そして。 「せーの、えい!」 雪姫が、護符を押し付けると。 ごごごごごご‥‥。 「動いた?」 びっくりして、船長の後ろへ隠れてしまう雪姫。その目の前で、扉はゆっくりと開き、外の竜神もどきが、慌てたように鳴き声を上げている。 「こっちにくるのでしょうか?」 「いや、驚いているだけかもしれないよっ。ほらほら、大丈夫だから」 ヘラルディアが魔法を唱えようとする中、琉宇は夜の子守唄を奏でる。泥棒じゃないから。 「長く掛かりそうですけど、ご飯の準備をしておいたほうがいいのかしら‥‥」 「遺跡は広そうだし、まかないの準備をしておいたほうが良さそうだね」 留守番の船では、気をつけながらも、遺跡に届ける食事の仕度が始まっている。届けるのは、もふらさまを連れた柚乃の役目だ。 「喧嘩を売るなら、買いますよ」 警戒するアーニャ。だが、その膝の上には、何故かぷらぁとがいる。 「こっちの調査に限っては、完全に便利屋状態だよな。一応、灯りを確保してみるか」 夜光虫で灯りを確保する喪越。 「よぉし、先陣は切らせてもらおう」 鉄龍が先に進もうとしたが、それを喪越が止めた。 「ちょい待ち。その前に、ちょっと確認してみる」 人魂を召喚し、その暗がりの向こうへと姿を消す。と、程なくして戻ってきた。どうやら、何かあるようで、蔵人はそこに珠「友だち」を投げ入れる。ぺかっと光ったその先を見れば、ずるりと虫型のアヤカシが這い出てくるところだ。奥には、闇目玉が幾匹も見える。 「本当に、どんな所にでもいるのですねぇ」 敵の姿に、感心したようにそう言う和奏。が、そんな事を行っているバヤイではない。 「おいでなすったな。天敵め」 後ろに術者を抱えている都合上、彼らを前に出すわけにも行かない。そう判断した統真は、瞬脚で突っ込み、一番手前のアヤカシに蹴りを入れる。向こうが体勢を立て直す前に、白梅香を放っていた。 「統真さん、背中は任せてくださいっ」 「ああ、わかってる」 防御はフェルルに任せる統真。背中のぬくもりが、心強い。そんな彼らの助力になるように、エルディンがアクセラレートをかけてくれた。 「俺達が囮になる。今のうちに!」 「心得た!」 統真に言われ、鉄龍がそこへ突っ込んで行く。危険な罠の盾になるのは、自身の役目だとばかりに、その奥へと脚を踏み入れる。通った場所には、龍の左腕で、爪痕を施していた。 「道が、分かれてるな」 その先が、二手に分かれていた。双方とも、長く伸びている。どうやら、班を二手に分けて調べなければならないようだ。 「いいですか。見たものは、必ず記録してくださいね」 モハメドが念を押しているが、向こうにも記者がいるので、大丈夫だろう。彼らの班が、遺跡の見取り図を書き、興味本位の小石を万騎が拾い上げ、それを志郎がスケッチしている。 「これ、貰えるのか?」 「表の雷ねーちゃんが首を縦に振ればってとこじゃねぇの」 万騎が楽しそうにぷらぁとにその小石をあてがっているのを見て、羅轟が首をかしげた。が、今までの事を考えれば、やめておいたほうが良さそうだ。 「新大陸に住人がいるのなら、私達と同じように、アヤカシの被害に悩まされているのでしょうね‥‥」 だからこそ、進みたいと考えているエルディン・バウアー(ib0066)。 「まぁ、開拓者としての仕事が増えるのは、おおいに結構なのですが。ついでに、神の教えを説いて、教会でも作っちゃいましょうか」 そんな事を夢想する。許可と資金が調達出来るのか、定かではないが。 と、そんな折だった。 「こらぁぁぁぁ、そこ邪魔だぁぁぁ!!」 ごろごろと何か巨大なモノが追いかけてくる音と、船長の悲鳴が、向かい側から聞こえてくる。 「どうやら、向こうの班がビンゴだったようだな」 その騒動に、忍犬の月世がわふわふと吠え立てた。見れば、いわゆるローリングロックと言う奴だ。 「ここは、何とかします。広さは、大丈夫ですね」 なんだかちょっと楽しそうなエルディンを連れ、来た道を戻っていく彼らだった。 ●島の正体 時間は、暫し遡る。 「んー、怖い怖い」 白々しくそう言って、ふしぎに触りまくるリュミエール・S(ib4159)。が、ふしぎは照と共に、周囲の遺跡に夢中になっていて、まったく彼女を見てくれない。 「ちぇー。しょうがないなー」 寂しく離れる彼女。あまり出来る事がないので、大人しくしているしかないようだ。 「んー、何なのかしらこれ。全然分っかんないや」 折角なので、自分も遺跡のあちこちを観察している。決してサボっているわけではない。周りに気を配ってはいるのだが、さっぱりわからないだけだ。 「うん、やっぱりこれ‥‥渡月島と同じものみたいだね」 そのふしぎはと言えば、壁に刻まれたレリーフや、調度品等を見て、かつて渡月島にあったものと同じだと判断していた。照が、公平な意見を記そうと、透夜にも尋ねる。 「専門家のご意見は?」 「同じものでしょうね。おそらく、対になるものではないかと‥‥」 彼の意見も同じだった。だが、そうして、あちこちを調べながらすすんでいると。 「あー、皆さん、あれを見てください」 と、ヴァナルガンドが、弓を手に、闇の向こうを指し示す。 「ん? 今何か動いたぞ」 心眼を使い、その暗がりを探る天ヶ瀬。紋章の記されたその入り口にいたのは、かつてここへ至る遺跡で見かけた、赤褐色肌の人型アヤカシだ。しかも2体、両側に仁王立ちしている。 「なるほど。竜陣殿は、ここに近付かせたくなかったのやもしれぬのう」 龍影が、鬼の周辺に、竜神が身につけていたのと同じ腰布が、多数落ちている事に気付く。正体はわからぬが、目の前の鬼アヤカシに倒されてしまった仲間がいることは明らかだろう。 そして、その周辺には。 「鬼の周りに、何か描いてあるようだな。絵か?」 周囲に表示されたものも、的確に捉えていた。松明を向けてみれば、忙しく働く様子の女性達。皆、獣人の特徴である耳と尻尾を備えているが、中には異様に耳の長い娘や、黒い衣装をまとった女性等も描かれていた。 「あれ、かかさまそっくりにゃ‥‥」 雪姫がぽつりと呟く。今は遺跡となっているが、本来は鬼ではなく人が管理している施設だったのだろう。レリーフは、その事をよく物語っていた。 「なるほど。お雪のおっかさんの、そのまたおっかさんは、ここで遺跡を管理してたんだな」 それが、何らかの事情で叩き出されたのだろう。そして、かわりにアヤカシが眠る遺跡と化した。その証拠に、目の前の鬼が、目をぎらぎらと輝かせて、目覚める時だった。 「じゃあ、こいつはたたき出していいわけだな!」 「そうですね。やっちゃってください!」 僕も手伝いますから、と斧を握り締める透夜。羅喉丸がその見に気力を宿らせる。 おぉぉぉん‥‥。 目覚めたアヤカシは、目の前のおいしそうなご馳走に、食欲をそそられたようだ。と、獲物を確実にものにしようとしたのか、なにやら呼び寄せる声音を上げる。 「こっちも、皆を呼んだほうが良いかもしれんな」 龍影がそう言った。雑魚ごときに遅れを取る彼女ではないが、数が出てくるとまずい。それに、闇目玉には物理攻撃が意味を成さないのだから。 「よし、じゃあ俺がひとっ走り行ってやる。おまいら、死ぬなよ!」 それぞれ、やる事のある開拓者達だ。一番手の開いている船長が言い残し、もう一方の班を呼びに行ったのだが。 がきょっ。 「あ、やべ。なんか踏んだ」 うっかり、岩のスイッチを踏み抜いてしまう船長。その途端、壁が大きく外れ、奥の方から、ゴロゴロと何かが転がる音が聞こえて来た。 「おわぁぁぁ!!」 にっげろぉぉぉとばかりに、反対側へ向う船長。そこには、もう一方の班が、調査をしている真っ最中だ。 「えぇい、迎撃しますよ」 エルディンがそう言って、ストーンウォールの魔法を唱える。結構な広さを持つ通路が、石の壁で埋まり、がきょっとはめ込むようにして止まる大岩。 「すまねぇ、助かった」 「いえいえ」 ほっとしたように船長に礼を言われ、輝く聖職者スマイルで答えるエルディン。そこだけ見れば、イケメンのツーショットではあったが。 「っと、こんな事してる場合じゃなかったぜ。向こうが大変だ。さっさと来い」 「はいはい。わかってますよ」 くるっと回れ右する船長の後をついて行くエルディン。急いで駆けつけてみれば、そこでは守護者と思しき大きな体躯のアヤカシを相手に、戦闘の真っ最中だった 「そっちいきましたよっ」 調査班のはずの透夜も、それなりに剣は使える身分だ。振り下ろして薙ぎ払い、ポイントアタックで足を狙っている。すっ転ばない鬼と呼ばれるアヤカシに、オーラショットが打ち込まれた。 「害なすならば、斬る!!」 鬼の攻撃を刀で防ぎつつ、何とか隙を見つけようとする羅轟。と、その時だった。 「よし、やっと追いついたな。いくぞ、皆!」 統真が大声を上げた。どうやら、鉄龍の記した道しるべに従い、外で囮になっていた面々が、ようやく追いついたようだ。見れば、呼び寄せるはずの闇目玉が来ず、おろおろしている様子の赤鬼と青鬼が見える。だが、それでも人数の増えた開拓者達を、餌が増えたものと勘違いしたのか、がるぎゃああっと吼えた。 「ここは任せろ! こいつを倒せば、奥にはお宝だ!」 「ああもう。無茶はしないで下さいね!」 その背を守るフェルルが、そう声を上げるが、乱戦となった遺跡では、通る物も通らない。しかし、やはり多勢に無勢。それぞれの必殺技を持って、開拓者達が鬼達を袋叩きにしてしまう。 「よぉし、トドメだ。玄亀鉄山靠!」 ぐらりと傾いたそこへ、全力で叩き込まれる羅喉丸の技。もう1匹は、羅轟が一刀両断にしていた。そうして、皆で協力して、守護者を倒した直後である。 「何か、聞こえません?」 皆の耳に、聞きなれぬメロディの曲が届いた。 「これは、我が氏族に伝わるメロディですね‥‥」 モハメドがそう言った所を見ると、これは新たな儀に関わるものなのかもしれない。しばらく続いたそのメロディが、何かの起動音だと気付いたのは、外でお留守番をしていた面々が先だった。 「あれ、何でしょうか?」 スープをあらかた仕込み終わった礼野が、遺跡から光が立ち上っているのを見て、船の外へと出てきた。誰か、怪我でもしたのだろうか。だが、表にいる雷の精霊と思しき女性達は、こちらに手をだしてはきていない。おかげで、オラースのブリザーストームは出番待ちのままだ。 「綺麗。まるで道しるべ見たいだね、ぷらぁと☆」 「もふもふ」 膝の上に抱っこしていた柚乃の一言が、その目的を割りと正確に表示している。 「そうか、ここはやっぱり道しるべの島だったんだね。じゃあ、乙津島ってどうかな?」 「もふー」 アーニャの意見に、ぷらぁとは首をかしげている。あんまり賛成してはもらえていないようで、じゃあ‥‥と、候補を考え直している所で、調査に向かっていた者達が戻ってきた。 「なるほど、これはその為の装置だったんですね」 「どうやら、これで精霊門が安定したようですよ。ほら」 志郎にそう答える照。見れば、吹き荒れていた風が凪いで、穏やかになっている。これなら、ジルベリアや泰国に行く門とさほど変わらないだろう。その中央には、道しるべのように光が集まり、竜神達がその中へと還って行く所だった。 「やはり、こは凪月島がよろしいと思いますわ」 ぽそりと言ったヘラルディア。と、色々名前を出されていた船長、しっくりと心に響いたようで、それにしよう。と頷いている。 「よし。じゃあその辺は、うちの新聞で、しっかり宣伝しておくね! 今日は完徹だ。一晩で書き上げるぞー」 照が、今夜は眠れないと言った表情をしながら、名前と遺跡での一部始終を、書き記す。 【発見された遺跡は、精霊門を安定させる為のものだった。管理をしていた一族はすでになく、中はアヤカシの巣窟であったが、夢の翼を始めとする開拓調査団の手によって、アヤカシと守護者を倒し、見事精霊門の安定起動に成功する。私、月影照は、その一部始終をここに知らせんとす】 記述が、やや自分の空賊団よりなのは、所属と仲のいい御仁の都合上、仕方がないと言うもの。 ともあれ、精霊門は安定した。これにより、もっとたくさんの船が、新たな儀を目指せるだろう。 だがその先に、同じたくさんの冒険が待ち受けているのは、火を見るより明らかだった‥‥。 |